すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect   作:デトネート

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昨日の謎の少女からの伝達により、擬似並行世界『SG』へと潜入を開始するネク、凛。
目的は、ゲームに参加している『六人』のアイドルの奪還。
真相を探るべく、二人と……そしてさらに加蓮は、行動を始めた。



#19 2日目 side.SG『闇に飲まれしボクらのセカイ』

「ねえ、待ってよ」

 

 早朝の五時。誰にも気づかれないよう、凛は身支度を済ませて静かに部屋を出る。その時、ネクは既に廊下にいて、既に凛を待っていた。

 少しでも良いところを見せようとしたのか、ネクは凛に頷くと共に、廊下を抜けて階段を駆けようとした、その時。

 声は、そこで響いた。

 

「加蓮!?なんでこんな早くに……」

「ふっふっふ……こんな朝早くから、どこ行くつもり?まさか、何かやましいことでもあるの?」

「い、いや、別にそんな……」

 まさかこの時間に、しかも疑問の眼差しを向ける加蓮に出くわすことになるなんて。ネクは思わず言いどもってしまう。

「あはは、分かり易すぎでしょ、その反応。まあ、ちょっと意地悪な聞き方だったかな……じゃあ、素直に言うよ」

 

 

「……私も『みんな』のところに行かせてよ」

 

 

 みんな。その言葉がアイドル達を指していることは考えずとも分かった。でも、どうして加蓮がそのことを知っているのか。

「まさか……お前も、昨日の俺たちの話、聞いてたのか」

 これしか思いつかない。

「そういうこと。ほんとは直接聞きたかったんだけど……絶対、私には隠すだろうなって。

——特に、未央と卯月の話とか」

「……その感じ、全部聞いてたってこと?」

 凛の疑問に加蓮は頷き、話を続ける。

「多分、普通に聞いても、はぐれたとかなんとかで誤魔化すでしょ。実際、昨日プロデューサーの侑芽さんに言ってたことも全部嘘だったみたいだし。

——ざっくり、ネク君がいた、こことは別の渋谷だっけ?

未央と卯月はそっちに取り残されて、なんでか凛だけがこっちに戻ってきた。三人が居なくなって、私たちがさらに混乱してた時、凛たちは凛たちで別の大事に巻き込まれてた。そこでネク君と会った。今は、不思議な力を使って、居なくなったみんなを探そうとしてる。

大体、こんな感じだったよね?」

「二人だけの秘密みたいで、何話すんだろって思ってたら、あんまりにも真剣に話してたもんだからさ。まあ、現実離れが過ぎる話だとは思うけど」

「無理もない。俺たちだって昨日知ったばかりなんだ」

「正直、もうお腹いっぱいだけどね、そういうの。今の私たちの状況だけでも大変なのに、また事が増えて複雑になって、ホント頭抱えちゃうよ」

「……悪い」

 少し、加蓮の言葉が鋭くなり、ネクは罪悪感を覚える。こんなことが起こるなんて、自分も考えてすらいなかった。世界を越えた先でも、まだ違う事件が起きているなんて。加蓮が少しばかり当たるような言い方をする気持ちも分かる。

 

 自分たちのことで手一杯な状況で、そこに厄介を抱えたよそ者が現れた時、誰であろうと鬱陶しいと思うことだろう。

 

「……」

 自分という存在に場違いさを覚え、表情が沈むネク。そんな気まずくする彼に、凛はパートナーとしてフォローをかける。

「別に、気にすることないよ。ネク君だって元の、シキがいる世界に戻らなきゃ行けない……困ってるのはお互い様だし、今は助け合わないと。でしょ、加蓮?」

「……別に、私だって変に気まずくしたくない。昨日、私はネク君に助けられたし、凛も未央も卯月も助けてもらってる。

悪い人じゃないってことは、分かってる……でも、私も……ごめん、気持ちの整理がついてなくて」

「凛が帰って来てくれたことは、すごい嬉しい。でも、それでこの先どうするんだろう、って余計に考えるようになっちゃって……ごめん、なんか、自分勝手だよね。こんなよく分かんない理由で八つ当たりなんかして」

「……いや、気にしなくていい。失ったものは……取り戻したいって、誰だって思う。

それが大事なものなら、尚更……」

 ネクもそうだ。失くしてしまった大事なものを取り戻したい。凛の近くにいるのも、近くにいると安心するのも、きっとそういうことなんだろう。

 

 名前も一緒で、姿も同じ。凛を、アイツに当てはめてるんだ。

 

【凛のことを、アイツとして見てるから、こんな不思議な気持ちになるんだ。】

 

 きっと加蓮も、自分と同じでもどかしい思いをしている。

「……私も、みんなに会いたい、会って……取り戻したい!私だって、みんなのところに行かなくちゃいけないんだよ……っ!!お願い!私も一緒に連れて行って!!」

 ネクと凛に向けて、頭を下げる加蓮。その声は若干引きつっていて、今の加蓮の内側がどんなものなのか、どれほど追い込まれているのかを表していた。

 危険な場所だと分かっていても、自分が無力だとしても、ジッとしていられない。

 

 とても危険な行動で、止めなくちゃいけないのに。失ったものを取り戻したい、そんな加蓮の思いを、ネクも凛も否定することができなかった。

 

 階段を降りて、広間に出てから玄関に着くと、その場で誰もいないことを確認する。昨日の騒ぎで疲れたか、どうやら侑芽とちひろは、まだ目を覚ましていないらしい。

「今のうちに!」

 凛がそう言うと、ネクは昨日少女からもらった例のバッジを取り出す。まるで使えと言わんばかりに、バッジは白く点滅していた。

「このバッジを使えば、みんなに……」

 加蓮は、もはや会いに行くことしか頭になく、躍起になっていた。だが誰もそのことを指摘せず……みな自分のことだけを考えながら、三人は同時に、バッジの中の白い部屋を覗き込んだ。

 覗き込んでいる内に、視界が前に、バッジへと近づいていく。そして、視界は真っ白な無機質な部屋へと移り、そのままその部屋を通過していった。

 次元と次元を繋ぐ特殊な空間。その中でネク、凛、加蓮は向こう側から差し込んできた強い光を見つけ、その方向へと走って行く。

 近づくにつれて強まっていく、妙な胸騒ぎを覚えながら。

 

 

 

 カラン、軽い音を立てて地面へと落ちたバッジ。女子寮の玄関……前までは、早起きし過ぎたアイドルが眠気覚ましのランニングに飛び出していったり、そんな光景が見れたものだ。

 三人が飛んでから、徐々に音が消えていき、静寂に満ちていく空間……

 

「ふっ、無様な有様だな。夢もクソも何も残ってねぇ、更地と化した理想郷だ。随分廃れたもんだなぁ……所詮は過去の栄光ってか?あっはははぁぁっ!!!」

 

 その時、その静寂を切り裂くように突如、来訪者が現れる。

 

 『紫』のスーツをシワ一つつけずに着こなし、シワ一つない赤いネクタイ、シワ一つない純白のYシャツ、ワックスを塗りたくった自慢のオールバックを携えた、一言で言えばガラの悪い男。

「さて、今頃奴らは……」

 何かを呟きながら、部外者である謎の男は無許可で敷地内に入り、正面玄関から女子寮に入ると……

「ふっはっはっはっはぁぁぁっ!!!ふんっっっ!!!」

 

 上げた足を振り下ろし、三人が使用したバッジを粉々に踏み潰したのだ。

 

 その後も、グリグリと革靴のかかとで、僅かなかけらさえも潰しては、これでもかとさらに潰し、潰し切る。

「ふふふ……はははははははぁぁぁぁぁ!!!!!!バカだなぁ、元の日々を取り戻したいだと?そんなこと出来るわけねぇだろ、マヌケが!!」

 高笑いをしながら、バッジをアイドルに見立て、踏み躙る。足元でパキパキと鳴っていた音はやがて止み、ただ地を革靴で踏みつける固い音だけが響く。

 だが、男はまだ満足しない。アイドル達の思いを砕き、完全に消し去り、希望を確実に残させないために。

「お前らはとっくに見捨てられた、ただ運が良かっただけの負け組だ。少し上に居座ってたからって調子に乗んなよ、ビッチどもが。あぁ?」

「見ててムカつくんだよ。お前らの諦めないだの、帰ってくるだの、気持ちわりぃ友情ごっこ。絶対に幸せになんかさせねぇ、希望は全てぶっ壊してやる。先に逝った仲間もろとも、口無しの塵になりやがれ」

 そう言うと、舌打ちをしつつ、また高笑いをする男。スーツのポケットから名刺が一枚落ちる——『4253プロダクション』——担当プロデューサー

——音流零(おとながれ れい)。

 

 新たなる死神の毒牙は、UGを越え、RGのすぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

【このゲーム内に、侵入者が現れました。】

 たった一文。この短いメールが突然、自分たちの元へと届いた。

「侵入者……?随分と、今回は変わった内容だね」

「この意図は……我らの心を揺るがすべく、か?」

 現実世界から離れたこのSG、ストレイグラウンドにて、飛鳥達はゲームが始まって長らくノイズに追われる日々を過ごしていた。その日々はなんの変わり映えもなく、山も谷も何もない。

 

 ただ、一歩でも道を踏み外せば最後、生が死へと裏返る。

 

 一日一回のみ来るメールに一途の願いを寄せるも、書かれる内容はいつも同じもの。淡々と内容を記し、焦らせ、終わりに毒を吐き、心を蝕む。

 こんなものにすがっても意味のないことは分かってる、だが、そうでもしなければ狂い死んでしまいそうなほど、既に自分たちは追い詰められていたのだ。

 こうして徐々に心を押し潰していくのも、この『死神』の作戦なのだろう。

「でも、だとすると……今回のメールは、違和感がないかい?」

「ああ、我らに対する意図が見られない……向こう側にとっても想定外、なのだろうか?」

「だとすると……」

 飛鳥はこれまで空振りし続けてきた願いが、ようやく何らかの意味を持って現れたように感じた。彷徨い続ける自分たちにとって、これはまたとない好機かもしれない。身体的にも精神的にも、自分たちは限界が近い。もうここは……

「一か八か、勝負に出ようじゃないか」

「ふっふっふ、同じ思いだ……これは、邪な鐶を断ち切る勇士の導き。今こそ我らの、反撃の時よ!!」

 縛られた運命を解放する鍵。自分たちが求めるものは、きっとそこにある。

 飛鳥と蘭子は、願いを求めて『ある場所』へと駆けていく。このストレイグラウンドでは、現実世界と違って人がいない分、物音はとても良く響くのだ。

 

 普段とは明らかに違う物音。その聞こえる先に辿り着くまで、そう長くはかからなかった。

 

 

 

「え、ここって……」

 ワープ前とは明らかに違う場所に立っていた、ネク、凛、加蓮。目の前にあるものを見れば、それは一目瞭然だった。何故ならそこにあったのは、

「昨日、車の外から見えてたビル……例の、346プロダクションだよな?」

 広大な敷地の隅々までに閑散という文字が染み込んでいる、人気のない346プロダクションだったのだ。本館内の明かりは付いているようで、ガラス張りの正面入り口から、その内装が視認できる。

 そう、三人は今、あの346プロダクションの正門前に立っていた。

「すごい……こんなところまで一気に飛んじゃうなんて……寮からここまで、結構あるのに……?」

 昨日のノイズだけでなく、実際にこうしてサイキックを体験したことで、加蓮はネクと凛よりもずっと、この状況に驚愕していた。

 もちろんネクも初めての地に降り立ち、さらに凛も不気味な閑散さを受け、少し身体が強張っている。前まで毎日訪れていた場所なのに、本能が警笛を鳴らしている。やはり、この空間の空気感は異常である。

「……でも、まだノイズの気配は感じない。今のうちに、みんなを見つけて——」

 そう、ネクが言おうとした、その時だった。

 

 

 

「……もしかしなくとも、キミたちがゲームへの、侵入者、かい?」

 

 

 

 侵入者。その言葉を自分たちに向けて発した少女と、ネクは目が合う。

「本来、ここにこれないはずのキミと、渋谷から姿を消したキミと……それと『もう一人』。名も知らない、ボクたちとの繋がりの外部より現れた未知の存在。ボクたちの運命は、どこまでも未確定に支配されるというわけか……ふっ、セカイは何処までもボクのココロを弄んでくれる」

「……は?」

 正門の裏から、待ち構えていたように突如現れ、そして訳のわからぬことを言っては、頭を押さえて微笑を浮かべる少女。

 正直、また巨大なノイズが待ち構えていたり、どこか様子が変な友達が現れたり……と考えていたネクにとって、思わぬ足掛けをされた瞬間だった。

「何言って……てか、そもそもお前は誰なん——」

 流される前に、なんとか体勢を立て直そうとしたが、正門の裏から現れたもう一人により、今度こそ、ネクは足元を完全にすくわれる。

「ダイスの目を支配し、運命すらも自らの手で喰らい、その傀儡と化せし者よ!!流石は我が友、飛鳥だ!!」

 例の侵入者がここに来ることを見越していたとは、流石だ!!……このような内容を口にしているらしいが、当のネクには到底分かるはずなく、

(え……な、なんだ……なんなんだコイツらは……!?!??)

 急に目の前に現れた謎コンビに、ついに頭を抱えてしまう。

 

……と、なったところだったが。

 

「あれ?今、『飛鳥』って、言ってたような……」

 肝心なことに気づくネク。すると、

「……びっくりだよ。こんなに早く会えるなんて……久しぶり!飛鳥、蘭子!!」

 満を持し、加蓮がハッキリとそう言う。ということはまさか。

「やあ、お互い生きて会えて嬉しいよ、加蓮」

「闇を導くは、遠く離れた絆を手繰り寄せる標そのもの……!!やはり我が側には、常に友がいたのだ!!」

「この二人が……消えた六人のうちの二人か!?」

 ネクは、自分たちが探すべき六人に該当する、二人のアイドルとついに出会うこととなった。

「そうだよ、ネク君。二人は、『二宮飛鳥』と『神崎蘭子』。私たちが、今まさに探そうとしてたアイドル達だよ」

「ま、マジでか……」

 凛からの説明を受け、ネクは驚きを隠せなかった。探すどころか向こうから接触してきたのはもちろん、その面々の強烈なキャラの濃さに、つい圧倒されてしまっていた。

「どうやら、大分混乱しているみたいだね……まあ無理もない。実際、ボクらもいくつかのケースを想定していたんだ。力となる知人か、はたまた害となる死神か。でも、まさかこんな結果になるとはね」

 そう言うと、飛鳥はネクに向かって歩み寄っていく。距離を詰め、ジッと顔を見つめる。

「……っ、なんだよ」

「ん?ひょっとしてキミは……」

 すると、何かを掴んだのか、飛鳥は自分の後ろにいる蘭子の顔を見る。

「どうかしたのか、我が友よ?」

「いいや……フッ、なるほどね」

 また頭を抱えながら、微笑を浮かべる飛鳥。その表情は、まるでネクを同類のように見立てていて……その瞬間、ネクはどことなく謎の既視感を飛鳥と蘭子に覚え、急に顔を熱くした。

「……!?」

「キミは、ボク達を見たときに思ったんじゃないかな?

……『痛いヤツ』だって。ふっ、安心するといい。ボクは気にしていないさ。痛いヤツ同士、是非とも仲良くしようじゃないか」

「う、うるさいぞ!!大きなお世話だ!!」

 

「……?加蓮、どういうこと?」

「アレじゃない?ネク君と共鳴しちゃった的な?」

「あー、そういうね」

 ネクと飛鳥の共通点を察してしまい、思わず笑いそうになる加蓮、凛。そうした二人によって、またさらに恥ずかしさが込み上げてくるネク。

「とっ、とにかく、だ!!ここにいる二人は無事だったんだから、まずは一旦でもいいから、帰ろう!送り返してから、それからまた——」

 明らかにテンパってしまっているが、何とか平静を装って場を取り仕切ろうと、バッジを再度使おうとするネク。

 だが、ここであることに気づく。

「あれ……バッジが、ない!?」

 この世界に着いた際、確かに手に持っていたはずの白いバッジ。いつのまにか、それが消えていた。

 少しほのぼのとしていた雰囲気は途端に曇り始め、凛と加蓮も焦りだす。

「え……まさか、落としたとか言わないよね!?」

「いや、こんな短時間で落とすわけないだろ!!……なんでだ?ずっと握りしめてたはずなのに!?」

「それって……もしかして、帰れないってこと!?嘘でしょ!?」

 ネクに尋ねる凛、そして加蓮は慌てて正門周りを探す。しかし、やはりバッジは見つからない。着ている服の隅々まで探るが、それでも見つけられなかった。

「……ほう。我が友よ、これを」

「ん?なんだい、こんな時に?」

 その時、蘭子は飛鳥に、自分のスマホを手渡して何かを伝える。

「これは……みんな、ちょっと止まってくれないか」

 バッジを探す三人に、落ち着くよう飛鳥が言う。そして、そのまま手に持っていたスマホの画面、『メールの文書』を向ける。

「キミたちが探してるのは……ひょっとして、これのことかい?」

 

 

 

『目の前の城に隠された『ディメンションリンク』バッジを手に入れ、この渋谷から立ち去れ。

制限時間は60分。

失敗すれば、全員消滅。

 

死神より』

 

 

 

「——ところで、キミはどういう訳あってここに来たんだい?」

 メールを受け取った後に、凛、加蓮と一旦分かれ、飛鳥、蘭子と行動することになったネクは、346プロ本館内部へと足を踏み入れていた。

 謎の少女の言っていた通り、ここではゲームが行われていて、メールを確認した瞬間、飛鳥、蘭子の右手に、焼き付くような痛みが現れ、【60:00】と赤黒い不気味なフォントのタイマーが刻まれた。

 現在、凛たちは外の広場の探索を、ネク達はビル内の探索を進めている。本館をざっと調べ終わり、渡り廊下を通じてオフィスビルへと移り、そこにあった自動販売機で飲み物を買う。

 飛鳥が自販機で購入したコーヒー……のように見える甘いココアをネク、蘭子に投げ渡し、再び三人でビル内を探索していた時のことだった。

「訳?」

 飛鳥が、ネクにここまでの経緯を尋ねた。

「ああ。少なくともボクは、今までに『桜庭音操』という名前を聞いたことがない。それに……今の世間サマは、ボクらなどとうに忘れ切っていることだろう。

そんな中で、キミはどうしてボクらと出会うことになったんだい?」

「……幽閉されたこの世界からも、外界の状況は想像し得る。きっと……我らに関しては、あの頃から何も進展していないのだろう。だから尋ねるぞ、其方は何者だ?」

 世間について言及することから、二人も加蓮と似た心情を抱いているのが分かる。あの頃とは、SGに引き摺り込まれるまでの、RGでの一連の件に関してだろう。

「俺は……」

 自分でも分からないことが多い中、ネクは何とか話をする。

「俺も、ハッキリとは分からないけど……この世界の渋谷とは、違う世界の渋谷から来た……みたいなんだ」

「違う世界……?ひょっとして、並行世界の類いの話、ということかな?」

「つまり、パラレルワールド……ということか?この世界とは異なる理を持つ世界が、存在しているわけだな」

 この手の話に興味があるのか、飛鳥も蘭子も、恐ろしいほどの読みの鋭さだった。何故か目をキラつかせてまでいる。

「は、話が早いな。多分そんな感じだと思う。いきなりこんなこと言われたら、嘘だって思われてもおかしくないよな」

「ふっ……いいや、全くだよ。前から勘づいてはいたんだ。こんなたった一つのセカイだけがこの世の真理な訳がない……きっと無数のセカイがこの世には存在し、ボクらはその可能性の僅か一片に過ぎない、とね」

「ふっはっは!!我らの魂が引かれ合い、隔たれていた世界に橋を繋いだようだな。存在が回帰した、この闇に飲まれし世界に。

……だが、妙だ。異世界からの来訪者だとしても、一体どこで我らとの繋がりを得たのだ?」

 すごい……違う世界だなんて、まるで空想みたいな体験だね!あ、でも、結局どうやって私たちのことを知ったんだろう?……ネクは段々と、なんとなく蘭子の言葉が理解でき始めてきてしまった。

 頭の中で自動変換され、ついに会話を成立させることに成功してしまう。

「……俺が先じゃない。元々は、凛、未央、卯月の三人の方が先に、俺たちの世界に現れたんだ」

「ほう、その二人のことも知っているのか……ボクの知ってる彼女らは、世界を越える力なんて到底持ち得ていない、一般の高校生だった気がするけど」

「そんなの分かってる。多分、みんなは自分の意思に関係なく、誰かの力で俺たちの世界に飛ばされたんだ。

そして俺たちと会って、その後……まあ、色々あって、俺と凛だけがこの世界に来た」

「俺と凛も、決して自分からこの世界に来たわけじゃない。恐らく、俺たちに両方の世界を行き来させてる、誰かがいるんだと思う」

「となれば……この邂逅も何者かに仕掛けられた運命なのだろうか?」

「……かもな」

 不意に、昨日のあの少女を思い出す。今思えば、自分たちの行動は、全て少女の言われた通りこなしているに過ぎない。本来干渉できないSGに行けるディメンションリンクバッジを渡したのも彼女だ。

 とはいえど、ネクは少女のことを、『何故か』疑うことができなかった。疑問は付き纏うものの、その奥底にはやはり信頼が宿っている。

 少女への信頼は、一体どこから来ているものなのだろうか。今はまだ分からない。

「でも、結果的に、その『誰か』さんには感謝しなきゃいけないのかもね。その誰かさんがいなかったら、キミがここに来ることもなかった。希望を望んだまま、ボクたちも叶わぬ最期を迎えていたかもしれない」

 そう言うと、飛鳥は一気にココアを流し込み、そのまま空き缶を道中のゴミ箱にスマートに捨てる。

「ふぅ、聞かせてくれてありがとう。キミはボクにとって、実に興味深い存在だ。続きはミッションを終わらせ、共に元の世界に戻ってからじっくり聞かせてもらうことにするよ」

「……あ、ああ、分かったよ」

「ん?何か、虚な気を感じるぞ……心に痞える節でもあるのか?」

 考え込み、返事が適当になっているネクを見て、蘭子は察して尋ねる。でも、ネクはそれをはぐらかした。

「いや、なんでもない。さあ、急ごう」

 そう言い、次の階へと進もうとした、その時……

 

 

〈ウォァァァァァァ!!!!!!〉

 

 

「……ノイズ!?」

 上階の階段から突如、クマ型ノイズが現れた。その色は……現実世界とは違い、何者かに作られた証拠である、『紫』色をしていた。

 ノイズから最も距離が近かった飛鳥は、その大きな腕のなぎ払いを受け、左腕にかすり傷を負ってしまう。

「うっ!?まったく……随分なあいさつ、じゃないか……っ!!」

「平気か!?我が友よ!!」

 蘭子が腕を押さえる飛鳥の元へと寄る。

「……!?危ない!!伏せろ!!」

 だがネクの危惧するよう、ノイズは立て続けに攻撃を繰り出し、今度は蘭子を標的に据える。

 普通の人間ではノイズに勝てない。急いでバッジを付けて、ネクが蘭子を助けようとすると、

 

「……漆黒の片翼、地に堕ちし天使よ!!!!」

〈グル……!?〉

 

 

 

「欲に囚われし醜き獣に……無慈悲なる裁きを下せっ!!!!!」

 

 

 

 少女の背に現れたのは、乱れのない黒一色の不完全な片翼。そして、その身が纏う、断罪を名乗り、荒れ狂う無数の鋭き刃。

 声を上げたところで、既に遅い。無慈悲は無慈悲のまま雑音へと襲いかかり、切り刻み、肉を断ち切り、犯した罪を罰と共に清算する。

 刃の嵐が止んだ時、既に雑音は天へと昇り、跡形もなく消えていた。

「我が片翼に……指一本触れるな!!!」

 

 ゴスロリ衣装の裾にある参加者バッジ。その隣にある、黒い月が描かれた『夜月ノ闇、暗黒包ム深淵ノ先』バッジ。

……ただの邪気眼とは到底言えない、闇の使者と化した彼女の姿が、そこにあった。

「くっ、すまない、蘭子。助かったよ」

「はははっ!!所詮は雑音!さあ、先を急ぐぞ、我が友、異界者よ!!」

「……す、すごい、な……っ」

 これまでに見たことのないサイキックを繰り出し、敵を八つ裂きにした蘭子。その姿に魅せられてしまったネクの素の小言は、幸いにも二人の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

 【5:00】、残り時間はあと僅か。終了時間が迫る中、五人は未だにバッジを見つけることが出来ていなかった。

 飛鳥が初めにノイズに襲われて以降、346プロダクション全体にノイズが放たれたことで、捜索が困難になってしまったのだ。

 特に、地上の広場を探索していた凛と加蓮は、その影響をもろに受けることとなっていた。

「加蓮!!下がってて!!」

 契約をしているため、離れていても能力は使えるが、もう一人の加蓮は力を持たないただの人間。凛は加蓮を守りつつノイズと戦うため、防戦一方になりがちになる。

「うぐ、っ……はぁ……はぁ……」

 それに、そもそも凛がサイキックを使えるようになったのは最近の話。慣れ始めたばかりで連戦を強いられ、いくら経験者でも厳しいものがあった。

「凛……」

 覚悟はしてきたが、完全に足手まといの状況になり、加蓮は思わず凛に謝ろうとする。しかし、

「はぁ……謝ったりなんか、しないで……そっちの方が、余計、心に刺さるし……」

 必死こいて戦ってるのに、そこで謝られたりなんかしたら、自分のメンツが立たない。そう、少しカッコつけるように言って、加蓮を気遣う凛。

「う、うん、分かった……」

「はぁ……はぁ……っ!!まだ来る、気をつけて!!」

 もう体力も限界に近い、そんなところに。

「喰らえっ!!!」

 オフィスビルの中階付近から、紫色のオーラを纏ったワイヤーが、縦横無尽に広場上空へ広がる。凛と対峙していた広場のノイズ達は、そのワイヤーに絡め取られ、放出される高エネルギーによって消滅した。

 そして、そのワイヤーを伝い、『レールスライド』で地上に降りてくるネク。蘭子、飛鳥も、ネクに腕を掴まれ、無事に地上に降り立つ。

「みんな!!戻ってきたんだ!」

「ああ、だけど……」

「……そっか。何となく、想像はつくよ」

 ネクと凛は、互いに探索が失敗したことを知る。残り時間はもう限られている。今から探そうにも、時間がなさすぎる。

「絶体絶命、か……今回ばかりは、ボクらにもどうしようも思いつかない」

「何かないのか!?この状況を打破する、何かが……」

 そうこうしている内にも、タイマーは秒を刻む。【0:30】

 

【0:25】

 

「ん?」

「どうかしたのか、異界者よ?」

「異界者って……い、いや、考えれば考えるだけおかしな話だって。俺は、ずっとバッジを握りしめてたはずだった。感触だって覚えてる」

 

【0:20】

 

「どういうことだい?」

「……やっぱり、無理がある。俺たちがここに来てから、何らかの方法で、気づかれないうちにバッジを隠すなんて。初めはノイズの気配すら感じなかったんだ、あの時あの場所に、人や死神がいたはずがない。

 それに、このゲームのゲームマスターは、なんで俺たちが来る前から、ミッションメールを送れたんだ?」

 このミッションの内容が記されたメール、あれが送られてきたのは、ネク達がSGへと侵入する以前だった。つまり、

「ゲームマスターは……俺たちがここに来ることを、最初から知ってた?」

 

【0:10】

 

『まんまと、罠にかかったみたいだね』

 その時、後ろから声をかけられる。振り向くと、そこには昨日のあの少女がいた。

「お前!?どうやってここに……罠?」

「だ、誰……?凛の知り合い?」

「そんな、感じ……あっ、時間が——」

 ネク、加蓮、凛は、タイマーが切れる瞬間を見届けてしまい……

 

【0:01】

 

「……あれ?」

『タイマーは、私が無効にさせてもらった。このミッションには虚偽の内容が記されている、ルール違反が見られるからね』

 タイマーの秒数が、動かずに静止する。飛鳥と蘭子が手のひらを見る中、少女はネクに一枚のバッジを投げ渡す。それは、

「えっ、このバッジって……」

 自分たちが探していたはずの、ディメンションリンクバッジだった。

「何故それを……其方、何者だ?」

『……それは今、話すことじゃない。これは、今作り直した二個目。昨日あげたやつは、もうRG側でとっくに壊されてる』

「えっ!?こ、壊されてる!?」

 凛が驚くと、少女はため息をつく。

『はぁ……凛も、それに加蓮ちゃんも、助けに行くって張り切るのはいいけど。自分たちも狙われてる立場だってこと、もう忘れちゃったの?』

「えっ」

『このSGで起こってることが、事件の全てじゃない。これは『奴ら』のイベントの一種。主催者と関係者がいて、主催者はここに。そして、関係者は外部、『RG』にいる。その関係者が貴方達の動向を探って、暗躍して、情報をゲームマスターに伝えてたってこと。だからこうして罠にかかった』

「……RGにまで、このゲームの協力者がいたのか」

『うん、貴方達が参加者側の協力者だとすれば、ソイツは死神側の協力者ってとこ。だからこれからは、あんな丸見えな玄関なんかでバッジ使わないでね。少し詰めが甘すぎるよ』

 咎められ、凛は喉をつまらせながら言う。

「うぐっ……分かったよ」

『分かったなら、三人はそろそろ元の世界に戻って。タイマーは止めても、まだ今日は終わってない……ほら、噂をすれば』

 

〈キュオァァァァァァ!!!!〉

 

 予想だにしない事態にゲームマスター……いや、奴らは、強硬手段に出たようだ。邪魔者であるネクと凛を殺し、なんとしてでもバッジの使用を阻止すると。

 でも、参加者の力も、それほど見くびるほどのものじゃない。

 

「……白銀の片翼、聖界に君臨せし天使よ」

 

——『銀月の光、理想郷照らす永劫の先』バッジ。

 飛鳥はそれをエクステに留め、先ほどの蘭子のように詠唱を始める。

 背に現れるのは、同じく片翼。でも蘭子とは逆側に翼が生え、その色は闇を示す漆黒ではなく、光を示す白銀。

 夜月の美しさとはまた違う、銀月の神々しさ。

 翼には光輪が纏わり、迷える命を導く者として、救済を与える。

「蘭子、コイツらはボクらで喰い止めよう。ネク君、それから二人も、今の隙に元の世界に帰るんだ」

「えっ、でもそれじゃ……」

 元々、ここに来たのは彼女達を連れて帰るためだ。それなのに自分たちだけで帰っては本末転倒じゃないか。

 そう、思っていたのだが、

『いいや、彼女たちはまだゲームの途中。参加者である以上、途中で抜け出す事はできない。ゲームを終わらせない限りは……彼女たちは解放されない』

「えっ……」

「……」

 蘭子、飛鳥は少女の言葉を聞き黙る。

 ゲームが終わってないため、彼女たちにはディメンションリンクバッジを使用できない。つまり、今は元の世界にはネク達しか戻れない。

「そんな……ゲームが終わってないって……じゃあ、どうすればいいの、凛?」

 

「……ゲームマスターを探し出して、私たちで倒すしかない……そういうことでしょ?」

 

「ああ」

 凛の答えに、ネクは頷く。

「結局、今日は何もできずに一日が終わった……無駄足を踏んだのか。残りの日数は……」

『あと三日。それまでにゲームマスターを見つけ出して、このゲームを終わらせなくちゃいけない。それ以上はもう……この次元自体が危険になる』

 次元が危険に……あと三日が経った後には、一体何が待つのか。

 でも、今はそれを考えてる場合じゃない。目の前を見る方が最優先だ。

「我が片翼よ!!当然……我も力を貸すぞ!漆黒の片翼、地に落ちし天使よ!!魂と共に、ここに現れろ!!」

「助かるよ、ボクの相棒、パートナー……さあ、行こうか!!」

「ああ!!」

「「光と闇……双翼の力を味わえっ!!!」」

 

 

「……私たちも、ここは一旦戻ろう。蘭子、飛鳥!絶対、今度は絶対に助けるから!!だから……待ってて!!」

 

 

 こうして、まずようやく再会を果たした少女達。しかし、死神の魔の手は一歩先を読み、彼女たちを妨害した。内側にも外側にも、執拗に根を張り、着実に彼女らの生存の道を消し潰していく。

「くっ、アッハッハッハァァァ!!!!!」

 ゲームマスターも参加者も、無様に尻をまくって逃げる姿は、滑稽なものだ。

 だが、まだ少女たちの瞳に宿っている希望の火……さあ、どう消してやろうか。




飛鳥、蘭子編が終わりました。そして新たな『奴ら』である、音流零が登場しました。
SGでネクと凛がすべきことは、残り四人のアイドルの確認と、ゲームマスターの捜索です。
次回は一旦RG側に戻ったネクと凛、そして加蓮の話になりますが、

この二章内で、所々、おかしな点があることに気付きましたか?

加蓮は会いに行くことに躍起になり、前が見えていません。そして、ネクも凛も、その行動を止めることはありませんでした。
凛は、未央や卯月と違い、何故かまだ完全に記憶を取り戻していません。
ネクは、別世界の凛を死んだ『アイツ』に照らし合わせています。

三人とも、狂っていたことに気付きましたか?
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