規格外と言う言葉が正にお似合いだな
幸い私は実技の授業でそれぞれの能力の大よそは把握しているが、どうも隠していた子もそれなりに居たようで・・・大体これを本当に覇王一人で捌けていたのか?
王家の血筋とは本当に末恐ろしい。それとも、戦乱ベルカではこの実力者達も平凡に括られる程度になっていたのか
「その技術はそんな風に使う為に教えてもらった訳じゃないはずだぞ」
「ッ!」
少女達は私の言葉に驚いた表情をして揃って足を止める
何をいまさら私だってそれを知っている
シスターシャッハには自爆魔法だと伝えたが実は違う。自爆と言う点は事実だけども、魔法と言える程に綺麗なプロセスはとっていない。瞬間魔力放出を水の出る蛇口に例えるなら、細い蛇口を見て、そうだ蛇口を壊して水を一気に排出させれば良いなんて危険な思想の素に出来ている
リンカーコアに水と言う魔力を溜めて、本来なら決まった量した出せない蛇口を壊して爆発的な量を相手に浴びせる。これが先程からこの子達が使っている技法だ
「それは自傷行為と何ら変わらない。一歩間違えればリンカーコアを破損し兼ねない方法だろうが・・・恩師は使う事を許してないはずだ」
会話をしている最中も陰から剣が伸び私を刺し貫こうとしている
「やれやれ、私は覇王の様にはいかないぞ? これでも聖王騎士団の副団長。たかが生徒が何人揃ったところで対処できる相手だと思うな」
まぁこの子達は選りすぐりの天才。一回や二回あれを使った程度で壊れるとは思わないが、それでもなるべくなら使わせないで捕縛したいところだ
はぁ恩師が居てくれたら一発で解決する話なのに・・・いまは管理外世界にいるとか報告を受けた気がするな
「先生は」
「どうした?」
「カリーノ先生だって雨水先生の教え子って聞いてます」
「そうだよ」
大剣を救出の為とは言え投げたのは失敗だったかも知れない
盾の役割も兼ねているので防御が心もとない
「だったら! なんでそんなに平然としてられるんですか!」
「大人だからだよ」
「・・・よく分かりません」
「私は大人だからね。好きな人が結婚するからと言って駄々を捏ねないし、何なら幸せを願って祝福だって出来る。分かったか?」
結局のこの子達は恩師に抱く小さな憧れの行き場を探しているに過ぎない。それが恋愛感情かは、成長していく内に学べば良いと思うがいまは傍にいたいと言う気持ちに違いは無いと言う事だけ理解しているのだろう
「分かりません。それに、私達は雨水先生を理不尽から救いたいだけです。別に結婚は反対してません」
「それは嘘の情報なんだが」
「アインハルト先輩に主要のメンバーをやられた後に、カリーノ先生はやはり難しいみたいですから。私達も最終兵器を出します。でも、本当は嫌だから、学院と交渉させて下さい。そうしたら止めます」
「まるで、その最終兵器とやら私が負けるの前提になっているが・・・交渉は勝手にしろ。しかし、そもそもが筋違いなんだ。何も変わらないぞ」
納得はしないか
少女達の足元の影がゆっくりと広がり波を打つ。まるで、零れた水が広がるようだ
誰かのレアスキルなんだろうが、見たこと無い
「なんだ、そいつは」
床全体を埋め尽くした影。そして少女達の中心から穴一つ無い真っ白な仮面をした真っ黒な人型がゆっくりと浮かんできた
体格からして少女なのだろうが、あれでは人なのか魔法生物なのか判断が付かない
「シャッテン、お願い」
影はゆっくり首を縦にふるとこちらを向く
「魔力は感じない。まったく恩師は本当に・・・なんでこうも不思議な子とばかり縁を持ってるのか。この中に平凡な少女はいないのか?」
しかし分からない。この影の子が最終兵器と呼ばれる所以が
「バインドで様子見でも・・・ん?」
魔法が発動しない
ああ、魔法封じか。魔力が巡らない、つまりはこの影に覆われた空間は魔力を封じられた場なのだろう。なるほど、確かに強力なレアスキルだ
「しかし、私は騎士だぞ? 魔法が封じられた程度で」
黒い影の少女から無数の手が伸びる
いつもの癖で身体強化を前提で動いてしまったせいで手の一つに掴まれてしまったが、手は私を拘束する訳でも無くするりと通り抜けた
「なんだ?」
「気をつけた方が良いですよ。シャッテンの手に何度も触れれば死んじゃいますから」
「無茶苦茶だな」
少女の有り難い忠告と共に目の前に広がる無数の手が視界を埋める
流石に魔力使用を封じられて、これ全部を対処するなんて不可能だな。原理は分からないが、触れると危険らしい。まぁ恐らくは呪いか吸収だろう
呪いなら最後のその時まで平気だが、吸収系だった場合は段々と動きに出てしまって時間をかける程ジリ貧になるな
「はぁ~・・・降参だな」
勝ち目は二割、本気を出せば三割は超える。まだ分の悪い賭けでは無いが、そうなってしまえば、きっと私は生徒に対してと言う手加減が出来なくなる
「本当ですか! だったら、学院に私達の要求を通してもらいます! 先生を辞めさせないで下さい!」
「それは無理だ」
「・・・降参って言ったじゃないですか」
「ああ、降参だ。そっちが最終兵器を出したんだ。私も手を一つ切ろうと思う」
「何をしても無駄です」
団長に滅茶苦茶怒られるから嫌だったのだが、ここまでだともう陛下を頼るしかない
副団長の私と団長にだけ許された陛下への直通回線。管理外世界への通信は本来規定により手順を踏まなければ不可能だが、陛下にはそれが適用されない
ま、政治的な話は置いてだ
「やっほー、カリーノさんから通信なんて珍しいね!」
「お久しぶりです、陛下。少し恩師に急ぎの用があって繋いで欲しいのですが」
「え~あきパパはいま療養中なんだけどなぁ」
「そこをどうか」
いつも通りの笑顔ではあるけれど棘のある言い方をされていると言う事は不機嫌なのだろう。下手をすると断られる可能性が高い
「ま、いっか。カリーノさんだし、団長さんだったら断ったけど、いいよ! ちょっと待ってね」
団長が聞いたら泣くな
私と陛下の話を見ていた少女達は分かりやすく狼狽している。面白いのは影の手も感情があるみたいにぐねぐねと動いているところか
「はいはい、カリーノちゃん? どうした?」
「お久しぶりです、恩師。お元気ですか? 療養中にすみません」
「ん? 別に良いって。療養中って言うか単なる旅行だからね。で、そこにいるのはシャッテンちゃんかな? ・・・ああ、そう言う事ね」
「察して貰えたみたいですね。では、後は任せます」
「分かった」
端末を影に向かって投げる
すると、困ったように影の手の一本が端末を拾い上げて皆に見えるようにモニターの位置を調整した
「シャッテンちゃん、まずはそれ解除して」
「・・・。」
「まだ制御の練習中のはずだよ。そんなに周りに他の人がいっぱい居ると危ないって言ったよね?」
「ごめんなさい」
影が急速に人型に吸い込まれるように戻ると初等科の制服を着た少女が中から現れた。あの子も初等科だったのか、身長的にまさかとは思っていたけど今年は本当に逸材ばかりで少し先生方が気の毒だな
「うん、それじゃゆっくり話そうか。ね?」
「うん!」
問題はあっさり解決した
最初からこうしておけばとも思ったが、陛下への直通回線を使った事は団長に知れてる頃だろうし、やはり私としてはこれ以外の方法で解決したかった