世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

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第144話 待っていた人々(前)

 少し気まずい空気を飲み込み、私たちは王都に戻る事になった。

 出発前、拘束されたフェルグソンたちが護送用の馬車に押し込められる所を見たが、フェルグソンはみっともなく喚き散らし周りの者に罵倒を浴びせていて、見るに堪えない有様だった。

 ゲルマンはただ無表情で、フランケはフェルグソンの罵声を聞きながら唇を噛んでいるようだった。

 

 スタナムに聞いたのだが、フランケはフェルグソンが第一王子だった頃の従者だったのだそうだ。フェルグソンが王位継承権を失ってからは、部下として直轄領の騎士団をまとめていたらしい。

 フェルグソンに対し忠実な態度を崩さなかったフランケの姿を思い出し、一瞬複雑な気分になったが、主が間違った道に進もうとした時にはそれを止めるのも臣下の務めなのだ。

 フェルグソンを止められなかったフランケには同情など一切できないし、する必要もない。

 

 

 王都に到着すると、城で待っていた両親は泣きながら私を出迎えてくれた。

 お父様は「良かった…本当に良かった…」とひたすら繰り返し、お母様は言葉も出ないほど泣いていた。

 コーネルもぼろぼろ泣いていたし、ヴォルツも目を真っ赤にしていた。この二人は、事件当日私と一緒に登城していた事もあり、両親と共に城に来て待っていてくれたのだ。

 

 私は必死で泣くのを我慢したが、両親のやつれた顔を見たら堪えきれずに泣いてしまった。

 両親は私の無事が分かるまで、食事がろくに喉を通らなかったようだ。火竜山の遺跡事件の時は半日で戻って来られたが、今回は2週間ほども行方が分からなかった。ずいぶんと気を揉んだ事だろう。急に老け込んでしまったように見えるその姿は、ひどく私の胸を衝いた。

 殿下や先生や騎士たちは、泣く私たちを温かい目で見守っていた。中にはもらい泣きしている者までいて、ちょっと恥ずかしかった。

 

 それからジャローシス屋敷へと戻ると、執事長のスミソニアンが待っていた。領地にいたはずだが、両親の供をして王都に来ていたらしい。

 スミソニアンは私の顔を見るなり物凄い勢いで号泣した。

 城で一度泣いたおかげで既に気持ちが落ち着いていた私は、その勢いに思わず引いてしまったのだが、スミソニアンは心底から私を案じてくれていたのだ。引いたりしてはいけない。

 両親やコーネルたちと一緒に必死に声をかけ、何とか宥めた。

 

 

 

 その後数日、私は主に屋敷の中で過ごした。

 できればすぐにでも学院に復帰したかったのだが、王宮側から「事件の報告がある程度まとまるまで少し待って欲しい」と言われていたからだ。

 私もまた幽閉生活の間に結構やつれてしまっていたらしく、両親がとにかく心配したのもある。

 医術師にも若干衰弱気味だと診断されたので、栄養のあるものを食べてはコーネルやヴォルツと共に軽い運動をして、なるべく体力が戻るようにした。

 

 ちなみにその間屋敷には、城の騎士や魔術師が数名、警護のために常駐していた。

 オットレの行方が分かるまではしばらく、私の外出の際にはこのような護衛が城から派遣される事になるようだ。少々窮屈だが仕方ない。

 

 

 王宮には一度呼ばれ、スピネルと共に事件当日の状況などについて改めて証言したりもした。

 その際に聞いた話によると、直轄領ではここ数年、抱える兵の数を増やし続けていたらしい。増加傾向にある魔獣被害に対応するためという名目ではあるが、人口や面積に対して少々多い数の兵をだ。

 しかも王都に対し、実数よりも少なく申告していたようだという。

 

 また、フェルグソンは謹慎中のブーランジェ公爵に接触していた。

 スピネルがそう仕向けたからだろうが、見舞いの品として高級酒や燻製肉などが届けられたという。使者として屋敷に来た騎士は、領の財政や鉱山などについて探りを入れてきた、とも公爵は証言したらしい。

 その他、新年の祝いの品としてあちこちの領へ贈り物をしたり、複数の貴族に接触していたという。その中には、フェルグソンに協力を約束した者もいたようだ。

 

 これらの活動の財源がどこから出ていたのか気になったので尋ねてみたところ、主にフェルグソンの私財だったらしい。

 フェルグソンは20年近く前からハウスマンという大商人と懇意にしていた。

 6年ほど前に病害で小麦が不作だった際、この商人の助言によってトウモロコシ取引でかなりの利益を得た。その利益を預け運用させて、さらに多くの財貨を貯め込んでいたという。

 しかし、オレラシア城の維持費や人件費などについて虚偽の申請をし着服していた疑惑もあるそうなので、そちらの方面でも罪状が増えそうだ。

 

 

 そうやって事件の報告がまとめられるのを待つ間も、親しい貴族相手の面会は自由だったので、アーゲン、スフェン先輩、カーネリア様、ブロシャン家の三兄弟などが私に会いに来た。

 皆、私の顔を見てとても安心したり、涙ぐんだりして無事を喜んでくれた。

 様々な見舞いの品を持ってきてくれたりもしたが、私にとって特に嬉しかったのは、彼らが冬休みに自領で過ごした間の話などだ。それらの他愛もない土産話を聞くと、久々に日常に戻った気分になれた。

 

 殿下によると、彼らや学院の友人たちは、行方不明になっていた私やスピネルに関する噂について否定したり消すように働きかけてくれていたらしい。

 アーゲンは「これで少しは恩を返せたかな」と言って笑っていたが、パイロープ家の影響力は大きいので、噂をする生徒に対してかなりの牽制になっていただろう。

 先輩やファンクラブの方々もずいぶん頑張ってくれたようだ。本当にありがたい。

 

 驚いたのは、あの人見知りで出不精なミメットまでもがうちの屋敷に見舞いにきた事だ。

「生徒会の仕事が滞ってるから、早く学院に出てきて欲しいの」などと言っていたが、横でレヴィナ嬢が半笑いになっていたので多分いつものツンデレなのだと思う。

 正直、凄く嬉しかった。

 

 

 

 そして昨日ついに、王宮から今回の事件に関する公式発表がなされた。

 王兄フェルグソンとその息子オットレの一味が城から王家の秘宝を盗み出した事。クーデターを目論みその準備をしていた事。私とスピネルがそれに巻き込まれ拉致されていた事。第一王子エスメラルドが自ら出陣し、フェルグソンの捕縛と秘宝及び人質の奪還に成功した事…などである。

 さらなる詳細については調査中だが、それも後日公表すると宣言された。

 この衝撃的なニュースは、瞬く間に王都中に広まったらしい。

 

 この公式発表では、スピネルは「拉致されそうになっていた私を守るため、秘宝を取り返すため、わざと捕まった」という話になっている。

 概ね間違っていないし、私としても文句はない。

 そして私は「犯人の顔を見てしまったために拉致されたが、クーデター実行の際の人質として利用するため、フェルグソンの元では手厚く遇されていた」という話になっている。

 さらに、「この両名は事件解決に多大な貢献があった」という一文も添えられていた。

 

 

 これらは、国王陛下の意向を反映した発表なのだそうだ。

 王兄によるクーデター計画など王家にとっては身内の恥とも言えるものだが、国王陛下はあえて公表するという選択をしたらしい。

 隠蔽するには話が広まりすぎているというのもあるが、主にスピネルや私を気遣っての事だ。

 

 スピネルに関しては、王子の従者として今まで真面目に勤めてきたそのキャリアに傷を付けたくないのだろう。彼は殿下にとって、今後の王国にとって必要な人材だ。

 私が「手厚く遇されていた」と表現されているのは、女性が囚われていたとなれば良からぬ想像をする者もいるので、それに対する抑えなのだろう。貴族令嬢として不名誉な噂が立たないようにという配慮だ。

 実際私は、手厚くとは言わずとも粗略には扱われていなかった。オットレのクソ野郎を除けばだが。

 

 国王陛下は「王家の体面よりも、未来ある若者を守るべきだ」と仰ったという。本当に立派な方だ。

 …ただ、こうして表沙汰にした事で、フェルグソンは極刑となる可能性が高くなった。ゲルマンやフランケなどは間違いなく極刑だろう。

 兄を断罪する事になる陛下の心中は、私などには推し量ることはできない。

 

 

 ともあれそのおかげで、私やスピネルに関するおかしな噂は一気に消えたようだ。

 完全にという訳にはいかないだろうが、王宮の公式発表に反するような噂を続けるのは王家を敵に回すのも同じだ。表立って口に出す者はもういないだろう。

 まあ噂が消えた一番の理由は、王兄によって王家の秘宝が盗まれたり、第一王子が自ら出陣し伯父であるフェルグソンを倒したというニュースの方が、よっぽど衝撃的で面白いからだろうが。

 しばらくは周囲が騒がしくなりそうだが、何とか解決して良かった。

 

 オットレの行方は未だに分かっていない。

 一人で逃げられる訳もないし、どこかに協力者がいるのは間違いない。

 この辺りについては、調査が進むのを待つしかないだろう。

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