世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

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第194話 凱旋・2

 多くの民に手を振られて通りを進み、私たちは王城の門をくぐった。

 城の庭で待っていたのは、王都に残っていた貴族たちだ。ずらりと並び、歓声と拍手で出迎えてくれる。

 その中に、お父様とお母様の姿をすぐに見つけた。二人共涙目だが、笑顔で拍手してくれている。

 学院の生徒たちももちろんいて、「殿下ー!」とか「リナーリアちゃーん!」とかいう声が聞こえた。クラスメイトたちだ。

 先輩やカーネリア様、ユーク、ミメット、アーゲンなどの姿も見つける。

 嬉しくなり、皆に向かってぶんぶんと手を振った。

 

 城の入口近くまで行って、ようやく馬車から降りる。

「はあああぁぁ…」

 やっとこの派手な馬車から解放されたと安堵していると、スピネルが呆れたように見下ろしてきた。

「お前っておかしいくらい度胸あるくせに、こういうとこはやたら小心者だよなあ…」

「おかしいとは何ですか!」

「時々、人間より魔獣相手の方が得意なのではないかと思う」

「殿下まで…!?」

 

 

 後ろからやってきた兵たちと共に整列した所で、城の中から国王陛下と王妃様が姿を表した。近衛騎士団長のスタナムも一緒だ。

 陛下自ら出迎えて下さる事に感激しながら、皆が一斉にその場に膝をつく。

「…父上。見事に超大型魔獣を討ち果たし、帰還したことをご報告いたします」

 殿下が兵を代表してそう言った。

 

「うむ。皆の者、本当によくやった。厳しく、とても激しい戦いであったと聞いている。多くの犠牲も出てしまった。…しかし、最後には勝利し、こうして帰ってきてくれた事がとても嬉しく、喜ばしい。そなたらの働きにより、この国は守られた。その勇戦を讃え敬意を表そう。後日改めて盛大に勝利を祝い、十分な報奨を用意する事を約束する」

 国王陛下はそこで一旦言葉を切った。

 

「竜人ライオス殿」

 陛下からの呼びかけに、私はちらりと隣のライオスを見る。と言っても、見えるのは足だけなのだが。この場で唯一、彼だけが膝をつかずに立っている。

「我が国の危機を、その偉大なる力をもって救っていただいた。この国の王として、何より深く感謝する。…我が国は、竜人の存在を歓迎する。貴君とは末永き友誼を結びたい」

 

 わずかに貴族たちがざわついたのは、国王陛下がライオスを「貴君」と呼んだからだ。

 これは対等な相手に向かって使う呼称で、つまり竜人はこの国の王と対等な存在だと皆に示した事になる。実際の位や権威はともかくとして、そういう扱いをするぞという宣言に他ならない。

 私も内心で驚いてしまった。いくら竜人が強大かつ古い存在だとは言え、破格の扱いと言って良い。

 

 

『……』

 対するライオスは無言だ。どう答えるべきか決めかねているのだろう。

 だが、陛下は返答を急ぐつもりはないらしい。私からは見えないが、ふっと空気を和ませるように笑ったようだ。

「今はとりあえず、貴君が力を貸してくれた事に心からの感謝を述べよう。本当にありがとう」

『…どういたしまして』

 ライオスは今度はだいぶスムーズに発音した。昨夜兵たちに向かって、何度か繰り返し言っていたからだろうか。

 この言葉を教えておいて正解だったと思う。

 

「皆の者、(おもて)を上げよ」

 陛下の呼びかけに、それぞれが顔を上げる。

「改めて、本当によくやった。そなたたちは我が国が誇る勇士である。…今日のところは家族の元に帰って無事な姿を見せ、身体を休めて疲れを癒やすと良い」

「ははっ…!」

 全員が畏まって頭を下げ、陛下と王妃様は城内へと戻って行かれた。

 

 

 

 その後は、凱旋した者とその無事を喜ぶ家族とで城の庭は大騒ぎになった。

 ここにいるのは貴族ばかりだが、戦闘に参加した騎士や魔術師には貴族の出の者も多い。親族はきっと鼻が高いことだろう。

「リナーリア…!!」

 もちろん両親も、私の元へ駆け寄ってきた。二人共、きつく私を抱きしめてくる。

 

「無事に帰ってきてくれて、本当に良かった…!」

「しっかりと役目を果たせたんだな。父として誇らしいよ」

「はい…!」

 私は胸を張って笑顔を返した。

 応援し、背中を押してくれた両親に、これで少しは報いられた。それが本当に嬉しい。

 

 

「こうして無事に帰れたのは殿下のおかげです。何度も助けていただきました」

「まあ…!」

 両親がぱっと笑顔になり、すぐ近くにいた殿下へ深々と頭を下げる。

「本当にありがとうございました…!」

「いいや。俺の方こそ、リナーリアにはずいぶん助けられた。感謝する」

 

 微笑む殿下の目はとても優しい。

 つい私も殿下の目を見つめ返していたら、ぱたぱたと動く黒い翼が目の端に映り、私は慌てて付け足した。

「あっ、それともちろん、ライオスもです!とても恐ろしく、巨大な魔獣だったんですが、ライオスがいたおかげで勝てました。本当に凄い活躍でした!!」

 

「そうなのね…!ライオスさん、本当にありがとうございました!」

「ありがとうございます!」

『そなたたちの願いは叶えた。対価の用意をしておくといい』

「ええ、もちろん、たくさん用意します!お腹いっぱいになるまで召し上がって下さいね!」

『ああ』

 …あれ、今、ちょっと笑ったような?やっぱり何か、お母様が相手だと態度が違う気がするなあ。

 

 

 その時、こちらに寄ってくる人たちの姿が見えた。先輩だ。

「おかえり、リナーリア君!無事で良かった!!」

 そう言って私をガバっと抱きしめてくる。

「殿下、お兄様、リナーリア様、無事のご帰還をお喜びいたします!」

「おかえりなさい!!」

 カーネリア様やクラスメイトたちも先輩に続いてやって来て、私たちを囲む。皆どうも、声をかけるタイミングを窺っていたらしい。

 

「皆さんもご無事で良かったです。王都の中も大変だったと聞いたのですが…」

「ああ、僕たちも少しだけ魔獣退治を手伝った。役に立てて良かったよ」

 広い王都を守るため、先輩たち3年生は中に入り込んだ魔獣の掃討に協力したらしい。

「私も行きたかったわ!実戦ならちゃんと経験があるのに…!」とカーネリア様が頬を膨らませ、相変わらずだなと思わず苦笑してしまう。

 

「それに、竜人様の事もよ!どうして私にも紹介して下さらなかったの?」

「すみません。カーネリア様も近いうちにお呼びしようとは思ってたんですが…」

 そのライオスはさっきから、周囲の視線を集めて居心地悪そうにしている。

 私たちをぐるりと囲っているのは学院の生徒たちだが、その後ろには大人の貴族の姿も多く見える。

 全員、竜人に興味津々だが、話しかける勇気まではない感じだ。

 

 

 まず彼を紹介しておいた方が良さそうだ。周りを見回し、隣のライオスを示す。

「えー、こちらはライオス。見ての通り、伝説の存在と思われていた竜人で、半分は竜ですが半分は人間です。どうも私とは遠い親戚に当たるらしいのです」

「ええ!??」

 周囲が激しくどよめいた。

 

「し、親戚…?あ、半分人間ならそういう事もあるのか…」

 まあ繋がってるのは竜の血の方なんだけど。いや正確には血と言って良いのかもよく分からないんだけど。かなりややこしい話だし、詳しく説明する気はない。

「すっげえ…!!」

 何やら目を輝かせたのはクラスメイトのクリードだ。ライオスの角や翼を間近でジロジロと見ている。こいつ本当怖いもの知らずだな。

 

 

「そう言えば、ライオスさんは他にご家族やご兄弟はいらっしゃるのかしら?もしよろしければ、ご挨拶したいのですけれど…」

 お母様がのんびりと言い、私は思わず慌てた。その話題はちょっとまずいのでは…。

『我に家族はいない』

 しかし、ライオスは平然とした顔で答えた。

 彼がかつて父と呼んだ者は遠い昔に死んでいるはず。もう気にしていないという事だろうか。

 さっき馬車の上から騎士と妻子を見た時の様子からしても、やはり家族には何かこだわりがあるのではないかと思ったのだが。

 

「まあ、そうなのね。申し訳ありません、不躾なことを尋ねてしまって」

 頭を下げて謝るお母様に、ライオスは私の方を見て言った。

『…だが、そう遠くないうちにこの者を妻とする。そういう契約だ』

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