時は少しだけ前に遡ります
わたしこと、ヴィヴィオやアインハルトさん、それにクロだったりが外で喧嘩し始めた頃。あきパパは誰よりも先にキャロの居る小屋に辿り着いていたらしいのです
「長いです」
「待って、まだ始まってもいないよ。お姉ちゃん」
とにかく落ち着かないお姉ちゃんはあきパパに持ってもらって気を沈める
それでも魔力は可視化できる程に溢れてる・・・正直、あのレベルになると抱っこしているあきパパは何らかの異常を感じてるはずなんだけどなぁ
せっかく元気になったばかりなのに。と思ったけど、だからと言ってお姉ちゃんを任せられるのはあきパパだけなので黙っておく
「あきパパとキャロから聞いた話を分かり易く説明するね」
あきパパが小屋についた頃。キャロはキャロで、手持ち無沙汰だったからクロの・・・あ、お姉ちゃんが魔女って呼んでる子ね
クロって言うの
クラウスの住んでたシュトゥラ地方の森の民でね
「ヴィヴィオ」
「話がそれてるぞ」
「はぁーい」
えぇっと、そう。手持ち無沙汰なキャロはクロの家を物色してたんだって、まぁここは旧時代の魔法の産物が溢れてるからね。ウルみたいに好奇心旺盛になっちゃうような道具は多いよ
それで、まぁ、うっかり? うん、うっかりね。手に持っていた粉末が入った小瓶を落としてしまって、それはもう盛大に溢したらしいんだよ
「しかも外気に触れると溶け出すタイプだったんだよね?」
「ああ、いきなりだったからキャロも焦って余計に被害が大きくなったな」
「で、とうぜん何の対策もしてないキャロやあきパパはあっさり薬を吸い込んでしまったのです」
とは言っても、現役執務官のキャロは咄嗟の反応であきパパより吸引量は少なかったんだろうけどね
ん? なんでそう思うかって? だって、迫ったのはあきパパなんだよね? 本当なら薬に近いキャロが迫らないと不自然なんだよ
あれはそう言う薬だからね
「つまり、魔女が作った薬が原因なんですね?」
「そうとも言うけど・・・あ、クロを責めるのはダメだからね。あれだって正しく使えば皆の役に立つ大事な薬なんだから」
「手の届く場所にそんなモノを置いておく方が悪いのです」
「お姉ちゃんの時代にもあっただろうけど、あれは初陣の気付けみたいなモノだから本当に良薬の類なんだって」
それに、あきパパ達を襲った発情性みたいなのは言わば副作用に過ぎないし、本来の用途は初陣の慣れない戦場に出る時に使うまじない薬なの
高揚感を得られる薬。みたいな感じなのかな
「そんな訳で結局、あきパパはいままでのらりくらりとして来た話を勢いと成り行きで済ませちゃったって訳」
「・・・そう聞くと落ち込むな」
「にゃはは、ヴィヴィオは嬉しいけどね」
ただ、ちょっと情熱過ぎる所を見せられたのだけどは納得がいかないけど
「待ちなさい、ヴィヴィオ。微妙に話が飛んでます」
「ん?」
「具体的にお父様がどう言う風にルシエさんに迫ったのかが抜けてます」
「え、そこは聞かないお約束だよぉ」
「そんな約束をした覚えはありません」
「いや、そうじゃなくて」
聞いたところで事実が変わったりする訳では無いんだけど。まぁお姉ちゃんも引いてくれなさそうだし、少しだけ誇張して言う事にします
「ごにょごにょ」
「なっ」
「で、キャロが」
「それはっ」
「そこであきパパの」
顔を真っ赤に染めたお姉ちゃんはあきパパの上でジタバタと暴れ、最終的には抜け出して距離を取った
・・・おーお姉ちゃんが自らあきパパの傍を離れるなんて珍しいの、もしかして初めて見たかもなの
「じ、時間的にそこまでデキたとは思えません!」
「いやいや、お姉ちゃん。案外十五分もあればヤルには問題ないらしいよ?」
「ばッ! し、しかしですね。しかしですね!」
お姉ちゃんは耳まで赤くして、はしたないと叫ぶ。同じ王族なんだからお姉ちゃんも夜伽の教育くらい受けているはずなのに、なんでリアクションが普通の女の子みたいなんだろう
「それに、お姉ちゃんがこの小屋に来るまで結構時間かかったよね? ヴィヴィオも小屋に入ったのはクロと会ってからだから決して少なくない時間は確保されてたはずだよ」
まぁお姉ちゃんの言う通り、実際あきパパ達が行為に及ぶ前にヴィヴィオ達が戻ってきて解毒したんだけどね
クロが転がってる小瓶に気付いてくれて良かった
あれが無かったら広域殲滅魔法を使って黙らせないといけないところだったんだから
「はい、あきパパ! 大体の説明が終わったけど、これであってる?」
「なんだか脚色過多だった気もするが合ってるよ」
「やった~! ほめてほめてぇ」
「はいはい、代わりに話してくれて。ありがとな」
「にゃはは」
「はふぅぅふぁ」
お姉ちゃんはまだ感情に振り回されているようで、捌け口を探して視線を絶えず動かしている。ま、お姉ちゃんが誰かに八つ当たりしないように皆は他の部屋だから意味ないけどね!
「ひとまず話はこれでぜんぶ。今度こそ納得した? イクスお姉ちゃん」
「だから、なぜ貴方はそうも冷静なのです」
「いやだって、遅かれ早かれだもん。どっちかって言えば遅かったのかな? あと、結婚したからってヴィヴィオもお姉ちゃんも立場的にあんまり変わんないし」
ピタッと面白いくらいに静止してお姉ちゃんはたっぷり三秒間くらい固まって再起動した
「なるほど、つまりこれからもお父様は私のお父様なのですね」
「わたし達、ね」
「ん?」
「え?」
あれ、やっぱりまだダメなのかな
とりあえず魔力を沈めている最中のお姉ちゃんは放っておいてあきパパに近寄る
「どうした?」
「どうした? じゃないの。流石に今回の事はヴィヴィオでもフォローできない大事件だよ? 分かってる?」
これからきっと様々な場所で問題が起こる
もしかしたら、あきパパの生徒の一部が暴徒化しないとも言えない。言葉にしなかっただけで、想いを寄せていた子が絶対いるはず
「分かってるよ」
「その顔は分かってない」
困ったように笑ったあきパパはゆっくりと時間をかけて撫でてくれる
「・・・ハッ、誤魔化されないし! まぁ使えるモノは全部使って成功を約束してあげるけど。もうちょっと反省してほしいの」
あきパパと話しながらも、これからの事を考える。まずは、なのはママにも教えてあげないといけない・・・そしてその後のなのはママを暫く見張っておく必要もあると思うの
お姉ちゃんが第一に八つ当たりするとしたら間違いなく。だからね
「これじゃあ大会なんて悠長にしてる暇はないかな」
ま、元々の目的であるアインハルトさんとは一段落できた訳だし棄権しても良いかな
落ち着いたお姉ちゃんとキャロ達を交えて、これからの事を色々を話し合った・・・決して忘れていた訳じゃないけど、気付いたら相当時間が経っていたようで、違う部屋に居たアインハルトさん達がとてもお腹を空かせていました