僕は逆走してアスカを救う! ~シト逆転~ リバース・オブ・エヴァンゲリオン The 3rd   作:朝陽晴空

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第十八話 魂の選択を

 ヴィレの総司令になったミサトさんが打ち出した、エヴァの戦いを実況放送するという方針。

 その宣伝効果に目を付けたアメリカ政府の圧力により、アスカは参号機、僕は肆号機、カヲル君は仮設伍号機に乗り替えて戦うことになってしまった。

 

 

 

 前の世界では使徒に乗っ取られた危険な参号機のパイロットに、アスカが立候補。

 

「この間、アタシを抱きしめて守っていた借りは返すわ。いざとなったら、シンジが助けてくれるんでしょう?」

 

 そう彼女に言われたら、止めることはできなかった。

 

 

 

 松代で三体のエヴァの起動実験ショーが開催される。

 多くの観客が押しかけていて、参号機が使徒のせいで暴走したらどうなるか不安だった。

 前の世界ではミサトさんとリツコさんたちが爆発に巻き込まれて怪我をしたと聞いていた。

 

 

 

「爆発に関しては最大限の対策をするわ。むしろ、戦隊物に爆発シーンはお約束ね」

 

 ミサトさんはおどけた様子で言っていたけど、その目は真剣そのものだった。

 しっかりと安全に配慮してくれるんだろうなと、この場は彼女を信用する。

 

 

 

 初号機と弐号機にしか乗ったことのない僕たちに、参号機や肆号機が動かせるのか不安はあった。

 参号機が起動しなければ、使徒は覚醒しない。

 そうすればアスカも危険な目に合わずに済む。

 しかしそんな甘い考えは通じずに、参号機は起動してしまった。

 間髪置かずに肆号機と伍号機も起動する。

 

 

 

「大変です! 伍号機に高エネルギー反応!」

「あんですって!? どうして伍号機に使徒が居るのよ!」

「参号機の音声カットして!」

 

 マヤさんの報告に、アスカが驚きの声を上げる。

 ミサトさんの英断により、彼女の声は市庁舎に居る視聴者たちに聞こえなかったようだ。

 

 

 

「ありがとう、カヲル君」

 

 僕は事前にカヲル君に頼んで、使徒を伍号機に呼び寄せてくれないかと頼んでいた。

 アスカの決意を踏みにじったのは悪いと思っているけど、僕は彼女が汚されるのがどうしても我慢できなかった。

 

「なるほど、シンジ君は惣流さんを他の男に寝取られるのが嫌なんだね」

「別に使徒が女性でも両性でも嫌だよ」

 

 

 

 カヲル君はいつの間にそんな人間の感情の機微を学んだのかという疑問に対しては、僕たちのファンが描いた『同人誌』という『薄い本』で知識を得たのだと言う。

 

「本は良いねえ、何でも教えてくれる」

 

 

 

 僕の提案は彼にとっても渡りに船だったようだ。

 カヲル君は使徒バルディエルの力を借りて、やりたいことがあった。

 伍号機に高エネルギー反応があった次の瞬間、僕たちの視界が真っ白に染まった……。

 

 

 

 気が付いたら頭上に星空。

 足元には白い砂の砂漠が広がる。

 周りには地平線しかない。

 静かな世界に立っていたんだ……。

 

 

 

「なによ! アタシたち、あの世界に戻っちゃったワケ!?」

 

 前と違うのは、元気な声を張り上げているアスカが隣に立っていることだった。

 喚きたてているアスカの手を優しく握る。

 

「僕はこうしてアスカと一緒に居られるだけで幸せだよ」

「そうよね……」

 

 

 

「残念だけど、そこまでにしてもらえるかな」

 

 僕たちの唇の接触は、カヲル君によって止められた。

 キスを邪魔されたアスカは、とても不機嫌な顔で彼をにらみつける。

 

「合体されるとややこしいことになるからね」

「アンタの仕業なの?」

「ここはバルディエルの力を借りて作ったマイナス宇宙空間。君達に理解しやすく言えば、心の中の世界だね。だから形は一定じゃない」

 

 

 

 カヲル君が手を振りかざすと、周りの風景が電車の中へと変化した。

 前の世界で使徒に飲み込まれた時も、こんな感じでもう一人の僕と話した気がする。

 

「君達は逆走したと思い込んでいるこの世界。実はシンジ君の逆走したいという願いによって創られたものなんだ」

「えっ!?」

「時間を巻き戻すなんて、神様だって不可能なことさ」

 

 

 

 彼のいうとおりならば、目の前にいるアスカも、僕によって生み出された存在となる。

 彼女を救うために逆走を選んだのに、残酷な事実を突きつけられた。

 

「失望しなくていいんだよ」

 

 

 

「僕たちが目の前に居る!?」

 

 優しくカヲル君がささやくと、向かい合わせの電車の座席に、寝息を立てている僕とアスカそっくりの人影が現れた。

 広告がプリントされているプラグスーツ姿の僕たちと違い、彼らは第壱中学校の制服を着ていた。

 

 

 

「こっちはこの世界が創造された時に生まれた君達の魂。二人の魂が二組ある理由、シンジ君なら分かるよね?」

「やっぱりアスカは、僕の世界のアスカなんだ!」

「ちょっと、喜び過ぎよ!」

 

 

 

 この世界で唯一無二の、僕が創ったものではない存在。

 例えるなら、夢の中にある現実。

 とても愛おしく思えて、離さないと力強く抱き締めてしまった。

 

 

 

「おっと、合体は困るよ。これから魂の選択をしなくてはいけないからね」

「魂の選択?」

 

 オウム返しにカヲル君に答える。

 なにか嫌な予感がした。

 

 

 

「今まで君達の身体には二つの魂が入っていた。逆行前の世界からやってきた君達の魂と、この世界が創造された時に誕生した魂さ」

「アンタ、アタシ達に身体を返せっての!?」

「この世界を創ったのはシンジ君さ、彼の判断に任せるよ」

 

 

 

 自分の身体が精神体だと分かっていても、全身から汗が噴き出すような思いだ。

 この世界の僕たちを犠牲にして生き延びる。

 彼は僕にその手を汚せというのか。

 

 

 

「僕にはできないよ! 何の関係もない魂を消すだなんて!」

「アンタバカァ!? アタシ達が消えたら、この二人が使徒と戦うことになるのよ!」

 

 アスカは冷たい人間だ、と思った僕だけど、彼女の目に涙が溜まっているのを見て、即座に考えを改めた。

 ここで彼らの魂を消しても、アスカに言われたからと逃げ道を作れる。

 彼女の僕への思いやりに溢れた言葉なんだ。

 

 

 

「やれやれ、それならシンジ君の創造の力を使って彼らを異世界転生させるというのはどうかな?」

 

 ため息を付いたカヲル君は、この二人の魂を別の世界に移す提案をした。

 それをすると、僕の持っている創造の力が大きく減ることになるらしいけど……。

 

 

 

「アスカ、それで良いかな?」

「これでアンタへの借りは返したからね」

 

 腕組みをして不機嫌そうな表情を作ろうとしても、精神世界では思ったことが顔に出やすくなる。

 ツンツンしても、バレバレだよアスカ。

 

「ニヤニヤするな!」

 

 僕の心の中も彼女に読み取られてしまった。

 

 

 

「さあシンジ君。彼らの魂を導いてあげるんだ」

 

 カヲル君に言われるまま、寝ている二人に手をかざす。

 すると二人の身体は銀色の精神体となって、電車の窓から星空の彼方へと消えて行った。

 

 

 

 星空の中を走る電車なんて、銀河鉄道みたいだ。

 

「それで、二人をどこの世界に飛ばしてあげたのよ?」

「えっ?」

「何も考えてなかったの!? あきれた。本当にバカシンジね」

「ゴメン……」

「アタシに謝ったって仕方ないじゃない。あの二人のバイタリティに賭けるしかないわ」

 

 あの二人の運命は、まさに神のみぞ知ることになってしまった。

 いまさら僕にはどうしてあげることも出来ない。

 

 

 

「さてと、目的を果たしたところで元の世界に戻るわけだけど、頃合いを見て伍号機エントリープラグを引き抜いてくれないかな」

「また新しい使徒を吸収するつもり?」

「頼むよ」

 

 カヲル君には大きな恩がある。

 アスカの流儀にも従って、現実世界に戻った僕たちは救出ショーを演じた。

 

 

 

「なんと! 伍号機は使徒に乗っ取られてしまった模様です! 二人は協力してパイロットを救出することができるのでしょうか!?」

 

 ミサトさんの実況中継で、観客達の雰囲気も盛り上がる。

 伍号機は人型兵器とは思えないトリッキーな動きをして僕たちを翻弄する。

 浸食タイプの使徒相手に、正直いって盾は邪魔で仕方がない。

 だけど『ニューヨーク市警』と書かれたものを直ぐに投げ捨てるわけにもいかず、しばらく持ったまま対処した。

 

 

 

 カヲル君に逆に乗っ取られた使徒は、僕たちが紙一重で避けられる攻撃を仕掛けてくる。

 盾を構えた僕の乗る肆号機は、伍号機の正面で注意の引付役。

 アスカの乗る参号機は背後に回り、エントリープラグを引き抜く救出役。

 

「参号機が、パイロットの救出に成功しました!」

 

 実況アナウンサーのミサトさんがそう言うと、見守っていた観客のみんなから拍手が巻き起こる。

 コアを引き抜かれ、抜け殻になった伍号機が崩れ落ちた。

 

 

 

「使徒の殲滅を確認! 使徒のコアはエントリープラグにあったようです! 果たして伍号機パイロットの少年は無事なのでしょうか!?」

 

 エヴァから降りた僕は伍号機のエントリープラグのハッチを開ける。

 シートでは涼しい笑顔をしたカヲル君が座っていた。

 

「どうやら彼は傷一つなく無事のようです! 今回もシンジ君とアスカはよくやってくれました!」

 

 みんなから拍手と歓声を浴びて、気恥ずかしくなった。

 アスカは当然といった顔で立っている。

 

 

 

 戦いは終わって、観客のみんなは帰っていった。

 

「お疲れ様。渚君の協力もあって、最高のショーになったわよ」

 

 どうやらミサトさんは途中から伍号機を操っているのはカヲル君だと気づいていたようだった。

 

「また使徒を吸収したようだけど、あなたはどうするつもりなのかしら?」

「使徒の魂を移す器がないからね。しばらくは同居してもらうよ」

 

 カヲル君はミサトさんの質問にそう答えた。

 すると彼女は意味深な笑みを浮かべる。

 あれはろくでもないことを思い付いた時の顔だ。

 

 

 

「牢屋にちょうどいいのがいるじゃない」

「ちょっと待って、父さんに使徒の魂を移すの!?」

 

 山岸さんのように、彼の魂を強引に押さえつける案に反対する。

 リツコさんもその意見に難色を示した。

 

「碇司令の場合、使徒の精神支配を跳ねのけてしまうリスクがあるわ」

「つまり彼の心はまだ折れていないってことか……」

「観念してマダオになってしまえばいいのにね」

 

 そう言ってリツコさんは暗闇の笑顔を浮かべた。

 どす黒い感情が彼女の中で渦巻いているのが分かる。

 父さんの釈放の日はまだまだ先のようだ。

 

 

 

 山岸さんの体も、今は使徒の魂が宿っているけど、いずれは本人に返すつもりだとカヲル君は話した。

 そうするとカヲル君は一つの体に三人の魂を持つ事になるけど大丈夫かな?

 

「心配ないさシンジ君。『三人寄れば文殊の知恵』というじゃないか」

「それは違う気がするよ」

 

 今までの僕も、合体したときは眠っていた彼らの魂も含めて四つが同じ体に同居していたんだっけ。

 完全に混ざり合うことなく、元に戻ることも出来ていた。

 魂って自由に移動できるものなのかな。

 

 

 

 長くなった撮影後の反省会もこれで解散。

 次回の脚本作りに忙しいミサトさんより先に、僕たちは電車に乗って帰ることになった。

 すると最寄り駅ではトウジとケンスケと洞木さんが待っていた。

 

「シンジ、今回も大活躍だったやないか」

「エヴァのパイロットってばカッコ良いよな、憧れの存在だよ」

「そんな、僕は大したことはしてないよ」

「謙遜しなくていいのよ、碇君」

 

 

 

 実際に頑張っていたのはカヲル君なんだから、本当のことを言ったまでだけど……。

 でも救出劇は茶番だったと告白するわけにもいかない。

 

「あーあ、俺もエヴァに乗ってみたいな」

「……私も」

「綾波まで、何を言い出すんだよ。とっても危険なんだよ!」

 

 電車の中に他の乗客がいるにも関わらず、僕は二人に諦めてもらうように説得した。

 その場では納得したように見えた綾波とケンスケとだったけど、二人とも強い気持ちでエヴァに乗りたいと思っていたなんて、その時の僕には分からなかったんだ。




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