僕は逆走してアスカを救う! ~シト逆転~ リバース・オブ・エヴァンゲリオン The 3rd 作:朝陽晴空
見られてはいけない姿を目撃されてしまった。
いつかミサトさんにも本当のことを話して味方になってもらうつもりだったけど……。
「私の質問に答えなさい。あなたは碇シンジ君で間違い無いのね?」
「はい、そうとも言えないことも無い……です」
「歯切れの悪い答えね。アスカが消えたのと、何か関係があるの?」
多分、ミサトさんは僕たちの能力に見当がついている。
だけど、どうしてそんな力を持っているのか、不気味で仕方ないんだろう。
世界を逆走してきたといっても、信じてもらえるかどうか……。
「アスカは僕の心の中にいます。でも身体を動かしたり、声を出したりすることはできないみたいです」
「ふーん、ということはその姿の時は、基本的にシンジ君と話していると思って良いわけね」
「はい、でもアスカにミサトさんの声は聞こえています」
腕組みをしているミサトさんの厳しい表情から、心の奥まで読み取ることはできない。
合体した僕たちの姿を、頭のてっぺんからつま先までなめまわすように見ていた。
「とりあえず、アスカとも話したいから合体を解いてくれる?」
「……はい」
僕たちが意識を集中させると、アスカの身体は光の塊となって僕の身体から離脱する。
そして元の姿に戻った僕の隣で彼女は人間の姿へと実体化した。
怪現象を目の当たりにしたミサトさんは、眉をひそめながら大きなため息を吐き出す。
「……まったくもって、とんでもないわね」
「僕たちも合体するのはこれで二度目です」
分離したアスカは、自分の身体の感触をベタベタと触れて確かめている。
「あなたは、今まで私と暮らしてきたアスカとは別人って訳ね」
「お、お願い! 迷惑はかけないから、ここに居させて!」
慌てた様子の彼女がミサトさんの手を取ってお願いをしていた。
そこまで必死になって同居を続けたいだなんて。
前の世界では僕もミサトさんも、アスカを傷付けるような仕打ちをしてしまった。
僕のシンクロ率が彼女を追い越して、それを褒めてしまったミサトさん。
無神経にその言葉を聞いて喜んだ僕。
お風呂場で叫んでいた彼女のSOSを、僕もミサトさんも知っていた。
だけどあの時の僕たちはアスカを慰める方を思い付かなくて。
夕食の雰囲気も暗くて最悪だった。
そうしている間に彼女は委員長の家に泊まるようになってしまった。
だけど今のアスカは、僕とミサトさんとやり直したいと思ってくれているようで、嬉しかった。
「そう言ったからには、自堕落な生活を送っていたら叩き出すから、覚悟しておきなさい」
「うぐっ」
どうやらミサトさんにいっぱい食わされたみたいだ。
後悔先に立たず、アスカは自分が下手に出すぎたと歯ぎしりするけど手遅れだった。
「……今まであたしが一緒に暮らしていたアスカは、もういないのね。お別れくらい、言ってあげたかっわ」
ポツリとつぶやいたミサトさんの悲しそうな顔で、僕たちはミサトさんと元のアスカの信頼関係が深かったことを思い知らされた。
そうか、ミサトさんは家族だと思っていたアスカがどうなったか気になっているのか。
僕だって、アスカが別人になってしまうのが嫌で、創造より逆走を選んだ。
「ご、ごめん、アタシたちの勝手なワガママのせいで、辛い思いをさせて」
「アスカ、顔を上げなさい。あなたが笑顔にならないと、あの子もきっと喜ばないわ。……あなたには、あの子の分まで幸せになって欲しい」
穏やかな出会いだったら、ゆっくりと絆を深めていけたと思う。
気心の知れない相手との同居は、疲れる。
僕たちは、一方的にミサトさんのことを知っていると勘違いしていた。
創造を拒否したといっても、ここはバタフライエフェクトによって生まれた世界。
唯一無二の存在はアスカだけなんだ。
「とりあえず、あなた達が害をなす存在じゃないって分かったところで、今夜は安心して眠れるわ」
「ご迷惑をおかけしてすみません」
大欠伸をしたミサトさんに、僕たちはそろって頭を下げた。
「詳しいことは今度ゆっくり聞かせて。……まずあなた達に言っておくことが一つだけあるわ」
「はい」
ミサトさんが真剣な表情になったので、僕たちは正座して言葉を待った。
「避妊だけは、しっかりするのよ♪」
僕たちは盛大にズッコケた。
しんみりとしてしまった、空気を吹き飛ばすためのジョークなんだろうけど。
とりあえずその日は、僕たちは自分の部屋に戻って寝ることにした。
このままアスカと一緒に寝たら、臨界点を突破していたかもしれない。
ミサトさんは保護者としての責務を果たしてくれた。
使徒との戦いが終わるまで、我慢しなきゃ。
「……キスでは妊娠しないから大丈夫よね」
「そうだね」
別れ際に二人でそんな話をした。
次の日の朝食の後、改めてミサトさんと顔を合わせてリビングで話をすることに。
「堅苦しいことは無し……とは言ったけど。あんた達、リラックスし過ぎじゃない?」
「だって、前の世界ではシンジに甘えることなんて出来なかったから」
アスカはそう言うと、僕の膝枕から頭を上げた。
「まあいいわ。あなた達はこれから起こることを全て知っている……とは言ったけど、その考えは捨てなさい。思い込みで油断をするのは良くないわ」
「はい、わかりました」
「あたしのこの家だって、ゴミ屋敷だったって話じゃない。ごめんね、前の世界のあたしが迷惑を掛けて」
あの時の僕は、ミサトさんに押し切られる形で同居した。
だけど、今の僕が直面していたら逃げ出していたかもしれない。
掃除を手伝ってくれていたアスカにも感謝だ。
「アタシ達は強くてニューゲームをしているわけじゃないってことね」
「使徒の強さも2週目のハードモードになっているかもしれないわよ」
この世界のミサトさんは、かなりのヘビーゲーマーかな?
そう理解した僕たちが仲良くなるための方法。
「シンジ君、アスカ。あの丘の上に拠点を建設するわよ」
「了解!」
「アスカ、敵を無理に倒そうとしないで。生き残ることが最優先よ」
それはネット対戦ゲームでチームを組む事だった。
エヴァの操縦では主導権を握っているけど、ゲームでは二人についていくので精一杯。
「それで、ミサトさんは僕たちのことをどこまでみんなに話すんですか?」
「そうねー、スーパーエヴァンゲリオンのことは説明するけど、世界を逆行したことは秘密にしておいた方がいいわね」
私服に着替えた僕たちは、ミサトさんの運転する三人乗りのスポーツカーでネルフ本部へと向かう。
さっそくシンクロ率を測るハーモニクステストが行われるのだ。
「スーパーエヴァンゲリオンって何よ?」
「初号機と弐号機が合体したエヴァの名前」
「だっさ」
「アスカがそう言うならラブラブエヴァンゲリオンでも良いのよ?」
「それはイヤ!」
僕もスーパーエヴァンゲリオンは安直な名前だと思ったけど、ラブラブエヴァンゲリオンは直球過ぎる!
だから口を挟まなかった。
ネルフ本部に到着すると、車から降りる前にミサトさんは僕たちにそっと耳打ちする。
「碇司令の計画を知っていることは、勘づかれないようにね。まだ彼はあなた達を道具としてしか見ていないけど、余計な警戒心を持たせるわけにはいかないの」
父さんは僕のことを、使徒を倒すための武器としてしか見ていない。
母さんと再会するための道具。
僕は逆行前の世界でそれを思い知らされた。
あの赤い世界では父さんの幽霊は母さんと一緒に現れたから、再会は出来たんだと思う。
創造の力は彼からの贈り物だ。
だから言葉は交わせなかったけど、最後は父さんと仲直りした。
でもこの世界の父さんと仲良くなるのは甘くはないぞ、とミサトさんに釘を刺されたのかな。
「待っていたよ、愛しのシンジ君」
「うげっ、コイツが居たか」
ネルフ本部の実験棟。
ナンバー00が刻まれた、綾波と同じ色のプラグスーツを着たカヲル君を見て、アスカは顔をしかめた。
彼は彼女の存在など眼中に無いかのように、僕の手を握る。
「このガチホモ! 手を離しなさいよ!」
「同性愛者とは失礼だね、僕は美しいものに目がないだけさ」
割り込んだアスカが僕たちの手を引き離すと、カヲル君は僕に向かって視線を投げ掛けながらそう答えた。
彼はふーっと大きなため息を吐き出した後、
「少しはシンジ君の清楚な感じを見習った方が良いよ」
と言う。
「なんですって!? シンジの方が女らしいって?」
ガニ股になって怒るアスカの姿はちょっとはしたない。
「シンジ君は……そう、髪を長くすれば深窓の令嬢にも劣らないほど可憐さ」
「アンタ、もしかしてシンジを頭の中で女体化して妄想しているの!? 気持ち悪っ」
カヲル君がそんなことを思っていたなんて、僕もちょっと身構えてしまう。
この世界の彼だからだろうか。
「そうねー、シンジ君の女装も結構イケそうじゃない」
「ミサトさん!?」
こういう彼女のノリは前の世界と変わらないみたい。
女の子の制服を着せられて、学校に通わされることにならなければ良いけど……。
まさかね、そんなことないよね。
「貴方達、いつまでじゃれ合っているつもりかしら?」
ついにしびれを切らしたリツコさんが、腕組みをして指先を動かしながら僕たちに声を掛ける。
困った顔のマヤさんや日向さん、青葉さん達を見て、僕は心の中で謝った。
ハーモニクステストの準備が整った時、ネルフ本部全体に警報音が鳴り響いた。
発令所は途端に騒がしくなる。
「パターン青を検出! 使徒です!」
「マジかよ……」
発令所に居る日向さんと青葉さんの声が聞こえてくる。
初めて出現した使徒に、みんなパニックになっているようだった。
もちろんテストは中止となり、僕たち三人はエヴァに乗り込んだ。
初号機のモニターに使徒の姿が映し出される。
推測が正しければ浸食タイプで、綾波が自爆して倒したはずだ。
せっかく世界を逆走してアスカを助け出したのだから、そんな真似をさせるわけにはいかない。
アスカやミサトさんに接近戦闘は危険だと警告したいけど、そんなことをすれば父さんに怪しまれる。
そうなると、僕の取る行動は一つしかない。
頭の中で作戦を立てる。
「発進!」
ミサトさんの号令で、僕たちは同時に地上へと射出された。
よかった、誰かを先行させて様子を見る、なんてことになったら作戦を実行できない。
拘束具が外れると、僕は全力でダッシュして弐号機に駆け寄り、身構えるスキを与えずにキスした。
たちまち初号機と弐号機は合体してスーパーエヴァンゲリオンとなったわけだけど……。
大胆な行動に、僕以外のみんなはぼう然としている。
「いきなり何するのよ!」
相思相愛の恋人同士だとしても、強引にキスをされれば怒るのは当たり前。
だけど、僕は綾波みたいに目の前でアスカを失いたくはないんだ。
「アンタが言いたいことは分かったわ、とりあえず許す」
考えただけで脳内イメージまで伝わるのは便利だな、と思った。
言葉で説明するには時間がかかる。
「このエヴァのA.T.フィールドなら、使徒に貫かれないかもしれない」
「でもどうやってアイツを倒すのよ?」
それについては、僕も悩んでいた。
一つだけ、自分達の身が安全な状態で使徒を倒す方法があるけど……。
「その意見に賛成」
「でも、友達を犠牲にするわけにはいかないよ」
「構うもんですか! アイツはヘンタイ使徒なんでしょ?」
「確かにカヲル君は人に変態しているけど、使徒と決まったわけじゃ……」
「……さっきから何を考え込んでいるんだい、シンジ君?」
モニター通信でカヲル君に呼び掛けられて、長い時間アスカとの脳内会議をしていたことに気が付いた。
もしアスカが身体を自由に動かせたら、このエヴァで零号機をつかんで、使徒めがけて放り投げていたかも。
光の輪となっている使徒はグルグルと回転するだけで、攻撃はしてこない。
でもきっといつかはエヴァを狙って飛び掛かってくるだろう。
「うーん、いったいどうすれば……あっ!」
第三新東京市を覆い尽くすほどのA.T.フィールドを張れたんだ。
使徒を焼き尽くすパワーを持った爆弾みたいなものも作れるかもしれない。
でも僕がその考えを実行に移すより前に、使徒は飛び掛かってきた!
「危ない、シンジ君!」
「カヲル君!?」
油断していた僕をかばったのは、零号機。
もう少し早く、A.T.フィールドを武器に使うことを思い付いていれば……。
ごめん、君のことは忘れないよ。
そんなことを考えていると、通信モニターに映ったのは涼し気なカヲル君の笑顔だった。
「心配いらないさ、シンジ君」
「大変です! 浸食されていた零号機のA.T.フィールドが反転、使徒を吸収していきます!」
「何ですって!?」
発令所からマヤさんとミサトさんの困惑する声が聞こえる。
「使徒を……食べている……」
ミサトさんのつぶやきどおりだと僕にも見える。
紐状になった使徒は零号機から逃げようと暴れるけど、どんどんとその身体が短くなっていった。
「これで僕も君と同じだね」
モニターに映るカヲル君の髪が長く伸びていく。
まるで女の子に変化するかのように。
「ボクが女の子になったら、好きになってくれる?」
さらに声質まで高くなる。
髪の長くなった綾波みたいだと思った。
「ごめん、僕にはアスカがいるから」
「それは残念」
そうつぶやくと、姿はカヲル君に戻った。
どうやら使徒を完全に抑え込むことができているみたいだ。
「でもシンジ君が求めてくれるのなら、いつでも女の子になるからね」
「うわ~っ、鳥肌が立ってきたわ!」
頭の中に響くアスカの声に触発されるように、僕も悪寒を感じた。
カヲル君がとりあえず男のままでいてくれて、一安心。
使徒の消滅を確認した、発令所のみんなも同じ気持ちかと思ったけど、混乱は収まらなかった。
合体する僕たちに加えて、さらにカヲル君も使徒を体内に吸収。
カヲル君の正体が使徒だと知らないリツコさんやミサトさんたちは騒ぎ立てている。
でも父さんは使えるものは道具として用いる、という姿勢を崩さなかった。
そのお陰で僕たちは深く詮索されずに帰宅。
家に帰った僕は、ミサトさんにカヲル君が使徒だったことを話した。
彼女はあっさりとその話を受け入れたところをみると、もしかしたらと推測はしていたらしい。
「こんばんは、デザートにバームクーヘンはどうかしら?」
夕食を食べ終わった頃。
手土産のお菓子を持って、僕たちの家を訪問してきたのはリツコさんだった。
「あら~、リツコ、いらっしゃい……」
ミサトさんは引きつった笑顔でリツコさんを出迎えた。
たぶん僕たちの秘密を探りにきたのだろう。
彼女が手ぶらだったら、そのまま帰ってもらうことができたかもしれない。
仕方なくミサトさんは彼女を家へと招き入れ、ダイニングに案内する。
紅茶を淹れて、僕はテーブルへと着いた。
リツコさんは父さんに近い人間だ。
だから、全てを明かしてしまうのは不安がある。
これから話すことには気を付けないと。
「見て見てシンジ、バームクーヘンのメガネ~!」
「アスカ、食べ物で遊ばないの」
こんな時だと言うのに、アスカはのんきなんだから。
でも彼女はいつもにもまして可愛く見える。
そうだ、僕が守りたいのは、彼女のこの明るい笑顔なんだ……!
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