妹系勇者ちゃんが僕の水浴びを覗いてくる件   作:ちくわサンド

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評価、感想等ありがとうございます。励みになっています。

前半はスパダリ勇者ちゃんです。
妹勇者ちゃんは最後。


作者が楽しい展開至上主義なのでシリアス成分はなるべく控えめです。この小説は私の好きなゆるふわ日常系あべこべラブコメディを目指しています。もっと勇者ちゃんとの甘酸っぱい、つかず離れずなラブコメを書きたいです。


いつもより長いですが2話分割するほどではないのでそのまま投下します。


子ども組(全部終わったので好きあらばイチャイチャしても許されると思います)

その一筋は、重く。

 

まるで、この世のものではないかのように。

 

 

迷うことなく放たれた一閃は、女の持っていた大剣を文字通り粉々にした。

 

(...相変わらず、何度見ても凄いな)

 

僕は一瞬自分が襲われていることなんて忘れてしまうくらい、その剣技に見惚れていた。

彼女が剣を振るうたびに、その刀身から小さな青白い光の粒子が飛び散る。その幻想的な光景は、まさしく人の域には決して存在しないものだった。

神話に語られる意匠が彫られた柄、この世のどんな名工をもってしても再現することは不可能であろうそれは、剣という暴力的な器を崇高な美術の頂へと昇華していた。彼女以外には決してその力を譲ることなく、彼女の言葉に逆らうことなく。

 

『...フロッティ』

 

彼女が剣の呼び名を口にするとその声に呼応するかのように刀身に力が宿り、まるで彼女が異界から降り立った天使のように感じさせる。

その目は冷たく、暗く、遠かった。

 

「まって、サリアちゃん!!抑えて!!!」

 

サリアちゃんがの気配が明らかに本気になっているのを察し、出来る限り声を張り上げてサリアちゃんに伝える。こんなところで本気で戦おうものなら店が持たない。僕の言葉を少しずつ反芻したのか、どこを見ているのか分からなかった目に段々と焦点が戻ってきて、サリアちゃんを包み込んでいた畏怖のオーラが薄れ消えていった。

 

ハッとした様子であたりを見回したサリアちゃんは、僕の姿を見るやいなや大剣女はどうでもいいと言わんばかりに背中を向け、僕を抑えつけていた二人を剣の鞘で殴り飛ばす。あっけにとられていたのか反応する暇もなかったのか、二人はまるで大人に殴られた子どものように無抵抗にその攻撃をもろに食らい、派手な音を立てて壁と床にのめりこんで完全に沈黙した。し、しんでないだろうな...

 

僕はその時初めて、僕を拘束していた鞭も最初の一閃で同時に切り刻まれていたことに気が付いた。僕の自由を奪っていたはずの鞭が、あの一瞬で完全に切り刻まれている。

 

 

「リオ!!リオ!!!!!大丈夫ですか!?怪我とか、何か、酷い事はされませんでしたか!?」

 

先ほどまでの神々しい雰囲気とはうって変わって、慌てた心配そうな目で僕に駆け寄るサリアちゃん。床に転がって上体だけ起こしている僕の傍で膝をついてしゃがみ、両手で僕の肩をまるで割れ物を触るかのように慎重に抱えてくる。

 

...うーん、仕事に失敗して結局お店がめちゃくちゃになる乱闘騒ぎを起こした挙句、年下の女の子に助けられるとは、なんか今日、僕いいとこなしかもしれない。そんなふうにちょっと情けなさを感じながら、僕はサリアちゃんが心配しないように軽く笑いながら返した。

 

「ううん、何にも。サリアちゃんに助けてもらわなかったら危なかったけど。ありがとうね、助かったよ」

 

そういうが早いか僕の体を抱き寄せ、抱擁するサリアちゃん。

背中に片手を回され、もう片方の手で頭の後ろを持たれ、むぎゅーっと僕の上半身を彼女の体に密着させた。丁度彼女の胸元に僕の顔が埋まり、僕の視界が彼女の体でいっぱいになる。突然のことに何が起きているのか分からなくなり、僕はサリアちゃんにされるがままになる。サリアちゃんの柔らかい体で全身をしっかりと包まれ、身動きが取れない。僕はサリアちゃんに問いかけるが、サリアちゃんは僕を抱きしめたままだ。

サリアちゃんはしばらくの間何も言わず、そうやって僕を抱きかかえたまま僕が無事なことを確かめていた。

 

...まぁ、はたから見れば絶体絶命だったしね。そりゃ心配にもなるか。

 

ひっしと僕を掴むサリアちゃんの手には、その心配さの量を表すかのように強い力が入っている。

段々と僕を締め上げるくらいに。だんだんギリギリと圧迫感がしてきて、押しつぶされそうになる。

 

「あの...サリアちゃん...ちょっと苦しい...です」

 

「あっ!ごめんなさい!あの、私、人込みの奥の方でリオがひどい事されているの見えて、それで一気に頭に血が上っちゃって、それで、リオが無事ってわかって安心して、それで...」

 

堰を切ったように一気に話し始めるサリアちゃんの頭を優しくなでながら、急がなくてもいいとなだめる。段々と本当に僕が大丈夫だということが分かってくれたのか、僕を強く掴んでいた手も緩めてくれた。

 

それでも、僕を抱きかかえるようにして座る姿勢は崩させてくれない。

 

「サリアちゃん、もう大丈夫だから、放してくれてもいいよ?」

 

「だめです。しばらくはこうされててください」

 

...えぇ、なんでだろう。

サリアちゃんは僕の目を覗き込むと、少し目を鋭くして、真剣な顔をして言った。

 

「リオ、なんですぐに助けを呼ばなかったのですか?私たちは店の外にいたので、大声を上げてくれればすぐに駆けつけられました。そうすれば、もっと早くあなたを助けることができていたはずです」

 

「あぁ、あの...失念していたっていうか...そっか、そういえばいたんだよね...いや、あの、途中まで僕一人で何とかなるって思ってたっていうか、いつも通りの手合いだと思ってて...それで、劣勢になったころには声を上げるとか、すっかり頭から抜け落ちてて...」

 

なんとなく言い訳をするのが気まずくなってしまって、サリアちゃんに抱きかかえられたまま顔だけ明後日の方向にそらそうとする。

 

するとサリアちゃんはその手を僕の頬に添え、優しく、けれども強引にサリアちゃんの目と僕の目を合わせる。サリアちゃんの綺麗な顔が僕の視界を埋め尽くし真っすぐこちらを見てくる様に、思わず顔が赤くなった。

 

 

「リオ、約束してください。次からはまず私たちに頼ると。二度と私にこんな心配をさせないと...あなたがもし傷ついたらと思うと、私は胸が引き裂かれそうなくらい苦しいです。あなたがどこの誰とも分からない下賤な輩にその体をさらしているなんて、私には耐えられません...お願いです。私の傍にいてください。...私に、貴方を守らせてください。」

 

 

 

サリアちゃんの目はどこまでも真っすぐで、真剣で、強く激しい熱が籠っていた。

彼女の熱が僕に伝播するのが分かる。体の底が熱くなって、有無を言わせないその瞳に飲みこまれそうになる。

 

「...は...はいっ...」

 

段々と、僕はこの人に守られている、自分より強く、格好いい女の人に愛されている、という意識が、多幸感にも似た未知の感情が、僕の頭に浸透していく。

 

耳の先まで紅潮し、先ほどよりも心臓の音が早くなる。どこまでも冷静になり切れない頭では、小さく短く言葉を返すことが精いっぱいだった。

 

どのくらい時間が経っただろうか、数秒か、数分か、もしかしたらもっとかもしれない。

 

 

 

そうしてたっぷりと時間が過ぎた後、思い出したように辺りを見渡すと先ほどまであんなに騒がしかった周囲はぴたりとおとなしくなり、揃ってこっちを見ている。

 

いつの間にか先ほどまであんなにいたはずの迷惑団体は姿を消しており、喧嘩の終わった後のめちゃくちゃになった店内と、僕たちを生暖かく見守る常連客の視線と、あきれ返るパーティーメンバーが残っているのみだった。

 

 

あの...もしかしてもう終わりな感じですか?

 

 

周囲の皆がそろって頷いた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

その後はとんとん拍子である。

 

なんでも、僕が劣勢になるとすぐさまオーナーが助けを呼ぼうと血相を変えて飛び出し、それに気づいたサリアちゃんたちが訳を聞くやいなや参戦。

圧されてた常連客連中はミズキさんたちの加勢もあって一転反攻。サリアちゃんが格の違いを見せつけたことで戦意を喪失したのか、僕たちの決着がついたとたん迷惑団体は蜘蛛の子散らすように散り散りに解散していき、いつの間にか大剣女たちも姿を消していた。サリアちゃんが一瞬のうちに沈めた女二人を除いて。彼女らを拘束した後、あの後騒ぎを聞きつけた衛兵に事情を聴かれつつ引き渡し、オーナーも詳しい事情聴取のため一緒について行った。

 

サリアちゃんと問答しているうちに話は随分片付いており、僕は今、オーナーに言われて店の片づけの仕切りをしていた。常連客のみなさんも手伝ってくれているので、結構とんとん拍子で進んでいく。ひっくり返ったテーブルを戻し、床に散らばった料理を片付け、穴の開いた床やら壁やらを補修して...。

 

喧嘩のたびにちょくちょく店が壊れることはよくあったしこういう片づけは初めてではないが、ここまでの規模のものは働いていて初めてだった。

 

「だから、あの、サリアちゃん?もう全部終わったしそろそろ放してくれてもいいかなーっておもうけど」

 

「だめです」

 

「あの...ずっと腰を抱かれたままだと、片付けとかしづらいと言いますか...いや、違う、嫌とかじゃないから、だからそんな悲しそうな顔しないでっ!」

 

あの後、さっきまでのカッコいい感じはどこへやら、サリアちゃんはすっかり僕に引っ付いて離れない甘々サリアちゃんになってしまった。僕が襲われている光景がよっぽどトラウマだったらしい。いや...まぁ、いいんだけどね?不安にさせちゃったのは悪かったと思っているし、それでサリアちゃんの気が済むならいいんだけど...。

 

僕は魔法でへこんだ壁を補修しながら、サリアちゃんにされるがままになっていた。

なんだろう...とてつもない聖剣使いといえども、こういうところはまだ心配性な年頃の女の子なんだなと、可愛らしく思う。

 

店の片づけもあらかた済んだ頃、オーナーが戻ってきた。

 

オーナーは僕とサリアちゃんの様子に若干面食らった後、疲れた顔で語り出した。

 

「結局、あいつらは知らぬ存ぜぬ貫いて何にも話はしなかったよ。どっから来たのか、所属はなんなのか、何一つだんまり。一応向こうに非があるって形で話が収まったからいいけど、ありゃ上からは尻尾切られて終わりだろうね。どんだけ抗議したとしても大して大事にはさせられないだろうよ。あのザル衛兵連中もよくある喧嘩扱いでそこまで真剣に取り調べる気もなさそうだし、はー、一発くらい殴っとけばよかったわ」

 

「ごめんなさい、オーナーさん。私が取り逃がしたせいで...」

 

「僕もごめんね、オーナー。こういうことにならないために僕がいるはずなのに、何にもできなかったよ」

 

オーナーはいやいやと首を振って、ニカッと笑って言った。

 

「何をいいなさる、叩き出せって指示したのは私だよ。むしろアンタラはよく頑張ってくれたもんだ」

 

そういうと、オーナーは僕の方に向いて頭を下げる。

 

「悪かったね、リオ。私がリオに任せっきりになっていたのが良くなかった。護衛をもう2、3人雇い入れとくなり、ああいう手合いの奴は門前払いするなり、もっとやりようがあったわ」

 

被害に遭った渦中の人間だろうに、自分のことばかりになるのではなく相手のことまで考えることができる。オーナーは良い人だなぁ...。

 

ぐいっと水を飲み干すと、オーナーは続ける。

 

「遠慮なくサリアの名前も出させてもらったよ。あの衛兵連中がきちんと仕事をしてくれるなら、上にも話が伝わるだろう。...ただね、サリア本人にどうこう被害があったわけじゃないし、リオも結局は未遂で終わったもんだから、形ばかりで済ませられるだろうってのが私の予想だよ。サリア本人は無関係な酒場の喧嘩にたまたま居合わせただけ、それ以上に向こうが捉えてくれるとは思えないね」

 

「そんな!リオが危ない目にあったっていうのに...!」

 

「サリア本人か、実害があったなら話は別だろうよ。ただ向こうからしてみれば貴族でもない一介の仲間で、そのうえ今回は未遂だ。実際のところリオは無傷だろう?」

 

そうなのである。僕はちょっと背中を床に打ちつけたくらいで、ケガらしいケガが残っているわけでもない。これで顔を殴られてパンパンに腫れているというのであれば説得力の一つも出ただろうが、打撲痕の一つもなかった。

 

「それに、向こうさんからすればサリアこそ重要人物だが、上の連中がその周りまで同じだって考えてるわけじゃないだろう。サリアが納得いかないのもわかるが、認識のズレってやつだよ」

 

僕たちが話しているところに、さっきまで壊れた椅子の足を直していたミズキさんたちが歩み寄ってくる。

サラさんは凄い心配してくれており、ミズキさんは今のサリアちゃんの現状の方に気がなっているようだ。そしてシラユキさんはというと、僕が不甲斐ない負け方をしたのを聞いたのだろうかちょっと不機嫌そうだ。...この人に心配されたこと、ないな、僕。

 

思ってることが伝わったのか、シラユキさんがこちらを見て口を開いた。

 

「私があんなに手合わせしてやったのに、負けるだなんて情けない。今度は体術をきっちり叩き込む」

 

...うーん、手厳しい。

 

「もう、ユキ!リオは1人で3人を相手にしていたんですよ?しかも男で、体術は本業じゃないのにもかかわらずです。もうちょっと言い方っていうものがあるんじゃないですか?」

 

サリアちゃんが盛んにフォローしてくれているのが若干心に痛い。

サラさんが珍しく酒を持たずに現れ、割って入ってくれる。

 

「ま、まぁ、いいじゃないか。私としては、リオが無事でよかった。ユキもそう思ってるだろう?」

 

シラユキさんは、まぁ、と生返事だ。

 

うちのパーティーに囲まれて若干気まずそうなオーナーが、こちらの様子を窺いながらそういえばといった様子で尋ねる。

 

「まぁ、店が再起不能になるまで壊れるってわけでもなかったし、死人や重傷者が出たわけじゃあない。一件落着ということにしておこうか。もう片付けも終わるし、リオ達も帰りなさい」

 

そういって僕に目配せをするオーナー。気を使われてしまっているが、お言葉に甘えさせてもらおう。

 

「サリアちゃん、というわけで、いったん制服だけ着替えたいから離してくれないかな?すぐ戻ってくるから」

 

そういうと、サリアちゃんはしぶしぶといった様子で手を離してくれた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

帰路、僕は先ほどの戦闘の様子をみんなに話していた。

 

「いや...その、僕も一瞬だったから自信はないんだけど、そういうわけで、あいつらは奴隷商人だったのかなって思ったんだ」

 

僕がそういうと、みんなは大層怪訝な顔をした。特にサラさんなんかは一際顕著だ。何やら考え込んでいる様子で話す。

 

「東西両国が奴隷制を廃止したのは昔というほど前のことではないだからな。割を食った奴隷商は名を変え形を変え未だ健在なものが多い。特に、近くの南の小国群には未だ多いと聞く。だがリベリアは当然公的には奴隷商の立ち入りを禁じている都市だ。分かった。領主にはその懸念があると私から報告しておこう」

 

なんというか、サラさんが味方にいることの頼もしさが凄い。

 

「ただの喧嘩事だと思っていたが、あいつらは他所の者にしてもどうも薄気味の悪さというか、素性のしれない怪しさがあったからな。喧嘩を起こした迷惑客として衛兵に引き渡したそうだが、適当に言い訳をして長く拘束させておくべきだったかもしれないぞ。少なくとも、あの商人とつながっているという貴族連中は私の方から調べておこう。ただあまり期待はしないでくれ」

 

ミズキさんが続く。

 

「あいつら、明らかに慣れているのか逃げ足が早かったぞ。...話が本当なら、捕まえられた下っ端の二人を口封じに早めに殺して憂いを掃う可能性が高いだろうな。衛兵連中が口封じから証人をきちんと守ってくれるとは考えづらい。酒場の喧嘩として処理された以上明確な犯罪行為を働いたわけでもないし、奴らの仲間を捕まえるために検問を敷くわけにもいかない。あの手の連中は退散雲隠れ隠蔽にかけては信じられないくらい機敏だからな、もう今頃は都市を脱しているかもしれん...まぁ、酒程度で激昂するなら、案外短絡的かもしれないが。何とも言えないな」

 

ミズキさんもそれに頷くように深刻そうな顔をしているが、対照的にシラユキさんはあまり興味がなさそうだ。

僕の右半身にぴったりと張り付きながら、腕を抱えて隣を歩いているサリアちゃんに呆れたような視線を送っている。

 

「...お前らはいつまでそうしているつもりだ、見てて鬱陶しい」

 

そう、サリアちゃんは先ほどからコアラのごとく抱き着いて離れない。

 

「えっと...そんなに心配しなくても、結局何ともなかったんだしさ?」

 

サリアちゃんは若干顔をうつむかせており、こちらからは表情が窺えない。いったいどうしてしまったんだろうか。別に戦っていてピンチになったときがこれだけってわけでもない。今までも危機に瀕したことはあったが、こんなにも心配されたことはなかった。

 

「...今までは、どんな危ないときだったとしてもみんなで一緒にいたじゃないですか。私が傍にいる時は、どんな状況だったとしても私が必ず守ってみせます。けど、今日みたいに私の目の届かないところで、私が知らないところで何かあった時、もしかしたら間に合わないかもって思っちゃって、想像したら、凄く怖くなっちゃったんです」

 

サリアちゃんは一呼吸おいて言う。

 

「リオを信頼していないというわけではないんです。むしろ、本当は一人でもなんとかできるくらいに強くて頼りになる仲間だと思ってます。頭では分かってるんですけど、それでも、もしかしたらっていう気持ちが拭えなくて...」

 

そういうと、サリアちゃんは僕の服の裾を小さくつまんだ。

 

サリアちゃんは伝説の勇者で、とてつもない力を持っていたとしてもまだ14歳だ。修羅場をくぐったことがないというような甘い経験こそしてきていないが、仲間を失ったことはない。自分だったら助けられるはずだった、というようなシチュエーションになることを過剰に危惧しているというのは致し方ない事だろう。大切に思われていることに嬉しい気持ちになりつつ、まだまだ子どもなんだなという事実を知って胸が暖かくなる。

 

僕はサリアちゃんの手にそっと手を絡めて握り返し、もう片方の手で俯いていた頭をポンポンと優しく叩いた。サリアちゃんは僕の反応に小さく驚きつつ、僕が握り返した手をがっしりと掴んでいる。僕は上半身だけを少しだけしゃがませ、彼女の目をそっと覗き込んで答えた。

 

「...ありがとうね、サリアちゃん。僕、年上なのに、サリアちゃんに頼ってばかりだね。サリアちゃんが助けに来てくれた時、すっごい安心したし、サリアちゃんのこと格好いいって思ったんだ。次からはサリアちゃんの目の届くところにいるって、約束するよ。だから、また僕が危ない目に遭いそうだったら、ぼくのことを守ってくれると嬉しいな」

 

僕は彼女のことを信頼していて、彼女も僕のことを信頼してくれている。それでなお、心に不安があって拭えないというのであれば、その不安以上の安心を、僕は彼女に与えたかった。

 

 

すっかりと静まり返った夜道では、あまり大きな声で言ったわけではないその言葉もいつもよりはっきりと伝わる。この返答が最適かどうかは僕にはわからない。ただ、サリアちゃんにこれ以上曇った顔をしていてほしくなかった。

 

サリアちゃんは高揚とも驚きともとれるような顔を浮かべてこちらを見てくる。僕は小さく笑ってその瞳を覗き込んだ。我ながらちょっとこっぱずかしいことを言ってしまったこともあり、頬が少しだけ熱を帯びる。目を合わせたままのサリアちゃんの頬も、ぎゅっと握った白い手のひらも、同じ暖かさをしているのが分かった。

 

心地いい冷たさをした夜の風が僕たち二人の間を流れ、火照った顔を冷ましてくれる。

 

黙ったままお互いの顔をじっと見て離さない僕たち二人。その距離は互いに互いを吸い込むかのように段々と近づき...

 

 

「...宿、着いたぞ」

 

ミズキさんが肩をくすめながら放ったその一言で、はっと我に返るのであった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

着くやいなやお疲れ様と互いに手を振って解散し、それぞれの部屋に戻って眠りに就こうとする。

僕も僕の部屋に戻ってラフな服に着替え、寝る支度をする。

 

僕が今まさに寝ようとしていた時、部屋を小さくノックする音がした。

 

「はい...って、サリアちゃん?」

 

扉の前に立っていたのは先ほど別れたはずのサリアちゃんだった。先ほどまでの外出用の服装ではなく、シャツにズボンだけの簡単な装いだった。それでもなお美人が着ると服はなんでも似合うという言葉は嘘でも何でもないんだなと思わせるだけの魅力がある。

まぁ、両手をクロスさせて枕を抱き抱えた状態のサリアちゃんは美人というより可愛らしい美少女という印象が強い。

 

サリアちゃんは少しだけ逡巡したようなそぶりを見せた後、こう切り出した。

 

「あの...リオ、今日、一緒に寝ても、いいですか?」

 

一応言っておくと、旅中なんかのテントでは二人で寝たりしたこともある。僕もまだ子どものサリアちゃんにどうこう思ったりはしないが、まぁ積極的に添い寝したりしているわけでもない。

 

まだパーティーを組んで少ししか経っていなかった時、懐かれたばかりの頃はサリアちゃんと二人並んでお喋りをしたままお泊り会をしたりしたこともよくあった。僕たちがこれまでにした旅の経験について振り返ったり、くだらない話に一晩中花を咲かせたり。もっとも最近は遠慮していたのかお年頃だからだろうか、そういうことはなかった。いくらサリアちゃんが子どもと言っても、流石に年頃の女の子と二人で寝るというのはあまり外聞がよろしくないような気もする。仲間の皆にあらぬ誤解を招かないとも限らない。

 

「いや...えっと...流石にもう、それは不味いんじゃないかなーっ...なんて...」

 

僕がそういうと、サリアちゃんは抱えた枕に顔を半分うずめながらこちらを見て言った。

 

「...私の目の届くところにいるって、約束してくれたじゃないですか」

 

んっ...!それを引き合いに出されると弱い。

サリアちゃんは訴えかけるようにじっと真っすぐこちらを見てくる。この世界では成人が早いとはいえ、親元を離れて生活することに寂しさを覚えることもあるだろう。

...まぁいいか、たまには。

 

僕は彼女を部屋に招くと彼女はおずおずといった様子で入ってくる。部屋の構造はサリアちゃんと同じはずなのだが、家具の配置や魔法使いの小物類が珍しいのか、興味津々そうだ。

 

僕はベッドに入るといつものように服の締め付けをとるため首元のボタンを一つ、二つと緩めると、体をずらしてサリアちゃんが入れるように少し奥に詰めた。そのまま掛け布団を片手で持ち上げ、ゆっくりと笑いながら彼女を呼ぶ。

 

 

「ほら、おいで」

 

 

サリアちゃんはおずおずと小歩で近づいてくると自分の枕を僕の隣に並べ、小さく「失礼します」と言って隣に入ってくる。

 

帰路に話したことを思い出す。サリアちゃんは先ほど一旦は納得したようだったが、わざわざ一緒に寝ようというくらいなのだからまだまだ落ち着いているとは言えないのだろう。彼女は先ほどから何かを言おうとしては飲みこんでいるようにも見える。

 

そうこうしていると、サリアちゃんが口を開いた。

 

「...リオは、どうしたいですか?」

 

「どうって?」

 

「リオに乱暴をした人たちのことです。多分、私がきちんと主張すれば偉い人達が時間がかかってもきちんと制裁を加えるまで追ってくれると思います。でも今日の話を聞く限り何も言わなければ単なる喧嘩として大事にはならず、そのうち忘れられるでしょう。私としては、リオに乱暴を働く輩は一人残らず倒したいとは思いますけど...リオは、違いそうですね」

 

返事をする前に顔に出てしまっていたのか、サリアちゃんは最後にそういった。

そう、僕としては今回のことについて、若干きな臭いことこそあれどもあんまり大事になってほしくなかったし、今もしたくないと思っている。サリアちゃんの言うようにするには色んな貴族を相手に話をする必要があるし、サリアちゃんや仲間に面倒をかけることにもなる。

 

 

本人は面倒とは思わないかもしれないが、犯人捜しや裁判やらに時間をたくさん費やすくらいだったら、明日からは普段通りに生活したいと思う気持ちの方が強かった。時間は有限なんだから、できる限り楽しいことに費やしたい。

 

...歳月人を待たず、ってね。...あれ、使い方ってこれでよかったんだっけ。

まあ、結局のところ実害はなかったわけだし、僕がもっと強ければああはならなかったはずだったろうし、終わることなら終わらせてしまいたい。

 

同じ布団の中でそのことをサリアちゃんに伝える。二言三言と言葉を交わしていると、しぶしぶと言った様子だったが最終的には僕がいいなら、と分かってくれた。

 

 

 

 

本来なら一人用のはずのベッドに詰めて二人入ると流石に余裕もなくなり、肩と肩が触れ合う。二人分の枕を並べると横幅はもうほどんど余裕がない。

 

僕はサリアちゃんと一緒に布団をかぶると、枕元にあったランプを消した。

 

先ほどまでの黄色く暖かい光が消え、青く暗い夜の気配が僕たちを包む。今夜は月が出ているのか、窓の外から差し込んだ濃紺の明かりがほんの少しだけ部屋を照らした。光が反射したほこりがちらちらと宙を舞う。

 

ベッドに入って静かになると、それまでは耳に入ることのなかった様々な小さい物音が聞こえてくる。夜に動く鳥が鳴く声、屋根裏かどこかで小さい動物が動く気配、まるで突然聞こえてきたような色とりどりの環境音に、ひょっとしたら僕の空耳かもしれないと少し分からなくなる。

 

ただ、隣から大きく感じる暖かい気配と小さく布が擦れる音は決して気のせいではなかった。

 

サリアちゃんは僕のベッドに入ったっきり、仰向けのままぴたりと止まって動かない。あんまりにも微動だにしないものだから、逆に少しおかしくなってしまった。

 

僕はサリアちゃんの方に顔を向けて左半身を下向きにして横向きの姿勢をとると、少しだけサリアちゃんに近寄る。先ほどサリアちゃんのスペースを開けるためにベッドの端に寄ったが、今度はこちらが少し狭苦しくなってしまった。

 

「サリアちゃん、寒くない?」

 

僕はそっとサリアちゃんに聞く。顔と顔の距離が近いため、自然とサリアちゃんの耳元で囁くような形になった。少しくすぐったかったのか、サリアちゃんの全身がピクッと小さく跳ねる。サリアちゃんは首だけでコクコクと返事をした。

僕の体とサリアちゃんとの間で先ほどから行き場をなくしてうろうろしていたサリアちゃんの右手をそっと握り、指先を冷やさないように優しく揉みしだく。まだ秋の始まりといった気候だが、それでも夜は多少冷える。

サリアちゃんの体温が心なしか上がったような気がする。体のぬくもりとひんやりとした服が心地いい。

 

 

「...ねぇ、サリアちゃん、明日は二人でおでかけしよっか」

 

僕がそういうと、サリアちゃんは分かりやすくびっくりしていた。

 

「何かサリアちゃんにお礼をさせてほしいなって思って。...僕と出掛けるのは、いや?」

 

多分断られないだろうと思いつつも、少しだけおどけたようにしてそう聞く。サリアちゃんはそれを文字通り受け取ったのかとんでもないと言わんばかりに目を大きく開けて、僕の手をぎゅっと掴んで胸元に引き寄せながら答える。

 

「なっ...!そんな、そんなこと絶対ないです!行きます!行きたいです!!!」

「あの、ちょっと、落ち着いて。もう夜だから、声抑えて...ね?」

 

僕が唇に人差し指をあてると、サリアちゃんが自分の声が無意識に大きくなっているのに気づいたのだろう、少ししゅんとして自身の口をおさえた。

 

...これだけ喜んでくれるのなら嬉しいな。これはお兄さんとして、いっぱい奢ってあげなくちゃっと。

 

 

 

その後はサリアちゃんと、明日をどう楽しむかということを話しながら時間を過ごした。

僕とサリアちゃんとで、お互いにやりたいことがポンポンと出てくる。

 

少し離れたところにある新しくできた喫茶店(カフェ)に行って、甘くて美味しいと評判のケーキを食す。都市の中を流れる綺麗な川のほとりを散歩しながら、目についた入ったことのない雑貨屋さんを探して歩いてもいいし、体を動かしたくなったら盤打球技(テニス)をしに行くのもいい。テニスは体の小回りが利く分ミズキさんたちよりも僕とサリアちゃんの方が強く、お互いに体力も反射神経もあるためいつも長時間の真剣勝負になるのだ。サリアちゃんは今までの対戦成績を覚えていた。サリアちゃんの方がちょっと勝っているそうなので、明日は僕が勝たせてもらいたいと思う。お昼ご飯はちょっといいレストランに行って、都市の小高い場所にある広場に行って夜景を見るのも素敵だ。

 

もはや先ほどまでの辛気臭い雰囲気はどこかへ行っており、サリアちゃんと僕の弾むような楽しい声が部屋に響き渡るようにして僕たちの周囲を満たしていた。笑い声と楽しみな気持ちとが高ぶってしまい、先ほどまでは眠るつもりだったはずがすっかり二人ともお喋りモードである。

 

僕がくだらないことを言って揶揄えば、サリアちゃんはそれに乗っかってもっとふざけたことを言って返してくる。言わずもがなサリアちゃんはパーティーで一番年少で、その次に年下なのが僕だ。それ故か、他の皆との間とは少しだけ違う、年齢的にあまり開きがないゆえの気楽さのような関係性が僕たちの間にはあった。

 

...そう、例えるなら、兄妹のような。

 

やがて夜も遅くなってきて、次から次へと浮かんできた話題も段々と睡魔に遮られるようになってくる。僕はサリアちゃんの頭をなでると、今日はもう寝るように促した。

僕はサリアちゃんの右半身にもっとくっつくとお腹の方に手を回して彼女の体を抱き寄せ、目を閉じて肩に頭を乗せた。

 

ぎゅーっと触れて、僕はきちんとここにいるよっていうことを全身で理解してもらう。サリアちゃんのミルクみたいな優しい匂いが僕の鼻孔をくすぐり、体と体が先ほどよりも密着する。

 

サリアちゃんは最初こそ少し固まっていたものの、段々と眠くなってきたのか目がとろんっ...と下がってきて、その暖かい体を僕の方に向けてこちらに預けてくれる。

僕はサリアちゃんの背中に回した手でとんとんと優しく背中をさすりながら、雛を温める母鳥のように優しく、穏やかに彼女の息遣いを感じていた。

 

やがて、彼女の方からつながりを求めるように、サリアちゃんの手が僕の体に伸びる。彼女の手がしっかりと僕の腰を掴んで離さない。ベッドに伸びたサリアちゃんの足と僕の足が交互に絡まり、彼女は少しだけ体を丸めて僕の胸に顔を埋める。うつらうつらとした様子で、もはや受け答えも曖昧だ。

 

そっとその顔を覗き込むと完全に頬の緩み切った可愛らしい笑みを浮かべていて、見ているだけで安心した、幸せな気持ちになってくる。

 

僕は両手でサリアちゃんを抱きしめ返すと、彼女の額にそっと唇を当ててから瞼を閉じた。

 

 

 

 

...今日はありがとう、おやすみ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




序章、終わり。





制服ショタ愛好家オーナーが好きな皆さんが思いのほか多くてびっくりです。制服ショタがかいがいしく接客してくれる喫茶店とかありませんか?(願望)

次回、「晴れの日」
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