世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

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第161話 女子ファッション会(前)

「だから!ファッションは、ただ個性を主張するものじゃないんです!!季節!場所!相手!そういうものを考慮し取り入れた上で、最大限に自分を輝かせるものなんです!!」

「嫌と言ったら嫌!!」

 

 喧々囂々と繰り広げられる言い争いに、私はただオロオロとしていた。

 信念に基づくファッション論を並べ立てるヴァレリー様に、頭からそれを否定して受け入れないミメットの口喧嘩は、ひたすらに平行線だった。

 横にいる店員も困り果てた様子だ。一応笑顔を貼り付けているのは大したものだが。

 

 

 ここは王都にある仕立て屋の店内。以前、殿下やスピネルと共に来た流行りの店だ。

 私は昨年、殿下から贈られたあの可愛らしい白いワンピースの話を、幾人かの親しい友人に聞かせていた。ぜひ見せてほしいと言われ、皆が私の部屋に集まってお披露目をしたりもした。

 ワンピースは非常に評判が良かった。とてもよく似合うと言われ、私も満更ではなかった。やはり殿下の見立ては素晴らしかった。

「殿下の趣味は分かりやすい」と皆口々に言っていたのが少し気になったが。

 

 実物の商品を見た事で、皆ますますその仕立て屋に興味津々のようだった。流れで、年明けあたりに皆で一緒に行ってみないかという話になった。

 春になれば王都は貴族がやって来て人が増える。その前のまだ空いているうちなら、注文から仕立てまできっとスムーズだ。暖かくなる頃には出来上がるだろうし、春向けの服を頼むのに良いんじゃないか…と言ったのはヴァレリー様で、私はとても感心した。

 服は必要になったり薦められた時に作るものであり、納期とはとにかく余裕を持って注文しておくもの、としか思っていなかったからだ。

 

 

 諸々の事件で少し遅くなったが、その話は私が学院に復帰した事でようやく実現した。

 メンバーは私、カーネリア様、ヴァレリー様、スフェン先輩、そしてミメットとレヴィナ嬢である。

 ミメットは最初私が誘った時にはすげなく断られたのだが、後でレヴィナ嬢から「任せてください。私が連れて行きます」と自信ありげに断言され、任せておいたら本当に来てびっくりした。

 だがどうやら「ごく少人数での趣味の集まり」で、私も参加すると聞いての事らしい。いざやって来てみれば場所は仕立て屋で、ミメットは「騙したわね!!」と激怒していた。

 しかしレヴィナ嬢は別に嘘をついてはいない。少人数だし、趣味の集まりと言えばまあそうだ。

 

 私の友人のうち、女子には少しずつミメットを紹介していっている。彼女はどうやら男子が苦手のようだからだ。

 ミメットは女子一人や二人が相手なら、親しげとまではとても行かないが、最低限の対応ができるようだった。

 私がしつこく話しかけ続けた事で、少し他人との会話に慣れたのかもしれない。一応の返答や相槌などの反応を返してくれる。

 

 そして、私の友人であるカーネリア様やスフェン先輩は、非常に社交というか会話能力が高かった。

 特にスフェン先輩は、自分のペースに他人を巻き込むのが上手い。しかも先輩は読書家でもあるので、本好きのミメットの興味を引く話題をいくつも持っている。ミメットも悪くない反応をしていた。

 カーネリア様にも、最初は警戒している様子だったがだいぶ慣れてきたようだ。

 

 

 問題はヴァレリー様である。

 ミメットとクラスメイトである彼女は、男性からは非常にモテるが一部の女性からは嫌われているらしい。

 あまりに人気があるから嫉妬されているんだろうと、カーネリア様は言っていた。

 

 生まれ変わって性別が変わった事でなんとなく分かったのだが、男性と女性の嫉妬は結構違うものだ。

 男性同士の嫉妬というのは、特に地位や権力に関して発揮される時、非常に攻撃的だ。恐ろしく冷酷で、残酷な牙を剥いたりする。例えば、王位を得られなかったフェルグソンのように。

 だが女性同士の嫉妬はもっと日常的に、ねちねちとしつこい形で発揮されるものだ。実害は少ないが、大変に精神を削る。

 ヴァレリー様はいつもこの女の嫉妬を笑顔で受け流しているようである。本当に強い方だと思う。

 

 まあそれは置いておいて、どうやらミメットもまた、ヴァレリー様へ好印象を抱いていない一人であるらしい。

 しかし嫉妬とかではなく、単純に「気が合わなそう」という偏見によるもののように見えた。

 何しろミメットは人付き合いというものをほとんどしない。ヴァレリー様に対しても、好き嫌いをどうこう言える程によく知らないはずなのだ。

 だから私は、ちゃんとお互いを知り合えば二人は打ち解けられるのではないかと思っていたのだが…。

 

 

 

「貴女なんかに、私の何が分かるの!」

「ファッションについては、よほど詳しいつもりです!」

 どうも甘い考えだったようだ。二人がこんなに相性が悪いとは思わなかった。

 ミメットが誰にでもツンツンしているのはいつもの事だが、あのにこやかなヴァレリー様がこんなに大声を出している姿など初めて見る。

 

 事の発端は、いつものように黒ずくめの服装でやって来て、またもや黒い服を選ぼうとしていたミメットに、ヴァレリー様が待ったをかけた事だ。

 ミメットは自分の黒髪黒瞳の容姿をコンプレックスに思っているようなのだが、それに合わせるかのように暗い色…特に黒のドレスばかり好んで着ている。昼でも夜でも、春や夏でもだ。

 

 今回は皆、春用の服を選びに来ている。春は特に明るく淡い色が好まれる季節だ。

 ファッションにこだわりのあるヴァレリー様としては、そこで黒い服を選ぶなどとんでもないと思ったらしい。

 単純な親切心だったのだろう、別の服を薦めたところ、ミメットは激しく反発してしまったのである。

 

 

 …そうして、冒頭に戻る。

 言い争う二人に、一体どうしたものかとレヴィナ嬢の方を見ると、彼女は悠々とした様子で男性服を見ては何やら感心していた。

 なぜ男性服…?ではなく、あんな状態のミメットを放っておいて良いのか。

「あの、お願いですから、ミメットを宥めるのを手伝ってください」

「うーん。でもミメット様、なんか結構楽しそうなんですよねえ。あんな風に熱心に構ってもらって」

「ええっ?」

 楽しそう…?あれが?いきり立っているように見えるが。

 

 それにうなずいたのはカーネリア様だ。

「そうねえ。ヴァレリー様も、あんな風に感情を表に出してるのは珍しいわ。何だか生き生きしてるように見えるわね」

「ええええ?」

 生き生き…?確かに勢い良く喧嘩はしているが。

 何だか二人はさほど重大な事態とは思っておらず、静観する構えのようだ。

 私はますますオロオロする。

 

「…ふむ、確かに一理あるね。ぶつかり合う事が理解に繋がるというのも、物語では王道だ」

 そう言って腕を組んだのはスフェン先輩だった。

「だけどリナーリア君や店員の女性を、あまり困らせるのは良くないな。他の客の迷惑にもなってしまう」

「そ、そうですよ!周りに迷惑をかけるのはだめです!」

 私は必死で同意した。

 争いぶつかり合った敵同士が、その勝負を通して最後には分かり合う…という筋の物語は私もいくつか知っている。だが、現実でそれは非常に傍迷惑なものだと初めて知った。正直知りたくなかった。

 

 

「と、いう訳だミメット君!リナーリア君のためにもそろそろ折れたまえ!」

「はぁ!?」

 突然先輩から話を振られたミメットが驚愕の声を上げた。

「どうして私が折れなきゃいけないの!」

「先程から聞いていたが、君が拒否する理由はあくまで感情的なもののようだ。公平に判断して、ヴァレリー君の言葉の方に理があると言わざるを得ない」

「っ…!」

 

「ただ思いのままに相手を否定するのは美しくないよ。本当に譲れないのなら、何故そう思っているのかをきちんと説明するのが一番いい。あくまでエレガントに!確たる根拠を持って反論すべきだ!…相手が真剣であるなら、尚更ね」

 最後は優しく諭すように言われ、ミメットはぐっと唇を噛んだ。

 

「ヴァレリー君も。相手を思っての主張なら、理解を得る努力を怠ってはいけないよ。相手に分かりやすい形、受け入れやすい形で提供する事を意識すべきだ!…君なら、それができるんじゃないのかい?」

 今度はヴァレリー様がはっとした表情になる。

 主張そのものは間違っていなくても、相手に無理に押し付けてしまうのは良くない。その事を思い出したのだろう。

 

 

「どうだい、ミメット君。それほどに黒い服を好む理由を、僕たちに聞かせてくれないだろうか」

「……」

 じっと黙り込んで下を向くミメットに、私は少し焦る。ここに誘ったのは私なのだし、先輩にばかり任せないで何とかしなければ。

「ミメット様、大丈夫です!ここにいらっしゃる皆様はとても優しい方ばかりです。ちゃんとお話を聞いて下さいますよ」

 

「…優しいの?」

 ミメットは疑わしげな顔でヴァレリー様を見て、ヴァレリー様の額に少し青筋が浮いた。

 今日の彼女は珍しく大人げなくヒートアップしていたので、ちょっと説得力が足りなかったらしい。

「ミメット様、ヴァレリー様はとても忍耐強い方ですよ。周りの人に合わせるのが上手ですが、それに流される事がありません。自分をしっかり持っていて、私も学ぶ事が多いです。ミメット様も、落ち着いて話せばきっと分かり合えます」

 

 さらに、カーネリア様が助け舟を出してくれる。

「ヴァレリー様が忍耐強くて心が広いのは本当よ。何しろリナーリア様ったら、去年ブロシャン領に行った時、ヴァレリー様の弟のユークをボッコボコのこてんぱんに負かして泣かせたのよ。なのにちっとも怒らなかったわ」

「そ、そんな事したの…?」

 ミメットは若干引いている。確かにその通りの事をやったので反論できない。

 

 

「でも、ブロシャン家のあいつって天才魔術師なんじゃなかったの?どうやってボコボコにしたの」

「あらミメット様、ご存じなかったのですか?リナーリア様は学院きっての武闘派魔術師として、勇名を馳せていらっしゃるんですよ」

 首を傾げながら言ったのはレヴィナ嬢だ。

 ちょっと待て、武闘派魔術師って何だ。私は支援魔術師だが。

 

「今まで残した武勇伝は数知れず。青眼(ブルーアイズ・)の白兎(ホワイト・ラビット)、銀髪鬼、筋肉女神、青銀の魔女などの異名を取り…」

「待って下さいそんな異名知りません!!いえ知ってるのもありますが断固否定します!!」

「王宮の騎士や魔術師を操って巨大な魔獣を何体も屠り、武芸大会では王子殿下一味を足元にひれ伏させ、高笑いと共に余裕の優勝」

「操ってませんしひれ伏させてもいませんが!?殿下一味って何!!」

「男女問わずに手玉に取るその手管はまさに魔女!!ウサ耳の魔女!!」

「取ってないぞ!!!ウサ耳関係ないし!!!!」

 

 あまりのことに、数年ぶりに男言葉が出てしまった。

 先輩が少し困ったような表情でちらりと私を見る。

「うん…まあ、誤解が混じってるよ?…3割くらいは合ってるけど」

「3割も!?」

「あっ、いや、半分くらいかな…」

「半分!?なぜ上方修正するんです!??」

 

 心外である。非常に心外である。

 おそらく噂を聞いただけなのであろうレヴィナ嬢はともかく、先輩まで半分が本当と言うのは酷くないだろうか。

「一体誰がそんな異名を言ったんですか!?初めて聞いたんですが!」

 魔女はまだ分かるが、銀髪鬼ってなんだよ。

「あ、半分は私が今考えました。今後広めたいと思っております」

「広めなくていいです!!!!!」

 しかも考えたの半分だけなのか。すでに本当に言われてるやつってどれなんだよ。

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