世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

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第12話 晩餐

やがて晩餐の時間になった。食堂に並ぶのは使用人や御者を除いた殿下御一行と我が家族である。

「ほう、殿下はパイロープ公爵領を通ってこられたのですか」

殿下の話を聞き、そう相槌を打ったのはお父様だ。

「ああ。天気が良くてよかった」

道中に王子の身を狙う不届き者が現れないよう、視察の道筋は事前には伏せられている。道中にある各貴族家に来るのは「だいたいこのあたりの日にちに行きますよ」という通達だけだ。

調べようと思えば調べられるが、そんな事をするのは王家に喧嘩を売るのも同然なのでおおっぴらにやる者はいない。

こっそり調べて他の貴族の様子を探り、「うちが一番凄い歓待をするんじゃい!」とかやる貴族もやっぱりいるのだが。

 

「パイロープ公爵領はずいぶんと豊かでしたでしょう」

「そうだな。とにかく農地が広い。しかし種蒔きはしっかり終わっていた。農具が領民に行き渡っているようだ」

「あそこは優れた魔導師が多いですからな」

物体に魔術効果を定着させる術、魔導術を得意とするのが魔導師だ。豊かな領にはこの魔導師が多い。

魔導術があればさまざまな便利な魔導具を作り出すことができる。わずかな魔力で点灯できる明かりだとか、遠くに声を届ける道具だとか、少量の湯を沸かす石だとか。

領を魔獣から守るために最も重要なのは騎士、そして魔術師だが、魔導師が多いという事はそれだけ財政に余裕があるという事だ。

畑を耕す魔導具があれば、スムーズに種まきを終わらせることができるし、耕作できる面積も広がる。それによってまた豊かになるという循環なのだ。

 

「しかし、その後通ったサーピエリ侯爵領では秋だというのに刈り取った後の畑があって少し驚いた」

「なんと。種蒔きをしないのですかな」

「サーピエリ侯爵領では今、春蒔き小麦を試しているのですよ、お父様」

思わず口を挟んでしまい、お父様が「そうなのか」と目を丸くした。

サーピエリ領はうちの領から近いのでそれくらい知っておいて欲しい…。

この父は魔術師としてはとても優秀なのだが、それ以外は色々と残念な部分が多い。領の事に関しても、基本部下に丸投げである。

「まだ今年始めたばかりで、試験段階のようですが。普通の冬小麦が不作の時でも収穫できる可能性があるとかで、他にもいくつかの領が試しているようです」

そう補足したのはラズライトお兄様だ。

しまった、ここは余計な口を挟まず跡取りである兄に花を持たせるべきだったか…とちらりとお兄様を見ると、「大丈夫だよ」というように微笑んでくれた。優しい。

 

「ラズライトもリナーリアも、他の領のことまでよく勉強しているな」

「ありがとうございます」

殿下に褒められ、兄と二人頭を下げにっこり笑う。

殿下も出会った頃に比べ他の人との会話がずいぶんお上手になりましたね…!前は「うむ」がせいぜいだったのに。

「自慢の子供たちなのですよ。私は魔術しかできませんが、子供たちは他のことも優秀で」

お父様が本当に自慢気に言ってくれるのも嬉しい。

 

「殿下は、剣術に大変素晴らしい才能をお持ちと聞いていますが」

お母様も子供達を褒められ嬉しそうだが、そつなく殿下を褒める方向へと話題を変えた。

「皆そう言って褒めてくれるが、まだまだだ。スピネルにはとても敵わない」

殿下の視線を受け、隣のスピネルが軽く頭を下げる。

「ありがたきお言葉。しかしそれは、まだ殿下が成長途中だからです。いずれ私など超えてしまうでしょう」

「なんと。かの高名な騎士家、ブーランジェ公爵家の子息が言うのならば間違いありますまい」

「だといいのだがな」

殿下は苦笑するが、スピネルの言う通り将来殿下が素晴らしい剣士になる事を私は知っている。

スピネルに敵わないのはまだ年の差を埋められていないからだ。スピネルは2歳上だし、同年齢の少年と比べても長身なので殿下よりもだいぶ大きい。

まだ13歳である今、体格面でも技術面でも2年の差は大きすぎる。

 

「無論、私も殿下に追いつかれないように修練を重ねるつもりです。そう簡単に負けるつもりはありませんから」

少し冗談めかして言うスピネルに、お父様が感心した様子でうなずく。

「なるほど。お二人は主従であると同時に、良き好敵手なのですな」

殿下とスピネルは顔を見合わせると少し笑った。その通りだと言うように。

晩餐会は和やかな空気の中進んでいく。

 

…好敵手。そんな王子と従者の関係もあるのか…。

少し衝撃を受けている自分がいた。

そんな事は考えてもみなかった。従者は王子の臣下にして友人、それでいいと思っていたからだ。

リナライトとスピネルは違うのだから、殿下との関係が違うのも当然なのだろうが。

なぜか、私は二人がどこか遠くなってしまったような気がしていた。

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