俺には死んだ時の記憶がほとんどない。
事故に遭ったことはなんとなく覚えているけれど、どこで、どうしてそうなったのかは何度思い出そうとしても何も見えはしなくて。
もう一つ、時々考えることがあった。
どうして自分は戦えるんだろう、と。
命のやり取りなんてもの一度だってしたことのない平和な暮らしをしていた自分が、なぜ平然と刀を握り鬼へと立ち向かっていけるのだろう。
なにか理由があったような気がするのに、それはいつも頭に靄がかかった感じがして、わからなくて。
いつまで経ってもその答えを得ることはできなかった。
「はい、今日はここまで。出席は忘れず出してってよー」
「ん……あれ?」
ガヤガヤと騒がしくなる周りの音にピクリと震えゆっくりと身体を起こす。随分長いこと机に突っ伏していたのか、腕やら背中やら腰やらなんかもう体が全体的に痛い。
今は……そうだった、大学の授業を受けてるとこだったんだ。まぁほとんど寝てて記憶にないけど。
「なんだっけ、な〜んか大事なことやってた気がするんだけどなぁ………ダメだ、思い出せねぇ」
あくび混じりそんなことをしながら大きく伸びをする。あぁ〜ガチガチに凝り固まった身体にはこれがよく効く。
「あ、やっと起きたんだ。全然起きる気配ないから君の分も出席出してきといたよ」
そんなことをしていると突然つんと背中をつつかれる。振り向くとにこりと笑い艶のある黒い長髪のふわりと揺らす優しそうな女性が立っていた。
「あ〜マジか。ごめんねわざわざありがとう…………えと、さくらちゃん」
「まぁいつものことだしね。さっ、早くお昼食べに行こうよ。私お腹減っちゃって!」
「ん〜ここのパスタはやっぱり美味しい!それにこの量で500円というこのお値段!学生の心強い味方だよね〜」
「そだね、他の店なら大盛り1000円とかしそうな量だよなこれ。そろそろテレビで紹介されそう」
「あ〜!あのスタッフがしばらく密着取材するやつでしょ?夜にやってる」
「それそれ。そだ、今度そういう店を回る旅行に行くのなんてどうよ?」
「お、いいね!すっごい楽しそうじゃん」
授業を終え、大学の近くにある老夫婦の営む定食屋で互いに特盛りのパスタを頬張りながら、そんな他愛もない話をして笑い合う。
いま、目の前で幸せそうに目を輝かせ休むことなくパスタを小さな口へ放り込み続けているのはさくらちゃん、俺の彼女である。
歳は1つ上なのだが病気で半年近く入院してしまっていたため留年し、俺と同じ学年で授業を受けている。
付き合ったきっかけは授業でグループを組んでレポートを作る時に、留年して知り合いが1人もおらず余ってしまった彼女を俺がグループに誘ったことである。
そこで話すうちに仲良くなっていき気が合ってだんだん……みたいな割とよくあるハナシだ。
「そういえば就活はどう?順調??」
パスタを食べ終えデザートを頬張りつつひと息ついているとさくらちゃんがこてん、と首を傾げた。
「いや全然、お祈りメールばっかりだよ。なかなか上手くはいかないねぇ」
「そっかぁ、まぁまだまだ大丈夫だよ。気を取り直して次、がんばってこ?」
苦い顔をする俺に優しく笑いかけるさくらちゃん。そんな彼女にそうだねと苦笑しながら頷いた。
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「あ、またお祈りメールじゃん。もうこれで何回目だっけな」
昼食後、バイトがあるさくらちゃんと別れ家路についた俺はベットに寝転びながらぼんやりとスマホの画面を眺める。
なんとなく、自分が落とされる理由はわかっている。
『あなたは弊社で何をしたいのか。どうなりたいのか』
度々面接でこのようなことを聞かれる。そこで自分は相手に好印象を与えられるような回答をできずにあやふやなことを言ってしまっているのだ。
本音言ってしまえば別に働きたくなんてない。でも生きていくには仕事して金を稼いでいく必要があって、だから渋々選んで面接に臨んでいるのだ。『なんとなく』でやっているだけなのだ。
『なんとなく』。
思えばここまでほとんどのことをそんな適当な気持ちで選んでいた。
将来の夢みたいのは昔から特になく、強いて言うならば子供の頃にヒーローになりたい、なんていう非現実的な夢を見ていたくらいだ。
高校は近いからっていう理由で選んだし、今の大学も友達が行こうとしてるし学べる内容もまぁ嫌いじゃないかな?くらいのふわっとした理由で選んだのだ。
そんなテキトーな選択ばかりを20年とちょっとし続けてきた人生なのだ。それなのにいきなり明確に未来について答えろと言われてもそんなの上手くいくハズもなく、またテキトーなこと言って取り繕ろうとして、結果は失敗。
そしてそんなテキトーな生き方ばかりしてきた俺には打ち込んできたものなんてものもなくて、多分そこら辺も相手の求めてるような答えを言えてないんだろう。
自分のこれまでを思い浮かべなからベットから起き上がり、部屋の鏡でみすぼらしい自分の姿を見ながら鼻で笑う。
その刹那──。
「……ぉ!?…………ぁ、ん?気のせい……か」
突然のことに目を丸くし思わず声を裏返す。
ぼんやり鏡に映る自分を見ていると、そこに突如長い黒髪を一つに束ね刀を腰に差した中性的な顔立ちの男が映し出された。目を擦り再び鏡に視線を送れば何事も無かったように、ぎょっとしている自分の姿が映っているだけだった。
「……ちょっと寝よ、なんか疲れてるみたいだわ」
しばらく鏡を覗き込んだが、映るのは自分のアホ面ばかりでついに諦めた俺は大きなため息をついて再びベットに飛び込んだ。
その日はそのまま眠りにつき、朝まで目覚めることはなかった。
「さすがは土曜日、子供がいっぱいいるな」
翌日、歩道を歩きながらすぐ横にある公園の中を見る。
元気に砂遊びやらボール遊びやらで元気に駆け回る子供達の足音とはしゃぎ声が響き渡っていた。
今日はさくらちゃんと丸一日デートをすることになっていた。
気分転換に少しくらいパーッと遊ぼうと彼女が気を利かせて提案してくれたのだ。
ほんと元気で優しくて気の利く素晴らしい彼女だ、しかもなかなかの美人。俺にはもったいないくらいだ。
そんな彼女からのお誘いなのだ、断るわけもなく俺は目の前に迫る集合場所の駅へと早足で向かっていた。
「おーい!」
駅の前の横断歩道で信号が変わるのを待っていると道路の向こうからぴょんぴょん跳ねながらこちらに手を振る女の子が。
「ははっ、子供みたいにはしゃいじゃって」
俺の彼女可愛くない?なんて誰に自慢するわけでもなく心の中でそう叫びながらこちらは控えめに手を振ってやる。
今日は嫌なことなんて忘れて遊びまくろう。そう心に決め、信号が変わるのを今か今かと待つ。
その時だった。
「あっ!ボールが!!」
公園から歩道へコロコロとボールが転がって、その勢いは止まることなく車道へと転がり出そうとしていた。
そしてそれに慌てて声を上げ脇目を振らず公園から飛び出して来る少年。
さらにはそんな時に限ってゴオオオとエンジン音を鳴らし現れる自動車。
子供がボールを捕らえたのは道路のど真ん中。ぶつかるのは明白であった。
その場にいた、通りすがった誰もが「危ない!」と大声を上げ叫ぶ。
そんな声を俺は子供を突き飛ばしながらこの耳に聞き入れていた。
鈍い音を立て宙を舞った俺の意識はそこで途絶えた。
「………き…くん、…ろ……くん!!!ねぇ起きてよ!!!」
ゆっくりと視界が開かれる。なんだ、まだ生きてたのか。
そうだった、思い出した。俺は道路に飛び出してしまった子供を助けて死んだんだった。それも大切な人の目の前で。
これが俺の、〇〇〇〇の……あれ、そういえば俺の名前なんだっけ?
「あ、さく…ら………ちゃん……?」
「ああ、お願い、っっ、死なないで……死ないで!!」
気づけば俺の身体を抱え泣きじゃくるさくらちゃんがそこにいた。
あぁ、可愛い服が血で汚れちゃってるじゃないか。せっかくおしゃれしてきてくれたのに……。
そもそも酷いことしちゃったな、目の前で車に轢かれて死ぬなんてさくらちゃんにとんでもないトラウマ植え付けちゃった。
最近は余裕がなくてそっけない態度を取りがちだったしこんなことならもっと優しくしてればよかったなぁ。ほんと申し訳ない。
「ごめん……ね…」
「なんで謝るの……?私謝られるようなこと何もされてない!うっっ、謝ることあるならっっ、生きて…ちゃんと謝ってよ……!!」
「さくらちゃんは優し…くて……可愛……い、から………きっとすぐ…いい人に会え、るよ……幸せになってね。やく……そ、く……ね?」
「嫌だよ、君が幸せにしてよ……!!君みたいに優しい人、……ッ…他にいないよ……!」
視界がぼやけ、薄れゆく意識が言葉を紡ぐことを阻む。
あーあ、悔しいなぁ。
大したことも何も成せず、こんな何かも中途半端な形で大事な人も悲しませ、俺の人生は終わりを迎えることになったんだ。
……だからもし、次の人生なんてものがあるのなら。次は一つ物事をやり遂げる、そんな当たり前のことを成せるようになろう、逃げずに挑んでいこう。
今度は悔いなく笑って死ねるようになるために。
死にゆく身体でそう誓ったんだった。
「そちらの方を病院に搬送します!その方の身元は分かりますか!?」
「彼は…………私の恋人です。名前は──
黒崎一輝です」
こうして
「ふむ、そろそろいいですかね?」
「ッ!?」
突如、意識が覚醒する。見れば救急車と共にやって来たのであろう救急隊員の一人がこちらの顔をぐっと覗き込んでいた。
「なんだ、お前……」
「おやおや、随分と世界に浸っていたようですね。ここ、記憶の中の世界ですよぉ?今のあなたは生命に関わる怪我などしていないんです」
「記憶……っ!そうだ俺はさくらちゃんと一緒に…………いや、違う。一緒にいたのは……」
思考のまとまらないなかで状況を口に出してまとめようと試みていると目の前の男が「そうでした」とポンと手を打ち笑う。
「見たことの無い衣服だったので混じってみたんです、この姿ならお分かりでしょう?爆喰羅ですよ、夢の旅はいかがでしたか?」
そう言った男が手を振ると、その姿はたちまち変わっていき、そこには黒い髪と人とは思えぬ程白い肌をした男が立っていた。
「お前は、鬼……ぁッ!そうだコイツの血鬼術をくらって俺は……!」
奴の名前と姿を見てたちまち混乱していた頭は冴え、状況を理解する。
いままでのは前世の、黒崎一輝の記憶。今の俺は鬼殺隊の護廷十三朗だ。
「封じ込めていた記憶も思い出したところで、一つ小話を。精神にはですね、核があるそうです。そしてそれが壊れた時、人は同様に廃人のようにダメになってしまうのだとか。
壊す方法は簡単。精神が揺さぶられている時にその核をグチャっと傷つけるだけ。
あなたの場合はそうですね……そちらの女性を壊してしまえば精神も揺れてしまいそうですねぇ……?」
悪巧みする子供のような笑みを浮かべた鬼はスっとさくらちゃんを指差してそう言った。
「何言ってんだよ、お前……」
「ふふふ、せっかく思い出した大切な人。その方が無惨に八つ裂きにでもされたら……いくら夢だといっても嫌ですよねぇ?悲しいですよねぇ!?」
声を荒げながら一歩ずつゆっくりと距離を詰め、鋭く尖った爪の腕を勢いよく振り上げる。
「やめろ、やめろっておい……触るな、触んじゃねぇ!!!」
それを壊されれば大事な思い出もなくなってしまう気がして。
せっかく誓った想いも忘れてしまう気がして。
身動きが取れず自分を抱えるその人に迫る凶器を前に俺はただひたすら。
「やめろーーッッ!!!!」
無様に叫ぶことしかできなかった。
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「ふむ、実に無様な抵抗だった。あまりに無力で見ていられなかったよ
ようこそ、私の精神世界へ」
「…………ぁ、?」
突如聞こえてきた声にパチりと瞬きをして顔を上げる。
自分に何が起こったのか分からず座り込んだまま身を固くする。さっきまで自分は前世の記憶を思い出して、そしてそこへ乱入してきた鬼と対峙していて……それで。
「混乱するのも無理はない。突如場面が変わり見知らぬ者から声をかけられれば誰だって状況を理解するのに時間を要してしまうだろう」
真っ暗で何もないその空間で声の主が背後にいると気づいた俺はゆっくりと振り向く。そしてその姿に驚愕の色を浮かべる。
栗色の髪を後ろへかきあげ鋭い視線をこちらへ向け僅かに口元を緩ませるその男。
他に特記することがあるとすれば、手足を座っている椅子へ縛られ、顔の半分から全身をまるで拘束しているかのように漆黒の布で覆われていることだろう。
直接会ったことはない人物だがとてつもなく見覚えのあるその姿に俺は目を見開いたまま静かに口を開く。
「お前、まさか……でもなんで…………!」
「死神の呼吸を使う君ならばやはり私に心当たりがあるだろう。だが初対面で名乗らないというのも失礼だろうからね、せっかくだ名乗らせてもらうよ。
私は藍染総右介。君の持つ書には大逆の死神とでも記されているであろう鬼狩りでありながら鬼へその身を置いた者だ」
・不定期開催!大正コソコソ噂話・
黒崎一輝/22歳
髪の色/黒
瞳の色/黒
職業/大学生:就活生
護廷「めちゃくちゃ普通だと思ってそこのあなた!俺もそう思う。いやでも元は普通の世界だったし何もなくて当たり前だから……。
他に挙げることがあるとすればまぁ、ねこ検定の上級を持ってたことくらいかなぁ」
よくある主人公の設定集みたいなのあった方よろしい?プロフィールやら技の設定的なのを書く感じになると思われ
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当たり前やろ書けや
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いらんわそんなのよりはよ続き書けや
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とりあえずカナエさんは今日も美しい