僕は逆走してアスカを救う! ~シト逆転~ リバース・オブ・エヴァンゲリオン The 3rd   作:朝陽晴空

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第十六話 生きる希望、しかし

 次に使徒が突然出現するポイントは、僕達には分かっていた。

 第三新東京市の一角のその場所周辺は、大規模工事予定地として立ち入り禁止エリアに設定された。

 どんな施設を作るかは公表されていない。

 だって何も作るつもりはないからだ。

 

 

 

 しかしみんなの想像は膨らんで、大型戦艦を造るための工場だとか、球団をサプライズで招待するためのドーム球場だとウワサする人たちもいた。

 広報部長と総司令を兼ねているミサトさんには取材が殺到している。

 

「そんなワケで、ネルフから外に出ると記者に捕まってしまうから、家には帰れそうにないのよ」

 

 この騒動が収まるまで、僕とアスカと綾波の三人だけの夜は続くことになりそうだった。

 本当に綾波が同居してくれて居て助かった。

 僕とアスカ二人きりだったら、キスよりも進んだ段階にいっていたと想像できる。

 

 

 

 ミサトさんが頭を悩ませていたのは、次の使徒との戦いをショーとしてどうやって演出するか、だった。

 僕とアスカが使徒の中に飛び込んで内側から使徒を倒す、ではエンタメ性に欠けると葛城監督は判断したのだ。

 命を懸けて使徒と戦っているのに、負けたらショーなんて言っている場合ではないと思うけど。

 

 

 

 それに使徒の内側からマイナス宇宙空間を破壊して、使徒のA.T.フィールドを崩壊させるには僕たちの力を大量に消費すると、リツコさんも反対だった。

 カヲル君が提案したのは、S2機関を持った初号機と肆号機、そして使徒アルミサエルに憑依された山岸さんの乗る参号機が使徒の内部へと飛び込む。

 その後S2機関を共鳴させて使徒のマイナス宇宙を破壊すると言うものだった。

 

 

 

 彼の提案は受け入れられ、有事に備えて参号機の展示は一時中断された。

 山岸さんは今回だけのスポット参戦となるため、正体を隠して作戦に参加する。

 極力バレないようにするため、ロシア人の『マリィ・ビンセンス』と偽名を使うことになった。

 万全の態勢を取って待ち受けていると、予想した場所に使徒が出現した。

 

「シンジ君達から聞いてはいたけど、地味な配色の使徒ね。インス〇映えしないわ」

「ミサトさん、テレビ番組の視聴率よりも人類の命運を気にして下さいよ」

 

 すっかりTV局ディレクターに染まってしまった彼女にツッコミを入れる。

 早くも視聴者からは使徒に『オ〇オ』とあだ名をつけられているようだった。

 

 

 

「まず、初号機が先行して使徒に攻撃を仕掛けます。その他のエヴァはいつでも援護に駆け付けられるように待機」

「了解」

 

 空中に浮かぶ使徒の影に攻撃を仕掛ければ、そのエヴァの足元に使徒の本体が移動するはずだ。

 僕は立ち入り禁止区域に入ったことを確認すると、使徒の影に向かってパレットガンを発射した。

 予想通り、使徒の影は僕の頭上へと移動し、使徒の本体は足元から初号機を飲み込み始めた。

 

「うわあ、何だよコレ!」

「シンジ!」

 

 もちろんこれは驚いたフリだ。

 僕はウソを付くのは上手じゃない。

 ぼろが出る前に、残るエヴァ全機、初号機の救出へと向かう迫真の演技。

 

「ダメよ! あなた達まで使徒に飲み込まれるわ!」

 

 ミサトさんも役者として頑張っている。

 にやけた顔など決して見せてはいけないんだ。

 

 

 

 僕は助けを求めるように両手を地上へと向かって伸ばす。

 その手をつかんだのは参号機と肆号機。

 

「あなた達、手を離しなさい!」

「葛城司令、僕たちはもう手遅れのようです」

 

 参号機と肆号機は肩の半分まで使徒に飲み込まれてしまっていた。

 

「シンジィーーッ!」

 

 僕が最後に聞いた通信は、大きなアスカの叫び声。

 茶番劇だと分かっていても、胸が痛む。

 

 

 

 

 

 

「さてと、今頃は地上で惣流さんが涙声でシンジ君の名前を叫んでいるだろうね。綾波君も加わっているかもしれない」

 

 ミサトさんの演出だとはいえ、アスカと綾波にそんな芝居をさせるなんて気分の良いものじゃない。

 彼女のシナリオでは、アスカの呼び掛けに答えた僕が愛のミラクルパワーで使徒を倒すといったものだった。

 

 

 

「じゃあそろそろマイナス宇宙を生成しようか。シンジ君、アルミサエル、バルディエル、君達の力を借りるよ」

 

 肆号機のコアに共鳴する形で、初号機と参号機のコアも光り出した。

 その共鳴に反応したのが、使徒レリエルのコアだった。

 五つのコアの力は、マイナス宇宙への入口をこじ開ける。

 僕の視界が真っ白に染まって行った……。

 

 

 

 真っ白な光が収まった後、僕は通い慣れた第壱中学校の教室にいることに気が付いた。

 でも、僕がいるのは自分のクラスである2-Aじゃない。

 目の前には教科書に落書きをされて泣いている山岸さんの姿。

『根暗』などの心無い言葉がたくさん書き殴られている。

 

 

 

 

 そうか、僕たちが今居るのは、山岸さんの心のマイナス宇宙空間なんだ。

 山岸さんは自分の席で、泣きながら落書きされた教科書のページを消しゴムで消している。

 明日の授業で文字が読めないと困るからだ。

 でも、すっかり日が暮れて暗くなると、彼女の手が止まった。

 操り人形の糸が切れたかのように、全身の力が抜ける。

 ゴシゴシと擦っていた消しゴムも手から投げ出された。

 

 

 

 ゾンビのような足取りで2-Cの教室から廊下に出た山岸さんは、一直線に屋上へと向かった。

 校舎の屋上に登るための階段の鍵は、夜は施錠されているはずなのに、何者かによって鍵が壊されてしまっていた。

 これでは山岸さんが簡単に屋上へと侵入できてしまう。

 

 

 

 屋上へと出た山岸さんはためらうことなく柵をよじ登って身を向こう側に投げた。

 でも彼女の身体をカヲル君はA.T.フィールドで受け止めた……。

 それはあの日実際にあった出来事なのは、僕もアスカも綾波も目撃している。 

 

「君は死んではいけない。生と死は等価値ではないのだから」

 

 カヲル君のその言葉と共に、また場面が切り替わった。

 

 

 

 今度は前にも見たことのある、宇宙空間を走る電車の中の光景だった。

 車両の中に居るのは、僕と女性化したカヲル君、山岸さん。

 あれ? カヲル君と使徒が合体しているってことは……?

 

「お願いです。私は彼女が側にいないと生きていけないんです。戻してください」

 

 山岸さんはカヲル君の制服の裾を引っ張ってお願いしていた。

 やっぱり使徒は山岸さんの身体から出ていったみたいだ。

 

「大丈夫、もう君はいじめられることはなくなったはずだよ。それは分かっているんじゃないかな?」

 

 2-Cに転校した山岸さんは、クラスに馴染めず。

 女子グループから陰湿ないじめを受けていた。

 群れることなく孤立した草食動物が、肉食動物の標的にされるように。

 

 

 

 しかし使徒に憑依された山岸さんは、自分の意思で身体を動かして、命を絶つことは出来なくなった。

 それから平然と振舞う山岸さんの行動を見て、いじめていた女子グループは彼女への評価を変えた。

 少し脅せば学校へと来なくなると思っていたようだった。

 

 

 

 それが学校に来てカヲル君の居る僕たちの教室に足繁く通うようになっている。

 まるで人格が入れ替わったように彼女たちは感じたようだ。

 実際にそうなんだけども、想像すらできないだろう。

 

 

 

 山岸さんに興味を無くした彼女達は、もう彼女の教科書を汚すこともしなくなった。

 もう付きっ切りで守ってあげる必要はない。

 カヲル君はこのマイナス宇宙空間を山岸さんが独り立ちする良いステージだと考えたようだ。

 

「お願いです、彼女を返してください……私には側で励まし続けてくれていた彼女がまだ必要なんです」

「これからは僕たちが山岸さんの側にいてあげるよ。ねえ、シンジ君?」

「うん、僕たちで良ければ。きっとアスカや、綾波も、委員長も霧島さんも友達になってくれるよ」

 

 もちろん、山岸さんがいきなり僕たちの友達の輪に入るのは難しいとは思っている。

 だけど、手を差し伸べてあげるのは大切なことだ。

 カヲル君の手を取って、山岸さんは立ち上がった。

 

 

 

「さあ、使徒レリエルの心も捉えた。そろそろ、このマイナス宇宙も閉じる時間だよ」

 

 カヲル君は僕たちと話ながら、同時に使徒ともコンタクトを取っていたなんて、驚くばかりだった。

 彼が居れば、使徒を全て楽勝に倒せてしまうんじゃないかな。

 

「シンジ君、僕達使徒はS2機関を持っているけど、一度に出せる力には限界があるんだ。君の創造の力のように、減っていくだけの力じゃないけどね」

 

 僕の心の中を見透かしたかのように、カヲル君はそう言った。

 

 

 

 エヴァの中でS2機関が搭載されているのは。

 僕の乗っている初号機。

 山岸さんの参号機。

 カヲル君の肆号機。

 零号機と弐号機には無いから、綾波とアスカには作戦から外れてもらった。

 

 

 

 そして使徒アルミサエルと使徒バルディエルは形を変えてカヲル君と融合している。

 合計五個のS2機関で、使徒レリエルのマイナス宇宙を強引に抑え込む。

 

「シンジ君、準備は出来ているかい? ショーの方も盛り上げないといけないからね」

「うん」

 

 初号機が使徒の影から脱出すると同時に、A.T.フィールドを展開し、弐号機の小指に巻き付ける演出プランがミサトさんから言い渡されている。

 彼女は『赤い糸大作戦』と名付けていた。

 

 

 

「シンジィーーッ!」

「アスカァーーッ!」

 

 しっかりとA.T.フィールドが初号機と弐号機の小指を繋ぎとめたのを見て、発令所のミサトさんはマイクを手に取る。

 

「弐号機の必死の呼び掛けが、初号機に届きました! 愛の力で奇跡が起きたのです!」

 

 彼女が煽るようにまくしたてると、視聴者達からも大反響。

 後に『奇跡の戦士エヴァンゲリオン』というキャラクターソングまで出るほどだった。

 

「さあ、感動の再会……おおっと、初号機と弐号機は感激のあまり合体してしまったようです!」

 

 お芝居だとは分かっていたけど、気持ちが高ぶってしまった僕はエヴァ越しにアスカとキスをしてしまった。

 視聴者を沸かせるオチが付いたところで放送は終了となった。

 

 

 

 

 

 

「みんな、お疲れ様。今回はアスカとレイに主演女優賞ね。高視聴率間違いなしだわ」

 

 ミサトさんは大いに満足した様子で僕達に声を掛けた。

 綾波の頬には涙の跡が残っている。

 アスカも同じぐらい泣いてくれたのかな。

 今は合体してしまっているから確かめようがないけど。

 

「確認の必要なんかないわよ!」

 

 アスカの声が直接僕の頭の中に響く。

 彼女がよっぽど恥ずかしい思いをしたのが僕の心の中にも伝わってくる。

 

 

 

「大丈夫、編集して円盤で発売するために映像はバッチリ録画してあるから」

「こらっ、何を楽しみにしているのよ、シンジ!」

 

 ミサトさんの言葉を聞いてにやけてしまった気持ちがアスカに筒抜けのようだった。

 

「僕のためにアスカが泣いてくれるなんて、嬉しいからさ」

「だからアレは番組を盛り上げるための演出。ちょっと感情が入っちゃっただけ! アンタこそ、いきなりキスするなんて、台本に無かったわよ」

「ゴメン、僕も気持ちが入っちゃったみたいだ」

 

 そう言って僕達二人は声をあげて笑った。

 

 

 

「二人とも、盛り上がっているところ悪いんだけど」

 

 傍から見ると、僕が一人で笑っているように見えてしまう。

 リツコさんに声を掛けられた僕は表情を引き締める。

 

「その……碇元司令があなたに話をしたいそうよ」

「父さんが?」

 

 言いづらそうに彼女が話を切り出すと、僕は驚いた。

 

「今まで逃げていた司令が急に話をしたいだなんて、どんな風の吹き回しかしらね」

 

 僕の中に居るアスカも、不気味さを覚えているようだった。

 リツコさんも同じ思いのようで、

 

「無理して話す必要はないと思うけど……どうする?」

 

 と僕に聞いてきた。

 

 

 

 逆行前の世界では、最後には母さんに逢えたからなのか、僕に心を開いて創造の力をくれた父さん。

 でも人類補完計画が止まってしまっている今の状況で、彼は僕のことをどう思っているのだろう?

 知りたいという気持ちが恐怖心に勝った。 

 

「分かりました、父さんと話してみます」

 

 僕はリツコさんに、そう答えていた。




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