世界の天秤~侯爵家の三男、なぜか侯爵令嬢に転生する   作:梅杉

5 / 292
第3話 記憶

その後、私は「少し一人になりたい」と言って部屋にこもり、自分の記憶の整理をした。

机に座り、引き出しからノートを取り出す。

リナライトの記憶は所々靄がかかったように曖昧だが、基本的には今のリナーリアの記憶と同じようにある程度はっきりと思い出す事ができた。

 

 

リナライトは侯爵家の三男坊だった。

誕生日はリナーリアと同じで、兄が二人いる。これも今のリナーリアと同じ。

ちなみに上の兄は魔術学院に在籍中なので寮に入っている。下の兄は春先に馬から落ちて足を骨折してしまったため、王都には来ていない。

 

記憶を探りながら、家族構成、あるいはこの国の地理、歴史など、ノートに色々書き出してみるが…結果分かったこととして、前世と今世は全く同じ世界だ。

20歳だったリナライトと10歳のリナーリアでは知識量がまるで違うけれど、知っている限り特に変わっている事はない。

ただ、私の性別だけが違う。

 

 

たかが性別と言いたい所だが、これは大きな問題だった。貴族においては、性別によって大きくその役割が変わってくるからである。

少なくない例外はあるけれど、政務や軍務に携わるのは男性が多い。

これは、女性には出産や育児などで仕事を休まなければならない期間が存在するからだ。

育児は乳母が手伝うものの、基本的に母親もそばにいた方が教育に良いというのがこの国では一般的な考え方だ。

 

そして軍務には男性の方が向いていると言われているので、軍人は文官よりもさらに男性比率が高い。これは単純な体力の問題だ。

魔術を使える者ならば多少の腕力の差など簡単にひっくり返せるし、実際腕が立つ女性軍人もそれなりにいるのだが、体力そのものはやはり男性に軍配が上がる。

また、性格の面でも男性の方が軍事に向いているのだそうだ。

 

 

このような様々な理由により、貴族は一家の主である男性が外で仕事をし、家のことはその伴侶の女性が取り仕切るというのが一般的な形だ。

王家も基本的にその形を取っており、王座につくのはたいていが男…多くの場合は長男だ。

そのため、王家の特に男子は未来の王になるべく、幼い頃から城で過密気味の教育を受ける。

貴族の子供たちのほとんどが通う「魔術学院」に入学する年齢、つまり15歳になるまで、王子はあまり王城から出ないで育つのだ。

 

だが大人にばかり囲まれて育つというのは教育上あまりよろしくない、とされている。

過去はそれで年上の男性しか愛せないだとか、激しく人見知りでマザコンだとか、色々と問題のある王様が生まれたりもしたらしく、王子には5歳になったときに同年代の少年が従者として付けられるという決まりができた。

従者というか要するに遊び相手みたいなものだが、その子供は王城に住まう事になる。

一部の教育は王子と共に受ける(当然、授業を担当するのは国で一番の優秀な家庭教師だ)し、成長すれば王子の相談役や護衛も兼ねることになる。将来は高官への栄達が約束されている、貴族ならば誰もが子供を送りたがる栄誉ある役目だ。

 

その子供は、有力な貴族家の三男四男あたりから選ばれる事が多い。長男は家を継がなければいけないし、次男がいないと長男に何かあった時に困るので、三男くらいが丁度いいのだ。

年齢は王子よりも少し年上が望ましく、護衛もやる都合上高魔力所持者であることはほぼ必須条件となっている。

 

これらの条件に照らし合わせると、私…リナライトはぎりぎり条件内くらいだった。

この国では騎士系貴族と魔術師系貴族の間に微妙な溝があり、新参の魔術師系貴族である我が家から王子の従者を出すのは、現在の権力バランスから言うとあまり良くなかった。

なぜなら、当代の国王陛下はやや魔術師系貴族寄りの支持基盤を持っているからだ。

そこで更に魔術師系の家から従者を選べば、騎士系貴族から不満が出やすい。

そして私の年齢は王子と同い年だ。

当てはまっているのは三男という点と、それなりの高魔力所持者だったという点くらいだ。まあ貴族は高魔力所持者ばかりなので、最後は当てはまっていてもあまり意味がないのだが。

 

 

それでなぜ選ばれたのかと言うと、さまざまな偶然が重なった結果だった。

選ばれたことを知った時はとてもびっくりしたし、5歳にして家を離れ、城で暮らすのが不安でもあった。

やがて、殿下の従者になれたことを幸せだと感じるようになるのだけれど…。

 

 

ともかく。

リナーリアである私は、性別しか違わないにも関わらず、すでにリナライトとは全然違う人生を歩み始めていた。

王子の従者になれるのは男子だけなのだから当たり前だ。

私は殿下に出会うことなく育ち、そのまま10歳になってしまっている。

王女ならば女子が従者になるので、殿下も王女に生まれ変わっていればまだ機会があったかもしれないが…殿下は今世でも普通に王子だった。

まあ、王女になった殿下というのはあまり想像したくないので良かったのかも知れない。

 

…殿下を「あの女」の魔の手から守るためには、学院であの女が殿下へと近付くのをなんとか阻止しなければならない。

しかし向こうは新参のうちとは違う、由緒正しい侯爵家の令嬢…公爵家にも近いほどの権力を持つ相手だ。

従者という殿下に最も近い立場であった前世ならともかく、下っ端侯爵令嬢(面識1回・会話なし・第一印象最悪)でどう対抗すればいいのか…。

 

やはり、何とかして学院に入る前に第一印象を挽回し、ある程度親しくなっておきたい。

殿下はあまり社交的ではないが、誰にでも別け隔てのない優しい性格だ。特に、親しい相手には少々甘く素直なところがある。

予め仲良くなって信頼を得ておけば、あの女を遠ざけやすくなるはずだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。