僕は逆走してアスカを救う! ~シト逆転~ リバース・オブ・エヴァンゲリオン The 3rd   作:朝陽晴空

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第十九話 彼女達の戦い

「カヲル君、僕とアスカは全てが終わった世界からやって来たんだ」

 

 不信感がないと言えばウソになるけど、僕は前の世界の彼とは違う何かを感じて、正体を明かした。

 アスカが厳しい目で僕をにらみつけている。

 相談も無しに重大な秘密を話したのだから、怒るのも当然かな。

 

 

 

 カヲル君は僕の話を否定しなかった。

 いつもの涼しげな表情を崩さない。

 彼が何を考えているのか分からずに困惑していると、

 

「君の話は信じるよ。僕も別の世界の記憶を持っているからね」

「えっ!?」

 

 とカヲル君は言った。

 今度は僕が驚かされる側だった。

 

 

 

 カヲル君の話によると、別の世界の僕も、アスカが死んでしまう事に納得がいかずに、時間を巻き戻していたらしい。

 でも僕たち二人の記憶が残って逆走するケースは初めてみたいだ。

 

「繰り返された世界を見てきて分ったけど、前の世界と全く同じだというのはあり得ない。少しずつ違った部分があるものさ」

「……じゃあ、使徒を先回りして倒すなんて、無理なんだね」

「気を落とすことはないよ、シンジ君。街が壊されても、友達が出ていくとは限らないじゃないか。葛城総司令を信じよう」

 

 

 

 彼はミサトさんの企みを知っているようで含み笑いをする。

 カヲル君と話し込んでいるうちに、夜もすっかり更けてしまった。

 あまり帰りが遅くなると、ミサトさんに心配をかけてしまう。

 僕たちは解散して自分の家へと戻ることにした。

 

 

 

「あーあ、眠くなっちゃったから、今夜のことは許してあげる。今度大事なことを話すときは、アタシに相談するのよ。良いわね?」

「うん」

 

 アスカは大きなあくびをしながら綾波と一緒に自分の部屋へと入っていった。

 彼女の寝室にいる綾波が、僕たちのストッパーになっている。

 でも綾波の目の届かないところでは、キスとかハグとかしている僕達。

 トイレなんかでしてしまわないか心配だと、ミサトさんは監視カメラを付けたようだ。

 お風呂は彼女達二人が一緒に入ることになっている。

 徹底して僕たちを二人きりにしないというミサトさんの作戦だ。

 

 

 

 

 

 

 そしていよいよ使徒襲来の日を迎えた。

 使徒の放ったビームは、第三新東京市の地面を大きくえぐり、ジオフロントに通じる大きな穴を開けた。

 皮肉にも幸運だったのは、前の世界よりも使徒の攻撃の威力が大きかったせいで、一発でビームが収まったことだった。

 前の時みたいに、何発も地面を揺るがすビームを乱射されていたら、住んでいる人達の不安は増しただろう。

 

 

 

「使徒、ジオフロント内に侵入しました!」

「みんな、無様な姿を公衆の面前にさらす事は出来ないわ。良いわね?」

 

 僕たち三人はヴィレ本部から直接ジオフロントに出撃する。

 

 

 

 かつてネルフ本部だった建物は、ヴィレになってから様変わりした。

 壁に描かれたさまざまな企業の広告。

 初号機や弐号機、零号機の装甲板にもスポンサーの名前がペイントされ、使徒との戦いは世界中に実況放送。

 ヴィレは特務機関から株式会社となっていた。

 資金集めのために始めた、ミサトさんのアイディアだ。

 

「みなさん、戦場に向かうエバーの雄姿をご覧ください!」

 

 マイクを持って明るいノリで実況する彼女。

 使徒の一撃で命が奪われる危機的状況なのに、それを感じさせない。

 それどころか、シェルターで怯えるはずの市民達もサポーターとして歓声を上げていた。

 

 

 

 第三新東京市でパニックを起こして逃げ出そうとする人はほとんどいない。

 恐怖の伝染よりも、実況中継への応援の熱狂が勝っていた。

 シェルターには市民に交じって、観客を盛り上げるネルフのサクラ部隊も混じっていた。

 トウジの妹である彼女も、小さなサクラ部隊の一員だ。

 

 

 

 でもミサトさんの実況は作戦命令と交錯するから、僕たちとしてはやり難い。

 しかもスーパーエヴァンゲリオンには前もって広告を載せられないので、原則として合体は禁止。

 視聴率を取るために、余裕で勝てる使徒相手でも、ピンチになったふりをして山場を作れとまで言われた。

 使徒との戦いはエンターテインメントのショーじゃないのに。

 

 

 

 特に今回の使徒に関しては攻撃を受けるわけにはいかない。

 広告がペイントされた腕を切り落とされたりでもしたら、スポンサー企業のイメージダウンになってしまう。

 この初回放送にはヴィレ株式会社の命運が、いや、人類の運命が掛かっている。

 

 

 

 だからといって離れたままじゃ、使徒のビーム攻撃で街に穴を開けられてしまう。

 

「迷っている暇はないわよ! アタシが弾幕で援護射撃するから、アンタが突撃しなさい!」

「うん、分かった」

 

 アスカはそう言うと、周りの兵装ビルから色々な武器を取り出す。

 遠距離武器の見本市ともいえる光景に、視聴者たちの期待も高まった。

 

「それそれそれそれ!」

「おっと、弐号機によるパレットガンの攻撃! お次はバズーカ砲、ポジトロンライフル!」

「おまけっ!」

「最後にソニックグレイブを投げ付けたっ! しかしっ、使徒には傷一つ付いていない!」

 

 使徒の注意を引き付けるための陽動だから、効いていなくても何も問題はない。

 その間に僕は使徒との距離を詰めた。

 アスカが攻撃をうまく避けられるといいけど。

 

 

 

「僕にも活躍の機会を与えてくれないかな?」 

「零号機による背後からのスナイパーライフルによる狙撃! と同時に正面から初号機が体当たりを仕掛ける!」

 

 使徒が弐号機に攻撃を仕掛ける前にカヲル君が先手を打つ。

 盛り上がるミサトさんの実況。

 三人の連携が上手くいって、僕は使徒と組み合うことができた。

 

 

 

 至近距離に持ち込めばこっちのものだ。

 初号機で使徒を押し倒し、馬乗りになって使徒のコアを殴り続ける。

 使徒は距離が近すぎて、ビーム攻撃をするためにエネルギーを溜める時間を作れない。

 ムチのように伸びる腕も、中距離だから効果的に使える武器だ。

 

 

 

「初号機の北斗百裂拳が使徒のコアを打ち砕いた! 使徒の殲滅を確認! 我々の勝利です!」

 

 北斗百裂拳じゃなくて、ただの連続パンチなんだけどな……その方が盛り上がるなら、それで良いか。

 それにしてもミサトさんの漫画のセンスって古いな。

 

 

 

「さあ、エバー三機が勝利のグータッチを交わします!」

 

 ええっ!? そんなこと聞いてないけど!

 ミサトさんのアドリブに巻き込まれた僕たちはあわてて集まり、拳を重ねる。

 

「エバーがいる限り人類が使徒に負けることはありません! 第三新東京市のみなさん、これからも応援をよろしくお願いいたします!」

 

 ミサトさんが締めくくると、史上初となる巨大人型兵器の実況中継は終わった。

 

 

 

 彼女の作戦が功を奏したのか、第三新東京市から出ていく人たちはほとんどいなかった。

 むしろ地元で応援しようと転入してくる人たちが多数。

 トウジとケンスケも転校することがなくなって、僕も一安心。

 

 

 

 

 

 

 すると僕は、他の事が気になり始めた。

 ネルフが崩壊してからずっと牢屋に入れられている、父さんのことだ。

 リツコさんは彼の命を狙う刺客から守るためだって話していたけど……。

 

 

 

「碇元司令に会いたい? 止めておきなさい、彼の闇に飲まれるわよ」

 

 父さんに面会したいと話すと、リツコさんは厳しい顔でそう言った。

 今の彼は、母さんに会いたいという気持ちが高ぶって、見るもの全てを憎んでいるらしい。

 

 

 

「砂漠を歩いている人間に、たやすく水を与えてはいけないの。のどが枯れて、干からびる直前までじらさないとね……ふふふ」

 

 彼女が浮かべる黒い笑顔に、ゾッとした。

 父さんの心が徹底的に追い詰められたところで、人類補完計画の再開を匂わせる。

 そうすることでリツコさんは父さんを操り人形とするつもりだ。

 まさに飴と鞭とはこのことだ。

 リツコさん、怖いです。

 

 

 

「碇元司令は、まだあなたのお母さんに会いたいという信念を曲げていない。そのために自分の息子だって利用する。だから碇司令は甘い言葉で、あなたを惑わすかもしれないわ」

 

 ミサトさんも僕が父さんと会うのを反対した。

 僕が彼に優しい言葉を掛けられたら、脱走の手助けをしてしまうのではないかと思われているようだ。

 ヴィレのみんなの話によると、牢屋は24時間監視体制。

 父さんは食事と排泄の時以外はじっと動かずに虚空を見つめているそうだった。

 

 

 

 彼に三度の食事を直接渡すのは、諜報部の人達じゃなくて、マヤさん達。

 僕は彼女達にも父さんの話を聞きに行った。

 

「私たちが話しかけても、彼は何も答えてくれないの」

「皮肉の一つでも零してくれれば、会話の糸口がひらけそうなものだけどね」

「俺が一方的に壁に話しかけているような感じだったぜ」

 

 

 

 マヤさん達の話を聞いて、直ぐに父さんと面会することは諦めた。

 残念だけど、リツコさんが彼の心を折ってくれるのを待つしかない。

 アスカに無用な心配をかけてはいけないと、僕は急いで家に帰った。 

 

 

 

 

 

 

 肩を落として帰宅した僕を、アスカは慰めてくれる。

 

「その様子だと、元司令との面会はできなかったみたいね」

「うん。父さんは母さんに会うこと以外、何も考えていないみたいだ」

「そう簡単に改心するとは思えないわ。アンタのせいじゃない」

 

 父さんの母さんへの執着ともいえる愛の深さを思い知った僕は、アスカに尋ねてみたくなった。

 

「アスカは、僕がどっかに行っちゃったらどうする?」

「地獄の果てまで追いかける! シンジもそうでしょ?」

「……うん」

 

 僕とアスカの顔が自然と近づく。

 お互いの唇が軟着陸しようとした時、それを遮ったのは綾波の一言だった。

 

 

 

「碇君、お腹が空いた」

「夕食当番、僕だったかな」

 

 アスカは疲れている時くらいやらなくていいと言ってくれたけど、何か作業をしている方が気が紛れていい。

 父さんの重苦しい話を打ち切りたかった僕は、話題を学校のことへと切り替える。

 

「学校はどうだった?」

「シンジが居なくて退屈だった」

「それはどうも」

 

 対面式キッチンではないこの家では、料理をしている間はアスカの顔が見れない。

 逆に僕の落ち込んだ表情を直視されなくて気が楽な面もあるけど。

 

 

 

「ちょっと面白いことはあったわよ」

「なに?」

 

 学校で綾波とカヲル君が話していると、山岸さんが割り込んできたらしい。

 綾波はどうして彼女が邪魔するのか分かっていないようだ。

 彼のファンクラブの女の子達も巻き込んで、騒ぎになったみたいだ。

 

「使徒も嫉妬したりするのかしらね」

「さあ、それは分からないけど」

 

 ややこしい話だけど、今の山岸さんには、カヲル君と融合していた使徒の魂が宿っている。

 追い詰められた山岸さんが、自分で命を絶たないようにするためだった。

 彼は、綾波と一緒に僕の娘も育てて欲しいと言っていた。

 

 

 

 そのカヲル君の言葉をそのままとらえると、彼が使徒のお父さんということになるけど、僕たちには意味が分からなかった。

 彼の話によると、ゼーレの企みによって第一使徒から第十六使徒に落とされてしまったけど、「逆走」したこの世界では本来の第一使徒の地位に戻れたんだとか。

 僕の逆走は使徒達にも大きな影響を与えたみたいだ。

 

 

 

 今日の料理当番は綾波だったから、彼女にはお味噌汁だけを作ってもらうことにした。

 

「おみそ汁、美味しくできたね」

「ありがとう、碇君」

 

 僕の指導を、メモまで取って熱心に受け入れてくれる綾波の料理の腕前は、グングンと上がっていた。

 そんな綾波に対抗心を燃やして、アスカも料理をしてくれるようになった。

 

「むうぅぅ、アタシの『ドイツ風野菜スープ』を食べた時は、そんなこと言わなかったのに!」

「アスカはニンジンやジャガイモをもうちょっと上手く切れるようになったら、味が均等に染み渡るようになるよ」

 

 

 

 顔を膨れさせたアスカに、綾波がドキッとするようなフォローを入れる。

 

「その必要はないと思う。惣流さんの料理には、碇君への愛情がこもっているから、碇君はどんな料理を食べても美味しいと思う」

「ぶっ!」

 

 顔を真っ赤にしたアスカがご飯粒を噴き出す。

 

「だって愛情は最大の調味料だって、碇君が話していたもの」

「そ、それはそうだけどさ……」

 

 アスカの唇には、ご飯粒が付いたままになっている。

 直ぐに彼女が自分の舌でなめて取らないのは「キスして」のサインでは?

 確かに綾波の言う通り、ただのご飯粒でも僕には美味しそうだ。

 

 

 

 

 

 

 僕たちが甘い夕食をとっていると、ミサトさんから連絡が入った。

 エヴァ参号機と肆号機の起動実験を、松代でやることに決まった報告。

 

「初号機と弐号機だけで十分じゃない」

 

 弐号機から乗り換えたくないアスカは強い不満を示した。

 僕だって新しいエヴァとシンクロできるか少し不安だ。

 

『デトロイトの企業の広告が載ったエバーで戦えって、アメリカ政府から圧力がかかったのよ』  

 

 彼女の話によると参号機の機体にはデトロイトの工場の名前がビッシリと描かれているらしい。

 肆号機は『世界の警察アメリカ』をアピールするスマートなデザインになっている。

 

『四号機はシールドもあって、かなりカッコいいみたいよ。……という訳でどちらが参号機と肆号機に乗るか話し合っておいてね、オーバー!』

 

 ミサトさんは僕達に反論するヒマを与えてはくれずに、通信を閉じた。

 

 

 

 僕はミサトさんに参号機の危険性を知らせたはずだ。

 だけどカヲル君と同じく、前の世界と同じことが再現されるとは限らないと思っているのかな?

 

「参号機にはアタシが乗るわ!」

「どうして!?」

 

 アスカに僕は目を剥いて反論する。

 彼女が使徒に侵食されるなんて、出来の悪い映画だ。

 そんなシナリオを書く脚本家なんか、頭を叩いてやる。

 僕の気持ちはアスカも分かっているはずなのに。

 

 

 

「シンジに守ってもらってばかりなんだから、借りを返さないと気が済まないのよ。大丈夫、アタシは使徒なんかに負けないんだから。それに今度は、助けてくれるんでしょ?」

 

 参号機に乗らないようにアスカを説得するのは難しそうだった。

 僕は彼女の戦いを見届けるしかないんだ……。




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