すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
凛、シキも、様々な不可解な出来事に、日常が変わっていくのを感じ始めていた。
同時に、僅かながらの違和感も。
『お前ら……ゼタ弱ぇぇぇんだよぉぉぉぉ!!!!』
左手から分裂する赤と紫の波動を放つことで一匹残さずノイズを切り刻み、さらに獣と化した巨大な右手で薙ぎ払う半身半獣の男。
『さあ、みんな!周りの悪い奴ら、思いっきり蹴散らしちゃえ〜!!』
敵と同じく紫色のノイズ、『ミング』、『コウモリ』、『カエル』を生み出し、自分も銃でノイズの頭を正確に撃ち抜いて応戦する少女。
『……ったく、一体何なんだよ、急に!』
巧みにバッジのサイキックを操り、下から上へ打ち上げるように『ショックウェイヴ』を放ち、その敵を『エンタングルメント』で空中に留まらせ、トドメに地面から氷柱を出す『ピアシングピラー』を喰らわせる少年。
ミナミモト、ココ、ネク。
昨日から、彼らは敵に対抗するためにも、流れで契約を結び、『三人』でパートナーとなった。前に、ネクがビイト、シキと共に戦ったように、三人で組むということは実際可能だ。
しかし本来、参加者は二人でパートナー契約をすることが無難とされる。
意識の数が多ければ多いほど、心を通わせることは当然難しくなる。
そして、その心の繋がりである信頼関係が薄くなってしまうほど、サイキックは弱化してしまうからだ。
心を通わせるという点で、どう考えても不安な奴が一人いる。でも、この提案をしたココにはきっと、何か根拠に基づいた考えがあるに違いない。
ネクはそう思い、机の上に置いてあるコーヒーを啜る。
「……い、いや、私自身かなり焦ってて……全然何も考えてませんでした……」
口に含んだコーヒーを目の前に座っている少女、ココに思わず吹き出す。
「……!?ぎ、ぎゃあああ!!!あ、アツっ!アッツっ!!」
全身にコーヒーをかけられ、熱さのあまり店を走り回るココと、ココの無策ぶりとコーヒーの異様な不味さに衝撃を受けて、咳き込むネク。
知り合いの店であるここ、『ワイルドキャット』に漂っていたダンディーでミステリアスな雰囲気は、一瞬で消え去った。
「何も考えてなかったって、お前な!こいつと俺がどんな関係だったかも知らなかったのか!?互いに敵同士だったんだぞ!?」
ネクは店内の端に向けて指を指す。その先には、カップやスプーン、フォークを器用に積んで謎のオブジェを作っている、協調性の欠片もない男がいた。
凄く生き生きとした怖い笑顔で、どんどん積んでいく。彼の周りには落として割ったであろうカップの破片が散らばっていた。他の人のことなど御構い無し、やっぱりそこはミナミモトらしい。
「ううっ……だ、だって、私この前まで渋谷にいなかったんだもん!それにこのミナミモトって奴結構強いって有名だったし、ネクも知り合いだって聞いてたからてっきり大丈夫って……」
「強ければいいってわけじゃないだろ!お前死神なのに、そんなことも……って、やっぱマズっ!このコーヒー、本当に羽狛さんが入れたのか?」
「いいや、俺の芸術だ!どうだ?あのオッサンが作るもんが笑顔なら、俺は俺自身を作ってやるぜ……!」
「……全く意味わかんねえし、なんてもん飲ませんだお前!」
まだカップの中に液体があるのも忘れて、ネクはガタッと勢いよく立ち上がる。しかし、たまたまテーブルの端に置いてあったそのカップは、振動によって落下してしまい、地面に中身を撒き散らす。そしてネクはもちろん、ちょうどネクの方に向かってきたココの足にもそれは直撃した。
「「〜〜〜!!?!」」
「フナヒトハシフタハシヒトハシフタハシシゴクオイシイ……ダメだ、この作品ゼタしっくりこねえぜ……って、な!?お、俺の途中式がッ!?」
「あぁぁぁぁっつ!!な、なあ、オブジェ死神!タオル持ってきてくれ!俺とこいつの二人分を——」
「よくぞ一度ならず二度までもコーヒーを……ふざけんなぁぁぁ!!!」
コーヒーがかかったのは、ミナミモトの作品も例外じゃなかった。ココとミナミモトがネクに向かって飛びかかり、三人で揉み合いになる。
ネクは押し寄せるココとミナミモトを、ココはネクと元々の原因となったミナミモトを、ミナミモトはネクと取り敢えず近くにいたココを目掛けて手を伸ばし、服を引っ張り合う。
「ちょ、痛い痛い痛い!!おまっ、服引き裂くつもりか!」
「うるさいうるさいっ!!その明確な嫌がらせ、自分の服をもって償え……って、ちょっと!?なんでアンタまで服引っ張ってんのよ!?」
「フハハハハハハ!!!1.41421356237……」
より一層騒がしくなった店内。幸いにも客がこの三人以外誰もいなかったため、誰にもこの醜態を見られることはなかった。しかし、次々と店中のカップが割れていき、カウンターにいた彼は、ついに仲裁に入る。
「おいおい、そろそろその辺にしとけ。今なら割った弁償代、半分で許してやるぞ?」
そう声をかけた途端、ピタリと動きが止まるネクとココ。まだ暴れ続けているミナミモトの脳天にココが拳骨を喰らわせると、ネクが急いでその声の主、羽狛に頭を下げる。
「……羽狛さん!!す、すみません!!準備してくれてたのに、こんな騒ぎ立てちゃって……」
ネクの記憶を完全に元に戻すことに成功したココは、今日ネクを連れてワイルドキャットへと来た。理由は茶を嗜むためではなく、羽狛とコンタクトを取るためだ。
実は、ココ、羽狛、そしてヨシュアは前々から渋谷の異変に勘付いており、三人で協力関係を結び、インバージョン解決に向けて動いていた。今日のコンタクトでは目的だったネクの保護、そして……厄介な脱走犯の確保を伝えるために来た。
記憶を失った後で、久々に会えて嬉しくなっていたせいか、流石に羽目を抜かしすぎた。そう無言で反省していると、
「……ふっ、はははっ!金の話は冗談だよ、冗談!!安物少し割ったくらいで、どんだけ思い詰めてんだよ」
羽狛は笑い飛ばし、ネクの背中をバンバンと叩く。若干、というか結構痛めなほどに。
「痛っ!!……えっ?」
「気にすんな。別に俺とお前達の仲だろ?
……気緩められないで気張ってばっかなのも、考えものだぜ?真面目な時は真面目に、ふざける時はふざける。臨機応変こそ、『今を思いっきり楽しむ』ことの秘訣だ」
優しく言うと、羽狛はカウンターテーブルの上に、新たに三杯のコーヒーとミルクピッチャーを置く。
「ほらよ、パートナー契約祝いだ。まだ謎が多いが、渋谷が危険な以上、奴らとは絶対に戦わなきゃなんねえ。これからに備えて、飲んでリラックスしてけ」
「羽狛さん……すみま——」
「謝ることなんてないだろ?さ、冷めちまう前に早く飲んどけ。必要なものとどうでもいいもの、今を楽しむ上で、お前のその変な遠慮はどっちだ?」
「……はい、ありがとうございます」
す、すごい。
目を回しているミナミモトをカウンターの席に座らせると、ココは羽狛があのネクを完全に信用させて言いくるめたことに驚く。改めて、羽狛の異質さを実感していた。
(本当に、この人は私たちと『次元』が違うんだなぁ……)
少しずつ苦めのコーヒーを飲むネクの隣に座り、ミルクピッチャーの方にコーヒーを流し込み、それを幸せそうに飲むココ。店内は再び静かになり、消えていた独特の雰囲気が戻ってきた。
そして、二人がコーヒーを飲み終えミナミモトが拳骨による気絶から目覚めるのを見ると、羽狛は三人に例のインバージョンについて、説明を始めるのだった。
「す、すごい……頭の中に、声が……」
[今日どこに食べに行こっかな〜?あ、最近話題になってるあのラーメン屋!優しい店長の心がこもったラーメンが食欲をそそるって、確か王子が言ってたよね!ちょっと行ってみよっかな〜]
[いや〜今月のマブマ二ヤバかったな〜!!なんせあの有名モデル雑誌との夢のコラボ回!今日シュウトに会ったら、生のモデルさんどうだったって聞かなくっちゃな!]
なんとか危機を退けられたのは、こっちも同じだった。渋谷駅のハチ公周りのベンチに座っている凛とシキ。昨日、二人は謎の少女によって半強制的に契約を結ばされたが、その後、どうにかノイズの撃退に成功した。
凛は今、契約の際に少女から渡されたバッジセットをいくつか試していて、その中の、参加者バッジのサイキックを試しているところだった。
すると、目の前の人々の思考が、言葉になって頭に流れ込んできた。内容は様々で、微笑ましくなるようなものも、悪巧みのようなものも、そして思わず赤面してしまう、人前じゃ絶対に言えないようなものもあった。
「うわっ!?この人、こ、こんなこと考えて……」
思わず凛は一旦スキャンをやめ、頭を振って隣にいるシキを見る。シキは昨日の戦闘時からずっとひとりでに動いている人形、にゃんタンを抱きしめて見つめていた。
「……って、シキ。それ、どういう仕組みなの?」
よいしょとシキの腕を這い上がって登り、頭にだらんと倒れこむにゃんタンを指差して、尋ねる。
「……ええと、多分これが私のサイキック『テレキネシス』なのかな?凛とパートナーになってから、ずっと意思を持ったように動き続けてるの。私が動かしてるって感じは、あんまないんだけどね」
「勝手に自我って……それ、テレキネシスじゃなくない?他のものは動かせないの?」
「そう、そこなんだよねー。さっきまで色々試してたんだけど、どういうわけかこの子しか動かなくてさ。他のやつはうんともすんとも言わないし、凛みたいにバッジで色んなサイキックも出せないし、私これでしか戦えないんだよね……」
肩を落とすシキの言葉を聞き、凛は思い出すように首を傾げる。
「……てかさ、冷静に考えたら、なんで私たち戦うことになっちゃってるの?ほら、トワレコの前で、あんなに暴れまわったのに、全然ニュースにもなってないし……なんか色々と変じゃない?」
どこまでも続いているビル、交差点の大型ビジョンに流れるニュース、相変わらずの騒がしさ。不自然すぎるほど自然な渋谷を見渡しながら、凛は不気味そうに言う。
ここ最近、自分たちの身の周りで奇妙な出来事が後を絶たなくなった。
——宗教勧誘の少年、不良少女。そして、乱射女と謎の生命体へ向け、手から炎を出した自分自身。あの憧れの二人が、まるでずっと一緒だったように接してきたこともそうだ。
今までのシキと過ごしてきた、文字通り平凡な日常。呑気に外の景色を見つつ、適当に授業を受けて、放課後にシキと渋谷でぶらついて、腹一杯になったまま寝る。そんな当たり前の日々は一体どこへ行ってしまったのだろう。
「……うーん」
「まあ、あれじゃない?気にしたら負けってやつ」
しかし、明らかに動揺している凛とは裏腹に、シキはそこまで動揺してはいなかった。押しこらえたり隠していたりというわけでもなく、本人でも不思議なくらいだ。
「し、シキ?」
「ん?どうしたの、凛?」
「いや、どうしたって、シキはなんとも思わないの?なんか、すごい余裕そうじゃん」
こんなに肝が据わってるはずがない。そう信じ込んでいた凛は、シキから溢れ出るその余裕に驚く。シキは、不思議がるように答える。
「なんか、変なんだけどさ。
……こうして誰かと契約したり、一緒に戦ったりするの『前にもあった』ような気がするんだよね」
「誰かが凛みたいにバッジでサイキックを使って、私もパートナーとしてニャンたんでサポートするの。昨日戦った時のあの感じ、初めてっていうより凄い久しぶりって気がするんだ」
右手の人差し指を自身の顎につけて、目線を上にあげるシキ。しかし、すぐに指を離して目線を元に戻す。
「それに、あの不良の子の言葉。まるで私たちが何かを忘れてるみたいな言い方だったじゃん。だから、とりあえず戦い続けてみよう……みたいな?あれ、変?」
そう言われ、改めてその言葉を思い出す。あれが本当のことだとすれば、自分が忘れていることは、未央と卯月に関係があることなのか。
「ん〜なんか変な感じ。だって握手会にまで行くくらい大好きなアイドルとのエピソード、普通に考えて忘れる?イベントスケジュールとかテレビ番組とかラジオのゲスト出演とか、私の頭の中には全部入ってるけど」
「え……そ、そういうことじゃないんじゃない?例えば、あの二人が、凛の生き別れた血縁——」
「それほんと好きだよね、シキ」
バッサリと切り捨てつつ、凛は心の中で考えを巡らせる。こんな現実離れした状況の中だと、何でも、今なら信じてしまうかも知れない。凛が腕を組んでいると、シキが言う。
「……まあさ、こんな時に学校とか、そんな場合じゃないってことはなんとなく想像つくでしょ。どういうわけか、渋谷の人々は誰一人この状況に気づいてないわけだし」
「どう考えても無視はできないよね。うーん……なんで私たちがこんな厄介事に……」
「アイドルの女の子が大好きで、テスト勉強もお金もほっぽり出しちゃう高校生二人かぁ……確かに、戦うならもっとマシなの、いくらでもいそうだけどね?」
ズバズバと耳に針を突き刺していくシキの言葉に、思わず鈍い声が出る。
「うぐっ……何も言い返せなくて耳が痛い……」
「あははは……はぁ……」
ネガティブな言葉を自身に当てはめ、同時に深いため息をつく二人。
瞬間的な気晴らしとして、凛はすぐそこにあるスクランブル交差点に目を向ける。いい歳した不良カップルも、旅行中の外国人家族も、どこか胡散臭い宗教団体も、相変わらず、いつの時も様々な人々で埋め尽くされていた。
しかし、その中で不可解な動きをしている者が一人いた。人混みの中でさえ、誰がみても一目瞭然だった。何故ならその人物は、
「う、浮いてるんだけど…」
背中の網目状の羽を広げ、人混みの上を颯爽と通り過ぎていく謎の青年。橙色の縮れた髪をしており、紫色の飴玉を咥えている。凛は慌てて振り返り、ぐったりとしているシキの肩を揺らす。
「し、シキ!あれ見てよあれ!!」
「え、なになに……あ!あの歩いてる人ってもしかして、有名な……」
「そっちじゃないよ!!ほら、上見てよ上!」
「へ、上……お、おおっ!?人が宙に浮いてる!?」
驚いて目を見開き、その光景を目の当たりにするシキ。すると、青年は横断歩道を飛び越えると真っ直ぐと『渋谷センター街』の方へ向かう。
「ああっ!見失っちゃうよ、凛!早く追いかけよう!」
「もちろん、分かってるよ!」
急いで立ち上がり、彼女たちは結局謎を残したまま彼のことを追うのだった。
「……はーメンドクセー」
センター街の店舗、レコードショップ『AMX』の前でその青年、狩谷申輝は悪態をつきながら着実と準備を進める。指を使い、手書きで地面にゆっくりと正確に精製陣をなぞっていく。
「もう何回これ書いたっけな……ま、毎度のことだけど歪な奴が出来上がらないことを願いマスカ」
次元の高い者でなければ使うこと、ましてや理解することも出来ない言語のみを使い、精製陣を完成させる。そして狩谷は、精製陣の中央に数枚の『バッジ』を落とす。バッジの柄は白と黒のチェックで、至ってシンプル。
「こいつらの最大の利点は、とにかく固いことだよナ。初見殺しにはもってこいのノイズだ」
手のひらを開き、精製陣に向けて腕を突き出す。そして自身の腕にソウルを一点集中させ、精製陣に流し込んでいく。すると精製陣が青く光り始め、核となるバッジを次々と飲み込んでいく。
そして、不敵な笑みを浮かべている狩谷のもとに、
「いた!あそこだよ、凛!」
走って、駆け込んでくる二人の少女。まだ何も知らない、無知が故に、二人は恐れる様子もなく対峙する。
そんな凛とシキを前に、狩谷は彼女たちの方を向くと、飴玉を噛み砕き、含んだ笑みを浮かべる。
「おー、まさかソッチの方から来てくれるとはナ。サンキュー、呼ぶ手間が省けて感謝するゼ」
口に咥えていた白い棒を出すと、狩谷は二人に話しかける。
「……あんた、もしかして昨日の銃の人の仲間?凄い、怪しいんだけど」
「お、なかなか鋭いじゃナイか。俺の名は狩谷申輝、昨日の怖〜い女の人の、同僚みたいなもんサ」
少し強気の態度で尋ねる凛に、狩谷はおちゃらけた態度で答える。敵を前にしての気の緩みようで、思わず二人も拍子抜けになりかけるが、狩谷は突如、凛に向けてこう話す。
「なぁ、『蒼いシンデレラ』さんよ。一つ聞きたいんだが……」
「お前サンは『自分の中から零れ落ちた友達』と『その誤ちによって得た親友』、生きるとすれば、ドチラと生きたいと思う?」
「……え?」
「ハハ、俺は直接お前サンの口から答えを聞き出すつもりはナイ。ただ……」
狩谷はそう言うと、指をパチンと鳴らす。すると、精製陣から白黒の『禁断ノイズ』が大勢……ではなくたった数匹だけ現れる。
『キャーーー!!!』
一人の甲高い悲鳴を皮切りに、歪な形をした謎の黒い生命体を前にして、センター街に集まっていた人々が慌ててその場を離れていく。店内からも次々と出て行き、センター街は大混乱に陥っていた。
「……あらら、ちょっと今回は失敗しちゃったカ?ま、ならしょうがないってコトで」
「お前サンがどちらを選びどちらを捨てるのか、その答えは行動で見せてもらうゼ……」
そう言うと大混乱の中、狩谷は凛とシキ、そして、何故かAMX内へと禁断ノイズを繰り出してきた。
「……って、わけだ。分かったか、ネク?」
「……」
話があまりにも複雑で、ネクは少し混乱状態になっていた。とりあえず、今までの羽狛さんの話を整理する。
まず、ココとミナミモトのことについて。
謎の死神娘ココの正体は、過去二年間で突如として渋谷UGから姿を消し、行方不明になっていたはぐれ死神だった。
本人によると、後述する謎の二人組死神コンビに操られていたらしい。ネクとビイトの前に、敵として立ちはだかった時はまだ支配下にいたらしく、ネクのことを襲い、撃ち殺したのは『自身の意思ではなかった』ことが分かった。そして、ヨシュアによって洗脳が解かれ、羽狛の元へ運ばれ、それからは味方として行動しているらしい。
その際に、手数を増やすため、ココが復活させたのがミナミモトだった。だが、実はミナミモトの復活はココが勝手に行ったことであり、ヨシュアも羽狛も想定していなかったらしい。
吉と出るか凶と出るか、今考えると、相当な賭けに出たと言える。
次に、昨日襲撃してきた死神、狩谷申輝について。
ココ曰く、彼はもう一人の死神と二人で行動し、そのコンビネーションで様々な地域を消滅させてきた。
最近でいうと『新宿』、他にも六本木、丸ノ内、秋葉原、中野などの多くの地域が消えてしまっている。
以前ネクがゲームで衝突した死神、狩谷拘輝(カリヤ コウキ)とは似て非なる別人であり、現在、狩谷拘輝は時間改変の影響で、普通の大学生として八代卯月(ヤシロ ウヅキ)と共に過ごしているらしい。
何故、容姿や名前が瓜二つなのか、彼らが様々な地域を狙う理由はなんなのか。残念なことに、それ以上のことは分からなかった。
そして、最後に。
例の時間改変の影響を、ココ、ミナミモト、羽狛はどのようにして凌いだのか。答えは……実のところ、よく分かっていないらしい。
既にインバージョンは起きてしまったが、記憶が残っているのは、恐らくヨシュアのおかげだとされている。
(……まあ、こんなところか)
今まで自分が感じていた疑問。それらのほとんどは、知ることができた。
中でも、自身のパートナーであるココとミナミモト。この二人への信用に、羽狛のお墨付きを得たことは大きかった。
「一応、羽狛さんが言いたかったことはなんとか」
「おっ、流石だなネク。理解が良くて助かるぜ」
「……ま、要するに、お前は俺たちと共に、この渋谷のために戦うことになったんだ。どこのゴミかも知らねえ奴に、好き勝手させるわけにはいかねえよな?」
「ネク……」
ミナミモト、ココ、羽狛がネクを見る。好戦的な獣の視線、悲しさを含んだ複雑な視線、どこか申し訳なさを感じる視線。それらを感じ取り、改めてネクは決意を固める。
「……そんなこと、言われなくても分かってる」
これまでの平穏な日々に別れを告げ、再び死神の待つ戦場に立つことを。
「ヨシュアも、羽狛さんも、みんな戦ってるんだ。それに、この渋谷には、大切な俺の『友達』がいる……もちろん俺も戦います、羽狛さん!!」
昔とは変わろうと決めたネクにとって、答えを出すのは簡単だった。
「……へへっ、そうか。ありがとな、すげえ頼もしいぜ」
ニカッと笑ってウィンクする羽狛を見て、微笑むネク。そんなネクを見て、ココとミナミモトも安心したように笑みを浮かべる。
「……は〜、良かった〜!!」
「けっ、これで俺も気兼ねなく暴れられる!!完璧なまでの解を、因数定理ごとぶつけてやる!!」
「相変わらず、アンタは訳がわかんないよ……」
「へっ、上等だ!!」
ココが軽いツッコミを入れ、四人の周りに漂っていた緊迫感は薄くなってきた。打ち明けることで、小さな信頼の種が芽生え始めたのだ。
「……っと、そうだネク。お前に一つ渡したいもんがあったんだ」
「ん?」
羽狛はポケットに手を突っ込み、あるものを取り出す。それは、薄い紫色をした無地のバッジだった。
「羽狛さん、これは?」
「『アンサプレッションバッジ』、俺からのもう一個の祝い品だ。クセはかなり強いが、使いこなせればこれからのお前の戦いをサポートしてくれると思うぞ」
アンサプレッション……解放という意味を持つバッジを見るネク。すると、羽狛は提案をする。
「試しに使ってみたらどうだ?きっと、面白いことになるぜ?」
「えっ……使うって室内で?」
「そうだ。使い方は単純明快、そのバッジをつけて、壁に思いっきりぶつかるんだ!!」
言ってる意味が、分からなかった。
「大丈夫、気にすんな。いくら皿が割れようと、食器がグニャグニャに曲がろうと、机がバキバキに砕けようと、俺は全然気にしねえよ。へへっ」
「……え、羽狛さんってこんな爆弾魔みたいな奴だったっけ?」
「ゼタバカらしいぜ、オッサン野郎……」
急に頭がおかしくなったのかと、ココとミナミモトはため息をつく。
(一か八か……でも、やってやる!!)
疑問より、羽狛への信用を優先したネク。先ほどのバッジを服につけると、助走をつけるために壁から離れる。
「はぁ、二人とも慎重なのかただのバカなのか、なんか訳わかんなくなってきた!!」
「解を求めるために、常識も何もかもをぶっ壊す……ハハハッ!!いいじゃねえか、そのクラッシュ!嫌いじゃねえぜ!!」
「あー、確かにアンタこういうの好きそうだよね……」
ココがそう言うと、ミナミモトはより凶悪そうな笑みを浮かべ、ネクの方を見つめる。そして、ネクは壁に向かって全力で走り出した。その姿はどう見てもバカそのものだったが、でもネクは足を止めなかった。
いや、止められなかった。
「あれ?」
気づくと、ネクは店の壁、ではなく、ワイルドキャットの向かいにある店の外壁に屈んだ状態で足をつけていた。垂直に近い壁に重力を無視して、地面と平行に『立っていた』のだ。
「な、なんだ、これ!?」
そしてネクは自身の身体にまとわりつく、奇妙な光に気づく。光は薄いピンク色をしていて、ネクの全身を覆っていた。
「驚いたか、ネク。それがお前の新しい力。常識の現実に縛られることなく自由に流れるように世界を渡る。名付けて、『フリーフロー』だ!!」
突如声が聞こえたためその方向を向くと、ワイルドキャットの正面口から羽狛が出てきてネクを見る。
「フリーフロー……なんだと、そんな逆行列があり得るのか!?」
「新しい力って、あの高速移動がそうだって言うの?」
一瞬で空間を滑るようにして移動したネクを見て、ココとミナミモトが驚いた声で答える。
「いや、それだけじゃねえ。次だネク!そっから思いっきりジャンプしてみろ!!」
「ジャンプ……?ジャンプって、うおっ!?」
普段と同じように跳ぶと、自身の身体は重力を感じさせないくらい高くまで跳び、あり得ないほどの跳躍を見せる。店を超え、渋谷中に張り巡らされた電線を超え、小さなビルを超え、
「……す、凄い!!」
壁に触れると、超高速移動『スーパースライド』、そして跳ぶことで超跳躍移動『スーパージャンプ』を発動できることを知ったネクは、少しコツを掴み、ワイルドキャットの上空を自由に動き回る。
羽狛は、少しウキウキとした様子でそれを見ていた。
「もうバッジの特性を掴んでやがる……流石だな、ネク」
「うーん、確かに凄いし移動にはちょー便利そうだけど……戦いにはちょっと不向きそうなバッジじゃん?」
「……と、思うだろ?」
意味深げに笑みを見せつける羽狛。すると、羽狛は上空のネクに向けて叫ぶ。
「最後だ、ネク!高速移動中にサイキックを使ってみろ!」
「はい!」
壁に手をつけてへばりつき、そこから勢いよく飛び出る。そして、ポケットからショックウェイブのバッジを取り出して服に装着、引っ掻くように宙を切り裂く。その時、
『キャーーー!!!』
突如として悲鳴のようなものが聞こえる。その方向を向くと、人々が『渋谷センター街』から逃げていくのが見えた。逃げる人々の群れの中から姿を現したのは、見覚えのある白黒のノイズ、複数の『禁断ノイズ』だった。
「禁断ノイズ!?それに、RGの一般人を——」
そうして、ノイズを視界に捉えた途端、ネクの身体は急回転を始める。
「え……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!」
そして回転したまま、スーパースライドが発動し、ネクはそこから渋谷センター街へと真っ直ぐ、地面に落ちるようにして突進していった。ビルの合間を次々とくぐり抜け……恐ろしいほどの速さでセンター街の道に突っ込み、そのままノイズ達に攻撃を与えた。
「……むりむりむり、し、しぬしぬしぬ!!!!!!!」
カエル型のノイズに突進攻撃。それでもネクの突進は止まらず、周りにいたノイズもまとめて巻き込む。そしてトドメに、ショックウェイブの刃を地面に突き刺し、衝撃波を放つ。必殺をまともに喰らった禁断ノイズたちは、跡形もなく消滅した。
元の腕に戻ったネクは、自分の身体の無事を真っ先に確認する。
「あれ、俺、生きてる。あんな高いところから突っ込んだのに、生きてる……」
と、そんなネクに羽狛から電話が入る。
「羽狛さん!今のは一体……!?」
「……あれが、このバッジの最大の能力。他のバッジと掛け合わせて、そのバッジの攻撃にフリーフローの力を上乗せすることができる、『フリーフローサイキック』だ!!」