僕は逆走してアスカを救う! ~シト逆転~ リバース・オブ・エヴァンゲリオン The 3rd 作:朝陽晴空
夕食の後、突然手土産を持ってやってきたリツコさん。
追い返すわけにもいかない僕たちは、ダイニングキッチンで対面することになった。
バームクーヘンを両手にはしゃぐアスカを見て、リツコさんはふーっとため息を吐き出す。
「アスカ、無邪気な中学生を装うとしたって、そうはいかないわ。貴方、以前のアスカとは別人でしょう」
「ええっ!?」
驚いたアスカはバームクーヘンを落としてしまった。
とっさに気が付いてダイビングキャッチ。
床に落ちる前の回収に成功。
「科学には、『微表情』と言う顔の小さな動きで、感情の変化を読み取る技術があるの。アスカの笑顔には口元に若干の緊張が見られた。私に悟られないように作った笑顔の証拠ね」
「なんで分かったの!?」
口元を隠すように手で押さえるアスカ。
でももう気が付いた時には遅い。
しっかりと人格の入れ替わりを認めてしまった。
「やっぱりね。『微表情』なんてまだ発展途上の空論。あのファーストの少年が使徒を吸収しても、たいして驚いていないように見えたから、カマをかけたのよ」
そっか、カヲル君が使徒だと知っていた僕は、ワザと大げさに驚かないといけなかったんだ。
「シンジ、アンタが演技しても、返って逆効果。気にしないの」
アスカなりに励ましてくれたの……かな?
彼女の作り笑顔も見抜けないなんて、僕もまだまだだな。
心からの笑顔がたくさん見れるように頑張らないと。
「リツコ、アンタが碇司令に何を吹き込んでも、証拠がない以上、彼は取り合わないわ。DNAパターンはアスカなんだから」
「強がるのはよしなさい。彼に疑念を余計な抱かれるだけでも動きにくくなるわよ」
ミサトさんのハッタリにもリツコさんは動じない。
彼女ってこんなに怖い人だっけ?
僕の視点からから見れば、性格が変わったのは僕とアスカじゃなくて、みんなの方の気がする。
「お願いリツコ、碇司令には報告しないで」
ついにミサトさんは拝み倒すようなポーズをとった。
僕たちも彼女に合わせて頭を下げる。
「勘違いしないで、私は命令で来たわけじゃないわ」
「えっ? でもリツコは彼のこと……」
「私がいつまでもあの男に付き従っていると思って? 人類補完計画なんて、私にとってはどうでもいいことよ」
さらっと人類補完計画のことを言うとは驚いた!
彼女が父さんの命令でやってきたのなら、僕たちに手の内を明かさないはずだ。
「碇司令を倒す好機が訪れた時、力を貸して欲しいと思ってここに来たの。止めたいんでしょ? 彼の暴挙を」
「それはそうだけど……碇司令がいなくなったら、ネルフはめちゃくちゃになっちゃうんじゃない?」
「もうネルフはガタガタよ。後ろ盾だったゼーレのキール議長が暗殺されてから、内乱が起きているらしいわ」
「加持からの情報?」
「そうよ」
リツコさんとミサトさんの話を聞いて、ドイツ支部からきたカヲル君が「邪魔な人間は排除した」と話していたことを思い出した。
「碇司令がゼーレの次のリーダーになろうとしたけど、上手くいかなかったみたいね。キール議長が彼に対する反発を抑えていたのよ」
「なるほど、碇司令の足元が危うくなっているってワケか」
「今まで私を力で押さえ付けてきた彼だけど、立場が逆転する時が来たわ……ふふふ……」
とりあえず彼女は父さんの手先ではなさそうだ、と僕たちは警戒を緩める。
一安心したところで、紅茶がすっかり冷めてしまっていると気が付いた。
「紅茶、淹れ直しますね」
「ありがとう、手際が良いのね」
彼女は僕たちがいた世界のミサトさんが、ズボラだったことまで見通しているんじゃないかな?
それに二人ともコーヒー党だった気がする。
いまさらだけど、この家にはインスタントコーヒーが置いていない。
高級な紅茶の葉ばかりだ。
やっと僕たちはバームクーヘンと紅茶を楽しめた。
アスカによると、ドイツを思い出すような本格的な味らしい。
手土産からもリツコさんの本気だとわかる。
「渚カヲル、彼のデータだけど、パターン不明にしておいたわ。もしパターン青が検出されても、使徒を吸収した影響と説明して切り抜けるつもりよ」
「何でよ? さっさとアイツを殲滅した方が、アタシ達も安心して眠れるじゃない」
「利用できるものは何でも使いなさい。貴方達の力を温存するためにもね」
そのリツコさんの言葉を聞いて、前の世界の父さんがくれた『創造の力』には限りがあるかもしれないという考えが浮かんだ。
もしかして、第三新東京市全体を覆うようなA.T.フィールドはもう作れないんじゃないかな。
「あの、父さんはどうなるんですか?」
「別に命まで取ろうという話じゃないわ。私にひざまずかせて、駒として利用するだけ。女は炎。火遊びで手を出すと、痛い目に遭うの」
「その通りね! うんうん!」
アスカはリツコさんの言葉に激しく同意。
彼女に浮気を疑われるような行動は慎まないと。
しばらく話を続けた後、僕たちの協力を得られたリツコさんは満足した顔で帰った。
まさかこの世界にきてから二日目に、父さんを倒すなどという話を聞かされるとは。
精神的に疲れ果てた僕たちは眠りに就いた。
数日後、僕の制服が出来上がり、第壱中学校への転入が決まる。
アスカと一緒に登校したら、冷やかされるだろうな、と思っていたけど、そんなことはなかった。
余計なオマケが付いてきたから、彼女は不機嫌だ。
「やあシンジ君、一緒に同じ学校に通えるなんて嬉しいよ」
「アンタねえ! 引っ付き過ぎなの、もっと離れて歩きなさい!」
「惣流さんの方こそ」
事情を知らない人から見れば、僕とカヲル君がアスカを取り合う三角関係に見えるかもしれない。
でも実際は、アスカとカヲル君が僕を巡って争っている……。
そういえば転入初日、トウジに殴られたんだっけ。
この前の使徒との戦いの時、周りを気にしている余裕がなかったけど、サクラちゃん、大丈夫かな。
「ありがとさん、お前はワシらの命の恩人や!」
僕がエヴァのパイロットだと分かると、トウジとケンスケは僕に向かって深く頭を下げた。
トウジはクラスの委員長として、学校の案内もしてくれている。
妹のサクラちゃんの話はできなかったけど、彼は学校も休んでいないし、無事なんだろう。
「お、おはよ、ヒカリ」
「おはよう、アスカ」
緊張していたのはアスカも同じだ。
洞木さんが名前で答えてくれると、彼女はパッと明るい笑顔になる。
こっちの世界でも友達になれるといいね。
転入してすぐにカヲル君は女子生徒の間でモテモテで、早くも人気投票で一位を取ったみたいだ。
でも僕が三位だなんて、何かの間違いだよね。
エヴァのパイロットだからかな?
「碇と話しているとさ、知り合ったばかりのはずなのに、以前からの友達だった気がするんだよな」
「ワシもや、不思議やな」
「デジャブってやつだよ、きっと」
ケンスケとトウジと三人で一緒にいることが多くなった。
また楽しい学校生活が始まったんだけど、少し寂しさを感じる。
綾波がいないからだと思う。
リツコさんは綾波はまだ眠っているとだけ、話してくれた。
父さんは綾波が自我を持ってしまうことを恐れて、封印してしまっているそうだ。
そんな身勝手な理由で……かわいそうだと思うけど、今の僕たちには何もしてあげられない。
でも父さんを倒した後、彼女の封印を解いてくれるとリツコさんは約束してくれた。
もう少しの辛抱だから待っててね、綾波。
彼女と話しても浮気じゃないって、アスカが分かってくれるといいけど。
衛星軌道上に使徒が現れたという知らせを受け、僕たちはネルフへと急行。
アスカの心を壊した、憎むべき敵だ。
あいつの光線はA.T.フィールドがどんなに強力でも防げない。
使徒の姿を発令所のモニターで確認した時。
僕の手をギュッと握るアスカ。
不安におびえる彼女を慰めるために、僕は抱き締めてキスをしてしまった。
「バカっ! エヴァに乗る前に合体してどうするのよ!」
ミサトさんに怒られた僕は合体を解こうとしたけど、アスカが拒否して離れてくれない。
そして僕の頭の中に流れ込んでくるアスカの過去の記憶。
母さんが自殺しているところなんか見てしまったら、僕だってトラウマになってしまう。
だから繊細な彼女の心を守るために、出撃を拒否した。
その結果、零号機が単独で使徒を迎撃することに。
「碇司令、ここはロンギヌスの槍を使うべきかと存じます」
「……ファーストチルドレン、セントラルドグマに降りて槍を使え」
リツコさんの進言もあって、父さんが直ぐに決断してくれたのはいいけど、僕は焦った。
カヲル君がセントラルドグマに行ってしまえば、サードインパクトが起きてしまうからだ。
「今度こそ、幸せにしてみせるよ。シンジ君」
彼はなにやら意味ありげな笑みを浮かべたけど、僕には理解できなかった。
でも槍を取りに行けるのは零号機しかいない。
僕たちはカヲル君の心に全てを託す。
世界の運命は彼に委ねられた。
発令所で待つ間、僕たちの心臓は激しく鼓動する。
前の世界のカヲル君のままだったら、きっとサードインパクトを起こしている。
今度は僕が不安におびえる番だった。
初号機で彼を握り締めた手のひらの記憶が蘇る。
「アタシも、友達を殺すなんて、そんな思い、したくないわよ……」
強くイメージした記憶はアスカにも伝わってしまったようだ。
僕たちはお互いに大丈夫だと励まし合った。
合体しているから、心が通じ合っているのだと分かる。
でも、僕たちは人類補完計画を拒否する。
身体が一つにならなくても、分かり合えると人間の可能性を信じて。
国語の先生が言っていた、『人』と言う漢字は支え合う象形文字から生まれたんだって。
『人』は人の間で生きているから『人間』なんだ。
恐れていたサードインパクトは起きなかった。
零号機が帰ってきたのを見て、僕は倒れそうになるくらい身体の力が抜けた。
空高く投げられた槍は宇宙空間にいる使徒のコアを貫き、作戦は終了。
使徒が殲滅されると、アスカも安心して合体を解いてくれた。
「ありがとう、渚君!」
「そんなに感謝してくれるなら、キスしてくれないかな?」
僕がお礼を言おうとして近づくと、彼は唇を突き出して迫ってくる。
後ずさりしても、追い詰められて壁ドン。
「調子に乗るな!」
アスカの回し蹴りで、カヲル君は吹っ飛んだ。
どうしてだろう、彼のA.T.フィールドで彼女の攻撃は防げるはずなのに。
それほど僕に迫るのに夢中になって油断していたとか?
使徒を倒してひと段落した後、僕たちはミサトさんより一足先に家に帰った。
アスカはずっと不機嫌そうな顔で窓から星空を眺めている。
「何を怒っているの?」
「渚のことよ」
「カヲル君がどうしたの?」
「アイツ……アタシ達を使徒の攻撃からかばったり、アタシ達の代わりに使徒を倒したりしてさ。アイツは使徒なのよ? 使徒ならば、もっと人類の敵らしくふてぶてしい悪役でいなさいよ! そうでないと、シンジが……殲滅させるとき辛く……なるじゃない」
そこまで言うとアスカは言葉を詰まらせて、目に涙を浮かべる。
僕のことを心配してくれる彼女がとても愛おしくなった。
「ありがとう、でも大丈夫。決心はついているから」
「そんな強がりを言っても、アタシにはお見通しよ!」
さらに反抗と嗚咽を強める彼女に、素直な気持ちを伝えなければいけないと考えた。
力一杯真剣な表情でアスカを見つめる。
「カヲル君との別れの時がやってくるのは覚悟している。僕は彼との一期一会を大切にしたい。だからわざと距離を取ることもしないよ」
「……分かった。アンタも成長したものね」
僕の決意表明を聞いて、アスカは泣くのを止めた。
彼女の頬に伝った涙をキスで拭う。
今日二度目のキスは、しょっぱい涙の味。
「シンジ君ってば、また合体したの? お熱いわね~」
悪いタイミングでミサトさんが帰ってきて、僕たちはさっと身体を離すのだった。
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