すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
シキ、加蓮、奈緒が出会う中、ネク、凛は新宿の女王が、本当に信用に値する存在なのか、判断していた。
「うわぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
場所は渋谷エリア02、止むことのない天使の猛攻が参加者達を襲い、加蓮、奈緒を始めとする全員は、スクランブル交差点で未だに戦い続けていた。
「奈緒!!平気!?」
「大丈夫、だし……これでも、アタシ死神やってたん、だぜ……」
「……痩せ我慢はもう通用しないよ、奈緒。ボク達は仲間で、友達だ」
「そうだにゃ!キツい時はキツいって、ちゃんと言うにゃんよ!!」
「あ、杏……冗談抜きで、キ、キツいんだけど……」
「どーーーーーん!!!!!へーきへーき!!運動不足の杏ちゃんの分も、きらりが頑張るにぃ!!」
「しかし、奴らとの力の差は歴然……運命の迫り来る高次元の神槍は、強大だぞ!!」
「私も、流石にこれはキツいと思う……もう私、指限界まで弾いてるし!!」
飛鳥、みく、杏、きらり、蘭子、李衣菜も攻撃を繰り出すが、今まで倒せたのはせいぜい数体。李衣菜のギター効果で強化した全員で、一斉に総攻撃を放つことでようやく倒せる。そのレベルの存在が今も彼女達の頭上、スクランブル交差点の空を覆うほど大量に渦巻いているのだ。
「そんなんでどうするんだにゃ、李衣菜チャン!いつもの倍練習してるとか、そういう風に考えればいけるにゃ!」
「鬼か!!マメ擦り減るくらい、これでもやってるし!!」
「ふ、ふん!練習不足の李衣菜チャンにはこれくらいがちょうどいいにゃ!将来に向けての、大特訓だにゃ!」
「……将来どころか、もう明日ですら怪しくない、これ?」
「くっ、ここで足止めを食らっていれば、いつまでもボク達は先に進めない。こうしてる内にも、渋谷は……」
杏と飛鳥は、この街の惨状を改めて見上げる。既に破片と化したいくつもの高層ビル。ひび割れたコンクリートの地面。火が移り燃える渋谷駅の側面。
本当にここは渋谷なのか、全てを疑う光景が広がっていた。
「それでも、せっかく掴み取った未来だよ。絶対、諦めるわけにはいかない……!!」
一ヶ月前、凛や加蓮達は、心の底からの衝動をこの街にぶつけた。命を懸けた覚悟の末、アイドルとしての未来を得た、自分達にまた声を届けてくれたこの渋谷は、何としても守り抜かなければならない。
「……!!」
天使達の光が、降り注ぐ。だがどう足掻いても、力が、力が足りない。この街を守るための、大事な人々を守るための力が……
「……諦めるには、まだ早いんじゃないかな?」
その光は、加蓮達の頭上、儚い人間を貫くその目前で打ち消された。また別の光……天使の羽を散らせる、いくつかの柱のような光が、一斉に取り囲むように加蓮達を守護する。
「うわっ!!」
何が起こっているのか……衝撃に目を伏せていると、
「どりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!」
「たぁぁぁぁぁっ!!!!!」
「はぁっ!!!!」
その場に、次々と謎の少年達が突如姿を表し、天使達の渦に風穴を開けていく。鎖とスケボーで削るように、そして踊るように攻撃を与え、さらには謎の黒い猫の人形を操り、爪の攻撃を繰り出す。
見たことのない、だが自分達と同じ能力者だった。
「ねえ、大丈夫?自分を諦めたら、人々どころか、世界を諦めるのと同じだからね」
「えっ……だ、誰……てか、何処から来たの——」
思わず声を出す加蓮。戦いながら、その声に応える少年達。
「僕?ああ、僕はね……」
「なーに呑気にしてんだよ。細かいことはいいんだ!助けるもんは助ける、ただそれだけだ!!」
「そそ、今はこの人たちを守ろう!ライムも平気?」
「うん、感覚戻ってきたよ!!それに『この力』があれば、ボク達もこのウヨウヨと戦える!」
同じ人間であるはずだが、突如現れた四人の参加者達は、通常のノイズよりも遥かに硬い天使達を次々と倒している。
「こ、この人たちは、一体……」
「誰……何者にゃ?」
「きらり達を助けてくれてる、にぃ?」
「まさか……また同じ異界者か?」
疲弊し切った彼女達は、ただ見ることしか出来なかった。しばらくして濃い白の渦が薄まり、徐々に厚みを損なっていく。
「ねえ、そこの人たち!!!」
「えっ、あ、うん!!」
「みんなも、これ使って!!」
戦う最中、緑の服を着た少女と髑髏の帽子を被った少女はそう言い、加蓮達に何かを手渡す。
「……?これって、バッジ?」
「目には目を、歯には歯を、天使には天使をだよ!」
「……ええ〜っと、と、とにかく、お前らもこのバッジを使ってみろ!!」
「それじゃ何も伝わらないよ、ビイト……僕たちがこの汚染天使を倒す。君たちは、初めにその『ソウル』を回収するんだ」
渡された謎のバッジは、ディメンションリンクバッジと同じ、白く、内部が部屋のようになっているバッジだった。
「あの禁断ヤローの残したオブジェ……街中に仕掛けられていたあれが、役に立つなんてな……」
——ココ、ミナミモト、未央、卯月との連絡が途絶え、渋谷の侵攻は加速し、とうとうワイルドキャットにも天使達が侵入して来た。店内から転がり込むように外へと飛び出し走るも、天使達はすぐそこまで迫ってきていた。
初めは対抗策を持たない四人だったが、ミナミモトが事前に渋谷中に作り上げたオブジェ……そこに仕掛けた罠が反撃のチャンスと化した。
オブジェの一部として使われていた『バッジ』、そこに天使の内の一部が吸収されていたのだ。
「RGUGレベルの人間では、当然天使には敵わない。天使に対抗するには同じ天使の力、つまり、敵の力の質量で対抗するしかない」
「今の俺たちが戦えてるのは、結構な数このウヨウヨを吸い込んだお陰だ!使えばお前らもきっと、同じように戦えるはずだぜ!」
「わ、分かった!」
その後、四人の参加者達が倒した天使から漏れる光を、加蓮達はそれぞれ受け取ったバッジに吸収していく。その状態で試しにサイキックを放つと、これまでとは比にならないほどのダメージを一度に与えることが出来た。
「うりゃりゃりゃ!!!……す、すごいにゃ!みくだけでも、ちゃんとコイツら倒せてるにゃ!!」
「とりゃーーーーっ!!!おー!!!見てみて、杏ちゃん!あーんな遠くまで吹っ飛んじゃったにぃ!」
「……あれ、杏全然キツいの変わんないんだけど、なんで?」
「ギターとかニッコリスマイルとか、サポート系の私たちには意味ないんじゃ……」
「……ふっはっは!!我が魔眼に宿る、新たな力……今宵こそ我らの反撃の刻!!解放せし禁じられた闇の力よ……ここに顕在せよ!!!」
「ふっ……よくもこれまでやってくれたじゃないか、いい御身分の天使サマ達……ここからはボクら捻くれ者達の、反撃とさせてもらうよ!!」
「……なんか、コイツらどっか騒がしくねえか?」
「あ、あはは……お兄ちゃんストレートすぎ……」
敵自身の力をカウンターとし、反撃を始めた途端に騒がしくなる彼女達に、思わず素で反応する兄妹。一気に形勢逆転し、終わりの見えなかった空から徐々に天使が消え、遂に、渋谷エリア02のスクランブル交差点が、天使の手から完全に解放された。
ずっと能力を酷使していた全員は、思わずその場に座り込んで、肩で息をする。
「はぁ、はぁ……あの……助けて、くれたんだよね?ありがとう、私は北条加蓮」
「はぁ、はぁ……ううん、全然気にしないで。私は美咲四季。困ってる時は、お互い様だからね」
「へへっ……そう言ってくれると心強いな。アタシは神谷奈緒。助かったよ、シキ!」
崩れゆく街の中で、僅かな休息の間に自己紹介を挟む。上側に現れたもう一つの渋谷、そこからやって来た異世界の能力者、シキ、ビイト、ライム、ヨシュアは、この世界の能力者、加蓮、奈緒、飛鳥、蘭子、杏、きらり、みく、李衣菜との交流を実現した。
突如、現れた汚染天使によって崩壊が進む渋谷。能力者の波動を感知し、向こうの世界へと協力を仰ぎに来たヨシュア達は、瞬時に加蓮達と意気統合すると、ひとまず身を隠す場所へと避難を開始する。
加蓮達全員が集合しようとしていた346プロダクション本社ビル。
奇跡的にもまだ天使が手をかける前の状態で現存しており、案内されるとすぐさま、ヨシュアはワイルドキャットよりも強固な認識阻害のサイキックを使い、346プロダクションを天使達の手から防衛する。
(346プロダクション……やはり、ここは未央や卯月の言っていた……)
荒れる渋谷の中でも、相変わらず際立って見える豪華な城を前に、ヨシュア、ビイト、ライム、シキは思わず息を呑むも、急ぎ、全員でそのビル内へと駆け込んで行った。
「……じゃあ、改めて自己紹介をするよ。ボクは尾藤来夢、そして、こっちはボクのお兄ちゃんの……」
「尾藤大輔之丞君……ぷぷっ、で、僕が桐生義弥。ヨシュアでいいよ」
「だあぁぁっ、この野郎!!何勝手に言ってんだよ!ビイトだ、ビイト!!俺のことはちゃんとビイトって呼べよ!!」
「ちょ、二人ってば!こんなところでも喧嘩しないの!」
「け、喧嘩してるけど……大丈夫なんですか?」
「……か、加蓮さん。その、この人たちは……?」
「ちひろさん、侑芽さん、えっと……さっき、助けてくれた人たち、なんだけどさ……」
ビル内の事務室にて、テーブルを挟んだ黒いソファに座るライム、ビイト、ヨシュア、シキ。向かい合い、話を聞こうとする侑芽、ちひろは、目の前で繰り広げられる仲良し喧嘩に、つい困惑する。
「とりあえず!!まずは、ボクらの方から話させてくれるかな?」
場を整理するよう、ライムは鶴の一声を発する。
「わ、分かった。とりあえず色々と教えてくれないか!!」
「もちろんだよ、ボクらはそのために来たんだからね」
何のために来たのかも忘れている男二人を横目に、ライムは奈緒に言う。
「まず、ボクら四人はこことは違う、上の渋谷から来た能力者で、決してみんなの敵じゃない。このことは、ちゃんと信じてもらえるかな」
「ああ、見たところ、向こうの渋谷にも天使達は侵攻している。キミたちがボクらの敵だとは考え難いからね」
「それに、さっきは本当に助かったにゃ!このビルが壊される前に間に合ったのも、みんなが力を貸してくれたおかげだにゃ!」
(……あの異界者の時は、皆もう少し疑っていたような……)
事前の異界者経験もあってか、飛鳥、みくは快くライム達を受け入れる。他の全員も、四人をこれといって敵視することはなかった。
「に、にゃ……?あいつ、何言ってんだ、シキ?」
「と、とにかく今は飲み込もう?ね?」
「何じゃそりゃ!?」
……シキがビイトに小声でそう話すように、お互い慣れるまで、少し時間はかかりそうだが。
「それで、今、双方の渋谷で起こってるこの出来事だけど、多分、ボクら側の渋谷と関連があると思うんだ」
「……そっち側で何か、心当たりがあるってこと?」
杏が尋ねると、今度はヨシュアが代わって話す。
「少し前、僕たちの渋谷をインバージョン(invasion)が襲ったんだ」
「イン、バージョン?」
聞き馴染みのない言葉に、加蓮達は首を傾げる。
「侵略を意味するインバージョンは、過去を自由に改変するサイキックの名称だ。そのサイキックによって……ボクたちの渋谷は、一度崩壊寸前まで追い詰められたんだ」
「!?」
崩壊。その言葉を聞き、ヨシュア達以外の全員がその表情を強ばらせる。
「崩壊って……そのいんば〜じょんってサイキックは、どうして起こったんだにぃ?」
「それは、ムラサキ頭とアメ玉の仕業なんだ……」
「……紫色の頭をした女の人と、飴を咥えてる男の人のこと、だよ。二人とも死神で、その力は、今までのどの死神よりも強かったんだ」
「『紫』の……死神?」
紫、死神……この時点で、奈緒はこの出来事に何か既視感を感じ取っていた。
「過去を書き換える……時間改変を可能にする、そんなことさえも死神には出来たのか……」
「だが、驚くこともないだろう、我が友よ。現に我らも、偽りの箱庭に閉ざされていた者達。奴らは非現実と同義のような存在だったはずだ」
「君たち、いい着眼点だね。えっと……」
「我が言霊を聞け、神崎蘭子だ」
「二宮飛鳥、堅苦しさはいらないさ」
流れるように蘭子の言葉を理解し、名前を聞き出して二人と心を通わせるヨシュア。
「分かったよ、蘭子、飛鳥。二人の言う通り、確かに死神は渋谷を追い詰めた。だが、本来の死神にそんな力はない……ましてや、コンポーザーの僕を打ち破るなんて、雲を掴むような話さ」
「……あいつ、今禁断ヤローのこと言ったな」
「今回の死神は、この僕の手を離れた死神……見たことのない紫のノイズ、不協和の力。どうやら君たちにも、引っかかることがあるみたいだね」
そう言うと、ヨシュアは狙い通りと言わんばかりに蘭子、飛鳥、さらに加蓮、奈緒、シキなどこの場の全員に視線を向ける。加蓮達もヨシュアのその話を聞き、その中にいくつも思い当たる節があった。そして、その気づく様子をシキ達もまた気づいていた。
「ここが346プロダクションという名称で、ピンと来たよ」
そう言うと、ヨシュアは確信したように、この世界の正体を明らかにした。
「島村卯月、本田未央……渋谷、凛。桜庭、音操。君たちの知り合いの名前じゃないかな?」
「……えっ!?」
「なんで、その名前を……!?」
「……凛!?それに、ネクも!?どういうことなの、ヨシュア!?」
加蓮、奈緒、シキ。さらにはビイト、ライムを含めた全員がそれぞれ異なる驚きを見せるが、加蓮達はここで、ネクの言っていたことを思い出す。
【自分は本来別の世界の存在であり、この世界に今現在いる理由は分からない】
一ヶ月も経ち、日課のように毎日会っていた少年、ネク。346プロダクションの地下室に住み込み、加蓮達もレッスン終わりなどによく連れて遊びに出ていた。向こうも楽しく過ごしていたようで、いつのまにか当たり前のように思っていたが、彼の謎は分からずじまいだった。
だが、その謎がついに分かった。
「そっか。ビイト君もヨシュア君も、みんなネク君の友達だったんだね」
「それだけじゃないにゃ。今までずっと行方が分からなかった未央ちゃんと卯月ちゃん、その二人の行方も分かったってことにゃ」
李衣菜、みくも言うよう、お互いにとってずっと謎だった事実が明らかにされた。
数ヶ月前に姿を眩ました未央、卯月。一ヶ月前に行方不明になった凛、ネク。友達の行方が分かったことは、お互い実に感動的なことであるはずだった。
だが、
「……あれ?じゃあなんで未央と卯月はここにいないんだ?お前らのとこで、一緒にいたんじゃないのか?」
「ああ……僕らにも分からないが、何故か二人との連絡が取れなくなった。ついさっきのことだ」
ヨシュア達のいる渋谷エリア01側と、加蓮達のいる渋谷エリア02側。その両方で再び消失の事件が起こってしまった。
「そうだ、凛とネクもだよ。二人も突然、私たちの目の前で姿を消したんだよ!!」
「なんだって!?じゃあ、さっきまではネクもここにいたのかよ?」
「う、うん。でも、今は私たちにも分からなくて……」
加蓮からそう聞かされ、ビイトは拳を自身のももに打ち付ける。
「クソ!!あともう少しで会えるとこだったのによ……!!」
「ネク……凛……」
「……仕方ないね。今回も平気だと信じよう」
また消えてしまった友達に、あと一歩届かなかったことを悔しむビイト、シキだったが、しかし、ヨシュアは二人に比べて簡単に状況を受け入れた。
「テメェ……大事な友達が見つからねえのに、そんな簡単に割り切んなよ!!」
「別に割り切ってなんかいないよ、ビイト。言ったでしょ?信じるって」
大事な友達を見放したと考えるビイトは怒鳴るが、ヨシュアは決してネクを捨てたわけじゃない。むしろその真逆だ。
「パートナーを信頼しろ……友達を信じろ。『あの時』、彼は自身の銃を下ろして、僕を受け入れてくれたんだ。だから僕も彼に応える。それだけさ。僕らはパートナーで、友達だからね」
「……お、おう」
「それに、ネク君はあの後もちゃんとこの世界で生きていた。君もシキちゃんも知ってるでしょ?
彼は、強い。今もしぶとく、どこかで生き残ってるはずさ」
「ヨシュア……」
心配もしないほど、信頼している。いかにもヨシュアらしい、ネクへの完全な信頼の証拠だった。ビイト、シキもヨシュアの考えを理解すると、自然と、表情から焦りの色が減った。
「みんな、今までネク君がお世話になったね。お礼を言うよ」
「お礼なんて、とんでもない。むしろ助かったのはボクらの方さ」
「その通りだ!!異界者であり、優しさを持つ彼と我らに、境界などない!」
「そうだにぃ!ネクくんときらりたちは、だ〜〜〜〜〜いじな、友達だにぃ!!」
「……まあ、毎日会ってたし、友達みたいなもんだよ」
ネクを匿ったことへの礼を伝えると、飛鳥、蘭子、きらりは当たり前のように、杏はさりげなく友達だと言う。他の全員も含め総意は同じでいて、シキはどこか嬉しさを覚えた。
「ヨシュア達の方こそ、未央と卯月を見つけてくれてありがとう。よかったよ、二人が元気にしてるって、分かって」
「……あれ?そういえばよ」
加蓮が安堵を伝えるが、今度は、そこでビイトがあることを思い出す。未央、卯月が思い出した記憶。そこによれば、確か。
「346プロダクションって断裂が起こったんじゃないのか?」
「あー、そのことは……」
「話すと、これまた長くなるやつにゃんね……」
「……っと、つまり、こっちでもまた、別の紫の死神の暗躍があった、ということだね」
「ネクと凛はこっちに飛ばされた後、今度はお前らと一緒に死神と戦ったってわけだ」
「その時に346プロダクションも団結して、シンデレラガールズは奇跡の復活を遂げた……凛もネクも、いつの間にそんなことになってたの…?」
ヨシュア、ビイト、シキは、お互いに持っている情報を統合し、これまでの紫の死神であった『奴ら』改め、『運命の死神』の動向を整理した。
その結果、運命の死神の正体が、双方の世界からの特定の死神の集まりであることから、インバージョンを引き起こした八代、狩谷はこちら側の世界の住人であることが推測でき、渋谷は何度もその毒牙にかかりかけていたというわけだった。
今日、先ほど現れた謎の上位次元、運命ノイズ、フェイト、ドゥームが運命の死神を指揮していたと考えるのが妥当であり、これまでとは全く違う強引な崩壊に、既に死神の関与の跡はない。
本気で、この渋谷を滅ぼそうとしている。
「でも、今って結構チャンスじゃない?その元締めの二人、今はいないんでしょ?」
「恐らくネクと凛、未央と卯月とココとミナミモトの失踪と関連があるんだろうね。奴らの策の一つか……はたまた、別の思惑か。だがどの道、僕らの反撃の準備には都合が良い」
「天使達をバッジに吸収すれば、その分アタシらも強い技が出せる。対抗手段も、こっちにはあるしな」
加蓮、奈緒の言うよう、対抗法を見つけた他にも、いくつもの条件がこちら側に有利に働いている。善は急げ、緊急事態の最中である今はすぐにでも行動に移すべきだ。
「ああ、もう話も片付いた。まずはこの346プロダクションを軸に、こちら側の世界の解放を目指そう。僕ら側の渋谷には既に羽狛君が付いてる。心配はいらない」
「バラけるより、ある程度纏まって叩いた方が確実だということですよね」
「解放箇所を増やし、戦力増加を図り、流れを着実にこちら側に掴むわけですね。でしたら、私と侑芽さんはここの防衛を、みんなは外をお願いします」
「おう、任せろ!要するに、片っ端からぶっ飛ばすってことだろ!!」
「キミのその脳筋っぷりは凄まじいな……」
「う、うちのお兄ちゃんがお世話になります……」
「新たなる、灼熱の叛逆者……共に、天に叛旗を掲げるのだ、異界者達よ!!」
「困ったことがあるなら、いつでも頼ってくれて構わないよ。僕は、コンポーザーだからね。ふふっ、ずっと色々なことを知ってるんだ」
「……う、ウザっ。杏、こういうの一番苦手なんだけど……」
「こら、杏ちゃん!!初対面の友達に悪口言ったら、めっ!!だよ!」
「嫌だ〜!!こんな奴、杏は絶対認めないぞ〜!!」
「コンポーザー、って結局何なんだにゃ?」
「さあ?偉い人とかそんな感じじゃない?」
「李衣菜チャン、それは流石に適当すぎにゃ……」
「よろしくね、加蓮、奈緒」
「こちらこそだよ、シキ。一緒に頑張って、絶対に渋谷を守ろう!」
「ああ、アタシも、絶対にこの街を守りたいんだ!協力、感謝するぜ!」
「うん!ネクも凛も、友達も渋谷も全部、絶対負けないんだから!」
ビイト、ライム、飛鳥、蘭子。
ヨシュア、杏、きらり、みく、李衣菜。
シキ、加蓮、奈緒。
これより、合計三のグループに分かれ、ここ346プロダクションを中心に円を描くように、天使に囚われた渋谷を解放していく。
「よ〜〜し!!!みんなで、この渋谷を守るにぃ〜!!!」
下位次元率いる能力者と、上位次元率いる天使。ついに双方の能力者が揃った今、渋谷を守る総力戦が、これより始まろうとしていた。
「ここは……」
「……綺麗」
死せる神の部屋……いや、ここは横丁というべきか。突如新宿へと飛ばされたネク、凛はまたしてもフェイトの襲撃を受けることとなる。だが、このエリアの死神である新宿死神達の協力により、コンポーザーを名乗る新宿の女王、松苗叶多と共に危機を脱することが出来たのだ。
「ほら、何ぼさっとしてんだ、早く行け!!」
「痛っ!だから、引っ張らないでってば——」
「待て、そいつらはアタシの客だ!!慎重に扱うよう意識しろ!!」
乱暴にこの横丁に連れて来られた凛、ネクだったが、そこに現れたカナタの一言により、新宿死神の態度が変わる。
死せる神の横丁……その場にいた死神達から訝られていた二人だが、その号令がかかった直後に全員が端にズレ、狭い横丁に明らかな一本道が出来る。
「悪いな……この奥だ、着いてきてくれ」
「……分かった」
「助かるよ、カナタ」
左右に多数広がる、酒の臭いを醸し出す店先も塞ぎ、死神達は一気に歓迎ムードでネク、凛、そして先頭のカナタを出迎える。出迎えられ、カナタは先頭を歩む者として堂々と前へと進み、ネク、凛は初めての空間に独特の緊張感を覚えていた。
「……」
横丁の行き止まりにあったのは、いかにもな雰囲気を放つ赤い扉……その扉を開くと、その奥には一面が赤で覆われた空間が広がっていた。
「ここは……」
「女王の間……アタシ、新宿の女王の部屋だ。兄ちゃんのとこのコンポーザー様の部屋と、大体同じとこだ」
審判の間のような、どこかの教会の大聖堂ほどの広さの赤い空間に、中央部にラグジュアリーな装飾の施された座椅子が一つ無機質に置かれている。
「よし、じゃあ早速渋谷側にコンタクトを取るとする——」
「……おい、一つ聞いてもいいか?」
初めに言っていた通り、安全地帯に移動してからカナタはコンポーザーの波動同調を使い、渋谷側へと信号を送ろうとする。だが、その前にネクが口を挟む。
「へ?お、おうよ、どうしたんだ兄ちゃん」
ネクは、他人と心を交わす選択をした。だが、それは見境なくという投げやりなものではない。そういう意味では、ネクはまだカナタを信用するわけにはいかない。
「……協力する前に、まずはハッキリと教えろ。お前らとあのノイズ達の間に、何があったのかを」
「……」
「東京を守りたい、お前はそう言った。でもその他に、そこまで奴らを……忌み嫌ってる理由は、何だ?」
先程の暴走。冷静さを、欠いたあの行動を目の当たりにして、そこから当然生まれる疑問をぶつける。
「変に齟齬が生まれるのは困る。だからこそ、今は確証が欲しいんだ」
「……だよ、な……ああ!悪い悪い!兄ちゃんの言う通り、一方的に信じろって言ってもそりゃそうなるよな。そうだ、そうだ……」
カナタは頼れるアネゴとしての、相変わらずの謎の人当たりの良さを見せる。
変にネクの意見に刃向かう訳でもなく、言い分を素直に受け入れる素振りを見せる。
「アタシも、アイツらにはな……あ、ああ!勝手なことばっか言いやがって、本当に気に入らねえんだよ!」
「……」
「……ふーん。なるほど、ね」
だが、そのブレブレな姿に先程のような暴走の側面は漏れ出ていなかった。フェイトに向けてぶつけた、心の内に秘められたあれだけの何か。ネクの他に、凛も察する。
今の彼女は、自分自身にとっては紛れもない『新宿の女王』であるが、その実態は——
「もう、そこら辺にしとけ。カナタ」
その時、女王の間の入口から声が響く。デカいけれども、さっきみたいに甲高くない、真剣な声色でススキチは女王であるカナタを呼び捨てる。
「ススキチ、それにアヤノも!!戻ったのか!」
声を聞いた途端、カナタは嬉しそうに振り向き、仲間達に満面の笑みを見せる。明らかな素の表情で近づいてくるカナタに、同じく入り口にいたアヤノも応える。
「ええ。この私たちが一ヶ月かけて蓄えたとっておきよ。新宿死神の有能ぶりは、神クラスの存在にだって通用するわ」
「ガッハッハ!!交渉成立、だ!!神だろうと、俺たちの絆がぶった斬れるもんかよ!」
「……ははっ、さっすがススキチにアヤノ!!いつも頼りにしてるぜ、二人とも!!」
少しもしない内に、完全に身内だけで盛り上がるカナタ、ススキチ、アヤノ。その様子は紛れもなく本物であり、微笑ましいが、客人として招かれたはずの凛、ネクは置いていかれて、
「……なんか気まずくない?」
「……ああ、言おうと思った」
「だよね」
「うん」
何となく、居心地の悪さを感じていた。
「おっ!ああ、すまねえな、待たせて。お前らが女王直々に連れてきた、新入り、だな?」
「違うわ、彼らはあくまで客人で協力者よ。私はアヤノで、こっちはススキチ。二人とも、よろしくね」
「ああ、よろしく」
「さっきは助けてくれてありがとう。私は凛で、こっちはネク。渋谷から来たの」
何となく雰囲気を察したのか、アヤノとススキチは背後に振り向き、逸れ気味だったネクと凛を輪の中に引き込む。
その様子は、上っ面だけのカナタよりも、よほど手慣れていて、明らかに新宿を指揮するリーダーに適していた。
「……っ」
ならば何故、松苗叶多は新宿の女王として、この新宿死神の頂点に今立っているのか。
それは、『あの日』、新宿で起こった出来事が関連していた。ネクがココに殺され、凛が世界を越えた、その日。
同じく新宿でも、死神達を取り巻く中で、一つの悲劇が起こったのだった。
『……ねえ、お母さんはいつも何してるの?』
『それはもう、とてもとても大事な用事だよ』
『む〜、またそうやってごまかすんだから、アヤノは!!』
『ふふっ、カナタもいずれ分かるわ。【貴方】は、女王の跡を、継ぐことになるのだから』
『女王……なんか、かっこいいね!!』
『ええ、そうね』
——カナタの母親、松苗亜未(マツナエ ツグミ)は、新宿コンポーザーでありかつ、『新宿の女王』として、その名を新宿中に轟かせていた。
新宿死神は、その他どのエリアよりもエリア内の繋がり、絆を重視する集まりであり、所属する者たちはみな、厚い情の綱で結ばれていた。そんな者たちを統制する存在が『新宿の女王』であり、女王はコンポーザーが自ら請け負っている。
死神とコンポーザーの繋がり……これは他エリアでは決して起こり得ず、そもそもコンポーザーを認知できない以上、他エリアでは間接的に関わることしかできないが、『新宿』だけはそれを唯一破っていた。
『……女王!!我らの命は、貴方と共にあります!!』
『どんな時も、何があろうと、私たちは貴方についていきます!!』
『……女王!!』
『女王様!!』
新宿コンポーザー、松苗亜未(マツナエ ツグミ)は、他エリアとは違う、自らが統制する死神組織を作り上げた。指揮者を介することなく、直接死神ゲームの運営に関わり、その他の業務をも執り行う。絆を重視する新宿ならではの、他エリアとはまるで異なる独自のやり方を貫いていたのだ。
『すげえ奴だよ、お前の母さんは。上からじゃなくて、自ら低位同調して、身の危険を晒しながらも仲間を守る。絶対に裏切らないリーダー……まさしく女王そのものだ』
『ススキチは、お母さんのこと、好き?』
『ガッハハ!!んなもん、当然のことだ!!俺だけじゃねえ、この街にいる誰もがあいつを尊敬してる。あんなリーダー、誰だって信頼するさ』
『すっごーい……流石、アタシのお母さん……!!!』
『おう!!カナタ、お前もあの立派な背中をかっぽじって見とけよ!!あの跡を継げるほど立派になる時まで、それまでは俺たちがお前を守ってやるからよ!』
『うん!……って、ちょっとススキチってば、痛いよ!!』
『おー、わりぃわりぃ……つい背中叩く時、力入り過ぎるんだよなぁ……』
『もー、ぷんぷ〜んだ!!』
そして、その女王の娘であるのが、松苗叶多だった。カナタは次期新宿の女王として、仲間たちから、さらに女王側近のアヤノ、ススキチから大切に育てられていた。
こうして絆を育むことを忘れることなく、仲間同士の結束の強固はどこにも負けない、素晴らしい死神組織を構築し続けた松苗亜未。次期女王のカナタも順調に育ち、新宿の未来は安泰であると誰も彼もが思っていた。
……だが、
『……お母さん……何処に、行くの?』
『カナタ……』
カナタの若き頃から少しの時間が過ぎた、現在。
突如、安寧の保たれていた新宿に異変が起きる。こことは違うもう一つの新宿……そこで何か妙な出来事が起こったというのだ。
『少し、様子を見に行くだけよ。貴方はここにいなさい』
『お母さん……目がいつもと違うよ。どこか……覚悟したような、目をしてる』
『……子ども扱い、するような歳でもなくなったのね。もう随分、長い時間が経ったのね』
『何、急にジジババ臭くなってさ……なんか怖いからやめてよ、それ』
『……ひょっとして、前々から言ってた『お父さん』のところへ?』
『ええ、そういうことよ。私にも分からないけど、彼に何か大事が起こったみたいなの』
元々カナタの出生は、新宿の女王の『特性』が深く関係している。新宿コンポーザーである松苗亜未が、何故新宿の女王とわざわざ呼ばれるのか、それは他エリアのコンポーザーとは異なる、ある特性を持つからだった。
——新宿の女王は、この世界で唯一、もう一つの世界と繋がることができた。
禁忌とも言える世界間の移動……新宿の女王のみが持つ、特異的な力であり、この力を使いツグミは、もう一つの世界の新宿コンポーザーと出会い、そこで生を授かった。
母、松苗亜未と父、御鍵映月(ミカギ ハヅキ)。二人の新宿コンポーザーの元に生まれたのが、カナタだった。
『お母さんにも分からないって……お母さんって、コンポーザーなんでしょ?コンポーザーは、何でも知ってるってススキチとアヤノが……』
『ねぇ、カナタ。一ついいかしら』
『な、なに……?』
もう一方の新宿の騒ぎは、既にツグミを通じて全新宿死神へと伝達され、いつも賑やかで活気ついた横丁は、別の意味で騒々しかった。
その中で、女王の間にて、ツグミはカナタに対して質問を投げかける。
『カナタ、小さい時に私を見て言ってたこと、覚えてるかしら?』
『えっ……?』
普段との空気感の違いに戸惑うも、カナタはツグミとの話を続ける。
『それって、お母さんはカッコいいとか、そんな感じのこと?』
『そうよ。今でも貴方は、そう思ってるのかしら、って気になっただけ』
『……思ってなかったら、死神なんてとっくにやめてるし。お母さんやみんながいるから、アタシここにいるんだよ?』
今の自分がいるのは、母親であるツグミのおかげだと、カナタは嘘偽りなく言う。
『……そう』
その正直な心は、当然ツグミにも伝わった。自分の娘からの真っ直ぐな信頼。いつの日か女王を継ぐ者の、眼差し。
『それを聞いて、安心した』
この先で自らを待ち受けるであろう、今までかつてない強大な脅威。その中心へと進む行く覚悟は、もう定まった。
その会話を最後に、ツグミは新宿の女王の力を使い、もう一つの新宿へと旅立った。側近であるススキチ、アヤノも、仲間である新宿死神たちも、娘であるカナタも、誰も引き連れずにただ一人、勇敢なる新宿の女王は戦渦へと飛び込んでいった……
『……えっ?』
ある日、目を覚ました時、カナタは新宿の女王となっていた。この街の誰も、ススキチもアヤノも、女王本人でさえも、その状況を理解できなかった。
突然、コンポーザーの力が使えるようになり、全ての管理権限が母親から自分へと渡った。
この街の、新宿の全ての統治が、ツグミからカナタへと移った。
『……まさか……そんな!?』
最悪の状況が脳裏をよぎる。即座にカナタ、ススキチ、アヤノ、その他新宿死神たちは新宿の女王の力を使い、もう一つの新宿へと渡る。
……そこで広がっていたのは、
『嘘でしょ……えっ?』
『……そんな……女王様!!』
『なんだ、この街は……新宿……なのか?』
『何処ですか、何処に居るのですか、女王!?』
『……っ、おい!!ツグミ!!居るんだろ!!!居るなら返事しやがれ!!!』
『返事しなさい……ツグミ!!!お願い……居ると……無事だと、言いなさい!!!』
『女王様……』
『そんな……嘘だ……』
『返事を……どうか、御指示を!!』
『女王様!!』
『我が、女王……!!』
『お、母……さん……?』
コンポーザーも、死神も、能力者も、ノイズも、残骸以外何もない。もはや新宿でも何でもない、『名も無き都会』があるだけだった。
「……アタシは、女王にならなくちゃならない……お母さんがそうだったように、アタシが、みんなを引っ張らなくちゃならない、託されたものを引き継がなきゃならない……」
その後、カナタは新宿の女王、そして新宿コンポーザーとして、この新宿の頂点に君臨することとなった。永遠のような平和の中、起こってしまった『変化』に、新宿死神たちにも当然混乱が生じ、あらゆる『変化』が起こった。
絶対的だった女王の……死。要のような存在であったツグミを失ったことで、新宿死神たちは、これまで自らが面倒を見ていたはずのカナタを、急に女王として見るようになった。
だが、女王となったカナタを見つめるその眼差しは、かつてツグミに向けた煌びやかなものとは違う……無念と憎悪に満ちた、悲しみの瞳だった。
潰す……潰す……消してやる……許さない……奪ってやる……絶対に……絶対に、絶対に、絶対に、絶対に、絶対に…………周囲から向けられる視線は、全てが復讐心に満ちていた。
彼らは『カナタ』を見てるわけじゃない、自らを復讐の方向へと導いてくれる『リーダー』を、見ていた。
「そうだ……潰してやるんだ、この手で……この街を、アタシたちの平穏を奪った奴を……」
新宿中から湧き立つ憎しみ、怒り、嘆き……全員の意思、そして自分の意思を汲み、カナタはここに復讐を誓った。
かつての絆を誓った新宿は、もうない。ここに残された哀れな死神達は皆、溢れるほどの負を抱えている。男も、女も、どんな歳の奴も、これまでずっと復讐だけを薪に、その身を動かし続けてきた。
全ては、運命の破滅のために……歪んでしまった新宿の絆は、今も女王カナタによって維持され続けている。
「……アタシは、この街の全員の復讐を達成する女王でなくちゃいけない。それがアタシの目的で、アタシの存在理由……っ、なんだよ」
ススキチ、アヤノを通じて伝えられた新宿の過去に、ようやくカナタが口を開く。
「そうだよな、こんなこと、話さないでどうするって話だよな……でも、この話をすると、いつも自分がよく分からなくなる。
女王って何か、コンポーザーって何か、従える存在って何なのか……ビックリするくらい、そんな何も分からない自分に呆れて」
「無理してたってことか」
「話してて途中から違和感があって……素は違いそうって、薄々思ってたけどさ」
カナタは本来の自分を、客人であるネクと凛の前に曝け出す。そこにいたのはカリスマ女王なんか到底程遠い、同年代のごく普通の少女だった。
「へへ……元々女王なんて出来るような性格じゃないんだ。分かってたさ……お母さんは凄いし、模範的な女王だった。でも、アタシはどうすればいいのか分からない。人を従える存在はどんな奴なのか、今まで側で見てきたとしても、その感覚が、何も掴めない」
次々と心の内が漏れていく。突如母から自分へと力が渡った、その動揺は数ヶ月経った今でも続いている。自分にはまだ先のことだと思っていた女王に、こんなにも早くなることになるとは、考えてもみなかった。
「ここにいる奴らみんな、心の中が復讐で満ちてる……アタシもそうだ。アイツを見た瞬間、自分を抑えられなくなった。人を従えるどころか、自分を従えることも出来ないなんてな……」
「……」
環境は劣悪であり、歓迎などは当然ない。一人一人が分断され、自分の中の復讐心を満たすことに必死になっている。考えれば考えるほど、何もかもが複雑に負をもたらす……
「はぁ……ほんと、なんだか——」
「ふんっ」
「……あだぁっ!!」
「ネガティブは、そこまでにしときなさい、カナタ」
空間中に音が響くほどのデコピンを喰らい、カナタは叫びながら頭を上げる。話し始めてからずっと、自分が頭を抱えて下を向いていたことに気づいたのは、その時だった。
「ガッハッハ!!何、辛気臭い顔してやがんだよ。今は何する時か、忘れたのか?」
「気にするのは後にしなさい。何があろうと、今は貴方が女王。貴方がこの街を導かなければならないのよ」
「ススキチ、アヤノ……そんなの、わ、分かってるし……」
多少の豪論ではあるが、ススキチとアヤノは、カナタから話題を奪う。
「……それに、まだ話は終わってないわ。私たちが持つ情報、あの例の少女についても、共有しないとならないもの」
「少女……それって、まさか!?」
話の輪の中心をカナタからネク、凛へとズラすと、アヤノはもう一つの重要な話をする。それは、先程のフェイトとの取引で使った情報、謎の少女についてのことだった。
「私たちが女王の力を使い、これまで双方の世界で集めてきた情報……ずっと観察していた後の結果よ」
「初めから、俺たちの行動を見てたのか」
「新宿インバージョン発生以降、正確にはその少女を追いかけてたの」
復讐の誓いを立てた後、新宿死神は崩壊した新宿の探索を進めていた。その中で見つけた手がかりこそ、その少女だった。
「名前は……ツグミ。崩壊した新宿の街から渋谷へと渡った唯一の生き残りで、渋谷へと渡って数週間後、渋谷インバージョンを阻止し、その後世界を移動し、再び渋谷崩壊を阻止した。能力者でも、死神でもない。推測すれば、恐らく彼女は死神より遥か上の上位存在……かしらね」
ツグミ。そう名前を聞き、ネクと凛はあの少女の姿を思い浮かべる。先代女王であるツグミが死に、その残骸の街から現れた少女の名前がツグミ……この時点で、あべこべの謎が発生している。
「名前が同じだけで、私たちの女王との接点はないわ。それに、この名前も正確かどうかは分からない」
「どういうことなの?というより、どうやってこの情報を?」
「ある奴が俺たちに教えてくれたんだよ。そいつも変な奴だが、今は直接繋がる手がかりがそれしかなくてな」
「……ある奴?誰なんだ?」
これまで、ネク、凛達も何度もその少女に干渉しようと試みてきた。だが、その度に少女は目の前から消え、そして再び何事もなかったかのように現れる。ウィルドですら分からないという、その少女の名前を知る存在とは……?
「クボウ……とか言う奴だったな、そいつ。崩壊の元執行人なんて、よく分からねえこと言ってたけどよ」
新宿編のカナタの過去話は、A NEW DAY、A NEW DAY - back side - 、と同時系列の話であって、凛側の世界の新宿で生まれ育ったカナタが、ネク側の世界の新宿で先代女王ツグミを失い、新宿死神全体が狂ってしまうまでの話です。新宿編は、黒幕によって、このどこかが狂ってしまった次代の新宿が主軸になっています。
渋谷編は、ネク達、ココ達が消えてしまった後の渋谷で、全能力者が汚染天使から両方の渋谷を解放していく話です。
謎の少女の名前の、ツグミとは、新すばせか側の設定の逆輸入です。『クボウ』という存在が新宿死神にその情報を流したことで、情報が明らかになりました。
次回で、このクボウという存在と、ツグミという情報をどこから得たのかが分かります。