すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
ネクの目の前にあったのはAMX。別の視点にて、彼との待ち合わせの予定を結んでいた、彼女達がいる場所だった。
「……ちょ、次はなになに!?」
AMXの店内で影を潜めていた少女たちは、今、目の前で起こった出来事に、口が塞がらなかった。
「な、何だろう今の……なにか、空からドリルみたいなものが降ってきて、一瞬であの生物たちを……!」
店の窓ガラスが化け物達の攻撃で割られ、絶望的だったその時、突如そのノイズ達が、回転に巻き込まれて消えてしまったのだ。CDの棚の後ろに身を潜め、危機を思わぬ形で切り抜けた未央と卯月は、その場にヘタヘタと座り込んだ。
「……よく分かんないけど……た、助かった〜!!」
「ひ、っ……ど、どうして急にあ、あんな化け物が……」
卯月は這いずるように身体を動かし、震えながら顔を棚の後ろから出して、入口を見る。店内は、音楽機材、CD、ゲームなど、商品が至る所に散乱していた。もし化け物達がここまで来ていたら……と思うと、二人は再び身を震わせる。
「ひょぇぇ……こ、これは随分とトラウマ植え付けられましたな……」
「もしかして……今のが、昨日言ってた……あっ!」
その時、あることを思い出し、卯月は上着の内ポケットに手を突っ込んで、手に触れるそれを掴み取る。
それは二枚のバッジであり、一枚はピンク色でリボンのついた弓矢が、もう一枚はオレンジ色で地響きのようなものがプリントされていた。
「そのバッジって……そうだ!!羽狛さんがお守りってくれたやつだよね?あの、全然効果なかったんですけど……?」
「うーん……なんか、やり方が間違ってたのかな?持ってるだけじゃダメとかかな?」
「バッジの使い方って、服とかカバンに付けるしかなくない?でも、たったそれだけで変わるなんて……」
言いつつも、未央はオレンジ色のバッジを取り、試しに自身の服に付けてみる。
その瞬間、
「わわわっ!……あれ?」
寄りかかった棚が音を立てながら、粒子になって消えていった。それも未央の背中が触れた箇所だけで、そこ以外は不自然なほど元の姿を保っていた。
思わず、口が開いて塞がらない未央。
「あ……あ、ああああ……あぁ!?」
穴を指差して、ぱくぱくと口を動かして卯月を見る未央。卯月も目を丸くしている。しかし、その驚きは未央ではなく、また別のものに対してだった。
「あれ……誰なのかな?」
AMXの外。そこにいたのは、向かいの店の壁に倒れ込んでいる少年と、その少年に向けて銃を向ける二人の死神だった。
少し前、
「ん?『ネクはおっちょこちょいだから、どっかに行かないで』?……いや、どの口が言ってんだよ」
携帯で、ココや羽狛に受け応えるネク。その中、自らが作った禁断ノイズの様子を見に来ていた、狩谷が現れた。
「おお……たった一人で禁断ノイズを……ナカナカの芸当、魅せてくれるじゃン?」
狩谷は若干顔をしかめつつも、ネクに拍手を送る。手を叩くその音に気づき、察したネクは通話を切る。
「ちょっと待ってくれ。あいつが来た」
『ん?あいつって、まさか昨日の——』
ココが言い終わるのを待たずに、携帯電話を閉じる。そしてネクは、真正面に立つ狩谷と対峙する。
「……昨日は俺たちを襲い、今日はノイズをRGにばら撒いた……お前は何者だ。答えろ、何が目的なんだ」
「フッ、素直にハイって答えてたら、こんな大役任されてナイヨ。秘密を炙り出したければ、もっと強引に来なくっちゃ、な、ぁ……」
しかし、先程のネクのフリーフローサイキック『キックダイブ』の衝撃は、この場に向かっていた狩谷にも届いていた。それだけでも、狩谷は身に大きなダメージを負っていたのだ。
「……って、本当は強がりたいケド、流石は伝説の能力者……こんな力、どこに隠し持ってたんダカ」
油断し過ぎたと、狩谷は背中の黒い死神の羽を広げ、弱々しくその場を離れようとする。
「逃がすか!!!」
だが、この絶好の機会を、当然ネクは逃がしはしない。近くの電柱にフリーフローで突進し、回転しながらスーパージャンプ、スーパースライドの要領で、狩谷と一気に距離を詰める。そして『キックダイブ』を使い、狩谷にきりもみ攻撃を喰らわせる——
だが、それは直前で止められてしまった。
「!?」
きりもみ回転中、目の前に紫の光弾が現れる。正確に頭部が狙われたその軌道を、察知したネクは身をよじり、その結果、横のビルに激突して落下してしまう。
「ぐあぁぁっ!!」
背中からコンクリートにぶつかり、衝撃に呻き声を出す。幸いフリーフローには、身体の脆さを補強するセーフティー機能があり、致命傷には至らなかった。だが、力を使いこなせていないのは明白であり、
「く、っ……」
背中を抑えつつ、苦しみながらも壁に寄りかかる。目の前にいたのは笑みを浮かべる狩谷と……
「アーララ、形勢逆転だ。残念、一枚俺らの方が上手だったナ」
「って、何余裕ぶってんのよ!アタシが助けてあげなきゃ、アンタ消えてたじゃない?」
「まーまー、これこそ俺らのコンビネーションってヤツだろ?なんやかんやで息ピッタリ〜」
「もう……アンタのこと、四六時中心配しなきゃなんないアタシの身にも、なってほしいわよ」
もう一人、嫌味を言いながらも、心配そうに狩谷をスプレーで治療する紫色の髪の女、八代未月がこちらに近づいてくる。
「アメ玉の次は、ピンク頭もかよ……!?」
「あら?アタシのこと知ってるんだ……カリヤ、まさかアンタ、また口滑らしてないでしょうね?」
「おーいおい、忘れたのか、ビツキ?こいつは、例のゲームの参加者。間接的には、知り合いみたいなもんなのサ」
狩谷はネクを指差してそう言うと、八代は何かを納得したように微笑む。
「あらあら。ふふっ、じゃあ『——』の私も死神なんだ。アタシ達が時間書き変えた後は、何してるのかしらね?」
「さ〜ね。でも、それがどうであれ、俺たちがヤルコトは一つだケ……今、チャンスだろ?」
不敵な笑みを浮かべると、八代と狩谷は同時に銃を取り出し、狙いをネクの脳天に定める。
「い、った、っ……」
「どうやら、さっきの力も、まだ完全に使いこなせてはなかったみたいだな?ラスボス相手に練習は、流石にナンセンスだったけ、ド」
「えっ……ふふっ、アッハッハッ!そうだったの?カリヤってば、面白いこと言って笑わせないでよ?」
「へ?い、いや、今笑いどころじゃないですよー、ビツキさん」
だが、これから人殺しをするというのに、八代も狩谷も、やけに殺伐さのようなものに欠けている。確かに、これまでいくつもの街を滅ぼしてきているのは知っている。にしても、あまりにも慣れ過ぎている気がした。
疑問を思い浮かべるも、そんなことを考えてる暇は、ネクにはなかった。処刑を免れるためには、今すぐ動き、能力を……
「ま、いい塩梅だし、ここらでお別れしまスカ?」
「アタシも、久々に笑ってストレス発散できたわ。死ぬけど、アンタもありがとね?」
「「じゃ、バイバ〜イ」」
だが、間に合わない。身の回復よりも、銃弾を放つ方が、遥かに早く——
「待て待て待て待て待て〜〜い!!」
銃声が轟く……その寸前に。八代と狩谷の元に突如、無数の桃色の矢が、雨のように降り注ぐ。
矢は全て、AMX内部から放たれたものだった。
「!?」
嵐が吹き荒れる中、その中を突っ切るように、店内から一人の少女が駆け出してくる。両手に抱えているのは、なんと身体の何倍もの大きさがある電柱であり、それを振りかぶると、全力で八代と狩谷に向けて叩きつけたのだ。
「うわ!?私ってば、電柱持ってるんだけど!?ま、まあ、これだったら、流石に化け物だって、どんと来いでしょ!!」
「凄い……やっぱりバッジをつければ、私たちも参加者として、戦えるってことだったんだ!!」
電柱を持った恐ろしい少女に加え、さらに桃色の光を纏った巨大な弓を持った少女も店内から出てくる。矢を放ちながら現れ、その腕前は正直素人同然だったが、これはあくまでサイキック。軌道を意識することで向きを変えられ、打てば打つほど、矢は全て八代と狩谷に向かっていくのだ。
両腕を前にして、予期せぬ猛攻から身を守り続ける八代と狩谷は、その二人の少女を見て、顔色を変える。
「いぃぃたたたたっ!!!嘘でしょ!?生きてたの、アイツら!?」
「なんだって!?すっかり今回も、消滅したとばかり……まさか、バッジを手にしたノカ!?なんでダ、これまでにこんなことは一度も……」
余裕をこいていた狩谷の声に、焦りが混じり始める。それは、八代も同じだった。
銃は放たれることなく、時間もかなり稼げた。そのおかげで、ネクも徐々に身体の自由が効き始め、ゆっくりと身体を起こし、反撃の体勢を立てていく。
「よし……今なら、動ける!!」
「……くそ、こいつの力といい、アイツらの生存といい……今回、俺たちの計画があまりにも狂いすぎてる……!?危ない、ビツキ!!一旦退くぞ!!」
「分かってるわよ!!!……あぁ、もう!!なんで、この重要なループに限ってこんなことに!!」
何か意味深な発言を発しながら、八代と狩谷は、背中の羽を広げ、矢を掻いくぐりながら、空高くへと消えていった。
そして、それを確認した少女たちは、服からバッジを取り外すと、先程まで倒れていたネクの元へ、すぐに駆け寄っていく。
「消えた……でも、さっきのはなんだったんだ……?何が、起こって——」
状況をよく把握するためにも、ネクが横を向いた、その時。
「君、大丈夫!?あの人達に襲われてたけど、怪我とかしてない?」
ネクに、優しい声と同時に二つの手が伸ばされる。
今、目の前には、見知らぬ二人の少女の姿があった。
「お前達、は……?」
——まだ見たことのない、初めて出会った能力者。この物語を紡いできた少年と、別の物語を紡いでいた少女達。
二つが、今、交差する。
「私は、島村卯月!こっちの子は、友達の本田未央ちゃんだよ!」
「島村卯月、本田未央……二人とも、能力、者、なんだよな?」
「それって、参加者ってことだよね?うん。私たちも、その内の二人に選ばれたみたいなんだ。君は……ひょっとして、桜庭音操、君?」
桜庭音操、と名前を呼ばれ、新たなる参加者である島村卯月、本田未央を前に、ネクは驚く。
「お、俺の名前!?どうして……ってか、さっきは俺のこと、助けてくれたんだよな。ありがとう、助かったよ」
「あ、いやいや!さっきのは偶然で、バッジの使い方すら分からなかったし……だから、何事もなくて、本当に安心したよ〜っ!!」
胸に手を当て、大きく一呼吸する未央。それを見ていた卯月も、安堵で大きく息を吐く。
感謝した目の前の二人を見て、悪意は全くないことを確認したネク。すると、スクランブル交差点の方面から、二人の人影がこちらに近づいてくるのが見えた。ビルの屋上を次々と飛び移り、現れたのは、奇抜なファッション死神と、長身で柄の悪いオブジェ死神だった。
「ネク〜!!へーきーだったー!!!」
「チッ、一人で突っ込んで4にかけてんじゃねえ、このラジアン野郎が!」
「ココ、ミナミモト!!」
ネクは、自身のパートナーである二人の名前を叫ぶ。
その声を聞いたミナミモトとココは、超人的な跳躍で、ビルの屋上から直接ネクのいる地点へとダイブする。普通ならひとたまりもない高さでも、彼らは死神だ。
足からダイレクトに着地し、その場で軽く足首を回すと、すぐにネクに視線を向ける。
「ネク!!大丈夫だった?急に連絡が途切れて、何かあったのかって……」
「……おい!!しっかりしとけ、このロクデナシ!!パートナーが消えれば俺も消えるんだ!!邪魔になること、すんじゃねえ!!!」
「わ、悪い……」
「ったく……」
不慮の事故とはいえ、ミナミモトに怒鳴られ、謝るネク。その後ろにいた未央と卯月は、尋ねるように話しかけた。
「あの、ネク君、この人たちは?知り合いなのかな?」
「……ああ、俺のパートナーの新子々と南師猩。死神だけど、さっきの奴らとは違くて、俺たちの味方だ」
名前を言うと同時に、それぞれを紹介する。そこで、初めてネクの後ろの二人に気づいたミナミモトは、鋭い目つきで、未央と卯月を睨みつける。
「……おい、テメェら、何者だ。少しでも嘘をついてみろ、捕まえて、全てを吐き出させるまでだ」
「「えっ!?……ひ、ひえぇぇっ!!!!」」
(な、何を言ってるか、全然分からない!!!)
(こんな怖そうな人が、ね、ネク君の友達!?)
初対面の卯月と未央が、ミナミモトから怪しまれているのを見て、ネクは慌てて弁明する。
「ま、待ってくれ!!この二人はさっき、俺を助けてくれたんだ!バッジで、サイキックを使って、だ!!」
「でも私も、それで仲間だと決めつけるのは早いと思うよ。言ったでしょ?対抗できる能力者は、死神の私たちと参加者だったネク達だけなの。なのにこの二人は……って、本当にパートナー契約してんだけど!?」
卯月と未央のことを凝視していたココが、急に声量を上げて大きく叫ぶ。
そしてミナミモトを押し退けて、未央の肩を掴み、前後に大きく揺らしながら尋ねる。
「うおおっ!?」
「ちょっと!!この子たち、私たちと同じ参加者だよ!?なんで!?なんで私たち以外に、参加者が……」
「あばばばばばばば!!うぷ、な、なんか気持ち悪くなって……」
「み、未央ちゃん!?」
「……振りすぎだ。死にかけてるぞ」
「へ……あ、ごめん」
ココがパッと腕を離すと、未央はその場に手をついて座り込む。そんな未央の背中を、卯月は優しく撫でてさする。この様子を見る限り……敵、だと考えることは到底できない。
「……確かに、あのヨクトっぷりを見てると、俺まで気が抜けてくる。例え敵だとしても、これなら『299792458 m/s』だ」
「秒速299……光の速さで倒せる、ってことか。相変わらずの難解さだな」
「けっ、当然だ!!俺の美学を理解できる奴なんか、いるはずねぇ。てか、そんな奴今まで見たことねぇ!!」
「は、はぁ……」
勘違いか、若干感情的に聞こえなくもないミナミモトの言葉を流すネク。
そして、新たに現れた未央と卯月という謎を、明らかにするためにも、
「とりあえず、まずは羽狛さんに聞きに、ワイルドキャットに戻ろう。色々と考えるのはそれからだ」
「うん、そうだね。ネクも無事で何よりだし、この子たちにも聞きたいことあるし。アンタもそれでいい、ミナミモト?」
「俺は、構わねぇ。パートナーとして足引っ張んなきゃ、それで、な」
「はいはい、分かりましたよーだ、バーカっ!!!」
そういうと、ココは未央と卯月の腕を、その腕力で、逃げられないようにガッチリと掴む。
「「……へ?」」
腑抜けな声を出しても、もう遅い。
ネクはフリーフローで、ミナミモトとココは死神特有の超人的身体能力でビルを駆け上り、ビルを次々と経由して行く。
卯月と未央はココに腕を掴まれたまま、宙ぶらりんな状態で空を浮遊していた。
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
「いや、むりむりむりむりむりむりむりっ!!!!!!」
「お、落ち着いてよ!?そんなにバタバタ暴れてたら落っこちるよ!?」
「アイタタ……ん?」
上空、空高くを浮遊している謎の存在たちに、地上にいるシキが気づいた。
場所を移し、センター街入口付近で、数匹のカエルの禁断ノイズと戦闘を繰り広げていた二人。
どうにか勝利を収めた時、その頭上を通過していく、ピンク色のオーラを纏った少年、黒い格好の青年、カラフルな服を着た少女……そして、
「ぶーっ!!!!!」
思わず吹き出すシキ。咳き込んでいるシキを見て、側にいた凛は、優しく背中をさする。
「大丈夫、シキ!?あのカエル達に、何か仕込まれた?」
「いやいや!違くて、あれ!!未央ちゃんと卯月ちゃんでしょ!?」
シキが指差す方向、真上を見てみると、そこにはカラフル少女に抱えられ、今にも泣き出しそうになっている、未央と卯月がいた。
「はぁ!?な、なんであんなところに……てか、会う人みんな、なんで浮いてんの!?」
「見て、凛!!腕掴んでるあの子、背中に黒い羽があるよ!もしかしたらさっきの人の仲間かも!!」
「えっ、それヤバいじゃん!!」
少女は、未央と卯月を連れて立ち去っていく。向かった先の方向は……
「原宿……キャットストリートの方だよ!!急ごう、凛!!」
「う、うん!!」
センター街から駆け出すシキと凛。
大切な推しを守るためにも、二人の女子高生は命をかけて、渋谷の街を奔走するのだった。
ここから先、
ネク、ココ、ミナミモト、未央、卯月パート、
凛、シキパート
の二視点を行き来するようになっていきます。
これで、第一章の前半部が、終了しました。