最終選別六日前。両親に選別に行くことを伝えた。
「ムムっ!そうかついに鬼殺隊の最終選別を受けにゆくのだな!」
「受けるんじゃなく受けさせられるの間違いです、父上」
「父上だと!?パパ上と呼びなさいと何度も言っているだろ十三朗!」
「うるせぇ寝言は寝て言いやがれお父上」
「お父上!?どうあってもパパ上とは呼ばぬつもりだな!?」
「だあああしつこいな!話が進まないでしょうが!!」
「ぬほぉぉう!いい蹴りだ、強くなったな十三朗……」
昔っからのよく分からん拘りに声を荒げる父親に、俺は負けじと声を荒げて飛び蹴りをかました。
「十三朗、すまなかったな」
互いに落ち着きを取り戻したところで、父親がそんなことを言ってきた。
「……それは何に対しての謝罪?思い当たることが多すぎてよくわからないんですけど」
「そんなダメな親父みたいな言い方するんじゃない、パパ上はそんなに悪いことや不甲斐ないことなんてしてないぞ」
「酔っ払って人様ん家の塀を頭突きしてぶっ壊したり、酔っ払って店で他の客にケンカふっかけて返り討ちにあって鼻血を垂らして気絶したままウチに運ばれてきたり、街で綺麗なお姉さんに声かけてフラれ、挙句にはゴミを見るような目で見られたけど逆に喜んでたり。あとは──」
「すまなかった!不甲斐ないパパ上でごめんなさいそれ以上は勘弁してください」
隣にいる母親がドン引きした顔で見ているからか、父親は見事な土下座を見せそう懇願してきた。まさか父親の土下座を見るときがくるとは思わなかった……あれ、ちょっとニヤけてるな。母親から冷たい視線を浴びてるからだろうか、明らかに喜んでる。こんなタイミングで父親がドMだったことを知る俺の気持ちにもなってくれよ親父殿……。
「と、とにかくだ。パパ上が謝りたかったのはそれではない。剣を教えることになったことを一度謝っておきたかったのだ」
咳払いをして真面目な顔でそう言ってくる父。
「鬼道を扱うことができずにいたお前にもできることがあると知り俺は舞い上がってしまったのだ。あのままでは自分だけが何もできないと劣等感を抱きながらこの家で生きることになるのではと思い、お前の意思も聞かぬまま山本さんのもとで剣を習わせるよう話を進めてしまった。
お前としっかり言葉を交わし、どうしていくか考えるべきだったと後になって思ったのだ。十三朗、今更ではあるがすまない」
そう言って静かに頭を下げた父を俺は目を丸くして見つめる。
たしかにどんどんと話が決まっていき俺は剣を教わってきたが、まさか父がこんなことを思っていたとは。罪悪感に苛まれているだなんて微塵も思わなかった。
そして黙る父親に代わり、今度は母親が口を開いた。
「父や私も本当は途中で辞めさせようと思っていたのです。でも最初は嫌そうな顔をしていたあなたが、いつからか山でのことを時折楽しそうに私たちや鉄斎さんに語って笑うのを見て、言うに言えなかった。
また私たちの勝手であなたから笑顔を奪ってしまうのではないかと……本当にごめんなさいね。だからもし鬼殺隊に入るのが嫌なら……」
そう暗い顔で言う母親を遮るように俺はスっと右手を前に出した。
「最終選別は受けるよ。いいんだ。乗りかかった船みたいなもんだし、今は最後までやってみようと思ってるんです。二人の気持ちを知れただけで俺は十分。優しい両親のもとに産まれることができて、俺は幸せ者です!」
「「……っっ!」」
元気にそう答えると両親から抱きしめられた。ヘタしたらこれ骨折れるんじゃない?というくらいそれはもう強く。
子供を酷い扱いをすることが現代よりもよっぽど多いであろうこの時代、こんな優しい親のもとに生まれた俺はきっと幸せ者だ。転生前の親とはあんまり仲良くなかったし、数少ない転生してよかったと思えることの一つだろう。
「では頑張ってくるのだぞ十三朗……!」
家を出発する日。家の前で山爺と家族はもちろん、使用人の人達までもがずらりと並び俺を送り出そうとしていた。そのなかで両親ですら泣いていないというのに、大号泣している者が一人。
「うおおおおん坊ちゃん!どうかご無事で!無事に帰ってきてくださいねえええ!!!」
「いや泣きすぎだよ鉄斎さん……大丈夫だ約束する。俺は死なない。必ず帰ってくるからそん時はまた一緒に甘いもんでも食おう。そうだな〜今度は洋菓子がいいな、準備しといてくれるか?」
「は、はい!もちろんです、とびきり美味しいのを用意しておきます!!」
なんとか鉄斎さんをなだめると山爺が歩み寄ってきた。
「儂の日輪刀をやる。しっかりと研いでおいた。その姿よく似合っておるぞ」
「おう、へし折れるくらい酷使してきてやらぁ」
日輪刀を受け取ってそんな減らず口をたたいてみる。
あ、鼻で笑われた。これは期待しているって意味か、やれるもんならやってみろという意味かどっちだ?なんだか圧倒的に後者な気がする。ちょっとムカつくなぁ。
ちなみに今俺が着ているのも山爺から貰ったもので、全身真っ黒な袴である。
察しのいい人ならわかったかもしれないが、色も形も完全に死覇装なのだ。
鏡を見た時はうわぁ死覇装着て死神のコスプレしたニヤニヤしてるガキンチョがいる、とは思ったがこれは死神になったみたいでちょっと嬉しい。テンション上がるなぁ!
そんなことがあって、みんなが手を振るなか、俺は最終選別の行われる藤襲山へと出発した。
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「うわ凄っ!めちゃめちゃ綺麗、こりゃ映えですな、バズりますなぁ〜スマホも何もないのが悔やまれるぜ」
最終選別当日の夜。藤襲山についた俺は長い石段を登りながらそうつぶやく。
アニメでもすげえ綺麗だなとは思ったがこれ実際に見てみるとホントにすごい。辺り一面に咲き誇るこの景色が一年中見れるんだもんな、鬼さえいなきゃ最高の観光スポットになるだろ。あ〜ほんと鬼がいなければなぁこの辺観光地にしてがっぽがっぽ稼げんのに。鬼いなくなったらこの辺で商売してみようかな。
そんな未来設計をしていると石段も登り終え開けた場所にたどり着く。
パッと見ただけでも30人くらいいそう。このうちのほとんどが生き残れず死んじゃうんだよな、やっぱ厳しすぎるよなこの選別。
「皆さま、今宵は鬼殺隊最終選別にお集まりくださってありがとうございます」
五分くらい経つとそんな挨拶とともに最終選別の概要が説明された。
その内容はやはり原作通り、鬼のいる山での7日間サバイバル生活。
話していたのは白髪の素晴らしく綺麗なお姉さん、おそらくお館様の妻のあまねさんだろう。いやぁ実際見ているとほんと美人。神秘的な美しさって感じだろうか、ずっと見てられる。
「ではいってらっしゃいませ」
「……ん?」
「…………」ニコッ
選別の説明が終わるとあまねさんと不意に目が合ってニコリと微笑まれた。え、なんで?そんなことされたら並の男は惚れちゃいますよ?まぁ別に俺は屈強な鋼の心を持ち合わせておりますので?その程度どうってことないですけどねぇ?
ふぁああああ!あまね様美しいよぉぉおおお!!!!
ほらね?水面のような穏やかな心で平然としていられたでしょ?
軽く咳払いをして何事もなかったように俺は歩みを進め山へと繰り出した。
さっきまでの藤の花の絶景とは裏腹にすっかり味気なくなった山を小走りで進んでいく。
「とりあえず炭治郎君をまねて東に行ってみるか……っと?」
早く日が昇る場所で身体を休めるためにと炭治郎は東を目指そうとしていた。ここはそれをまねしてみようと休めそうな場所を探しつつ東側に足を進めていると、身体のある部分にチリチリと電流の流れるような感触が走り、立ち止まる。感じた場所は左肩の辺り、静かに刀を抜き構える。
これは山爺との修行で自然と身についた物で、自分に向けられた攻撃的な意識を肌で感じ取れることがあるといった感じだ。他の人より勘が鋭いとでも言えば分かりやすいだろうか。
この状況でそれを感じたということは間違いなく鬼だろう。いい機会だ、身につけた呼吸が通用するかさっそく試してみよう。刀を握り直し胸の前で真っ直ぐ立てて構える。
「ンがァァァ!!!」
「あっ!野生の鬼が飛びだしてきた!」
草むらから鳴き声とともに飛びだしてきた鬼にそんなことを言いながら刀を振るおうとすると、
「ンギャハイッ!」
「んだよ最初は必ず2体ずつ出てくるのがお約束なの?こっちは一人なんで一匹ずつ殺ろうよ、とりあえず縦に一列に並んでもらえる?」
新たに首元へ攻撃の意識を感じすぐさま後ろへ飛ぶ。直後、やたらとハイテンションな声を上げて鬼がもう一体現れた。
「聞く耳持ってはくれないってか。ま、二人まとめて頸飛ばしてやればいいだけのこと」
二体目の鬼の登場で崩れた技の形を再び作り直し、放つ。
死神の呼吸 陸ノ型 散れ──千本桜
「「ァッ!?!?」」
触れられてもいないのに頸を飛ばされ二体揃って驚愕の色を浮かべて消えていく鬼達。
死神の呼吸の書によれば、陸ノ型・千本桜は朽木千哉という男が編み出した技。
刀を目にも止まらぬ速さで複数回振るい斬撃を飛ばして攻撃をするというもの。高速で振るった刃の残像や放たれた斬撃が月の光に照らされると、まるで桜の花びらが舞っているように輝いて見えることからこう名付けられたらしい。
使用者の名前然り、技の由来然りこれもしっかりとパチモンである。流石に原作の千本桜のような多方面に大量の刃を自在に飛ばすということはできないが、刀という接近戦必須な武器で戦う以上、遠距離技というだけで十分なメリットのある技だ。
風の呼吸同様、エフェクトではなく本当に斬撃を飛ばせる少々珍しい技だ。
しっかりと鬼の頸を跳ね飛ばすことができ一人で小さくガッツポーズをして、俺は再び走り出した。
ここでの七日間は鬼が活動する夜にこちらも動き、鬼も身を潜める日中に身体を休め戦いに備えるという完全に昼夜逆転の生活である。
昼間に食える木の実を採ったり川で水を汲んだり魚を手早く捕まえて眠り、夕暮れ時に早めの夕食を摂り鬼との戦闘に備える。
とは言っても毎晩真面目に鬼と戦っていては身も心も疲れ果てそうなので基本的には隠れている。別に鬼を倒せとは言われてないのだ、とりあえず七日間生きてさえいればいいのだ。
たとえ生き恥を晒していると貶されようとも構わん、ひたすら逃げ隠れを続けて生き抜いてやる。
とはいえずっと同じ所にいても食料もあまり採れなくなるので少しずつ川をたどって移動する。そうしていると時折藤の花が咲いていたからそれを集め見に纏ったり簡単なバリケードを作って夜を過ごす。これが割とよく効く、近寄ってきた鬼が「え、お前なんでそんなモノ巻き付けてんの?」と言いたげに汚物を見るような顔をして去っていくのだ。あんまりそういう顔されるのでちょっと心が痛くなることもあるが楽だし気にしない気にしない!…………気になんかしてないもん。
「うわぁきっしょ……」
「……」
ちなみに現在四日目。藤の花を纏って体育座りしていると遂に顔だけでなく口にそれを出してきた鬼が現れた。
「やーい!鬼さんビビってる!お花ごときにビビってる!お花より弱い鬼さ〜ん!たった一人でどこ行くのぉ〜??」
「……アァ!?」
流石にムカついてきたので煽ってみた。鬼はというと、こめかみをピキピキいわせながら鼻をつまんでギロっと睨みつけてきている。やーい、ざまぁみろ。
「そんなクソ花巻いてるからって調子乗ってんじゃねぇよ!人間の女のクセによォ!!」
「……男なんだけど」
「ふぁ?その結っている黒い長髪で男だァ?いや確かに声は女にしちゃ低いか……」
鬼の発言に目を丸くして答える。
確かに今の俺は髪を腰の辺りまで伸ばし、それを1本に結っている。まぁ普通にポニーテールにしてるってことだ。
生前マンガに出てくる長髪の男性キャラに憧れたことがあったのだが、その時の俺は男っぽい極太でバリバリパサパサな硬い髪質だったため、伸ばしたとて気持ち悪い男が爆誕するだけだったのだ。
しかし今の俺はというと、やたらと髪がサラッサラしているのだ。屋敷の使用人の皆さんが羨ましがる程に。おまけに顔立ちも少々中性的だ、小さい頃使用人達から何度可愛いと言われたことか。
なんなら未だに「相変わらず坊ちゃまは美しいですねぇ」と言われる。もうどうせなら女の子として生まれてきたほうよかったんじゃないか。
そんなワケで生前できなかった長髪ライフを送っていたのだ。よくよく考えれば女と見間違えでもおかしくはないか。
「けっ!クソ花を身につけるだけではなく男のクセに髪を伸ばしてるとますます気持ち悪いヤツだな」
「なんだよ男が髪伸ばしたって別にいいだろ、多様性ってやつさ。俺ら人間より長く生きられるんだからさぁ、もっと価値観とか時代に合わせて変えてかなきゃ生きていけないよ?取り残されるよ?化石扱いされちゃうよ??」
「っるせえ!人間のガキが説教なんかすんじゃねぇ!」
「うおっ、藤の花巻き付けてんのに襲ってくるとは根性あるね。せっかくだから鬼ごっこやろっか!あ、お前鬼だから一生鬼役ね〜!」
「待てやコラァ!散々バカにしやがって、ぶっ殺してやる!!」
襲いかかってきた鬼に煽るように明るい声でそう言って逃げ出す。藤の花を体に巻いていると少々刀を振りづらいのだ。ずっとこうしてりゃいいと思っていたが少々考え直したほうがいいかもしれない。
藤の花を外す時間を確保しようと俺は全速力で鬼から逃げた。
「よし、今のうちに花を外しましてぇ〜迎撃の準備をっと……あれ?」
しばらく走っていると少々開けた場所にたどり着き身体に巻き付けた藤の花を手をかけるとある光景が目に入った。
「ヘヘヘッ!さっきの威勢はどこにいったのかな?かなァ?」
「ぐっ……!こんなとこで死ぬわけにはいかないのに……!」
脚をケガして膝をつく女の子が鬼に襲われていた。目の前で鬼に襲われる人を見殺しにすることはできず、俺はたいして考えることもせず駆け出していた。
「さぁそろそろお終いにしよ……ってなんだお前藤の花なんか身につけやがって!どっか行けメシがマズくなるだろが!」
「あっ……あなた──」
「これちょっと持ってて、藤の花だし鬼も攻撃してこないだろうから」
スルスルと巻き付けていた藤の花を外して女の子に投げ渡す。ようやく身軽になったところで刀を抜き鬼をじっと見据える。
「お前さっきさ、かな?かな?とかわざとらしく2回聞いてたけどよ。それが許されんのはなぁ、ひぐらしが鳴いてる田舎に住んでる鉈が似合う女の子だけなんだよ!バカにしてんのか、バットでタコ殴りにしたろかァ!?」
「意味わかんねぇよ知るか!ンでそんなキレてんだテメェ!?」
「見つけたぞクソガキがあぁああ!」
鬼がツッコミを入れて声を荒らげると、さっきの多様性認めない系鬼さんが草むらから飛びだしてきた。
「けっ、今度こそお前喰ってやる。てかお前稀血だろ?クソ花で分かりづらかったが美味そうな匂いがしてるぜこの稀血野郎!」
「むっ、本当だ!これはいい馳走が来てくれたァお前から喰ってやるぞ稀血ィ……いいかな?かなァ?」
「マレチーマレチーってうるせェな、そんな名前じゃねえよ俺ァ」
なるほど。藤の花を巻き付けていたのに鬼が襲ってきたのは俺が稀血だったからか。なんとなくそんな気はしていたが、やはり稀血なんて損しかしないなちくしょう。
まぁ何はともあれこの鬼達はここで倒さなければ。後ろにケガした女の子もいるワケだし。
息を整え呼吸を使うため集中する。
死神の呼吸 拾ノ型 霜天に坐せ── 氷輪丸
その解号とともに一気に鬼達へと接近し、攻撃をくらうより速くその身体へ大きな傷をつけるように斬りつける。鬼はというと苦悶の表情を浮かべて膝をついた。
「がはッ、つ…冷てえ……!」
「なんでッ!斬られたとこが凍ってんだ、何しやがったテメェ……っ」
「氷輪丸は水を氷へと変える力。血も一応液体だからな、この技で斬ればそこから流れ出る血は凍りつきその身体を凍てつかせる……ガタガタ震えて眠っとけ」
拾ノ型・氷輪丸は日番谷氷獅郎という男が生み出した技。
全身の運動能力向上から毒の巡りを遅延、一時的な止血……などなど何でもありな全集中の呼吸で体温を変化させることまでやってしまった日番谷さん。
もはや恒温動物である人間としてあるまじき行為だとは思うがとりあえずそれは置いておこう。
この技は呼吸により低く冷たくさせた体温と、その冷気が伝たわせた刀で斬ることでその流血を凍りつかせてしまうのだ。
そんなのアリかよと思ったそこのアナタ…………俺もそう思う。
動きの鈍くなった鬼達の頸を落としとどめを刺す。斬った頸の断面が凍りつきながら消滅していく身体を見下ろして刀を仕舞う。
「ふぃ〜疲れた、大丈夫?近くに川もあるしそこで手当てしよう、脚ケガしてるみたいだけど歩ける?」
「えぇなんとか……助けていただきありがとうございます。お強いんですね、同じ女性として尊敬します」
「あはは、いえいえそんな!…………あの、俺男です」
苦しそうに顔をしかめて立ち上がった彼女に俺は苦笑いをする。俺そんなに女の子に見えるの?戦ってりゃ少しは勇ましくなって男らしくみえない?ダメなの?え〜〜〜。
「え、でもその髪や顔立ちは……」
「男です」
「そ、それは大変失礼しました。あ、申し遅れました。私は胡蝶しのぶといいます」
「うん、よろしくねしのぶちゃん」
こうして俺は原作の主要キャラとの邂逅を果たした。
こういう転生をしたからには原作のキャラ、特に主要なキャラに出会えるというのはやはりテンションが上がる。
さっきしのぶさんの前に出た時は平然としているように振舞っていたが、心の中では『生…胡蝶しのぶだぁぁああ!』と狂喜乱舞していたものである。
ちなみにいうと大はしゃぎしていたのはしのぶさんが推しだったからというわけではない、原作のキャラなら大抵大喜びしていたと思う。
それこそゲスメガネや手鬼、お堂に出現するイシツブテにだろうと狂喜乱舞待ったナシだろう。
この場でできる応急処置をしてあげ……いやというかほとんど自分で処置を済ませたしのぶちゃんの姿にほっと息を吐き、俺は川の水をすくって乾いた喉を潤わせる。
「あっ、そういえばまだお名前を聞いてませんでしたね」
「あ〜そういや俺名乗ってなかったね。でもいいよいいよ、そんな名乗る程の者じゃございませぬので」
「せっかく助けていただいたんです、名前くらいお互い知っていてもいいじゃないですか!」
「いやいや、そんな細かいこと気にしないでさ〜気楽に話そうよ、ほんと名乗る程の者じゃないんだよ俺なんて。あっ、俺は護廷十三朗っていうんだ!ちなみに名前は……こうやって書きます」
「やたらしっかりと名乗ってくれるじゃないですか」
近くにあった枝を拾って地面に名前を書く俺に、しのぶちゃんがジト目でそう言い返してきた。
そんな感じで暇になったので夜明けまでまだ時間もあるしと長ったらしく自分の身の上話をした結果、嘘つくな誰にも信用されなくなんぞと怒られたのである。まぁ信じてもらえるわけないとは思ってたけどね。
というか求められてもないのに自分の過去の話する奴ってめっちゃウザくない?俺ベラベラと自分の話ばっかする人イヤなんだよね〜、モテなそうだよねそういう人って。自分が今そうなってんだけどさ。
「私が鬼殺隊を目指す理由は……」
「え?いきなり語るじゃん。求められてないのに自分の話する奴って大抵周りから嫌われるらしいっすよ?」
「いきなり身の上話を始めたあなたが言わないでください!ここはお互い過去の話をするみたいな流れじゃないですか!ならいいですよ、もうっ!」
「そんで?なんで鬼殺隊入ろうと思ったのよ」
「なんですか結局聞きたいんですか!なら茶々入れないでくださいよ!?」
あくびをしながら問いかけた俺にピキピキなさったしのぶちゃんが吠えた。
「私の両親鬼に殺されたんです、目の前で。姉と私ももう少しで殺されてしまうところだったんですがそこで鬼殺隊の方に助けていただきまして。その時姉と約束したんです、こんな悲しい思いを他の人にはさせないって。
そう誓って別々の育手のもとで修行を積んでいた姉がたまたま今回の選別に参加してたんです、だから私は絶対に生き抜かなければならないんです。そして姉さんと共に戦ってあの時の約束を叶えるために」
強い決意が灯る瞳で月を見る彼女になるほどねと小さく頷いて空を仰ぐ。
原作を読んでいたから知っていたが改めて聞くとやはり壮絶な過去だなと胸が痛くなる。目の前で両親を殺した存在に誰かの幸せを守るために立ち向かおうだなんて、ほんとにこの姉妹心が強いよなぁ……。
「なら絶対にこの選別突破しないとな。まぁでも大丈夫、しのぶちゃんもお姉さんも必ず突破できるよ。俺の勘がそう言ってる」
「勘、ですか。それはなんとも信用していいのか微妙なものですね」
「いやいや俺の勘ナメてもらっちゃ困るよ。鋭すぎて攻撃が来ることとか察知できるし、なんなら時折未来が視えるからね」
「未来ってまたそんな信じ難いことを……まっ、今回は私を励ますために大口を叩いてるってことにしといてあげます」
「嘘じゃないよ。選別を突破して泣きながらお姉さんと抱き合うのが視えるし、隊服着た二人が並んで歩いてる姿が俺には視えるよ」
未来が分かるのは勘ではなく原作知識というズルなのだがまぁいいだろう、全て勘で一括りにして言ったほうが何かちょっとかっこいいし。今後もこれをフル活用して生き抜いてやる。
俺が真面目な顔でそう言うとしのぶちゃんは少し驚いたように目を丸くして、
「そう、ですか……ならそれを実現できるよう頑張らないと。じゃないとカッコつけたあなたが恥ずかしくなっちゃいますもんね!」
最後にニヤッと意地の悪い笑顔をしてそう言った。
「っ、ほんとだからな!?絶対そうなるからな!まぁとにかくお互い死ぬ訳にもいかないし、残りの三日間協力しない?」
「……そうですね。こうして会ったのも何かの縁、共に生き抜きましょう護廷さん」
そっと差し出された手と握手を交し、こうして俺としのぶちゃんは行動を共にすることにした。
「あの、護廷さんそろそろ手を離してくれません?」
「いやぁ〜女の子の手握るの初めてなような気がしてちょっと感動しててね……どうぞお構いなく」
「姉さん、私協力する相手間違えたかもしれない……」
日中はお互い食料を調達しつつ休息をとり、夜は数時間おきに交代しながら辺りを見張る。まぁでも仮に鬼が現れても、
「は、藤の花?なんでそんなモン身につけてんの、キモイなお前ら……」
こんな感じでやはりゴミを見るような目で辛辣な言葉を吐かれて去っていくだけなので大丈夫ではあるのだが。
「なんでしょう、ものすごく心にきますね。何も悪いことしてないのに……」
「あんなの慣れれば虫の羽音みたいなもんだよしのぶちゃん、こういう時は慌てず騒がず……
っるせえな!花ごときにビビリ散らかしてんじゃねぇよてっぺんハゲ!鬼のくせになんで頭枯れてんの?再生できないのぉ?お花ぶっ刺して潤わせてさしあげましょうかぁ〜!?」
「すっごく騒ぐじゃないですか」
「うるせぇ!そんなん、そんなのなァ……俺が知りてえよクソがぁあああ」
「え、あの鬼泣いてましたよ?鬼も泣くもんなんですね……」
「ハハハ、そうだね。……とまあこんな風に虫の羽音は無視するのが一番なのさ……虫だけにね」
「無視って言葉の意味分かって使ってます?あと、上手いこと言ったみたいな顔しないでください上手くないですから」
俺が穏やかに、そして丁寧に慈悲深いお言葉を告げてあげることで鬼は感動のあまり泣いて去っていくからあまり見張る必要もないのだが。
こんな感じで鬼とのやり取りが毎晩続いて迎えた七日目、最終日。
「あっ!テメェらだな!?クッセェ花巻き付けてる噂のイカれた二人組ってのは!うわっほんとじゃねぇか、きったねぇなクソみてぇな臭いがプンプンしてんぞお前ら」
「へ〜噂しちゃうほどこの花が嫌いなのか〜。鬼ってぇお花ごときにビビってしっぽ巻いて逃げるミソッカス集団なんだねぇしのぶちゃん〜」
「そうね、ほんと可哀想。というかそんなにイヤならどこかこの花が咲いてないとこに行けばいいのに……あっ!この山は藤の花が囲うように咲き誇ってるからこいつらどこにも行かないんじゃなく行けないんだわ!なんて可哀想なヤツらなんでしょう!!アハハっ!」
「言ってくれるじゃねぇか糞ガキどもおぉぉぉぉ!!!」
しのぶちゃんは俺より鬼を煽って罵倒するようになっていました。それも楽しそうに。
「しのぶちゃんめっちゃ煽るじゃん、どうしたのよ急に」
「そりゃ毎晩毎晩毎晩……あんな風に罵倒され続けたら腹も立ってきますよ!もう限界です!!黙ってなんかいられません!!!」
最初は遭遇した鬼に顔を強ばらせながら黙ってやり過ごしていたしのぶちゃんも色々溜まっていたようで、それが最終日にして大爆発したらしい。その結果、ブチ切れた鬼が藤の花をもろともせず飛びかかってきたので俺達は全力疾走で逃亡している。
「最終日ですしこのまま昨日見つけた藤の花の咲いているところまで向かいましょうか?ここからかなり近いですけど」
「そうだね、多分あの先が選別の合格地点みたいなところだろうしね。それにさすがにあの量の藤の花は鬼も近づけないだろうからなぁ、勝ち逃げしてアイツに吠え面かかしてやろうぜ」
「ふふっ、いいですね!思いっきりかかせてやりましょう!」
しのぶちゃん、やはりノリノリである。
昔の彼女は勝気な性格だったとはされているがこれはさすがにやり過ぎではなかろうか。
これは目の前で鬼を煽り続けた俺のせいではない、煽られることしてくる鬼のせいだ、きっとそうだよ。荒ぶるしのぶちゃんは鬼のせいだと自分に言い聞かせそういうことにしておく。
そんなこんなで走っていると藤の花が咲き乱れている場所にたどり着き、くるっと後ろを振り返る。
「おやぁ〜?どうしたの鬼さん、そんなとこでプルプル震えて」
「ふふふ、そうですよ。こっちに来て仲良くお花見でも……あっ、もしかしてこの花が苦手でそれ以上近づけないんですか?まさかまさかそんな訳ないですよね?さっきまで私達を追いかけ回してたんだし、少し量が増えたくらいどうってことないですよね!」
「んがあああクソがあああ!」
頭を掻きむしりながら叫ぶ鬼を背に俺達はヒラヒラと手を振りながら花に囲まれたその道を歩いていった。
石段を登り終え開けた場所に出る。そしてそこには鳥居をじっと見つめる蝶の髪飾りを付けた少女が一人佇んでいた。
「……ぁ、姉さん…………?」
その少女の後ろ姿を見た瞬間、隣にいるしのぶちゃんが小さく掠れた声でそう呟いた。
そしてその声にピクリと肩を震わせ振り返った少女は目をこれでもかというくらい見開かせ、金魚ように口をパクパクさせながら一歩、また一歩とこちらへ歩みを寄せてくる。
そんな彼女に走って抱きついたしのぶちゃん、そして彼女はそれをしっかりと受け止めてその背中に優しく手を回した。
「ほらね、やっぱり言った通りになったじゃないか」
声を上げ、泣きじゃくりながら抱き合う姉妹の姿に小さく笑みを浮かべて呟く。
昇ってきた陽の光に照らされる二人の姿はまるで空を舞う本当の蝶のように美しく、そして綺麗だった。
木陰に座り込み穏やかな顔でその姉妹、その姉の姿を改めて視界に入れた俺は──
ひぃやああぁぁぁストラァァァイィクゥゥ!!!!!!!
その穏やかな顔に見合う、それはもう水のように静かな落ち着いた心で狂喜乱舞していた。
ギャグってむつかしい
よくある主人公の設定集みたいなのあった方よろしい?プロフィールやら技の設定的なのを書く感じになると思われ
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当たり前やろ書けや
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いらんわそんなのよりはよ続き書けや
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とりあえずカナエさんは今日も美しい