妹系勇者ちゃんが僕の水浴びを覗いてくる件   作:ちくわサンド

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3年7か月前ぶり。
設定等矛盾があれば指摘していただけるとありがたいです。
案の定矛盾点がいくつも出てきて、ちょくちょく1話の方を少し変えました。1話あとがきにその旨を書いてあります。ほんとは一度投稿した話を変えない方がいいとは思いますけど、まあ、趣味で書いているものなので、その辺はざっくりさしてください。

それではどうぞ。


これが朝チュンですか/魔法

ぼんやりとした頭のまま、ほのかに薄暗い部屋で目を覚ます

カーテンの隙間から入る日光の中で埃がくるくる舞うのを半目で追いかけていると、窓の外から聞こえてくる街行く人たちの軽快な笑い声が、もう朝というには遅すぎることを私に教えてくれた。

 

「またやっちゃった…」

 

ベッドの中でうつ伏せになり、枕に顔を埋めてポツリとつぶやく。

微睡の中、覚醒していない頭で考えるのは、昨日見た光景。

 

艶っぽく濡れた髪、引き締まっていて固そうな胸、薄い布ごしにはっきりと形の出たお尻

 

彼の仕草ひとつひとつがエロかった。まるで麻薬を打たれたような興奮が頭の中を駆け巡り、目の前の光景を一瞬たりとも見逃すまいと全神経を集中させた。

 

当然だが、父を除けば男の人の裸なんて見たこともない。しかし私の家には父親がいて、少ないながらお付きの執事もいたので、他の人たちに比べたら男の人にも耐性がある方だろうと思っていた。

 

誓って、彼が水浴びをしていることを知っていたわけじゃない。夜にトイレに行こうと廊下に出た時小さな灯りが外で光っているのに気づいて、他のパーティーのメンバーが夜風にでも当たっているのなら、少し雑談でもしてから寝ようと思っていただけだった。

 

盗み見ているという自覚はあった。いけないことをしているという罪悪感もあった。私にも良心というものがある。もし他の誰かがこの場にきて「それは盗み見だ」と一言言ってくれていたならば、私はすぐにでも彼の前に出ていって全力で土下座をしただろう。

ただ、あの時たった一人で、彼に気づかれるはずのない隙間から見ていた私は、自身の沸る欲の前にどうすることもできなかった。

 

 

 

少し、彼について話そう。彼は世間でも珍しい「男の冒険者」であると同時に、冒険者全体を見ても数が少なく重宝される支援魔法に適正のある魔法使いだった。

 

基本的に、難易度が高いクエストを目指すパーティーほど支援魔法使いが必須だ。戦闘中の身体強化や毒などの状態異常耐性は、私たちの命に直結する。解毒薬や聖水を携帯するのがスタンダードなやり方だが、数に限りがあるし、なによりビン類は戦闘中に割れることがある。必要な時手元にないということはざらにある。それに、物理、魔法両方に対応できる防御手段があるだけで、戦闘の幅が大きく広がる。

 

シラユキさんも同じ魔法職なのに、あの人はどうやら破壊専門らしく攻撃以外はてんで適性がないらしい。不思議なものだ。

 

彼が加わってから私たちの成果は右肩上がりだった。今まで訪れることのできなかったエリアまで遠征に出たり、遭遇したら撤退を余儀なくされていたモンスターにも正面切って戦えるようになった。最初こそ不慣れで戸惑いもあったが、この一年でそういった問題も随分と減った。彼は私たちにとって不可欠なパーティーメンバーだった。大切な仲間だった。

 

だからこそ、「彼が男である」という点には最大限気を配るようにした。性別の違いが原因で彼に離れられたら、また同じように活動ができるとは思えない。というより「彼に嫌われる」なんてことがありでもしたら、私はきっとどうかしてしまう。

 

幸いにも彼は女所帯にいることに文句を言うどころか、いつも笑顔だった。お互い緊張していたのは最初だけで、今では彼がパーティーで一番お喋りかもしれない。そもそも彼は明るい性格で、ちょっと強引なくらい活動的で、まるで同性の友達と話しているような気分になる。私の知っている「男の人」のイメージとは全然違っていた。

 

そんなわけで、私が彼に恋心を抱くようになるのにはそんなに時間がかからなかった。これは私が惚れっぽいとかじゃなくて、あんな素敵な人がすぐそばにいたら誰だって魅了されてしまうと思う。彼が悪い。

 

でも、彼に気持ちを伝えるようなことはしなかった。彼は大切なパーティーメンバーであり、もしかしたら、この関係が壊れてしまうかもと思うと、なかなか行動する度胸はなかった。私がチキンなだけだったともいう。

 

ましてや、彼を、その…エッチな目で見るなんていうのは、彼の信頼を裏切るような気がして嫌だった。しかし、できる限りそういう感情を無くそうとはしたが、悲しいことに女という性に生まれ、同じパーティーで活動する以上、どうしても彼を男として見てしまうことがあった。

 

彼の普段から見せる明るい笑顔が、戦闘時に見せる真剣な目つきが、くだらない冗談を言ってみんなを笑わせている姿が大好きだった。いつまでも想っていたかった。

 

それと同時に、彼を想ってシているなんてことが知られたら、軽蔑されるかもしれない、距離を取られるかもしれないと思うと、ひどく心が締め付けられた。最低なやつだと自分で自分を責めた。それでも、自分を慰める手は止まらなかった。

 

だけど、昨日の晩は違った。恐ろしいまでの刺激が私の頭を塗り替えた。あの場で事に及ばずに、何とか部屋まで帰った私のなけなしの理性を褒めてほしいくらいだ。後少しでも止めるのが遅ければ取り返しのつかない事になっていたのは、火を見るより明らかだった。あの晩、私の頭はあの時見た光景以外何も考えられなかった。普段私を責める罪悪感ですら、滝のように音を立てて崩れていった。

 

彼を抱きたい。あのスレンダーながらも逞しい体をベッドに組み伏せて、私のモノにしたい。彼に受け入れられたい。彼に私の名前を呼んでほしい。私も彼の名前を呼んであげたい。耳元で何度も何度も私の気持ちを囁きたい。彼が私以外の女なんて考えられなくなるくらい、私のことを覚え込ませたい。彼を余すとこなく味わいたい。彼の瞳を私で埋め尽くしたい。その時の彼の表情が知りたい。全て終わった後、私の腕の中で眠る彼が見たい。

 

 

私の中で昂った熱はいつまでも消えず、その夜は曖昧な意識のまま泥のように睡魔に身を任せた。

 

 

 

 

くぅぅ…

 

自分の腹の音が鳴ったのがわかった。そういえばまだ起きてから何も食べていなかった。ミズキたちに何か言われる前にさっさとご飯を食べよう。

食事でもすれば、昨日見た光景も少しは忘れられるに違いない。

たっぷりとバター塗ったパンを思い浮かべながら、ようやく布団から身を起こそうとしたその時、布団の端に何かの重みを感じ、振り返った。

 

小さく、しかし明らかに私のものではない、布が擦れる音がする。

 

瞬間、驚きで叫びそうになるのをなんとか踏みとどまった。なぜ、どうして、どうやってといろんな思考がぐるぐると駆け巡る。自分が最低限の寝巻きを着ていることを確かめた。そっとベッドを降り、そしてもう一度、今自分の目の前にいるこの心臓に悪い生き物を注意深くのぞいた。

 

長くて綺麗なまつ毛を持ち、手の甲に頬をのせ窓から入ってくる光に細やかに煌めく髪を照らされた、件の張本人である彼_

 

 

リオ・シューミアソンが、私のベッドの端に突っ伏しながら寝息を立てていた。

 

 

 

 

 

「ヒュ」

 

 

 

 

文字にするならこんな感じだろうか。まさしく息を呑むという表現がピッタリくるような、そんな声が出た。無意識にマズいと思い、口を両手で覆う。

 

もし叫び声をあげるのを踏みとどまれていなかったら、

 

「ビャアアアアァァァあああアアアアああああああアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」だった。危なかった。

 

 

彼を起こさないようにそっとベッドから降り、まず真っ先に窓を開けて、風魔法を使って換気をした。手遅れだったかもしれないが、やらないよりはマシなはず。

 

そそくさと休日用の軽装に着替えた後、ベッドのそばにあった少し古い椅子に腰を落とし、私は一度心を落ち着けるために深呼吸をした。

 

 

頭に残る疑問はただ一つ、「どうして彼が」ということだ。

これまで私が寝坊した時、起こしに来るのは決まっていつも女性陣の誰かだった。当たり前だ。いくらか気心の知れたパーティーメンバーとはいえ、男の人が一人で鍵のかかる女の部屋にはいることなんて普通考えられない。いくら彼が女性に対し好意的に接する性格だからって、いくら朝だからって言ったって、彼が自発的にやったにしてはこれは警戒心が無さすぎるだろう。

と、ここまで考えてから、私は頭を捻った。

 

普通の男なら、恋人でもない限りは女の部屋に一人で入って来たりはしない。でも、リオならと考えれば、いくらか納得がいった。

リオの距離の近さ、明るさは今に始まったことじゃない。最初に会った時からずっとそうだった。リオがそういう性格だから、それだけだから…

 

そう、自分の中で結論づけようとしたにも関わらず、私の中ではもう一つの可能性を期待していた。

 

 

「リオは、私のことが好きなんじゃないか?」

 

 

…無意識に口に出してしまったことに気づき、咄嗟に手を当てた。

リオが寝ていなかったら、とんでもなく恥ずかしい思いをすることになっていただろう。私は思わずリオさんの寝顔を覗き込んだ。

 

…きれいだなぁ…何度見ても。

陽の光が当たってキラキラと輝く茶色い滑らかな髪。整った目鼻立ちに、凛々しくて、でも温かみのある瞳。いつもの笑顔を浮かべて目を閉じている彼の顔があった。

 

やっぱり、これは彼からのお誘いなのではないだろうか?こんな安心し切った顔なんで、恋人以外に見せてはいけないに決まっている。

一生を誓い合った二人が、時間を重ねて愛を育み、その愛を確かめ合って迎えた朝でもなければ、こんな光景は見られないはずだ。

 

ということは、この男はもうすでに私の恋人なのではないか?昨日のことは全て現実で、彼は私だけの伴侶となったのではないか?

この愛らしい生き物は私に対して、愛を囁いてくれたのではないか?なら、女として、今すぐこの柔らかそうな唇を奪ってあげなくては。

 

 

 

右手で握りこぶしをつくり、自分の右頬を殴打した。

 

 

 

…やめよう。昨日の熱がまだ体にくすぶっている。これ以上妄想を膨らませたら本当に戻れなくなりそうだ。

そばにあった水差しの水を自分で注いで飲み、もう一度心を落ち着けた。リオに心を乱されるのはこれが初めてではない。昂る気持ちを抑えるのにも最初は苦労したが、今では慣れたものだ。大丈夫。だいじょーぶ。ワタシ淑女。我慢できる娘。

 

とりあえず、なんで彼が来たのか、ミズキたちに問いただそう。リオにも、一旦私の部屋から出て行ってもらわなければ。もちろんこの状況は嬉しいけれど、心臓に悪すぎる。

もう少し寝顔を見ていたいという気持ちを抑えて、私はリオさんに囁いた。

 

「リオさーん…その…朝ですよー…」

 

 

 

ーーー

 

 

 

はい、おはようございます。リオです。

 

起こしに行ったはずなのに、自分が寝てしまうという、まさにミイラ取りがミイラにな現象に戦慄していました。目が合って百面相するサリアちゃんが可愛かったです。

 

その後、ぱくぱくと固いパンを口に運ぶサリアちゃんを宿に預け、僕は街から離れたところにある高原に来た。宿から徒歩一時間と散歩にはやや遠いけれど、旅慣れた僕らからしたら大した距離ではない。

 

目的はもちろん、修行だ。

自己研鑽は大切。それは昔も今も変わらない。僕は状況によっては仲間の命をあずかるわけだから、できる限りのことはしておきたい。

比較的近場にいた強敵との戦いがあらかた終わってしまった最近では、一回の遠征間の暇が大きい。僕たちが任されるような中~大規模の魔物はそうはいないのである。

 

そのため、こうやって自主トレに励んでいる。

 

 

ちょっとだけ長くなるが、歴史の話をさせてほしい。

この世界は、今まで長く続く大きな二つの大国に分かれている。北と南にいくつかの小国があるが、この西と東が世界を形作っているといっていいだろう。

理由はその規模だけではない。その国がそれぞれ、聖剣とその使い手を、一本ずつ有しているからだ。

聖剣を持つ使い手は、他の誰をも寄せ付けないとてつもない力を持っていて、聖剣に対抗できるのは、同じ聖剣のみとされている。

歴史上、国同士の戦争に聖剣が持ち出されることは何度もあった。そしてそれは勝敗にかかわらず、両国の滅びを意味した。

 

聖剣の力は強すぎるのだ。戦いの過程で二つの大国が亡びる程度には。

 

じゃあ聖剣なんてしまっておけばいいんじゃないかと思うが、その力は強い魔物が出たときなんかに必要なんだそうな。

あってもそのうち困る、なくても困る、なら、上手い事使えないかと、昔からいろんな人が頑張ってきたらしい。

そんな歴史を繰り返しているうちに、聖剣同士がにらみあい、拮抗状態を保っている間が一番平和だということになったのだとか。

 

で、大国が一本ずつ剣とその使い手を保有することになったのだが、忘れてもらっちゃ困る。聖剣は三本あるのだ。厄災級のバケモノがこの世界に現れたときには、両国の聖剣が共闘して倒しているそうなのだが、毎回ギリギリのギリで辛勝らしい。この世界は三本の聖剣とともに繁栄を築いてきたそうなので、二本だとパワーバランスが足りないのだろう、というのが大勢だ。

 

しかしこの三本目の聖剣は、ここ最近の歴史で中々使い手が現れなかった。

のでどうしたかというと、西の大国と東の大国の真ん中に三本目の聖剣を置き、両方の国民から使い手を吟味する、という数うちゃ当たる作戦をとった。

 

しかしなかなか使い手が現れない。

 

そんなことをしているうちにこの真ん中に人が集まり、ちょっとした町ができ、やがて都市ができた。両国民が入り混じった都市で、両大国はその所属を巡って論争した。しかし国民は違った。自分たちはどちらにも属さない、独立都市であると主張した。随分ややこしいことになったそうだ。

 

長くなるので結果だけ言うと、新たな国家が生まれた。

 

西国派の貴族と東国派の貴族で議会をつくり、表向きには独立国としての地位が認められた。実際には、この両大国が直接ぶつからないための緩衝国として独立が認められたのだが。

西国派と東国派から王を一人ずつ出し、現在は双頭政治によって運営されている。古代ローマかな?って突っ込んだら不思議な顔をされた。

当然本国の息かかりまくりの王。一応一つの国扱いされているが、ぶっちゃけ二つの国が勾玉みたいににらみ合っているようなものだ。

庶民の独立都市という意見は取り入れられなかったものの、両大国と比べるといくらか庶民に寄り添った国づくりがなされたらしい。

僕は両大国にいったことがないので分からんけど。

 

 

 

で、時間が経って、三本目の聖剣?そういやあったねそういうの、でもどーせ抜けないししゃーないしゃーない状態になってから、ぽんとサリアちゃんがその聖剣を抜いてしまった。

 

国はびっくり。

ここで話がややこしくなるのが、サリアちゃんの出自。サリアちゃんがどっちの派閥の貴族出身かで大きく話が変わるのはいうまでもない。

サリアちゃん、もといクレハート家の本家であるマクレットハート家は、この国が建国されたとき、両大国の友好のためと、両サイドのとある貴族同士の結婚によって生まれた、いわゆるこの国固有の新興貴族である。対外的には一枚岩になろうという姿勢を見せるためにつくられたらしい。ただ、西国派と東国派の貴族が政治でしのぎを削る中でいわゆる対外的宣伝のために担ぎ上げられたクレハート家は、言ってしまえば半分お飾りだったそうな。

最初はこの国も王は一人で、家臣はどちらかに力が偏らないように中立的であるべきという考えだったらしい。今では影も形もないが。

 

当然、マクレットハート家内にも派閥が存在するが、どちらの陣営からもあんまり重視されることはなかったため、段々縮小していった。今では一地方を任されている中小貴族でしかない。

 

そんな家のさらに分家というのだから、実質路傍の石みたいなものである。

 

結果、『サリアちゃんの所属は中立国セントロ預かり。両大国はサリアちゃんを巡って争わない、OK?』

というざっくりとした条約が結ばれ、今に至る。

 

サリアちゃんに強くなってもらえば今後くるかもしれない災害級のバケモノとの戦いが楽になる。今もちょっとやばそう。

でも、あんまり強くなられると大国のアドバンテージ、もとい戦力の均衡を脅かす。それに、この辺りは大して強い魔物がいる土地柄でもない。その気になればいくらかの時間をかけるだけで僕らのパーティーだけで狩りつくすこともできるかもしれない。ただ、それで冒険者稼業の運営に差しさわりが出るのは明らかで、ギルドとしてはある程度の仕事は他に回したい。

 

でもサリアちゃんを飼い殺しにするにはサリアちゃんが怖い。だって聖剣で何するか分からないから。聖剣を持つものは極めて好戦的...よく言えば活気に溢れている者ばかりで、戦わずおとなしくしていろという方が無理難題だとか。実際、今いる両国の聖剣使いがすでに若干問題児のようだ。

 

というわけで、サリアちゃんは監視付き放牧、もとい冒険者稼業という半自由行動を取っている。

「なんかヤバそうな時だけ力を貸してもらえる程度には強くなってもらって、あとはその辺で穏やかに生きててもらっていいですか、あ、あとこの国から出ないでくださいまじ勘弁して」というのがこの国のスタンスだ。実際に両女王様からそう言われた。冒険者をしてこの国の中の魔物と闘っているときにサリアちゃんが死ぬとか、そういうことは全く考えていない。聖剣の使い手がそんじょそこらで死ぬとは微塵も考えられていないのだ。

 

...結構危ないこと、何度かあったけどね。

 

現状、サリアちゃんは「冒険者の中では最強格」だ。人間基準で見れば十分英雄と呼んで差し支えないが、これは「聖剣を持たない人類がどれだけあがいても敵わない」という他の聖剣の使い手と比べると破格の弱さである。サリアちゃんはそのことを気にしているが、こればっかりは悩んでもしょうがない。

 

聖剣の使い手は、絶対的な強者を前に立ち向かうことで強くなるのだ。

 

今の他二人の聖剣使いは、その一本足りない状態でなんども強大な敵を打ち破り、死闘を重ね、その過程で強くなってきた。サリアちゃんとは年季の入り方が違う。サリアちゃんが聖剣を手にして間もないころに一度その戦いが行われたのを最後に、ここ四年はそういった戦いも起こっていないらしい。僕たちが知らされてないだけかもしれないけど。

 

 

 

というわけで、修行なのである。加えて言うなら、もし、サリアちゃんが僕たちとパーティーを組むことが無意味なくらいに圧倒的な力を手にしたとき、少しでも何かできるようになっておきたい、といったとこかな。もっとも、もしそうなれば役に立てるのかは疑問だけれど。

 

しばらく歩くと、目的の高原にたどり着いた。

辺り一面背の低い草と岩が広がり、人はもちろん、動物の姿も見えない。

薄暗い、けれども厚い灰色の雲で空は覆われていて、そのうち雨が降り出しても不思議じゃない。

 

「この辺でいいんじゃない?」

そう、良く通る声で話しかけてくるのは、パーティーで同じ魔法使い仲間であるシラユキさん。

長く綺麗な黒髪を縛ってひとまとめにしているのは、彼女の戦闘仕様でもある。ひゅうひゅうと吹く風が後ろから前へと流れており、髪がうねるように前後していて若干鬱陶しそうだ。

 

僕とシラユキさんは二人、魔法で訓練をするためにこの辺鄙な場所に来ていた。

 

「この前、もっと遠いところでやれって怒られちゃいましたし、もうちょっと遠くの方がいいと思ったんですが」

 

「前よりは遠いしいいでしょ。これ以上行くと帰るのめんどい」

 

「それもそうですね」

 

そういうと、シラユキさんは僕よりさらに数十歩進んで距離をとる。

 

くるりとこちらを振り向くと、背丈ほどある杖を構えた。

 

 

 

「じゃあ、いくよ」

 

 

 

 




長くなったので分割。

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