すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect   作:デトネート

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『109』が存在する、何処かがおかしい渋谷。
その中で、有無を言わせずに次々と物事が起こり、ネクと凛、そして加蓮に襲いかかる。
何故、現世で人生を送っているはずの、RGにいるはずのアイドルが、ノイズに襲われることになったのか。

346プロダクションに起こった過去の出来事は……死神と、何か関連があるのか。


#16 1日目昼 『346-345+1』

 桜庭音操、渋谷凛。二人はこうして、今日初めて共闘することとなった。

 互いにシンクロの相性が最も良く、どちらも複数のサイキックを扱うことが出来る、実は理論上最強のポテンシャルを秘めているコンビ。

 

 

 

 二人同じくパイロキネシスバッジを付け、手から炎を出す。炎と炎がぶつかり、その攻撃は、加蓮を襲っていたカエル型ノイズの群れを、一瞬で消し炭にした。そのノイズは、通常の赤いノイズだったが、まるで溶けるように瞬殺されたことに、誰よりも彼ら自身が驚いていた。

「えっ……私、こんな、強かった、っけ……」

「どんな疑問だよ、それ……でも、確かにサイキックが使いやすい……今までにない程に」

 攻撃が完全に一つに混ざり合い、身体から自然に流れるように、自由にサイキックを出せる。

 やはり……彼女はただの赤の他人じゃない。渋谷凛とは、名前だけじゃない、何か特別な繋がりがあるに違いない。

 訳も分からない、そんな根拠も何もない理論を立てているうちに、気づけば加蓮を襲っていたノイズは、完全に全滅していた。

「え……り、凛、だよね?今の、やったのって……」

 長いこと留守にしていて、久々に帰ってきたと思ったら、手から炎を出せるようになっていた。誰が見ても、驚くに決まってる。

 化け物が消えた後も、つい口が開いたままだった加蓮の元に、凛、ネクが走り寄る。

「加蓮!!大丈夫だった?」

「えっ!?……ええと、へ、平気平気。ちょっとびっくりしただけだから」

「……?というか、今のは何なの?なんでノイズが加蓮を——」

「おい!!また次が来たぞ!!」

 間髪を入れずに、ノイズの第二波が現れ、再び加蓮に襲いかかろうとする。しかも、今度は先ほどよりも数が多く途切れないため、パイロキネシスではラチがあかない。

「くそ……ならこれで!!お、おい、耳塞いどけよ!!」

「えっ?どうして……」

 ネクは加蓮にそう言うと、『ストリートライブバッジ』を身につけ、さらにフリーフロー状態になり、フリーフローサイキックを発動する。

「……うおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 突如この場に鳴り響く爆音が、容赦なくノイズに襲いかかる。ノイズ達を一斉に相手取り、爆音の衝撃でダメージを与える。

 だが、被害を受けたのはノイズだけではなかった。

「う……うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!?こ、鼓膜破れるってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」

 完全にとばっちりだが、加蓮は慌てて耳を塞ぎ、爆音から身を守る。残念ながら間に合わなかったと、ネクは軽く頭を抱えた。

「う、うるっさ、っ……な、何なの、あれ?」

 ストリートライブによって、出現した巨大なスピーカーを見て、思わずツッコむ凛。炎を放ったり、今度は物質を創造したり、明らかに普通の人間じゃないサイキッカーを見て、加蓮も驚愕することしかできない。

〈グギャァァォァァァ……!!〉

「まあ、いいや。私も、私でっ!!」

 凛も耳栓代わりにイヤホンをつけながらショックウェイブを携え、新たなる力であるオーバーロードを使用する。その身に蒼いオーラを宿し、ネクが爆音のショックを与えた敵を、余すことなく切り刻む。

「はぁっ!!」

〈……ッ……ォ!!!!!!!〉

 電柱を軸に回転して『ターンカッター』や、壁や地面を蹴り飛ばして『ショックダイブ』を放ち、二人のフリーフローで次々と敵が消えていく。だがいくら潰しても、自然発生している以上、このまま戦い続けても終わりが来ない。

「……ね、ねぇ!!戦うんじゃなくて、まずは逃げようよ!!多分、そろそろ『二人』も来てくれる頃だし……着いてきて、凛!!それから……」

「ネクだ。確かにこのままじゃ埒が開かない、何か手があるのか?」

 ジリ貧になる前に、今は逃げた方が得策だ。そうして加蓮に連れられ、ネクと凛は、渋谷駅からセンター街の方へと走り出す。当然ノイズも追いかけてくるが、フリーフローの力を持ったネクと、同じくフリーフローの力を持った凛には敵わない。

 フリーフローによって変化した、紫の刃、蒼の刃を振り下ろし、二人で個別に敵を切り刻み、邪魔するノイズ達を、それぞれがそれぞれで蹴散らす。

 加蓮を防衛しつつ、別々で異次元の戦闘を見せるネク、凛。そうして、センター街を抜けた先には、

 

「加蓮ちゃーーーーーん!!!!!!」

 

 待っていたように、そこには大きくも古びたワゴン車が一台止まっていた。その車窓から顔を出した、緑の事務服を着た女性は、加蓮に呼びかける。

「そこら中すごい渋滞になってて、何かおかしいって思ったけど、やっぱり、前もって待ってて正解だったみたいですね……っ、邪魔を、しないで!!」

 すぐに周囲をノイズに囲まれるものの、運転手であるその女性は、バックと前進を繰り返して、器用に車輪に巻き込んでノイズを潰す。

「……ちひろさん!!プロデューサー!!流石、良い場所で待っててくれたんだね!!」

 その時、ノイズの晴れた道へと、ワゴン車から飛び降りてくる一人の人物……上下がスーツで、ストライブYシャツを下に着た、いかにも社会人のような風貌の男性が、加蓮を出迎えた。

 

 でもネク、それに凛にも、その男が誰かまるで分からない。

 

「……加蓮さん!!それに凛さんも……さあ、早く乗ってください!!あっ、あなたも一緒に!!」

「プロ、デュー……サー?いや、だ、誰?」

「お、俺も?……てか、アンタは一体?」

「細かい話は後です!!さあ、早く!!」

 半ば強引に腕を引っ張り、急いで加蓮、凛、ネクを後部座席に押し込み、自分も助手席に座る男性。

「よし、これで全員乗りました!!時間稼ぎの方、ありがとうございます、ちひろさん!!さあ、出発しましょう!!」

「ええ、分かりました、侑芽さん……みんな、しっかり捕まっててくださいね!!!」

 侑芽、と男性の名前を呼ぶと、女性は満を辞してアクセルに足をかけ、力いっぱいに踏みしめて車を出し、ノイズ達を一気に轢いて強行突破を決行する。駅前の混乱により、混雑を極めていた渋谷。それは車道も同じであり、至る所で渋滞が起きていたが、

「……みんなの送り迎えも出来るよう、日々全てのルートを把握してる私には、こんなのへっちゃらですよ!!」

 普通は使わないような脇道なども駆使して、器用な運転により、ノイズの追跡を退けることに成功した女性。そして、安全を確認した後に、窓に黒いネットをかけ、念には念を込めながらも……まずは、一人を救出し、自分たちの隠れ家へと帰還したのであった。

 

 

 

 

 

「……ここは」

 渋谷駅から五分ほど車を走らせたところにある、超巨大なビル。本館に別館も、広場や噴水までもあり、渋谷周りのビル群らに比べても、明らかにレベルの凄さを漂わせるこのエリア。まるで、小さな町を見ているような、それほどの場所。

 ネク達が降ろされたのはそこ……から少し離れたところにある、女子寮の方だった。レンガの壁の、それなりの大きさの建物で、看板には『346プロダクション女子寮』と明確に記載がある。

 先ほどまで漂っていたノイズの気配は全くなく、ここにあるのはこのワゴン車一台と、ただ静かで空虚な空間だけだった。まるで、時間が止まっているかのように、隅から隅まで静寂で埋め尽くされている。

 

 それは、この寮の中も同じだった。

 

 謎の男性と女性に連れられて入ったその寮。初めに目に入るのは、団欒などで使われたであろう広間のような場所。そこにあるのは小さなテレビに、机を挟んで向かい合わせの、二つのオレンジ色のソファ。

 部屋の端の方にある小さな丸い机の上には、電気がついたままのパソコンが一台ファンを鳴らしながら置かれていた。

 

「っしょ、っと……ここまでくればもう一安心ですね。あの変な生き物は、もう追って来ませんよ」

 座るように言われ、ネクと凛、加蓮と侑芽とちひろはそれぞれソファに腰をかける。その後、ちひろが安心を確認しながら、それぞれの手元に、麦茶を注いだコップを置く。

「お疲れ様です、侑芽さん。それに、加蓮ちゃんも」

 侑芽はそれをありがたそうに受け取り、加蓮もまたそれを受け取り、一口お茶を流し込んだ。

「……?」

 凛はこの状況から、明らかに異常なことが起こっていることを察する。

 

 

 

 そもそも、この男は一体誰だろう?

 

 

 

 さっき、加蓮からプロデューサーと呼ばれていたこの男。しかし、凛が見たことのある『プロデューサー』は、明らかにこの男とは別の姿をしていたはずだ。

 再生が進んでいる記憶の中と比べて、背は縮んでいて、眼鏡をつけていて……でも、どこか『不器用さ』があるような、そんな雰囲気は似ているかもしれない。

……それに、ここは女子寮。本来ならここで生活をしている『アイドル』達がいるはず。でも、誰かがいる気配はまるでなく、あまりにも静かすぎる。

 考えながら、薄暗い部屋の中でテーブルに置かれた麦茶を飲む。ゴクゴクと喉を鳴らし、先ほどまでの戦いの分の、水分を補給する。

 と、その時……

「ん?……これ、って」

 

 

 

 ネクも同じく水分を取り、それと同時に話を始めようとする。

「……あの、さっきは助けてくれてありがとうございました。えっと、あなた達は——」

 だが、

「聞きたいのは、むしろこっちの方です。単刀直入にお伺いしますが……貴方は、何者なんですか?」

 遮るように、凛たちのプロデューサーを名乗る男、侑芽はネクに言う。

「……えっ?」

「彼女……渋谷凛さんが『数ヵ月前から行方不明』だったことは、もちろん知っていますよね?どれほど探しても、見つからなかったのに……その彼女と何故、一緒にいたのですか……貴方、怪しいです」

「ええ!?き、急になんの話ですか?全然分かんな……」

「理由に、なっていませんね。それに、あの異形の生き物達を前にして随分と落ち着いていましたよね……」

 この男性は何を言っているのだろうか?渋谷凛が行方不明になっていた?一体、何の話をしているのか。

……しかし、何も情報がない今、疑いをかけられてしまってはまずい。なんとかして、誤解を解かなければ。

「え、えと……ん?」

 すると、焦っている中、軽く肩をつつかれ、

「ねえ、私に任せて」

 と、凛が耳元でささやき、その後にネクの代わりとして、話を始めた。

「あの、待ってください。この人は私の知り合いのネク君で、私はずっと、この人と一緒に渋谷の外にいたんです」

「あ、凛さ……って、ええっ!?渋谷の外に……ですか!?」

 咄嗟についた嘘で、凛は侑芽という男性を騙す。そこから先は、自分の中の『蘇っている記憶』に任せる。

「はい、えっと……『最後に事務所を出た』後、私もあの化け物に襲われちゃって。それで……うーん……あ、ネク君の家で、お世話になってて」

「……はっ!?」

 凛の話を聞き、ネクは思わず驚きを口にしてしまう。そんなこと、身に覚えがない。

「お、おい……俺が、いつそんなこと……」

 口元を手で隠しながら、凛の耳元でコソコソと話す。

「いやいや、でっち上げに決まってるでしょ。今まで記憶失ってて、渋谷守るために戦ってたなんて、バカ正直に言ったところで、信じてもらえるわけないよ。話は私がやるから、君はとりあえず相槌だけしてて。話、頑張って合わせてね」

「ええ……わ、分かったけど……」

「……?どうしたの?」

 見え見えのコソコソ話に加蓮が反応すると、二人は「なんでもない」と声を揃えて言い、話を元に戻した。

「それで、少し時間が経ったから、今日やっと渋谷に入ったんです……連絡も取れなくて、すみませんでした」

「いいえ……なるほどそんなことが起きて……そちらの彼は、命の恩人だったんですね?それはどうも、申し訳ありません……」

「!?い……いや!!とんでもないですよ、とんでもない!!」

 机に頭をつけ、両手をつきながら土下座のような姿勢を取る侑芽に、変にテンパってしまうネク。不意に横を見ると、ジト目でこちらを見つめる凛の姿があった。

「うぐ……す、すまない……」

「はぁ……まあ、多分怪しい人じゃ……ないから。それよりもさ、加蓮、ちひろさん」

「ん?どうしたの、凛?」

 ここで、凛は先ほど床で目にしたものである、新聞を拾い上げる。

 その瞬間、空気が冷たく変わり……読めば当たり前に浮かんでくる、その疑問を口にした。

 

 

 

「ねぇ……この事務所……あれから何があったの?」

 

 

 

【346プロ失脚、アイドル部門当面の凍結か】

 凛はこの見出しの記事をテーブルに開く。すると、加蓮、ちひろ、侑芽の三人は、表情を苦くして目線を下に下げる。

「やっぱり……おかしいって思った。だって、知らない人がプロデューサーになってるし、ここ女子寮なのに誰もいないし。

私がいなくなってから、何が?」

「反発が……起きたんです」

 ちひろが、弱々しく答える。

「反発?」

「ええ……凛ちゃんも知ってる『あの日』……アレを境に、次々とアイドルのみんなが行方不明になっちゃって。その結果、残ったのは、加蓮ちゃんただ一人。そこにもある通り……アイドル部門は、事実上の凍結になりました」

「えっ……」

 何故か凛も黙る。沈黙が漂うこの部屋で、ネクだけは何を言っているのかが理解できていなかった。分かっているのは、未央と卯月と同じく、凛がアイドルだということだけ。

「あの……首を突っ込んじゃ、まずいのかもだけど……『あの日』って、何かあったのか?」

「……話してもいいのかな?これって。一応、ネク君も関係者だけど」

「もしかしたら、凛ちゃんを匿っていた彼なら、何か心当たりがあるかもしれませんし……侑芽さん、いいですよね?」

「……はい、もちろんです。彼が白だと分かった以上、腹を隠す必要はありません」

 ネクを見ながらそう言うと、かけていたメガネを外し、杉蕗侑芽(すぎる ゆめ)と名前を伝えてから、話を始めた。

「実はですね…………」

 

 

 

 

 

 それは、今から数ヶ月前の話。

 ある騒動が、この事務所内で起こったのだ。

 346プロ内でもかなりの人気を集めていたユニット『トライアドプリムス』のメンバーの失態、それが騒動の原因だった。

 収容人数およそ13000人近くの、渋谷区『国立代々木競技場第一体育館』を一週間も使用して行われる、超規模の大型ライブ、『CINDERELLAGIRLS MIND』。

 『シンデレラの舞踏会』からしばらくが経ち、専務に昇格した美城が提案した一大企画。最大の特徴は、346プロダクションに所属する全アイドルを総出演させるという前代未聞の異例の挑戦であり、販売されたチケットも一週間分ほとんどが売れ、アイドル部門が設立されて以来類を見ない規模感のステージだった。

 部署の垣根を越え、プロデューサー達もアイドル達も練習により一層励むようになり、事務所が一丸となってそのステージへ意欲を注いでいた。

 

 しかし、

 

 ライブは結果、失敗に終わった。中盤に差し掛かったころ、山場であるトライアドプリムスがステージに立った際に、メンバーの一人である神谷奈緒(かみやなお)がギミックの使い方を誤ってしまい、何人かの負傷者を出してしまう事態が発生。

 さらに渋谷凛、北条加蓮もそのギミックを利用したパフォーマンスを行なったことで、負傷者のみならず、音響設備、照明器具、その他のギミックの故障、中には莫大な費用のかかったものもあった。

 ライブ続行はもってのほか不可能となり、中止に謝罪をするも、社会的に浴びせられた非難は計り知れないほどだった。事前番組などで大々的に宣伝をしていたことも相重なり、346プロアイドル部門はこの一件で世間的信頼を失い、失脚した。

 しかし、アイドル達は決して折れることはなかった。原因となってしまった奈緒を、執拗に責めたりしなかった。

 

 

 

 そしてライブからしばらく経った『あの日』、アイドル事業の実権を握っている美城直々に、今回の失態の戦犯として、まさかの処分が下ることに。

……さらにその処分は、誰もが予想を避けたかった、最悪のものだった。

「……神谷奈緒を、この346プロダクションアイドル部門より追放する」

 

 その日から、美城から面汚しと罵られた奈緒は、渋谷から姿を消した。家族にも友達にも、誰にも何も言わずに。だから明確な理由は誰にも分からない。警察に捜索願は出したものの、プロダクションの上層部はそれ以外の行動は何も取らなかった。もう赤の他人だと、彼女との繋がりを断ったのだ。

 

『面汚しに、この城に足を入れる権利などない。聖域であるこの地を汚すなど、決して許されることではない。早く私の前から消えるがいい——』

 

『お前はもうシンデレラではない……小汚いただの灰かぶりだ。惨めで、存在価値もない、思い上がりの木偶の坊が——』

 

 美城はこれまでにないほどの罵倒の数々を奈緒に浴びせた。自分より上の、権力を持った存在ということもあった。自分のしたことがどれだけ重く罪深いものか、奈緒はそれを身をもって思い知らされることに。

 これら以外も含めた多数の精神的圧力を隠し、『何故か神谷奈緒が失踪した』という事実のみを提示し、世間に『神谷奈緒の行動は、ただの自業自得』と強く認識させたことで、不満を抱いた幾らかのアイドル、プロデューサー達が反発を起こしたが、美城専務の権力の独立により、反乱分子達の中心人物であったある一人の『プロデューサー』を解雇させることで強引にこれを一時的に終息させる。

 それは自分に歯向かえばこうなる、無駄な考えを持つものは切り捨てる、これが在り方だと、アイドル達を萎縮させるための見せしめであった。

 

 だが、反発の炎は収まるどころか寧ろ悪化し、それはアイドル部門全域に広がり、とうとう収集がつかなくなる事態にまで発展する。

 

 ついに、アイドルが自らボイコットを起こして、姿を消し始めたのだ。一人また一人と事務所から滝のようにアイドルが消えていき、残ったのはたったの『七人のアイドル』のみ。

 そのタイミングで、事態を危惧した美城は、渋々この七人をとある無名の企画『ラストナンバー』として括り、そして全ての尻拭いをさせるべく、無口且つ弱気で使い勝手のいい杉蕗侑芽をその企画のプロデューサーとして配属させた。

 

 百人以上いたはずの部門が、たった七人の少女と、新人プロデューサーと、女性アシスタント、そして単一の企画のみになってしまったのだ。

 

 誰も動かさなくなり、壊滅寸前と化したこの部門をなんとかして立て直そうと、残された者たちは再起を図ろうと手を尽くした。だが、やがてオフィスビルへのアイドル部門の立ち入りが禁じられてしまい、活動も碌に行えなくなり……

 ついに、その内の六人までも消えてしまった。そして、今に至る。

 

 346プロダクションアイドル部門の現状とは、まさに終わりの見えない綱の上を渡っているのと同じだったのだ。

 

 

 

 

 

「そんなことが……じゃあ、今この事務所がこんなことになってるのは……美城って奴へのボイコットが原因ってことか?」

「……キッカケは、それだね。事務所からほとんどの人が消えた時、それでも、私を含めた『七人』だけは残った。でも、しばらく経ってから、みんなまでいなくなっちゃったんだ」

「七人……一体、誰だったの?」

 凛は、加蓮の言葉を疑問に思い、そう尋ねる。しかし、ネクはこれにさらに疑問を覚えた。

「ん?七人の中に、お前は入ってないのか?」

「私は……うん、卯月と未央と……そうだ、確か、奈緒を探しに行ってた、から……」

 まだ完全に再生していない……もうあとすぐで、インバージョンの影響で失った記憶の再生が終わる。ネクに伝える記憶も、徐々に、ハッキリとしていく。

 まだ再生途中でも、凛は頭を振って正面を向き直し、例の七人の名前を聞く。

 

「『みく、李衣菜、杏、きらり、飛鳥、蘭子』、そして私の七人だよ。しばらくはこの七人で事務所を支えてたんだけど……みんな、やっぱり辛かったんだと思う。だからいなくなっちゃって……」

 

「すみません、僕のせいです。僕のこの不器用な性格が……もう少し朗らかだったら、少しでも皆さんの気持ちを楽にできたかもしれないのに……」

「いいえ、全部が全部ではないですよ。こんなのは……仕方のないことです」

 やはり身の内に『不器用さ』を抱えていた、侑芽。

 自身のことを責める侑芽を、優しく気遣うちひろ。

 ネクも、その場の重たい雰囲気に押されて、黙りこくってしまう。

 

 少し前、未央と卯月が口にしていた言葉、346プロダクション。アイドルにかなり興味を持っていたはずのミナミモトも、ココも、そして自分も知らなかったが、未央、卯月、それに凛も所属している超大手の芸能プロダクションで、その内のアイドル部門が今は存続の危機に立たされている。

 さらに、そのアイドルが何故かノイズに襲われていたりと、背後に何らかの違和感を感じたりもする。

 

(これは……ただの偶然なのか?)

 凛を探していた未央と卯月、二人の凛、シキと親友としていた凛、自分の親友として命を落とした凛、死神ゲーム、ノイズ、死神……赤の他人であるはずの渋谷凛と、同じく赤の他人である桜庭音操。全く繋がりのなかったニつの点と点が、知らない間に線として今、繋がりを持とうとしていた。

「……」

「ん、どうしたのそんな険しい顔して……もしかして、話聞いて疲れちゃった?」

「えっ?……あ、いや、別にそういうわけじゃ」

 本当にそういうわけではなかったが、加蓮はネクに気を遣って……と言うよりも、他人に気遣われたくなかったのか、

「ううん、気遣わなくていいよ。これは私たちの問題だしさ……ねえ、プロデューサー。そろそろネク君を返してあげようよ。いつまでも、ここに居させるわけにはいかないでしょ?」

 このコミュニティ内から、立ち去らせることを勧めた。

 結局、侑芽もちひろも同意し、危険を承知で自分の家まで送ってもらうことになった。

 

 

 

 家……忘れかけていたが、既にあのゲームは終わっている。何故か能力が使えたり、渋谷凛と勝手に契約していたり、ノイズがRGに現れたり……疑問点はおかしなほどあるが、今なら元の生活に……戻れるはずなど、ない。

「そりゃ、そうだろ」

 実のところ、前の七日間での謎も、まだいくつか残っている。

 例えば、八代未月、狩谷申輝の正体。八代卯月、狩谷拘輝と瓜二つの姿をした彼ら……時間がなかったため、そうとしか決めつけて進めるしかなかったが……

 

 

 

 もし、彼らが瓜二つなだけではなく、本当に八代卯月、狩谷拘輝だとしたら?

 

 

 

「えっ」

 それだけじゃない。これまでに明らかにされていない謎の中には、いくつかの共通点がある。

 それは、『同じ事柄に対する食い違い』だ。

 思い返せば、主に346プロアイドルである未央と卯月、そして自分たちの間で起こっていた。同じ渋谷で生きてるはずなのに、自分たちの話はどこか食い違うことが多かった。

 ずっと根底で渦巻いていて……でも、よく考えてみれば、他にも似たような状況を知っている。

 

 自分がもう一度殺された日、ビイトと共におかしな言動をする仲間たちのいた『擬似並行世界』へと連れ去られたあの時も。

 

(擬似……『並行世界』?)

 並行世界、パラレルワールド……もう一つの、世界。

 

 

 ネクはあることが気になり、もう薄暗くなった街へと飛び出していく。

 

 

 寮からずっと走り、辿り着いたスクランブル交差点で、もう一度目を擦る。ビルの上部に浮かび上がった文字は、やはり『109』だった。

 どこかおかしな渋谷、どこかおかしな世界、連絡の取れない仲間、突如名前の上がった渋谷にいるなら知らないはずがない346プロダクション、繋がらない電話……まさか。

 

『二本のペットボトル……って言ったら、説明しやすいかな』

「……!?」

 

 その時、前から一人の少女が歩いてくる。人混みを掻き分けることなく、ただ自分だけを見て真っ直ぐに向かってくる。

 手ににゃんタンをぶらさげ、赤いヘッドフォンをつけ、どこの学校のかも分からない制服を着ている、金髪の少女。

 その姿は以前、あの映像で、間接的に見たことのあるものだった。

 

 

 

 

 

「温かい……たったこれだけの温もりが、ここまでココロに染み入るなんて……」

 

 ——ここに来て、どれほどの時間が過ぎただろう。

 

 路上を這い蹲り、数日かけてかき集めた数百円。それを使って自販機で買った二本のコーヒー缶の温かさは、いつもの温かさとは何かが違った。今の自分たちに欠けているもの、欲しているものがそこには詰まっているような気がした。

「ボクらは……有限の夢から、ついに目覚めてしまった。側にいてくれた魔法使いも、同じトキへと向かった同士も、皆見失ってしまった……暗くて、薄くて、何も知り得なかった未熟な自分が、息苦しくて。微かに心の中に残っていたセカイは、虚しく、儚く消えてしまったのさ」

 横を向き、両手に抱えていた温もりを一つ分け与える。

「キミも、そう思うだろう?今更、過去に思いを馳せるのは、確かにナンセンスなことだ。でも、ヒトは……時にどこまでも頑固になってしまう。たとえ自分が忘れたかったとしても。拭いきれないのは、当たり前のことだ」

「我が友よ……一度砕けた剣は、いずれは自身に破滅を齎らす。一度として、魂に……やすらぎを、与える訳には……ぐす、っ……」

 傘をさして、外界から身を隠しているゴスロリ衣装の少女と、エクステを付け、体の至る所にチャックや鉄のチェーンを提げているもう一人の少女。

 連日続く『ゲーム』に巻き込まれ、すっかり身体も疲弊しきってしまった。人気のない公園で、人気のない自動販売機の側で、人気のないベンチに、セカイでただ二人だけが座っている。

 なるべく目立ちにくいところへ、そうしないと、あの化け物が追ってくるから。この命が途絶えてしまったら、一体誰が、あの部門を守るというのだ。ただでさえ苦しい、でも、こんなところで野垂れ死んでいる暇なんてない。

 

「……生きている限り、未来がある。たとえその未来が暗くても、ボクらはその運命を変える。真の夢を、理想郷を築き上げるまで……ボクは決して諦めない」

「ずずっ……ああ、共に行こうぞ、鎮魂歌を奏でに、黄昏で待つ同胞たちを迎えに……」

 

 突如、携帯の着信音が鳴り響く。

 メールだった。送信者は不明。肝心の内容は……

 

【リアルグラウンドへと帰還しろ。

制限時間はあと僅か。

失敗すれば消滅。

 

悪あがきはもう諦めろ。お前らはもう……二度と元の世界には帰れないんだからな。

 

死神より】

 

 表情が曇る。監視され続けていることが分かる。自分たちを陥れた張本人。時計の針に、釘を刺した存在。

 このまま終わるつもりか?言いなりになって、内に秘めている『真実』ごと消されるのをただ待つだけか?

「そんな選択肢なんか……ボクらには初めから存在しない。問題外だ」

「全てを闇として受け入れ、身も魂も業火と化して劫火を見届けるくらいなら……必死でもがいて、足掻いて、全力で抵抗を示すまで。言いなりになんか……絶対に、ならない!!」

 ここにある全ての答えを侑芽に、ちひろさんに……『奈緒』に伝えるまで、絶対に死ねない。自分たちだけじゃない、みんなも苦しんでるんだ。だからこそ、助け合わないと。

「さあ、行こうか」

「勿論だ。闇よ、我らの心に、永遠の灯りを灯せ!!」

 

 

 

 二宮飛鳥は、神崎蘭子は待っている。そして、望んでいる。

 この身が現世に戻る時を。




訳も分からず、新しくいた謎のプロデューサー、杉蕗侑芽。その状況に慣れきっている千川ちひろ、北条加蓮。
過去に起こっていた、事務所内での大混乱……だが、これまでのネクと凛の経験してきた時間とは、全く辻褄が合わない。


次回は世界の秘密と、これからの筋道の紹介です。
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