赤宮結華は勇者である 作:三坂
俺達の攻撃は全く通用せず、それどころかあざ笑うかのように同僚や上官は次々と襲われた。
…どれくらいヤバかったかって?
そりゃ今でも夢で出てくるほどヤバかったさ…
こうやって俺が生きてるのも奇跡のようなもんだしな…
これはのちに「7・30天災」、そして化け物達は「バーテックス」と呼ばれることになった…。
2018年7月30日
記録
岡山県
三軒屋駐屯地に勤務
天災発生から
徳島県
徳島駐屯地に転属
とある自衛官の記録
2015年7月30日
午後6時頃
栃木県宇都宮市
宇都宮駐屯地にて
「負傷者は優先して搬送しろ!第2班は救護班の支援にまわれ!!」
「どいたどいた!担架通るぞ!!」
鬼怒川でのバーテックスとの戦闘から数時間後、日が少しずつだが落ちてきているのを横目に宇都宮駐屯地ではあの襲撃から逃げ延びた避難民や負傷者でごった返しており、それの対処に宇都宮駐屯地所属の隊員達は追われていた。
「現状は!」
「はっ…!現在、負傷した民間人の手当を行っておりますが…人手がかなり不足していてなんとか回している状態です…!」
「第406会計隊の隊員も非常招集して!不足しているところ優先で…!」
「姉川二尉!市民に配布する食料については…!」
「確か倉庫の方にあったからそれを引っ張り出して…!あの惨状を見て胃に入らない人とかいるから飲料水を中心に…!それとメンタルケアもお願い!」
「分かりました…!」
駐屯地では自衛隊員達が慌ただしく行ったり来たりしており、姉川はそんな隊員たちからの問いににテキパキと細かな指示を出していく。それを確認しつつ無線機でなんとか他の駐屯地と連絡を取ろうとしていた第317基地通信中隊の通信兵に尋ねる。
「他の駐屯地との連絡は…!」
「駄目です!ここから下方にある古河駐屯地および陸上幕僚監部・防衛省とは辛うじて連絡が取れますが…!隣県の駐屯地とは殆ど連絡が取れません…!!」
「ほとんど…(ギリッ)それで…!その陸上幕僚監部はなんと言ってるの!」
「現在習志野を含む首都圏各地の駐屯地に非常招集をかけているとのことです…!どうやら都を含む周辺については被害が少なかったようで…!ですが状況が状況のため、海上自衛隊と在日米海軍の基地がある横須賀に司令部を移転するとのこと…!」
「首都圏は被害が少ないか…、となれば指揮統制は辛うじて動いているのね…。政府は機能してるの!」
「国会議事堂はかなりの被害を受けたそうですが…!首相官邸については被害なしとのこと…!総理含む各大臣及び高官はほとんどの生存が確認されているそうです!現在、陸上幕僚監部と同様に横須賀基地へと移動中みたいで…!」
「国会議事堂が被害を受けたとなればそうとうの議員と職員が被害に巻き込まれた可能性があるわね…。でも偶然か否か政府の機能が動いてるのか不幸中の幸いか…」
無線機で連絡を取りつつ、メモを取っていた隊員から見せてもらいつつ真剣にその内容を姉川は読み取っていた。ちなみにここ宇都宮駐屯地は例の戦いで勝利した関係か、ほとんどの隊員が健在で、陸上総隊隷下部隊である中央即応連隊を始めとし、そこに増援として古河駐屯地から派遣された臨時の戦車連隊が加わって防衛を行っていた。
「ひとまず警戒体制は交代制で継続!異変を一つたりとも見逃さないで…!!相手はこの世の生き物じゃない…!確認次第容赦なく倒しなさい…!じゃなきゃ殺られるのはこっちよ…!」
いくら防衛が一時的に成功したとはいえ、いつ新たな襲撃が来るとは限らない。そう思った姉川は引き続き警戒体制を強めるように指示を飛ばしていく。
現にここには栃木県内のほとんどのの民間人が身を寄せており、万が一敷地内にあの化け物の侵入を許せばどうなるかなど一目瞭然。なので、自衛隊員にとってはまさに最後の砦と言わんばかりの状況であるため、隊員達もかなり神経を研ぎ澄ませていた。
「中即-本より各小隊、状況を知らせ。」
『こちら第戦-1、現在西出入り口異常なし。』
『中即-1より中即-本、東出入り口同様に異常なし。』
『南出入り口に展開中の中即-3より中即-本宛、こちらも問題なし。』
中央即応連隊本部となっている部屋では、317の通信兵や連隊要員が無線で駐屯地の出入り口を警戒している部隊と定期的な通信を行っている。今のところは問題はないがいつ襲撃が来るかも分からない。そのため警戒に当たる隊員達は常に銃のトリガーに指をかけていつでも撃てるような体制で待機しているのであった…。
駐屯地
宿舎の空き部屋にて
「スー…スー…」
先程泣いていたせいなのと戦闘の影響で疲れたのだろう…、気持ちよさそうな寝息を立てて結華がスヤスヤと寝ていて、その隣では羽南が毛布をかけつつ静かに撫でていた。
「だいぶお疲れ様みたいね…」
「あっ…湯月さん…」
するとわざわざ飲み物や食事を持ってきてくれたのだろう、お盆に二人用の食べ物や飲料水を載せた湯月に気付いた羽南があっという表情を浮かべる。
「羽南ちゃんも寝てて良かったのに…(汗)。貴方もお疲れでしょ…?」
「一様さっき寝てたんですけど……目が冴えちゃって…(汗)」
どうやら先程まで結華と同様に寝ていたが目が冴えてしまい寝れなくなってしまったため、こうやって彼女のそばにいつつ面倒を見ているようだ。
「それに…時々結華ちゃんが魘されてたから…。こうやって側にいて落ち着かせてるんです…」
灯火管制のため駐屯地内の光は最低限になっているせいもあるのか月明かりに照らされていた羽南の表情はどこか不安そうになっていた。
いくらあの化け物と戦う力を得たとしても…、いくらあの化け物に対して初めての戦闘で優位に勧めたとしても彼女達はまだ小学生…。目の前で親友を失い、こんな非情な現実を見せられればたまったものではない…。そんな表情を見せられた湯月は少し気まずそうになりつつも少し首を降って切り替えるように話を切り出す。
「そうだ…!なんかおにぎりとか飲み物持ってきたけど食べる?」
「すみません…(汗)わざわざ…、ほら結華ちゃん起きて〜(ゆさゆさ)。湯月さんが遅めの夕飯持ってきたよ〜。」
「ん〜…(目を擦りつつ)。」
夕飯を持ってきたこと湯月がつたえると、羽南はすやすやと寝ていた結華を優しく譲りながら声をかけて起こしていく。あれだけすやすや寝ていたのにも関わらず、眠たそうに目を擦りながらゆっくりと目を覚ます。
「あれ…、いつも間にこんなに寝てたんだろ…(汗)」
「よっ♪だいぶお疲れだったみたいね…♪ほら、ちょっと遅めの夕飯持ってきたわ♪」
「だって♪ほら結華ちゃんも食べよ食べよ♪」
「うっうん〜…、分かったから急かさないで羽南さ〜ん……(汗)。」
そんな一面がありつつも二人は湯月が駐屯地内のコンビニから持ってきた鮭のおにぎりとポカリを受け取って袋を開けて早速口へと運んでいく。あれだけの惨状を見てしまったとはいえ、やはりお腹が空くものなのだろう。
「ん〜…♪美味しい…♪」
「だね♪久しぶりにコンビニのおにぎり食べたかも〜」
「まっ貴方達の年代はほとんど家で食べるからね〜。口にするようで案外しないかも。」
美味しそうに食べている2人を静かに笑みを浮かべつつ湯月は話していた。それからあっという間におにぎりを食べきり、ポカリを飲みつつ3人で雑談していると姉川が部屋にやって来る。
「おっ、ちょうど3人いるわね♪丁度いいわ♪」
「んぇ?どうされましたか?姉川さん」
「実は今後について話したいから、結華ちゃんと羽南ちゃんにも来てほしいんだけど…」
「……わかったわ〜…、それじゃ2人とも行きましょうか…!」
「「はい!!」」
表情から察してかなり重要な話だというのは直感出来たため覚悟を決めつつ2人に声をかけつつ席から立ち上がる。結華と羽南もそれは分かっていたため返答をかえしつつ姉川と湯月の後についていく。
中央即応連隊本部
臨時会議室
「…つまり、ここよりも更に安全な神奈川県にある横須賀基地まで撤退するのが無難ってことかしら?」
それから数分後経った頃、中央即応連隊本部で臨時の会議室に制定されている部屋では宇都宮駐屯地や北宇都宮駐屯地所属の各連隊の上官、そして栃木県警や栃木県庁のトップが集まって作戦会議を開いていた。内容はもちろん、今後についてどうするからしい。
「はい、その方が一番でしょう。横須賀基地には首都圏各地の駐屯地から部隊が集結していますし、なによりそこには陸自と合同演習を行うために日本に来ていた米軍部隊が展開しています。」
「ここにいては孤立するだけですし…、なによりいつあの化け物の襲撃があるかわかりません…。動けるうちに動いた方がいいかと…。」
「ふむぅ……、ってそういえば…!」
やはり各隊員からも横須賀の方に移動したほうがいいのではないかという案がかなりあるようだ。確かにここにいてもいずれ補給切れを起こしてジリ貧になるのは確実。そんなことをふむふむと聞いていた姉川がふと思い出したかのように口を開く。
「確か横須賀には海上自衛隊と米海軍の拠点があったわよね、そっちの状況は?」
姉川の言うとおり、横須賀には海上自衛隊と在日米海軍の基地がある。海自には横須賀を拠点としており、海上自衛隊には第1護衛隊を始めとした各護衛隊が配備されており、在日米海軍にも原子力空母を含む第7艦隊が展開、まさに要所の一つと言っていいほどの規模であった。
首都圏の被害が少ないということであれば、その両基地の被害も少ないのではないかと姉川は思ったのだろう。そんな彼女の期待に答えるように一人の通信員が頷きつつ答える。
「米第7艦隊及び、海上自衛隊横須賀基地所属の第1護衛隊を始めとした各護衛隊群は全戦力が健在とのこと。現在は湾内の警戒に当たっているそうです。」
「…となれば…、行く価値は有りそうね…。ここにいてもジリ貧だし…。避難経路や方法はどう?」
「避難経路としては北関東自動車道、東北縦貫自動車道を経由していくルートで。幸い地震の影響で地震発生直後から高速道路は全区間で通行止めになっていますから、下道よりも確実に、早く避難出来きます。」
「方法としても近くのバス会社が高速バスや路線バスをかき集めてきてくれたため民間人の輸送には問題はありません。これを宇都宮、北宇都宮、古河の3つの駐屯地+栃木県警で護衛していきます。」
「でも報告によれば通常ではあの化け物に対して私達の攻撃は無力…。つまり……」
「えぇ、彼女達の協力が不可欠ね……。」
そう言って視線を向けた先には会議室の端っこの方の椅子に座りつつ真剣に話を聞いている結華と羽南の姿が。地震発生直後の攻撃はまったく通用しなかった…。しかし彼女達の攻撃、そして彼女ら、特に結華が現れてから先程の状態がまるで噓かのようにこちらの攻撃が刺さり始めたのだ。
「ところで…彼女達は別に前々からこんな力を持ってたわけじゃないんだろ?」
「あぁ…、あの地震までは普通の小学5年生として過ごしていた…。彼女の能力はなんなんだ?」
だが最初からこんな能力を二人が持っていたわけがない。むしろあの地震までは自衛隊員の言う通り普通の小学生として過ごしていたのだ。ある隊員が首をかしげながら栃木県の神社庁職員に尋ねる。
「…状況から察するに二人は土地神様から何ならかの形で力を授けられたということになりますね…。羽南様に関しては…ご縁のある神社の土地神様から力を授けられたというのは分かりますが…結華様に関しては…」
「どの土地神から授けられた…というのは分からない…と…。」
羽南の能力は縁のある神社の土地神から授けられたもので、炎を宿した日本刀を武器としていることはわかる。…しかし結華の能力に関しては全例がなく、土地神様から力を授けられているということしか分からずにいたのだ。
「…彼女がいるとこっちの攻撃が嘘のようにあの化け物へ刺さるし…、なにより現実に存在している兵器を中心に戦っている…か…。けど…そんなことを話している猶予はないかもね…なら…!」
姉川も気になりはしているが…、状況が状況のため議論をしている猶予はないと思った姉川は決心したかのような表情を浮かべ、席を立ち上がり結華と羽南のもとに向かいしゃがみつつ視線を合わせる。
「二人にお願いがあるわ…、…自衛官であり大人の私がこんなことをいうのも情けない話だけど…。貴方達の力が必要なの…!」
「私と…結華ちゃんのですか…?」
「えぇ…!皆を護るために必要だから…生きるためにも…。…だから、頼めるかしら…?」
「……」(視線を合わせる)
いくらあの化け物と戦える力を持っているとはいえ、まだ小学生の少女にこんな責任重大なことを頼むにはかなり無理がある。だが、姉川を始めとした自衛官達もそれは承知の上でのお願い。もちろん、結華と羽南は驚いたような表情を浮かべて顔を合わせるがこちらも決心したようで頷きつつ姉川に視線を戻す。
「分かりました…!やりましょう!」
「本当は怖いけど…、そんなことも言ってられないし…!私達にしか出来ないことならなんだってやります…!」
「結華ちゃん…羽南ちゃん…、ありがとう…!」(抱きつく)
二人の返答を聞いた姉川はこみ上げてきた感情をなんとか抑えつつ笑みを浮かべて勢いよく抱きつく。一瞬戸惑った結華と羽南であったが嬉しそうな雰囲気を見せていた。
「俺達からもお礼を言わせてくれ…!ありがとう…!」
「栃木県のトップである私からも言わせてくれ…、大人が子供に頼まければならない情けない状況だが…感謝する…。」
姉川に続くように自衛隊員や警察官、はたまた栃木県庁の知事や神社庁職員なども立ち上がり次々と頭を下げていく。そんな状況を見ていた二人は姉川に抱かれた状態で視線を合せて笑みを浮かべる。
「ここまでされたなら…今更は引けないよね、羽南さん…!」
「もちろん♪あの化け物達からみんなを護ってやりましょう…♪そんで人類攻めたことを後悔させてやるんだから…!」
「…(フッ)、んじゃ!ひとまず今日はゆっくり休みましょう…!明日から忙しくなるわよ!気合い入れていきましょうか!」
「えぇ!日本最後の砦とも言える自衛隊の底力…!思い知らせてやるんだから…!」
突如として発生し、のちに「7・30天災」と呼ばれたこの日。勇者としての力に目覚めた二人の無知な少女、そして日本最後の砦と言われた自衛隊が地獄の現実を生き抜くために行動を開始します…!
第三話 出発、そして接敵