皆様本当にありがとうございますこれからも優しくしてね。
射し込んできた陽の光に気づきゆっくりとその目を開く。
小さく掠れた声を上げながらほんの少し首を左右に傾け、周りの様子をうかがう。
和風の大きな屋敷にベッドが何台も並べられている。そんな部屋の中を見回した後、首を戻し真っ直ぐ上を見てひと言。
「知らない天井だ……」
嘘である。
屋敷の様子もベッドの並んだこの部屋も天井も全てよく知ったものである。
間違いなくここは蝶屋敷だ、上弦の鬼である童磨と戦ってここに運び込まれたってとこだろうな。
「ッ……!痛ってぇなぁ……」
起き上がろうとした瞬間身体に激痛が走り思わず顔をしかめる。両手両足共に感覚はあるしどうやら五体満足に生還できたみたいだ。
まぁしかし身体中包帯やら湿布やらでぐるぐる巻きにされている辺りまだ絶対安静なんだろうな。
「あ……護廷さん…!?」
洗濯物を抱えてきたしのぶちゃんが目をまん丸にして駆け寄って来る。うーん大怪我したり色々と心配させてしまっただろうし、ここはちゃんと普段通りの元気な様子を見せてあげるとしようかね。
「おはようしのぶちゃん、空が青くていい朝だね……!」
「もうお昼です」
「……。」
あちゃあーやってしまった、意気込んで言ったところでのこれは恥ずかしい。
やっぱ夜明けまで起きてたんだし昼まで寝てしまってたか。これはいけない、健康のためには早寝早起きが大事なのだからちゃんと気をつけないとね。
「本当に無事目が覚めてよかったです、三日間眠ったままだったしもう目を覚まさないんじゃないかって心配だったんだからね!」
「へ、今なんとおっしゃいました?」
「だから!三日間眠ったままだったんです!怪我は酷いし熱も出ていたしでほんとにこのまま死んじゃうんじゃないかって肝を冷やしましたよ……」
なんということでしょう、もうあれから三日も経っているだなんて。普通に眠って次の日に起きた感覚だったんですけど……?
日付を理解すると身体は案外素直になり、ぎゅるぎゅるお腹を鳴らす。
「三日ってことは俺15食も抜いちまったってことじゃん!?マジか!!」
「どんな計算したらそうなるんですか!!」
「あははーどうでもいいけどマカロン食いた〜いって気分だなぁ」
「はあっ、また意味わからないこと言って!ほんとにもう、もう……」
いつものように軽口を叩きあっていると突然、しのぶちゃんが声を詰まらせ目を潤ませていた。おっと、これはマズイな。
「……ごめんしのぶちゃん。色々と心配かけちゃって」
最初に言うべき言葉を間違えていた。まずちゃんと謝んなきゃダメだったよなぁ。ありがとうやごめんなさいを言えないやつが嫌いと言っておきながら自分がそれをできてなかった。
膝立ちで俺のベッドで顔を埋めて肩を震わせているしのぶちゃんの姿にそう反省をする。
そしてそんな彼女の様子を見て俺はやっぱりみんなの悲しむ姿は見たくないなと改めて強く思った。
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「失礼、取り乱しました」
「あれっ、しのぶちゃんなんか目ぇ赤いけどどしたん?誰に泣かされたの?俺がシバいてくるよ!」
「ちょうどソイツが目の前にいるので自分で仕返しすることにしますねー!」
「いただだだだッす、すみませんでした!怪我人だから優しくしてくださいぃぃぃいい!!!」
いつものようにピキピキなさっているしのぶちゃんが手の皮を思いっきりつねってくる。あれ、この子めちゃくちゃ力入れてつねってないか、涙出てきてるんだが?今度は逆に俺が泣かされてるんですけど。
「お身体の調子はどうです?」
ため息をつきながら持ってきた椅子に腰かけて問いかけてくるしのぶちゃん。
「まぁ……どこもかしこも痛みますね」
お許しをいただいた俺はりんごを頬張りながら答える。ちなみにこのりんごはしのぶちゃんが皮を剥き食べやすいように切ってくれたものだ。いつもこういうのやってくれるあたりなんだかんだ優しいんだよなぁ。
「でしょうね、ほんと身体中怪我ばっかりでしたし。手足が無事なのが不思議なくらいよ」
「いやほんとすごいよねぇびっくりしちゃう」
「なんで他人事なんですか……というかどうして夜明けまで一人で持ち堪えられたんです?」
ここにきて今日一番の真面目な顔で訊ねてくるしのぶちゃん。どうしてと言われてもなぁ。
「ただ必死こいて上弦の鬼と戦っただけなんだよねぇ」
「姉さんが言ってたんです、一瞬見ただけですが護廷さんがまるで鬼のようだったと……」
なるほどね、よりにもよってそこを見られていたとは。
ここはちゃんと説明したほうがよさそうだな。
「俺の使う死神の呼吸にはね、たった一つ名前のない技があるんだよ。拾壱ノ型、その卍解のことさ。
名すら伝えられていないこの技は呼吸によって脳や神経、細胞まで含めた身体の全ての働きを活性化させて力や反応速度、戦いの中で必要な能力全てを何倍にも跳ね上げるんだ。
まぁでも当然身体への負荷が大きすぎるからね、脳まで負荷がかかる代償に理性すら吹き飛ぶんだってさ。現に俺は卍解を使った後の記憶がない、限界を迎え身体が動かなくなり強制的に卍解を解除されるまでの記憶がね」
「そんな……危険過ぎます!そんな技何度も使ったら……」
「わかってる、命に関わるやばい時にしか絶対使わない奥の手だからね。まぁでもかなりの時間使ったからな、次にこの技を使ったら本当に身体がおかしくなるかもしれないしもう使う気はないよ」
険しい顔をしているしのぶちゃんに苦笑いをしながらそう頷いておく。
……ん?姉さんが言ってた……だと?
そうじゃん、なんですっかり忘れてたんだよ一番聞かなきゃならないことをまだ聞いてないじゃねぇか!!
「カナエさんは!カナエさんは無事なの!?!?」
突然俺が前のめりに声を荒らげたこと若干驚いたしのぶちゃんが目をぱちくりいわせる。
「えと、姉さんは──」
「私がどうかしたの?」
その声を聞いた瞬間、俺はパッと顔を上げる。
待っていたましたと言わんばかりの完璧なタイミングで声を上げ、部屋の入口できょとんと首を傾げ、いつものように微笑む彼女がそこにはいた。
「ぁ、カナエさん……?」
「ええ、そうよ。よかったわ護廷くんも目が覚めたのね」
「ほ、ほんとにカナエさん……?」
「ふふっ、他の誰に見えるっていうのかしら?」
目を見開かせうわ言のように問う俺にカナエさんは笑ってゆっくりと近寄ってくる。そして、
「護廷くん、助けてくれて本当にありがとう。あの日、お礼言いそびれちゃったからね。遅れてごめんなさい」
膝立ちになり俺の手を優しく握ったカナエさんは優しい笑みを浮かべていた。
そんな彼女に、そして自分の手を包む柔らかな感触に心臓をバクバクいわせた俺は。
「私!!!生きててよかったァ!!!」
感動と安堵と……ついでに興奮をごちゃ混ぜに昂った感情を爆発させわんわん泣いた。
「驚いたわ、護廷さんも泣くのね」
「グスン……なんだよ、血も涙もない非情なヤツだとでも思ってたのかよ?」
目を真っ赤に腫らし鼻をグズグズとすする俺にしのぶちゃんが目を丸くする。
「いえ、他人をおちょくって涙を流させるばかりの人だと思ってました」
「こらこら、俺がいつおちょくって泣かせたよ?記憶にございませんねぇ」
「あら、どうしたの護廷さん目が真っ赤ですよ?誰に泣かされたの?私がお説教しに行ってあげましょうか!?」
「おうおう、もっかい泣かせたろか?」
クソっ、しのぶちゃんったらさっきのお返しよと言わんばかりに煽ってきやがる!このコ結構やられたらやり返す精神の持ち主なんだよなぁ……。
「まぁまぁ……その様子だと護廷くんすっかり元通りね。その……あの時の様子がだいぶおかしかったから、目覚めても様子が変わったままなんじゃって心配してたの」
「あはは……お見苦しいとこ見せちゃったみたいですよね。でももうご心配なく!完全復活パーフェクト護廷様だぜ!!……って感じなので」
「……?そう、ひとまず元気そうでよかったわ」
俺の言ったことに首を傾げながらも安心したように笑うカナエさん。
いやぁほんとこの笑顔が失われずに済んだってのが本当に嬉しい。もうにやけが止まりませんねぇ。
「顔、なんだか気持ち悪いですよ」
「え〜いつもこんな顔だよ……へへっ、へけっ!」
「いつもそんな気持ち悪い顔はしてません」
「ふむ、いつもはもっとかっこいい顔してるってこと?」
「……。姉さん、帰ってきたってことは無事お話は済んできたのよね?」
「えぇ、お館様はやっぱり優しいお方だったわ。私のことをとっても心配してくださってたもの」
またため息をついて俺のことをスルーしカナエさんへ話しかけるしのぶちゃん。
そんなため息ばっかりついてたら幸せ逃げちゃうよ?って言いたくなったが絶対怒られると俺の勘がそう言ってる気がするので黙っておく。
というかお館様って言った?なんでだろう。
「二人ともよく聞いて」
カナエさんが急に改まって言ってくる。俺はゴクリと唾を飲み黙って頷く。こんな真面目なカナエさんは初めて見る。
「今日お館様とお話をして……私が柱から退くことが正式に決まりました」
「は、え……いま…なんて言いました……?」
「私は柱を……いいえ、剣士を辞めることにしたんです。
護廷くんが助けてくれたおかげで命に別状はなかったのだけど鬼の術で肺を酷くやられてしまったの。それで全集中の呼吸が使えなくなってしまって……残念だけど剣士として戦うことはもうできないわ」
「そう、なんですね……」
「ふふっいいのよそんな暗い顔しないで。命が助かっただけでも十分だわ。
これからはこの屋敷で隊士達の治療に専念することにするし、違うやり方で頑張っていくつもりよ」
にっこり微笑んで気にするなと言うカナエさん。念を押すように再び気にしないで言う彼女に俺もゆっくりと頷く。
まぁ確かに俺の目的はカナエさんを死なせないことだったわけだし、目的は達成されたといっていいのかもしれない。あんまり首を横に振るのもカナエさんに悪い気もするし納得して受け入れよう。
「あっ、そうだ!それとね護廷くん……お館様があなたに会いたいそうよ」
「…………へぁ?」
カナエさんがとんでもないことを言い出した。
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「やぁ、呼び立ててしまってすまないね。身体の調子はどうだい?」
「あ……っと、大丈夫です!大丈夫じゃないですが……あっ!失礼しましたご挨拶を忘れておりました。
あー、えー。お館様がお成り……ちがうな、お館様におかれましてもまだご健在でなによ…り……んん〜?」
「十三朗」
「は、はいっ!」
膝をつきしっかりと、こうべを垂れてつくばえの体勢をしているのだがこれはマズイ。緊張と慣れない敬語でなんか頭ン中ごっちゃになってしまってるよ。もしかしていま俺すごい失礼なこと言ってなかった!?
「慣れていないなら無理に難しい言葉を使わなくて大丈夫だよ。気持ちはちゃんと伝わっているからね」
「アッハイ」
やっぱり変なことを言っていたらしい……。
お館様が俺に会いたいらしいという話を聞き、それなら早い方がいいだろうと思った俺は、普通に立ち歩けるようになっていたこともあり翌日に早速産屋敷邸を訪れていた。
原作の柱合会議で見たあの広い庭を見回して聖地巡礼やぁ……!などと感動しているところでお館様が現れ今に至る。
いやぁしかしだ。まだ二言程度しか口を開いていないというのに俺は生お館様に圧倒される。
声がよすぎるぅぅ…………。
原作でも安らぎを与える声だなんだと言われていたしアニメでもめっちゃいい声やぁと感動はしていたが、生で聞くとほんとにヤバい。めちゃくちゃ癒されるぅ……。
なんかもうアレである。あまりのイケボに癒されすぎて、情報が完結しない。なんだろう、ここはお館様の領域の中なのか?俺はいったいいつから展開された領域の中に引きずり込まれていたんだ!?
「十三朗、まずは労いの言葉を述べたい。上弦の鬼との戦いでよく生き残った。本当に頑張ったね」
アホなことを考えて余計に情報を完結させない負のループを繰り返している間にお館様がそう笑みを浮かべ言った。
「そんな、私にはもったいないお言葉です!それにあの鬼を倒すことができず応援が来なければ死ぬ直前という状態でしたので、生き残ったたなどと胸を張ることなどできません……」
「そんなことはないよ、カナエの話では夜明けまでの数時間たった一人で耐え抜いたそうじゃないか。そんなこと柱ですら難しいことだよ。今生きているのは君自身の頑張りのおかげなんだ、胸を張って喜んでいいんだよ」
「あ、ありがとうございます……!」
アカン、そんないい声で褒めちぎられたら無駄に自己肯定感上がっちゃうやん、おかわり欲しくなっちゃうやん……!
これはヤバいなクセになりそう……へへへっ。
「君の活躍で柱からは退くという形にはなったがカナエの命も助かった。本人からも既に言われたかもしれないが私からもありがとうと礼を言わせてもらうよ」
「たくさんのお褒めのお言葉、恐縮です。誠にありがとうございます、これからもお館様のご期待に応えられるよう精進して参ります!」
あぁ〜いいっ!もっと……もっと褒めてえ〜!!
「ふふっ、そうだね期待しているよ……ときに相談なんだが」
俺が感謝の意を述べ頭を下げながらニヤニヤしていると、お館様が突然そんなことを言ってきた。
「花柱のカナエが席を退き、柱の席にまた空席ができてしまった」
「は、はぁ」
「最高位の剣士である柱が減るのは隊の士気が下がることにも繋がりかねないことだと私は思うんだ」
「それは、たしかにそうですね……」
なんだろう、なんか嫌な予感がする。
「そこでだ、君が新たに柱の座につくのはどうだろうか」
うわあああやっぱり!この流れだとそう言うと思ったよおおお!
今更こんなこと言うのもどうなんだと思うかもしれないが、俺は正直言って柱にはあまりなりたくないのだ。
まぁ柱になればお金はめちゃくちゃ貰えるし屋敷だって貰えるし、そういう待遇はとんでもなくいいモノになる。
しかしだ、その分警備などを行なう管轄が割り当てられたり、他の任務の救援に駆り出されるなど今まで以上に忙しい日々になってしまう。
いまの労働環境ですら文句をブーブー垂らしまくる俺なのである。そんなの絶対耐えられる気がしない、というか絶対無理です。俺の勘がそう言ってます。
後から音を上げてしまい周りから反感を買うくらいならいっそのこと、始めからならなけりゃいいじゃん?というのが俺の考えなのである。
「素晴らしい提案ありがとうございます。しかしお言葉ですが私には柱などとてもじゃありませんが務まりません」
「ほぉ、どうしてそう思うんだい?」
「上弦と戦い生き残ったのはただただ運がよかったからです、お館様はきっと今回の一件から特例で私を柱にしようとお考えなのでしょうがそれでは他の隊士に示しが付きません!
どんな理由であれ柱になるための明確な条件があるのですからそれを満たさない限り、他の柱も隊士も認めてはくれないと思います!
私の階級は『戊』です。『甲』まではまだ程遠いし、鬼を五十体討伐することも果たしておりません、私では力不足です!!スゥー」
必死こいて一息で理由をまくし立てる。さあこれでどうですかお館様、俺の言い分は通っているでしょう……?
「そうか、それは残念だ……だがもし君が柱になる条件を満たす時が来たら、その時は喜んで柱の座についてくれると思っていいのかな?」
わぁーこの人何がなんでも俺を柱にしたいんじゃない?言質取ろうとしてるじゃん。
「それはまぁ……そうですね。空席があるのならば喜んでお受けさせていただきます」
「それはよかった、楽しみにしているよ」
にっこり笑うお館様につられ、こちらも小さく笑みをこぼす。
……安らぎ与えるイケボ恐るべし。それとなく断ってやろうと思っていた数秒後にはもう「喜んでお受けさせていただきます」って言っちゃったよ、見事に乗せられちゃったよ。
「そうだ、最後にもう一つ聞きたいことがあったんだ」
「こ、今度はなんでございましょうか……」
また言質を取らされるんじゃないかと顔をひくつかせて答える。もう勘弁してくだちい…………
「十三朗、君は未来が視えるのかい?」
おっとこれは予想外の質問だ。昨日お館様と話したって言ってたしカナエさんが教えたんだろうな。
「私には先見の明があるとされているがそれをもってしても子供たちが死んでしまうことを防ぐことができない。しかし君は見事にカナエを護ってみせた。
カナエから時折君が未来が視えると言うと聞いてね、確かめたいと思っていたんだ」
なるほどと頷いて少しの間考え込んだ後、俺は口を開く。
「……実際には未来が視えるというより予知夢的なものを見るといった方がいいかもしれませんね。起こりうる可能性の中の一つだけしか見れないんです。
今回のカナエさんの件も、上弦に敗れ彼女が命を落とす所を妹のしのぶちゃんが看取る。という一つの可能性だけでカナエさんが鬼を倒す、倒せないまでも朝まで耐え抜き撤退させる……という有り得たであろうそれらの道は全く視えなかった。その程度の未来が視えるというには足らない不完全なものなんですよ」
「それでも十分特別といっていい力を持っていると私は思うよ。あまねさんの言う通りなのかもしれないね」
俺が単なる原作知識をカッコっけて言っているだけなのでそれっぽい理由をつけてごまかしておくと、それに頷いたお館様が突然そんなことを言った。
「妻のあまねさんもね、時々予知夢を見るんだ。そんな彼女が数年前ある夢を見た。長い髪の少年が現れ鬼殺隊の何かを変える夢だったらしい。そしてその次の日の晩、最終選別が行われたその日に夢で見たのとそっくりな姿の君が現れたんだそうだ」
「……ッ!?だからあの時……」
お館様から言われたことに驚愕の色を浮かべながらふと、選別の日のことを思い出した。
たしかにあの時あまねさんと目が合ってにっこり微笑まれた気がする。そういうことだったとはさすがにびっくりだな。
「その話もあるから私は期待しているんだ。君が永い鬼との戦いに変化をもたらしてくれるんじゃないかってね」
そう言ってまっすぐこちらを見ているお館様。その言葉とその表情に俺は再び深く頭を下げる。
「自分が何か大きなことを成す姿は視えておりませんが必ず……必ず期待を裏切らないようお役に立ってみせます!」
俺の宣言を聞いたお館様は優しく笑みをこぼし頷いていた。
「長々と話してしまってすまないね。もう下がっていいよ、早く怪我が治るよう私も祈っているよ」
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その日の夜、お館様との邂逅を果たし蝶屋敷に戻ってきた俺は皆が寝静まってた頃に屋敷の中を歩いていた。
「あ〜腹痛かったぁ、調子乗って食べ過ぎたなこりゃ」
そんな独り言を呟いていればふと人の気配を感じた。
あれっ、なんか前もこんなことあったような……?
「こんな夜中にどうしたんです、お体に障りますよカナエさん」
「あら、そういうキミも怪我人なんだから早く寝たほうがいいわよ」
そこにいたのは庭の木の前で佇むカナエさんだった。
「この木の話、護廷くんにしたことあったっけ?」
「しのぶちゃんからは聞いたことありますよ、必勝って名前の木なんですよね?」
なんとなく眠気が覚めた気がしたこともあり、木の下まで歩み寄りカナエさんと話すことにした。
「そう。この木は初代花の呼吸の剣士が植えた木……柱になってこの屋敷を譲り受けた時ね、この木みたいに立派な柱になろうって私は誓ったの」
木の幹を優しく撫でて言うカナエさん。
「今日刀を振ってみたんだけれどね、やっぱりいままでのように上手くはいかなかった。何回も……何回も刀を振るってみたけれど息が荒くなって苦しくなって、最後には立てなくなってね。しのぶに怒られるだけだったのよ」
自虐的な笑みを浮かべ小さな声で呟くカナエさんの話に俺は黙って耳を傾ける。
「生きてるだけで十分なんて言ったのに……言ったのにね、今は悔しくてたまらないの……っ!なんでっ、ううっ……!こんなところで終わりなんだろう……っ…!」
上を見上げ呟いていたカナエさんの頬から涙が零れ落ちる。
零すものかと上を見続けて目を擦る彼女の頑張りも虚しく。涙は一つ、また一つと流れ、溢れ出しその白い頬を濡らしていった。
「ごめんね護廷くん、あんなに泣いてお姉さんらしくなかったわよね」
「……いや、人間泣きたい時は泣いたほうがいいですよ。そこに立場なんて関係ないです、みんな等しくただの人間なんですから」
十分程経って涙が止まり落ち着きを取り戻したカナエさんが目を真っ赤に腫らして笑みを浮かべる。
「そうね、久しぶりに泣いて吐き出してすっきりしたわ。明日からはいつも通り笑える気がするし、みんなには今日のことナイショね?」
人差し指を顔の前に立て微笑むカナエさんにそうですねと笑って返し、二人で縁側から屋敷の中へ戻る。
「それじゃあ、お休みなさい」
「えぇ、おやすみなさい。また明日ね」
そう言って互いに自室と病室へそれぞれ背を向けて戻っていく。
静かに廊下を歩き角を曲がったところで俺は思わず足を止める。
「おいおい、盗み聞きとは感心しないね」
「なんのことかしら、たまたま聞こえてきただけなんだけど?」
廊下を曲がった先で明らかに聞き耳を立てていたであろう姿のしのぶちゃんと鉢合わせた。
「……カナエさん泣いてた、あんな泣いてるとこ初めて見たよ」
「そうですね、私も久しぶりに見ました。姉さんやっぱりムリしてたんだって胸が痛くなりましたよ」
「……そうだな」
「護廷さん」
そう短く言葉を交わしてしのぶちゃんの前を通り過ぎようとすると再び声をかけられ、俺は足を止める。
「私、許せないです。姉さんを泣かせたあの鬼が」
「そりゃ奇遇だね、俺も心の底からそう思うよ」
「私はやりますよ。柱まで登りつめてあの鬼を倒します、私があの鬼を倒して姉さんの無念を晴らします……!」
拳を握りしめ、低い声でそう言い放つしのぶちゃんに俺は鼻で小さく笑って返す。
「私がじゃねぇ、私達の間違いだよしのぶちゃん。絶対倒そうぜ……二人で」
なにが柱になりたくないだ、前言撤回だ。
ヤツはカナエさんをあんなふうに泣かせたんだ、絶対に許すもんか、地獄に叩き落としてやる……!
柱になるほど強くなって今度はちゃんとアイツの頸を跳ね飛ばしてやる。
涙を流すカナエさんとヘラヘラと気味悪く笑う童磨の顔を思い浮かべた俺はそう強く胸に誓い、再び鬼との戦いに身を投じていく。
私事で申し訳ないのですがただいま実習という鬼に時間もメンタルも根こそぎ奪われている状態なので、これからしばらく更新ペースが落ちてしまうと思われます。
ガンガンいこうぜではなく、いのちだいじにで生きておりますゆえどうかご了承くださいまし……
よくある主人公の設定集みたいなのあった方よろしい?プロフィールやら技の設定的なのを書く感じになると思われ
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当たり前やろ書けや
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いらんわそんなのよりはよ続き書けや
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とりあえずカナエさんは今日も美しい