僕は逆走してアスカを救う! ~シト逆転~ リバース・オブ・エヴァンゲリオン The 3rd   作:朝陽晴空

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第十五話 碇ゲンドウの本心と雄弁に語る証拠

 

 元ネルフ司令の父さんの身柄はヴィレによって保護されている。

 その実情は監禁だ。

 だから僕と彼の面会はヴィレの取調室でやることになった。

 面会にはミサトさんが立ち会ってくれるけど、まだ僕の心には大きな不安があった。

 

 

 

 リツコさんも話していた。

 父さんの心の闇に飲み込まれるなと。

 

「シンジ、碇司令と話すのがそんなに怖いの?」

「アスカはお見通しか」

「上の空で作った料理なんて、ちっとも美味しくないわ。ねぇ、レイ?」

 

 彼女の問い掛けに、綾波はこくんとうなずいた。

 面会の前日からこんなにガチガチに緊張していては、ろくに話ができないだろう。

 見かねたアスカが大きなため息を漏らす。

 

「ねえ、側に付いていてあげようか」

「アスカが居てくれれば心強いけど……」

 

 僕はそこで言葉を濁した。

 父さんの話に腹を立てた彼女が手を挙げるかもしれない不安が湧き上がる。

 

 

 

「そんなに気になるなら、合体してから行く?」

「よろしくお願いするよ」

 

 こんな自分勝手な願い事も、アスカは聞いてくれるようになった。

 お礼に今度、フカヒレラーメン大盛りを御馳走しよう。

 明日への不安が和らいだ僕は、彼女のことを思いながら眠りに就いた。

 

 

 次の日、アスカと合体した僕はミサトさんと一緒にヴィレへと向かう。

 彼女がキスをして頭の中で叩き起こしてくれなかったら、僕は寝坊してしまうところだった。

 それほど心の底から僕は父さんを恐れているのかもしれない。

 

「久しぶりだね、父さん」

 

 僕とアスカが合体した姿は、彼も目にしているはずだ。

 父さんは押し黙ったまま、僕をにらみつけている。

 目は口程に物を言う。

 弱気な態度を見せるわけにはいかないのは分かっているけど、先に目を反らしたのは僕の方だった。

 

 

 

「お前の手で人類補完計画を遂行してユイに引き合わせれば、愛してやる」

 

 父さんの口から突然出てきた言葉に、僕は顔面を殴られたような衝撃を受けた。

 すぐ傍で立会人をしているミサトさんには、予測が付いていた様子だ。

 

「そうとでも言うと思ったか? だが生憎だな、私はお前を愛しいと一片も思っていない」

「そんな……」

 

 取り付く島もない父さんの態度に、僕は崩れ落ちそうになった。

 机に手を置いて必死に身体を支える。

 僕をわざわざ呼び出した意図を測りかねたミサトさんが眉をひそめて彼をにらみつけた。

 

「運命の神の手によって、私の全てであったユイは奪われた。お前も融合しているセカンドを失えば、私と同じ気持ちになるだろう」

「人類補完計画をしろっていうの?」

「ああ、お前自身が望むようになる。だが勘違いするな。お前は人類補完計画を遂行するための道具に過ぎん」

「道具だって!?」

「道具は自分勝手に考えることは許されない。私のシナリオ通りに遂行しろ。分かったな。そして、それをユイも望んでいる」

 

 

 

 母さんも人類補完計画をしろって言っている!?

 僕の顔から血の気が引いて行くのを感じる。

 

「碇元司令、これ以上あなたの発言を許すわけにはいきません」

「構わん」

 

 父さんはミサトさんにそう答えたきり、黙ってヴィレの隊員に連行されて行った。

 僕の頭の中では彼の言葉がグルグルと渦巻いている。

 

「僕は……道具……僕は……道具」

「シンジ、気をしっかり持って! アタシは居なくなったりしないんだから! 人類補完計画なんてする必要はないわ! 碇司令の口から出まかせよ!」

 

 

 

 

 

 

 僕はミサトさんに身体を支えられ、アスカが心の中で励ましてくれたおかげで心を落ち着かせた。

 

「シンジ君、もう立ちあがれる?」

「はい、なんとか」

 

 彼女を心配させまいと、僕はミサトさんに笑顔を作って答えた。

 アスカには自分が強がっていることは筒抜けだけど。

 

「あなたのお母さんが人類補完計画を望んでいたって話だけど、彼女なりの事情があると思うの。だからリツコにも手伝ってもらって、ユイさんの記録を調べてみるわ」

「ありがとうございます!」

 

 ミサトさんは総司令の仕事もあるのに、こうして僕のために色々としてくれる。

 いくら感謝しても足りないくらいだ。

 

 

 

「じゃあ今日はこれから、気晴らしにアスカとデートをしなさい。遊園地を貸し切りにしてあるから」

「えっ!?」

 

 僕とアスカはシンクロして驚いた。

 ミサトさんがタブレットで見せてくれたのは、日本最大級の遊園地、多摩ランド。

 セカンドインパクトでの水位上昇で、水辺にあった遊園地は閉園してしまったけど、この遊園地は奥まったところにあったから残ったんだ。

 

「多摩ランドでデートだなんて、たまらんど! なんちゃって。アスカも喜んでいるでしょ」

「余計なこと言わなければ素直に感謝したのに」

 

 アスカのつぶやきは僕の頭の中で響くだけ。

 とりあえずごまかし笑いを浮かべてミサトさんにお礼を言った。

 使徒との戦いが終わって、日常を取り戻せたのなら。

 二人で遊園地でデートをしようという気持ちは一致している。

 

 

 

「さてと、私は司令室に行くから、送迎はヒマ人に任せるわ」

「ミサトさん、仕事で忙しいのに僕に付き添ってくれて本当にありがとうございます」

「事務仕事は日向君、他の組織との外交は冬月先生に任せてあるから大丈夫よ。デートのアイディアを出してくれたのも、冬月先生なのよ」

 

 副司令がリツコさんに代わった後、「冬月さん」と呼ぶのは忍びないので、ヴィレのみんなは先生と言っている。

 僕は冬月先生へのお礼の言付けをミサトさんに頼んで、アスカとの合体を解いてからロッカールームに立ち寄った。

 ミサトさんはデートの服も用意してくれた。

 

「これは、ミサトの趣味なんだからね! アタシは仕方なく着ているのよ!」

 

 女子ロッカールームから出てきたアスカは、リボンがあしらわれた可愛い服を着ていた。

 

「とっても似合っているよ」

「ありがと」

 

 

 

 僕たちが手をつないで待ち合わせの場所へ行くと、待っていたのは加持さんだった。

 

「ヒマ人って、加持さんだったんですか」

「まあ、そういうことさ」

 

 加持さんはヴィレ諜報部の中心的存在だとミサトさんが話してくれた。

 ミサトさんのために三重スパイを止めて、元ネルフの諜報部を束ねてくれたんだとか。

 

「アタシ達くらいのVIPともなれば、加持さんが警護について当然よね」

「えっ、僕達ってそんなに偉いんですか?」

「エヴァのパイロットといえば、第三新東京市、いや、世界のヒーローだよ」

 

 指摘されるまで、僕は自分の立場を理解していなかったみたいだ。

 学校で普通にして居られるのも、加持さん達が守ってくれていたからなのか。

 

「遊園地の周辺警護は俺達ヴィレ諜報部に任せて、君達二人はデートを思い切り楽しめ!」

「はい!」

 

 僕たちは声をそろえて元気いっぱいに返事をする。

 ここまでお膳立てしてもらってるのに、下を向いて落ち込んでいたら、みんなの気遣いを無駄にしてしまう。

 

 

 

 

 

 遊園地は通常営業。

 いつもなら何時間も行列待ちをするアトラクションも乗り放題。

 まずアスカが飛び付いたのは絶叫マシンの類だった。

 

「まさか一日で全部を制覇出来るなんて、夢みたい!」

「少しは手加減してよ」

 

 目を輝かせるアスカに、僕はそう声を掛ける。

 エヴァのパイロットとして長い時間を過ごしている間に、僕もこれらの乗り物に対して耐性が付いたようだ。

 たくさん乗っても乗り物酔いしない。

 

 

 

 広い遊園地をふたりで巡っていると、気づけばもう日が傾いていた。

 長く伸びる影を見ながら、僕たちはどちらからともなく観覧車へと向かった。

 観覧車に乗ると小さな箱の中を夕日がより強く照らす。

 

「……こうして人気のない遊園地にいると、あの赤い海の世界を思い出すわね」

 

 少し眩しそうに、目を細めるアスカ。

 その瞳はわずかに憂いを帯びているような気がした。

 

「……そうだね。あのとき、僕の中でアスカの身体はどんどん冷たくなって……」

 

 流れ出る血液は生温かいのに、彼女の身体からは温もりが消えていく。

 まるで命がそのままこぼれていってしまうようだった。

 当時の記憶に顔を曇らせているとアスカは僕の手を取り、彼女自身の胸へと押し当てた。

 

「でも今、アタシの心臓は脈打ってる。シンジが助けてくれた命よ」

 

 手のひらからは彼女の体温と胸の鼓動が伝わってくる。

 彼女の目にはもう憂いはない。

 夕日に照らされながらまっすぐと力強く、僕を見つめている。

 今、こうやってアスカは生きている。

 それがただただ嬉しかった。

 彼女が生きている実感、そして彼女の思いで胸が溢れそうになる。

 視界がにじむと、熱を持った涙が何度も頬を伝った。

 

 

 

 

「こらっ、どさくさに紛れて胸を揉むんじゃない!」

 

 長く感動を味わううちに、好奇心も頭を出してきて、ついアスカの胸を握ってしまった。

 彼女に頭を叩かれ、僕の手は胸から引き離される。

 雰囲気を変えようと、僕は強引に話題を振った。

 

「でもどうしてこんな早い時間に観覧車に乗ろうって言い出したの?」

 

 ミサトさんは夜まで遊園地に居ていいと話していた。

 ライトアップされた夜景を観覧車から眺めると綺麗だと勧めてくれたのに。

 

「今日はアンタのお母さんの命日でしょ。だからアンタのお母さんにアタシを紹介してよ、彼女として」

「母さんのお墓参り?」

 

 僕はすっかりと忘れていた。

 カレンダーにメモまでしてあったのに。

 今日は父さんとだけでなく、母さんとも話をしよう。

 そう決意した僕は、加持さんに頼んで母さんのお墓参りをさせてもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

「母さんが人類補完計画を提唱した人だって聞いたけど、どうしてなの? 教えてよ!」

 

 墓石に向かって尋ねても、答えは帰ってこない。

 それは分かりきっていたけど、聞かずにはいられなかった。

 どうして世界の人類を一つにするようなことをしなければいけないのか。

 

「シンジ君。リッちゃんから連絡があってな」

 

 お墓参りに行く車中で、車を運転していた加持さんは、僕に驚愕の事実を告げた。

 人類補完計画の発案者は父さんじゃなくて、母さんだった。

 父さんが言っていたことは、でっちあげではなかった証拠が見つかってしまった。

 

「……アスカ、僕は父さんと母さんにとって、人類補完計画の道具でしかないのかな」

 

 僕の思考が一歩、また一歩と深淵へ近づいていく。

 また深い闇へと落ちていくのか……と、どこか他人事のように考えていると手に温もりを感じた。

 その温もりが手から体全体へと広がって、包み込んでくれる。

 気づくとアスカが優しく手を握り、しっかりと抱き締めてくれていた。

 

「シンジ、誰が何と言おうとアンタはアタシの命の恩人で、信頼できる仲間で、唯一無二の恋人よ!」

「……アスカ……」

 

 ああ、そうだ。

 何度、僕が暗い沼の底に落ちたとしても必ずアスカが手を取って、明るい陽の元に引き上げてくれる。

 これまでもそうだった。

 きっとこれからもそうなんだろう。

 ありがとう。

 僕にとってもアスカは最高の恋人だよ。

 壊れそうな僕の心を必死で守るように、華奢な体で抱きしめてくれるアスカ。

 より愛おしく感じられるその背中に手を回す。

 家に帰る車の中では、無機質なエンジンの音が響いていた。

 流れていく景色の中でわずかな車体の揺れを感じながら、僕とアスカはお互いの存在が消えてしまわないよう、つなぎとめるようにずっとふたりで抱き合っていた……。




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