すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
新たなるパートナーである、『渋谷凛』との出会いを果たしたネク。
失った記憶が、未央と卯月以外の事柄まで回復しつつある凛。
目覚めたこの渋谷で、思い出の地である『346プロダクション』で、凛の忘れていた過去で。
一体、何が起こっていたのか。
#15 プロローグ『Twister/Cinderella』
「……ん」
目を覚ますと、そこはビルとビルの間の薄暗い路地だった。長い硬直から解放されて、身体はもう自由が利き、身にかかる重力がいつもより重く感じた。
「俺……なんで、ここに……」
横を見ると、そこにはちょうど起きたばかりの……あの、渋谷凛がいた。未央と卯月がずっと探していた、そしてシキとずっと行動を共にしていた彼女だ。なまった肩を鳴らしながら身体を伸ばし、口に手を当て、小さくあくびをしている。
その姿は、やはり『アイツ』にそっくりだった。髪の色も、蒼い瞳も、違うのは自分と同じく背が伸びたくらいで、そのまま二年成長させたような……名前も同じと言い、どうしてもそっくりさんだとは思えない。
自然と、心が、喜んでいるのが分かる。
あの日から凍っていた時間が再び動き出したような、そんな風に錯覚してしまう。
「ふわぁ……ん?どうしたの?そんなにこっち見て」
「え、あ、あ、いやなんでも……」
「?……あ、そういえば、君ってネク君だよね?シキがそう言ってたよ」
久々……すぎて変に緊張してしまい、少し素っ気なく接してしまうも、凛は気にせずにネクに話を続ける。
当たり前だ。凛にとって、ネクは知らない、ついさっき会ったばかりの他人なのだから。
「そっ、か。シキと、友達だったんだもんな。羽狛さんとヨシュアから、俺もお前のこと聞いた。
……渋谷凛って、言うん、だったよな?俺は桜庭音操。初めまして、だな」
「うん、初めまして、ネク君」
「ああ、初めまして……」
彼女の言動全てに、複雑な気分になった。自分のことをネクと呼び捨てで呼び、軽い冗談を交えて馴れ馴れしく触れ合う彼女は、どこへ行ってしまったのだろうか。
変な奴だって思われないように、とにかく初めてを装い……嬉しいような、もの寂しいような、そんな今のネクには、凛に不信感を与えるようなことしか出来なかった。
(?……なんだか、変なの)
——枯れた花は、今まさに咲き誇る花を、地に塗れながら、妬ましく見上げることしか叶わない。
かつて咲いていた自分の姿も、誰かからすればそのように見えていたのかもしれない。競争とは、生き残るということはそういうことなのだとは知っていた。
でも、心の中では、そんなことにはならないだろうと安心しきっていた。自分はそうならない、自分は大丈夫、そんな呑気で穏やかだった日々に……あの輝けるステージに、もう一度戻れたらいいのに。
かつてのシンデレラは、そのように思うしかなかった。
[……ワァァァァァ!!!!!!!]
ここは、 渋谷駅ハチ公前の脇にあるイベントステージ。そこでは、今話題の三人組超新星アイドルユニット『ミッシングアイズ』が、新曲完成記念のミニライブを開催していた。
長いこと天下に居座っていた346(ミシロ)プロダクションが低落し、その頂点の座を奪い取った4253(シニガミ)プロダクションはその人気を次々と伸ばしていき、今や渋谷を超え、全国でその名前を知らない者はいない。
[キャー!!!アオンちゃん、こっち向いてー!!!]
[ちょ!!君たち横入りしないで——]
[あぁぁ!!もう、イライラすんだよ!!!前見えねぇだろうが!!浅いニワカ共はとっとと引っ込みやがれ!!!!]
[きゃっ!な、なに……きゃあっ!!]
[ウゼェんだよ、このブスが!!あぁ!?俺のアオンちゃんへの思いを邪魔してんじゃねえ!!!]
[おいおいおい……ガバガバすぎやしねぇか、このイベント……]
[……だなぁ。シニプロの責任者も全然見かけねえし。あー、346全盛期の頃の方が、こういう細かいとこ含めて、楽しめたんだけどなぁ〜]
[それな〜。ま、今更って感じはあるけど。アオンちゃんに、ラプトちゃんに、ヴァニラちゃん、あの三人の魅力も全然負けてねぇし、切り替えてくしかねーんじゃない?]
[はいはい。は〜、もどかしー……]
この日、既に三回目の公演にも関わらず、人数の多さは朝早くから減ることなく、むしろ増え続けていた。注目を集める上で絶好のプロデュースではあるものの、駅周辺には彼女たちを一目見ようと人が集まり、大変混雑を極めていた。
今ここに集まっているのは、マナーもルールもすったもんだの、ただの流行好きがほとんどだ。皆SNSなどで流れに乗るために、学校で同級生や友達と話を合わせるために、ただ346プロから流れるように次を探しただけで、自分の芯が何もない……でも、人って案外そういうものなのかもしれない。
今ではすっかり、自分たちのことなど誰も話題にあげなくなった。まるで元々いなかったかのように、今ではどこも4253プロのことばかりだ。
よくブームが過ぎるとか言うけど、これもそういうことなのかもしれない。自分もつい何気なく日常でそんなことを言っていたが、いざ自分がそうなると……悲しいし、悔しい。結局は、付いてきてくれてたファンの人たちも、一途なわけじゃなくて、ただその時の気分で一緒にいただけなんだって。
永遠なんてないんだ。特にこの業界の、自分たちのような『アイドル』はそう。
つぼみのまま枯れる花も多くある中、やっと満開に咲くことができたとしても、それがいつまでもつだろうか。腐って、別の誰かが光って、腐って、その光がまた移って、また腐って……永遠に繰り返す。
腐れば、あとはただ踏み荒らされる地になるだけ。光など当たらない。所詮は過ぎた、過去の者に過ぎないから。
“今日、この渋谷の中心に、数ヶ月行方不明だった渋谷凛が現れる。”
自分たちの元に、そのような内容の手紙が数時間前に送られてきた。送り主として封筒に記されていた名前は、その行方不明になっていた『渋谷凛』本人。
どう考えてもただのイタズラだ。
手紙自体も、女子寮の入口に捨てられたように落ちていて、指定した場所が大盛況の他人のステージであるなど、よっぽど性格の悪い奴だろう。
……でも、自分はその手紙に従うほかなかった。少しでも、たった少しでも友達を取り戻せる可能性があるのなら……ほぼ全てを失った自分には、ただ縋り付くしか出来なかった。
[おいおい!!誰か警備とか呼べよ—— ]
[ちょっと!!今誰かに触られたんだけど——]
「……まだかな、凛」
[だいたい、お前がこんなとこ来るからこんなことに……]
[あーもう!!現場スタッフとかバカバカしくてやってられないわ!!なんで私がこんなこと……]
[さっさとどけよ!!駅まで押し寄せて階段塞いでんじゃねえ!!いい加減にしろ!!]
[っ!!触ってんじゃねえ!!キメエんだよ、この変態ヤロウ!!]
「……えと、ところでさ、今二人きりだけど、シキ達はどこに行っちゃったのかな?君の方も、向こうの人たちと一緒じゃないし」
少し経って、ぎこちなさは残るものの、何とか話せるくらいにはなった、ネクと凛。
「確かにな。一体、寝てる間に何が起こったんだ?」
ここで目を覚ます前、自分たちは渋谷の未来を賭けたゲームをしていたはずだ。そして、そのゲームに犠牲を出すことなく勝利し、インバージョンも終息したことで、全ては丸く終わったと、そう思っていた。
「まだ……渋谷は元通りになってない、ってことなのかな?」
「……でも、こうして渋谷は存続してる。もうインバージョンの危機からは、街は解放されてるはずだ。
……俺たちの考えすぎ、とかかも」
今の自分たちは、何故ここにいるのかまるで覚えてない。交差点で、仲間たちと、みんなと団欒していたはずなのに、気づいたらここにいた。寝ぼけてここまで歩いてきてしまった……なんて、酔っ払いみたいなことは流石にないだろう。自分たちはお互い、まだ高校生だ。
「電話……ココとミナミモトは知らないけど、シキやビイトの番号なら、俺知ってる」
「そうだね。私も未央と卯月の番号知ってるし、まずどこにいるか確認してみよ」
まずは仲間達に連絡を。そう言い、ネクはガラケーの電話帳から、凛はスマホのアイコンからそれぞれに電話をかけようとする。
しかし、二人の電話は誰にも繋がらなかった。シキにも、ビイトにも、ライムにも、未央にも、卯月にも、まるで圏外から電話をかけているような、間違った番号にずっとかけているような。
《お掛けになった電話番号は、現在使われておりません。お掛けになった電話番号は、現在電波の届かないところに、お掛けになった電話をお呼びしましたが、お出になりませ——》
不気味なことに、同じ番号に電話をかけたはずが、いつもその文言が異なる。ガラケーもスマホも、みんなの居場所を突き止める上で何の役にも立たなかった。
「参ったな、誰も出ないなんて……そっちはどうだ?二人から連絡は?」
「……ダメだね。ずっとかけてるけど、さっきから変なメッセージばかり。戦いのせいで、電話壊れちゃったかな?」
電話が壊れた……ここで、ネクはある提案を思いつく。
「……だったら、試しに他の誰かにかけてみたらどうだ?その携帯の仕組みはよく分かんないけど……ほら、そこに書いてある『北条加蓮』とか」
「……え、っ?ほう、じょ、う……?」
「北条、か、れ……『加蓮』?……っ、そう、だ……思い出した」
いつの間にか、自身の連絡先に復活していた『北条加蓮』の文字。そして、凛は導かれるよう、そしてどこか慌ただしく加蓮という人物に電話をかけて——
繋がった電話の先から聞こえた声により、ネクと凛は、急いで裏路地の外に出た。
[り、凛!?本当に、凛なの!?ホントに、イタズラじゃ、なく、て……ほんとに、ホントに……見つかってくれて、よかった……っ!!]
『109』というロゴの入ったビル。
絶句した。とても作り物とは思えないほど、正確に作られた『104』の偽物……いいや、本物に。
[私も、ちひろさんも、侑芽さんも……ずっと心配してたんだよ……]
『マルイ』……丸と線で構成された、こんなロゴ、見たことない。いつもカクカクした『カドイ』を見ていた分、違和感しか感じない。
[とにかく、まずは合流しよう!!凛、渋谷駅のハチ公までこれる?私はそこにいるから、来れるんだったら……っ!?えっ、な、何、コイツら!?]
渋谷の街の構成はほとんど変わっていない。ただ、元々あったビルがなくなってたり、なかったビルが建っていたり、どこか妙に違和感のある名前の店が見えたりと、不思議な世界が目前に広がっていた。
間違いない、まだ渋谷は、自分たちの物語は、終わってはいない。
実際、目の前に広がっている渋谷駅前の状況を見れば、それはすぐに分かる。
「いっ……きゃぁぁぁっ!!痛い、痛いっ!!!」
突如現れたカエル型ノイズが、ある一人の少女を襲っていたのだ。
ベージュ色のコートで全身を覆い隠し、サングラスをかけ、つば広帽子を被っている彼女は、必死で攻撃を逃れようと、蹴り上げたりして、出来る限りの抵抗をしている。
先ほどまで電話をしていた、あの少女を……自分の友達の加蓮を、助けなければ。
「契約は……もう出来てるみたい」
「俺たちの参加者バッジが光ってる……また戦うってことか」
街もひどく混乱している。化け物が現れたと叫び、その場から逃げる一般人。人が四散し、駅から離れる中、荒れ果てたステージ周辺に残ったのは、三人の少年少女だけだった。
「どういうことかは分からないけど……今はやるしかない!!」
凛。
「ああ!!」
ネク。
「痛っ!!まさか、みんなもコイツらに……!?その声、もしかして……」
そして、加蓮。
——これは、舞踏会から追放されたシンデレラ達と数人の魔法使いによる、死神への反逆の物語である。
今回から、第二章が始まります。
346プロダクションが消えた後の、謎の渋谷にて、強引にパートナー契約を結ばされたネクと凛。
そして、ステージの前で凛を待っていた、新たなる人物である北条加蓮。
第一章がすばせか側メインの物語だとすると、第二章はデレマス側メインの物語になってます。
キャラクター欄も更新されました。