召喚少女のリリカルな毎日   作:建宮

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原作中(森の魔女編)
三百八十話~side イクス~


地下駐車場

 

夜遅い事もあり、来客用のスペースに停まっている車は目の前にある一台しか無い。真っ暗なので、碌に判別も付きませんでしたが予想は付いていたので迷わずに中に入る事にしました

 

 

「やはり、こちらでしたか」

 

「・・・いきなり開けるからビックリしたよ。あれ? シロやヴィヴィオとは一緒じゃないの?」

 

「ヴィヴィオは先の件で。シロさんは近場にお見舞い品の購入へ行ってます」

 

「そっかぁ」

 

 

キャロさんは納得したように頷くと車内に明かりを付ける

 

ほんのり頬が染まっている気がします。休まれていたからなのか、それともお父様と何かあったのか。気にはなりはしますが返答が後者だった場合、取るべき行動が分からないので聞けません

 

 

「秋春、如何だった?」

 

「私が見た限りでは、変わりの無い。私達のお父様でした」

 

「だよね」

 

「・・・お父様に記憶の欠落が発生した。と言うのは、事実なのですよね」

 

「そうだよ。詳しくは検査待ちだけどね」

 

 

検査。本当にこれ以上、ウルに任せても大丈夫なのでしょうか?

 

かと言って、この分野に置いてはウルはヴィヴィオを抜く才覚を持っていて遺憾なく発揮もできる。しかし、敵であるウルにお父様の身を任せるのは、包み隠さず言って不安ですし不満です

 

 

「それにしても、アギト。家に置いてきちゃったね」

 

「アレは良いのです」

 

「もぉー駄目だよ。アギトも家族なんだから、仲間外れは駄目・・・まったく」

 

 

困ったようで、呆れたような表情でキャロさんは少しだけ乱暴に私の頭を撫でる。まるで、お父様みたいな撫で方です

 

 

「ところで、キャロさん」

 

「ん?」

 

「あれはなんでしょう?」

 

 

話を腰を折るようで、とても聞き辛かったのですが、少し前から暗闇の中に更に黒い風船に見える物体が浮かんでいる

 

 

「ん~?」

 

 

始めは無機物と思っていたのですが、それにしては不規則に上下している。そもそも、ここは地下なので、あんな風な流れが出来ているとは考えにくいですし

 

暫く黙って見詰めていたのですが、執務官の勘でしょうか。ルシエさんが何かに気付いてデバイスを起動する

 

 

「ッ!」

 

 

・・・先程まで、車内から見ていた暗い駐車場が目の前に・・・転移の発動を気付けなかった

 

 

「危機一髪、だったかな?」

 

「え?」

 

「ほら」

 

 

ルシエさんの指す先は車のあった場所。だけど、真っ暗な風船が車を覆っていた

 

・・・咀嚼している様に見えますね

 

 

「美味しいか聞いてきましょうか?」

 

「ん~・・・取り合えず打ん殴って来る。待っててね」

 

「はい」

 

 

笑顔で怒っているルシエさん

 

怖いです

 

本当に、怖いです

 

 

「人の、車に、何してるッ!」

 

 

鈍く重い音が鳴って風船が跳ねる

 

車ごと・・・車と共に・・・後衛の魔導師とは思えませんね。召喚士なのですから、騎龍を使い戦うのが主流のはずなのに

 

 

「さて、主は何処か吐いて下さいね」

 

 

黒い風船はカラカラと嗤う。あれ程の打撃でもダメージを負っては無いようです

 

 

「フリード」

 

 

膨らんでいる風船の横に魔法陣が現れて同時に顎門が喰らいつく。流石にこれは効いたのか、車を吐き出して縮んでするりと抜け出した

 

 

「燃やし尽くしていいよ」

 

 

王者の風格を持つ猛々しい竜が焔を口に宿す

 

写真で見た小さな幼竜とは思えませんね

 

 

「いじめないで」

 

 

ふわりと登場した黒いローブに炎は二又に裂かれる

 

炎に隠れて表情は伺えませんが、少しずつ押されているようですので容易に防いでいる訳では無いのでしょう

 

 

 

「貴方が主かな? 珍しい使い魔だね」

 

 

ルシエさんが話し出すと、炎は熱を残して消える。無表情に近いですが安心してますね

 

隠している。と言うよりは感情の揺れが少ない子の様です

 

 

「オリヴィエ、一緒じゃないの?」

 

「ヴィヴィオの友達? いや、そっちで呼ぶって事はベルカでのヴィヴィオのお知り合いって事かな」

 

「シュトゥラの森の魔女。彼女ならそれで分かってくれる・・・まぁでも、その間に・・・キャロ・ル・ルシエ。冥府の炎イクスヴェリア。貴方達には餌になってもらう」

 

 

名前が告げられると同時に小さな魔女から魔力が発せられる

 

 

「なんで、名前を」

 

「ッ、ルシエさん!」

 

 

私とルシエさんの足元の影が口と成って私達を飲み込む。直前で戦刀を地面に突き刺して魔力で何かの魔法を阻害しなければ恐らく危険な事態に陥っていた

 

 

「そんな防ぎ方、知らない。流石は冥王陛下」

 

 

対象を強制転移させる類の魔法だったのでしょうか、ルシエさんの魔力がこの場から完全に消えている

 

小さな魔女は少し考え込むように目を伏せて、いつの間にかに持っていた小瓶を目の高さまで持ち上げて首をかしげた

 

 

「一人で足りるかな?」

 

「なにを」

 

 

小瓶?

 

いつのまにそんな物を。あれも何か変わった魔法の材料なのでしょうか・・・ルシエさんが入ってますね

 

バリアジャケットが解除されており、再構成も元の衣類に戻る事も出来ていないと言う事は。あの中は軽い封印状態にでもなっているのでしょう

 

 

「・・・変わった魔法ですね」

 

「失せよ、光明」

 

 

視界が暗転する

 

これは場に作用しているのか、それとも私に作用しているのか。いずれにせよ、気配まで隠れられて厄介です

 

 

「伝えて。私を見捨てた貴方たち王を、私は許さない」

 

「ヴィヴィオにですか?」

 

「できれば、クラウスとエレミヤにも伝えてほしい」

 

「覇王に心当たりはありますが、そのエレミヤと言う人物は知りませんね」

 

「そう」

 

 

何と無くですが、返事が物悲しそうですね

 

この程度の魔女。私ならば一閃で切り捨てられるはずなのですが、ヴィヴィオの友人と言う事が無意識に歯止めを掛けているのかも知れません

 

 

「まだそこに居るかは分かりませんが。一つ、アドバイスです・・・この様な事をされなくても、ヴィヴィオは呼び掛けには応じますよ」

 

「だから、やめろってこと? それはダメ。前の試合で確信した、彼女達は覚えてる。なのに・・・迎えにきてくれなかった」

 

「・・・迎えに来ないのならば、貴方が尋ねれば良かったのでは?」

 

 

返事はありませんでした

 

暗転した視界が戻る頃には、あの風船のような生物も小さな魔女も完全消えて追跡不可能なほどに周囲の魔力も薄まってしまっていました


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