アインハルト・ストラトスを待つ間、私は再び初等科のクラスに訪れています
授業中の様でしたので、廊下から二人を呼び出して相対する
やはり、リオの表情は優れませんね。試合に負けた事もあるのでしょうが、それ以上に私に対する視線に含みを感じる
コロナ・ティミルはと言うとそんなリオを心配するように私とリオを交互に見ていた
「貴方達に手伝って貰いたい事があるのです」
「私は良いですけど」
「あたしも大丈夫です・・・あの、イクス先輩!」
突然リオが大きな声を出すので、クラスの殆どが私達を見る
「静かに、授業中ですよ」
「あ、はい。そうですよね。それで、イクス先輩。すみませんでした!」
「・・・なにがですか?」
「イクス先輩に稽古してもらったのに、あたし、負けちゃって」
ああ、そんな事ですか
「気にしなくても良いですよ。あの方は明らかに貴方の格上でした、それを鑑みればあの善戦はむしろ誇らしいと私は思っています」
「でもぅ」
「ここで泣かないで下さいよ・・・これでは、私が泣かしたと思われます」
教室内の視線が未だ私達にあることを指で示すと、リオは溜まっていた涙を拭いて精一杯の笑顔で返事をした
妹みたいで可愛いです
「では、簡単に説明しますので、よく聞いておいて下さいね」
ふふん、この子は非常に私の心を擽ってきています。小動物感と言いますか、下手に構うとヴィヴィオが嫉妬するので控えないといけませんが、機会があればまた稽古を付けても良いと思います
「いま現在、ルシエさんが聖王や覇王に連なる魔女に浚われてしまい非常に困っています。管理局か教会に任せるのが最善かも知れませんが、ヴィヴィオの過去がどう絡んでいるのか分からない以上は姉として放って置く訳にはいきません・・・故に人手を増やす為に貴方達に協力を仰ごうと思ったのです」
「私達で良ければ」
「そうだね、全然大丈夫ですけど」
「けど?」
先を促すと二人は見合わせてリオが口を開く
「ヴィヴィオやイクスさんで困る相手に、私達が手伝ってどうにかなるのかなって思いまして・・・」
「欲しいのは人数ですから。武力なら私一人で十分間に合っているので安心して下さい。問題はそれだけですか? それならば手続きは私がしますので、荷物を纏めて下さい。いますぐ、発ちますよ」
「え? いま、すぐですか?」
「もちろん。特別欠席になるので、評価は下がりません」
まだ仕組みは不明ですが、私の勘通りならあれは集団戦が不得意の可能性があります。元々魔女の使う呪いは個人に有用な場合が殆どですからね
二人を待っているとアインハルト・ストラトスから準備が整ったとメッセージが入る
校門で待っていてもらいましょう
◇◇◇◇◇◇
「イクスさん」
「なんですか?」
「どうして、そのお二人が」
「それほど深い意味はありませんが、念の為です。貴方は気にせずに案内に勤めてください」
少し迷ったようですが、私や自分が居ると考えたのでしょう。頷いて歩き出す
徒歩で行く気でしょうか
「目的地まではどれ位の距離が?」
「バスなども使いますが、森の中を歩かないといけませんので。大体四十分以上はかかると思います」
「良ければヴィヴィオの騎士に車を出させますが」
アインハルト・ストラトスは少し迷い、そして何故か恥ずかしそうにそれを承諾する
学院が教会区画であった為、駐在していた騎士が居たのでしょう。呼ばれた騎士達は私の予想より遥かに早く駆けつけてきた
「乗って下さい」
私がさっさと車に乗ると三名は何故か躊躇をしながら乗り込む
ん? 高級そう? 価値は分かりませんが見た限りはそれなりに値は張りそうですね。が、いまはそこを気にする時ではありませんよ
暫くして。アインハルト・ストラトスの案内に従って森に着いた私達に、さっそくユニークなお持て成しが始まりました
「な、なな」
「リオ、冷静にだよ!」
「二人とも落ち着きなさい。この程度なら問題ありません」
眼前に広がる森の緑を覆う程の黒い小悪魔
敵対意思はありませんが、進入した私達を追い出そうと言う意思は感じますね
「三人とも下がりなさい。この程度の数に時間をかけるのは非常に無駄です」
妙に身を引いて縮こまるリオやコロナ・ティミルは可愛いですね
戦刀を作り出して前に歩み出る
「怖がらなくても大丈夫です」
偵察のつもりで寄ってきた数匹を力任せに振るった刀閃で消滅させる。消え方から見て、どうやらアレは単なる魔力の塊みたいですね・・・もとから遠慮などしていませんでしたが、余計な手間を考えなくて済みそうです
「ノノ、セッ・・・あれ、また居ませんね」
えっと、さっきまで近くにいた気がするのですが
デバイスが無い以上は非殺傷設定が難しいですから、ちまちまと丁寧に潰していくしかありませんね
「叩いて潰せ! ゴライアス!」
「あ! コロナだけズルいぃ! 双龍円舞!」
敵の数にうんざりしていると、後ろから私を追い抜いてゴーレムと双龍が小悪魔を消滅させていく
「貴方達」
「すみません、でも、あれくらいならヘッチャラです!」
「あたしもオッケーです」
「まぁあのくらいなら大丈夫ですか・・・はぁ、ではお願いします」
この程度の相手に時間を割く訳にはいきませんからね
アインハルト・ストラトスも武装形態になり、魔力の乗った拳圧を放っている
「一閃」
「覇王空破断」
「ロケットパァンチ!」
「絶招紅蓮吼牙!」
各々の持つ魔法で片っ端から小悪魔を消していきますが、何処からか増えているようで中々苦戦中です
「減りませんね」
「イクス先輩! なんかそっちにおっきいのが行きました!」
リオの声に反応して私の方へと急速に迫る固体に意識を向ける
確かにいままでの小さな悪魔に比べると随分と大きいですね・・・まぁ恐らくは融合体なんでしょうけど
巨大な槍が眼前に迫りますが、右手に持った戦刀で受け止め、左手に作り出した戦弓で不愉快に嗤う口へと鉛の矢を射ち込む
「思ったより耐久性は低いみたいですね」
消滅する悪魔を見て思う
あの魔女が召喚しているにしてはあまりにも数が多い。一体一体は取るに足らない存在で確かにこの程度の悪魔なら魔力も大して使わずに呼びだせるでしょうが、幾ら何でも、森を覆い、かつ即時補充となると変わってくる
ロストロギア。とも最初は疑いましたが、かの魔女がロストロギアの制御ができる程に成熟していたようには観えなかった
「アインハルト・ストラトス」
「はい」
背中を合わせ言葉を交わす
「私が道を作りますので、魔女をお願いできますか?」
「私が、ですか?」
「そうです、あの魔女は貴方を望んでいましたからね。ここで適任なのは貴方でしょう」
私が行っても良いですが、それは最終手段です
何故なら、私が行けば解決はしますが、力尽くですからね。妹の為に最善を尽くすならば、アインハルト・ストラトスを先に行かせた方が良いでしょう
「・・・分かりました」
「では、いまから派手にやりますので。リオ! コロナ・ティミル! 全力で私の後ろに!」
「はい!」
「了解です!」
リオ達が私の後ろに走って行くのを確認して切り替える
雨水イクスでは無く、冥王イクスヴェリアとして力を振るう・・・手始めに手近の小悪魔がマリアージュへと変質する。次にマリアージュの持つ戦刀に貫かれた小悪魔がマリアージュと成る。そうして瞬く間に数を増やしたマリアージュは私の一言で周辺に破壊を撒き散らす兵器と化す
「自害せよ」
戦闘の只中でありながらマリアージュは一斉に反応し、戦刀で迷い無く地震のコアを破壊する。それにより百を超えるマリアージュは周囲を巻き込むようにして自爆した
「いまの内です」
「はい!」
私が場を整える間に強化を施していたのでしょう、駆け出したアインハルト・ストラトスの姿は既に森の先に消えていきます
「ふぅ」
「イクス先輩?!」
「顔が真っ青ですよ!」
「大丈夫です、それよりアレの反応しないところまで運んでもらえますか?」
やはり封印処理をされた状態でマリアージュを使うのは無理がありました
魔力不足でいまにも倒れそうです
傾く体をリオとコロナ・ティミルが支えてくれます。この二人を連れてきた意味が無くなってしまいましたね・・・まぁ二人が居てくれたので後先考えずに魔力を使えたのだと思っておきましょう
「有難う、二人とも」
あとはアインハルト・ストラトスに任せるしかありません
頼みましたよ