六道骸とその弟子   作:銀の巨人

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パイナップルとリンゴ

人気の無いボロボロの内装に埃っぽく不衛生な所からこの建物は小さめのビルの廃墟のようだ。部屋の中央には何処からか拾って来たであろう使い古された3人程座れるサイズのソファにキズだらけの丸テーブルが設置してある。この事から何者かが無許可で住み着いているのが分かる。

そのソファで横たわり雑誌を顔に被せて寝ている少年は目を覚ます。

寝心地が悪かったのか心做しか不機嫌そうだ。時間は10時頃、太陽の光が眩しく照らす。

 

この世界に来てから数日が経過した。

ある程度情報を集める事には成功し此処が日本でイタリアやアメリカ等の国も存在しているようだ。しかし『並盛町』や骸が一時期通っていた『黒曜中学校』は存在していない。

裏の人間をマインドコントロールしマフィア情報を探るが『ボンゴレファミリー』やそれに関する情報も存在しなかった。あれほど巨大なマフィア組織の情報が一切無いのは流石におかしい。

つまり基本ベースは同じだが”元の世界”とは完全に”別の世界”に来たと思っても良いと判断する。

 

「さて、準備をしなくてはいけませんね」

 

骸の目的は『ボーダー』に入る事だ。ボーダーに入ればもっと明確な近界民(ネイバー)の情報や元の世界に帰れる手掛かりが掴めるかもしれない。

そんな思いを胸に今はある書類は記入している。顔写真、名前、年齢、住所、所属(学校名や会社名)など後半2つは完全に捏造しているが学校の校長や理事長、アパートの大家をマインドコントロールで操り根回しは完璧。

操った大家のアパートに住んでも良いのだが、骸は単純にこういうアジトの様なものを好んでおり敢えて此処に住んでいる。

 

「おっと、この目も一応幻覚で隠しておきますか」

 

六の文字が刻まれた右目はさすがに怪しいと思い幻覚で左右同じ色に揃える。嵐山隊に指摘されたらオシャレだと言えば納得してくれるだろう。

 

「これをボーダー本部に持って行けば仮入隊試験を受けれる。嵐山とか言う男はそう言っていたが・・・」

 

正式入隊日は1月、現在は12月なのでまだ期間がある。はっきり言って時間が惜しいが、今は我慢する他ない。

軽く身支度を済ませボーダー本部に向かう。

 

 

 

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骸はボーダー本部に向かう途中にある河川敷を歩く。黒曜中の制服は目立つので濃藍のカットソーに黒のボトムスに黒の靴、その上に黒のコートを着ている。

この世界でも通貨は共通のようで助かった。骸のポケットマネーで生活必需品は補える為、他人をマインドコントロールして金品を巻き上げたり万引きする必要は無い。

こう見えて骸は隠れお金持ちなのだ。最も元の世界で壊滅させたファミリーから奪った泡銭だが。

 

「・・・おや、あれは?」

 

ふと河川敷の下方を見ると少女が少年に自転車の乗り方を教えていた。どちらも身長からして小学生くらいだろうか。しかし骸が見ているのはその2人ではなく川から流れて来る巨大なリンゴだ。

 

「・・・・・・・」

 

不可解な物を見た骸は思わず立ち止まる。数秒後には自転車の練習をしていた2人がそれに気づき少年は川に飛び込み体を張って巨大リンゴを止める。よく見たら別の少年がおり、あの巨大リンゴは被り物のようだ。少女は慌てて長めの木の棒で救出しようとするが川の流れと2人の少年を支えきれる筈がなくジリジリと川に引き寄せられている。

 

「やれやれ・・・」

 

見ていられなくなった骸は溜め息を付き少女の近くまで跳び上がる。華麗に着地を決めた骸は少女が持っている木の棒を片手で掴み2人を引き寄せようとする。

 

「あわわ!」

 

「後は僕がやりますよ」

 

若干呆れ気味の骸少女から木の棒を受け取り力を入れて一気に引き上げる。宛らマグロの一本釣りの様な光景に見えたのは少女の心の中に閉まっておく事にした。

 

「危ないところを助けて頂きました。ありがとう」

 

白髪の少年はぺこりをお辞儀をしているがリンゴ少年のエメラルドグリーンの瞳はじっと骸を見詰めている。骸もこのリンゴ少年には何か感じる物があり少々興味が湧いた。

 

「あ、あの・・・ありがとうございます」

 

おどおどとして気弱そうな座敷わらしを彷彿とさせる少女もお辞儀する。

 

「いえ、ただ川に入るのは危険ですので気をつけて下さいね」

 

爽やかな笑顔で忠告する。本当は心配等していない、助けたのはただの気まぐれだ。その笑顔はミーハーな女子が見たら一目惚れするくらい煌めいていた。しかしこの少女には通用しなかった。少年の方に至っては口には出さなかったが怪しんでいるようだ。

怪しまれる理由が分からずにいたが骸は気にしないでリンゴ少年に目を向ける。

 

「珍妙な頭の君も早くお家に帰りなさい」

 

「それ、あんたが言いますー? パイナップル見たいな頭のくせにー」

 

この一瞬空気が凍る。少年はどこ吹く風、少女は失言に対して驚き慌てる。寧ろ凍っていたのは骸だけだ。

間延びした口調で毒を吐くリンゴ少年は助けられた事を全く気にしていないようだ。そしてこの空気から脱却した骸は額に血管を浮かばせ両手でリンゴの両端を掴んで持ち上げる。

地面から足が離れても一切謝る気が無い様子だ。

 

「誰の頭がパイナップルですか・・・?」

 

冷静に言っている様に見えて、声が若干震えている事から怒りが滲み出ているようだ。

 

「キレイな空だなー」

 

「良い度胸です。このまま川に投げ捨ててあげましょう・・・」

 

「お、落ち着いて・・・!」

 

「まぁまぁ、そう怒らなくても。俺は良いと思うぞ? とてもユニークで」

 

慌てて止めに入る少女と適当に宥める少年に興が削がれた骸はリンゴ少年を解放する。

 

「俺は空閑遊真、三門中だ」

 

「私も三門中です。雨取千佳です」

 

「六道骸・・・歳は15の中学生です」

 

その場にいたリンゴ少年以外は全員驚いた。骸はこの2人の低身長を見て小学生と思い込んでいたので思わず目を丸くする。遊真と千佳は逆で高身長の骸を見て高校生か大学生に見えていたので思わず声を出して驚いていた。

 

「ミーはフランって言いますー。年齢は13ですー」

 

驚く3人を無視して自己紹介を始めるフラン。リンゴの被り物がなければ遊真や千佳と同じくらいの身長なので納得出来た。しかし注目すべきはその身なりだ。リンゴの被り物はこの際良いとして、着用している服が白いタンクトップに半ズボンのみといったこの季節でこれは死ぬ気満々だ。

 

「フランはこの辺りに住んでいるのか?」

 

「ミーはフランスの田舎から川の流れに身を任せていたら此処にいましたー」

 

「さ、流石にそれは・・・」

 

「いや、こいつは嘘を言ってない」

 

明らかに嘘だと思う話しだが遊真は何故が本当の事を言っているという確信を得ている。

 

「取り敢えず僕は先を急ぐので失礼します」

 

「またな、ロクドウ〜」

 

「さようなら〜・・・」

 

馬鹿馬鹿しくなった骸はその場から立ち去る。それを見送る遊真と千佳は手を振り、フランは立ち去る骸の後ろ姿をじっと眺め何かを考えていた。

 

 

 

 

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とある住宅地、珍しい物を見る様な目で見られているし見ている。地元にはこんな形の家は無かった。服装だって全然違う、これが文化の違いだろう。

 

「なんか見られてません?」

 

「お前の格好が奇妙だからですよ」

 

河川敷の時からずっと付いてくるフランは日本の物件や服装を見て文化の違いを知る。道行く人もフランのリンゴの被り物に釘付けだ。

前を歩く骸と少し後ろを歩くフラン、骸は仲間と思われたくないが為に少し早歩きで進む。フランも負けずに根気強く付いてきている。

 

「何故僕に付いてくるんですか?」

 

「何となく?」

 

我慢出来なくなった骸は足を止めずっと付けて来ているフランに問うが当の本人もよく分かっていないようだ。おそらく理屈ではなく本能が彼をそうさせたのだろう。

 

「ミーも分からないんですよー。何でこんなパイナップルにーーーイデッ!」

 

余計な事を言ったフランは頭のリンゴを小突かれる。痛覚があるのかそれとも衝撃が伝わったのか、少し痛そうにしていた。

 

「付き合い切れませんね」

 

「あ、待って下さいよー」

 

再び歩き始める骸に今度は隣りを歩くフラン。その様子を見た骸は溜め息を付きながらも無視して歩く。

 

「ところで何処に行くんですかー?」

 

「・・・・・ボーダーに入隊する為にこの書類を出しに行くところですよ」

 

渋々答えた骸だが、フランはボーダーが何か分かっていない様だった。それに気づいた骸は幾つか質問する。

 

近界民(ネイバー)の存在。

・ボンゴレ等のマフィアの存在。

・ボーダーと呼ばれる組織の事。

・トリガーの事。

 

など骸がこの世界で初めて知った情報を聞いてみたが、何一つ分からないと言うフランは一応ではあるが骸と境遇が似ている。いつの間にかこの三門市にいたのもそうだ。

 

この世界の住民なら近界民(ネイバー)の事を知らない方がおかしい。別の国の事情とは言え被害の規模を考えたら世界的にし知られていているだろうと骸は考察する。フランは13歳なのでまだ知らない可能性もあるが、もしかしたら彼も骸と同じ境遇の人間なのかもしれない。

 

「ミーもそのボーダーに入りたいですー」

 

「・・・・・え?」

 

「やる事も無いし面白そうなのであんたに付いて行く事に決めましたー」

 

突然何を言い出すかと思えばボーダーに入り骸の厄介になると言い出すリンゴ野郎。骸は余りの事に思考が停止したが直ぐに我に返った。

因みにフランは以前故郷で滝まで流されても誰にも気づいて貰えないまま数日経過していた事もあるくらい村人達はのんびりしていたので今回も気づかれないだろう。フランの見立てでは1ヶ月は気づかれないそうだ。それで良いのかと言いたくなるがそれは今敢えて言う事でもない。

 

「僕にお子様のお守りをしろと?」

 

「お願いしますよー。同じフルーツのよしみだと思ってーーーイデッ!」

 

小突く骸だが内心では悪くないと思っていた。今のうちに手なずけておけばいざという時駒として使えるし、二人なら出来る範囲も広まるので取り敢えずマイナスにはならないだろう。もしマイナスになるようであれば切り捨てれば良いだけだ。

 

「・・・好きにしなさい」

 

「わーい。ありがとうー、パインの妖精ーーーイダダッ!」

 

やっぱりやめておけば良かったと若干後悔する骸であった。しかし利用価値があるかもしれないからと一旦抑える努力をした。

 

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