すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
一方、RGに残された加蓮達も、自ら行動を開始する。
彼女達の辿り着く場所は、ただ一つ。
『……これは?』
昨日、あの後に侑芽のパソコンに届いたメールには、謎のURLが記載されていた。
これは美城からのメールだった。
『私は、協力者に死神の計画を伝えられ、そして奴らの情報網を掴んだ。ここに繋がれば、真実に至ることが出来るはずだ』
『死神、SNS……?』
加蓮も、自身のスマホからURLを通じて、内部にアクセスする。
パンキッシュな黒い背景に、可愛らしいピンクのドクロが描かれたそのサイトは、いわばTwitterと同じような仕組みで、このSNSに繋がる人々が様々な情報を発信していた。
だが、中にいるのは全員『運命の死神』に所属する下級死神達。日記のような使い方はせず、業務的な報告がほとんどを占めていた。
『死神アカウント……どうやら、先日の4253プロダクションの男、音流零が『指揮者』として先導して、死神を率いていたようですね。このアカウントの所持者も、彼のようです』
ちひろもアカウント内の投稿を調べ、これまでの彼の行動、そして、アイドル襲撃の一部始終を見つけ出した。
『……アイドル達はボイコットを引き起こした訳ではなく、奴らの手によって消滅させられた。我々がこうして対立することも、全ては奴らの思う壺だったということか』
『346プロダクション、崩城、計画……酷い……こんなの、許せないよ……!!』
自分たちを陥れるための罠……アイドルの一人として、加蓮は怒りを抑えることが出来なかった。
『346プロ……それに、この渋谷のアンダーグラウンド、リアルグラウンドを崩壊させることも計画に含まれていたみたいです。全ては、『ウィルド』のため……?ウィルド?』
その時、ちひろは謎の言葉、ウィルドに目を付けた。
『ウィルド……って、ええと、確か……』
『ん?君は、何か知っているのか?』
美城が尋ねる中、加蓮は目を瞑り、そして思い出したように目を開く。
『そうだ!!確か、ネイルの勉強のために見てた雑誌に書いてあったんだ。ルーン占いで使うルーン文字『ウィルド』。その意味は……』
『……【運命】か』
答えに気づき、美城は静かにそう口にした。
全ては、運命のため……だとするなら、この現状もまた、変えられることのない絶対的な運命だとでも言うのか。
「……遅いですね、ネク君達」
そして、五日目となった今日。あのSNSによれば、今日は計画の実行日。つまり、渋谷崩壊当日となっている。
だが、状況を理解したところで、能力を持たない侑芽、ちひろ、加蓮には、ただ待つことしかできなかった。伝える手段も、何もない。信じることしか……
「……待ってて、ここを死神から守ることも、大事なことだって、ネクに言った……けれども」
力を持たず、足手まといになった自分を思い返す。だが、二日経っても凛、そしてネクはここに戻って来ていない。
じっと待って、動かずに信じ続けることは……本当に今やるべきことなのだろうか?
加蓮は、ついに決意して広間のソファを立ち上がった。
「やっぱり、私たちも行こうよ……!!みんなが集まる、SGに!!」
そんなことを言っても……そのように返す言葉を発することは、彼らにもなかった。
「……居ても立っても居られないって、こういう気持ちのことを言うんですよね」
「ええ、僕も全く同じことを考えていたところです。加蓮さん、あと五分で支度済ませられますか?」
「もうとっくに出来てるよ。例のバッジも、大事なものは全部持ったし」
「じゃあ、僕は車を出しに行きます。いつでも専務と連絡出来るように、ちひろさんは僕のパソコンをお願いします」
「分かりました。行きましょう、加蓮ちゃん!!」
「うん、分かった!!」
まるで初めからこうするつもりだったように、スピーディーに事を進めていく三人。まだ何をすればいいのかも分からないというのに、どうするというのだろうか?
実は、彼らには密かに温めていた考えがあった。
「……今日が、最後の日か」
ゲームマスターまで、後一歩のところまで迫ったもの、結果としてその尾を捕らえるまでには至らなかった。
携帯の画面に写る、一文のミッション。
【ゲームマスターを倒せ。】
多くの人が行き交う、完成目前へと迫った渋谷SGハチ公前広場の腰掛けにて、ネクは缶ジュースを片手に、最後の休息をとっていた。
「どーいうことなんだにゃ……ゲームマスターを倒すなって、李衣菜ちゃんは、何であんなことを書いたんだにゃ?」
その隣では、昨日に引き続き共に行動しているみくが、手に持つ缶を置いて頭を抱える。そんなみくの抱える謎を、同じくジュースを飲みつつ、逆となりの凛も考える。
「ゲームマスターを倒すことが、死神達の罠、とかかな?」
「でも、ゲームマスターを倒さないと、みんなは元の世界に戻れないし、この世界も爆発しちゃうにゃ!!そうしたら……ここに集まったみんなのソウルも……」
SGを構成するのは、運命の死神によって消されたアイドル達のソウルだ。このことは既にみくに伝え、そこから参加者同士メールを使い他の全員にも伝えてある。
「……そもそも、ゲームマスターは一体誰なんだ?」
「確か、音流零の協力者が、ここのゲームマスターを担当してたはずだけど……」
「その協力者の存在自体が、罠だとすると……」
音流零は、ネクと凛に、究極の絶望を与えると言った。奴らはこれまで何重にも計画を重ねてきた。警戒を強めるのは当然のことになる。
と、その時、
「……闇に、飲まれよっ!!!」
彼らの耳に、独自を感じ取らせる言葉が伝わってきた。
「あ、蘭子!それに、みんなも!!」
メールで、既に待ち合わせ場所は送っていた。これまで別々の箇所で分散してミッションに構えていた彼女達も、最終日の今日、とうとう全員がここに集まった。
「ボクらなら、この日に辿り着けることは分かっていたさ。運命を弄ぶ神様に、みすみす従うだけの脆弱な存在ではないからね」
「ネクくん、ひっさしぶり〜!!どーお?あれから凛ちゃんとは仲良くやれてる〜?」
「久しぶりってほどでもないでしょ、きらり。やっほー、ネク君、凛ちゃん」
「ちょっと!みんな、みくのことは無視かにゃ!!」
蘭子、飛鳥、杏、きらり、そしてみくも混ざり、一気に場は混沌と化す。でも、もうこの空気感にも慣れてきたネクは、平気で話を進め出す。
「よし、みんな揃ったか。ここを立ったらもう戻ることは出来ない。準備はできてるか?」
ミッションメールには、既にゲームマスターの居場所が記されていた。場所は渋谷マークシティ屋上、ヨシュアの言う、渋谷中の執念が集まる場所だ。アイドル達の手に刻まれた、赤黒いタイマーは、今か今かと刻む時を待っている。
「当然だ、異界者よ!!次元をも超越する歌姫の力、今こそ解き放ちし時!!」
「ああ、もう情報は頭に入れてある。ゲームマスター討伐を、最優先にして行動するんだろう?」
「大丈夫にぃ!友達もいーっぱいいて、杏ちゃんも加わればもう百人力だにぃ!!」
「いつの間にか、渋谷を救うなんて話になってるなんて……めんどいけど、そんなことさせる訳にはいかないし。今日だけは働いてしんぜよ〜」
準備は整った。これより、SG最後の戦いが幕を開ける。
「李衣菜ちゃんも、ゲームマスターも、今度こそ全部の謎を明らかにするにゃ!!」
「明日の新しい世界のために……行こう、ネク!!」
「ああ!!」
残ったジュースを一気に飲み干し、いよいよ決戦の場所へと駆け出して行く参加者達。だが、そのゲームマスターの正体は……彼らはまだ知る由もなかった。
ノイズ……加蓮達がその名前を知ったのは、死神SNSを見た時が初めだったが、存在自体は元から知っていた。
というのも、元々あの化け物の噂は、前から渋谷中に流れていた。少し前から、『人が襲われていた』という噂が広まり始め、一時は随分な騒ぎになったこともあった。
そして今日より四日前、凛とネクがこの世界に来た日。
最後のアイドルとなった加蓮は顔を見せるために、数週間ぶりにラストナンバーの専用待機所となった女子寮に行き、そこで謎の封筒を手にした。いつの間にか室内に置かれていたその封筒の中には、『凛を渋谷スクランブル交差点に迎えに行け』というメッセージが入れられていた。
そして凛を迎えに行き、そのノイズに襲われた。あの後、渋谷は混乱し、さらに狙われたことから当然加蓮は家に帰れなくなり、よって空き家同然である女子寮へと、しばらく身を隠すようになったというのが、今までの流れだ。
車に乗りこみ、久々に渋谷の街に出た加蓮、侑芽、ちひろ。
ちひろの持つパソコンからは、美城からの連絡が随時受信される。美城にはTwitterなどから当時の情報を集め、死神達の足取りを掴むための手がかりを探してもらっていた。
その結果、過去のツイートから『アイドルの目撃情報』と『ノイズの目撃情報』の日時、場所が多く一致したことがわかった。
【あれ?もしかして、キャットストリートのあのカフェにいるのって……346プロのアイドルじゃね?こんな遅くまで店の中に……何だか可哀想だな】
【O-EAST前にて、例のアイドル達発見、拡散求む。】
【今、東急デパートの4階で、あの子達を見たの。あんな歳で社内のいざこざに巻き込まるなんて……何だか、気の毒ね】
【おお!!あれ推しだった子だわ!!!マジで!?渋谷駅の中ですれ違ったんだけど!?やべっ、もう会えないかもしれないから、サイン貰いに行こうかな…】
【とうとう私も見ちゃった、あの化け物。深夜のキャットストリートで。やっぱり、噂は本当だったみたい】
【最近、怖いわ。マジで。ここまで広がる怪奇現象の噂って、普通に考えてヤバくない?今日もO-EAST前で出たって言うし】
【今、例の化け物みたいな奴がいたような……多分気のせいだとは思う。だってここデパートの中だし。商品にもそういう柄のやつあったし……平気、だよね?】
【人混みの中だから、見間違いかもしれないけど……例の化け物、渋谷駅に今いた】
「確かに、日付も場所も一致するものが多いですね」
「それだけじゃないよ、ほらこれ。これらの場所には共通して、いくつかのプロジェクターが設備されてるみたい」
車に揺られながら、ひたすら画面を睨みつけ続けるちひろと加蓮。
次々と送られてくる証拠ツイート、そして死神SNSの情報から、次にノイズ騒動の側で、様々な形にてプロジェクター設備が用意され、それが4253プロダクションのイベントに使用されていたことが分かった。
「4253プロダクションは、ノイズの一連の騒動はプロジェクターの不具合が原因だったってツイートしていたみたい」
「となると……ノイズをRGに出して、アイドルを消滅させる時のごまかしとして、あえてプロジェクターを配置していた、といったところでしょうか?」
「そう。だから、それを逆手に取れば……!!」
加蓮は、RGにノイズが現れるあの出来事こそが、自分たちの最大のチャンスになると睨んでいた。前提として、ノイズは自然発生の野良ノイズと、死神の作られたノイズの二種類に分けられる。4253プロダクションが運命の死神だと分かった今、噂となったノイズは後者だと分かり、それを操る死神がいたことが分かる。目印はプロジェクションマッピング……
その時、
「あっ、今のとこ!!プロデューサー、ここで降ろして!!」
「えっ……ああっ!プロジェクションマッピングが!!」
ちょうどこの話をしていた最中、宇田川町グラフィティアートの向かいの建物に設置されていた機器が、三人の目に入る。
中央に大きなレンズがある。間違いない、プロジェクションマッピング用のプロジェクターだ。ここでも、アイドルを狙った為業が起こったとも考えられる。
つまるところ、
「ほらほらー、しーにがーみ、さーーーん!!!!!!!」
プロジェクターの正面に立ち、戯けた口調で死神を煽る加蓮。侑芽、ちひろには車でここから離れてもらい、わざと『自分一人になる状況』を作り出した。
案の定、すぐに不快な雑音がしてきた。加蓮の目の前に現れるノイズのシンボルマーク、そこからクマ型ノイズが姿を見せる。
「ふふっ、ほらほら、ここに絶好の餌があるぞ〜なんてね」
「私のこと、殺せるなら殺してみなよ、死神さん?」
ノイズと一対一で対峙する加蓮。だが臆することなく、壁に描かれたパンクな猫と同じように、彼女は舌を出して笑った。
「な、何だにゃ、ここ!?」
「虚数空間だ!!だいぶ空間が歪んでる、長くいるのは危険だ!!」
マークシティへとたどり着き、最上階へ向かう彼らの前に立ちはだかったのは、謎の多い「虚数空間』と呼ばれる空間だった。
並行世界の一種らしく、恐らくこの疑似並行世界とも関係があると考えられる。渋谷マークシティの非常階段を登るルートで上に向かっているが、普段とは違って動きにくく、さらにその中でノイズとの戦闘になり、
「くっ……!!」
「凛ちゃん!大丈夫にぃ!?」
「うん……今までと違って、オーバーロードが、使いにくい……」
ネク、凛の最大の武器とも言える、空間を自由自在に動くことを可能にするフリーフロー、オーバーロードとは相性が非常に悪く、ノイズ達に苦戦を強いられていた。
空間を蹴ろうとしても、液体のように波打つ壁や床では上手く足をかけられず、フリーフローを制御できない。
「凛!フリーフローを使わないで、従来通りのバッジで戦え……なっ!?」
長いことフリーフローを使っていたことで、ネクの動きにも鈍りが生じる。『紫』色のクモ型ノイズ数体が、無防備なネクに襲い掛かろうとした時、
「よ!っと」
「にゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
そのノイズ達は、目の前で一斉に硬直状態になり、その隙に背後に回り込まれ銃撃を喰らい消滅した。
後ろを振り向くと、『C・A・T・A・B・L・E』、『ギャップこそが生き様』で、それぞれ助けてくれたみくと杏が注意を促す。
「今まで強かったからって、調子に乗るなにゃ!!ほら!ちゃんとみくに感謝するにゃ!!」
「ほれほれ、凛ちゃんに良いところ見せる前に、自分が死んだら元も子もないぞ〜」
「わ、悪い……って、別にそういうつもりじゃないぞ!!」
さり気なくみくをスルーしつつ、杏にからかわれたネクは、初めてのサイキックであるパイロキネシスを使って、慎重に感覚を取り戻していく。
「凛ちゃん!サポートはまっかせるだにぃ!」
「助かるよ、きらり!」
凛も通常のショックウェイブを駆使し、背後は『キャンディンパクト』という重撃サイキックを使えるきらりに任せ、何とか虚数空間攻略を進める。
「……最終日は、やはり伊達じゃない。そう簡単には、ボクたちを通してくれそうにないね」
「この数……まさか、冥府より舞い戻っているというのか?」
無数の剣撃で手数が多く、さらに浮遊できることで、いち早くこの虚数空間に適応した飛鳥、蘭子。初めは二人が先導して階段を上がる形だったが、徐々にその進みが鈍くなっていく。
その理由として蘭子が睨んだのは、この紫色のノイズの特殊能力、『スプリット』だ。いくら倒したところで、その直前に分裂されてしまえば、数は減らない。
「……っ、あ、やばっ」
「にゃあっ!!」
「杏!みく!……こうなったら、アレを使うしか!!」
大量に分裂するクモ型ノイズに、徐々に全員が押される。空間も不安定になり、揺れる足場に歩くのも困難になってきた。
このままではずっとここで足踏みを喰らうことになってしまう。もう考える暇はないと、ネクはエンタングルメントを放ち、そこにフリーフローを使って滑走し、凛に接近する。
「ネク!!こいつら、倒しても次々と出てくる!!それに、オーバーロードなしだと、結構硬い……!!」
「凛!技、出せるか!?ハーモナイザーバッジを使うんだ!!」
そう言うと、ネクはハーモナイザーバッジを取り出し、凛にマッシュアップを試みる。
「で、でも、この前は失敗して……」
「……今なら、絶対に行けるはずだ。そうだろ?」
「……うん、そうだね。私も、そう思える気がしてきた!!」
以前の力の暴走、今ならそれを制御できる。そうお互いを信頼し合い、呼吸を合わせ始める凛とネク。目を瞑り、意識の奥深くにて二人は『オルタナティブカード』と対峙する。
そこにあるのは、赤、白、黒の三色が乱雑に塗られ、中央にスカルマークのあるカードと、桃、黄、蒼の三色が縁取るように丁寧に色付けされ、中央に時計マークのあるカードの二種類が大量に積まれたカードタワーだった。
上から次々とカードを引き、前者はネクが、後者は凛が手にすることでシンクロが深まっていく。このゲームは二人が協力しなければ、絶対にシンクロが深まらない仕様になっていたのだ。
「もう少し……」
「あと少し、で……」
感覚を研ぎ澄ませる二人は、きらり、杏、みくによって守られる。
営業スマイルを振り撒くことで硬直させ、そこを重撃と速撃でそれぞれ仕留めることで、ノイズ達を一度たりとも触れさせない。
「ぜー、はー……お得意の笑顔も、段々しんどくなってきた……」
「はー、はー……笑うだけで疲れてどうするにゃ!!もー、凛ちゃん!まだなのかにゃぁ!」
「……っ、もっと、早く……」
「慌てるな、集中しろ。集中して……感覚を研ぎ澄ませろ」
「感覚を、研ぎ澄ませる……」
「ああ、その調子だ……よし」
「「……来た!!」」
瞬間、空間の空気が鋭く乾く。瞳を開いたネク、凛を軸に周囲に凄まじい衝撃が走り、それにより吹き飛ばされたノイズを皆頭上一直線に集める。螺旋階段の中心の空洞部分に、これでもかと空間中のノイズが集まっていく。
「凄まじき力……これぞ、異界者の織りなす終焉の調和!?」
「あれは重力操作か?たった二日で、これほどの力を手にするなんて……」
衝撃として目に見えなかった力は、徐々にガラスの塊となって可視化される。手を開き、無限の力を取り込むように胸を出すと、周囲に浮遊するガラスの塊は凛とネクの頭上に集まり、円を描くように廻り、『十二本』のガラスの短剣へと姿を変える。同時に、それは赤黒いオーラを纏い、短剣の刃には形向きがバラバラな死神のスカルマークが点々と刻まれる。
凛の身体は蒼白く、ネクの身体は赤黒く光を放ち、一見すると存在する世界も物語も違う、相反するようにも見える。だが、未来を望む思いはどちらも変わらない、そのことが揺るぎない軸となり、力となる。
「私たちの未来は、奪わせない……!!」
「運命は、俺たちが決める……!!」
次の瞬間、中央に収束したノイズ達は十二本の短剣に一斉に貫かれた。一時、ニ時、三時、四時……時計の時刻にあった位置から、次々と剣が飛び出していった。ノイズに空いた風穴からは黒と白のインクが飛び散り、剣の蒼白く光輝く衝撃、赤黒く禍々しい雰囲気と混ざり合い、その光景はまさしく混沌そのものだった。
美しさも、苦しさも、あらゆる感情が溢れ出す中、確かなる決意とそれにふさわしい力を、その技からは感じ取ることが出来た。
「なんて……壮麗で不協和な天象……」
「華麗で、凶々しい。複雑に絡み合う心を、単一の力として集約させ、自らの手に収めた。と言ったところか」
「すごい見た目……にゃ……」
「わー!!見てみてぇ、杏ちゃん!ぶしゅーって、インクがオシャレに噴き出してるにぃ!!」
「……めっちゃ楽しそうにしてるけど、結構グロいよ」
貫通した剣は、ノイズの消滅と同時に音を立てて破裂した。ガラスの欠片は蛍光灯を反射し、輝きながら悠々と、地上のネクと凛に降り注ぐ。
「……出来、た」
じっと上を見つめていた凛は、少し経ってから身体を震わせ、そして、
「やった……やったね、ネク!」
頬を染め、高揚した様子で隣のネクの両手を掴み、包み込む。
「ああ!お前の合わせ方も、すごい上手かったぞ!!」
「へへ!私だって、ネクに負けてられないから!」
初めてのマッシュアップの成功に、ネクにも素直な嬉しさが込み上げる。二人して目を合わせ、互いに珍しく、無邪気に屈託のない笑顔を浮かべる。
その二人の盛り上がる様子は、誰が見ても分かるくらいのものだった。
「……まーったく、いつの間にあんなに仲良くなってたんだか」
「異界者と手を結ぶ輝きし姫……この絆こそ、楽園の福音そのものだ!!」
「あんな数をズバズバーって倒しちゃうなんて、二人ともすっごいにぃ!!えでん、えっでーん!!」
「……きらり。その言葉はだね、もう少し華麗に、そして小さく静かに吐くようにして言うべきなのさ……」
二人に対しての言葉や、それ以外に疼いてしまった者の声や、様々な言葉がこの虚数空間内に響き渡る。そう、虚数空間内に。
ここはまだ、虚数空間の中だ。
「……!?何にゃ!?」
不自然さを感じて右を向いたみくは、一ヶ所だけ壁が不自然に動くのを見つける。外側から何かがぶつかっているのか、小さなヒビが入ると、そこからはあっという間に壁一面にそのヒビが広がっていく。他の全員も異変に気づき、束の間の緩みを引き締めると、全員が一斉にその壁から離れる。身構え、息を殺してその壁を見つめる。
「……はぁっ!!」
その瞬間、その壁が光を放ちながら、完全に崩壊する。空間全体にヒビが入り、今まで液状だった床が固体に再編され、そこから音を立てて壊れていく。
「……うあっ!!」
「凛!!」
「うわぁっ!?」
「杏ちゃん!!よいしょ……っとっと!!」
「我が友よ!!」
「蘭子!!すまない!」
「このままじゃ……う、うわぁぁぁぁっ!!!!!…………にゃ?」
「みく!掴まって!!」
空間が割れ、光が満ちた空中に投げ出されてしまった全員。その中、参加者として、離れないよう各パートナー同士と咄嗟に手を繋ぐ。ネクは凛と、きらりは杏と、蘭子は飛鳥を手を掴み……そして、みくは。
「みんな、こっちだよ!!着いてきて!!」
気づいたら自分の手を掴んでいた、隣の金髪の少女。彼女は参加者全員に呼びかけ、みくを連れて光の中を泳ぐようにかき分けて先導する。
「まさ、か……」
誰が自分の手を握っているのか、薄々とみくは勘づいていた。だが、そんな複雑に絡まるみくの方を見ることなく、目の前の少女はただ正面を向いて進み続け……
「よっと。とーちゃく」
次の瞬間、参加者たちは全員、マークランド2階非常階段出口に立っていた。どうやら虚数空間は1階と2階の出口に繋がっていたらしい。多くの人々が前を通り過ぎて行き、ネクは元の空間に戻ったことを知る。
「元の空間に戻った、のか?」
「そう、みたい」
状況を把握出来ず、辺りを見渡す参加者たち。だが、一番先頭にいたみくだけは違った。肩を震わせ、今も自身の手を握り続ける少女を見る。緑の瞳、そして参加者になってからもずっと付けている、このヘッドフォン。間違いない。
「ふう……よかったぁ、間に合って——」
「やっと……見つけたにゃぁぁぁぁぁぁっ!!」
「はえ?……ってちょ、ま、うわあぁぁぁぁっ!!」
困惑する参加者たちの目の前で、急に覆い被さるようにして、みくはその少女を押し倒す。急な不意打ちに、少女は驚きの声を上げ、大きな音を立てて地面にぶつかる。
「うううううう…………りーいーなー!!!!!」
「いったたた……み、みくってば!!急に飛びかかって危ないでしょ——」
「うっさいバーカバーカ!!勝手にみくのこと置いてどっか行っちゃう李衣菜チャンが悪いんだにゃ!!ほんとーーーーーに心配だったにゃ!!!」
「うっ……ご、ごめんみく……」
「もー許さないし、覚悟するにゃ、李衣菜チャン……今度みくの前から姿を消してみるにゃ!そしたら李衣菜チャンのこと、一生バーカバーカって呼んでやるにゃ!!」
「……それ、ただバカ二回言っただけじゃん」
「にゃんだと〜!!!!口答えする気かにゃ!!」
「ちょ!?あ、いたたたたたたぁっ!!!!!!!」
「ふん!解散しないだけ、まだありがたいと思えだにゃ!!」
「……へっ?」
思わず、腑抜けな声が漏れるネク。
「なんだ、あれ……」
突如として始まった喧嘩に唖然とするネクに、後ろから蘭子が解説する。
「見よ、異界者よ。彼女こそ我らと共にこの鳥籠に囚われし者、最後の一人の多田李衣菜だ」
「多田李衣菜……ずっとみくが探していた、アイツのパートナーか」
「ようやく巡り会えた……というには、些か都合が良すぎる。李衣菜、さてはキミは、敢えて今になってからここに現れたな?」
鋭い飛鳥の一突きに、煙が立ちそうなほど戯れあっていた二人は動きを止める。
「えっ……それって、わざと機会を窺って、ってことにゃ?」
「……」
「当たり、だね。さあ李衣菜、何があったか教えてもらおうか。何の理由もなしに、大事な友達を一人にするような奴ではないだろ?」
「……へへ、流石飛鳥ちゃんだね。言おうと思ってたこと、どんどん先に言っちゃうんだもん」
つねりあった頬を摩りながら、ゆっくりと李衣菜は立ち上がる。みくに手を伸ばし、立ち上がるのを手助けした後、少しばつの悪い表情をしてから話し始めた。
「私、みくと一緒で、このSGで探し物してたんだ。そして、やっとの思いで見つけたんだよ」
そう言って、李衣菜は後ろを向き、誰もいないはずの場所を見る。つられてその方を見るも、そこにあるのは人が座っているベンチだけで、特に挙げることは何も……
そう、凛が思った時。
「……!!?」
そのベンチから、一人の男が立ち上がった。微かにシワが付いているも、ある程度整えられた黒いスーツ。きらりに匹敵するほどの大きな身長。ネクとは対称的のマッシブな体つき。そして、笑顔が不器用そうな鋭い目。
真面目さを感じさせる几帳面な歩き方で、こちらに近づいてくる。
「誰だ?」
その男を見て、全員が目を見開く中、唯一疑問を口にするネク。李衣菜は答える。
「……このSGのゲームマスター、プロデューサーをね」
「アンタが、ゲームマスター……!?」
「プロデューサー……まさか、凛がいたシンデレラプロジェクトの?」
「「「「「……!!!!」」」」」
「そんな、どういうことなの!!?」
衝撃に錯乱し、叫ぶようにして大声をあげる凛。
「……渋谷さん」
「答えてよ!!ねぇ、どういうことなの!?」
危うく掴みかかりそうになるのを、咄嗟に李衣菜が静止する。
「凛ちゃん!?お、落ち着いてって!!」
「落ち着ける訳ないでしょ!?だってプロデューサーは、あのライブの日からずっと、私たちの前から消えたはず……」
「そうだったんだよ!!でも、ここにいたの!!このSGの中に、私たちと同じで死神に囚われてたの!!」
「……えっ」
李衣菜の言葉を聞き、凛の身体の動きが止まる。そして、凛の話から男は推測し、やはり自身の考えている通りのことが起こっていたことを知った。
「……私は、現実世界では消えていることになっている。これは、正しかったということですね」
「プロ、デューサー……何を、言ってるの?」
「私は、以前のライブによるボイコットを率いて、その責任から346プロダクションを去ることになった。
これは……間違った記録です。実際には、私はここでゲームを開催する媒体として……死神によって捕らえられていたんです」
あのライブの時、凛たちを逃し、押し寄せるマスコミ達に揉まれること数時間がたった後。大混乱に陥った会場の後始末を進めるべく、彼は一睡もすることなく動き続けた。スタッフ達に指示を出して会場を清掃し、美城専務に連絡を入れて記者会見の場を託し、さらに自ら事故の原因究明に走り、渋谷宇田川町の付近にてとうとうベンチに倒れ込んでしまった。
元々ライブ前から忙しい日々続きだった彼にとって、限界はもう既にそこまで迫っていた。
『……ダメ、だ……私が、私が倒れていては……』
この大きいだけの身体に、いくら鞭を打っても全くびくとも動かず、そのまま意識が朦朧としてきた。
『……皆、さんを……私が守ら、なくて、は』
極度のストレス、極度の疲れ、身体が悲鳴を上げ続け、そしてそこに。
『がはっ……』
突如として、みぞおちに鈍い痛みが走った。気絶する寸前、何者かに肘を入れられているのが見えた。
『今、その苦しみから解放してやるよ。アイドル達と共に……永遠に、な?』
——次に目が覚めた時、既に長い時間が経っていた。まだ誰もいない静かな渋谷の真ん中、スクランブル交差点で目を覚まし、非通知メールを確認した。そこに書かれていた非現実的な内容は、それと対をなした絶望的な現実だった。
「死神……アイドル……殺し……?皆さ……渋谷の再生……346プロダクションの崩壊……運、命」
全ての真相をいち早く知らされ、しばらくその場から動くことが出来なかった。しかし、そこに六人の参加者がやって来た時、意を決して立ち上がり、素早く行動を始めた。
ゲームマスターとして出来ることは、【出来る限り簡単なミッションを出すこと】のみ。所々で零に邪魔されるものの、自身はメールに記載されていた、現実渋谷の壊滅を阻止するべく、SGを奔走する。混乱する頭にどうにかケリをつけ、考えるより先にとにかく行動した。
しかし、手がかりは全く見つからず、時間だけが経過。SGの膨張を止める方法が見つからない中、
『プロデューサー……だよね?』
『多田、さん……?』
『プロデューサー……はぁっ!!やっぱりそうだ!!プロデューサー!!』
O-EAST近くの路地裏にて、彼は前川みくと離れた多田李衣菜に見つかってしまった。まさかのパートナーの元を離れるという行動に驚く中、李衣菜のみくへの信頼が故の行動だと知り、今まで緊張で張り詰まっていた頭が少し和らいだ。
『……何故、私のところに来たのでしょうか』
『何故って、そんなのプロデューサーがいたからに決まってんじゃん?』
『ですが、前川さんのことを……』
『……た、確かに、そういえばみくに何も言ってなかったような……メールも、何でかもう届かなくなっちゃってさ……』
『多田さん、やはり貴方は戻るべきで』
『ダメだよ!!ゲームマスターはプロデューサーなんでしょ?このSGのゲームと崩壊を止めるために、自分の命を投げ出すなんて……そんなの聞いて、放って置けないから!!』
『……プロデューサーも、みんなで一緒に帰るの!!きっと最後には、みくともまた会えるから!!』
これ以降、李衣菜は彼の監視役のような役割となり、彼は全てを李衣菜に伝え、渋谷川の奥にある死せる神の部屋を拠点に行動を再開。
そして残り四日、このSGにネクと凛が現れ、最後の一日、長い探索の末、今日ついに彼と李衣菜は『SGから渋谷を救う方法』を見つけたのだった。
「……ここです」
プロデューサーと李衣菜のいきさつを説明されつつ、参加者たちは別ルートから渋谷マークシティの屋上に到着する。
まだ昼頃にもかかわらず、空にはどこか朱色の混じった雲模様が広がっていた。
凛、ネクはこの光景を見たことがある。
「空が、赤い」
「インバージョンの時と同じだ。残り時間ももう30分を切ってる」
残された時間はない。渋谷を救う方法、唯一それを知っているプロデューサーだけが頼りだ。そう言うように、全員がプロデューサーに目線を向ける。プロデューサーは簡潔に説明する。
「渋谷を救う方法、それはこの場所にたまるソウルを解放することです」
「ソウルを解放?」
先ほどから、何とか落ち着きを取り戻した凛が尋ねる。
「はい。このマークシティの屋上に、SGが膨張される際に吸収されるソウルが多く滞留することが分かったんです」
「……俺たちの渋谷の『ポークシティ』も同じで、渋谷中の執念が集まるようになっていた。このSGのソウルも、同じ仕組みになってるのか」
ネクが付随するように言うと、プロデューサーはその答えを根拠として、説明を省く。
「桜庭さんの言う通りです。そして、ゲームマスターとしてゲームを管理できる私なら、恐らくソウルを分散させることが出来ます」
「ソウルを分散させれば、ソウルが均等にSG中に行き渡る。そうなればええと……と、とにかく爆発は防げるみたい!!これならみんな全員でRGに戻れるよ!!」
ざっくりとした説明だが、李衣菜は勢いで笑顔を見せ、結果を示唆する。その勢いのおかげもあったのか、一緒に帰れると聞き、参加者たちの表情にも徐々に笑顔が浮かび上がる。希望を浮かべ、ただその先にある明るい未来だけを見上げる。
そんな少女たちを見て、肝心のプロデューサーは……口角を上げ、出来る限りのガチガチの笑顔を浮かべた。
笑顔を浮かべることしかできなかった。
この先の不安が抜けていく気がした。
「……さ、お話は一旦終わりにして、まずはプロデューサーにSGを止めてもらわないと。プロデューサー、頼んだよ」
「頼んだにゃ、Pチャン!!」
「世界の命運を託すぞ、我が友よ!!」
「は〜、これでようやくぐうたらできる……ありがと、プロデューサー」
「Pちゃん!帰ったらお疲れの身体に、い〜っぱいきらりんぱわーしてあげるにぃ!!」
「プロデューサー……信じてる。今度は絶対、一緒に帰ろうね」
李衣菜、みく、蘭子、きらり、杏、そして凛。かつて共に舞踏会へと行き、そして逸れてしまった者たち。夢の狭間に落ち、それでもまだ希望を捨てなかった少女たち。一緒に帰る、魔法使いは彼女たちからそう約束を迫られ、距離をどんどん詰められていった。その近さが、シンデレラと魔法使いの強い繋がりを示していた。
「……みんなにとって、彼はよほど大切な人なんだね。溢れんばかりの信頼が、ボクの心にも溶け込んでくる」
「ああ、俺にも伝わる。みんな、また会えて、よかったな」
一見すると、微笑ましく感じられるこの感動の再会。
飛鳥、ネクは、あくまで傍観者として、このシンデレラプロジェクトの再会を、ただ見守っていた。
これより行われる最後の仕上げ……その前に一つだけ、魔法使いは尋ねた。
「皆さん。最後に一つ、よろしいでしょうか?
……杉蕗侑芽という男を、皆さんは信用していますか?」
杉蕗侑芽。シンデレラプロジェクト二期生担当プロデューサーとして、自ら直々に選んだ彼の名前を挙げる。
だが、アイドル達はその名前を聞いても、微妙な表情しか浮かべなかった。
パッとしない、あまり積極的に話をしない、パソコンに向いてばかりで関わりが薄い。とにかく侑芽とアイドルの間には、まだほとんど繋がりがなかったのだ。
予想通り、ゲームマスターとして、アイドル達の動向を見た際、侑芽の話が六人の間で上がったことがほとんどなかったところから察していたが、最後の心残りとして、プロデューサーは、この侑芽の話をどうしてもしたかったのだ。
「私は最後にこれを伝えたくて、皆さんをここに集めたんです。
元の渋谷に戻ったら、どうか彼のことを信じてあげてください」
「皆さんの言う通り、まだ彼は自分の理想に囚われ続けています。舞踏会の後、まだ新人だった彼と出会い、何度も交流した私も知っています。ですが、私にはそれだけではなく、他にも見出したものがありました」
「それは他でもない、あの目です」
「……はぁ、っぐぁぁっ!!」
移り変わり、場所は現実の宇田川町。クマ型ノイズが車に突進し、その裏に隠れていた加蓮は大きな衝撃を受けた。
身体には多くの傷が目立ち、普通の人間が戦うには、既に長すぎる時間が経っていた。息が上がり、徐々に足元のフラつきが大きくなってきた。
「はぁっ……はぁあっ……あ、ぁぁっ……」
よろめき、ついに膝をついてしまう加蓮。クマ型ノイズはトドメの一撃として、大きく空中へと飛躍し、そこから巨大な腕を振りかぶる。
「はぁっ、はぁっ……は、ぁ…………ふふっ」
しかし、何故か加蓮は笑みを浮かべた。鋭い爪が迫り、自らの身体を引き裂こうとしているにも関わらず。
〈ウオォァァァァァァァァァァァゥ……ゥゥ?〉
「はぁ……私、たちの……勝ちだよ」
爪が当たるその瞬間、加蓮が分かりきっていたように呟くと、ノイズは白黒の砂となり、突如として消滅した。その砂を頭から被りつつ、加蓮はその場から静かに立ち上がり、壁に手をつき、そのまま正面を見る。
「うぉぉっ!!!は、離せこのっ!!」
自分の前方に見えたのは、電柱の陰に隠れていた紫色のフードを被った死神と、
「ふぅっ、ふぅっ……!!離すわけないでしょうがぁっ!!このぉぉぉぉっ!!」
「離し、ませんよ!!さあ諦めて、大人しくしてください!!」
その死神の両腕をそれぞれ抱きしめるように掴むちひろと侑芽の姿だった。
「……計画、成功だね」
息を整え直して、加蓮は真っ直ぐと向かっていき、グラフィティアートを抜け、その死神、自分にノイズを差し向けてきた張本人の胸ぐらを勢いよく掴む。
「ひいいっ!!」
「さあ、早く出してよ。私たちの分の『参加者バッジ』」
加蓮たちの考え……それは運命の死神のメンバーを誘き出し、そこから参加者バッジを奪うというものだった。
加蓮自身が囮になった後、死神SNS内でメンバーを偽った美城が、死神を騙して先輩を装い、油断させた隙に侑芽とちひろが拘束をする。
この作戦は、見事にうまく行った。
「れ、零さん直々に連絡が来て、昇進の知らせかと思ったら……騙すなんて、酷いぞ!!」
「酷い……?酷いのは、どっちの方だって言うの……!!?」
太く重い加蓮の声に、もはや新人如きの死神が口答えすることはできなかった。胸ぐらに込める力を、さらに強める。
「私たちから多くの物を奪ったアンタ達を……死神を、私は絶対に許さない!!!」
死神の懐に手を伸ばし、そこに忍ばせていた銃を奪うと、加蓮はそれを死神の脳天に容赦なく突きつける。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「……私はどんなことだってするよ。アンタをここで殺して、バッジを強引に奪うことだって」
「ひっ!!た、助けてくれ!!俺たちは元々一般死神で、今はただ、あの零さんに従ってただけなんだよ!!今の渋谷では、あの人が指揮者なんだ!!あの人が絶対で……だから俺たちは、運命の死神になるしか——」
「だったら、みんなを殺したことも許される……そうでも言いたいの?」
銃口を微かに動かし、改めて脳天に突きつけ、さらに威嚇する。
「……ひっ」
「こんな恐怖、みんなは何度だって味わってきた……私も、凛もそう。何の罪もない人たちを、ただ夢を追いかけた私たちを、アンタ達は自分勝手な理由で手にかけた!!!」
思いの丈を盛大にぶち撒ける加蓮。
そして、込み上がる思いは、侑芽も同じだった。
「アンタ達は僕と同じだ。みんな大人として……人間として失格だ!!運命とか理想とか、大層なことを掲げている自分にただ溺れているだけなんだ!!」
「……う、うるさい!!」
「うるさくない!!僕はそれを彼女たちから教えられた……今を全力で生きる、勇敢な者たちから!!」
未熟な故、専務を疑い死神のドツボにハマり、事態を複雑にしてしまった杉蕗侑芽。
自らの身勝手な思想で、今を生きる多くの者たちの夢を奪った音流零。
そして、不可抗力を理由に自身を庇う、自嘲に満ちた弱い死神たち。
みんな同じ大人だ。
幼稚な、力だけある大人のもたらした災禍が、キラキラと輝くはずだった、無数の星々を闇に葬った。
「……加蓮さん、僕にやらせてください」
「うん、分かった」
これは、自分たちの罪滅ぼしだ。
「ひぃぃぁぁっ!!!いやだ!!いやだいやだぁぁ!!!」
「ゆ、侑芽さん……」
「ちひろさん、加蓮さん……見ていてください」
加蓮に代わり、覚悟を決めるように正面に立つ侑芽。そして、
「これは、死神達にとって……そして僕にとっての断罪……贖罪です!!!!」
加蓮から渡された銃を握りしめて、
「うおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」
……その死神の頭を、全力で殴り飛ばした。
「あ、がっ……」
固い銃身がめり込み、その衝撃に死神は意識を失う。しかし、決して死亡したわけじゃない。
「……決して、撃つつもりはありません。アンタには、ここで僕たちを見届けてもらいます」
気を失った死神の服を漁り、そこからゲーム参加者用のバッジを大量に手にする。三枚の参加者バッジも手にした。
「責任を取り、これからも生きることこそが本当の贖罪……そこでただ見ていてください。僕がカタチだけじゃない、本当の意味で、プロデューサーになるところを」
美城、ちひろ、先輩からプロデューサーとして選ばれ、自らの『空回りな理想』に気づき、
ここからプロデューサーになる、そう現実に据えた『実現可能な理想』として自分の理想をコントロール出来る様になった。
カタチだけではない、本当に理想を現実に具現化したい意志を、手にしたのだ。
「過ぎた夢、過去は戻らない……だからこそ、その責任を負って、僕はこれからも生き続ける。アイドルであるみんなのプロデューサーとして……今度こそ、みんなを舞踏会へ導ける、魔法使いになるために」
侑芽の覚悟は、今度こそ揺るぎないものとなった。彼の言葉から感じた責任への思いを、加蓮は深く頷いて受け止める。
「……信用してるよ、プロデューサー。私たちと一緒に、未来を変えていこう!!」
「はい!!」
「……侑芽さん、加蓮ちゃん。その未来を変えるお手伝い、私にもさせてくれませんか?みんながこんなに張り切ってて、私もジッとしてるなんて出来ませんから!!」
「もちろんだよ!ね、プロデューサー!」
「ええ!頼れるちひろさんがいれば、百人力です!!」
共に、自分自身の未来を変えよう。
そう団結する侑芽、ちひろ、加蓮はそれぞれの参加者バッジをかざし、三人でパートナー契約ならぬチーム契約を結ぶ。準備を整えた後、ずっと預かっていたディメンションリンクバッジを加蓮は取り出し、そのバッジを発動する。
「まずは第一歩、未来のために、この渋谷を存続させる。ネク、凛、みんな……今行くよ!!」
——よかった。もう、大丈夫だ。プロデューサーは、初めからこうなることを見据えていた。
「……彼は、ひたすらに自身の理想との葛藤を胸に秘めていました。あの目には、今を変えたいという、強い思いが宿っていました」
「今はまだ頼りなくても、その思いに彼自身が向き合えた時、その時にはきっと、皆さんにとって大きな力となってくれるはずです」
「私は、彼のことを信じています。必ず皆さんを導ける良いプロデューサーになると。ですからどうか……彼のことを信じてあげてください!!」
彼がここまで強く頼むことは、とても珍しかった。何故そこまでして侑芽に任せたがっていたのか。そんなことすら考えさせないほど、彼の熱意は凄まじかった。
「……あの新しい人、私、まだ飲み込めなくて……変わることそのものに抵抗があったのかな」
「Pチャンのいない部署そのものが、みく達にとっては初めてのことだったから……あの侑芽さんとよく向き合おうとしてなかったのは、みく達の方かもしれないにゃ」
「我が本能は、あの男を避けていた。それは其方からの変化を恐れるが故のこと。あの男だけの問題じゃない……私にも、非がある」
「きらりはPちゃんのことがだーい好き!!でも、あの侑芽さんが嫌いなんてことは全然ないよ?」
「うん、私も。プロデューサーにはプロデューサーの、侑芽さんには侑芽さんの長所短所があるからねー。まあ、プロデューサーとして見れてなかったのは事実だけど」
李衣菜、みく、蘭子、きらり、杏。シンデレラプロジェクトであり、ラストナンバーのメンバーでもある彼女たちは、侑芽のことを再確認し、各々が思っていたことに気づく。
だが、侑芽のことを頭ごなしに全否定する者は誰もいなかった。
傍観者として遠くで見ていた飛鳥も、それは同じだ。
「侑芽さんって、あまり上手くいってなかったのか……色々抱えて、だからあんなに錯乱して」
「爆発した……やっぱりそうだったんだね。初めて話した時から勘付いていたが、彼はまだ、よくいる新人のようなイメージだった。先輩様という存在がプレッシャーとなり、かなりやられていたようにも見えていたよ」
「……信頼の深い、前プロデューサーと引き合いに出されて、変に気負ってたところもあったのか」
「ああ。ボクはシンデレラプロジェクトの一員ではないからマシだったが、彼らは違う。結局のところ、彼は必ず比較されてしまう。その中、素直に行動で示して認めてもらうことが信頼を築く唯一の方法だろうね。
……出来ないとは、思わないけど」
「……彼は、必ず行動で信頼を示します。ですから、現実に戻った後も、皆さんは再び夢に向かって突き進んでください」
「それぞれの夢が叶い、皆さんの笑顔が戻る日が来ることを、私は心から願っています」
やけに重みのある言葉の群を伝えた後、プロデューサーはアイドル達に自分から離れるように言う。今から、SGを止めるための儀式を行うと言い、アイドル達は後ろを向き、少しずつ距離をプロデューサーから離していった。
——これで、思い残すことはもう、何もない。
「……ん?」
その時、唯一正面を向いていたネク、飛鳥は気づく。
『儀式』をするはずのプロデューサーが、正面に向かって歩き始めたのだ。歩く速さは徐々に速くなっていき、もうすぐ下には、渋谷駅一面が広がっていた。
「おい、キミは何をしているんだ……!?」
「まさか……や、やめろ!!!」
——これしか、方法はなかった。ずっと一緒にいてくれた李衣菜を帰し、そして誰にも気付かれずに一人で消える。
参加者達に言った、SGを救う方法……あれはハッタリで言ったただの嘘だ。実際、自分は何も見つけることが出来なかった。犠牲なしでこの渋谷を救う方法など、存在するはずがなかったのだ。音流零の目的は、自分たちを苦しめることにある。こうなることも、作戦通りだったのだろう。
ゲームマスターの消滅、これこそが唯一の方法。
咄嗟に前に駆け出す飛鳥、ネク。アイドル達の間を通り抜け、目の前のプロデューサーの元へと急ぐ。
両腕を広げ、目を瞑り、静かに息を吸うプロデューサー。マークシティ屋上の縁に乗り、重心を前に傾け、空中の無に体を預け、
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
——誰も守ることができなかった。これは、そんな自分への、贖罪だ。
……地に落ち、彼は、消滅した。
(キャラクター欄に、多田李衣菜、プロデューサーを追加しました)
次回にて、第二章シンデレラガールズ編に一旦区切りがつきます。
いよいよ反撃を開始した346プロダクションにより、運命の死神の計画を、阻止できるのか。
そして、次の『6日目〜最終日』は、『SG編』とはまた異なるストーリーが展開されます。
内容は、これまでの物語の集大成のようなもので、この次が最終章になっています。