すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
これまでとは違うやけに素直な彼は、今から数年前に封じ込められた、ある少年の姿を彷彿とさせた。
「……おおっ、ついに……ついに見つけたぞ!!」
宇田川町のCYCOレコード。アイドルの棚に佇み、数あるCDからとある一枚を手に取る青年がいた。指の隙間から見えるのは初回限定版の文字。
青年の意外過ぎる一面を見た四人は、思わずその場で目を見開くのだった。
「あいつ……まさか、アイドル好きだったのか!?」
「う、ウソでしょっ!?!?……あ、危なっ、衝撃が凄すぎて、腰抜けそうになった……」
「……ミナミモト君!?あ、アイドルが、好き、だったんだ……」
「あっ、だから私たちの名前も始めから知ってたんだ!!……えへへ、なんかさ、知ってくれてる人がいるって思うと、嬉しくなっちゃうよね!!」
今日、五人は羽狛からのメールで目を覚ました。内容は、【今日は思いっきり羽を伸ばして休め】と、どういうわけか休息を取れというものだった。理由を尋ねても複雑怪奇で説明が難しいと言われ、とりあえずネク達は、素直にその言葉に甘えることにした。
「てっきり、こういう時って悔しいとか、そんなこと思うのかと思った……ほら、芸能界ってそういうの激しそうだし……思わないもん、なのか?」
「え、ちょっと、ネク!?……そういうのはさ、営業スマイルというか暗黙の了解的なものというか……結構闇深いと思うから!?あんまし関わんない方が……」
「ん〜。まあ、本音を言えばちょっと羨ましいって思うことはあるけどね。実際、私が初めてステージに立ったときにあったから、そういうの」
出会ってまだ二日しか経っていないが、既に彼らは友達と言える関係までになっていた。それに伴い、未央もまた一歩踏み込んだ話をするようになる。
「それっていわゆる知名度で、か?」
「うん。『先輩』さんのステージのバックで踊ったときに比べて、お客さんが全然少なくてね。まあ、無名中の無名だったから当たり前なんだけどさ、分かっててもすっごい落ち込んだの、今でも覚えてる。でも、あれから私たちも頑張って、自分達なりに積み重ねてきたんだけど……改変された今じゃ、それも全部消えちゃったんだよ」
「そうか……」
「……その先輩ちゃんは、この時間の渋谷にはいなかったの?」
「うん……『結果的』にはそういうことになるけど……」
そう、少し卯月が言いどもる。結果的に、とは一体どういうことだろう?と、ネクが尋ねようとするも、ココが先にその話をふった。
「てか、そもそも卯月と未央の所属してる事務所って、今の渋谷では別の名前の事務所に変わってたんでしょ?そりゃ、比べようもないだろうし……」
そう言うのも、実は昨日のレストランでの会話中に出てきた話題で、未央と卯月の現在所属している事務所のことがあった。
時間改変前とはまるで異なり、所属しているアイドルも、プロデューサーもみんなどこか雰囲気が違っている。そして、その中の一人にライムがいたらしい。
一方、前の事務所、『346プロダクション』に関することは、何故か未央も卯月も、それについては一切触れることがなかった。
「これも全部インバージョンの……」
既に分かり切っているが、ココが言おうとすると、
「いいや。他のことならそうでも、『このズレ』に関しては、そうだとは言い切れねえ」
意外にも、話の中に突如としてミナミモトが割り込んでくる。片手には黄色の袋を持ち、心なしかいつもよりもテンションが高い気がする。
「うおっ!!お前いつの間に?」
「ニュージェネレーションズの話もそうだが、もしも時間改変前にそれが存在していたとすれば、そもそも俺が知らねえはずがねえ。
案外、こういうのには少し詳しくてな。今の話を聞いてる限り、ニュージェネレーションズはマイナーなユニットじゃない、それなら余計に矛盾を感じるぜ」
「うーん……まあ、アレだよね。結局は、この渋谷の時間を元に戻してみなきゃ分からないってことだよね?二人は私たちと同じで『元の渋谷の記憶』を持ってる。てことは、別に間違ってることはないはずだし。やることは特に変わらない、でしょ?」
「もちろんだよ。時間が書き換えられて、元の記憶や生活を失った人だって大勢いる……私たちがどうにかしないと!!ねっくんや二人みたいに上手くサイキックは使えないけど、出来ることだったら、何でもするよ!ねっ、しまむー!」
「うん、私も未央ちゃんと同じ気持ちだよ!何が起きてるかは分からないけど……渋谷を元に戻して、『変わっちゃったみんな』も、『なくなった事務所』も……凛ちゃんも、みんなが笑顔を取り戻せるように!!
『島村卯月、頑張ります』……ってね!!」
未央と卯月は笑顔を浮かべながらそう言う。その真の笑顔はとても勇ましく、見ている側のネクとココにも自然と勇気が湧いてくる。
「おおっ!なんともまあ頼もしいことで……うちの頼りない男どもとは大違いだわ〜?あははっ!!」
「はぁ?コイツはまだしも、なんで俺まで……ん?」
「笑顔、か……ハハッ、よし、やってみるか!!」
「「「「へっ?」」」」
「んんっ……南師猩!!!頑張りまぁぁぁぁぁぁす!!!!!」
「「「「……!?!?!?」」」」
瞬間、この場の空気が一気に凍りつく。普段の彼を知っている四人は、そのギャップに喉を引きつり、思わず盛大に咳き込む。
周囲の客達はその突然の奇行を前に、目を逸らしたり、場を足早に去ったりと、様々な影響が見られる。しかし、大声でガッツポーズをしながら叫んだ当の本人は、
「……フッ、フハハハハハハハッ!!!これで、俺も卯月や未央みたいなアイドルになれる、なれるぞぉぉぉぉぉっ!!」
全く気にしてなかった。何故か、そこだけはいつも通りだった。
「ちょ、ちょっとアンタ!?昨日も急に訳わかんないこと言って、友達友達って駄々こねてたけど、いよいよ頭おかしく……って、え?今、なんて?」
「だから……って、そういえばまだ言ってなかったな」
「俺は……親父との因縁から、何か『頂点』に立つ必要があった。そのためにも、この街の頂点であるコンポーザーの座を狙っていたが……気が変わった。
俺は今……アイドルのトップを目指そうとしているんだ!!!!!!!」
「え……えぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!み、みみみ、ミナミモト君っ!!!?」
「ま、まさかの、なりたい方だったのぉぉぉぉぉっ!?」
「へ……マジで言ってるの、アンタ!?正気!?」
「マジでか!?すげえな、お前!?……てか、親父?」
突然のカミングアウトに、次々と驚きの声を上げる中、ネクは親父という言葉に引っかかりを覚える。他の三人も同じだが、自分の親の話は、まだ誰もしたことがない。
特にこんな奴の親だ。同じく余程のぶっ飛びを見せるような奴に違いない……そう思っていたところ、
「ああ、親父のことか……お前、『らあめんどん』って店知ってるか?」
「らあめん……ああ、あそこか。いつもビイトとシキと一緒に食いに行ってた。そこの店主のケンさんとは、ちょっと縁が……えっ」
ケンさん。彼は以前、すぐ隣にできた新しいラーメン屋との競争に負けそうになり、買収の危機に晒されていた際に、死神ゲーム中のネクと出会った店主だ。数々の試行錯誤を繰り返し、大量の微妙な美味さの変わり種ラーメンを作り、隣のラーメン屋のやり方である『映えるラーメン』で同じく対抗しようとするも、ネクと関わったことも相まり、最後は自分の芯の内にあった『とびきり美味い、いつも通りのラーメン』に行き着き、その信念を貫いた結果功を成し、見事競争に打ち勝つことに成功したの
だった。
ネクの知ってる限りでは、ケンさんはとても真っ直ぐすぎる、強引に曲がろうとしても必ず失敗する人物だ。間違っても、決してこんな異端児が生まれるような遺伝子は持っていない……は、ず。
「もしかして……」
「知り合いだったのか……俺の親父と」
「お前と、あのケンさんが……血縁だと!?」
頭の中で二人を並べてみる。自分が見た限り合致する箇所は一つも見当たらない。何をどうすればこの男が誕生するのだろうか、まるで不思議だった。
「そうだ。だが、あんまいい覚えはねえ」
「……?どうして、ミナっち?」
「んなこと、知るか。アイツはな、昔からラーメンラーメンって言って、そればかりだった。でも、ラーメンで人を『笑顔』にって、そんなブレない信念はどこか誇らしかった……でも結局!!アイツはそれを自分でぶち壊したんだ!!そん時に……心に穴が空いたように、何かが、冷めた」
そこから、ミナミモトはため息をつき、他の四人にある昔話を始める。
息子であるミナミモトしか知らない、そしてミナミモトが現在の姿に成り果てるまでの、ある家庭の親子の話だ。
『ただいまー』
玄関のドアを開ける。開けるとは言っても、そのドアには今どきの家には大抵あるドアノブがなく、開けるにはリビングの大きな窓のように横にスライドさせなければならない。
ガラガラと年季のこもった音がする。正直、古臭くてダサい。この家、というか店の配置的にどうしても道行く人に自分の姿が映ってしまうのが、なんとも歯がゆい。
[——あれ、あの子って『土井猩』くんだよね?]
[うんうん、知ってる知ってる〜!!中学で成績ぶっちぎりでトップのショウ君でしょ〜!すごいよね、あの子!テストオール95点越えとか、どうやったらできるんだろ〜……]
遠くから自分のことを噂する声が聞こえる。どうやら悪く言っていることはなく、こないだの期末テストの結果を称えてくれているらしい。本当に難しかったと言われている今回の数学のテストで満点を取ったということはあっという間に全校生徒の耳に入り、いつのまにか超優等生というレッテルを得ていた。
しかし、あのテストのどこが難しかったのだろう。もてはやされるのが不思議で仕方ない。
『なんて、考えても意味ないか』
いつものことだ。そう思って足早に家の中に入る。すると、真っ先に鼻腔に届くのは、食欲を掻き立てる美味しそうな匂い。
テスト休み期間だったため、昼で帰ってきた自分はまだ飯を食べていなかった。
『父さーん、腹減ったー』
『おっ!帰ったか、ショウ!!よーし待ってろ、今とびっきりのもん食わしてやるからな……』
慣れた手つきで、雷紋のついた器を取り出し、そこに湯切りした麺を入れ、程よく脂の浮いたスープをドボン。自分の大好きなチャーシューをこれでもかと乗せ、そこに大好きなメンマと大好きなネギと大好きなコーン……全てが大好きな、父さんの極上の一杯。美しすぎる見た目、漂ってくるだけで胃袋を掴む香り。
間違いない。絶対美味い。
目の前に出されたそれに、欲望のままに食いつく。麺を箸で掴み、口いっぱいに頬張り、既に幸せに満ちているそこに肉厚なチャーシューと、シャキシャキとしたネギを追加でぶち込む。コリコリとしたメンマ、しっとりとした大ボスののり、甘さがアクセントのコーン、そして、旨味の塊としか言い表せないスープ。
幸せに幸せを積み重ねていき、思春期で硬くなった表情が自然と柔らかくなっていく。
『はぁ〜〜っ、美味い!!マジ最高だよ、父さん!!』
『はっはっは!そうだろそうだろ!!お前の腹ん中の虫の期待に応えられるよう、全力を注いで作ったスペシャルラーメンだ!メンマとチャーシューも多めにしといたぞ!!』
『うおおっ!!やっぱ分かってるなぁ、父さん!!』
『当たり前だ!どんだけお客さんが喜んで、どんだけ笑顔を与えられるか。俺は一杯一杯、それをひたすらに考えて全力で作る!……まあ、最近はお前くらいだけどな?はははっ!』
今は土曜日の昼どき。しかしこの店の中にいるのは、店主であるケンとその息子であるショウしかいなかった。他に誰も席に座らない。いくつもカウンターに置いてあるコショウもニンニクの箱も割り箸の入った筒も何一つ動かない。
ただ一人の少年が麺をすする音のみが、店の中に反響している。
『……ごめんな』
『ん?何か言った父さん?』
『いや……なんでもねえ!はっはっ!』
よく見ると、ショウの学生服は上下ともにズタボロだった。
一杯一杯全力で。そんな素晴らしい言葉の裏には現実的な課題があった……お金がなかったのだ。
昼どきなのにも関わらず、今のところショウを除けば客は0。昨日も一昨日も……数十年前の開店当初に比べて、客の数は随分と減った。
試行錯誤を重ね、味はむしろさらに美味しくなってるものの、肝心の売上には繋がらない。近年の若者のニーズを把握すること、ラーメンで生き残るためには、正にそれが必要だった。
しかし、そのニーズはケンのプライドを正面から粉々に叩き潰すものだった。味より見た目、平凡より派手、満足度よりも自慢。
『……』
悩んだ。悩んで悩み続け、その内にも金は減っていき、もう底が見え始め、ラーメンを作ることすらも危うくなってきた。
もう、どうしようもなかった。
『……おい、親父』
『……なんだ、ショウ』
更に年月が過ぎ、プライドと金欠の板挟みになり、ケンはラーメンへの意欲を失くしていった。毎日営業だった営業日が、週三日になってしまい、今まで毎日作っていた、一日中ずっと煮込み続ける自慢のスープは、ほんの数十分だけ鍋を見て、後は放ったらかしにするなど、とにかく適当になっていった。
そうして、今までのラーメンを作ることは減り、変わり種ラーメンを大量に作るようになった。それで、なんとか変わり種目当ての客を引き寄せることは出来たが、それはあくまで一時的なもの。
誰の心にも残らないし響かない、一瞬の話題だけで終わってしまう、流行の大波のごく一部に成り下がっただけに過ぎなかった。それに何より、
『……アンタのラーメンが食べたい。作ってくれ』
『俺のラーメンならそこにもう作って置いてる。名付けて、新作のマシュマロラーメンだ!!味見してみて、息子のお前から是非とも改善点や感想を……』
『……ふざけてんじゃ……ねえぞ!!!このゴミクソラジアンがぁぁぁぁぁっ!!!!!!』
ショウはこの有様に、失望以外の色を覚えることがなかった。ショウ自体、元々自分の家庭が貧困に含まれることも、それに拍車をかけていたのが父のラーメンへの拘りだということも分かっていた。しかし、ショウは今まで一度もそのことを責めたことはなかった。
自分の父親が常日頃から思い続けていたこと、『人を笑顔にする』、その信念を心の底から尊敬し、応援していたからだ。
ひたすらにラーメンと笑顔のことを考えていたあの父、でもその父はもういない。
目の前にいるのは、金に目がくらみ、自らの手で自らに泥を塗り、上辺だけの見せ物と成り果てた醜悪な男だけだ。
『お前には心底呆れさせられた……もう、顔も見たくねえ』
『し、ショウ!?どこへ行く気だ!!』
『うるせえ……こんなクソみてえな臭い漂わせる店なんか……とっとと、ぶっ潰れちまえばいいんだ』
『なっ……お前、なんてことを!!』
ショウは悔しかった。かつてはあんなにも大好きだった父親……母親を早くに亡くしてから、ずっと男手一つで育ててきてくれた彼と、幼い頃からの思い出だった『ラーメン』で対立してしまうなんて。
やるせなさを滲ませるため、ショウは暴言を吐き続ける。
『うるせえ!!とにかく、俺はテメェの前から消えてえんだよ、今すぐにな……!!』
『お前……俺が何のために、こんなに苦しみながら頑張ってるのか分かってるのか!!全部、お前のためだ、全部!!俺にとってお前は、母さんの……』
『何が、お前のためだ……!!何も分かってねえくせに、偉そうなことぬかしてんじゃねぇ!!』
『ぬかしてるのはどっちだ!!なんとかして金を稼いで、お前を大学に入れて、飯だってなんとか食わしてやってるんだ!!こんだけ必死こいてやって……なんで……なんでお前は、そんな……』
ぶるぶると肩を震えさせるケン。鼻をすするような音も聞こえ、ショウは余計に胸の奥のモヤモヤが膨れ上がる。もうダメだ、ここまできたらもう引き返せない、元のあの日々には戻れない。喪失感、焦燥感、悪感、哀感……気付いた時、ミナミモトは店を、父親だった男のいる我が家を出ていた。
——そうしてこの頃から、彼は人を信頼しなくなった。それによって、訳の分からない言葉や、自分だけが分かる表現を使うようになり、自分から人を遠ざけてきた。人生を賭けて信じていたものに、意図も容易く裏切られたためだ。
『土井』という名字を捨て、たまたま拾った『南師』という名を新たに名乗り、元々普通の気さくな少年だった彼、土井醒は消えた。もう二度と、あの男の元へは戻らない。あの男に関わらずとも、自分は自分だけを信じ、強く人ゴミの中で生きぬいてやる。そう決めたのだが……
時は進み、死神となってゲームで一度敗北したところを、見知らぬ派手な死神娘に復活させられ、そこから抜け出した後のこと。
数日後、渋谷を放浪していたミナミモトは空に浮かんでいた赤いシンボルマークからの眩しい光に飲まれる。思わず腕で光を凌ぐと、気づけばミナミモトは、何故かあのらあめんどんの前にいた。絶対に来ることのない、そう思っていた因縁の場所へ。
店を睨みつけ、じっと店の前に立っている。そうしていると、
『南師猩……いや、土井猩が本当の名前だったね』
自分の正面に映るものを遮るようにして、突然一人の少女が現れた。金髪の、黒い人形を持つ制服姿の謎の少女。
土井猩、少女にそう言われ、過去の古傷に熱した棒鉄を押し付けられたミナミモトは、込み上がる苛立ちを抑えられずに、少女の制服の胸ぐらを掴む。
『テメェ……ゼタ気に入らねぇな。初対面で堂々と喧嘩売るとは……覚悟できてんだろうな?』
『覚悟?そんなことどうでもいいし、別に喧嘩だって売ってない。私はただ、あなたに伝えにきただけ』
『……知らせる?なんのことだ』
妙に謎めいた言葉に舌打ちをし、少女を掴む腕を乱暴に放す。少女はズレたヘッドフォンを耳の位置に戻し、制服についたシワを手で払うようにして伸ばす。
『そっか、やっぱ荒れてるか……まあいいや。じゃあ、その知らせたいことについてね』
『ここのラーメン屋さん、あと『七日』で潰れるんだって』
「……そこで俺は、ソイツから色んなことを聞いた——」
『お父さんの店は本当は潰れていない。ある死神によって過去が書き換えられ、それが影響を与えた結果、こうなった』
『その未来を変えたいなら、新子々、桜庭音操、彼らの力を借りなければならない』
『お父さんなしでも生きていける、そう示したかったからあなたはコンポーザーを目指していた。そうでしょ?
でも、何度も失敗してるコンポーザー以外でも、トップに立つ方法はある。例えばそう……あなたが大好きなアイドル、もね』
父親の話題や、さらに妙に自分に詳しい話をする少女を、ミナミモトはその時、完全に無視することができなかった。
こうしてミナミモトは、一日目でネクとココの元に現れ、力を貸すという体で協力することになったのだった。いくら、父親が憎たらしいとしても、性格がひん曲がったとしても、ミナミモトは最後には父親を完全に捨てることはできなかった。
渋谷を元に戻して、父親がラーメン屋を経営し、客に笑顔を届ける日をもう一度見たいと望んで。
(ケンさんって、昔から試行錯誤してたのか。結果的に元のラーメンで競争に勝てたから良かったけど、その勝てなかった場合が、今の時間の世界……)
「信じてあげたんだね、お父さんのこと……きっと、大丈夫だよ。ラーメンで人を幸せに、笑顔にできるように。それにミナミモト君も幸せに、ね」
「へっ……全く、余計なお世話ってもんだぜ」
そう笑って吐き捨てるも、ミナミモトの表情は明るかった。父親譲りの優しく素直な性格、その面影が残っていることを昨日卯月に見透かされ……でもそのことが、少しだけ嬉しくもあったのだ。
「きっと、お父さんもミナっちと仲直りしたいと思ってるはずだよ。元の時間に戻して……お父さんのラーメンも心も、絶対に助けないとね!!」
「ふーん……ちょっと意外だったな。てっきりアンタって生まれた時からあんなんだと思ってたけど……マトモな時期もあったんだね?」
「当たり前だ。逆にお前は何を言ってるんだ?マトモな時期って……俺がふざけてるとでも言うのか?」
「そりゃそーでしょうが!?逆に、アンタのどこを見てマトモって言えばいいのよ!?」
「ったく、これだからヘクトパスカルは……」
「ヘクトパスカルはお前だぁぁぁぁっ!!!!」
今まで誰にも話したことがなかったこの話。この話をするきっかけになったのは、昨日の卯月によって、自分の過去にも『笑顔』が絡んでいたことを思い出したためだ。
父譲りの真っ直ぐだった性格が曲がってからは、ミナミモトは不可解な行動をしたり、他人には理解できないことを言ったりすることが多くなった。でもそれは、彼自身が他人をゴミとしか見ることがなく、『信頼』を築こうとしていなかったからだ。
彼らを友達として初めて見たことにより、ミナミモトは昨日と同じ、不思議な感覚に陥っていた。どこか重荷が取れたような、もう自分で自分を縛り付ける必要がない、そんな開放感に。
「おりゃ!!このっ、このっ!!」
「うわっ、いってぇ!!おまっ、じゃれつきで人殺す気か!?バカ野郎!!」
「やーい!このヘクトバカスル〜!!!」
「誰がだっ!!!」
「あっはっは!!!」
あの凶悪だった笑みが、日を越すごとに徐々に穏やかな笑みへと変わっていくのが、見てわかる。そして今、ミナミモトは『南師猩』ではなく『土井猩』の面影を少しだけ取り戻したのだった。
次回もネクパートのみの進行になってます。
完全に心を開いてくれたミナミモトが、次はパートナーであるもう一人に対し、笑顔を与えるようになります。