世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

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第86話 武芸大会・1

晴れ渡った青空の下、ファンファーレの音と魔術によって打ち上げられた数発の花火と共に、武芸大会は開幕した。

例年は計3日間の開催だったが、今年はタッグ部門が増え4日間の開催だ。その分夏休みが短くなるらしいが。

1~3日目に各部門の1回戦から準決勝までが行われ、4日目に決勝及び3位決定戦、そして全部門の表彰式が行われる。

開会式は校長の挨拶と生徒会長の選手宣誓だけだ。校長もさすがに空気を読んで短めの挨拶だったのですぐに終わった。

 

観客席には既にぎっしりと人が入っている。学院の生徒、出場者の親や親戚以外にも、たくさんの貴族が観戦に来ている。

これは武芸大会が単なる娯楽として楽しめるだけでなく、自領の騎士や魔術師のスカウトも兼ねた場だからだ。近年は魔獣被害も増えているし、優秀な兵の増員はどこの領も必須だろう。

貴族の男子は嫡男以外はどこかに就職するのが普通なので、出場者には就職先を探している者も多く、武芸大会は各貴族家への絶好のアピール機会となっている。

この時期ともなれば有力な3年生はたいてい既に進路が決まっているので、そういう意味では2年生が一番の狙い目だ。貴族側も生徒側も真剣である。

ちなみに、一番後ろには平民のための観客席もある。こちらは完全に娯楽目的だ。学院の許可を得て軽食や飲み物を売り歩いている者もいる。

 

 

最初はタッグ部門の1回戦だ。

私は開会式が終わってすぐに出場者用の控室へ行って、先輩と二人で試合用に防護魔術の掛けられたローブと騎士服に着替えた。

トーナメントの組み合わせは数日前に発表されていたが、1試合目はなんと私たちとエンスタットの組との試合だったのだ。

先輩は「記念すべき1試合目が僕たちだなんて名誉なことじゃないか!」と笑っていたが、私としては青くなるしかない。

正直またかと思う。もう少しゆっくり心の準備ができる順番が良かった…。

エンスタットに私自ら引導を渡せるのは良かったが。

 

組み合わせ表によると、フロライア様とビスマスの組は私とは離れた位置だった。

順調に勝ち進めば、彼女たちは準決勝で殿下とスピネルの組と当たる。そして勝った方と私たちの組が決勝で戦う事になる。もちろん、私たちもまた決勝まで駒を進められればの話だが。

今回ばかりは私も、目立ちたくないなどとは言わない。殿下のために、私自身が後悔しないために、やれる事は全部やる。きっちりと勝ちに行くつもりだ。

もちろん、スフェン先輩のためにもだ。先輩は今回の大会にかなりの思いをかけている。

 

 

 

《…いよいよ始まります、今年より新設されました未知の部門!武芸大会初、2対2での戦いとなるタッグ部門の開幕です!!》

拡声魔術を使った声が控室の中にまで聞こえる。

《こちらの部門は2人1組でのエントリーとなり、その組み合わせは学年・性別・課程を問わず完全に自由!騎士同士でも、魔術師同士でも、騎士と魔術師でも可能!そして試合は、2人共に戦闘不能と審判が判断するか、敗北を宣言する事で勝敗が決着します!!》

やや興奮した口調で簡潔にルールが説明されていく。

《ルールは基本的に騎士部門に準じますが、持ち込みできる武器は種類自由、1人1つまでとなっております。剣などは刃引きをしたものが使われますが、念のため闘技場には流血・殺傷防止の結界が張られております!!》

騎士部門では使用できる武器は剣のみなのだが、それだと魔術師が杖を持ち込めなくなる。戦術の幅を広げる意味でも、こちらは事前に審査して通ったものならば種類自由というルールになった。

ちなみにめったに使う者はいないが、双剣のように二本で一対となる武器などは1つとしてカウントされるらしい。

その他魔導具や薬物などの持ち込みや一部の魔術の使用も禁止だったりするが、そのあたりの細かい説明は割愛された。

 

《実況は私、3年生騎士課程のヒューム・ブラウンが担当いたします!解説はこの方、王宮近衛騎士団のレグランド・ブーランジェ氏にお越しいただきました!!》

《どうも、こんにちは》

えっ、レグランドと言えばスピネルとカーネリア様の兄ではないか。

城の騎士や魔術師が解説に呼ばれるのは毎年の事だが、まさかこの人が解説とは。

甲高い歓声が観客席から上がっているらしいのが聞こえる。どうも女性の観客が多い気がしたのはこれのせいか…?

しかし弟が出場すると分かっていて解説を引き受けたのだとすれば、少々意地が悪い。スピネルの嫌がる顔が目に浮かぶようだ。

 

《レグランド氏はこのタッグ部門をどうお考えですか?》

《とても興味深い部門だと思うよ。自チームや相手チームの組み合わせによって、それぞれ立てる戦術が変わってくる。単純な個人技だけではなく、敵への対応力や連携の高さも必要になってくるから、より実戦的な部門と言えるだろうね》

《なるほど…他の部門とは違った戦い方が期待できそうですね!》

二人の会話が途切れた所で、高らかに選手入場のラッパの音が鳴り響いた。

 

 

「東、騎士課程2年、スフェン・ゲータイト!魔術師課程1年、リナーリア・ジャローシス!」

審判に名前を呼ばれ、闘技場の中央に進み出ていく。

《こちらは本大会唯一、女性同士のタッグとなっております!しかし二人共、各課程で大変優秀な成績を修めているとのこと!その実力は侮れません!!》

観客席から想像以上に大きな応援の歓声が上がって少し驚く。

先輩ファンらしき女子の悲鳴のような声が目立つが、意外と男の声も混じっている。何やら盛り上がっているようだ。

「西、魔術師課程1年、エンスタット・スペサルティン!同じく魔術師課程1年、アダム・グロッシュラー!」

反対側からエンスタットの組が上がってきた。エンスタットはどうやら盾を持っているようだ。スフェン先輩対策だろうか。

1年生の男子生徒を中心に、こちらも結構応援の声が聞こえる。

「いけー!勇者ー!!」とか言ってるのもいる。絶対面白がってるやつだ。

 

《えー、このエンスタット選手、なんと対戦相手のリナーリア選手に求婚しているとのこと!試合に勝てば了承してもらえるんだそうです!そういう意味でも注目が集まりますね!!》

ばらすなよ。それに、正確には結婚を前提とした交際であって求婚ではない。

この話は既に全校生徒に知れ渡ってるらしいから、今更隠しても無駄なのかもしれないが。

《これは、ハラハラしながら勝負の行方を見守っている男も多いんじゃないかな?》

意味ありげな口調で言うレグランド。

アーゲンあたりの事を言ってるんだろうか?それともやっぱり、やたら怒っていたスピネルの事だろうか。本当にいい性格してるな…。

少し動揺してしまったが、何とか気持ちを落ち着かせる。試合に集中しなければ。

でも観戦に来ているはずのうちの両親や兄も、きっと顔面を引きつらせているだろうなあ…。

 

 

 

エンスタットたちとお互いに一礼をした後、それぞれが好きな位置についた。

タッグ部門では中央線よりも後ろならどの位置で始めても良い事になっているので、私はスフェン先輩の後方に位置取る。

エンスタット組はエンスタットが前、もう一人のアダムが後ろの位置だ。

「…始め!!」

審判の号令と共に、先輩が前に出た。

エンスタットもまた盾を構えて前に出る。先輩が振り下ろした剣を片手に持った盾で防ぎ、高い金属音が響いた。

その間に、アダムの方は大きめの魔術を放つ用意をしている。火魔術のようだ。

私は即座に風魔術の構成を広げる。

速度に勝る風魔術が、アダムが作り上げた巨大な炎を撃ち抜いた。

 

「うわっ…!」

火魔術が撃ち抜かれた衝撃で発生した爆風の煽りを受け、アダムが後ずさる。

スフェン先輩がエンスタットに向かって連続で剣を振るい、エンスタットも苦しげな表情で一歩下がった。

《アダム選手の火魔術の発動をリナーリア選手の風魔術が阻止!エンスタット選手は、盾でスフェン選手の剣を受けながら防御魔術を使いかけていたようですが…》

《恐らくエンスタット君が耐炎魔術を使い、そのエンスタット君ごとスフェンさんに火魔術を当てるつもりだったんだろうね。しかしリナーリアさんの風魔術の方が速かった。見てから撃ったんだとしたらすごい速さだね》

ヒュームとレグランドが解説をする。

 

相手が先輩を先に倒しに来た場合と私を倒しに来た場合、もしくは各個撃破に来た場合などでいくつか作戦を立てていたが、彼らの狙いはどうやら先輩の方だったようだ。

ならば、相手の狙いから外れている私がやる事は一つだ。

態勢を崩したアダムに、お返しとばかりに次々に火球を放っていく。

アダムは必死で防御魔術を使ったが、私の火力が彼の防御力を上回った。防御結界が破られ、火球が彼に炸裂する。

 

《おおっと、アダム選手派手に場外へ吹っ飛んだ!リングアウトにつき、戦闘不能です!》

エンスタットもまた、スフェン先輩の剣に追い詰められている。…これは時間の問題か。

「うおおっ!!」

だがエンスタットは大きく叫ぶと、腕を剣で切り裂かれるのも構わず前に踏み出した。

盾を叩きつけられそうになり、先輩がたまらずに後ろへ飛び退る。

すかさずエンスタットが叫んだ。

『炎よ!!』

《エンスタット選手、捨て身のシールドバッシュ!さらに火魔術を畳み掛けた!しかし…!》

先輩は紙一重で炎を避け、その剣を閃かせた。

斬撃と突きを組み合わせた素早い三連撃がエンスタットに叩き込まれる。

エンスタットは大きく仰け反り、そのまま倒れ込んだ。

 

 

「…エンスタット選手、戦闘不能!!これにより、スフェン・リナーリア組の勝利です!!」

審判によって勝利が告げられ、場内にわあっとかきゃあっとかが入り混じった大きな歓声が上がった。

エンスタットが前に踏み出した時は一瞬焦ったが、問題なく勝てたようだ。

先輩は倒れたエンスタットに歩み寄ると、その手を差し出し彼を助け起こす。

「素晴らしい気迫だったよ。特に、最後の盾と魔術を組み合わせた攻撃は意表を突かれた」

「ありがとうございます…」

賛辞に礼を言いながらも、エンスタットは無念そうだ。

私もまた、彼の方へと歩み寄る。

「先輩の言う通りです。貴方の戦術は、未熟かも知れませんが光るものがありました。それに、身体強化を使った騎士に対し盾だけで耐えたのは見事です。鍛え上げた筋肉の賜物です!」

「…!」

筋肉を褒められ、エンスタットの顔にさっと赤みが差す。

 

「良い勝負でした。貴方はきっと、強い魔術師になれますよ」

そう言いながら私が差し出した右手を、彼は真っ赤な顔で握り返した。

 

「あ…ありがたき幸せ!!我が筋肉女神よ…!!」

「…いえあの…それ、やめてもらえません…?」

私は笑みを引きつらせた。

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