SCP-████-JP 終末と再起   作:田舎民

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今回はSCP要素ほぼないです。


ある一人の日記

20██年██月██日

 

辺りが血や体液で汚れていた。人が人を貪り食っていた。吐き気が抑えられなかった。警備員が銃を発砲していた。誰かが悲鳴をあげた。それを皮切りに社員も散り散りに逃げ出した。何が起こっているのか分からない。

 

 

20██年██月██日

 

一晩過ごして少し落ち着いた。と言ってもまだ頭の中がぐちゃぐちゃで整理しながら書くつもり。後の人の為、この建物で何が起きたか記録しておこうと思う。もしかしたらこれが遺書になるかも。

 

この騒動はいつから始まったか。私が知っている限りでは昨日、20██年██月██日のお昼過ぎくらいだった。

 

あの日私は仕事の都合でこの巡ヶ丘市にある、私が勤める職場の支社に来ていた。この支社では主に薬剤の研究開発や販売を行っていると聞いていた。私は経理担当であって、監査が目的で来ていたので詳しいことは知らないけど。

 

とにかく私がこの街に来て2日目に異変が起こった。遅めの昼食をとった後、次の仕事に取り掛かろうとしていた時に、社内で緊急警報が鳴り響いた。何が起きたと思って部屋から飛び出ると、他の社員達も何が起きているか分からない様子で動揺している姿が目に映った。

 

状況が分からない中、急いで一階のセンターホールに行くと、何が起きてるか…は理解出来なかったが理由は分かった。

 

暴動が起きていた。いや、それは正確じゃない。暴動のような何かが起きていた。

 

人が人を食っていたのだ。比喩的な表現なんかじゃなく、本当に。

 

それを見た瞬間、辺りに漂う悪臭も相まって私は思わず吐いてしまった。お昼に食べたものが丸ごとだ。

 

しかしながら他の社員達の前で吐いたにも関わらず、皆は目の前で起きていることが衝撃的過ぎて、注目されることはなかった。

 

その後直ぐに2人の警備員が現れ、その人らしきものにためらいなく銃を発砲した。銃弾はソレの体に2,3発は命中したように見えたが、倒れることはなかった。むしろ銃の音に反応してか警備員に襲いかかったのだ。

 

これに対して、警備員達は警棒で鎮圧を試みた。彼らの行動は通常であれば当然であるが、今回に限っては間違った行動であったと言わざるを得ない。

 

ソレが1人の警備員に襲いかかり、警備員は振りほどこうとした。(警備員の身体は大柄で、ソレは女の私と同じ位で比較的小柄だったと思う。)

 

それにも関わらず、大柄の警備員はあっという間に組み敷かれてしまった。そして首元を噛み千切られ、警備員は簡単に息絶えてしまう。

 

流石にもう1人の警備員はこれに動揺し、一時的に動きを止めたが、果敢にも再び鎮圧を試みた。今度は警棒の威力では足りないと思ったのか、そこら中にある重たい物を次々とソレの頭に向けて投げつけたり、叩きつけていた。

 

もはや殺さんとする勢いで、結果的にソレの無力化に成功する。だが、これで一安心とはいかなかった。

 

 

ソレが増えたのだ。

 

 

正確にはさっきまで警備員であった人がソレに成り変わってしまっていた。加えて、警備員よりも先に食い殺されていたであろう人も同様にそうなっていた。

 

これでは多勢に無勢であると、残りの警備員や社員達は逃げることに意識を切り替える。しかしながら、この会社の出口付近にはソレ……違う。『彼ら』が大勢いた。

 

その出口を無理矢理突破して出ていった人もいたけど、その途中で喰われた者もいた。

 

この時の私は吐いてしまったものの、頭の中は意外にも冷静を保てていた(あまりにも非現実的であったためか)と思う。

 

上階に逃げて部屋に閉じ籠れば、いずれ助けが来る。ここで無理矢理突破するのはデメリットが大きい。

 

そう考え、他の社員に揉みくちゃにされながらも急いでエレベーターで最上階の18階まで昇った。

 

その後共にいる社員達と応急的にバリケードを作成し、一日を終えた。これが昨日までの流れだ。

 

 

20██年██月██日

 

あれから一週間経ち、徐々にビル内での安全区域を広げていった。幸いにも彼らは階段を上ることが苦手らしく、簡単に5階までは安全区域にすることができた。

 

現在は生存者達を2グループに分けて活動している。

 

1つ目のグループは安全区域内での環境改善、これからの方針や作戦の調査・検討を目的としたグループ。

 

2つ目のグループは安全区域の確保、食料・飲料水の確保、その他有用品の調達などを目的とした遠征組だ。私はこっちのグループにいる。

 

とにかく今は食料・飲料水の確保が難航している。なにせ彼らがいる中を通り抜けて付近の食料品店から調達してこなければならないからだ。この調達の最中、既に2人が彼らの仲間入りを果たしてしまっている。

 

 

20██年██月██日

 

2週間と立たず、つい昨日、安全区域は崩壊した。気付くべきだった。もしグループ内で誰かが彼らに噛まれて感染したらどう行動するのか、もう少し考えるべきだった。

 

もし自分が噛まれたらどうするだろうか。たぶん、必死になって隠すと思う。だってそれを知られてしまったらきっとここから追放されるだろうから。

 

 

 

 

先週から、食料・飲料水の不足で夜間にも少数で行動することになっていた。この時の私のペアは籠谷さんだった。彼女は冷静沈着でとても頼りになる人だ。

 

昨日、私は籠谷さんと夜更けに探索に行き、明け方に帰ってきた。するとどうだ、ついおとといまでは普通に関わり合っていた社員達が全員彼らになってしまっていたのだ。

 

おそらく誰かが噛まれたことを隠していたのだろう。そして夜中に発症し、他の社員達を襲ったのだろう。物音で起きて誰か1人ぐらいは逃げているんじゃないか。そう考えて隠れられそうな場所は全て探したけれど、誰もいなかった。

 

最近は皆生きるために必死で体力も精神も擦り減らしていた。だから多分、皆ぐっすりと眠ったまま噛まれてしまったのだろう。

 

私は此処に来て日が浅く、社員達との関係は薄かった。でも、この2週間で結束力は高まり、信頼関係を築きつつあった。

 

それなのに…あんなに頑張っていたのにこんな…あっけなく……。

 

 

20██年██月██日

 

 

私と籠谷さんだけになって数日待っても結局助けは現れなかった。

 

今日、籠谷さんから車の鍵と家の鍵を渡された。地図も貰ってその家の場所を教えられた。

 

「一緒に脱出しないの?」と尋ねても、籠谷さんは「やらなきゃいけないことがある」といってそこに残った。結局私は籠谷さんに助けてもらいながら、ビルを抜け出した。ここからは一人か。

 

 

20██年██月██日

 

目的地までは結構距離があった。歩いて行くとなると2~3日はかかるだろう。取り敢えず今日は雑貨屋らしき場所で一晩を過ごすことにした。

 

何か有用な物資はあるかと店の中を探索していると、ヘアピンやピアス等のアクセサリー類がたまたま目についた。髪染めが出来るものもある。

 

そこでふと高校生の頃を思い出した。高1の夏休み、友達に影響されて片耳だけ穴を空け、ピアスをつけたことがある。それを目にしたお父さんには滅茶苦茶怒られたし、お母さんにはとても悲しまれた。あの頃は親に反抗していたこともあってかなりムカついたな。お前らなんかにどうこう言われる筋合いはない、自分の勝手だろって。

 

 

せっかくの機会だし、ピアスをつけまくって髪も金髪にしてやろうと思う。今ならどんなことでもしてやれる。

 

 

私がどんな格好をしようと、怒られることも悲しまれることも決してない。誰からも嫌味を言われることもない。

 

 

 

……私は、自由だ。

 

 

 

20██年██月██日

 

籠谷さんから教えられた家にたどり着いた。家の外には大きなキャンピングカーがあって、この家…というよりシェルターの外見はまるで豆腐のような四角形であった。だけど中は快適そのもので、なんと大きな地下室もあった。食料や飲料水の貯蔵も十分で至れり尽くせりだ。(何でこんなに都合が良いのだろう)

 

シェルターにあったものをじっくりと見て回った。一番特徴的だったのは、大きなラジオの装置だ。自分から発信することもできるらしい。私は今まで機械といえばスマホやパソコン、後は生活に必要な家電しか触ったことが無かったけど、説明書がそばに備え付けてあったので、私でも色々いじくれそうだ。

 

 

そのラジオで早速情報を集めようとした。でも駄目だった。放送局にラジオを切り替えても繋がらない。スマホも圏外だし、おかげで外の様子はさっぱりだ。

 

 

 

20██年██月██日

 

外の様子は分からないので、自分から発信しようと思う。幸いここには音楽cdがたくさんある(あの人の趣味だったのだろうか)。何より学生時代は放送部だったから、抵抗感はない。

 

 

 

20██年██月██日

 

このシェルターに来てからしばらくラジオ放送でここの住所を流しているけど、誰も来る気配はない。そして相変わらずラジオからの情報はないままだ。たまに聞こえてるものは我が社の定期放送か、個人の放送によるもの。その殆どは特に役立たない情報ばかりだ。ただ、生存者が他にもいるということは何よりも生きる頼りになる情報だが。

 

 

それにしても最近は身体の調子が悪い気がする。あれから誰とも話していないし、精神的不調によるものかもしれない。

 

 

 

20██年██月██日

 

今朝、「職員用緊急避難マニュアル」という冊子を発見した。最初見た時は何だこれ?ってなったけど、思い返せば以前に一度見たことがあったものだった。

 

私の会社は外資系で契約にはうるさく、こういう契約書みたいなものは他にもあった。でもこれだけは非常事態にしか開けるなと聞かされていて、それが入社当時の説明だったのですっかり忘れていた。

 

一瞬なんでこのシェルターにこんなものがあるのかと思ったけど、そりゃ同じ会社の人のシェルターなんだから不思議じゃないかと思い直した。

 

 

正直言ってこんな冊子にはさほど興味が無かった。だってもう会社なんてないし。それでほっとこうと思ったんだけど、何となく中身が気になったから開けてみることにした。どうせ暇だから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それで私は

開けなきゃよかった。

 

 

 

20██年██月██日

 

そういえばおかしいところはいくつかあった。そもそも非常事態の時しか開いてはいけない緊急避難マニュアルなんておかしいだろう。普通、何か危険なものを取り扱うのであれば、避難マニュアルなんてもの普段から読ませるはずだ。

 

それに我が社の警備員は、なんで銃なんか持っていた?警官ならともかく、一介の警備員がそんなもの持っているはずがない。ここはアメリカじゃなくて、銃規制が厳しい日本のはずなのに。

 

極めつけは情報管理が厳しすぎることだ。私は経理監査を命じられて支社まで来ていたのに研究内容はほぼ知らなかった。いや、知らされていなかった。加えて私はまだ入社3年目で、会社全体からしてみればまだ新人といってもいいだろう。

 

そんな私が何故、監査なんていう重要な役目に抜擢された?

 

 

……つまりは、そういうことか。

 

 

 

 

籠谷さんが別れる時に言っていた「やらなきゃいけないこと」、何となく分かった気がする。

 

 

 

20██年██月██日

 

あれから段々身体の調子が悪くなり続けている。勘だがこれは精神的不調や普通の風邪なんかじゃないと思う。「職員用緊急避難マニュアル」で読んだ、彼らになってしまうウイルスだか細菌だかが空気感染しているのだとしたら…。私の体調不良、ラジオから得られる情報の異様な少なさにも説明がつく。恐らく今回の騒動はこの地域だけではなく、県全体か日本全体……もしくは全世界規模で発生しているものかもしれない。

 

…私もいずれ彼らと同じようになってしまうのだろうか。

 

 

 

20██年██月██日

 

気休めでこの家の地下にあった救急物資の薬を自分に打ち込んだ。良くなると良いけど。

 

 

 

20██/██/██

 

もうだめかもしれない。

 

 

 

██/██

 

いしきがもうろうとしてきた。自分で始末をつけるためのじゅんびはすませてある。後はここに来た人のためにひつようなことを紙にかきこんでおかないと。この日記をかくのはこれがさいごになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"ガガッ…ガコン……キイイィー"

 

シェルターの天井にある侵入口の開かれる音が部屋全体に響き渡る。入ってきた者は3人の若者達。

 

若者達はこのシェルターの住人は誰かと目を見やるが、その姿は無い。

 

確かにラジオで放送されていた住所はここのはずだと皆は首を傾げるが、その内の1人が机の上に置かれている三つに折られた紙を見つける。

 

1人がそれを開くと同時に隣の扉から物音が聞こえた。後ろにいた2人はその音に肩をびくつかせるが、紙を見た者は動じず、ただ顔を歪めるだけだった。

 

直ぐに紙に書かれたものを読み終えると2人に手渡す。

 

そして物音がした扉へ近付いた。

 

紙を手渡された2人はその行動に若干の疑問を浮かべるが、それを見て直ぐに理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 扉を開けるな!

 

扉の先には私がいる。なるべく

 

始末をつけるつもりだけど、うまくいくか

 

わからない。

 

音がしたらそういうことだと

 

思ってくれ。

 

この手紙を見つけた人に

 

この家とこのキーを預ける。

 

 

 

できれば、あなたと一緒に

 

お茶を飲みたかった。

 

できれば、あなたと一緒に

 

ここをたかった

 

できれば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「送ってくるよ……

 そのほうがいいと思ってさ」

 

「……気をつけてね」

 

「おう」

 

そして扉のドアノブに手を掛け……。

 

 

 

 

 






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