僕は逆走してアスカを救う! ~シト逆転~ リバース・オブ・エヴァンゲリオン The 3rd   作:朝陽晴空

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第二十話 使徒のかたち、心のかたち

 僕たちがカヲル君のことを疑っていると勘付かれたら、彼は警戒して夜の学校に姿を現さないかもしれない。

 一度家に戻って、懐中電灯などを準備することにした。

 念のために、ミサトさんにも連絡を入れる。

 

 

 

「最近、学校で微弱なパターン青が検出されているから、彼がなにかをしていることは確かよ」

 

 彼女もカヲル君の動向を探っていたようだ。彼の経歴はドイツ支部で加持さんに調べさせているらしい。

 誰もいない学校で何をしているんだろう?

 

 

 

「どうせろくでもないことに決まってるわ」

 

 端からアスカは彼を疑っている。

 僕をかばったのも、計算だったのではないかと考え始めているみたいだ。

 

 

 

 探すまでもなくカヲル君は直ぐに見つかった。

 彼は一階の渡り廊下から、じっと屋上の方を見つめている。

 屋上に何かあるのかな?

 

 

 

 校舎の中、廊下の角から彼の様子をうかがっている僕たちは、屋上を直接見ることができない。

 

「私が屋上を調べてくる」

「綾波、一人じゃ危ないよ」

 

 

 

 止まる間もなく、彼女は暗い校舎の階段を昇って姿を消してしまった。

 そういえば、ネルフ本部が停電した時も、物怖じしないでスタスタと歩いていたことを思い出す。

 この分なら心配はなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

「あなた、何をしているの?」

 

 綾波が屋上にいる誰かに声を掛けたようだ。

 

「いや、来ないで!」

 

 そう答える女の子の声が聞こえると直ぐに、その声の主と思われる女の子が屋上から落ちる音が聞こえた。

 カヲル君の調査なんてもう関係ない、僕たちは外に飛び出して駆け付ける。

 

 

 

「心配いらないよ。彼女は僕が受け止めたから。気を失っただけさ」

 

 彼女のブレザーのポケットから生徒手帳が転がり出た。

 名前を確認すると、『山岸マユミ』さんだった。

 

 

 

 僕たちと違うブレザーを着ているのは、転校してきたばかりだろうか。

 

「どうやら山岸さんは、飛び降り自殺をしようとしていたようだね」

「自殺ですって!?」

 

 

 

 アスカにとって、お母さんが自殺したことはとても辛い思い出となっている。

震えだした彼女を安心させるように、肩をそっと抱いた。

 今回はカヲル君のお陰で未遂に終わったけど、屋上への扉に鍵を掛けないなんて、どんな管理体制なんだ!?

 

「私、何か悪いことをしたの?」

 

 降りてきた綾波がキョトンとした顔で声を掛けてくると、

 

「綾波のせいじゃないよ」

 

 と答えた。

 

 

 

「このまま彼女が目を覚ませば、また自殺を図るかもしれない。そこで僕に考えがある」

 

 カヲル君は髪を伸ばし、女性に近い形に姿を変える。

 

「僕の身体の中に吸収した彼女が、僕の身体から出たがっていてね。今まで器を探していたんだけど、本部にあるクローン体を拝借するわけにはいかない。綾波さんが二人になってしまうからね。でも今夜、ちょうどいい体が見つかったよ」

 

 

 

「もしかしてその子の体の中に使徒を入り込ませるワケ!?」

 

 使徒を山岸さんの体に憑依させるなんて、僕もアスカも大反対だった。

 融合攻撃を仕掛けてきた使徒の危険性は十分わかっている。

 彼女をトウジのようにさせるわけにはいかない。

 

 

 

「父親として、娘の願いをかなえてあげたいんだよ」

「はぁ!? アンタ、なに言ってんの?」

「……いや、今の言葉は忘れてほしい。長く融合している間に、僕の中にいる使徒アルミサエル、彼女も僕の中で過ごすうちに、人と共生できるだけの心を持ったんだ。ここは僕を信じて任せてくれないか。山岸さんの命を救うためにも」

 

 

 

 僕たちが合体して本気を出せば、カヲル君の企みを阻止することも可能。

 だけど僕は、彼女を助けるという彼の言葉を無視できなかった。

 

「このまま山岸さんが目を覚ませば、また自分の命を絶とうとするだろう。だけど使徒である彼女が融合すれば、ストップを掛けられる。山岸さんの魂が完全に消滅するわけじゃない。体を支配された方は、見る・聞く・考えること以外できなくなるのさ、君たちが合体しているときの惣流さんみたいにね」

 

 

 

 今の僕たちは、山岸さんのことをほとんど知らない。

 どうして彼女が自殺しようとしたのか、その理由も分からない。

 目を覚ました彼女を説得する自信も持てなかった。

 

 

 

「山岸さんは、きっと人間にに絶望して死を選択したんじゃないのかな」

「それっていじめを受けたってこと?」

 

 僕の質問にカヲル君は頷いた。

 それならば学校の先生に言っていじめを止めさせるように言わないと。

 

 

 

「きっとクラスの担任も、いじめを見過ごしているんだわ。そこまでいかないと、彼女が絶望したりしないもの」

「だから使徒である彼女を通じて、そのいじめを跳ね除けるのさ。彼女の心の強さを見せれば、ハイエナのような連中は、弱い者いじめを止めるはずだよ」

 

 僕たちが山岸さんを取り囲んで守るという手段もあるけど、それは僕たちと山岸さんが友達になってからだ。

 

 

 

 今の山岸さんは追い詰められていて、その方法は使えない。

 

「彼女の心を落ち着かせた後で、僕たちが生きることの素晴らしさを伝えれば、きっと彼女の考えも変わるはずさ」

 

 カヲル君の主張にも一理あると考えた僕たちは、話し合いの末、彼の提案を飲んだ。

 

 

 

 彼の体から金色に光る塊が現れ、気を失っている山岸さんの中へと入りこむ。

 その光景を見て、気になることがあった僕はアスカにひそひそ声で尋ねる。

 

「ねえアスカ、僕たちの体にもこの世界にいた僕たちの魂が眠っているのかな」

「アタシたちは逆走してきたんだから、それは無いわ。どんなことがあっても、アタシはシンジだけが知っている……シンジだけのアスカよ」

 

 

 

 その言葉に胸が熱くなった僕は彼女を抱き締めてキスを……しようとしたところで、カヲル君の突っ込みが入る。

 

「そんなことをしている場合かい? 彼女が目を覚ますから、見てくれないかな?」

 

 僕たちは顔を赤くして体をパッと話すと、山岸さんの覚醒を見守った。

 

 

 

 目を開けた彼女の表情は、出会った頃の綾波のように無表情だった。

 とりあえず他の人から疑われても困るので、僕たちは山岸さんとして彼女に接することにする。

 ミサトさんに連絡して報告すると、監視は付けるけど、殲滅はしないと言ってくれた。

 父さんが総司令だったら、役に立たない使徒なんて生かしてはおかないだろう。

 

 

 

「綾波君だけでなく、使徒である彼女にも気を使ってくれると助かるよ。山岸さんは彼女というレンズを通じて、僕たちを見ているはずだから」

 

 都合の良いことに、山岸さんは両親を亡くして一人暮らしだった。

 彼女を引き取った叔父さんも、ネルフの仕事が忙しくて、ほとんど顔を合わせていなかったみたいだ。

 

 

 

 一晩中家にいなかったのに、捜索願も出されず。

 だから山岸さんには相談相手もいなくて、追い詰められてしまったんだろうけれど。

 

 

 

「山岸さんの性格が変わったら、他人と入れ替わったって誰かが気が付くんじゃないかな?」

「そんなに気にかけてくれている人がいたら、彼女だって自殺なんてしようとしたりしないわよ」

 

 残念だけど、アスカの言う通りか。

 誰も自分に関心を持ってくれないのは悲しいことだ。

 

 

 

 僕たちは彼女に第壱中学校の生徒に擬態して生きて行くための知識を教えた。

 都合良く学校にいたこともあって、それほど時間は掛からずに終わる。

 

 

 

「それにしても、あんなニョロニョロとした使徒が人の形になっちゃうなんてね」

「合体するときの君たちと同じさ。A.T.フィールドを保っていれば、人も使徒もどんな形になっても自我は失われない」

 

 大きなため息をついてつぶやくアスカに、涼しげな笑みを浮かべて答えるカヲル君。

 

 

 

 幽霊騒動にも決着がついたところで一安心。

 そうなると気になるのは次にやってくる使徒のことだ。

 前の世界では、バラバラに戦って負けてしまった。

 今度は僕たちが力を合わせれば勝てると思う。

 

 

 

 問題は、あの使徒が第三新東京市の街をめちゃくちゃに壊したことだ。

 そのせいで、トウジやケンスケ達も引っ越していってしまった。

 第三新東京市を覆うA.T.フィールドをずっと張り続けるのは、さすがに無理。

 

 

 

「あの……カヲル君。次の使徒がいつ、どこからやってくるかなんて、分からないかな?」

「どうしてそんなことを聞くんだい?」

 

 

 

 自分たちが逆走してきた存在で、これから起こることを知っているとカヲル君に明かせば、もっと協力が得られるかもしれない。

 でも彼がまだ完全に味方だと決まったわけでも無い。

 迷った末に僕が出した結論は……。




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