世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

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第103話 城下へのお忍び(中)

到着したのは、レモン色に塗られた壁が特徴的な小綺麗なレストランだ。

商人など金を持った平民向けの店だろうか。家族で経営しているようで、小さいが雰囲気が良い。

レストランに行くとしてももっと大きく立派な店ばかりだったので、こういう店はあまり来た事がなくて新鮮だ。

ちゃんと予約をしてあるようで、すぐに奥のテーブルへと案内される。

 

「素敵なお店ですね」

「セムセイの紹介だ。俺も来るのは初めてだけどな、料理もデザートも美味いらしい」

スピネルが答える。

店内を見ると、若い男女のカップルが数組いる。どうやらデート用としても人気がある店のようだ。

セムセイもきっと婚約者を連れて来たんだろうな。

 

「貴方も女の子を連れて来れば良いでしょうに」

「お前自分の性別覚えてるか?」

「覚えてますよ!そういう意味じゃありません!!」

人が心配してやっているというのにこいつ…。

コーネルなどは「お嬢様が恋人を作ったら私も作ります」と言っていて困っているのだが、スピネルも殿下の従者として似たような事を考えていたりするんだろうか?

まあこいつならいつでも相手を見付けられるのかも知れないが。

でもあまり言ったら、また余計なお世話だと怒られそうなので口を噤むしかない。

 

「いいから料理を選べよ。料理名の前に赤い印がついてるのがおすすめ料理らしいぞ」

メニューを差し出され、私は唇を尖らせながらもそれを受け取った。

 

 

「ん、美味しいですね」

最初に出てきたアスパラの冷製スープを飲んで感心する。

ほんのりと甘いスープは丁寧に裏ごししてあるのだろう、とろりと滑らかで舌触りがいい。

やがてメインの料理が運ばれてきた。

私は川魚のムニエル、殿下は鶏肉の香草焼き、スピネルは牛肉の赤ワイン煮込みだ。

私の頼んだムニエルが本日のおすすめ料理らしい。

コースではなく、スープとサラダとメイン料理にパンを付けただけのシンプルなランチだが、私としてはあれこれ出て来るよりこのくらいの品数の方が食べやすくていい。

いちいち次の料理が出てくるのを待たなくていい分、時間もあまりかからないだろうし。

 

「こちらも美味い。セムセイが薦めただけはあるな」

香草焼きを食べながら殿下が呟く。セムセイはなかなかの美食家だからな。

「伊達に太っている訳じゃないんですね」

「お前結構容赦ない事言うな…」

「だ、だって事実じゃないですか。本人も気にしてなさそうですし」

「まあな。どうもあいつと婚約者は、お互いふくよかな方が好みらしい」

「それなら問題ありませんね」

セムセイも一応騎士なのだし、動きが鈍くなるほどに太れば問題だろうが、そうでないなら個性の範疇だろう。

 

デザートはプリンが一番おすすめだそうなのでそれを頼んだ。プリンはかなり好きなので嬉しい。

ミントの葉が添えられたプリンは卵の味が濃厚で、ほろ苦いカラメルがそれを引き締めている。

「とても美味しいです!」

「良かったな」

殿下とスピネルも同じものを食べ、和やかに昼食は終わった。

 

「味も雰囲気も良くてくつろげました。良いお店でしたね」

「ああ。また来たいな」

店を出た所で殿下と話す。

私はお腹いっぱいだが、殿下はまだまだ余裕がありそうだ。

そこにスピネルが「待たせたな」と言いながらやって来た。

「何でも、近くに地味だが面白い品を扱ってるアクセサリー屋があるらしい。行ってみようぜ」

若いウェイトレスと何やら話していると思ったら、それを聞いていたらしい。

そのまま歩き出したスピネルの後を追った。

 

 

 

「これは…魔導具屋?いえ、アクセサリー屋なんでしたっけ」

小さな店内を見回しながら呟く。

所狭しと並べられているのは首飾りやブレスレット、指輪などの装飾品。

大抵のものは護符(アミュレット)…つまり魔除けや防御といった守護の効果を持つ魔法陣が描き込まれた品に見えるが、何の効果もないただのアクセサリーもそれなりの数が並んでいるので、護符の専門店という訳でもなさそうだ。

 

「当店では既製の護符の他に、お客様のご要望に合わせた様々な護符をアクセサリーとして作成して販売しております」

奥から出てきたのは妖艶な雰囲気の女魔術師だった。

艷やかな長い黒髪に黒いローブで、唇は赤い。

30代くらいに見えるが、もっと若そうにも逆に年を取っているようにも見える。年齢不詳というやつだろうか。

 

「一般的にオーダーメイドの護符と言えば、デザインから魔法陣まで全て特注の品になります。しかし当店では既製のアクセサリーと魔法陣を選んで組み合わせる事で、お手頃な価格かつ短い納期でお作りする事ができるのです」

「ははあ…なるほど」

「なかなか面白い売り方だな」

既製品とオーダーメイド品の中間みたいな感じか。

たくさんのアクセサリーと、それぞれの魔法効果があるいくつもの魔法陣のうちから一つずつ選んで組み合わせ、何十何百通りもの護符が出来上がるのだ。

殿下やスピネルも興味深そうにしている。

料金表を見ると、既製品よりは高価だが魔導師にオーダーメイドで頼むよりもはるかに安そうだ。

 

並んでいるアクセサリーはどれも、デザインだったり使われてる石だったりが魔法陣を描き込みやすそうなものばかりだ。

「わりとシンプルなデザインが多いですね」

「ベースとなるアクセサリーは私の夫がデザインと制作を行っております。華美にし過ぎない事で、幅広いお客様が手に取りやすい物になっております」

女魔術師の言う通り、老若男女問わずに使えそうなデザインが多い。

女性が使うには少々あっさりとしている印象だが、コーネルはむしろこういう感じの方が好きそうな気がする。

 

 

それらのアクセサリーを眺めていると、一つのネックレスが目に留まった。

銀の台座にはめ込まれた雫型の薄青の石が銀鎖にぶら下がっている。

透き通ったこの石の奥、台座の部分に魔法陣を描くことで、石を覗き込むと魔法陣が見える仕様になるようだ。魔法陣自体をデザインとして取り込んだ作りなのだろう。

殿下が近寄ってきて、私の視線の先へと目を落とす。

「薄青と銀か。透かすと君の髪のような色になるな」

「そう言えばコーネルは、よく私の髪を好きだと言ってくれます」

青みがかった銀というこの珍しい髪色が、コーネルはいたく気に入ってるようなのだ。手触りも良いとかで、いつも丁寧に手入れをしてくれている。

「なら、これはきっと喜ぶだろう」

「そうかも知れません」

少し照れくさいが、悪くなさそうだ。値段も高くないし。

 

「…あの、このネックレス…魔法陣を描く前の、このままの状態で売っていただく事はできますか?」

ふと思い付き、女魔術師に尋ねる。

「身分証明をお持ちの魔術師の方にはお売り出来ますが…お客様ご自身が魔法陣を描き込まれるのですか?」

「はい。私は魔術学院の生徒です」

下げているポシェットから生徒手帳を取り出す。持ってきておいてよかった。

 

「お前が自分で作るのか」

目を丸くするスピネルに、私はうなずいた。

「本格的な魔導具は難しいですが、護符くらいならできます。最近練習していましたし」

護符を自分で作れると便利だからな。

剣の鞘だとか杖だとかローブだとか、そういうものに魔法陣を描き込み護符とするのだ。小さいものに描き込みたい時は、別紙に描いた魔法陣を小さく描き写す魔術を使う事になる。

本職ではないので魔法陣の耐久性は少し下がるが、効果が切れたらまた自分で描いたり魔力を込めればいい。

素材との相性もあるので描き込めるものは限られるのだが、この護符用に作られたネックレスをベースにすれば、装飾品としても実用品としても使える護符を作れるだろう。

 

 

女魔術師は私の生徒手帳を受け取るとパラパラとめくり、それから最後のページを開いて手を止めた。

「まあ…王宮魔術師の…セナルモント様のお弟子様でいらっしゃるのですね」

そこには王宮魔術師団の印が押してあり、セナルモント先生のサインもしてある。

王宮魔術師の弟子というのは何かと便利な立場なので、すぐ証明できるようにと書いてもらったものだ。

「先生をご存知なのですか?」

「ええ。昔、少しだけ」

女魔術師は妖艶に微笑んだ。

へええ…。こんな美女と知り合いなんて意外だ。でも、魔術師の世界は結構狭いからな。

 

「王宮魔術師のお弟子様なら問題ございません。お好きにご購入いただけます」

「ありがとうございます!」

私は嬉しくなってにっこり笑った。殿下とスピネル、それから入口近くにいるテノーレンも微笑ましげに笑う。

「では、これをお願いします」

「分かりました。包装は簡易なものでよろしいですか?」

「はい」

「魔法陣を描き込む際の注意点などを書いた紙を同封しておきます。ご参考になさって下さい」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 

 

女魔術師が銀のネックレスを包むのを待ちながら、カウンターの周りを見る。

そこにはいくつかの籠が置かれ、様々な色の石で作られたビーズやペンダントトップなどが入れられていた。鎖や革紐などもある。

「あの、これは?」

「アクセサリーや護符を一から手作りしたいという方のために、当店で仕入れた材料の一部を販売しております」

「へえ…」

これを使えば、ネックレスやブレスレット以外にも色々な物を作れそうだな。

緑、赤、青。色とりどりの石をいくつか手に取る。

「これも一緒にお願いします」

 

 

「お二人共、ありがとうございました!とても良いプレゼントが買えました」

店を出た私は、殿下とスピネルに礼を言った。これならきっと皆に喜んでもらえると思う。

「納得の行く物が選べたようで良かった」

「時間かけた甲斐があったな。しかしあんな美人と知り合いとは、お前の師匠も意外と隅に置けないな」

「言っておきますがセナルモント先生は既婚者ですよ?」

「えっ。あれでか」

「あれでです」

驚く気持ちは分からんでもない。いっつもボサボサ頭だしなあ。

先生はかなりのくせ毛なので、奥さんもお手上げらしいが。

 

それからスピネルは「これからどうする?」と尋ねてきた。

「まだ時間はあるが、他に何か欲しいもんあるか?」

「いえ、特には」

「じゃあちょっとぶらぶらするか。広場の方に行けば出店もあるしな」

天気のいい休日には、広場に軽食の屋台や花売りのワゴンなどが来ているはずだ。

商店街からは歩いてすぐなので、そちらに向かうことにした。

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