召喚少女のリリカルな毎日   作:建宮

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三百七十九話~side 雨水~

前回のあらすじ

 

病院にキャロ到着→説明→一緒に解決策を考える→ひとまずヒューズに聞いてみる事に決定→キャロが勢い余って暴走→ウルが嗜め保留へ

 

目を閉じてしまえば、案外簡単に眠ってしまっていた。まぁ、気付いてなかっただけで、それだけ疲れていたのかも知れない

 

どれくらい寝ていたかは分からないが、ちょっとした寝苦しさで一気に目を覚ました

 

 

「おも」

 

「わんっ!」

 

 

鼻がぶつかるくらい近くまで覗き込むシロの顔があった

 

 

「重い、降りろ」

 

「あれ~? もっとわぁ! って驚くと思ったのに。久しぶり、アキハル」

 

「ああ、久しぶり。シロは他の次元世界で任務中じゃなかったのか?」

 

 

大人バージョンシロは素直に降りると楽しそうに笑う。カーテンを閉めている訳でも無いのに、室内は暗いので、まだ夜なのだろう

 

 

「アキハルの一大事だからね! 一旦休憩で帰ってきた!」

 

 

起き上がって再度シロの方を見て気付いたのだが、シロから二歩ほど下がったところにもう二人ほど立っていた

 

 

「イクスにヴィヴィオ?」

 

 

イクスは固まっているかの様に微動だにせず、俺をジッと見詰めている。ヴィヴィオはと言うと、シロに助けを求める様な視線を一度送っていたが、小さくペコリと頭を下げただけで終わる

 

 

「どうした? ああ、そうだ。ヴィヴィオ、試合を見れなくてごめんね」

 

「いい、の。うん、ヴィヴィオの圧勝だし、心配しなくても、大丈夫、だよ?」

 

「そうか? 無事に終わったのなら良かった」

 

 

何かあったな

 

二人には席を外してもらうか。いや、でもイクスの様子も何か変だし・・・

 

 

「イクス、おいで」

 

 

数秒間の間があってイクスは動き出した。まるで、古い機械みたいに妙にぎこちない、相変わらず表情にも一切の変わりは無い

 

 

「イクス? もしかして何処か悪いのか?」

 

「・・・いえ」

 

 

歩きを止めないイクスはベットにぶつかってボフンとそのまま布団に倒れた

 

 

「ん~? イクス? ホントに大丈夫か? って言うか全然大丈夫じゃないな」

 

「あー、えーっと、ヴィヴィオたちね。ここに来る途中にキャロにあって・・・その・・・」

 

「聞いたのか?」

 

「うん」

 

 

泳ぐ視線は時折俺の二の腕を見る

 

 

「それで、イクスはそれっきりこんな感じなのか?」

 

「うん、たぶん、いまはあきパパの為に何をするべきかで頭がいっぱいなんだと思うの」

 

 

ヴィヴィオが指差す先にはクリスが幾重にも重なって球体になった魔法陣を抱えており、クリスの動きに合わせてイクスが起き上がった

 

 

「外からクリスが動かしているのか」

 

「うん」

 

「なら、もうそれ切っていいぞ」

 

「え? でも、そうしたら、たぶんバタンキューで寝込むよ?」

 

「いいから」

 

「・・・分かった」

 

 

指示通りに魔法から開放されたイクスはまたベットに倒れ込む。とりあえず脇を持って起き上がらせて、目の前に座らせる

 

 

「イクス」

 

「・・・はい」

 

「しっかりする、お姉ちゃんだろ?」

 

 

でこを押すと抵抗無く倒れる。しかし、瞳が潤み始めて堰を切ったように涙を出す

 

 

「お父様」

 

「大丈夫だから」

 

「お父様」

 

「大丈夫、イクス達の事はきっちり覚えているよ。忘れてない、大事な娘だ」

 

 

俺のことが心配。そのヴィヴィオの読みは間違っていない、けれど、ヴィヴィオも同じく目を逸らしていた、自分達の記憶が何処まで保持されているか。その問題点は依存度の高いイクスには抱えきれる大きさの悩みでは無かったはずだろう

 

 

「お父様!」

 

「うん。だからね、ちょっとヴィヴィオと二人っきりにしてくれる?」

 

 

跳ぶように起きたイクスは抱き付く一歩手前で再度固まり、普段の様にヴィヴィオを睨んだ。ヴィヴィオはそれに苦笑しながらも笑顔で可愛く舌を出して対抗している

 

 

「はい、お父様のお願いなのでしたら。もちろんです、シロさん、丁度良いので、お父様のお見舞いの品を買いに行きましょう」

 

「おっけー、だけど、コンビニくらいしかあいてないよ?」

 

「この様な時間なのですから、今日は仕方ないと我慢します。ヴィヴィオ、お父様には正直に話すのですよ」

 

「にゃはは、分かってるよぉ~」

 

 

普段通りに戻ったイクスは少しすっきりした表情でシロを連れて病室から出て行った

 

残されたヴィヴィオは表情を隠す様に俯いている

 

 

「じゃあ、色々聞かせてもらおうか」

 

 

二人が出て行くギリギリまで扉を見詰めていたヴィヴィオは、目を伏せてベットの足元。なるべく俺から離れるようにして座った

 

 

「もっと近くても良いんだぞ? あの魔法は一回きりなんだろ?」

 

 

二の腕を差しながら言うとヴィヴィオは泣きそうになりながら頷く

 

アインハルトちゃんとの試合が堪えているのか、かなり打たれ弱くなってる。普段ならまだ隠せる範囲の感情だろうからな

 

 

「警告程度の魔法だったの」

 

「ウルに対してのか」

 

「うん。ホントは、ね。魔法って言うのもヴィヴィオからしたら、変なくらい。聖王の魔力が敵意や害意に対してちょっと光って見てるぞーって知らせる程度の効力だったの」

 

 

それが、何故かロストロギアと反応して予想外の事態を引き起こした

 

 

「ん、だから、ヴィヴィオはね、あきパパを困らせるつもりじゃなくて。守りたくて、それがわたしの、ちがう、ヴィヴィオがのぞんで・・・ちがう、でも、そうじゃなくて」

 

 

頭を抑えてヴィヴィオは何度も違うと繰り返す

 

わたし。言い訳の様にその一人称を使っているのが気に掛かる

 

手を伸ばすと薄く虹色の魔力が溢れ出して、触れるか触れないかで小さな痛みが走る。強めに声を掛けても聞いている様子は無い

 

 

「試合後にこれだけ聖王の鎧が続くって事はリミッターを解いてるな」

 

 

心配そうにヴィヴィオの周囲を飛んでいるクリスにリミッターを戻すように指示をする

 

リミッターが掛かった事によって、聖王の鎧に配給されていた魔力が途絶え虹の魔力が綺麗に霧散した

 

 

「ふぇぁ?」

 

「聞こえるか?」

 

「・・・うん」

 

「リミッター。自分で解いた? それとも高町一尉が解いた?」

 

「え? あ、と、なのはママです」

 

「分かった。じゃあ、それは許そうか。緊急用が解除されている点が怪しいけどな」

 

 

あ、いま何か誤魔化そうとしたな

 

高町一尉が許可を出したのは本当みたいだけど、手続きに何か仕掛けたか

 

 

「オリヴィエに感情を押し付けて落ち着いたか?」

 

「ッ!」

 

 

ヴィヴィオは驚いた様に目を見張る

 

 

「驚くほどじゃない」

 

 

以前からオリヴィエが抱えるクラウスへの感情を自分の気持ちと捉えた様に、逆にヴィヴィオが抱くアインハルちゃんへの気持ちをオリヴィエへの感情と捉えて誤魔化す事ができる

 

先程否定を繰り返したのも、オリヴィエが持つ近い感情と合わせて自分の感情を押し付けたのだろう

 

 

「イクスも知ってる。まだまだヴィヴィオは子供だからな、そう言う甘えも良いと思うぞ」

 

「にゃあ」

 

 

ぷるぷると振るえるヴィヴィオは布団を俺に投げつけた

 

 

「っとわ!」

 

「にゃ~! にゃ~! ヴィヴィオだって頑張ったんだもん! だいたい、あきパパのロストロギア面倒すぎるの! 時間操作系とかズル過ぎる!」

 

「待っ、殴るな」

 

「収集蓄積のロストロギアだと思ってたんだもん! だって、そうでしょ! あきパパのレアスキルの観察眼は対象の情報を可視化するスキルなんでしょ! だったら膨大なデータが蓄積できるロストロギアって思うのが普通じゃん! もー!」

 

「いや、まぁそうだけどな」

 

 

確かに過去に一度だけ違うレアスキルを発動した事もあったが、それ以降は一切その影も出していない

 

 

「アインハルト先輩の事も・・・アインハルト、さん・・・の事も、ヴィヴィオ、頑張ったの」

 

 

ようやく攻撃が止まったので、布団を取ってヴィヴィオを見ると大粒の涙を流して俺の上に座り込んでいた

 

 

「そうか、頑張ったな」

 

「うん」

 

「頑張ったけど、失敗しちゃったのか」

 

「うん」

 

「まぁだったら、一回休んで次を考えるしかないな。諦めるのも良いし、もう一回頑張ってみるのも良いだろ」

 

「・・・怒らないの?」

 

「ん? 怒って欲しいのか?」

 

 

ヴィヴィオは首を大きく縦に振った

 

 

「っふぅ、って言ってもねぇ。どうせ、あとで誰かが怒ってくれるぞ? イクスとかな」

 

「でも、ヴィヴィオはあきパパから怒られたいの。でね、ごめんなさいってしてきちんと反省したいの」

 

 

そう言う事か

 

 

「分かった。ヴィヴィオ! ヴィヴィオの悪戯で沢山の人に迷惑が掛かったんだぞ! あとで謝って、反省する! 良いな?」

 

「うん! ごめんなさいでした!」

 

 

まだ瞳に涙が溜まっていたけれど、子供らしく嬉しそうに笑った


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