「カリム! 学院が大変な時に、貴方と言う人は何処をほっつき歩いていたんですか!」
「あははぁ~」
いつも以上に怒ったシャッハの声が教会の執務室に響き渡った
いえ、私もザンクトヒルデの状況を直に見て判断しようと思っただけなのだけど、ちょっと合間の時間に抜け出したら余計な混乱を招いちゃったみたい
「笑い事ではありません! もぉただで生徒を落ち着かせるのに手がいると言うのに、なぜ大の大人の面倒まで見ないといけないのでしょうか!」
「大変ねぇ」
「貴方のせいです!」
「えぇと、それで? 収束は付きそうなのかしら?」
怒りは収まっていないけれど、シャッハはすぐに資料を取り出して私の前に並べる
「初日に比べれば収まった方ですね。しかし、過激な行動を取る可能性は消えていないようです」
「ん~学院の陰謀説ねぇ」
「まぁ素直に認められないと言う気持ちは分かりますが」
「・・・そうねぇ」
素直に認められない。確かにそれもあるのでしょうけど、それにしては噂が出てくるのが早過ぎると思うのよね
まるで、誰かが意図的に広めたみたいにも思える
「先生方やシスター達の頑張りもあり。恐らく式までには間に合わせる事が可能だとは思いますよ」
「それなら安心ね」
「はい・・・ヴィヴィオさんから連絡はありますか?」
「返事はまだきてないわ。大事なお父さんの為だもの、急がせたら駄目よ」
「それは分かっています」
まぁシャッハが焦る気持ちも十分わかるのだけど
聖王家の親族の婚礼なんてヴィヴィオさん以来の大ニュースですもんね
もし、管理局で執り行うなんて事になったら騎士団が黙っているとは思えない
「はぁ」
どちらともなく私もシャッハも溜息を吐いてしまう
「騎士カリム! シスターシャッハ!」
「シャンテ! 突然入るとは何事ですか!」
「まぁまぁ、それで? なにかしらシスターシャンテ」
「学院で結界魔法が展開されたらしくて! それで、中で生徒がやり合ってるらしいんだ!」
「なんですって?!」
すぐにザンクトヒルデ魔法学院に通信を繋ぎ、モニターを展開する。結界内の映像はノイズがあるものの、どうにか表示する事ができた
「これは・・・」
「アインハルトさんね」
一人は覇王家の子孫であるアインハルトさん
そして、アインハルトさんを囲むようにして初等科の生徒が武器を持っている。既に何人か倒れてる子もいる事から、戦闘は既に始まってしまっている事がわかる
「すぐに現場に向かいます!」
「そうね。シスターシャッハ、シスターシャンテ、騎士カリーノに応援を依頼し共に現場に向かって下さい」
カリーノさんならば、現場にいる教師の方でも破れていない結界でも恐らくは大丈夫でしょう
「それにしても、流石覇王の後継者ね」
初等科の生徒達が弱い訳ではない
むしろ私から見ても上位の方に位置する子達と言う事が一目で分かる。それでも、そう言う子達の磨き上げた一撃。刃物による斬撃や刺突、鈍器による打撃、魔法による射撃もあり、時には召喚された獣の牙。そのどれもが覇王の拳によって砕かれていた
「とても学院の生徒とは思えないレベルね」
「とんとん。騎士カリムさぁーん」
「は、はいっ!」
「あはは、やっと気付いてもらえました」
声のする方。入り口に目を向けると査察長官のエリシアさんと、その護衛騎士のエリオさんが立っていました
「いらっしゃい」
「久しぶりです、騎士カリム。ちょっと失礼しますね」
エリシアさんは懐からタクト型のデバイスを取り出すとモニターに向かって振るう。すると、ノイズが混じっていた映像は鮮明なモノに変わってそれぞれのプロフィールまで表示される
「流石は若くして査察長官に任命された方ですね」
「術式が先生のだから簡単です」
「え? なら、この子達は秋兄さんの生徒なの?」
「そうだよ、エリオ・・・可愛い子ばかりだね」
「あはは、秋兄さんはそこは意識してないと思うよ。でも、スゴイね。この年齢でこれだけの使い手なら将来有望の魔導師だ」
「教会だから騎士になるだろうけど」
エリオさん。少し見ない間に、また身長が大きくなって気がするわね。いまなら、もうフェイトさんを抜いてるんじゃないのかしら
「どうかしました?」
「エリオさん、また大きくなりました?」
「え・・・あ、ええ、まぁ」
「ふふっ、エリオったら、まだ成長期が止まってないんですよ。この前なんか先生がそれで落ち込んでましたからね」
「ん~僕は身長はもう十分なのでいらないんですけど」
それより。と余りこの話を続けたくないエリオさんがモニターの方に話を移す
「もうすぐ決着だよ、エリシア」
「ん、この数だし無傷じゃないか」
「当たり前だよ。でも、一対一じゃなくて良かったよね。このプロフィールを見る限り、一対一が得意な子の方が多いみたいだし」
「この子のレアスキルなんて特にそうだよね」
戦闘の事は全然分からないのだけれど、エリシアさんの説明で何と無くアインハルトさんが戦い易い運びに場が流れていると言う事だけが分かった
そして、アインハルトさんが膝を付き、囲んでいた子達も満身創痍になり踏み切れずにいたところで、結界魔法が解けて派遣していたシャッハ達が止めに入る
「ふぅ、一段落ですね」
「良かったです。これで、私達も本題に入れます」
「あ、そう言えば、今日はどうしたのかしら? 本局の用事なのは分かるのだけど」
「はい! 面識があり、且つ様々な情報観点から交渉が出来ると判断され、若輩ですが査察長官エリシア・ヒューズ。雨水秋春一等陸士とキャロ・ル・ルシエ三等陸尉の式場についてご相談をさせて頂きたく参りました!」
「・・・不意打ちじゃないかしら」
「アポなら通してますよ。ただ、いまちょっとザンクトで立て込んでいて連絡に遅れが出ているのかもしれませんね。しかし、こちらは正規の手順を踏んでいますので、何の問題もありません。あ、もし、何か資料が足りなければ、こちらの物を貸しますよ」
にこりと可愛らしく笑ったエリシアさんを見て、出だしで負た気分になってしまいましたけど、こちらも全く準備がない訳ではありません
「それには及びませんよ。では、ご存知の通り、慌しいため大したもてなしが出来ませんでしたけど、お話を始めましょうか」
「驚きました・・・資料管理はシスターシャッハがしていると伺っていたんですけど」
「間違いでは無いけれど、私だって教会代表ですからね。個人で幾らかは備えてますよ」
もちろん、教会の大部分を占める総意は頭に入ってるつもり
「あ・・・そうですよね」
「ふふふっ、お父さんに比べたらまだまだみたいね」
エリシアさんのお父さんは本当に優秀な方でしたからね
私も何度か手を焼いた記憶があります
落ち込んでいるところをエリオさんに励まされている光景は微笑ましい。でも、すぐに真面目な表情になると、きちんと頭を下げてから話し始めた