すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
現実世界RG側からの襲撃により、一時撤退を余儀なくされたネク、凛、加蓮。
自身の身勝手さにより、凛を苦しめて足を引っ張ったと謝る加蓮に、ネクは声をかける。
そして、そんな加蓮の姿を見て、ネクもまた、心に何かを抱いていた。
「おわっ!!」
宙に浮いたバッジが光り、そこから投げ出されるネク、凛、加蓮。バッジは効果が切れると、軽い音を立てて地面へと落ちた。
ここは女子寮の正面玄関。今朝バッジを使った地点に戻った、つまりSGからRGへと無事帰還出来たことを示していた。
三人の表情は、決して明るいものではなかったが。
「……今は11時すぎか。RGに戻ってきたみたいだな」
「うん、そう、だね……」
加蓮は頷くも、先程からずっと元気をなくしている。
やっぱり、自分のわがままが通るような場所じゃなかった。会いたい、助けに行きたい。そう思ったところで、自分にはそれを成し得るだけの力がない。
結局、友達に頼りっきり。守ってもらってばかりで、案の定怖くて逃げ帰ってきて……情けない。
「加蓮……」
「……バカだよね、私、身勝手すぎたよね」
「……」
迷惑を振り撒くことしかしていない自分に苛立つ加蓮。そんな彼女を気遣うよう、ネクと凛は違う話題を持ち出す。
「……加蓮、とりあえずご飯にしない?今日は早かったし、私たちもまだ何も食べてないでしょ」
「ああ、朝から動きっぱなしだったからな。まあ、もう昼みたいなもんだけど」
「そこはギリ朝ってことにしといてよ。それじゃ、先行って準備してるから」
そう言うと、凛は中に入り、ちひろと侑芽がいるであろう広間へと向かった。ネクも続いて上がろうとするが、加蓮は今も玄関で足を止めたまま立ち尽くしていた。
「おい、上がらないのか?」
「ホントに、ごめん……足手まといだったでしょ……?」
どうやら、加蓮は想像以上にショックを受けていたらしい。よほど自分の無力さを思い知らされ、心をズタボロにされたようだった。
「……そう思い詰めるなよ。別にお前は悪くない」
「……」
「悪いのはお前じゃない、友達を閉じ込めてる死神の方だ。なんでもかんでも、自分のせいだって思い過ぎるなよ」
そう言うと、ネクは加蓮に近づき、探りを入れるように話す。
「……とは言え、朝のあれ……友達のためって言ってたけど、本当は自分のためだったんだろ」
「っ……」
「当たり、みたいだな」
ネクに図星を突かれて、息を詰まらせる。
加蓮はこの状況下に誰よりも長く置かれていた。アイドルがみんな消え、自分だけが生き残った孤独な状態。その中で、仲間を、友達を求める気持ちは日に日に、強まっていった。
今までにない孤独を味わい、いつのまにか友達を守るためではなく、自分の気持ちを楽にしたいという気持ちが先行していた。今になって、自分の独りよがりに気づく。
「とにかく誰かに会いたかったから、何かきっかけが欲しかったんだな」
「……うん」
「そんで、そればかりが先行して、後先考えずに突っ込んで」
「……アホだって、思った」
「はぁ……」
ため息をつき、その後にネクは、グイと加蓮の背中を力強く前に押す。
「うおっ、と」
「アホだって思ったなら、尚更こんなとこでしょげてる場合じゃないだろ。悩む暇があったら、今後に備えて体力回復だ」
「……」
「腹でも膨らませて、心のモヤモヤを少しでも晴らそう。色々と焦り過ぎるなよ、今のお前は独りじゃない。凛も蘭子も飛鳥も、みんなだって付いてるだろ」
独りじゃない。その言葉で心の中が軽くなり、加蓮の表情が少し明るくなる。
「あははっ……確かに、言われてみればそっか……」
加蓮にとって、今の言葉ほど適した言葉はなかった。
彼女の心が、少し透き通って見えるようになった気がする。前までの彼女がどんな雰囲気だったのかは知らないが、目を閉じている今の表情が、霧が晴れたものだということは分かる。
「励ましてくれてありがと、ネク君……ううん、ネク」
「俺は何もしてない。感謝なら、支えてくれるみんなにな、加蓮」
「……ふふっ」
お互いに呼び捨てになる。この時、これまで他人同士だったネクと加蓮の間に、明らかな信頼の糸が生まれたのだった。
「さ、飯の時間にしよう」
「うん、私もお腹空いちゃったよ」
その後、ネクと加蓮が入ると、ちひろと侑芽も凛と一緒に昼食の準備をしていて、広い食堂の中で五人はトーストをそれぞれ一枚ずつ頬張り、腹を満たした。
ここで、とある疑問が浮かんでくる。
シャワーも自部屋もあって、ガスも電気も通っている。現在置かれている社会的な状況とは異なり、案外不自由なく生活を送ることが出来ていることだ。
この女子寮は、元々346プロダクションが地方から都内へ来ているアイドル達のために用意した集合住居だった。今はどうなのかと言えば、凍結状態ではあるが最低限、生活できるレベルの支援がされている。電気代、水道代もこれまで通りのまま、侑芽の方からプロダクション本部には連絡を入れているため、加蓮、凛、ネクが新たに滞在していることは既に認知されている。
今のアイドル部門において、トップは未だにあの美城専務。杉蕗侑芽は、当然彼女のことを忌むべき、因縁の敵だと考えていた。
今の自分達の状況は、元はと言えば美城が戦犯のようなもの。今回の連絡も、わざわざ美城の更に上層部へと直接伝えるなど、露骨なほどに美城を遠ざけていた。
この彼の正義感……のような、理想癖とも言えるような点。
彼は微かに思っている。どうにかなる、凛が帰ってきて、きっとこのままいい方向に向かう。このボイコットがいつの日か終わって……『先輩』も帰ってきて、また普段通りの日常が始まると。
そのための具体的な行動は、彼自身の行動は、一切彼の中で考慮されていないのに。
だからこそ、今の状況に求められているのは、この男のような荒唐無稽な理想ではない。ましてや魔法でも、希望でもない……あらゆる物を歪ませる、力なのだ。
「弱い奴は弱い奴同士で集まる……正に、このことだな。この先、世界がどう変わるのか。この先、未来はどうなるのか。
結局、何も考えずに逃げるだけか、マヌケ共が」
トーストを食べ切った後、食堂にいた五人の間に割って入る……外部からの使者。
食堂の入り口から荒削りな口調の声が聞こえてきた。
『紫』のスーツを着た赤髪の長身男が現れ、ズボンに手を突っ込み、悠々と歩いて中に侵入してきたのだ。
「……アンタ、誰?」
あんな顔、見たことがない。明らかな部外者だと感知した凛は、咄嗟にそう尋ねるが、
「……はぁ?」
目の前に現れた紫の男は、明確に嫌悪を示し、そして、
「口聞いてもらいたきゃ、まず頭下げてみろよ。ほら、さ、げ、ろ」
「は?」
そのあからさまな挑発に、空気が吹雪のように張り詰めていくのが分かった。
「おい、ガキが。普通なら、テメェなんかとは誰も話つけねえんだぞ?口聞いてもらえるだけ、ありがたいと思うべきだろ。違うか?」
「なっ!?」
「社会は信頼で成り立ってる。今のテメェに、誰が信頼なんか覚えんだ?しれっと忘れてんなよ、あの日プロダクションの信頼を地に堕としたのは、お前、だろうが?……ははっ、地べた這いずって、汚ねえ足しゃぶるくらい覚悟しとけよ。相変わらず甘えな」
同じ人間に接する態度じゃない。有無を言わさずに畳み掛け、心を抉りに来ている。
「……っ……!!」
「ちょっと、貴方!!今の言葉、取り消してください!!凛さんに、なんてことを……!?」
流石に黙っていられなくなった侑芽は、男の前に立って抗議の姿勢を取る。
だが、
「うるせえな……あぁっ!?代替品の言いなり人形は引っ込んどけ!!」
「うわぁぁっ!!!痛、っ………!!!」
男は何も躊躇うことなく、侑芽を思い切り横へ突き飛ばした。
侑芽は少し離れたカウンターテーブルまで吹き飛ばされ、勢い凄まじく壁に背中からぶつかったことで、ぐったりとするほどの痛みに身を捩らせていた。
「ああ……っ、ぐぅぅっ……!!!」
「侑芽さん!!」
人が目の前で痛めつけられる光景に、ちひろは身体を震えさせつつも、慌てて侑芽の元へと駆けつける。
「おいおい、ツケが回ったな、無能野郎が?自分が正しいなんて思ってるから、結局何もできねえままなんだよ。理想じゃ何も動かせやしないんだ……いい加減、学べばどうだ?」
「プロデューサー!!!……っ、アンタ、いい加減に——」
一方、凛に対して、さらに侑芽に対しても卑劣な態度を見せる男に我慢できなくなった加蓮。あの出来事をぶり返されたこともあって、思わず男に掴みかかろうとするが、それをネクが止める。
「加蓮、下がってろ」
「いやだ!!こんなことされて、黙っちゃいられない!!!」
「下手に近づいたら、危険だ!!……今こそ、焦らずに冷静になる時だろ」
「っ……!!」
侑芽のように、下手をすれば暴力を振るわれるかもしれない。加蓮を押し戻すと、ネクは前に出て、危険人物である男と対面し、警戒を強めつつ構えの体勢を取る。
「これ以上、誰にも手は出させない。大人しく帰ってもらうぞ」
「はっ、何だお前?……おいおい、マジかよ!?まさか、今度は男をスカウトしたのか?人増やせば良いってもんじゃねえだろ、何考えてんだ?」
「……?何言って……」
だが、男はネクに全く見向きもせずに、何も興味を持たなかった。あくまで彼の目的は、この346プロダクション、そしてアイドル達にあるのだ。
「……あくまで、俺に用はない、ってことか」
対峙し続けたところで、ネクではまともにやり取りすることが出来ない。ただ壁になって男の邪魔をするだけだったが、やがて男は飽きたような表情をすると、
「はぁ……ま、今日はここら辺で引き上げてやるか。これはちょっとしたご挨拶みたいなもんだ。お前らはこれから……俺たちによって、着実に地獄へと堕ちていくことになる」
「は……?」
「俺らがトップを取るのも近い……ははっ、じゃ、また会おうな、時代遅れのアホ共」
突如後ろを振り向き、そのまま出口へと颯爽と向かい出した。その姿はあまりにも唐突で、冷酷で、身勝手で……
「……これくらいで、って……なにそれ、こんなことやって……散々酷いことも言い捨てて……何のつもりなの!!ふざけるのもいい加減にして!!!」
凛は咄嗟に飛び出し、回り込んで出口に立ち塞がり、男の胸ぐらを掴む。そして男に対して、怒りに満ちた鋭い目を向ける。
「凛!!」
「っ……!!!!!」
「へえ……口だけかと思えば、案外威勢はあるじゃねぇか」
「……アンタが誰か、答えるまで絶対逃がさないから……」
「ふっ、面白ぇじゃねえか」
吐き捨てるように言い、さらに目に現れる圧を強くする凛。睨みが力になるなら、今すぐにでもこいつを殺せるくらいに。掴む手を堅くし、なんとしても離さない。
だが、怒りを燃やしたところで、所詮は15歳の少女。
「でもよ……威勢如きで、女が調子に乗んじゃねぇ」
突如、声色が変わり、目の前の男から殺気が溢れ出す。息が止まりかけるくらい、これまでにないほどの圧が凛を襲う。
「っは——」
恐れ、そして、思わず凛の手が緩んだ瞬間、
「よっ、と」
その手を掴み、軽く回して捻る。だが、その軽さとはうってかわるほどの衝撃に、細い腕はまるで抗えずに、悲鳴を上げた。
「……ひっ!?がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!」
一瞬、ありえないほど捻り曲がり、異形の姿となった腕を押さえながら、凛はその場に倒れ込み、視覚と痛覚で恐怖を頭に刻み込まれる。
「はぁ……っ!!はぁはぁ、っ……はぁ……はぁ………っ!!!」
「はははははっ!!!残念だったな、威勢なんか何の意味ももたねぇんだよ!!
——結局は、全部力なんだ。蹴り落とすのも、這い上がるのも、手に入れるのも、望みを叶えるのもな……理想も魔法も所詮はクズ。絶対的な力こそが、この世の……人の社会の全てなんだよ!!」
相手が女だろうと、子供だろうと関係ない。自分にとって、全てはただの物に過ぎないのだ。そうして、最後に倒れ込んで震える凛の側にしゃがみこみ……囁くよう、とどめを刺す。
「もう二度と、元の日々には戻れないんだよ」
「っ……!?」
「分かったら、早くどけ。邪魔だ」
そうして、縮こまる凛を足で雑にどけると、男はドアを蹴飛ばし、食堂を去っていった。
「うぐっ……ぅぅぅぅぅぁぁぁ!!!!!!」
「ま、待て!!お前、ただじゃ帰さない……って、えっ!?」
凛の苦しむ姿を見て……瞬発的に怒りに飲み込まれたネクは咄嗟に走り、男を追いかける。だが、食堂から出た時にはすでに、男の姿はなかった。
凛を傷つけられ、怒りに飲まれて焦るネクは、そのまま地面に落ちている何かを踏んづける。
「くそっ!!アイツ、一体どこに……?」
そして、その何かに気づくと、ネクは足をどけて確認する。
見つけたのは、一枚の名刺だった。
焦る心を何とか落ち着かせてから拾い上げて、その名刺の表側を見ると……
「こ、これは……」
「具合はどうですか、侑芽さん?それに凛ちゃんも……あっ!ごめんね、痛かった?」
急な襲撃から少し経ち、広間のソファでちひろが、侑芽と凛の手当てをしていた。侑芽には背中にできたアザに湿布を貼り、凛には骨が折れてないことを確認した上で、手首部分にタオルで包んだ保冷剤を当てる。
「いたたた……全く、何なんですか、さっきのあの男は……」
「……ほんと、に……く……っ…」
身体的に、そして精神的に痛む傷を堪える二人。特に凛は、あの捻られて一瞬だけ変形した自分の腕を忘れることができずに、再度思い出しては身体を微かに震えさせている。
そんな時、ネクはちひろにあることを尋ねた。
「あの、ちひろさん。ちょっと聞きたいことが」
「どうしたんですか?」
聞きたいこと、それはさっき見つけた名刺のことだった。あの名刺には、男に関しての詳細が記されていた。
「……4253(シニガミ)プロダクションって、どんなとこなんですか?」
「え、し、シニプロのこと?あそこは、半年くらい前に設立されて、信じられないくらいの急成長で大手と肩を並べるほどになった、すごい芸能プロダクションですよ。同時にうちのライバルでもありますけど……そのシニプロが何か?」
ネクは手に持っていた名刺をテーブルの上に出す。背景が紫で、石で擦ったような独特な線の描かれたデザインの名刺。そして、そこに載っていた名前の、『音流零』。
この名前は恐らく、あの男の名前。
そして、その上にあるのは『4253プロダクション アイドル部門担当プロデューサー』の文字。
「あの男が消えたところに、これが落ちてて。4253プロダクション……あの男が、この事務所と関係してるかもって」
「え?あのシニプロが……まさかウチに殴り込みに来たってことですか?」
理解の追いつかない出来事に、理由の分からない襲撃。あの男のことについて、もちろんこの場の誰も、それを知らない。
唯一、ちひろが知っていた情報で、4253の急成長が始まったのは、つい最近。
——もっと詳しく言えば、それは例の『CINDERELLAGIRLS MIND』の少し後、そのくらいの時期だったということだけ。
346と4253の企業的な関係だって、時期的にも殆どないに等しいのに……
「音流零……シニプロのプロデューサーが、どうしてこんな——」
『もう二度と、元の日々には戻れないんだよ』
「……っ」
あの男の姿、そしてあの言葉を思い出し、凛は表情を曇らせる。元の日々……本当は、こんなはずじゃなかった。
自分は、アイドルで、ただの女子高校生。
死神と戦う日々が続く中で、忘れかけた自覚。ただの一般人として生きていたはずの数ヶ月前。全てはあの日、卯月から始まった自分の物語——
そうだ、物語……今、自分を取り巻く苦しみの物語は、あの『CINDERELLAGIRLS MIND』から始まった。
「っ……思い、出した……」
ずっと忘れていた……思い出したくなかった、『最後の記憶』。あの男との邂逅により、凛がそれを取り戻してしまった……その時、物語は大きく動き出すこととなる。
——自分は、何故、今、戦ってるのだろうか?
現実世界のRG回の今回で、とうとう凛の記憶が完全に戻りました。ついに取り戻した最後の記憶である『CINDERELLAGIRLS MINDの一幕』により、今後ネクと凛の関係が大きく動くことになります。
再生に最も時間がかかった記憶……思い出したくなかった過去を思い出した凛。
すぐ隣にいる凛を、死んだ『アイツ』に照らし合わせているネク。
どちらも独りよがりになっていた中で、これまで、本当にパートナーとして心を通わせていたことがあったのか。
346プロダクションの未来を永遠に変えた、『CINDERELLAGIRLS MIND』……その中のある一幕にて、『凛は何を思っていたのか』。
次回、ネク&凛回です。