僕は逆走してアスカを救う! ~シト逆転~ リバース・オブ・エヴァンゲリオン The 3rd   作:朝陽晴空

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第二十二話 せめて、使徒らしく

 夕食の後、突然手土産を持ってやってきたリツコさん。

 追い返すわけにもいかない僕たちは、ダイニングキッチンで対面することになった。

 バームクーヘンを両手にはしゃぐアスカを見て、リツコさんはふーっとため息を吐き出す。

 

 

 

「アスカ、無邪気な中学生を装うとしたって、そうはいかないわ。貴方、以前のアスカとは別人でしょう」

「ええっ!?」

 

 驚いたアスカはバームクーヘンを落としてしまった。

 とっさに気が付いてダイビングキャッチ。

 床に落ちる前の回収に成功。

 

 

 

「科学には、『微表情』と言う顔の小さな動きで、感情の変化を読み取る技術があるの。アスカの笑顔には口元に若干の緊張が見られた。私に悟られないように作った笑顔の証拠ね」

「なんで分かったの!?」

 

 口元を隠すように手で押さえるアスカ。

 でももう気が付いた時には遅い。

 しっかりと人格の入れ替わりを認めてしまった。

 

 

 

「やっぱりね。『微表情』なんてまだ発展途上の空論。あのファーストの少年が使徒を吸収しても、たいして驚いていないように見えたから、カマをかけたのよ」

 

 そっか、カヲル君が使徒だと知っていた僕は、ワザと大げさに驚かないといけなかったんだ。

 

 

 

「シンジ、アンタが演技しても、返って逆効果。気にしないの」

 

 アスカなりに励ましてくれたの……かな?

 彼女の作り笑顔も見抜けないなんて、僕もまだまだだな。

 心からの笑顔がたくさん見れるように頑張らないと。

 

 

 

「リツコ、アンタが碇司令に何を吹き込んでも、証拠がない以上、彼は取り合わないわ。DNAパターンはアスカなんだから」

「強がるのはよしなさい。彼に疑念を余計な抱かれるだけでも動きにくくなるわよ」

 

 ミサトさんのハッタリにもリツコさんは動じない。

 彼女ってこんなに怖い人だっけ?

 僕の視点からから見れば、性格が変わったのは僕とアスカじゃなくて、みんなの方の気がする。

 

 

 

「お願いリツコ、碇司令には報告しないで」

 

 ついにミサトさんは拝み倒すようなポーズをとった。

 僕たちも彼女に合わせて頭を下げる。

 

 

 

「勘違いしないで、私は命令で来たわけじゃないわ」

「えっ? でもリツコは彼のこと……」

「私がいつまでもあの男に付き従っていると思って? 人類補完計画なんて、私にとってはどうでもいいことよ」

 

 さらっと人類補完計画のことを言うとは驚いた!

 彼女が父さんの命令でやってきたのなら、僕たちに手の内を明かさないはずだ。

 

 

 

「碇司令を倒す好機が訪れた時、力を貸して欲しいと思ってここに来たの。止めたいんでしょ? 彼の暴挙を」

「それはそうだけど……碇司令がいなくなったら、ネルフはめちゃくちゃになっちゃうんじゃない?」

「もうネルフはガタガタよ。後ろ盾だったゼーレのキール議長が暗殺されてから、内乱が起きているらしいわ」

「加持からの情報?」

「そうよ」

 

 リツコさんとミサトさんの話を聞いて、ドイツ支部からきたカヲル君が「邪魔な人間は排除した」と話していたことを思い出した。

 

 

 

「碇司令がゼーレの次のリーダーになろうとしたけど、上手くいかなかったみたいね。キール議長が彼に対する反発を抑えていたのよ」

「なるほど、碇司令の足元が危うくなっているってワケか」

「今まで私を力で押さえ付けてきた彼だけど、立場が逆転する時が来たわ……ふふふ……」

 

 

 

 とりあえず彼女は父さんの手先ではなさそうだ、と僕たちは警戒を緩める。

 一安心したところで、紅茶がすっかり冷めてしまっていると気が付いた。

 

「紅茶、淹れ直しますね」

「ありがとう、手際が良いのね」

 

 

 

 彼女は僕たちがいた世界のミサトさんが、ズボラだったことまで見通しているんじゃないかな?

 それに二人ともコーヒー党だった気がする。

 いまさらだけど、この家にはインスタントコーヒーが置いていない。

 高級な紅茶の葉ばかりだ。

 

 

 

 やっと僕たちはバームクーヘンと紅茶を楽しめた。

 アスカによると、ドイツを思い出すような本格的な味らしい。

 手土産からもリツコさんの本気だとわかる。

 

「渚カヲル、彼のデータだけど、パターン不明にしておいたわ。もしパターン青が検出されても、使徒を吸収した影響と説明して切り抜けるつもりよ」

 

 

 

「何でよ? さっさとアイツを殲滅した方が、アタシ達も安心して眠れるじゃない」

「利用できるものは何でも使いなさい。貴方達の力を温存するためにもね」

 

 そのリツコさんの言葉を聞いて、前の世界の父さんがくれた『創造の力』には限りがあるかもしれないという考えが浮かんだ。

 もしかして、第三新東京市全体を覆うようなA.T.フィールドはもう作れないんじゃないかな。

 

 

 

「あの、父さんはどうなるんですか?」

「別に命まで取ろうという話じゃないわ。私にひざまずかせて、駒として利用するだけ。女は炎。火遊びで手を出すと、痛い目に遭うの」

「その通りね! うんうん!」

 

 アスカはリツコさんの言葉に激しく同意。

 彼女に浮気を疑われるような行動は慎まないと。

 

 

 

 しばらく話を続けた後、僕たちの協力を得られたリツコさんは満足した顔で帰った。

 まさかこの世界にきてから二日目に、父さんを倒すなどという話を聞かされるとは。

 精神的に疲れ果てた僕たちは眠りに就いた。

 

 

 

 数日後、僕の制服が出来上がり、第壱中学校への転入が決まる。

 アスカと一緒に登校したら、冷やかされるだろうな、と思っていたけど、そんなことはなかった。

 余計なオマケが付いてきたから、彼女は不機嫌だ。

 

「やあシンジ君、一緒に同じ学校に通えるなんて嬉しいよ」

「アンタねえ! 引っ付き過ぎなの、もっと離れて歩きなさい!」

「惣流さんの方こそ」

 

 

 

 事情を知らない人から見れば、僕とカヲル君がアスカを取り合う三角関係に見えるかもしれない。

 でも実際は、アスカとカヲル君が僕を巡って争っている……。

 そういえば転入初日、トウジに殴られたんだっけ。

 この前の使徒との戦いの時、周りを気にしている余裕がなかったけど、サクラちゃん、大丈夫かな。

 

 

 

「ありがとさん、お前はワシらの命の恩人や!」

 

 僕がエヴァのパイロットだと分かると、トウジとケンスケは僕に向かって深く頭を下げた。

 トウジはクラスの委員長として、学校の案内もしてくれている。

 妹のサクラちゃんの話はできなかったけど、彼は学校も休んでいないし、無事なんだろう。

 

 

 

「お、おはよ、ヒカリ」

「おはよう、アスカ」

 

 緊張していたのはアスカも同じだ。

 洞木さんが名前で答えてくれると、彼女はパッと明るい笑顔になる。

 こっちの世界でも友達になれるといいね。

 

 

 

 転入してすぐにカヲル君は女子生徒の間でモテモテで、早くも人気投票で一位を取ったみたいだ。

 でも僕が三位だなんて、何かの間違いだよね。

 エヴァのパイロットだからかな?

 

 

 

「碇と話しているとさ、知り合ったばかりのはずなのに、以前からの友達だった気がするんだよな」

「ワシもや、不思議やな」

「デジャブってやつだよ、きっと」

 

 ケンスケとトウジと三人で一緒にいることが多くなった。

 また楽しい学校生活が始まったんだけど、少し寂しさを感じる。

 綾波がいないからだと思う。

 

 

 

 リツコさんは綾波はまだ眠っているとだけ、話してくれた。

 父さんは綾波が自我を持ってしまうことを恐れて、封印してしまっているそうだ。

 そんな身勝手な理由で……かわいそうだと思うけど、今の僕たちには何もしてあげられない。

 

 

 

 でも父さんを倒した後、彼女の封印を解いてくれるとリツコさんは約束してくれた。

 もう少しの辛抱だから待っててね、綾波。

 彼女と話しても浮気じゃないって、アスカが分かってくれるといいけど。

 

 

 

 衛星軌道上に使徒が現れたという知らせを受け、僕たちはネルフへと急行。

 アスカの心を壊した、憎むべき敵だ。

 あいつの光線はA.T.フィールドがどんなに強力でも防げない。

 

 

 

 使徒の姿を発令所のモニターで確認した時。

 僕の手をギュッと握るアスカ。

 不安におびえる彼女を慰めるために、僕は抱き締めてキスをしてしまった。

 

「バカっ! エヴァに乗る前に合体してどうするのよ!」

 

 ミサトさんに怒られた僕は合体を解こうとしたけど、アスカが拒否して離れてくれない。

 

 

 

 そして僕の頭の中に流れ込んでくるアスカの過去の記憶。

 母さんが自殺しているところなんか見てしまったら、僕だってトラウマになってしまう。

 だから繊細な彼女の心を守るために、出撃を拒否した。

 

 

 

 その結果、零号機が単独で使徒を迎撃することに。

 

「碇司令、ここはロンギヌスの槍を使うべきかと存じます」

「……ファーストチルドレン、セントラルドグマに降りて槍を使え」

 

 リツコさんの進言もあって、父さんが直ぐに決断してくれたのはいいけど、僕は焦った。

 カヲル君がセントラルドグマに行ってしまえば、サードインパクトが起きてしまうからだ。

 

 

 

「今度こそ、幸せにしてみせるよ。シンジ君」

 

 彼はなにやら意味ありげな笑みを浮かべたけど、僕には理解できなかった。

 でも槍を取りに行けるのは零号機しかいない。

 僕たちはカヲル君の心に全てを託す。

 

 

 

 世界の運命は彼に委ねられた。

 発令所で待つ間、僕たちの心臓は激しく鼓動する。

 前の世界のカヲル君のままだったら、きっとサードインパクトを起こしている。

 

 

 

 今度は僕が不安におびえる番だった。

 初号機で彼を握り締めた手のひらの記憶が蘇る。

 

「アタシも、友達を殺すなんて、そんな思い、したくないわよ……」

 

 強くイメージした記憶はアスカにも伝わってしまったようだ。

 僕たちはお互いに大丈夫だと励まし合った。

 合体しているから、心が通じ合っているのだと分かる。

 

 

 

 でも、僕たちは人類補完計画を拒否する。

 身体が一つにならなくても、分かり合えると人間の可能性を信じて。

 国語の先生が言っていた、『人』と言う漢字は支え合う象形文字から生まれたんだって。

 『人』は人の間で生きているから『人間』なんだ。

 

 

 

 恐れていたサードインパクトは起きなかった。

 零号機が帰ってきたのを見て、僕は倒れそうになるくらい身体の力が抜けた。

 空高く投げられた槍は宇宙空間にいる使徒のコアを貫き、作戦は終了。

 

 

 

 使徒が殲滅されると、アスカも安心して合体を解いてくれた。

 

「ありがとう、渚君!」

「そんなに感謝してくれるなら、キスしてくれないかな?」

 

 僕がお礼を言おうとして近づくと、彼は唇を突き出して迫ってくる。

 後ずさりしても、追い詰められて壁ドン。

 

 

 

「調子に乗るな!」

 

 アスカの回し蹴りで、カヲル君は吹っ飛んだ。

 どうしてだろう、彼のA.T.フィールドで彼女の攻撃は防げるはずなのに。

 それほど僕に迫るのに夢中になって油断していたとか?

 

 

 

 

 

 

 使徒を倒してひと段落した後、僕たちはミサトさんより一足先に家に帰った。

 アスカはずっと不機嫌そうな顔で窓から星空を眺めている。

 

 

 

「何を怒っているの?」

「渚のことよ」

「カヲル君がどうしたの?」

「アイツ……アタシ達を使徒の攻撃からかばったり、アタシ達の代わりに使徒を倒したりしてさ。アイツは使徒なのよ? 使徒ならば、もっと人類の敵らしくふてぶてしい悪役でいなさいよ! そうでないと、シンジが……殲滅させるとき辛く……なるじゃない」

 

 

 

 そこまで言うとアスカは言葉を詰まらせて、目に涙を浮かべる。

 僕のことを心配してくれる彼女がとても愛おしくなった。

 

「ありがとう、でも大丈夫。決心はついているから」

「そんな強がりを言っても、アタシにはお見通しよ!」

 

 

 

 さらに反抗と嗚咽を強める彼女に、素直な気持ちを伝えなければいけないと考えた。

 力一杯真剣な表情でアスカを見つめる。 

 

「カヲル君との別れの時がやってくるのは覚悟している。僕は彼との一期一会を大切にしたい。だからわざと距離を取ることもしないよ」

「……分かった。アンタも成長したものね」

 

 

 

 僕の決意表明を聞いて、アスカは泣くのを止めた。

 彼女の頬に伝った涙をキスで拭う。

 今日二度目のキスは、しょっぱい涙の味。

 

 

 

「シンジ君ってば、また合体したの? お熱いわね~」

 

 悪いタイミングでミサトさんが帰ってきて、僕たちはさっと身体を離すのだった。




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