あの日から一ヶ月くらい
ここ最近精力的に行ってきた仕事も一段落がついて、気が付いたら教会の控え室でウェディングドレスを着せられてました
振り替えって考えてみれば、雨水秋春のネームバリューで私の仕事の殆どは管理局が喜んで請け負ってくれたはずなのだろうと思う。ま、でも、そう言う借りを作るといざ新婚生活で邪魔されかねないですからね
そう思って準備は秋春達に任せて今日のこの日まできちゃった訳だけど
「ええと、大丈夫かな、大丈夫かな」
「もう、なんでフェイトさんがそんなに慌ててるんですか」
ウェディングに着替えた私は思ったより気負う事も無く控え室でフェイトさんと話をしながら時間を潰していた
前は結婚式に変な憧れがあったけど、自分の番になってみるとちょっと早く終わらないかなって気持ちになってしまってる気がする
だいたいリハーサルで流暢なベルカ語の唄を歌わされると思いませんでした・・・捜査で使いますから、覚えてますけど、それはよく出る単語くらいなんですよ。なんで、秋春はあんな普通に歌えてるんですか!
「だ、だって。でも、本当に良かったの? 私以外にも保護隊の人とか!」
「まぁ保護隊の人でも確かに良かったんですけど。でも、やっぱり私にとって家族はフェイトさんですから」
「キャロ!」
「ストップです! 抱きつきはドレスが崩れるので!」
「あ、そ、そうだね」
フェイトさんは目の端にうっすらと涙を溜めて嬉しそうに笑う
さっきリハーサルで泣いて化粧直しをしたばかりなのに・・・もうフェイトさんの為にさっきのが本番で良かったんじゃないかって思えてきたよ
エリオ君も式中は意外とこんな気持ちだったのかな?
「教会に入らないくらい来てましたね」
「ぐす、良かったね、キャロ。あんないっぱいの人がキャロと雨水さんの事を祝ってくれるよ」
「いや、まぁ嬉しいですけど」
だからって有名になった自覚はあっても一般人のつもりなんです。あんな純血統の大貴族でも実現が難しい近衛騎士団の剣礼の中で堂々とは歩けません
「あ、そろそろかも」
「ふぅ、ようやくですか」
「キャロ、疲れてる?」
「ちょっとだけ、ですね。でも、たぶんそんな気持ちは吹っ飛びますよ」
表面上は冷静に装ってみせてるけど、少し鼓動が早くなって折角の化粧が赤面で台無しにならないか心配です
「あ、そう言えば雨水さんの記憶探しの旅はどうだったの? アリサとすずかの所に寄ったって二人から直接聞いたらけど」
む? フェイトさん。なんで、そこでちょっと顔を赤くしてるんですか? 秋春には後でアリサさん達のところで何をしていたのか聞かないといけませんね
「・・・結局収穫は無かったそうですよ。と言うより、探せば探すほど謎が深まって、私と会うその時に生まれたとか冗談みたいな事を言ってる始末です」
「ロマンチックだね」
「そうですか?」
あの時の秋春は、巡る事に疲れて家でゆっくりしたいとか。そんな事を考えている感じの表情でしたけどね
「そろそろだね、キャロ」
「はい」
「ふふっ、おめでとう。とっても、とっても綺麗だよ」
◇◇◇◇◇◇
「誓いのキスを」
牧師の格好をしたヴィヴィオがさっきまでの、神々しい威厳を取っ払ってニヤニヤとしながら最後の締めの言葉を言う
聞いていた私達はと言うと、補佐のイクスがそれに気付いて足を踏むのが見えて顔を合わせて思わず笑ってしまった
「はぁなんだか締まらないですねぇ」
「ヴィヴィオが壇上に上がった時点で分かったけどな」
「まぁそうですけってうひゃ!」
秋春はまだ話の途中だと言うのに私を強く抱き寄せる
い、いきなりは反則ですよ!
「ごめんごめん、でも、皆が待ってるみたいだからね。キャロ、愛してるよ」
「私もです。愛してますよ、秋春」
周りの音が消え去り、いまは唇を通して秋春の熱だけを感じる
唄が聞こえた
夢の心地にいた私を、ヴィヴィオが唄う賛美歌が現実に引き戻し、秋春の抱擁が予定より長い事に気付かせてくれた
「もう。披露宴もあるんですから、まだお預けですよ」
「ん、そうだね」
二人だけの時間はまだ先なのだから、私も秋春も少し浮かれすぎな気分を戻し再び皆の方へ手を振った