すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect   作:デトネート

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超巨大ワニ型ノイズ、ディゾナンスゲーター襲来に、渋谷中の参加者達が、ここ一点に集おうとしていた。

ネク、ココ、ミナミモト、未央、卯月。
凛、シキ、ビイト。

ライムを守るためにも、今、総力戦が始まる。


#8 4日目c『アッパービート/スウィートライム』

 ノイズの巨体の体重に耐えられず、渋急ヘッズは直角に曲がり、5Aを含めた上階部だけが倒壊する。ノイズも支えを失うことで落下し、地上部へと身体を強く打ち付ける。上階部はノイズの身体の方に倒壊したため、更にノイズには巨大な瓦礫などが直撃した。硬いセメントが肉に当たることで鈍い音が響く。

 だが、ノイズはまるで効いてないと言わんばかりに、全く怯まず、ずっと口を開けて、建物の瓦礫を受け続けている。

「お、落ちる……うわぁぁぁぁぁ!!!!」

 それは建物が倒壊するのと同時に滑り落ちてくるライムを、確実に捕食し、始末するためだ。

 大きな口を広げて、鋭い牙を鳴らして、目を光らせて、もうじきありつける獲物を待ち続ける。そして、ついに崩れゆく建物の中から、ワンピースの裾のようなものが見えてくる。

「ぐす、っ……助、け……」

 ライムはもがき、滑り落ちる身体を、何とか柱にしがみついて止める。しかし、ただの一時凌ぎでしかなく、最初は身体が安定したものの、その柱も、結局は崩れ落ちてしまった。

 崩れる足場、しがみついていた柱、ライムが助かる方法は、もう何も残されていなかった。今度こそ、完全に宙に投げ飛ばされるライム。上に見えるのは清々しいほどの晴天の青空、下に見えるのは終わりのない暗闇。ふわりと、身体は自分の意思とは真逆に落ちていく。

 

 自分の終わりが来たと察した……絶望がライムの心を埋め尽くす刹那、それは起こった。

 

〈グガァァァァァァァァ!!!〉

 突如、口を開けていたはずのノイズが、大きく暴れ出す。よく見てみると、顔の左頬のあたりに何かが突き刺さっている。薄いピンク色に発色する銀色の細長い、ワイヤー。

 いったいどこから、何の、ために……恐怖を加速させる浮遊感に包まれ、失神したライムが最後に見たのは、

 

巨体を驚異的な力で吹き飛ばす、同じく薄いピンク色のオーラを纏った、橙色の髪の少年だった。

 

 

 

 

 

「す、すごい……」

 巨大ノイズの左頬にスライドダイブを喰らわせると、ノイズはその巨体を宙に浮かせ、渋急ヘッズの向かいのビルに突っ込む。ビルはその衝撃に耐えられるわけもなく、轟音を響かせながら一瞬で倒壊する。ノイズも無傷とは言えず、ジタバタ苦しみながらも、ひっくり返った身体を起こそうとしている。小さな一人間であるネクは、自分がこれを引き起こしたということに、驚きを隠せなかった。

「あの巨体をここまで……なんて力なんだ……!?」

 自分がしたことが信じられないと、ネクは自身の手を凝視する。なんの変哲もない、他人との違いもない、至って普通の人間の手。瞬間移動と同時にこの手で殴っただけで、あれほどのダメージを負わせることができるなんて、誰が信じられるだろう。

「うまく使いこなせれば……ん?」

 手を退けると、空から何かが落ちてくるのが見えた。目を瞑っているその少女らしき人物は、重力に引かれながら真下へ、ネクのいるもとへ落下していく。

 その少女に、ネクは心当たりがあった。金髪のボブショートヘアで、あの鐘のような首飾りを首からさげている。間違いなく彼女だった。

「えっ……ライム!?」

 まさか、倒壊したビルの中から落ちてくるとは思わなかったネクは、咄嗟にその場で待機するしか出来なかった。しかし、このままでは衝撃に耐えられず、ライムも自分も無事では済まなくなる。だからと言って、まだ扱いきれていないフリーフローでは、力を制御できない。

「くっ、何かクッションになるものがあれば……」

 エンタングルメントバッジを外し、急いで『サイコキネシスバッジ』を付けるが、周りには衝撃を和らげるものは何もなかった。尖った瓦礫、真っ二つに割れたベンチ、根元から力なく倒れている街路樹、胴体部分が歪んだ車。

 解決策が見つからない。もう選択の余地がなくなった時、ネクにとって予期せぬ出来事が起きた。

 

 

 

「……どりゃああああ!!!」

 

 

 

 ネクの上空を通過する、どこからともなく現れた黒いスケートボード。それに乗っている少年は、雄叫びを上げて妹の元へと向かっていく。正確に導かれるように、スケボーは空を飛ぶ。

 そして、兄であるその少年、ビイトは下から抱きかかえて、妹のライムを優しくお姫様抱っこする。地上へ無事に着地すると、そのままビイトはすぐ側にいた友達の元へ駆け寄った。

「ネク!!大丈夫か!!」

「……ビイト!?どうしてお前が……記憶は大丈夫なのか?」

「ああ、そこら辺は自分でなんとかしたぜ!!ライムを助けるためにここに来たら、まさかのお前までいて……マジで驚いたぜ……!!」

 ビイトは、ネクを見て、歯を見せて笑う。その表情は、渋谷が変わってしまう前のあの頃と、全く変わっていなかった。

 予期していなかった、自身の友達のビイトとの再会。あの最後の日から、どれほど時間が経ったのかは分からない。でもこの変わってしまった渋谷の中で、何も変わっていない友達を前にして、ネクには胸に込み上げてくるものがあった。

「くっ……」

「……なんだよ、もしかしてお前泣いてんのか?」

「は、はっ?べ、別に、泣いてなん、か……」

「は、ははは……っ」

 震えてくる声を押し殺して、ビイトは平常心を保とうとするも、

「くそっ……なんだよ……俺まで、泣けてきちまうじゃねえか…っ——!」

 友達思いで涙もろい彼には、堪えきれるわけがなく、ついには顔を上にあげながら涙を流す。

 お互いにもう二度と会えないと思っていた、大切な友達との再会。

 あの時と変わらないものに出会えた二人の心は、これまでないほどの安堵で満たされていた。

「ビイト、ライム……無事で、よかった。みんな、消えちゃったのかって、思ってたから……また会えて、ホッとした」

 デジャヴが起こる、二年前のあの光景。当時たった一人だけだった親友を、不幸な事故で失ったあの日。友達がいることがどれほど楽しいことか、その友達を失うことがどれほど苦しいことか。自分に一緒にいた、あの凛の愛おしい笑顔が頭に浮かぶ。

「わりぃ、ホントに悪かった…!!あん時、俺がもっと慎重になってれば、お前はこんな思いしなかったかもしれねぇのに……ホントのホントにすまねえ!!」

 ビイトは胸のうちから押し寄せる悔しさを自分自身にぶつけ、ネクに謝る。

「……うおぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「……ははっ、この感じ、なんか懐かしいな」

 そして、互いに再会を喜ぶ二人の元へ。

 

 

 

「ビイトくーん!!」

「おーい!!ライムちゃん、ちゃんと助けられた?」

 

 

 

「おい!!このヘクト……いや、ヘクパスカル!!生きてるか!!」

「……ちょ、ジタバタしないで大人しくしててよ!!落ちたら死ぬよ!?」

「ひょぇぇっ!?も、もっとこう、あんま怖くない運び方って——」

「あ、ココちゃん!!あれって、ネク君じゃないかな?」

 

 

 

 千鳥足会館方面から凛たちが走って、オルガン坂方面からはココ達が空を飛び、向かってくる。ここには渋急ヘッズの残骸がそこら中に散らばっていて、さらに渋急ヘッズの元々の位置が曲がり角だということもあり、互いに互いのことを認知することはできなかった。

 徐々にネクとビイトに近づいてくる二つのグループ。ネクはココたちに、ビイトは凛たちに気がつき、もうまもなくその瞬間が訪れようとしていた。

 その時、

〈……グァァァァァァァァァァァァッ!!!!!〉

「……!?危ない、ビイト!!」

「うぉっ!?な、なんだ!?」

 渋急ヘッズ向かいのビルの瓦礫の下から、巨大ノイズが反撃としてネクとビイト目掛けて飛び込んでくる。ネクは、即座にフリーフローサイキックのサイコキネシスで、ライムを抱えて両手が塞がっているビイトを吹き飛ばし、自身は『テレポート』を使って攻撃を避けた。

 

 

 その後、ネクはビイトとライムをオルガン坂方面に移動させ、そこでココや未央たちと合流する。

「ネク!!大丈夫、怪我はない?」

「ああ、俺は平気だ。ビイトは、どこか怪我してないか?」

「……えっ……お、おう、俺も平気だぜ……って、どーなってんだこれ!?」

 目の前の光景に、思わず言葉を失いかけるビイト。ネクの周りに集まっているのは、未央、卯月、ピンクまみれの謎の料理人……その三人は顔も名前も知らなかったが、残りの二人には見覚えがあった。

 

 それも、かつて強力な死神として自分たちの前に立ちはだかった敵として。

 

 ビイトは警戒心を強めて、ネクに警告する。

「ね、ネク!!なんでこんな死神なんかと一緒にいるんだよ?それもコイツらに、お前何回も殺されかけてんだぞ!?ゼッタイあぶねぇに決まってんだろうが!!」

「……それは分かってる。でも、ココとミナミモトは今の俺のパートナーだ。一応、信じられる理由もある」

 パートナーという単語を聞き、ビイトは思わず抱えているライムを落としかける。

「あぁ?……だあぁぁあ!?パートナーって、こ、コイツらがお前の!?それに今って……やっぱ、ここはUGなのか?」

「いや、違うぜ。この次元は正真正銘、紛れもなくRGだ。一度死んだコイツや俺たち死神はともかく、一度も死んだことのない奴だってここにいる」

 ネクへの質問の答えが、まさかのミナミモトから帰ってきたことで、ビイトは思わずタジタジとしてしまう。

「へ……そ、そうなの、か。あ、ありが、とな……?」

「うーん、未央ちゃんや卯月ちゃんに続いて、ビイトまでも……まだ契約はしてないみたいだけど、どうして記憶が元どおりに——」

「あー、ちょっと待ってよ!」

 ネク、ココ、ミナミモト、ビイトの話の輪の中に入り込み、挙手をして、全員を注目させる未央。

「話し合うのも大事だと思うけど、まずは、あいつをどうにかした方がいいんじゃないかな?なんか、結構凄いことになってるっぽいし……」

 未央は坂の下の方で、咆哮をあげながら『何か』と戦っている巨大ノイズを指差す。ノイズは御構い無しに、ありとあらゆる建物を破壊し、この渋谷中を次々と壊していった。これ以上、街に被害を及ばせるわけにはいかない。

「えーっとよぉ……まあ、アレだ。俺は、お前が無事ならそれでいいんだ。お前って頑固なところあるしな」

「別に、俺だって考えなしで動いてる訳じゃない。それに、未央の言う通り、今はあいつが先だ」

 

(は、話に着いていけない……というか、なんで私までもここに?ただの一般人ですけど……」

 この時、この場で唯一、何も事情を知らない料理人。渋谷ビガリィから少しでも早く地上へと降りるために掴まりはしたもの、まさかその掴まったレールが元凶のもとへと続いていただなんて。

 あまりにマヌケな話で、自分で自分をぶっ叩いてやりたい……と、今の考えを、無意識に綺麗サッパリと口に出していた。

「あっ…」

 

「す、すいません、巻き込んで……頼む、ビイト。お前はこの人とライムを連れて、渋谷駅の方に向かえ。あのノイズは俺たち五人でどうにかする。みんな、これでいいか?」

 ネクの若干、強要を含めた呼びかけに、ココ、ミナミモト、未央、卯月、ビイトは、場の流れを理解して頷く。どちらにせよ、今の戦力の状態などを考えても、この選択は正しい。

 そして、ネクたちは、自身の何十倍もの大きさの敵との、無謀な戦いへと臨むのだった。

 

 

「……あれ?ビイト君、誰かと一緒にいるよ?ライムちゃんは腕に抱えられてるし……誰だろう?」

 顔を向けるビイト、の隣にいる謎の少年に、シキは視線を向ける。紫色のヘッドフォンを頭ではなく、『首にかけている』その少年は、こちら側ではなく、真逆の反対側を見ていたため、その後ろ姿しか見ることはできなかった。

「うーん、また私も知らない人が出てきた……ほんと、今日はこれまでとは少し違うね。シキの知らない友達にあったり、あのライムちゃんだったり、『ネク』ってよくわかんない人も出てきたし、

 

 

……何より、こんなおかしいくらい大きな化け物がいるしね」

 

 

 話の最中に、けたたましい怒号を上げながら、ビルの瓦礫を吹き飛ばし、凛とシキの前に現れたノイズ。自分たちと同じくらいの腕に、巨大な鋭い爪を携えた、恐ろしく巨大なワニだった。

「さ、どうしよっかシキ。あの視線、多分私たちマークつけられてるみたいだよ」

「でっ……デカァァァァァァァァァァァッ!?いやいや、無理でしょ、あんなの!?こんなバカでかい怪物、無理だって!!」

 早く急いで逃げよう。シキは凛を引っ張ってそう言い、慌てて来た道を戻ろうとする。しかし、

「あだぁぁぁっ!!!!」

 何もなかったはずの空間で、シキはどういうわけか額をぶつけて、その場で悶絶する。驚いた凛が、手を伸ばすと、

「ん?何かある……見えない壁?」

 一見すると、何もないただの道でも、明らかに透明な壁がある。こちらへ詰め寄る化け物、後ろには強固な壁。

 そう、凛たちは罠に嵌められた。この猛獣の檻の中へと、閉じ込められたのだ。

「いったぁ……これってもしかして、閉じ込められたってこと!?」

「戦うしかないみたい……だったら、もうこの際!!ダメ元で、一か八か賭けてみよう!!!」

 そう言うと凛は、咄嗟に『パイロキネシスバッジ』を取り出し、手の平を目の前に出して、ノイズの手足部分を自然発火させる。

 すると、意外にも炎が効くのか、ノイズは苦しむような声を上げる。

「やった、効いてる!!この調子で、どんどん追撃行くよ!!」

「うう……わ、分かったよ、凛!!やればいいんでしょやれば!!もう、私だって容赦しないんだから!!」

 やけくそになりながらも、シキはにゃんタンを前に、構えの体制をとる。凛は、次に『ショックウェイブバッジ』を付ける。このサイキックは自身の手が鋭い爪のような刃になり、それで敵に近づいて切り裂くという近接攻撃タイプのサイキック。

 いくつか試しているうちに、これが一番使いやすかったと、凛はこのサイキックを気に入っている。

「炎が通るなら、剣だって効くでしょ!近づいて攻撃するから、私が食べられないよう、援護よろしくね」

「任せてっ!そっちも、食べられるなんてドジ踏まないでよね?」

「もちろん、誰かさんとは違ってね」

「ちょ、誰のこと言ってるの!?」

 会話を最小限で済ませ、凛は再びノイズへの攻撃を開始する。しかし、ノイズもじっとしている訳じゃない。巨大な口を開けて、喉の奥から赤色に光る火球を、凛目掛けて放つ。

 喰らえば消し炭になるほどの巨大火球を、凛は身体を反らせながら、ギリギリで避ける。服の裾が火球を擦り、思わず冷や汗をかきながらも、凛はそのままノイズの頭部へと突っ込んでいく。

「やっば、デカっ……」

 うろたえながらも、自分の家の花屋くらいの頭部に、下から上にスラッシュ攻撃を行う。だが、当たりどころによるのか、ノイズは先ほどと違って怯まず、凛はカウンターを喰らってしまう。

「……あ、あれ?あんまり効いてな……うわっ!!!」

「言ったそばから……!!にゃんタン!お願い!!」

 ノイズが首を振り上げ、凛の身体をなぎ払った時、シキの意思によって肥大化したにゃんタンが、吹き飛ぶ凛をキャッチする。にゃんタンはクッションとなって、平たい紙切れのように潰れてしまうが、

「まだまだっ!!にゃんタン、もっともっといけ〜!!」

 鼓舞するよう、その場で右腕を突き上げると、それに応じるようににゃんタンは自然と元に膨らむ。そしてノイズの周りを走り回ることで、注意を凛から逸らす。

「ほら!今の内だよ、凛!」

「うん!ありがとう、シキ!」

 知能は高くないのか。そのことに勘付いた凛は、大きな瓦礫の後ろにしゃがみこみ、影から全力で攻撃を仕掛ける。ショックウェイブバッジを外し、『アポーツバッジ』、『エナジーショットバッジ』、『ピアシングピラーバッジ』と連続で付け替え、遠距離タイプのバッジを中心にあらゆるサイキックを同時に放つ。

「手数で攻めたら、どうだ!!」

 アポーツで岩石を眼球へと落とし、ピアシングピラーでノイズの手足の下に氷柱を出して貫き、エナジーショットの散乱弾を全身に打ち込む。それら全ての攻撃を喰らったノイズは、流石にたまることなく、明らかな呻き声をあげる。

〈……ァァァァァァァ!!!!〉

「おおっ!効いてる効いてる!!」

「いいじゃん、結構いい感じ!!」

「サイキックの使い方、やっぱ上手いよね……凛ってサイキックの才能あるのかも?」

「ふふっ、まあ、それほどでもね?シキのサポートもバッチリだし、私たちに怖いものなんかないでしょ?」

「あはは、それ、めっちゃ言えてる!」

「うん!」

 そうして、凛とシキは、つい気を緩ませてよそ見をする。そのせいで、身体の向きも徐々に変わっていき、攻撃の軌道が少しずつズレていってしまった。

 その時、

 

 

「うおあっ!?な、なにこのエネルギー弾?今、どっからこれ出たの?」

 

 

 ノイズを迎え撃つべく駆けつけた、ココ、ミナミモト、ネク、未央、卯月の五人。だが直後、急に飛んできた数十発もの弾が、ココたちに襲いかかってきたのだ。

「これは、バッジからのサイキック……か?おい、ヘク!お前は、こんな下手なサイキック使う奴だったのか?」

「お、俺じゃない……てか、その呼び方やめろ!!呼ぶならはっきりネクって言え!!」

「バッジのサイキックって……もしかして、まだ私たちの他にも参加者が……?」

「この『のいず』って化け物と、真っ正面から戦ってるってこと?すごい、肝据わってるなぁ……」

 ミナミモト、ネク、卯月、未央は今、戦闘を繰り広げる、『もう一組』の存在がいる可能性に気づく。ノイズがあまりにも巨大すぎるために視認することは出来ないが、今はそれより、自分達も戦闘態勢に入らなければならない。

「とにかく、俺たちも早くいくぞ!」

 その言葉を皮切りに、ココは銃を構えてディゾナンスノイズを生み出し、ミナミモトは自身の身体をノイズ化させ、未央は『パッションストライクバッジ』をつけて近くの電柱を抱え、卯月は『キュートディスタンスバッジ』をつけて両手に大きなピンクの弓を出現させる。

「気抜くなよ、ミナミモト、ココ!!」

「ハッ!そんなこと、言われなくても分かってるぜ!!」

「任せてよ!こんなくっだらない嫌がらせ、すぐに終わらせてやるんだから!!」

 二人からの頼もしい言葉を聞き、ネクはその場から飛び出す。フリーフロー状態になり、ビルの瓦礫を蹴ることでスーパージャンプを行い、ネクの身体はノイズの背中へと飛んでいく。

 そして、ネクは空中からフリーフロー状態でのアポーツを発動する。ノイズの背中のウロコの、最も脆い場所を正確に把握し、そこを集中的に岩石で狙い撃ちする。威力も、通常よりも遥かに高い。

「うお、容赦ないくらい粉々……でも、これで防御が崩れたら、バカでっかくても勝てるはず!!」

「よし、こっからは俺たちの出番だ!!さっさとぶっ潰して、あの死神もろとも、虚数にしてやるぜ!!」

 ウロコを砕き、柔らかな皮膚部分が露出すると、まずはミナミモトが完全ノイズ化、『レオカンタス』というノイズへと変化して、そこに飛びかかる。攻撃的で凶暴な爪攻撃や蹴り攻撃をこれでもかとお見舞いし、その目は獣の目そのものだった。

「フハハハハハ!!!甘い、甘すぎるぜ、このインフィニティ!!あのパスタなんかとは比べ物になんねえくらいの、激マズな甘さだ!!」

「ちょっと!!自分だけ陣取ってたら攻撃できないじゃん!ほら、どいたどいた〜っ!!」

 ミナミモトがノイズを攻撃し続けていると、次にココがノイズの背中に乗り込み、ココが召喚した三体のディゾナンスノイズ、『ミング』、『カエル』、『コウモリ』がミナミモトを背中から引きずり下ろす。

「なッ!?おい、この逆行列が!!弱いザコは引っ込んでろ!!」

「はぁ!?アンタ、今、私のこと馬鹿にしたなぁ!!」

 ミナミモトに腹を立てたココは、銃の弾丸を、通常の黒色のピストル弾から『紫色』のマグナム弾へと変え、一旦、背中を離れて宙に身を浮かべる。片目を瞑って銃をしっかりと構え、紫の刺々しいウロコの中に見える、一点のみの弱点に狙いを定める。

「むっき〜っ……ちっちゃいからって、死神舐めたらどうなるか、思い知らせてやるんだから!」

 ココが使用したのは、『ディゾナンスノイズのソウル』を練りこんだ特別なマグナム弾。自身が力を込めて反応させるほど、その弾丸はより強力になる。

「いっ、けぇぇぇぇっ!!!!」

〈……!?……ガァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!〉

 全神経を銃に集中させ、ココは重い引き金を引く。甲高い銃声とともに、鈍い音をたてながら皮膚を突き破り、体内に侵入する。だが、全力攻撃にしては少し地味だ。

「ふははははっ!!!時間をかけたマイクロパスカルなんか、ただのゴミだ!!俺がやってや……」

「うっさいってば!!まだ終わりじゃないし、こっからが……私の本気だよ!!」

 ココはそう言うと、放った弾丸をさらに操り、宿っていた力を作用させる。

 次の瞬間、弾丸は大地を揺らすほどの衝撃を放ち、体内で大爆発を起こした。その威力は言うまでもなく、身体中のウロコを吹き飛ばされたノイズは、立つこともままならないくらいに衰弱し、その巨体を地にぶつけた。

「……は、ははっ……ぎ、逆行列、だな……」

「ふっふ〜ん!!ちっちゃくて可愛らしいからって、見かけで判断したら、痛い目、見るよ?」

「……すげえな」

 ココが脅すように笑うと、流石のミナミモトも引きつった声を出す。明らかに覇気がなく、あのミナミモトを力でねじ伏せ、黙らせたココを見て、驚きを隠しきれないネク。

 そして、この三人が繰り広げていた高次元な戦いを見ていた未央と卯月は、思わず圧巻して、一歩も動けないままだった。

「ねえ、しまむー……私たち、入り込む隙なくない?」

「う、うん……って、それじゃダメだよ、未央ちゃん!?私たちも、やれるだけやろう!!」

 しかし、三人の戦いを見て鼓舞された卯月は、その場を駆け出してネク、ココ、ミナミモトが攻撃しているところに助太刀しにいく。未央も続いて、跳び箱を飛ぶようにノイズの背中に乗り込み、ジャンプしながら電柱を全力で振り下ろし、卯月は軌道修正を使い、地上からとにかく多くの矢を射る。

「どりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

「はっ、よっ、はっ……えい!えい!!えぇぇぇい!!!」

 未央の全力の一撃は見事に決まり、黄の円形の波動を出しながら、大ダメージを与える。卯月の連続射撃も同じく決まり、ピンクの円形の波動を出しながら、グサグサとノイズに突き刺さる。

「はぁ、はぁ……結構撃ったけど、効いてるかな?」

「よぉし!このまま行けば、絶対に勝て——」

 明らかに会心の手応えを感じ、背中に乗ったままガッツポーズを掲げる未央。ネク、ココ、ミナミモト、卯月は、未央のその姿を見て、一堂に自らの勝利を確信した。その時、

 

 

 

〈…グルルッ…!!!!!!!!!〉

 

 

 

 急にノイズの目が見開かれ、突如ノイズは本能的な回転攻撃を行う。尻尾で薙ぎ払うように身体を一回転させ、急な不意打ちのその攻撃に、この場にいた全員は、大きく後方へ吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

「ぐあぁぁっ!!!」

「きゃあぁっ!!!」

 先程から始まった、巨大ノイズへの謎の集中砲火。後方部での岩石や謎の凶悪な叫び声、突然に起こった大爆発など奇妙な出来事が相次ぎ、凛とシキは悶絶としているノイズを前に、唖然としながら突っ立っていた。

 しかし、先程から気が緩みがちだった二人は、ノイズのその不意打ちに対応できず、勢いよく尻尾で薙ぎ払われて吹き飛ばされ、ビルの壁に背中を叩きつけられてしまう。

「がっ……あ、が……」

「げほっげほっ!!しまった、油断しちゃ……!?凛!大丈夫!?」

 にゃんタンが自動的にクッションになってくれたため、シキはなんとか痛みを軽減出来た。

 だが、凛はもろに硬い衝撃を受けてしまい、歯を食いしばりながら壁にもたれかかっていた。

「うっ……し……シ、キ……?」

 しかも、背中だけではなく後頭部も強く打ち付けてしまったのか、凛は意識が朦朧とし始め、会話すらまともに出来ないほどの状態まで追い込まれていた。頭がゆらゆらと不安定に傾き、視界がぐらりと大きく揺れて歪む。

「そんな……い、嫌だ、凛……嫌だよ!!!」

 親友がここまで苦しむ姿など、見たこともなかった。目の前の光景は、シキの心の不安を急激に増幅させていく。慌てて肩を揺さぶって、起こそうとするが、そんなことをしても無駄なのは明白だった。

 虚ろになっていき、瞼を閉ざしていく凛。その瞳に写っているのは、初めての親友だった、シキという名の少女。共に、渋谷を過ごした思い出の日々が、走馬灯の様に流れる。

 

 ……いつでも、シキは自分と一緒にいた。初めて会った日からずっと、今でもすぐ側にいてくれて、自分のことを呼んでる……やっぱり、自分にとっての親友はただ一人だけ。

 目の前のデザイナーを夢見てる、女の子。

 私が唯一心を動かされた、この———

 

 消えゆく意識の中、頭の中に浮かぶその姿。

 

 だが、いつの間にか、そこに親友の姿はなく、代わりにまた別の誰かがいた。

 

 

 その誰かは二人組で、ボヤけていてよく見えないが……茶髪と黒髪の少女たちであり、こちらをみて柔らかく微笑みかけてくる。

 

 

[へっへっへ〜、し〜ぶりん!!]

[えへへ、凛ちゃん!!]

(誰……いや、知ってる……だって二人は、私の……)

 

 

 しかし、答え合わせまでまもないうちに、凛の意識は、そこで途絶えてしまった。

 

 

 

 

 

 ノイズの重い一撃を喰らい、瀕死状態になっているのはこちらも同じだった。ネク、ココ、ミナミモト、未央、卯月は巨体に衝突されたことで、非常に大きなダメージを受けてしまい、全員うつ伏せになって倒れ込んでいた。身体が痛み、誰一人まともにサイキックも発動できない。ミナミモトもノイズから元の姿へと戻ってしまい、絶望的な状況だった。

「いったっ……結構全力でぶっ叩いたはずなのに、それでも、まだ、動けるなんて……」

「尻尾に、当たった、だけで……やっぱり、長期戦になればなるほどこっちが不利だよ……!」

「くそっ……これは、流石に、俺にもキツイ、な……」

「やっば……アイツに煽られて、完全に、力使いすぎた……」

「おい……なにか、何かないのか……?この状況を打開する……っ!?そうだ!!」

 痛みを堪えながら、ネクはあるバッジを取り出す。しかし、再び動き始めたノイズが、真っ先に狙いを定めたのはネクだった。距離を詰め、逃れられない獲物をなぶり殺そうとする。

「危ない!!ネク、早く避けて!!」

「これでもない……これでも、これでも……っ!?あった!!」

 ノイズの巨体が、細い身体にのしかかろうとしたその時、ネクは咄嗟に手の中に閉じ込めた切り札、『ハーモナイザーバッジ』をノイズに向ける。

 その瞬間、真っ白な無地のハーモナイザーバッジの表面に、ピンク色のファンキーなドクロマークと銀色のライオンのシルエットが刻まれ、ノイズの身体は波動によって弾き返された。

「長期戦が不利なら、これで一気に決めるぞ!!ココ、ミナミモト、『合わせる』んだ!!」

「それって……えっ、例の必殺技のこと!?いや、合わせるって、何を……」

「『ハートカード』、『ファクターカード』、『ファクターハートカード』……とにかくやってみるぞ。そこまで複雑じゃないはずだぜ」

 ミナミモトに連れられ、ココもネクも、目を閉じて強力な必殺技サイキック、『マッシュアップ』のファクターハートカードを行う。

 ミニゲームの形を模した、れっきとした連携であり、意識の統合に不可欠なものだ。

 

 障壁となるカードを次々と消し、その奥にあるハートマークのカードを取るというものだ。

 障壁のカードには、因数分解の不完全な式(x^2+3x+2=(x+1))が刻まれ、手持ちにある不完全な式((x+2))が刻まれた銃のカードを組み合わせ、完全な式とすることでペアになってカードが消える。

 一応、高校一年生であるネクは因数分解を知っており、本人はそれなりに理解は出来てるつもりのようでスラスラとカードを揃えていく。

「うっわぁ、全然なにやってるか分かんないんだけど……」

「何?こ、こんなものが、難しいだと……お前、数学を舐めるなよ。中三からでもやり直してこい」

 

 

 

「……うるさい」

 

 

 

 ネクと同じ意識下に入り込んでいたココ、ミナミモト。その時、ココは、明らかに冷めたような声で、ミナミモトに吐き捨てた。

 前の豹変ぶりといい、今のこれといい、ミナミモトはココから再び感じた『違和感』に心を掻きむしられる。

「な、なあ、この問題教えてくれないか、ココ、ミナミモト!!」

「へ……あ、ああ!!ごめんね、ネク!!私、ついぼーっとしちゃってて……」

「……解はこのカードだ。ほら、早く組み合わせて消せ」

 意識の中で、ミナミモトがカードを選び、ネクに教える。その反応の素っ気なさに疑問を感じながらも、言われるがままにカードを組み合わせて消し、奥にあるハートマークのカードを取る。

「な、何だよ急に……まあいいや。これで、準備は整ったぞ」

 引っかかることはあるが、目を開けて視界を意識下から元の世界へと戻す。同時にココとミナミモトも目を開き、三人は目の前の巨大ノイズへと、視線を向ける。

「一体、何が始まるのかな?」

「分からない……でも、何か行けそうな気がしてくるよ!!頑張れ〜!!ねっくん!!ココッペ!!ミナっち!!」

 卯月と未央はこの一撃に懸けて、全力でネクたちを応援する。

 一歩、ネクが初めに歩を進めると、刹那に三人の姿がその場から消え、瞬間的にノイズの遥か上空へと移動した。

「凛……うぐっ、ぐす……ぇ?何、あれ……」

 目を開けない凛を担ぎ、物陰へと移っていたシキは、ノイズの頭上に浮かぶ三人の少年少女に気づく。その少年たちはピンク色と銀色ののオーラを纏っており、その姿は、昨日見かけた未央と卯月を誘拐した者たちと同じだった。

「あの人たち……よくも、よくも、凛を……っ!!」

 強く拳を握りしめ、にゃんタンを操って三人に攻撃を仕掛けようとするシキ。だが、

「……あれ……化け物に、攻撃してくれてる……?」

 その少年たちは、シキ達に追い打ちをかけるのではなく、ノイズに向けて、高速の突進攻撃を繰り出し始めた。黒い青年はノイズ化させた腕で、ヘッドフォンを首にかけた少年は鋭い刃に変化した腕で、派手な格好の少女は拳銃を持った腕で、ノイズの身体に直進し、その身体を貫く。

 離れては貫き、また離れてはまた貫き、発砲、引っ掻き、切り刻み。三方向からの三人分の超強力な攻撃の数々で、ノイズの生命力を限りなくゼロに近づけていく。

「いっけーっ!!!!」

「決めちゃえ〜っ!!!!」

 卯月、未央の言葉を合図に、ネク、ココ、ミナミモトは更に突進攻撃の速度を上げていく。やがて目で捉えられなくなるほどの速さまで加速して、ノイズの身体に開く穴の数が、次々と増えていく。

「終わりだぁぁ!!!」

「喰らえぇぇ!!」

「虚数の大海原で溺れ死ねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

 

 

 

 穴という穴が繋がり、一つの大きな空洞となる。そうして、ノイズの身体は無へと変わった。断末魔を轟かせる間も与えられずに消し炭にされ、大量のソウルの粒子となって消滅すた。

 

 

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