世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

154 / 292
第122話 貴重な素材(前)

翌日の始業前、私はミメットの事を報告するために会長のトルトベイトに会いに行った。

3年生の教室の近くまで行くと、トルトベイトは廊下で同じ生徒会メンバーである男子生徒と話している所だった。

ちょうど良いと近付いた私に気付き、二人とも「やあ、おはよう」と手を上げる。

「どうだい、進捗は?」

「はい!ミメット様には、無事に生徒会入りを承諾していただきました」

笑顔で報告した私に、二人が揃って「えっ」と目を丸くする。

 

「本当か?彼女、ようやく入ってくれる気になったのか」

「ありがとう、リナーリア君!!いやあ良かった、一時はどうなることかと…お疲れ様、本当に助かったよ」

二人は安心した様子で私の事を労ってくれた。かなり手間取っていたから、心配されていたらしい。

 

「明日は生徒会がある日なので、私が彼女を生徒会室に連れて行きます。役員の皆さんへの挨拶はその時に。それと、しばらくは私が彼女に付いて仕事を教えようかと思ってます」

「え、彼女ちゃんと来るのかい?」

「役員として活動する気があるのか?在籍するだけじゃなくて?」

「はい。もちろんです」

私がうなずくと、二人は驚いた顔になった。

二人共、仮にミメットが生徒会入りを承諾したとしても、活動に参加する気はないだろうと思っていたらしい。

 

「…ちゃんと参加してくれるなら、それに越した事はないな。人数は多い方がいいし」

「でも、大丈夫かな?君はともかく、他のメンバーと上手くやっていけるだろうか」

少し心配げにトルトベイトが言う。まあ、今までのミメットの態度を見ていたらそう思うのも仕方ない。

「大丈夫です。最初は人見知りをするかも知れませんが、そのうち馴染んでいけると思います。少し意地っ張りな所はありますが、彼女、ツンデレなだけですから」

「…ツンデレ?」

トルトベイトと男子生徒は顔を見合わせた。

 

 

「…そっか!ツンデレなら仕方ない。…うん!ありだね!あり!」

何やらうんうんと深くうなずいたトルトベイトに、男子生徒が懐疑的な視線を向ける。

「ありなのか…?」

「いやあ、ありでしょ。そっかあ、ツンデレだったんだ、あれ」

「勧誘を断られた時は、あんなに落ち込んでたじゃないか」

「あの時はね!でも今となってはご褒美に思えてきたよ!」

「ええー…」

男子生徒は少し引いている。

どうやらトルトベイトはツンデレに理解があるようだが…ご褒美ってなんだ?

 

「まあ何にせよ、承諾してくれて良かったよ。皆でなるべく仲良くやっていこう!明日はよろしくね」

「はい」

トルトベイトは上機嫌みたいだ。

会長の彼が積極的にミメットを受け入れるなら、他のメンバーもきっとそれに倣ってくれるだろう。少し安心する。

「では、どうぞよろしくお願いします」

そう言って私は二人に頭を下げ、その場を辞去した。早く教室に戻らなければ授業が始まってしまう。

後ろから「ツンデレ…ツンデレかあ…」という声が聞こえてきたが、あまり気にしないでおこう。

 

 

 

それから、放課後。

まっすぐ寮へと戻った私は、机に向かって紙を広げていた。

紙に書かれているのはさまざまな魔法陣のアイディアだ。ここ数日ずっと取り組んでいる。

スピネルに作るよう言われた自分用の護符だが、あの後、部屋で考えていて思い出した。

確かに私は、滅多に手に入らないような貴重な素材を持っている。

 

今日はあまり風がなかったせいか、部屋の中は少し熱気がこもっている。

もう9月も半ばなのにまだ暑いなと思いながら、机の上の小瓶を手に取った。

中に入っているのは、時折赤く輝く小さな黒い破片だ。

 

これは3年前、私が古代神話王国のものらしき遺跡に迷い込んだ時、ポケットに入れたままうっかり持って帰ってきてしまったものだ。

恐らくは、『流星(ミーティオ)』と呼ばれていた竜の鱗の破片。

あの時はこれを手に持つとほんのり温かく感じたのだが、今はその温かさは無くなってしまっている。しかし、光に当てると赤くきらめく美しさは相変わらずだ。

 

あの遺跡にあった本や記録によると、当時の人々は竜の身体の一部を何らかの道具や素材として使うための研究をしていた。

だから私もこの破片を護符の素材にできないだろうかと考え、色々試してみたのだが…。

今の所、驚くべき結果が出ている。

…この鱗の破片は、私の魔力との相性が物凄く良いのだ。

 

 

人の魔力にはそれぞれ波長のようなものがある。

この波長のわずかな差により、人それぞれ相性の良い素材が存在する。

護符に最もよく使われるのは石や金属などの鉱物だが、木材だとか、動物の骨、角、革なども一般的だ。

ただし生き物を元にした素材は、鉱物素材に比べ相性の差が激しいという特徴がある。

 

相性の良い素材を護符の材料にすると、自分の魔力を通しやすいために魔法陣を描き込みやすい。逆に相性の悪い素材を使うと描き込みにくく、描けても歪んでしまったりする。

魔術師の中には、牛革にはどんな複雑な魔法陣でも容易に描き込めるのに、馬革とは相性が悪くてまるで描き込めない…なんて人も存在したりする。

それだけ魔力相性は繊細だ。

唯一の例外が魔石で、これだけはどんな人間でも容易に魔力を通すことができる。だから魔石は貴重なものなのだ。

 

ちなみにこの魔力相性というのは、魔力を持つ人間同士の間にも存在する。

魔力相性が良い相手とは精神的にも肉体的にも相性が良く、惹かれ合いやすいのだそうだ。

男女の場合は子供を作った際に高魔力者が生まれやすいと言い、そのため、結婚相手はなるべく相性が良い者を選んだ方がいいとされている。

 

 

…それはさておき、素材に対する魔力相性の確認は、その素材に魔力を送り込んで反応を見るのが一般的だ。

しかし、遺跡で手に入れた鱗の破片はこれ一つしかなく替えがきかない。

迂闊に魔力を送り込んで何かおかしな反応でも起こしたら困るので、私はまず破片を慎重に削って作った少量の粉で試してみた。

すると、僅かな量だというのに非常に強く私の魔力に反応したのだ。

ぼんやりと光ったり熱を発するなど、何らかの変化を起こすのは相性が良い素材である証拠だが、眩しいくらいに光るしすごく熱い。

魔術師としてそれなりに色々な素材に触れてきているが、こんなに相性が良いものは初めてだ。

特に火魔術の系統への適合性が高そうなのは、さすが竜と言った所だろうか。

 

これを使えばかなり複雑な魔法陣を複数描き込む事もできそうだ。

始めは少し試してみるだけのつもりだったが、今は正直かなりわくわくしている。

どういう魔法陣を描こうかな。

魔法陣もまた素材との相性で効果が強まったり弱まったりするので、どれが良いか慎重に確かめてから描き込まなければ…。

 

 

考え込みながら破片を眺めていると、後ろからコーネルに声をかけられた。

「…お嬢様、用意ができました」

「あ、ありがとうございます」

小瓶を持ったまま机から立ち上がり、テーブルへ移動した。

今日はブルーベリーの砂糖漬けを買ってきてあるとコーネルが言うので、果実水にして二人で飲もうと用意をしてもらっていたのだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。