「報告されたのはこの辺りだ、よし、探せ!」
オーレ地方の外れ、鬱蒼とした森の入り口で黒服に身を包み、顎髭を生やした大男が同じく数名の胸にRの文字の入った黒服とハンチング帽の部下たちに指示を飛ばす。
その一声で一列に黒服の集団が茂みに分け入る。彼らはロケット団、世の裏に忍びポケモンで悪事を行う存在だ。
ガサガサと大きな音を立てて森を進む様に周りの小さなポケモン達は怯え姿を隠す。この森は近年自然が回復し野生ポケモンが生息できるほどになっていたが、彼らはそれらのポケモンに対して意に介さないようだった。
「けっ、いるのかね生存している化石ポケモンなんて。」
愚痴をこぼしながら団員は進んでいく。彼らの受けた命令はこの森で目撃された化石ポケモン
の捕獲。現代の自然界に生きるにはあまりに強大な存在。それを捕らえようとしていた。
同じ頃、1人の少年が野生のポケモンと対峙していた。少年といっても10代の後半、プロテクターのついた特殊なスーツを身にまとっている。ロケット団とは別な組織の隊員といった出立ちだ。
「チゴラスだけじゃなくアマルスも。2対1か…分が悪い」向き合っているのは大きな顎を持った幼き暴君と冷気を操る首長のポケモン。チゴラスとアマルス。
2匹の容赦のない攻撃は少年を追い詰める。
岩と氷塊、迫る一撃を掻い潜りボールを繰り出した。
「来い、アオガラス!」現れたのは青い翼の鳥ポケモン。鋭い瞳で2体のポケモンを見据える。狙いをアオガラスに変えた2体の攻撃が放たれる。
「アオガラス、はがねのつばさだ」指示に合わせてアオガラスはチゴラスのいわおとしを潜り抜け、頭上に硬質化した翼を叩きつける。そのまま急旋回しアマルスの顔に今度は反対の翼を叩きつけた。アマルスはたまらず逃げ出す。
いわとこおりの複合タイプには耐え難い一撃だったようだ。
なおも向かいくるチゴラスの噛みつきがアオガラスを捕らえた。そのまま力任せに投げ飛ばす。
「アオガラス!大丈夫か。いつまでも相手はさせてると持たないな。捕獲する。」傷を負ったアオガラスは少年の元に戻ると今度は少年が空のボールを構えて勢いよく放る。
その時、予期せぬ横槍が入った。視界の外から放たれた投網がチゴラスを捉えると投げたボールは網に弾かれてしまう。
「!?」
少年が網の飛んできた方を見ると胸のR字が赤々と目立つ黒服の男がいた。化石ポケモンを捕獲するように命を受けたロケット団の下っ端だった。
「小僧を、この化石ポケモンを弱らせてくれてありがとうよ。ん?その格好、どこの団だ。」珍しい戦闘スーツに気付いたのかロケット団が問いかける。
「…」少年は黙り、長い黒髪の下の翠色の瞳でロケット団員を睨みつける。
「ダンマリか。まぁいい、どのみちお前はここで消えるんだからな!」そういうとロケット団員は取り出した注射器をチゴラスに刺す。
ぶるぶると震えたチゴラスの目つきと様子が一瞬にして変わる。常軌を逸した凶暴化。それが先ほどの注射の効果だった。
「さぁ、化石ポケモン、今すぐあの小僧をやってしまえ!『やつあたり』!」
ロケット団の一声でチゴラスは網を食い破り飛び出す。一度着地した後真っ直ぐと少年に向かっていく。どうやら薬品にはロケット団員を所有者として認めさせる効果もあったらしい。
「アオガラス!『いばる』だ。」
少年は攻撃技でなくアオガラスに補助技を指示した。チゴラスの状態は理性を失い、冷静な判断のできない状態。そこに精神に働きかけ、混乱状態を起こすいばるは覿面だった。
方向を見失い、そこかしこに噛み付くそぶりをするチゴラスはしまいに近くにいたロケット団に噛みついた。
「い、痛え…!」がっぷりと食いついたチゴラスをくっつけて転げ回るロケット団員に少年はゆっくりと近づく。
「お、お前、こいつを外してくれ…!そのアオガラスの技で…」たまらず懇願するロケット団員を見下ろすと少年はまた空のボールを取り出した。
「ボ、ボールじゃねぇ!このチゴラスのおやはいま俺になってるんだ!捕まえるんじゃなくて倒すんだよ!」もうたまらんと言ったように叫ぶロケット団員に少年は淡々と答える。
「知ってる。だから奪還<スナッチ>させてもらう。」
少年の手に嵌められていた腕輪が光るとその光がボールに移る。
その光に気づいたチゴラスはロケット団を放して少年の方に飛びかかる。
結末は一瞬だった。迫るチゴラスに少年は真っ直ぐにボールを投げる。言わんこっちゃないといった表情のまま固まるロケット団員を尻目に当たったボールはチゴラスを納め静かに下草の上に転がった。揺れることもなく、完全に捕獲は完了していた。
「お前は、一体何者なんだ。」ロケット団員の表情は助かったという気の緩みと目の前の得体の知れない少年への恐怖だった。
少年はロケット団を見下ろし、怒りを交えて名乗る。
「コードネーム、フォーチュン。お前達に囚われた全てのポケモンを奪い返す者だ。」