世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

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番外編2・エイプリルフール

城のガーデンテーブルを挟んで向かい合った私、殿下、スピネルの間には微妙な緊張感が走っていた。

表面上は和やかにお茶を飲みつつ、ずっとお互いの言動に注意している。

なぜなら今日は、エイプリルフールだからだ。

「1年で唯一、嘘をついていい日」という事になっているこの日は、私たちの間でなぜか「いかにそれっぽい嘘をついて、見破られずにいられるか」という勝負をする日になっている。

この手の勝負になるとスピネルがやたら強いのだが、今年こそ私が勝ちたい。勝ってギャフンと言わせたい。

 

 

やがて殿下が口を開いた。

「実は昨日、言葉を喋るカエルに出会った」

テーブルの上にしんと沈黙が落ちる。

「…殿下。いくら何でもそれは、誰も信じない」

スピネルに言われ、殿下は「むむ」と眉を寄せた。

「しかし、王様とカエルの話には喋るカエルというものが出てくるが」

「それは童話だろ…」

「えっと、可愛くて良い嘘だと思いますよ?夢があると言いますか」

冷静に突っ込まれ肩を落とす殿下に、私はフォローを入れる。

殿下は見破る方は得意だが、嘘を付くのが上手くないのだ。毎年負けている。

 

「もっと嘘か本当か分からないギリギリのとこを攻めるんだよ。例えばだな…」

スピネルが顎に手を当て、少し考える。

「殿下の好みのタイプは銀髪だ」

ごほっ!と殿下がいきなりむせた。

「えっ…?」

私は思わず考え込む。これは確かに、嘘か本当か分からない微妙な線だ。

前世でそんな話は全く聞かなかったので嘘ではないかと思うが、今世では好みが変わった可能性も…いや待てよ。前世でも「お前に姉か妹がいればな」と残念そうに言われた事があったぞ。

ただの冗談だと思って聞き流していたが、あれはまさかそういう意味だった…?

 

一体どっちだろうと思って殿下を見ると、飲みかけの紅茶がおかしな所に入ったのか、ひたすらげほごほと咳き込んでいた。

「殿下、大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫だ…」

「これじゃ嘘か本当か答えてくれそうにねーな」

「正解を知らないのに言ったんですか!?」

「さあ、どうだろうな?」

スピネルはニヤニヤしている。

自分は正解を知っていると言わんばかりだが、私にはそれが本当なのかどうか判別がつかない。こいつめ…!

 

 

そういう事なら私も受けて立たなければならない。

「殿下の秘密なら私だって知っています!」

「ほう?どんな秘密だ?」

スピネルが面白そうな顔になって私を見る。

「殿下は小さい頃ブロッコリーのことをブッコロリーと呼んでいました」

「それは本当だな。俺も知ってる」

「待ってくれ、そんなのどこで聞いたんだ」

ちょっと慌てる殿下に、私は無意味に胸を張った。

「それは秘密です!」

「お前の情報ソースはいつも謎だな…。まあいい、じゃあもう一つ」

スピネルが身を乗り出す。

 

「殿下は、ブドウはカエルの卵の一種だと言われて信じていた事がある」

「そ、それは…!?」

私も知らない話だ。だがかなり本当っぽい気がする。

「本当…ですね?」

「正解だな」

「その嘘を教えたのはお前だろう!!」

肩をすくめるスピネルの横で殿下が憤慨した。

「そのせいでしばらくブドウが食べられなかったんだぞ」

「純真な殿下になんて事を…」

「悪かったって。まさか信じてると思わなかったんだよ」

 

 

「…全く、人のことばかりあれこれと…」

昔のことを暴露されて面白くないらしい殿下がスピネルの方を見る。

「スピネル。さっきは俺の好みがどうとか言っていたが、お前はどうなんだ」

「は?」

「お前の好みのタイプだ。言ってみろ」

…なるほど。スピネルに好みを言わせて、それが嘘か本当か判別しようという事らしい。

普段から一緒にいて、しかも勘がいい殿下なら高確率で見抜けそうだ。私も正直興味がある。

 

「色っぽい女性があまり好きではないのは知っているが」

殿下がそう言うと、スピネルはムスッとした表情になった。

「えっ!?」

私は思わずびっくりしてまじまじとスピネルの顔を見てしまう。絶対色気たっぷりの巨乳が好きだと思ってたのに。

じゃあ清楚巨乳とかそういうタイプが良いのか?顔がいいからってなんてハードルの高い好みを…。

「…巨乳は好きですよね?」

「いや別に。つーか巨乳とか口に出すなお前は」

スピネルが嫌そうな顔で答える。

なんだと…?

でも殿下が何も言わないという事は本当なのか。巨乳好きじゃなかったのか…?

 

 

「…そうだな。俺はむしろまな板の方が好きだな」

スピネルは何やら思いついた顔で私の方を見下ろしながら言った。

「ついでに銀髪で青い目で女らしくなくて魔術バカで」

…うん?

「どん臭くて絵がヘタクソでバカで卵料理ばっかり食ってて」

「は?」

「泳げなくて無鉄砲でバカで、勉強はできるけど運動はさっぱりな奴が好みだな」

 

 

「…こんなに屈辱的な告白初めてされましたよ…!!」

スピネルは物凄く楽しそうにニヤニヤしている。

どこからどう聞いても100%嘘ではないか。エイプリルフールだからって…。しかも3回バカって言ったぞ。腹立つ…!!

殿下も「こんなに素直じゃない奴は初めて見た…」と言って呆れ顔をしている。

 

「そ、そういう事なら私の好みのタイプはですね!」

絶対に言い返してやると口を開きかけて、私はふと思った。口でスピネルに勝てる気はしない。それにスピネルは、これで意外とおだてに弱い。

…という事は、こき下ろすより褒め殺した方がダメージを与えられるのでは?

 

私はにっこりと笑うとこう言った。

「私は赤毛で鋼色の目の人が良いですね。少し年上で、すらりと背の高いかっこいい美青年で」

「…あ?」

「とても剣が強くて、かっこよくて、忠誠心も強くて、普段は口が悪いけど根は優しくて、ダンスも上手くて」

「は?」

「よく気が利いて、心配性で、いつもこちらを気遣ってくれて、職務に真面目で、紅茶好きで、優しい人が好みですね!」

「んなっ…」

スピネルの顔にさっと朱が差す。

「さらに、私に危険が迫った時に庇ってくれたりする人がいいですね!本当にかっこいいです!大怪我をしても痩せ我慢したり、友情にも篤かったりするとなお良いですね!あと顔がいい!足が長い!意外とたくましい!かっこいい!」

「ぐあああっ…」

スピネルが呻きながら両手で顔を覆った。おーおー、ダメージ受けてる。

 

 

「てんめえ…」

睨みつけられても、顔が赤いので迫力は全くない。

恥ずかしがっているスピネルなどそうそう見られるものではない。かなり面白い。

さらに畳み掛けてやろうかと思った時、殿下がぼそりと呟いた。

「リナーリアはスピネルの事をそんな風に思っていたのか」

「えっ!?ち、違…わなくはないですけど…」

しまった。これは諸刃の剣だった。

改めて考えるとかなり恥ずかしい事を言った気がする。いや、物凄く恥ずかしい。

「お前自身もダメージ受けてんじゃねーか…」

「う、うるさいですね!」

くそう、止めを刺しきる前に我に返ってしまった。せっかく勝てそうだったのに。

 

 

「…お前たちはやっぱり仲がいいな」

あれっ。殿下が珍しく拗ねている。

私とスピネルでばかり勝負をしていたからかな。

「…スピネル。不毛な争いはもうやめましょう」

「そうだな」

私とスピネルは顔を見合わせてうなずきあった。

 

 

「殿下!かっこいいです!強い!賢い!お優しい!!」

「何?」

突然褒め始めた私に、殿下がびっくりして目を丸くした。

「寛大!公明正大!人を見る目がある!理想の主!」

「ま、待て」

同じくスピネルが褒め始めた。殿下が動揺して後ずさる。

「聡明!冷静!誠実!容姿端麗!運動神経抜群!」

「待ってくれ…!」

 

 

私とスピネルによる殿下褒めちぎり大会は、耳まで真っ赤になった殿下が「もう勘弁してくれ…俺の負けだ…」と言うまで続けられた。

もちろん勝者は私である。殿下を褒める語彙ならいくらでもある。

もはやエイプリルフールは関係なくなっていたが、楽しかったからまあいいか。




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