世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

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第115話 勧誘

翌日の昼休み、殿下と私は生徒会長のトルトベイトと待ち合わせをしていた。

「やあ、お待たせ!それじゃ、早速ミメット君の所に行こうか」

「はい」

トルトベイトの後について、生徒たちがいる食堂へと向かう。

彼は生徒会長として役員の勧誘に行くのは初めてだからか、妙にやる気に溢れているようだが大丈夫だろうか…。

ちょっと心配になってしまう。

 

食堂に入ってすぐの場所から見回すと、端の方に座っているミメットの後ろ姿を見付けた。

向かいに座っている三つ編みに眼鏡姿のご令嬢は、いつも連れているレヴィナ嬢だ。

「あそこにいらっしゃいますよ」

「本当だ。よし、行こう」

 

 

「やあこんにちは、ミメット君。話すのは初めてかな?僕は3年で生徒会長のトルトベイトだ」

「…こんにちは」

明るく話しかけるトルトベイトに、ミメットはごく小さな声で返事を返す。

「単刀直入に言うが、実は、学院の先生方から君を生徒会役員にという推薦が来ているんだ。どうだろう、うちの生徒会に入ってくれないだろうか?」

ミメットは間髪入れずに返答した。

「いやですの」

 

「……。えっ?」

たっぷり5秒ほどの沈黙の後、トルトベイトは聞き返した。

「ご、ごめん、今なんて?」

「い、や。いやですの」

「……」

言葉を失ったトルトベイトに、ミメットの向かいのレヴィナ嬢が慌てる。

「ちょ、ちょっとミメット様!断ったらだめですよ!」

「レヴィナは黙ってて」

「でも…」

 

 

…やっぱりな、と私は内心でため息をつく。

しかしショックを受けているトルトベイトは気の毒だ。

生徒会入りを断る生徒なんて普通はいない。この返答は完全に予想外だったのだろう。

どんなにやる気がなくとも、表面上は承諾して見せるのが当たり前なのだ。

 

「ミメット」

固まっているトルトベイトに代わり、今度は殿下が話しかけた。

「せっかくの推薦だ。君にとっても悪い話ではない。引き受けてはくれないだろうか」

「いやですの」

「えっっ!?」

やはり即答したミメットにトルトベイトが仰天し、レヴィナ嬢が更に慌てる。

「み、ミメット様!相手は王子殿下ですよ!?」

「だったら何なの。嫌と言ったら嫌」

「だめですよ!まずいです!お父君や公爵様が何とおっしゃるか…!」

レヴィナ嬢は声をひそめているつもりのようだが、あまり声量を抑えられていないので会話がこちらへ筒抜けである。

 

 

「ミメット様。殿下の言う通り、これは悪い話ではありませんよ。生徒会に入れば実績が付きますし、勉強にもなります」

私もまたミメットの勧誘にかかる。

「そ、そうだよ。生徒会入りは名誉なことだし、成績だって加点される。きっと将来のためになるよ」

復活したらしいトルトベイトが口添えするが、ミメットはまたもや即答した。

「私は成績なんてどうでもいいもの」

 

うーむ、取り付く島もないとはこの事だ。

しかし彼女と会話がしたければ、この程度でめげてはいけないのだ。辛抱強く話しかけなければいけない。

「…生徒会は、きっと想像しているよりも楽しい場所ですよ。行事の準備などで忙しい時もありますが、皆で力を合わせて成功させた時に得られる達成感や充実感は、とても素晴らしいものです」

それを聞いたミメットは、私を睨みつけた。

「貴女が楽しいのはもっと違う理由ではないの?」

「え?」

どういう意味だろうかと首を傾げる。

 

「貴女が楽しいのは殿下とイチャイチャできるからでしょう。…私は貴女とは違うの。殿下に興味なんかないし、嫌なの」

「は!?」

私はびっくりして声を上げてしまった。

「私だって殿下とイチャイチャしたくなんかありません!嫌です!!」

「言い方!!!!」

トルトベイトが叫ぶ。

「つまりあれだよね、リナーリア君は、生徒会はそんな不純な場所ではないと言いたいんだよね!?」

「?はい。もちろんそうです」

「…そ、そうだ。生徒会はそんな場所ではない」

殿下もうなずいた。当然だ。

 

 

ミメットは私達のやり取りを見て少しの間目を丸くしていたが、我に返るとふんと顔を背けた。

「…とにかく、私は生徒会なんか入らないの!」

そう言って、食べかけの昼食を置いて食堂を出て行ってしまった。

「ミメット様!」

レヴィナ嬢が立ち上がる。それから慌ててこちらを振り返り、頭を下げた。

「…申し訳ありません、皆様。失礼いたします…!」

 

食堂を出ていくミメットと、その後を追うレヴィナ嬢の後ろ姿を、私たちは黙って見送った。

ここで呼び止め食い下がったところで、どうにもならないだろう。

「……」

無言で顔を見合わせ、揃って肩を落とすしかなかった。

 

 

 

それから、今後のことを相談するためにそのままトルトベイトや殿下と昼食を取ることになった。

「はあ…参ったなあ。まさか断られるとは…」

トルトベイトはがっくりと落胆している。最初の勧誘がこんな事になってしまった彼は、やはり気の毒だ。

私は一応「そうですね…」と同意したが、こうなる事は予想していたので驚きはない。

前世でもミメットにはさんざん断られたからだ。

その時は私以外にもさまざまな生徒会役員が入れ替わり彼女の所に行ったのだが、全員がその場で断られてしまった。

そこで殿下が「リナライトが適任だと思う」と言ったので、結局私一人で説得を続ける事になったのだ。

承諾してもらうまで、何度も彼女の所に通う羽目になった。

 

 

トルトベイトが目の前のステーキをつつきながら呟く。

「…生徒からの推薦なら辞退でもいいんだけど、彼女は教師推薦なんだよねえ…」

「ええ…」

本人の意志に関わらず、彼女の生徒会入りは既に決定事項になっている。

こちらで勝手に手続きをして、在籍している事にしてしまうという手もあるが…。それは最後の手段だろう。

私の隣で同じくステーキを食べている殿下も、困った様子だ。

「何とか説得をしたいが…どうも俺は彼女に嫌われているようだ」

そんな事はないと言いたかったが、さすがに言えなかった。

彼女は親の言う通りに王妃を目指すのが嫌なだけで、決して殿下個人が嫌いな訳ではないと思うのだが、友好的でない事も確かなのだ。

 

「…大丈夫です。私に任せてください」

私は力を込めて言った。

元々そうするつもりだったのだ。何とか少しでも彼女の心に近付くために。

「彼女は少し人と接するのが苦手ですが、根は真面目な方だと思います。生徒会役員として、ちゃんとやっていける能力を持っているはずです」

そう、ミメットはあれで意外に律儀な性格なのだ。前世でも嫌がりつつちゃんと生徒会に通っていたし、活動にも参加していた。

その働きぶりは堅実で、頼まれた仕事を投げ出すような事は一度もしなかった。

私が卒業する頃には他の役員とも少しだけ打ち解けていた。

生徒会入りは、間違いなく彼女のためになると思うのだ。

 

 

「ミメット様が引き受けて下さるよう、説得を続けてみます。ミメット様はレヴィナ様とは親しいので、彼女にも協力を頼んでみるつもりです」

「リナーリア君…!」

トルトベイトが感動の面持ちになって私を見た。

「ありがとう…!そんなに真面目に彼女を勧誘するつもりだったなんて…疑ったりしてすまなかった…」

「疑った?」

「いや、何でもないから気にしないでくれ。君だけが頼りだ。僕にできる事なら何でも協力するから、頑張って彼女を説得して欲しい」

「はい!」

 

「俺も、いつでも協力しよう」

殿下はそう言って、私の顔を見た。

「君なら大丈夫だ。…君の誠意はきっと、彼女に届く」

 

…殿下は私を信頼してくれている。

嬉しい。

殿下が信じてくれるだけで、無限にやる気が湧いてくる気がする。

「ありがとうございます!頑張ります!」

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