海鳴市
一見これと言った特徴の無い穏やかな町なんですが、過去数度に渡りロストロギア事案が発生した変な町でもある
魔法文化の無い管理外世界で起こる魔法事件としては異例の件数で、何かある。と一部の人の中では有名なのです・・・と、それはヴィヴィオ達が今回やってきた理由とはまったく別の話なので置いといて
今日はあきパパの記憶喪失の治療として、生まれ育ったはずの海鳴市を探索しにやってきました
「どう? 何か思い出した?」
「まったくだな」
「えーっと、学校もダメっと」
管理局から貰った資料を基にうろうろしているのだけど、いまのところあきパパの記憶を刺激するほどの場所には巡りあえてません
と、言うかちょっと変なの
フェイトさんも首を傾げていたけど。この資料通りなら、なのはママ達があきパパと一度も会わなかったなんておかしいはずなんだけどなぁ
「次はどこにする?」
「んー順番通りで良い、かな。特にいまのところは何も思い浮かばん」
「ふぅん」
ちなみに、ヴィヴィオが一緒なのは大抵の事に対処が利くから。です・・・ヴィヴィオが来なかったらキャロママとあきパパ二人で行く予定だったんだよ?
まったくいまの二人が二人っきりになったら、絶対それどこじゃなくなる
「ヴィヴィオ? なんだか視線に含みを感じるんだか・・・」
「そぉですかぁー。ヴィヴィオは家でも外でもいちゃいちゃしてるパパとママは仲が本当に良いんだなぁって思っただけだよぉ? そのせいでフェイトさんの家に避難するはめになってお姉ちゃんとフェイトさんが仲良くなったのは不幸中の幸いだよねぇ~」
「いや、あの時は悪かったって。なんかキャロが積極的でな」
「あー! キャロママのせいにするの? それはいけないとヴィヴィオは思いますよぉー!」
「はい」
「よろしい」
えっへんと胸を張って答えるとあきパパは苦笑して頭を撫でてくれた
「そうだ。結婚式の準備は順調か?」
「もちろんなの! 任せてって言ったでしょ? ちょっと参加する人がいっぱいだからスケジュール調整が難しいけど、いまのところ大きな問題は無いよ」
「いや、キャロも俺もそんなに拘りは無いから、家族のみで小さくして良かったんだけどな」
「え~?! それはダメだよぉ、教会は既に腰上げちゃってるし、対抗して管理局も頑張るらしいから。ぶっちゃけミッドチルダ始まって以来の最大規模の式になる予定なんだから~」
教会は私有地の殆どを貸し出すとか言ってるし、管理局はミッドチルダの首都通りを警備できると宣伝してきている
「・・・え、そこまで大きいとは・・・キャロはなんて?」
「ん? いま穏やかな新婚生活の為にあちこち駆け巡ってるらしいから、キャロママは知らないはずだよ?」
「はぁー」
「まぁまぁ祝い事だし楽しもうよ!」
「そうだな」
道なりに進んで角を曲がると手を振っている人が目に入る
次なる地点に早くも到着です
「どう?」
「今更、ここで思い出せたりはしないだろう」
「だよねぇ~」
喫茶翠屋
なのはママの実家なの。ここの洋菓子はお姉ちゃんも気に入っているので、雨水家は割と常連さんです
もちろんあきパパも行く事があるので・・・まぁ記憶が無くなってからは初めてだけど、新しい発見はなさそうです
休憩のつもりだったから良いよね
「ヴィヴィオちゃ~ん、雨水さ~ん」
「やっほ~!」
「久しぶりです、桃子さん」
なのはママのママ、桃子さん
いつ見ても若々しくて、なのはママのほわほわ部分をマシマシにした人です
「少し前にイクスとシロが買い物に来たみたいで、迷惑かけてませんでしたか?」
「ぜんぜん! 二人とも良い子だったわよ。なのはとイクスちゃんは変わらずだったけどね」
「え? あの日、なのはママも?」
あちゃあ、それは失敗だったかも
「偶然ね。なのはの怖がりは昔からだから、あともうちょっと傷付ける事に臆病にならなければイクスちゃんも心を開いてくれる気がするのだけど・・・ね?」
思わず曖昧に視線を逸らしてしまったの
たぶん、桃子さんはイクスお姉ちゃんとなのはママの関係もそうだけど、ヴィヴィオとなのはママの関係の事も言っている
なのはママは私達の過去を触れてはいけないモノだと思って、避けるようにしてくれているけど、それがイクスお姉ちゃんは大層気に入らないらしい
親と言うなら、ヴィヴィオの全てを受け入れろ。これがイクスお姉ちゃんの主張なんだとヴィヴィオは思っている
「あらあら、立ち話が長くなっちゃったかしら? ささ、早く入って。士郎さんと一緒に美味しいお菓子をいっぱい作ってるから」
「うん!」
「あ、雨水さんは、結婚の話。たっぷり聞かせてね?」
「・・・お手柔らかにお願いします」
「ふふっ、どうしようかしらっ」
ちょっとした休憩のつもりだったけど、長くなるかもなぁ
桃子さんの悪戯っ気の混じった楽しそうな笑顔を見て、この後の予定を大きく修正する事に決めた
◇◇◇◇◇◇
見た目は意外と普通のシュークリームと大差はない。変に形が違ったり、こぼれ落ちる程にクリームが入っている訳じゃない
でも、さくさくであまーいクリームがとろってなってて。教会が用意してた無駄に高いヤツよりヴィヴィオ的にはツボなのです
「はむはむ」
「ヴィヴィオ、それで三個目だぞ?」
「んく、あきパパこそ、一つ食べてから全然手が進んでないよ?」
「美味しいけどサイズがね」
「そかな? 普通くらいだと思うけど・・・」
ヴィヴィオの手は小さいから両手で持ってるけど、あきパパは片手で食べれるサイズでしょ?
「あら、雨水さんにはちょっと甘さ控えめが良かったかしら?」
「いえいえ、ちょうど良い甘さですよ」
「はむ、はむはむ・・・と言うか、控えめとかあるんですか?」
「あるわよ~。ヴィヴィオちゃんもダイエットとか気になる頃になったら言ってね? 幾つかダイエット中でも食べれる洋菓子を考案してるの」
へぇ~・・・雨水家にはあんまり縁のない話だから、そう言う方向の料理はしないなぁ
「クリームついたぁ」
「さっきから付いてたよ」
「むぅそれなら取ってくれても良いじゃないかなぁ?」
あきパパは何故かシュークリームと一緒に持ってこられていた小さなスプーンを近づけてくる
それで取る気なのかな
じとー
「ふふっ、雨水さん。いじわるしちゃ駄目よ」
「まぁそうですね」
スプーンを置いて指ですくった
ふふん、そうだよね、そうでなくっちゃね
「あ~ん」
「はいはい」
「あ、そう言えば今日のヴィヴィオちゃんは、いつもと違う髪型だけど。誰がしてくれたのかしら?」
「これ? お姉ちゃんなの」
ウォーターフォールって言うらしくて、もうちょっと複雑に編む事も出来るらしいけどシンプルなのが一番って言って髪を押さえるように編んで後はふわっとおろしている
「イクスちゃん? へぇ上手なのねぇ」
「最近ハマッてるらしいんだ」
正確には必要に迫られただけなんだけどね
なんでも、髪が乱れてる後輩がいたから何と無く梳いてあげたらしいんだけど。その話が変な方向に広がって、いま初等科ではイクス先輩に髪を結んでもらった子は何かスゴイって風潮になってるの
お姉ちゃんも噂とかそう言うのを気にしないタイプだから、そんな事になってるなんて知らずに・・・最近の初等科の子は、髪を整える余裕も無い程に大変な時期なのでしょうか。とか言ってた
そんなこんなで数をこなす内にバリエーションとか増えたらしい
ったくもぉ、お姉ちゃんはホント年下に甘いんだから。妹がいながら他の子に構うのは正直不誠実だと言っても悪くないんじゃないかなって思うよ
「あ! 髪型と言えば! あきパパ! ヴィヴィオ、この髪型は初お披露目なんですけど!」
「はいはい、可愛い可愛い」
「雑すぎぃ!」
「それ、食べ終わってからね」
がつがつがつ
「あぁクリームが服に」
一口よりシュークリームのサイズの方が大きいので勢いよく食べるとクリームが口の端からこぼれ落ちる
「それにしても、雨水さんが結婚する事になっちゃってますますなのはが心配ねぇ」
「高町一尉なら引く手数多なので、案外すぐに相手を見つけますよ」
「そうなら良いのだけど・・・私達的には・・・ううん、これは言わない方が良いわね」
「あー何と無く想像付きますが、そうして下さい」
「あらあら、なのはったらフラれちゃったわ」
ヴィヴィオをのけ者にしてなんか楽しそう!
残り少なかったジュースをズズッと飲み干して食べ終わった事を主張する
「音を立てない」
「分かった! それでそれで、何の話なの!」
「なのはが雨水さんにフラれちゃったわって話よ。ヴィヴィオちゃんは、好きな人とか居るのかしら?」
「いるよぉ。もうアインハルトさんとは相思相愛のラブラブカップルですからっ!」
ん? いまあきパパ何か言ったな
桃子さんの返事に重なって聞こえなかったけど、アインハルトさんとの仲を疑う気ならあきパパでも許さないからね
「あら? なのはったら娘にも先を越されているのかしら?」
「大丈夫! なのはママにはいざとなったらユーノ司書長がいるからね!」
「保険扱いなのね」
「ヴィヴィオ的にはユーノ司書長はまだちょっと足りないところがあるからね」
フェイトさんみたいな人いないかなぁ
なのはママみたいに完全に近い人だとあきパパやフェイトさんみたいに何かが欠けた人が丁度良い
「あらあら、ヴィヴィオちゃんったら結構手厳しい」
「にゃはは、このくらいは当たり前だよぉ」
なんたってなのはママと一緒になるって事は、ヴィヴィオはもちろんイクスお姉ちゃんとだって仲良くしてもらわないと困るからね
結局この日は翠屋で一日を過ごしてしまってそのままお泊りと言う事になりました