鬼のいる世界で死神を気取る   作:りんごあめ

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ハーメルンなどの小説を紹介しレビューをしているブログがあるのですが、この小説が紹介されていると教えていただきビビり散らかしました。紹介していただき謝謝。


10.童磨倒すべし、無惨しばくべし

 しのぶちゃんの言う通りカナエさんのいる町には、その日の夜中に到着した。

 

 町に足を踏み入れ少ししたところで異様な気配というものを感じた。

 いままでも近くに鬼がいるとなんとなくそれが分かっていたのだが、今回はこれまでの比ではない。それが目の前にはおらず姿も見えていないにも関わらず吐き出したくなるような不快感が俺の身体にまとわりついていた。

 

 ただ町を探し回るだけでは間に合わないかもしれないと俺は近くの家の屋根に飛び移り、屋根伝いに町を見て回った。

 

 

「……ッッ!!」

 

 それからすぐのことだった、時間にしておよそ3分。目当ての人を見つけたその瞬間、家の屋根から大きな屋敷の屏に飛び移って刀を抜き、すぐさまそれを全力で振るった。

 

死神の呼吸 陸ノ型 散れ──千本桜

 

 放たれた斬撃は見事に鬼の手首へと突き刺さりその手を落としてみせる。鬼は一瞬驚いたような顔をしながらも、俺に気づきこちらを見上げながら笑う頃には何事もなかったかのように腕を再生させていた。

 

「今日は月が綺麗ですねぇ……まぁ一番綺麗なのはカナエさんですけど。

 そんな綺麗なものが揃ったいい夜に一匹、汚ねぇゴキブリ野郎が紛れ込んでんなァ」

 

「あははっ!面白いこと言うねキミ。ゴキブリ野郎ってのはもしかして俺のことかい?」

 

 分かっているくせに。わざとらしく満面の笑みで首を傾げるソイツを俺は舌打ちをしながら見下ろした。

 

 

 

 

「どう、し…て……っ、ゴホッ!げホッ……!」

 

「無理に喋らないでください。言ったでしょ?困ったことがあったら救けに行くって」

 

 塀から飛び降りてすぐにカナエさんを抱え少しだけ離れた場所へと運ぶ。逃げようとしたってどうせ邪魔されるし仕方がない。カナエさんを近くの木にもたれかかるように寝かせて静かに立ち上がる。

 

「ダメよ、キミは逃げて……相手は上弦の…鬼よ」

 

「残念ですけどそのお願いは聞けないですね、俺は大事な人を置いて逃げるような薄情者ではないんでね。それにあなたが死んだら蝶屋敷のみんなが悲しみますからね、絶対殺させやしませんよ。

 しのぶちゃんが応援を頼んだのでそのうち他の柱も来てくれるはずです」

 

 刀を抜いて鬼を見据える俺に逃げる意思が全くないとわかったのかカナエさんは一度目を瞑り、覚悟を決めたような顔で口を開く。

 

「気をつけて、やつの近くで息を吸っちゃダメ。あの霧が……」

 

「身体の中に入ったりでもしたら大変なことになりそうですね、アレはかなりヤバいって俺の勘も言ってますよ」

 

 原作知識というやつでヤツの術はもう知っている。だから最低限の予防策も準備してある。

 

「そんならこうやって鼻と口布で覆っとけば少しはマシでしょ」

 

 頭の後ろでぎゅっと結びながら俺は持ってきた布で顔を覆う。まぁこれなら気休め程度だが肺に取り込むリスクも減るだろう。

 

 

 

「あ、話し合いは終わったかい?もう待ちくたびれたよー」

 

 ニヤリと笑って俺達を眺めていた鬼が真正面に向かい合った俺を見て言う。

 

「初めまして俺は童磨。いやぁ今日はいい日だ、まさかこんな美人な女の子に二人も出会えるなんてさっ!キミ名前なんていうの?」

 

 ……美人な女の子二人?あぁ、こういうくだり久しくなかったから忘れてたわ。コイツ俺を女の子と勘違いしてやがらぁ。

 軽く咳払いをしてから口を開く。

 

「ワタクシの名は牧部(まきぶ) 辻美(つじみ)といいます、以後お見知り置きを」

 

 名を聞いた鬼、童磨はへぇ〜と頷くと。

 

「ヤダなぁ嘘つくなんて、俺悲しいよ。ほんとはなんていうんだい?」

 

「キッショ、なんで分かるんだよ」

 

 一瞬でバレてしまった。

 くそっ!ちゃっかり『きぶつじ』と言わせて無様に死んでもらえないかと思ったがそう上手くはいかなかったか。無駄に賢い頭しやがって……!

 

「けっ、仕方ないな……俺は護廷十三朗。名前は覚えなくていいよ、お前から呼ばれたくないし嫌いだし」

 

「そんな酷いこと言わないでくれよ……って十三朗?…え、もしかして男!?

 え〜全然わかんなかったよ。綺麗な黒髪だし肌も白くて綺麗だったから俺てっきりカッコイイ雰囲気の女の子だと思ってた〜!」

 

 俺の名を聞いた童磨がギョッと目を見開いたかと思うとくねくねしながらそんなことを言い出した。ようやく気づくとか遅すぎだろお前。

 

「ぷっ、あはははっ!女性ばかりを狙ってると聞いてたがまさか男女の区別もできない節穴野郎だったとは驚きだねぇ」

 

 吐き捨てるように笑いながら煽ってみると、童磨は同じように笑って答える。

 

「ははっ!これは手厳しいね、返す言葉が見つからないや!でも俺は鬼としてはちょっとすごいほうなんだよ?知ってるかい、俺のこの目の意味を」

 

「知ってるよそんなダサい彫り物はそうないからね、上弦の弐ってことだろ?お前みたいなアホが上から二番目になれるとは十二鬼月を決めてるお偉いさんはよっぽど頭が悪いんだな」

 

「十二鬼月は頭の善し悪しで選んでないからね、あの方の悪口を言っちゃいけないよ。せっかくだ、君にも見せてやるよ。上弦の鬼の力ってものをね」

 

 もう口で語るのはやめにするつもりらしい。童磨はそう言うと扇子を構えて笑う。

 さて、もう少し戦わずに時間稼ぎをしたかったんだが限界だな。

 

 こちらも臨戦態勢へ入り、胸の前に刀を構えてから高速で振り抜く。

 

死神の呼吸 陸ノ型 散れ──千本桜

 

「あぁ!さっき俺の手を斬り落とした技だ!すごい速さで振ってるね、六回……かな?瞬きしてたら見逃しそうだよ」

 

 ひらひらと紙のように動き回り軽々と攻撃を躱して笑う童磨。

 マジかよ、難なく避けたうえに刀を振った回数まで完璧に言い当てやがった。いままで鬼に見破られたことなんかなかったのに。上弦ってのはほんとバケモンだなコイツ。

 

 

 なんだかサラッと当たり前のように戦い始めてしまったがコイツ上弦の鬼なんだよな、無惨を除けば上から二番目の柱じゃないやつが遭遇したらほぼ確実に死ぬようなら相手なんだよなぁ。十二鬼月なんて下弦ともすら戦ったことなかったのにいきなりコイツと立ち合うとか俺やっぱりすんごい無謀なことしてない?

 

 頭ではわかっていたはずなのに実際にその力を見せられて思っていた以上に身体は強ばり、焦りが募る。

 大丈夫だ、落ち着け。なにも頸を斬らなくたっていいんだ、援軍が来るか、朝が来るまで耐えればいいだけなんだ。集中しろ、相手の攻撃が少しでも弱まるように攻撃をすればいい。相手の攻撃を致命傷にならないよう防げばいい。この二つのことだけをやればいいんだ。いける、絶対大丈夫だ。

 

 自分に必死に言い聞かせ奮い立たせて、俺は刀を強く握りしめた。

 

 

 

「でもそう同じ技を使われてもなぁ、もう見切ってしまったし俺には届かないよ?」

 

「んなこたァわかってるわ、できればお前に近づきたくないからね」

 

「あの子から俺の血鬼術について聞いたのかな?」

 

「聞かなくてもわかるけどね、そもそもそんな身体の周りにホコリ撒き散らしてるヤツに近づきたいとか思わんでしょ」

 

「ホコリなんて言われたのは初めてだよ〜まったくそんなものと一緒にしないでよ、悲しいじゃないか」

 

「けっ、あんたつまんないウソつくね。そんなこと微塵も思ってねぇくせに」

 

 眉を下げて悲しそうな顔をする童磨に吐き捨てる。やっぱり近づくだけでも命かけだな

 

 コイツの能力は自らの血を凍らせてそれを撒き散らすというもの。

 その冷気を吸い込もうものなら肺が凍りつき大ダメージを受ける。そんな初見殺しもいいとこな性質の攻撃を高威力広範囲で放ってくるんだから本当に厄介である。

 

「血鬼術・蓮葉氷」

 

「……ッ!ヤバっ!」

 

 扇を振るい蓮の花型の氷を飛ばしてくる童磨。

 

 攻撃が自分のどこに来るか電流が流れるような感覚で察知できる俺の勘、それが瞬時に頭の先から足の先までビリビリと走り抜ける。

 再び千本桜を放ち相殺しつつ後ろへ飛び退いて回避する。

 

「へぇーすごい!上手く防いだね!でも防ぐばかりじゃ俺には勝て──」

「説教なんざ受ける気ねぇよ──卍解」

 

 

 飛び退いてすぐに体勢を整えた俺は日輪刀をスっと静かに手放した。

 

 

死神の呼吸 陸ノ型 卍解──千本桜景厳

 

 

「え?なんで刀を手放し──ッッぐおっ!?!?」

 

「よかった。今度は見えなかったみたいだな」

 

 先程までの笑顔はどこへやら、驚きに染まった顔で無数の斬撃に斬り刻まれ身体中から血を吹き出しながら童磨はよろめいた。

 

「は、ははっ。驚いたや、まさかいままでのは本気じゃなかったとは。動きが速すぎるあまり刀を手放したように見えるなんてキミよほどの使い手だね」

 

「やっぱ卍解でやっと有効打ってとこかな」

 

 大きく息を吐きながら羽織の袖で額の汗を拭う。とりあえず俺の攻撃でもヤツにダメージ与えられるのはわかったしある意味一安心。

 再び卍解した千本桜で攻撃を仕掛ける。

 

「うんうん、すごいぞ!これはさっきより避けるのが難しいな!」

 

 そうは言いつつも焦った様子はなく、童磨はまた楽しそうに笑っている。そんなヤツが回避に夢中になっている間に俺はぐっと踏み込み距離を詰める。

 

「そんじゃ、もひとつオマケに卍解といこうか!」

 

 

死神の呼吸 拾ノ型 卍解── 大紅蓮氷輪丸

 

 

 こちらも冷気を纏わせた刃で斬りかかる。凍てつき白い息を吐くように冷気を発した刃が童磨の身体を掠めて切り裂き、あわよくば頸を落とそうと横に薙ぎ払われる。しかしその一閃はヤツの持つ扇子が振るわれたことで甲高い音を立てて防がれる。

 

 ヤツの冷気を吸わないよう一度後退して息を整える。それと同時に止まることなく絶えず流れる汗に苛立ちを覚えながら刀をぎゅっと強く握り直す。

 

「すごいなぁ、斬られたとこが凍ってるよ〜…ん?…………あ、あぁ〜!そうだよ思い出した!!」

 

「ンだよ急に、やかましいな」

 

 攻撃を仕掛けて来るかと身構えていたところで突然、ポンと手を叩き大きな声を上げた童磨。

 

「その技俺知ってるよ!それにさっき言ってた卍解ってのどっかで聞いたことあるなって考えてたんだよ!君、死神の呼吸の使い手だろ?すごいなぁ、会うのは君が二人目だよ〜」

 

 こっちが必死で攻撃してたってのにコイツ考え事しながら戦ってたのかよ。随分と余裕ぶっこいてやがんじゃねぇか。

 

「百年ちょっと前にねまったく同じ技を使う子がいたんだよ。君よりきっと若い銀髪の子でね、彼の幼なじみの女の子を俺が食べちゃったらものすごく怒って突然斬りかかってきたんだよ。コワいよね〜まぁ結局俺が食べちゃったんだけどさ」

 

「それはただただお前が悪い」

 

「えぇ!?そんなぁ〜」

 

 当たり前だろ舐めてんのか。

 どうやら共感してほしいようだがどう考えてもお前が100パー悪いでしょ。流石は他人の心がまったく理解できないサイコパス野郎だ、本当に気持ち悪い。

 

 だがまさか氷輪丸の生みの親である日番谷氷獅郎さんが童磨に殺られていたとは。これはカナエさんだけではなく日番谷さんの仇討ちということにもなるじゃないか。やはり童磨、許すべからず。

 

「でも彼はその氷雪系の技しか使ってなかったんだよね。他の上弦の話じゃ死神の呼吸ってのはすごく腕の立つ剣士が使う技の総称で、人によって技は様々ってことだったんだよね。

 君ってもしかしていろんな死神達の技が使えるスゴい子だったりするのかな?」

 

「……さぁ?どうだろうな」

 

「やっぱりそうなんだ!すごいなぁー楽しみだな〜ならもっといろんなの見せてくれよ。だって大変だろう、そう卍解ばかり使っていてはね?」

 

「……。」

 

「あはっ、沈黙は肯定ってことでいいよね」

 

 やはりコイツ戦闘能力だけではなく頭までキレるな。ほんと厄介極まりないヤツめ。

 

「卍解してから君の呼吸の音が変わったんだよ、そして突然滝のように汗も流れるようになった。卍解というのは結構体力を使う大技なんだろ?

 

 しかもそれだけじゃない、君は全然俺の攻撃を受けていない。柱であるあの子があれだけ傷を負ったのに君は無傷だ。おかしいだろ?柱でもない者が上弦の鬼と普通に戦っている、いままでそんな剣士は一人としていなかったよ。

 ……君かなり無茶してるだろ?」

 

 扇子で俺を指して童磨は、子どもの隠し事を暴いたかのように誇らしげな笑みを浮かべて話を続ける。

 

「知ってるかい?人間は力の全てを出しているつもりでもその実、脳が勝手にその二割か三割程度しか発揮させないよう抑えているそうだ。そうしなければ身体への負荷が大きすぎて骨や筋肉が壊れてしまうからね。

 

 しかしいまの君はその制御を外しているんだろう?君達鬼狩りの使う呼吸は身体能力の強化や傷の応急処置にも活かせるらしいじゃないか、だったら身体の制御を外して人本来の力を発揮させることも可能なんじゃないかな?

 

 消耗の激しい卍解と制御を外した全力……二重に身体へ負荷をかけたその状態、果たしてあとどれくらい保っていられるのかな?」

 

 まったく、頼んでもいないのにベラベラ話やがって。

 

「さてどうだろうな?でも助かったぜ、お前がそうやって長ゼリフを吐いてくれたおかげでこっちは回復の呼吸を使うことができたからね」

 

「あ〜たしかにまた音が変わってたね、何してるのかなって思ってたよ」

 

 やっぱりわかってて何もしてこなかったのかよ。これはしっかりと舐めプされてんな。

 まぁでもそのおかげで上がってた息もだいぶ落ち着いた。回復の呼吸がかなり効いたみたいだ。

 

死神の呼吸 肆ノ型── 肉雫唼

 

 これは卯ノ咲烈という女性が使っていた技で、死神の呼吸の中で唯一相手ではなく自分にだけ作用する特殊な型だ。

 取り込んだ酸素を通常の呼吸よりも効率よく体内に回すことでより早く体力の回復をすることができるという呼吸法だ。

 

 童磨が長々と喋っている間ずっとこれを使用していたため、バクバクとうるさいくらいに鳴っていた心臓は落ち着きを取り戻している。

 だがヤツの言う通り俺は全身を無理矢理呼吸で最大限の力を発揮できるよう動かしている。これのおかげでなんとか上弦の鬼に食らいついていけているが、身体へかかる負担はかなりのもの。限界がくるのも時間の問題だ。

 

 

「さあどうする?俺はまだまだ元気だぞ?ホラホラ〜!」

 

「っ、言われなくてもわかってるっての……!」

 

 跳び上がり空中から冷気を放ってくる童磨に舌打ちしながら屋敷の壁を蹴って躱しそのまま塀へと登る。更にそこから跳びヤツの頭上から力の限り日輪刀を振り下ろし反撃に出る。

 

死神の呼吸 拾壱ノ型 呑め──野晒

 

 振り下ろされた刀は僅かに身を傾け頭部を割られることを防いだ童磨の片腕を一瞬にして斬り落とし、ボトンとその腕を地面に転がした。

 

「いやはやこれは驚いた、まさか俺の腕をこんなあっさりとしかも骨も肉も綺麗に斬り離すなんてね。まるで斧でも叩き込まれたような重い一撃だったよ」

 

 野晒は死神の中でも特に戦うことへ強い執着をみせていたという戦闘狂、更木剣八郎が使用していた技。

 圧倒的な力で振り下ろされるその一撃は巨体な斧でも受けているのかと疑いたくなるほどに重く鋭い一撃であり、数々の鬼達はこの技の前に無惨な肉塊に変えられていたそうだ。

 

 この一撃でヤツの頭をかち割ってやろうかと思ったのが流石の反応速度で位置をズラされてしまった。

 

 

「さぁて、俺に面白い技をたくさん見せてくれたお礼だ。少しばかり本気を出そう!」

 

「……ッ!?!?」

 

 にこやかに言ったその刹那、瞬きする間もなく接近してきた童磨は扇子を振るう。

 鋭く電流を走らせた勘のおかげで既の所でバックステップで避けるが、掠った右の頬から血が流れ出す。

 

 こうして振るわれる扇を刀で受け止め火花を散らし、技を使う隙もほとんどない童磨の目にも止まらぬ連撃が俺を襲い続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はァ、ハァ……ぁ、ハッ……くっ!」

 

「うーん早かったね、だいたい10分くらいかな?まぁまだ生きてるほうが不思議なくらいだけどね!」

 

 

 自分の力を過信していた訳ではない。わかってはいたが上弦の鬼の力は圧倒的だった。

 

 ほんの少し本気で攻撃されただけでこのザマだ。いま俺は片膝をつき、刀を地面に突き立てることでなんとか倒れずにいる。

 次々にやってくる扇を必死に受け流し、反撃に出ようと流刃若火や神槍も使ったのだが全て軽々と止められてしまった。

 至る所から出血もみられ時折視界がブレる。

 

 こんな状態だがまだ朝日が昇ることもなければ柱の応援が来ることもない。しのぶちゃんまだ伝令飛ばしてないのか?いやそんなことはないだろう、彼女はしっかりしてるし俺が飛び出した頃にはもう準備を進めていたはず。それほどまだ時間は経っていないんだ。

 

 チラリと後ろのカナエさんを見る、木にもたれかかり意識を失っている。まだ生きてるとはいえ早く手当てをしてもらわないと流石にやばい。

 俺がこのまま倒れたらカナエさんは童磨に喰われて死んでしまう。

 

 一応カナエさんを死なせないために今日まで頑張ってきたんだけどなぁ。彼女を死の運命から救うことができず俺は後悔を胸に死ぬ。

 最悪だな、そんなことなったらしのぶちゃん怒るだろうな、悲しむだろうな。蝶屋敷のみんなだってそうだろう。

 

 

 ……なんだって俺はこんなネガティブなことばかり考えてるんだ。

 カナエさんもみんなの笑顔を奪わせないって誓ったじゃないか、自分の命に代えてもだなんてたいそうなことまで言って。

 

 なに簡単に折れかけてるんだよ護廷十三朗。そうだよまだ命だってろくに賭けてないじゃねぇか。自分で言ったことを忘れてどうすんだ。

 

 折れかけた心をなんとか奮い立たせて刀を抜き再び立ち上がる。

 

「おや、まだ立つのかい?そんな満身創痍な身体で何をするつもりなのかな?」

 

 口を丸く開けた童磨が笑う。

 

「ちょいと賭けをしようと思ってね」

 

「へぇー!面白そうじゃないか、それで何を賭けるんだい?」

 

「俺の命さ、夜明けまで俺が生きてりゃ俺の勝ち。死んだらお前の勝ち……文字通り命懸けでお前と最後の斬り合いをしようってハナシさ」

 

 笑顔なんて本当は作る余裕はないが必死に引きつった笑みを浮かべる。

 

「あははっ、そんな作り笑いなんかしなくっていいよ。そんなのム──あれ?」

 

 へらへら笑っていた童磨はガクンと膝をついて驚いたように口を開ける。

 

「お前にだけは言われたくないねサイコ野郎。口を利けるのはこれが最後だから言っとくけど、俺ァお前の嘘くさいその笑顔が死ぬほど嫌いだ。

 

 斬り刻んでやんよそのヘラヘラした気持ち悪いツラ、いまから……」

 

「口が利けなくなるってどういう……がァッ!?!?

 ……なるほど。斬り刻むというその宣言、本当らしいね……!」

 

 童磨のその言葉と引きった笑顔、それを最後に俺の視界を砂嵐でも流れるように霞み、やがて音も聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 プツン。

 

 

 

 

 

 

 

 何かが切れる音がした。きっとそれは大事なものはずなのに。

 それでも俺は構わないとこの身を全て預け意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

死神の呼吸 拾壱ノ型 卍解──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「あ、れ?私……どうして」

 

 ふと目が覚めた。私は今日この町で上弦の鬼と遭遇して戦闘になった。

 でも向こうの力は圧倒的で私は殺されそうになって……それで?

 

 

 

「あっ!ごて…いくん……ゴホッ…!」

 

 勢いよく声を出そうとして思わず咳き込む。そうだった、肺をやられてしまっているんだったわ。

 

 思い出した、私が鬼に殺されそうになった直前、護廷くんが助けに来てくれた。そして彼は私を守るためにあの鬼へ戦いを挑んで、私はそのままここで意識を失ってしまったんだわ。

 すぐに護廷くんを助けなきゃ、彼一人であの鬼と戦って無事でいられるはずはない。

 

 そう思って辺りを見回そうとした時、気づいた。

 いや、今だけじゃない。ずっと鳴り響いていたんだわ、私が朦朧としていて気づかなかっただけで。

 この金属同士がぶつかり合うような激しい音はずっと鳴っていた、この音で私は意識を取り戻したんだわ……!

 

 音の鳴りどころを探して今度こそ辺りを見回す。そしてそれはすぐに見つかった。

 その光景を目にした私は思わず目を疑った。

 

 

 

 

 

「あはははっ!すごいよ、まさかこんな力を隠し持っていたとは!!

 いい、すごくいいよっ!さぁ、俺の身体をあとどれくらい刻めるのかな!?」

 

 私が敗北した鬼、その鬼が至る所から血を流し服をズタボロ引き裂かれながら目を輝かせ高らかに笑っていた。

 

 そしてあの鬼をあそこまで追い込んだその人物の姿に私は驚愕する。

 

 

 彼は真っ白な綺麗な羽織を赤黒く血で染め、身体にもたくさんの切り傷を作りいつもなら結んでいるはずの綺麗な黒髪は解かれ動く度に右へ左へと大きく揺らし、純白の刀を振るい続けていた。

 

「ガアアアアア!!!!」

 

「まだまだッ!この程度じゃ俺はやられないよー!」

 

 彼は鬼の攻撃を受け流しその身体へ目にも止まらぬ速度で斬り刻んでいく。対する鬼も扇でその斬撃を弾き防いでいく。目で追うことすら難しい高速の斬り合いが互いに血を流しながら続いていく。

 

「……ッッ!ぁ…」

 

 思っていたより身体へ蓄積された傷は大きいようで立ち上がろうとしたところで再び意識が遠ざかってしまった。

 

「…護廷くん…………」

 

 薄れゆく意識のなかで見たいままで聞いたことのない獣のような叫び声を上げつつけながら身体を普段より赤く染める彼の姿は、まるで鬼のようだった。二人の鬼が戦っているようだった。

 

 

 そう思いながら私は再び完全に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうやら賭けは俺の勝ちのようだね〜」

 

「……………ぁ?」

 

 突然声が聞こえてきた。

 

「もうすぐ夜が明ける、まさか君が本当にここまで戦い続けるとは思わなかったよ〜いやぁびっくりしたね!」

 

 誰かが俺の前で喋ってる……誰だろう。意識がぼんやりしててわかんねぇな。顔でも見ればわかるんだろうが困ったな、身体にまったく力が入らない。うつ伏せになったまま身体がピクリとも動いてくれない。

 

「うーん身体を動かすことすらできないのか。可哀想に、そんなになるまでよく頑張った!痛いよね、辛かったよね!すぐに食べてあげるからね。そうすればすぐに、そしてずっと楽になれるからさ」

 

 なるほど、どうやら俺は目の前にいるやつから喰われてしまうらしい。

 俺もう死んじゃうのか……なんかもうなんでもいいや。とりあえず今はゆっくり休みたい、寝たい。それができればなんだって──

 

 

風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ

 

 

 

 何かが俺の頭上を力強く吹き荒れっていった、風だろうか。急に天気でも悪くなったのかな。

 

「テメェだなァ胡蝶をやった上弦の鬼ってのはよォ」

 

 なんだか口の悪そうな男の人がやってきたらしい、騒がしくなりそうだなぁ。

 

「えぇ!?こんな時に新手が来ちゃうの〜?せっかくこれからこの子もあの女の子も喰おうとしてたのに……君、顔の傷すごいね大丈夫?」

 

「ゴチャゴチャうるせぇ。安心しな、テメェのツラもこれから傷だらけにしてやっからよォ!」

 

「ヤダよ〜もうその子から散々切り刻まれたもん!……あぁ!もう日が昇るじゃないか。残念だけど二人を食べるのは諦めるしかないか〜」

 

「チッ!テメェどこ行きやがる!待てやァ!!」

 

「あははっ!またどこかで夜に会おうね!!」

 

 どうやら一人は去っていったらしい。てことは俺喰われずに済むのか。それはよかった。

 

 

 

「護廷さんッ大丈夫ですか!!しっかりしてください!?」

 

 今度は俺の側に駆け寄ってきて心配そうに大声をあげてくる人がやってきた。あーなんだろ、すごい聞いたことある声だ。なんか落ち着くなぁ……この声は……

 

 

「し、のぶ…ちゃん……?」

 

「はいそうです!しのぶです!よかった、まだ息はあるみたいね……隠のみなさん、応急処置した後いますぐ彼も蝶屋敷に運んでください!!」

 

 そっかーやっぱりしのぶちゃんか、それなら安心だな。

 

 ぼんやりとする意識のなか、俺はしのぶちゃんの声を聞いてほっとしながらゆっくりとその意識を手放した。




護廷くんやカナエさんの安否や如何に。

日間ランキング入りやUA2万、お気に入り件数400超えありがとうございます。とっても禿げみになります!
次回はシリアス味は薄まっているのではないかと思われます。


・不定期開催!大正コソコソ噂話・
人によって適性のある呼吸が違うように、複数人の技の総称である死神の呼吸にも同様に技ごとの適性の度合いが違います。
護廷くんの場合、陸ノ型 千本桜と拾ノ型 氷輪丸が特に適性の高い技です。そのため彼はこの二つの技を好んで使っています。

護廷「ほんとは鏡花水月つかいまくってドヤりたい……」

よくある主人公の設定集みたいなのあった方よろしい?プロフィールやら技の設定的なのを書く感じになると思われ

  • 当たり前やろ書けや
  • いらんわそんなのよりはよ続き書けや
  • とりあえずカナエさんは今日も美しい
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