赤宮結華は勇者である   作:三坂

5 / 7
西暦2015年7月30日

この日、私は首相官邸にいた。各大臣と様々な議論を交わして今後新しく作る法案を模索していたときの最中と言っていい…。


突如として発生した地震、その後この揺れに便乗するかのように出現した正体不明の化け物。これは瞬く間に全世界を蹂躪、人々を食い荒らした。

頼みの綱である各国の軍による攻撃はほとんどが無力でありアメリカや、中国などの大国でさえも長く持たなかった。


この日本も下手をすれば世界と同じ道を辿っていたかもしれない…。こうやって我々が生きているのは彼女達、まだ幼き少女のお陰といってもいい…。


全く…護るはずの大人が少女に護られるとはなんたる皮肉だろうか…

8月4日に記録
日本内閣総理大臣
久保田 晴司



第五話 横須賀

西暦2015年8月1日

午後5時過ぎにて

 

神奈川県横須賀市

横須賀地方総監部

政府臨時対策室

 

 

 

「ひとまず、現時点の状況説明をわかる範囲で頼む。」

 

 

 

外からきこえてくる緊急車両のサイレンや慌ただしく部隊の配置を行っている声や音が聞こえてくるのを横目に日本国の内閣総理大臣である久保田 晴司がこの部屋に集まっている各大臣や自衛隊の高官達に問う。

 

 

 

「では、まずは私からご説明させていただきます。お手元の資料を確認してください。」

 

 

 

総理大臣からの問いに、真っ先に答えたのは久保田内閣で防衛大臣を務め数少ない女性大臣でもある七海 亜紀が速やかに答えて、説明に入る。

 

 

 

「昨日全国各地で発生した震源地不明の地震、これに連動するかのように正体不明の生物が各地で出現。民間人をところ構わず襲っているとのことです。もちろん、我が日本だけでなく全世界でも同様の事態が発生していることが確認されています。」

 

 

「すでにフィリピンなどの東南アジア諸国との通信網は途絶。EUとは辛うじて連絡は取れますが半数近い国がやられており時間の問題かと…。」

 

 

 

七海大臣の言葉に付け加えるように副総理兼外務大臣を務める新木 虹郎が現時点で分かっている世界情勢を簡単に説明していく。

 

 

 

「アメリカなどの大国はどうなっている?」

 

 

「正直状況が良いとは言えません。中国ではすでに多数の死傷者がでており、軍が対応していますが劣性の可能性があります。ロシアに関してはシベリア地方のほとんどを喪失、首都モスクワに関しては激しい地上戦がおこわなれているとの報告があり…、アメリカに関しても同様でハワイはまだ被害が軽微ですが、本土では首都ワシントンD.C.を含む全都市で戦闘が発生。核による制圧を試みたようですが失敗しています。」

 

 

「アメリカなどの大国でともかなり厳しいのか…。世界情勢は思った以上に最悪なのかもしれませんな…。」

 

 

「同意見だ。まさか地震からこんなことになるなんて思いもしなかったぞ…。これは想定外の事態だ。」

 

 

 

七海の説明を聞きながら、経済産業大臣である狭山 孝太郎や国家公安委員会委員長兼内閣府特命担当大臣(防災担当)の兼田 正義が驚きの口調で話しながら資料を見つめる。

 

 

 

「だがこのままにしておくわけにはいかん…!早急に対処すべきだ…!このまま籠もってても奴らに蹂躪されるだけだぞ…!」

 

 

「申し上げますが今戦闘を行っては余計な部隊の消耗をするだけです。それに現状は民間人の避難も平行して行っています…!今は戦闘よりも避難、そして防衛ラインの構築を優先すべきよ…!」

 

 

 

この状況があまりいいとは感じなかったのだろう。法務大臣である奥田 駒人が苛立ちを見せながらすぐさまの制圧を名言するが七海にあっさりと切り捨てられる。それによって下がったことを確認すると久保田が再び口を開く。 

 

 

 

「民間人の避難状況はわかるか?」

 

 

「その件についてですが…、横須賀方面に向かう県道のほとんどはかなり渋滞しているようで、警視庁がその対応に追われているとのこと。そのため襲撃が少ない現状を利用して東京湾を経由した海上輸送、そしてヘリを利用した空路搬送を急ピッチで行っています。」

 

 

「ただ…東京都だけでも1396万の人口を有しており…、これにプラスして隣県の国民を含むとなれば、早急に避難させるのはかなり厳しいかと…。」

 

 

「それだけの国民を速やかに移動させるのは難しいか……。最悪、避難誘導中の戦闘も視野に入れておかねばならないな…。」

 

 

 

国土交通大臣である柿原 と厚生労働大臣の岩代 からのあまりいいとは言えない報告を聞いた大河内は最悪避難誘導中での自衛隊による市街地での戦闘も想定しなければならないという表情を浮かべる。が今は目先の対処をすべきと判断して切り替え、七海防衛大臣に再び視線を向けて声をかける。

 

 

 

「現状での部隊の展開状況はどうなっている?」

 

 

「現在、東部方面隊を指揮下とした東京都、神奈川県及び近隣の各駐屯地宛に昨日から非常招集をかけており完全ではありませんがほとんどの部隊が展開を完了、防衛ラインの構築にあたっています。」

 

「これにプラスして海上自衛隊及び在日米海軍、そして陸上自衛隊との合同演習で日本に来ていたアメリカ軍部隊も加わっており戦力に関しては問題がないかと…ただそれよりも問題なのが…。」

 

 

「通常兵器のほとんどが通用しないか……、これが一番の問題要素だな……。」

 

 

 

そう、バーテックスや星屑などに大して人類の要である通常兵器の攻撃がほとんど効かず、日本を含む世界各国が劣勢に立たされている原因と言っても過言ではない。仮に防衛ラインが構築出来たとしてもその対応策を打ち出さなければ他国と同じ運命を辿ることになってしまう。

 

 

 

「仮に避難出来て防衛が成功としても、今後のことを考えなければなりません。これだけの民間人を受け入れるとなるとこの横須賀基地のキャパシティでは追いつかない可能性が…」

 

 

「うむ……」

 

 

 

さらにはいくら防衛が成功したとしてもこれだけの民間人や隊員がいるとなると非常用の食料や周辺からかき集めてもほとんど足りない可能性がある。そのため、いち早く対策案も打ち出さなければならず、内閣総理大臣補佐官(国家安全保障担当)である五井 典弘の発言に思わず考え込んでしまう。

 

 

 

「七海大臣、ちょっと。」

 

 

「はい。」

 

 

 

そんな最中、後ろに控えていた防衛省の高官からの話を聞いていた秋竹 春吉統合幕僚長が七海大臣の元で何やら小声で話しかけているのが伺える。少しばかりの話を終えた彼女は再び久保田に視線を戻して小声で聞いた内容を総理大臣に分かりやすく言い直して伝えていく。

 

 

 

「総理、先ほど陸上幕僚監部から気になる報告があったとのことです。」

 

 

「気になること?それはもしかしてあの不明生物のことか?」

 

 

「いえ…、不明生物に関係するのはするのですが…。」

 

 

 

 

 

陸上幕僚監部

臨時司令塔

統合幕僚副長室にて

 

 

 

未だ外が騒がしい外の様子に耳を傾けつつ、統合幕僚副長である日比谷は向かい合うように座っている姉川に視線を戻して彼女から配られた書類を片手に口を開く。

 

 

 

「栃木県で起きた不明生物との戦闘、いわゆる「鬼怒川の戦い」。この戦闘で基地司令が不在の中、民間人を多く救うだけでなくあの怪物共を撃退か…。全く…君の指揮能力には驚かされるよ、姉川二尉。」

 

 

「まさか…、ここまで出来たのは基地のみんなが私の指示に従ってくれたからです。それがなければ鬼怒川での戦闘に勝利するだけでなく横須賀まで退避出来なかったでしょう…。」

 

 

 

あの統合幕僚副長でも思いもしなかったのだろう。少し驚いた表情を顕にしながら彼女に称賛の声を称える。駐屯地のリーダーとも言える基地司令、それがいない中で更には上層部からの指示がない状況という最中でありつつ栃木県内の部隊をまとめ上げて防衛ラインを築き、おまけにはあの化け物の撃退に貢献しているのだ、そうなるのも無理はない。

 

 

 

「…(スゥ)、それに…私達がこうやって戦えたのにはもつ一つ訳がありますし…。」

 

 

「…神からのご加護を受けた少女達…か。」

 

 

 

慌てて手を振って彼の称賛を苦笑いで否定しながらも、すぐに表情を切り替えて神妙そうな表情浮かべながら視線を下に落とす。そこには、姉川が神社庁職員や湯月などとともに作った独自の書類が置かれており、内容についてはどうやら…結華と羽南のことについてのようだ。

 

 

 

「先ほど君を呼んだときにチラリと見たんだが…あんなまだ二十歳にも満たない子達がそんな力を授けられるとはな…。」

 

 

「私も最初見たときは驚きましたよ……。いや…あのときあそこにいた人たち全員でしょうけど…、報告にあった化け物をいとも簡単に倒してしまうんですから…。」

 

 

「…本来であれば信じられないのだが…、状況が状況だ…。あの化け物といい、原因不明の地震…。科学的には説明がつかんな…。」

 

 

「えぇ…、そういえばあっちにいたときに無線で聞いたんですが…。この横須賀基地には首都圏エリアの駐屯地に展開している部隊が集結しているんですよね?」

 

 

「あぁ、そうだ。東部方面隊指揮下の部隊で集められるところから集めたってところだな…。木更津や百里基地もなんとか無事だったようで空自の連中も無線を聞いて退避してきたらしい。」

 

 

「空自も…、鬼怒川ではなにかと百里の部隊に助けられましたからね…。無事で何よりです(ホッ)。」

 

 

「その百里の連中によればやはり首都圏エリア以外、そして君たち宇都宮駐屯地のあるエリアを除けばほとんど全滅に近いらしい…。一部じゃ駐屯地のあるエリアから火の手が上がってたって話も上がってきている。」 

 

 

「やっぱりですか…。無線が繋がらないからある程度は覚悟していましたが…。」

 

 

「恐らく…戦闘に入る間もなく喰われたんだろうな…。考えただけでもおかしくなりそうだ…。」

 

 

 

首都圏や姉川達のいた栃木県の駐屯地のように被害を免れた場所はほんの僅かであり、それ以外のほとんどは戦闘に入る間もなく蹂躪されていき、辛うじて反撃が出来ても手持ちの武器がほとんど通じず苦痛や絶望に埋もれる形で食い殺されていったというのは容易に想像が可能だ。

 

考えただけでも気分がおかしくなりかけたため、気を確かにするために首を軽く振った姉川は話題を変えて統合幕僚副長にとある質問をする。

 

 

 

「確かアメリカ軍部隊もここにいますよね?陸上自衛隊と合同演習のために数日前に来ていた…。」

  

 

「第5海兵連隊のことだな。確かに来ているぞ、アメリカ海兵隊所属の第1海兵師団でうちの水陸機動団との演習のために昨日きこちらに到着したばっかりだ。」

 

 

「ということは…水陸機動団もここに…?」

 

 

「いや、水陸機動団はすでに富士演習場に入ってるからここ

にはいないな。辛うじて連絡は取れるが合流出来るかは分からんそうだ。」

 

 

「なるほど…、かと言ってこちらが助けられるかと言ったら余力がないので…なんとか無事を祈るしかないですね…。」

 

 

 

ここから西に行った先、静岡県の御殿場市中畑という街には日本人のほとんどが聞いたことがあるであろう。そう、陸上自衛隊の演習場、富士総合火力演習会場が置かれている場所だ。隣接する東富士演習場とともに広大な広さを兼ね備え、毎年の夏には恒例とも言える陸上自衛隊総合火力演習が開かれておりたくさんの人で賑わいを見せていた。

 

ここにも陸上自衛隊の各駐屯地が展開されており、中でも富士駐屯地には機甲教導連隊(富士教導団を含む)が置かれ、北海道近辺を除けば唯一本土で90式戦車を運用している場所とも言える。

 

 

…が昨日の天災によって静岡県内も地震の影響を受けたことによってまだ駐屯地や演習場自体はそこまで被害を受けていないが思うように動けないとのことで、こちらとの合流は厳しいと言われたらしい。

 

 

 

「まあこっちも首都圏エリア以外の状況はわからないからな…。なんとか目撃情報とかをもとに確認しているようなもんだし…、ところで彼女達は今どこに?」

 

 

「あー、それなら今は私の部下と一緒に―――」

 

 

 

 

海上自衛隊

横須賀基地逸見岸壁

 

 

「おぉ……!(目を輝かせ)。」

 

 

 

横須賀についてまだ時間が経っておらず、それにプラスしてあの戦闘や警戒をしていれば疲れているはず。なのにそれを感じさせないような雰囲気を見せながら結華は沿岸に停泊している艦船を見て目を輝かせていた。

 

 

 

「こんなに護衛艦や潜水艦がいるなんて…!!こんな時じゃなければシャッターチャンスですよこれ…!!(パシャ!!)」

 

 

「まーたはしゃいでるよ…(汗)。」

 

 

 

目を輝かせながらもスマホのシャッターを押しまくっている結華に大して、やれやれという表情になりながら苦笑いでその様子を眺めており、その隣では湯月が少し微笑ましそうな顔をしていた。

 

 

 

「いいんじゃないかしら…♪このご時世、息抜き出来るときに息抜きしとかないとやってられないからねー。」

 

 

「それはそうなんですが…(汗)、まあ結華ちゃんらしいからいっか…♪」

 

 

 

最初は苦笑いで見ていた羽南であったが、湯月の言葉を聞いてそれもそうかという表情になり笑みを浮かべながら岸壁を行ったり来たりしている結華を見つめていた。だがそんなことを知ってか知らずか彼女は楽しそうに艦船の写真を取っていた。

 

 

 

「しかも「いずも」がいるじゃないですか…!スマホとか雑誌で見たことはありますが生で見れるなんて…!!第1護衛隊群第1護衛隊に3月から護衛艦「ひゅうが」と入れ替えの形で配備されたばっかりの新鋭艦…!海上自衛隊最大とも言われるヘリ搭載型護衛艦…、まさに圧巻です…!」

 

 

 

この海上自衛隊の横須賀基地には総勢30隻にも及ぶ艦艇が所属しており、海上自衛隊最大で最新鋭のヘリ搭載型護衛艦「いずも」を始めとした第1護衛隊群第1護衛隊、及び第2護衛隊群第6護衛隊の水上戦闘艦8隻を有している。もちろんそれだけでなく、潜水艦部隊を中心とした第2潜水隊群他、掃海隊を含む各方面の部隊がこの横須賀には揃っている。

 

 

 

「ってあれは…、米第7艦隊所属の「ロナルド・レーガン」…!うわー…♪大っきい…(キラキラ)。」

 

 

 

視線を一つ移すと沿岸沿い東京湾内の警備のために洋上停泊している護衛艦と同じようにアメリカ海軍の第7艦隊所属の艦艇も集結していた。その中、護衛艦「いずも」よりも更に巨大な船体で広大な滑走路を持ち洋上の飛行場とも言われる原子力空母「ロナルド・レーガン」(CVN 76)の姿も確認出来る。

 

海上の飛行場とも言えるその滑走路には多数の戦闘機や哨戒機が駐機しており、時折紹介任務を行っていたMH-60R シーホーク)統合多用途艦載ヘリが離着艦しているようだ。

 

 

 

「あっいたいた…!湯月さーん!ちょっといいかしら!」

 

 

「あっはい!分かりました…!ごめん二人共ちょっと待ってて。」

 

 

「はーい。」

 

 

「了解です…!!」(まだ目を輝かせながら)

 

 

 

すると、統合幕僚副長との話を済ませたのか姉川が逸見岸壁にやってきて湯月を手招きしているようだ。それを受けて二人にちょっと待っててと伝えながら彼女は姉川の元へ駆け寄ってくる。

 

 

 

「どうされましたか?姉川さん」

 

 

「さっき統合幕僚副長と会ってきたの。ひとまずあの子達のことは一通り伝えできたわ、それと一通りの世界情勢や国内情勢も軽く聞いてきたって感じかしら。やっぱりどこもよろしくないみたいね…。」

 

 

「やっぱそうかー…、まあここに来るまでもそうだったからね……。ある程度覚悟はしてたけど…、それで私達はこれからどうなるのかしら?」

 

 

「とりあえずは東部方面隊指揮下に組み込まれて横須賀防備に当たることになったわ。といっても中央即応連隊の臨時指揮をするのは変わらず私で継続だって…。」

 

 

「あらー、なら姉川さんかなりの出世じゃないー♪(ニヤリ)駐屯地の士官下っ端から中央即応連隊の指揮官なんて〜。」

 

 

「大したことないわよー…(汗)たぶん鬼怒川での戦闘が響いているんでしょうし…。それにたぶん一番の理由はあの子達だと思うけどね…。」

 

 

「まあね…、そりゃあんな化け物と対抗出来る戦力があるならそりゃ誰だってそうするわよ…。私だってそうだし…」

 

 

「とりあえず統合幕僚長経由で政府に彼女達のことを報告してそれからどうするかは決めていくらしいわ。…まっ他に術がない以上やるでしょうけど…。」

 

 

「……。」

 

 

いくら未成年で幼き少女とはいえ、あの化け物と渡り合える力を持っている以上使わざる終えないのが現状。じゃなければ沢山の人がいるこの横須賀はあっという間に全滅してしまうだろう。それだけ今の状況は切羽詰まっており議論を根深くする余裕がないということだ。

 

一体これからどうなってしまうのか…、そんな彼女達の不安を予想に物語はさらなる展開へと突入していくのであった。

 

 

 






第六話 予言者 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。