すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
その中で、過去に遡ったココ達は、ヨシュア編、シキ編の最終日へと飛び、ドゥームの時間改変を阻止しつつ、この逆行の謎を解き明かそうとしていた。
(過去編のセリフ全てに『』が使われているのは、回想と同じで、全員が過去の時間に存在しているからです)
『……!?危ない、ココちゃん!!』
『うお……っと!!あっぶなっ、ありがと卯月!!』
『どりゃぁぁぁぁっ!!!!!』
『ふん!上出来だ、未央!!』
『へっへっへ〜ん!!ミナっちこそ、ナイスサポートだよ!』
二回目の時間逆行にて、次に四人が飛ばされた時間は、ネクの二回目のゲームの最終日……ゲームマスターミナミモトが利用され、紫の『ディゾナンスレオカンタス』が現れ、残った参加者のネク、ヨシュアを蹂躙する日だ。
『いいや、そんな未来には変えさせないよ!』
ここはUGのポークシティ屋上。肝心のネク、ヨシュアは虚数空間へとワープし、その場でこの時間のミナミモトとの戦いを繰り広げている。その裏側で……ココ、ミナミモト、未央、卯月はもう一人のミナミモトとの戦いを繰り広げていた。
『昨日も今日も、何人いるの、ミナミモト君って……』
『気にしちゃったら負けだよ、卯月!私たちの仲間はただ一人、コイツだけでしょ!』
『俺が何人いようが関係ねぇ!!解にいらねぇもんは……潰すだけだ!!!』
『か、かっこよ……』
『……煽ったな、未央』
『そ、そんなわけないじゃ〜ん、ミナっち!!』
虚数空間と、UG次元にて、二体のレオカンタスが存在している。
前者は元の時間通りのレオカンタス、後者は未来の干渉を受けて生まれたディゾナンスレオカンタス。正確には正史のレオカンタスの陽炎をドゥームが利用したことで生まれた存在である。
攻撃の威力は、不協和を纏うことでより強力となっているが、相変わらず知能が酷く低下している。
『へっ、こんな程度が俺なんて、笑わせるぜ……ゼタ弱ぇぇんだよ!!!!!』
『よぉし、トドメ行くよ!卯月、未央!!』
『まっかせて、ココッペ!!』
『うん!ミナミモト君も、行くよ!!』
『へっ……当然だ!!』
……再び改変を阻止する四人だったが、未だに現在に戻ることは出来ていない。それどころか、寧ろ離れていくように次々と過去へと遡っていってしまう……
その違和感が明らかになったのは、この時間に到着してからだった。
『う〜ん……さてと、今の時間は……』
スクランブル交差点で目を覚まし、巨大ビジョンを目を凝らして確認する。
間違いない、今日は7日前……また一週間遡った。
『現在に近づくどころか、更に離れて行きやがる……』
『これって、ひょっとして、過去にしか向かわない感じじゃない?』
『どこまで戻っていくんだろう、私たち……』
『今のところ、ネクの時間を逆行してる感じだけど……その理由も分からない』
この日は、ネクがシキと共にパートナーを組んだ週の最終日。規則性があるとすれば、この時間逆行はネクの体験の『逆追体験』を軸にしているということだろうか。
『私たちが過去に戻ることに、何の意味があるのかな?』
『逆行自体が結果的に、あの奴の改変を起こさせる羽目になってやがる。この時間逆行を引き起こした【未知】……その目的は何だ?』
ココ、ミナミモトは、自分達に時間逆行をさせる黒幕、【未知】について考察する。そもそも自分達の目的は過去の改変を阻止することではない。元の時間に戻ることだ。
『ええ、本当に誰が仕組んだのでしょうね』
『うん……って、ええ!?』
時間逆行の推察に頷く卯月。そのまま後ろを振り向くが、そこにいたのは、ココでもミナミモトでもない。人間ではない、真っ黒な靄の姿をしたノイズだった。
『ど、ドゥーム!?なんで、ここに!!』
『別にいいではないですか。もはや、私は本来の任務を逸脱した行動をとっています。この際、ラフに行きましょう。どうです?そちらのカフェで共に談笑と洒落込み……』
『誰が乗るか、バカ野郎!!』
初めて出会ってからもう今日で三日目。個人行動に移ったからか、急に馴れ馴れしくなるドゥームを、当然ミナミモト達は一蹴する。
『ふむ……私自身、謎解きは嫌いではないのですよ。ほとんどの謎が陳腐で、解くまでもないだけで……ただ、今回の件は違う。私にも、当然貴方達にも分からない、大変興味深い事例です』
『【未知】って奴のことか。お前らでさえ尾を掴めないとは、よほどの異端分子らしいな』
『まさに仰る通り。彼女さえいなければ、私たちがこうしてわざわざ出向く必要もなかったのですから』
ミナミモト、ドゥームは共に、【未知】の正体に予めの目星を付けていた。ミナミモトが遥か昔に出会った謎の金髪の少女……彼女にマークを向けていた。
『私とフェイトは、双方の世界から特定の死神を選び出し、運命の死神を組織し、指揮していました。新子々も、元々は我々側の死神だったはず』
『……でも、ネクとビイト、ヨシュアが叩き起こしてくれて、目が覚めた。私はもう死神じゃないし、アンタ達の仲間でもないよ!』
『……ええ、本来なら別に構いませんでした。どうせ抗おうと、我々の勝利は確定していましたから。ですが……その後いくつもの誤算が生じました』
例の、謎の少女が渋谷に現れ始めたのは、渋谷インバージョン最後の週だった。何度もタイムループを繰り返し、とうとう最後のループに差し掛かった時、急に彼女が現れ、それまでのループが次々と破壊されていった。
次にもう一つの渋谷を手に掛けようとした時も、音流零のSG計画を先回りするように潰し、音流天には動揺を見せるも、結果的に両方の渋谷は救われた。
だからこそ、今の渋谷の事態は引き起こされている。遥か上位次元であるフェイト、ドゥームが低位同調する際に放った波動……それによって狂わされた天使達を引き連れ、渋谷への本格的な侵略を開始したのだ。
『誰も抗えるはずがない私たちに、抗える存在が現れたのです。敵か味方かも一切不明、何故時間を遡らせているのか、その目的は何か。どうです?やはり、私とお茶でも……』
『いや、なんでよ!乗らないよ!!』
『貴方達も私も、同じ謎を追っている同士ではないですか。どうせまた過去に向かうだけなら、共に休みつつ考えてみませんか?』
『……えっ、敵、なんだよね?』
未央と卯月が困惑するようにツッコミを入れるが、どうやらドゥームは本気で討論がしたかったらしい。目も鼻も口もないその格好で、どうお茶を交わすつもりだったかは分からないが。
『そうですか……久々に謎を語り合える話し相手が出来たと思ったのですが、残念です』
『はいはい、私たちは全然興味ないから!!それで?こう言ったら、そっちはどう動くつもり?』
『……まあ、仕方ありませんね』
討論会の夢を諦め、不気味なほどの仲良しムーブは終わる。四人が構えると、ドゥームもまた動き出す。
『今日は……死神ゲーム、最終日。担当ゲームマスター、東沢洋大(ヒガシザワ ヨウダイ)。ミッション内容は……なるほど』
宙に浮かび、どこからか収集する情報を元に、計画を立てる。
『場所は首都高、制限時間は300分の全力勝負。でしたら、私たちの集合場所もそこにしましょう』
『集合場所って……なんかいつの間にか友達みたいに扱われてるんだけど!!』
『これもいわば、ゲームのようなものですから。勝てれば改変は阻止され、負ければ全てが終わる。それでは、先に行ってお待ちしていますよ』
ゲームというように、ドゥームは既に自らの責務を重視していないように見える。厳格で堅物そうに見えたが、ドゥームの注目しているポイントは過去改変やココの不協和よりも、自らを掻き乱す謎の少女のみだ。
『……上の奴らは基本的に変な奴ばかりだ。割と計算バカなのかもな、あいつも』
『アンタ、まさか共鳴してるの?』
『いいや、多分あいつとはソリ合わねぇよ』
『ふーん』
『……って、そんなこと言ってる場合じゃないよ!!』
『そうだよ、ミナっち、ココッペ!!あいつを追いかけないと!!』
未央、卯月が現実に連れ戻し、ミナミモト、ココは、これよりゲームマスターもとい、ドゥームが待ち受ける首都高へと向かう。妙に薄れた緊張感と、影が薄くなる時間改変……それとは裏腹に、彼らの意識は【未知】に強く向かいつつあった。
「……よぉし!!どうだ、見たかこのウヨウヨ野郎!!」
「……わぁっ!?な、なんという、騒々しさだ!!ええい、緊張の糸を手繰らせんか!!」
「ごめんなさい……お兄ちゃん、緊張ってもの知らなくて……」
「へっ、上等だ!!蘭子、飛鳥、ライム!!困ったことがあれば、この兄ちゃんにどーんと任せておけよ!!」
「……先程、其方に任せて、ここに辿り着く刻が遅れたのを忘れたか!?」
「ぎく……つ、つい迷っちまってな……はは、それはそれは悪かったぜ……」
「ふっ、蘭子がそんなに声を大きくするなんて……まあ、退屈しないだけいいさ。それよりも、これで制圧ポイントは二ヶ所。他のみんなはどうだい?」
渋谷ヒカリエB2階スイーツエリア、お土産やガラスの破片が散乱する中、戦いを終えた飛鳥が参加者バッジを通じて全員に呼びかける。作戦に移る前、予め参加者バッジに共有機能を追加していたのだ。
「こちら第二部隊、渋谷マークシティ、渋谷ストリーム周辺を解放したにゃ!!」
「もう人は見つからなかったけども、幸いソウルの残留は確認してる。僕の力が元に戻れば、いずれは元の姿を取り戻せるはずさ」
「おお、流石コンポーザー様だね!!すっご……!!」
「ふふふ、別に持て囃しても何も出ないよ?」
「だめ……騙されちゃダメだよ、李衣菜ちゃん!!こいつ、多分絶対腹の中真っ黒なタイプだから……あ、杏は信じないぞ!!」
「ちょっと、杏ちゃん!!偉い人にそんなこと言ったら、めっ!!だよ!!」
「き、きらりまで!!ええーい!!偉いとかどーとか言われても、杏は絶対に信じないぞー!!!」
「ええと……だ、第三部隊は、キャットストリート、東急プラザ、あと竹下通りも解放したぜ!!」
「うん!すっごい頑張ったもんね、奈緒、加蓮!!」
「ほんとほんと!!あ、でも、これ以上先には進めなくなってるみたい」
「壁みたいなものがあって……この壁、天高くまで繋がってる。もしかすると、私たちの渋谷と一体になって繋がってるのかも」
ヨシュア、杏、きらり、みく、李衣菜の五人は渋谷ストリーム含めた二ヶ所を解放し、
シキ、加蓮、奈緒の三人は竹下通り含めた三ヶ所を解放した。天使によって侵略された渋谷も徐々に解放が進み、この渋谷内の天使も若干ではあるもの数が減ってきていることを実感していた。
そして、シキが言うように、竹下通りにて渋谷は壁に阻まれており、その壁は上空にあるもう一つの渋谷と繋がっていた。
「双方の渋谷を融合し、閉鎖空間を作り上げたのか。この渋谷の中心部に位置する紫色の球体、それとの関連もあるのかな」
シキからの情報を聞き、ヨシュアは上空を見上げて、宙に浮かぶその球体を確認する。未だに天使を放出し続けるその球体は、明らかに上位次元の存在達が配置したもの。調査にも慎重な行動が求められる。
「へっ!あれをぶっ潰すってんなら、もちろん俺たちが請け負うぜ!!な、蘭子!!」
「はぁ!?な、何故、我だけを引き連れるのだ!?」
「早まらないでよ、ビイト。まず、今の僕らの目的は渋谷の解放さ。この渋谷も、既にかなりの場所を奴らから解放した……そろそろ、僕ら側の渋谷にも手をつける時かもしれない」
そう言うと、ヨシュアは上空に浮かぶ渋谷……渋谷エリア01の解放へと作戦を移行させることを提案する。
「向こうって、今は羽狛さんがいるんだよね。一人だけで、渋谷を守ってるって……」
「一人!?こんなデッカい街、たった一人で守ってるってことか!?」
「そ、そうみたいだけど……でも、私も心配なんだ。羽狛さんって、そもそも戦えないんじゃ、って……」
奈緒が言うように、シキも同じく疑問を感じていた。ヨシュアが言っていた、羽狛に任せると言うことも、よく考えれば無謀以外の何物でもない。死神ゲームに関わっていること以外、何も能力を持たないカフェのマスター……
「いいや、それだけじゃない。彼もまた天使だよ」
「……え?」
「……へ?」
「……えっ!?」
疑問に答えるヨシュア。その言葉を聞き、シキ、ビイト、そしてライムは思わず言葉を失う。
「あ、まだ言ってなかったね。彼は僕と同じ上位次元の天使だ。死神ゲームに天使が手を出すのは禁止されている。だから正体がバレてもいけなかったんだ」
「だ、だあぁぁあっ!?あのオッサンが、天使だって!?」
「お、おっさんなんだにゃ……」
「……羽つけてる、お、おじさんってこと?それは流石にろ……じゃないよ!?」
天使……神話の壁画などの姿を想像すると、ますます話が掴めなくなる。みくも李衣菜もイメージに混乱するが、ため息をつくヨシュアが場を回す。
「とにかく天使である以上、実力は僕のお墨付きさ。でもこの状況だ。いくら対抗策があっても、彼一人では厳しいものがあるだろうね」
「ちょうど、彼の店の真下にいるのは……シキ、加蓮ちゃん、奈緒ちゃんだね。シキ、二人を連れて向こうに渡れるかな?」
「ええと、多分できると思う。さっきと似たような感じでやればいいんだよね?」
「ああ、そうそう」
すっかり慣れたシキはヨシュアと意思疎通をして、段取りを理解する。
「ビイト、ライム、蘭子、飛鳥。僕たちは宇田川町方面を引き続き解放しよう。ストリームまで来れるかな?」
「へっ、んなの当たり前だ!!……で、ストリームってどこだ?」
「はぁ、なんですぐ乗っかっちゃうの、お兄ちゃん……」
「……も、もうみくが迎えに行くにゃ。飛鳥ちゃんと蘭子ちゃん、あとライムちゃんはビイト君のこと見ててにゃ」
ビイトのそのあまりの方向音痴に、全員が呆れたようにため息をつく。
「私も行くよ、みく。ヨシュア君とは杏ちゃんときらりちゃんと一緒にいてもらえばいいし」
「え、李衣菜ちゃんも!?ちょ、あ、杏が行くよ!!杏があのバカ連れてくるから……」
「ああ!?おい、誰がバカだ!!」
「どう考えてもバカでしょ、アンタ!!」
「杏ちゃん……よかったね、僕と一緒にお留守番だよ」
「うん!よかったにぃ!!」
「い、嫌だぁぁぁっ!!!」
バッジの向こうから聞こえる様々な阿鼻叫喚に、思わず苦笑いを浮かべるシキ、奈緒、加蓮。
「い、いつもこんな感じなの、みんなって?」
「あはは……ええと、いつもはこんなんじゃ、ないような……」
「どっちも大変そう……ははっ」
お互いの騒がしさに互いに頭を悩ませる三人。バッジの通信を切ると、ヨシュアやビイトとはまた違う行動に移るべく、シキは世界間移動の準備を行う。
「ねえ、シキってどうやって向こうの世界から渡ってきたの?」
「うーん、最初はヨシュアの背中の翼を使って、みんなでしがみついて来たんだけど」
「け、結構強引だな……」
「でも、宙に浮くことさえできれば、加蓮と奈緒でも渡れると思うよ」
「浮く……じゃあ、シキはどうするつもりなの?」
加蓮が尋ねると、シキは少し意味深な笑みを浮かべる。
「……お、おい、シキ。大丈夫だよな?それ大丈夫なやつなんだよな!?」
「ふっふ〜ん……さあ、にゃんタン、お願い!!」
そう呼びかけるように言うと、にゃんタンという名の黒いネコ人形は、その大きさを肥大させていく。やがて手持ちサイズから建物レベルまで巨大化すると、その背中にシキは飛び乗り、加蓮、奈緒の腕を引っ張って連れ込む。
「行くよ、二人とも!ちゃんと捕まってないと、多分落ちちゃうから!!」
すると、にゃんタンは自然と浮遊を始め、まるでジェット機のようなエンジン音と共に移動を開始する。
「うおおっ!何だこれ!!黒いブタの人形が……浮いてる!?」
「ブタじゃなくて、ネコだよ!!ずっと戦ってたお陰で、こんなふうに自由が効くようになったんだ!」
「すごい、ほ、ホントに浮いて……ん?」
ゆっくりと浮かび上がり……そう思っていた矢先、
「「えっ……うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!」」
「いっけぇ〜!!!にゃんタ〜〜ン!!!!」
急スピードで発進しだし、天高く飛び立つ巨大な黒いネコ人形。紫の球体を掠めるようにして、その巨体は向こう側の世界に存在するワイルドキャットへと向かっていった。
『にゃんタン、お願い!!』
『よし!!行けっ!!!』
『ええええ!?な、なんじゃありゃ!!!』
首都高に辿り着いたその時、未央が目にしたのは巨大な黒いネコの人形だった。両肩にネク、そして赤い髪の少女を乗せて、ゲームマスターと対峙しているその最中だった。
『あれ、あの子って誰だろ?』
『この時間のネクのパートナー、美咲四季だ。容姿を奪われ、あの本来の姿とは異なっている』
『え、し、シキちゃん!?あの子が!?』
『自分が自分じゃない奴になるとか……考えただけですごい複雑な感じ……』
本来の姿しか知らない四人にとって、シキと言われても違和感しかない状況が目の前に広がっていた。だが、
『おや、やっと来たんですね』
そんな中でもドゥームは、お構いなしに四人だけを相手する。
『わざわざこうやって人を待つのも、新鮮で気分転換になります。ですが、お茶の時間がないと分かった以上、もうこの日に用はありません』
『はっ!お前に用がなくても、俺たちにはあるんだよ!!』
『もう、私には新たなる仮定が浮かび上がりました。恐らく、私がこれから行う改変を……きっと貴方達はまた阻止する』
『……ん?』
この少しの間で、どうやらドゥームは一人、自分の中で膨大な考察を繰り広げていたらしい。その上で、次はこのゲーム……改変を阻止させようとしていると言う。
『貴方達も言っていたように、この時間逆行は、桜庭音操の時間に沿って行われていると、私も考えていました。ですが、もしもこの先……これ以上、時間逆行が起こるのだとすれば』
『……ネクじゃない、別の誰かの時間に沿って行われている可能性……お前はそれを疑うって訳か』
『ええ。ここまで来た以上、私は黒幕が何を考えているのかが知りたい、知りたくてたまらない、もどかしい。だからこそ、早く改変を阻止して次の時間へと移行したいのです』
もはや本来重視すべき敵対よりも、謎の解明しか目に入っていない。ドゥームは既にココを見ていない、自らの興味だけで世界を改変しようとしているのだ。
『……か、改変を阻止させるために自分から改変を引き起こす……あーもう、全っ然分からないよ!!!』
『はははっ!!中々の計算バカだな、お前も!自分の責務を投げ捨ててまで、探究の欲のままに進むとはな!』
『私は、優等生のフリをするのが得意ですから。きっと、フェイトは私をあの固い頭でまた叱責するのでしょう。まあ、ここではどうでもいい話です』
『……もう能書きはいいでしょう。さっさと倒して、次の道を開いてください』
『……!?ね、ネク!!なんだか様子がおかしくない?』
『なんだ……紫に、輝いてる?』
待ちきれないと言わんばかりに、首都高にいる東沢洋大……オウィスカンタスに細工を仕掛けるドゥーム。有無を言わさず簡単に下位次元に手を加える辺り、上位次元の冷酷さが垣間見える。
『やばっ!アイツが本気じゃなくても、改変自体起こっちゃ意味ないよ!』
『うぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!』
紫の巨体、ディゾナンスオウィスカンタスが覚醒する直前、ミナミモトは首都高を駆け出し、すぐさまネクとシキの背後に回り込み、首元に最低限の手刀を差し込み、二人を気絶させる。
『おー、流石ミナっち!じゃあ、ねっくんとしーたんは、私としまむーが守るよ!!』
『うん!ココちゃん、ミナミモト君、二人は思う存分戦っちゃって!!』
『たかがこんな野郎、ゴミでも何でもねぇ……瞬間で因数分解してやる!!』
『よし!とっとと、分解してやるんだから!!いんすーいんすー!』
『……数学舐めてんなよ、テメェ』
『え、そこ怒るとこ!?』
「羽狛さん!!」
にゃんタンジェットは紫の球体を超えた後、上空側の渋谷に引き寄せられるように上昇、いや下降していった。
かかる重力が紫の球体を境に02側から01側へと移り変わり、そのままにゃんタンはキャットストリートへと到着。背中に乗っていたシキ、加蓮、奈緒も地に降り立ち、目的地ワイルドキャットの前に構えていた男の元へ行く。
「シキか!!話はヨシュアから聞いてる。コンタクトは上手く行ったみたいだな」
「はい、私と一緒に行動してた二人も一緒です!」
「向こう側の世界の能力者か。俺は羽狛早苗だ。シキ達が移動していた間、ここで渋谷を守っていた。よろしくな」
既に連絡を得ていた羽狛は、加蓮、奈緒に軽い挨拶をする。
「えと、アタシは神谷奈緒です。よろしくお願いします!」
「私は北条加蓮……ねぇ、シキ」
「ん?どうしたの加蓮?」
妙に深刻そうな顔で、加蓮はシキに尋ねる。
「……羽なんて、どこにも付いてないけど?」
「そこ!?」
さっきの話が頭に残っているのか、用心深く羽狛を探るも、羽らしきものは見当たらない。ごく普通のダンディーなおじさん、という印象だけが強く残った。
「おいおい、嬢ちゃん。人をジロジロ見るのは止めとけよ」
「え……あ!す、すみません!つい……」
そんな加蓮の行動を注意して抑止すると、羽狛は現在の状況を簡潔に述べる。
「まあいい。最初はやばかったが、ミナミモトのバッジのお陰でここまで力を取り戻せた。だが奴らはいくらでもあの球体から出てくる……天使の数は膨大だ。人間と同じ、数えられるようなもんじゃねえ」
「羽狛さん……」
天使の話をした途端、三人の顔色が少し変わる。様子の変化から、羽狛は全てを察する。
「…そうか、もう知ってるんだな。そうだ、俺は、唯一生き残った天使。暴走してるアイツらは元は俺の仲間……俺自身は堕天して天界に戻れなかったが、今の俺があるのは、それが功を期した結果だな」
「あの天使って、元々は悪い奴なんですか?」
「……色んな奴がいるってのが正しいな。確かに冷酷で食えない奴もいるが、下位次元との関わりに積極的な奴も、人間の価値を認める奴もいる」
「ここを漂っているアイツらも、ホントはあんな姿なんかじゃない。一人一人の姿があって……今となっては、もう面影もないけどな」
自分達からすればただの敵でも、羽狛からすればかつての仲間たち。もはや生物ならざる存在と化した汚染天使と対峙し続けた彼は、一体どんな思いを抱えているのだろうか。
だが、そんな気を使わせることもなく、羽狛は渋谷の解放を第一だと三人に言う。
「俺たちに出来ることは、アイツらを倒して、渋谷を守ることだけだ。遠慮はするな、これまで通りにお前たちは戦ってくれ」
「……分かりました、羽狛さん」
「そうだ、お前たちにも期待してるぜ、嬢ちゃん達。向こう側の世界の実力とやらを、見せてもらおうか」
「はい!望むところだよな、加蓮!」
「もちろん!!私たちも、出来る限り協力します!」
会話を済ませると、シキ、加蓮、奈緒は引き続き渋谷の解放に向けて動き出そうとする。羽狛も別方向に動き、二方面から解放を進める作戦だった。
……だが、
「おいお〜い。慌てなくても、ちょ〜っとくらい待ってもいいだろ〜?お前ら」
四人しかいないはずの渋谷に、何故か見知らぬ存在の声が響く。ひび割れたキャットストリートの向こう側……そこから誰か、謎の男が歩いて近づいてくる。
「えっ?」
「だ、誰だ?シキ?」
「いや……私も、知らない」
その男は、シキの知人でも、加蓮や奈緒の知人でもなかった。どちらの世界の能力者も知らない、まだ見たことのない……能力者……?
「お〜、これはこれは、あの強い能力者、渋谷凛の仲間達か!!どしたの〜?まだこの街に残ってるなんて、と〜んだ物好きだね〜?ンハッ!」
「……!?凛!凛を知ってるの?」
謎の男が凛の名前を呼ぶと、シキは親友の名前にすぐさまに反応する。
「はぁ?……ああ、お前、シキだな?伝説の能力者、ネクの最初のパートナー……だったか。いつの間に、凛のパートナーにもなってたのか」
「凛のパートナー?」
加蓮がそう言うと、シキが答える。
「うん、色々なことがあったんだけど……こっちの世界で凛と親友だった私は、一緒にパートナーとして戦ってたんだ」
「親友で、パートナー!?シキと凛って、いる世界違うんじゃ……てか、パートナーはネクじゃないの?」
「えっ、どういうこと?」
「こっちの世界では、凛はネクとパートナー同士だったんだ。アタシも、ずっとパートナーはネクだと思ってた……」
「いつの間に、そんなことに……」
改めて、シキは加蓮、奈緒と凛の情報の欠落を埋める。そして、その情報は謎の男にとっても重要な補完となった。
「なるほど……やはり、この世界はどこかおかしいな。単純な時間移動じゃないとすれば……やれやれ、コンポーザー様もメンドクサいことするね〜」
「お前……まさか、クボウか?」
「……ンハッ、そー言うお前は、ハネコマだな?」
ピンと来ない三人とは違い、この男に対して唯一羽狛は心当たりがあった。だが、それは本来ならばあり得ない、非現実的な答えだった。
「俺は……久網旦蔵(クボウ ダンゾウ)!!!!!崩壊の……元、執行人だな。ンハッ」
「お前……なんでここにいるんだ?」
「それは俺のセリフだよ。まさか、全天使がイカれた中で、最後に残ったのがお前だったなんてな?」
「堕ちたからって言えば、お前も納得するだろ」
「おいおい、俺を煽ってるのか?ンハッ」
知人であるような、そうじゃないような。噛み合っていそうで、どこか噛み合っていない羽狛とクボウ。
「この人……知り合いなんですか、羽狛さん?」
シキの言葉に、羽狛は答える。
「こいつは俺と同じ、かつて堕天した天使だ」
「えっ……こ、このオジサンも、天使なのか!?」
「ああ。だが、既にコンポーザーに消され、世界から完全に消滅したはず……本来、存在しているはずがない」
羽狛は消滅したはずの天使、クボウとの思わぬ再会に動揺していた。
だが、それはクボウも同じであり、本来知り合いであるはずの羽狛との噛み合わなさに、違和感を感じているようだった。
「はぁ〜あ。何なんだ、お前らはホント?伝説の能力者、ネクって言ってもな〜んも伝わんねぇで、俺は勝手に殺されたことになって、理解に苦しむことこの上なくてさ!!」
「伝説の能力者……まさか、あいつがそんな風に言われてるのか?」
「ま、少なくとも、俺が知ってた『渋谷』では、な?でも、この渋谷はどこかおかしい。一体コンポーザー様は、何処の時間の世界に俺を飛ばしたんだ?」
「……」
かつての仲間、クボウとの予期せぬ再会を果たした羽狛だったが、この孤独な世界の中だとしても、決してそれは嬉しいものではなかった。
「……おい、そろそろ本題を話したらどうだ。あのお前のことだ。ただ、世間話をするつもりで来たわけじゃないだろ。何が目的だ」
「おいお〜い、そ〜気張るなよ、ハネコマ。別にやり合おうって話じゃないんだ。むしろ、素晴らし〜ほどの提案を持ってきたんだよ、ンハッ」
「……なぁ、ハネコマ」
シキ、加蓮、奈緒には一切目を向けることなく、羽狛に対してクボウは自身の最高の提案を伝える。
「俺と共に……この渋谷を壊さないか?」
クボウの放ったその言葉は……明らかに味方のその内容ではない、こちら側と敵対する旨の内容だった。
「は……?何言ってんだよ、お前!!」
奈緒は当然声を荒げるが、クボウはその様子を無視する。下位次元を見下す冷酷な天使……クボウはまさしく、それに該当する存在だった。
「ハネコマ。目を凝らしてよく見てみろ、この渋谷を。残骸、炎、そしてぐしゃぐしゃな天使。かつての面影なんか何処にもない、お前が素晴らしいと目を光らせた渋谷は、もうない」
「……」
腕を広げ、所々を気味悪く誇張して声を上げ、クボウはハネコマに投げかける。
「力の差は歴然だよ〜?どれだけ抗おうと、たった一人の天使とコンポーザー、あと僅かの人間が敵うわけない。頭がいいお前なら、分かってるはずだけどなぁ?ンハッ」
「そんなこと……ない!!実際、私たちは運命の死神と戦って、そして勝った!!奈緒も事務所も、大切なものは全部掴み取って……」
「あーー!!そーいえばー!!言うの忘れてたなーー!!!」
「うわぁっ!!急に大声出すなし!な、何をだよ……」
加蓮、奈緒の話を遮るように、クボウはわざと挑発するような叫び声を出す。そして、
「『最後の日』、渋谷中にお前らの映像を流したのは、俺だよ。あのステージも、あのライブも、ぜ〜ん〜ぶ〜、俺発信だよ」
「……えっ」
衝撃の事実であるその内容を、何の興味もなく吐き捨てるのだった。
「俺は元々の世界で、渋谷を浄化するはずだった。我らが新宿コンポーザー様から授かりし、『不協和』の力でな」
「だが、結果失敗に終わった。そして俺は廃棄され……気づけばこの世界にいた」
クボウは元々、『自らの世界の渋谷』で崩壊の執行人として、不協和の力を駆使して新宿を浄化し、その後渋谷を追い詰めた。だが、その力を渡した張本人、新宿コンポーザーの御考えを履き違えたことで廃棄され、そして……気がついた時にはこの時間の渋谷にいた。
「俺は、初めから不協和の存在を知っていた。だから手っ取り早く行動に移したんだ。お前らを使って、例の指揮者から力を奪い取ろうとな」
今のクボウの目的は、この世界を抜け出し、元々の自分のいた世界へと帰還すること。そのためには、運命の死神の持つ不協和の力が必要だと考えていた。
「まさか、全部自分達が引き起こしたとでも思ってたのか?はっはっは、う〜そうそ!!ぜ〜んぶ仕組んでたんだよ!お前達346プロダクションは地位を奪い取り、同時に俺はあの指揮者の不協和を奪い取る。おかげさまで力は完璧に取り戻せたってわけ、ンハッ」
この世界で運命の死神と抗争を続けていた、シンデレラガールズとネク。それを運命的な偶然だと見たクボウは、彼女らを利用して力を回収することを決めた。
最終日直前、『FRONTIER』主催の会社を乗っ取り、美城専務と話をつけることでシンデレラガールズとネクをステージに引き込み、運命の死神であった音流天の不協和を回収したのだ。
「あのステージ……アンタが、全部裏で糸引いてたってこと!?」
「だ〜か〜ら〜、そう言ってんだろ?でも、お前らも俺に感謝するくらい、あってもいいんだぜ?」
「……は?」
今にも感情を爆発させそうな奈緒に、クボウは追い討ちをかけるように畳み掛ける。
「俺が映像を流しさえしなかったら、お前らの声は誰の耳にも届かなかったんだ。その内に秘めてるアツ〜いもんも、届かなきゃ意味なんてあるわけな〜〜〜い!!!ンハッ」
「お前……」
「俺が、もう一度お前らを晴れ舞台に連れ出してやったようなもんだ。一番の功績者として、頭下げるくらいしといたら?」
「ふざけんなよ……この野郎!!!!」
思わずクボウに掴みかかろうとする奈緒。自分達の思いもバカにされ、全てが利用され、準備された紛い物だったのだ。
許せないと、その怒りをぶつけようとするが、
「待って、奈緒!!」
しかし、呼びかけてその肩を掴み、怒りに震える奈緒を優しく止める。その手は、加蓮の手だった。
加蓮は、隠されていた裏側を知った上で、クボウの挑発には乗らなかった。
「加蓮!!なんで……」
「忘れたの、奈緒?私たちがもう一度、アイドルになった理由」
「……えっ」
諭すように、加蓮は奈緒に呼びかける。
「だって、凛と私と、三人で約束したでしょ。また一緒に、トライアドプリムスやるって。人に届く、届かないは関係ない、ただキラキラしたい、自分がそう思うからやりたいって」
「か、加蓮……」
「裏で何が起きてたとしても、私たちのこの思いに変わりはない。嘘の陰謀が隠れていても、その中で培ったものは、ちゃんと本物でしょ?」
加蓮には、アイドルとしての絶対的な自信があった。一度バラバラに離れて、そして再び一つになり、固く結ばれたこの絆は簡単には切れない。
一人一人が自らの思いでアイドルを望み、楽しんでいる。その事実は、決して揺らぐことはない。
「うん、加蓮の言う通りだよ」
始まりは嘘だとしても、思う心が本物ならば、気にすることなんてない。シキも加蓮の思いに同感する。
「アイドルになりたい、それが奈緒自身の芯なら、それは嘘なんかじゃない」
「シキ……」
「出来事や過去が虚構だとしても、心と思いは絶対に自分自身のものだから。自分が心の底から思ったことこそが、自分にとっての、本当の現実に変わるんだよ!!」
「……ああ、そうだな、そうだよな!!」
誰かによって作られた歪んだ過去でも、そこで感じた確かな友情を、シキは凛と共に掴み取った。現実も虚構も関係ない、友達だと思えば友達になる、そうして全てを現実に変えていけばいい。
心は、嘘をつかない。
「ふん……あの指揮者が口うるさく言ってた綺麗事の意味が、少し分かった気がするな……」
「ははっ、お前はこういうの反吐が出るほど嫌いそうだもんな」
「そう言うお前は、こういう人間らしい不条理が大好きなんだろうな〜?ンハッ」
「ふっ、ああ。そうさ」
シキ、加蓮、奈緒。自分の思うままに世界を広げている三人を見て、羽狛はどこか嬉しそうにクボウに語る。
「誰かにとっていらない、不必要な奴なんか、この世に存在しない。全ての個が心を持ち、不条理を繰り返すことで、様々な感情や社会、文化が形成されていく。その積み重ねが過去となり、現在の俺たちの知る時間となり、やがて未来へと繋がる。
俺は、そんな人間の作りゆく世界を、この目で見たい」
だからこそ、羽狛はこんな惨状と化した渋谷でも、最後まで諦めるつもりはない。人間の作りゆく未来を、時代の最先端であるここ、渋谷で見届けていくためにも。
「……やれやれ、変わらないな、お前は」
どこか呆れたような、懐かしむようなため息をつくと、
「いいさ。そこまで言うなら、この渋谷を救ってみればいい。不条理を信じたお前と、俺……どっちが図太いか試してみようぜ。ンハッ」
クボウは羽狛、そしてシキ、加蓮、奈緒ら能力者を敵とみなし、上着のポケットからあるバッジを手に取る。そのバッジは、シキも加蓮も奈緒も、そして羽狛もよく知っていた。
紫のスカルマークの刻まれた白の素体のバッジ、あのフュージョンバッジだった。
「そのバッジは……!?」
「別に『お前の』じゃねえよ。あの指揮者が消えた後、会場でコイツを奪わせてもらった。この力があれば……例えば、こんなことだって、な?」
奈緒にそう言うと、クボウは手を前にかざし、謎のノイズシンボルを発現させる。シキの見たことのある白黒でも、加蓮、奈緒の知っている紫でもない。その色は透明、ゼリーのように気持ち悪く濁った無色だった。
「さあさあ集まれ、『ディジーズノイズ』!!!
喰らい尽くせ、境界の壁も、天使も、能力者も……この渋谷を、完全な浄化へと導くのだ。ンハッ」
未知なるシンボルから現れる、新たなる不協和。禁断ノイズでも、ディゾナンスノイズでもない、無色透明の謎のノイズ達。
渋谷を崩壊へと導くディジーズノイズが、クボウの手からこの地に放たれた。
「このノイズは……これも、お前が生み出したのか?」
「ンハッ、ああ、そうだよ。コイツらは普通のノイズとは違う。次元の壁を侵食し、崩壊の引き金を引く存在だ」
「俺の目的は、この渋谷を出ることだけだ。完全に手遅れになる前に、この閉鎖された渋谷をこじ開け、俺は『元いた世界』へと戻る」
「本気でこの渋谷を守りたいなら……こんな程度でへたれてんなよ、シンデレラガールズ」
『……グォァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!』
『けっ!!この程度のツナロール野郎、屁でもねえ!!』
『うん!!……へ、ツナロール?』
『ちょっと前にこっちの渋谷で流行ったんだよ、卯月。私も食べに行ったことあるし』
『つ、ツナロール?どんな味だったの、ココッペ?』
『ええとね……』
もはや世間話をするほどの余裕を持って、今日の改変を阻止した四人。力を与えられた素体が元から弱かったこともあり、不協和の力を持つココ、幹部クラスのノイズの力を持つミナミモトの敵ではなかった。
紫が抜けていき、ディゾナンスノイズから通常ノイズへと戻り、オウィスカンタスはその場で気絶する。
——やがて、ネク、シキ、オウィスカンタスは意識を取り戻して起き上がり、再び自らの生死をかけて互いに競い合うことになる。これにより、時間の流れは元のままに保たれることとなった。
『……やはり、ですか』
その時、首都高に四人の前に、突如として緑に光り輝く次元の穴が現れる。眩しさに目を伏せる四人に、現れたドゥームは自らの仮定が確定したことを悟る。
『この時間逆行は、桜庭音操の時間に沿って行われているわけではない……また別の『誰か』が、私たちを誘導している』
『ドゥーム!!……結局、私たちは言われた通り改変を阻止しちゃったけれど……』
『ですが、この時間逆行の真実が、また一つ分かりました。それにどの道、貴方達は元の世界には戻れず、私は謎を解けない。まだ双方に益はありませんから』
『それ、何のための今日だったの……』
『上位次元の考えること……理解できないのは、仕方ないことなのかな』
ココ、未央、卯月がドゥームに相変わらず混乱させられる中、ミナミモトは軸がブレないよう、今一度上位次元と自分達の関係を明確にする。
『おい、上位次元。もう一度ハッキリさせろ、お前は俺たちの敵だな?』
『……ふふっ、貴方らしくないことを聞きますね、CODE、002007726223……まどろっこしい、南師醒』
すると、ドゥームは珍しく下位次元の名前を呼ぶ。ミナミモトと自分の間にある何かを感じ取ったのか。
『……何のことだ?』
『敵かどうか、そんなものは私の気分次第です。名目上、私に命じられているのは貴方達の消去。ですが、私が最も求めているものが変われば、迷わずそれを捨てることになる』
『貴方と同じですよ、南師醒。自身の目的のコンポーザーのために多くの人間を手にかけた、貴方と』
『……』
ドゥームはミナミモトと自分が同質の存在だと言う。目的のためなら手段を問わない。そうであったはずなのに、何故その仲間達と共にいるのか。
らしくない。とっくに捨てていればよかったものを、何故わざわざ変わろうなどと思ったのだろうか。一種の同族的な親しみを含めて、ドゥームはミナミモトに語る。
『俺は元から変わってなんかない。だが、数字で頑固に凝り固める、そのやり方が覆された以上、よりよい最適解を求めていく。それだけだ』
『仲間と呼んでいるそこの人間も、やがて見捨てることとなるでしょう。何故なら、貴方はそのような不条理を持つ人間では——』
『クラァァァァァァァァァァァッシュ!!!!!!!!!!!!』
クドクドと。そんなうるさい上位次元の戯言を聞くつもりなどない。
『けっ、何度も言わせんじゃねえ。俺は俺のために動くだけだ。それは変わらない』
『……ならば、何故』
かつて、あれほど仲間といることを拒んだ彼は、仲間と共にいるのか。
『魅せられただけさ。新しい可能性を……俺が考えもしなかった解へと、道筋を』
そう言うと、ミナミモトは卯月を見る。
『笑顔、だよな。卯月』
『ミナミモト君……』
『あんな強情野郎の俺をこんなにしたんだ。今更、捨てられるかよ』
ミナミモトは尖った八重歯を見せて、笑顔を浮かべる。その様子を見て、卯月もミナミモトの側に寄り、その手を掴む。
『卯月……』
『私も、絶対に離さないよ。私にとって、私たちにとって、大切な友達だから……!!』
とびきりの笑顔を見せ、ミナミモトの心を熱くさせる卯月。そして、
『私もさ、その隣にいてもいいよね〜?』
卯月のもう片方の手を、未央が掴み、
『じゃ、空いてる手は私が掴むから』
ミナミモトのもう片方の手を、ココが掴む。二人して、笑顔をミナミモトへと向けていた。
『未央、ココ……へへっ、俺も驚いてるぜ。他人になんて、友達になんて、そんなものに心を開く日が来るなんてな。親父が見たら……なんて言うのか』
『友達……ですか』
完全に他人に心を開いてしまったミナミモトに、ドゥームはため息のような仕草をする。
『あいもかわらず、下位次元は不条理の絶えない存在ですね。これまでの世界と同じく、訳の分からない情動で、自らを破滅へと追い込む……ですが』
下位次元の可能性……不条理の生み出す可能性について、僅かながら、頭の中の考えを運ばせる。
『……貴方達は、どこかがこれまでとは違う。上位次元である我々の運命を変えてしまう勢いで、止まることを知らぬ力を生み出し続けている』
『もしかすれば、その不条理こそが……我々には分からない歪さこそが、この時間逆行を紐解く、鍵になり得るのかもしれない』
ドゥームは未だ情動に包まれる四人に別れを告げ、この時間の首都高を離れ、現れた次なる時間へと進む。
特殊空間である時空の狭間を飛行するよう、移動していく。桜庭音操のゲームの最端の時間、その日まで至っても、まだこの航路は終わらなかった。
一体どの時間、どの場所に終端が存在するのだろうか。黒幕の、目指すべき目的地はどこなのか。
時は遡ること、さらに一週間……より、遥かに遡った、遠境の世界。ネクの時間を越え、その先に待っていた時間は——
渋谷編では、謎の男クボウが現れ、第二章最終日のFRONTIERにて手助けをして、音流天を陥れて、その不協和の力を奪ったことを自白しました。彼は元々『新すばせか』にて、渋谷と新宿を崩壊へと追い込んだ『執行人』で、最終的にコンポーザーによって廃棄され、何故か本作の世界へと迷い込んでしまいました。
元の世界に戻るべく、とっておきであるディジーズノイズを放ち、新たな脅威として能力者に立ちはだかります。
過去編は、ヨシュア編最終日、シキ編最終日で、それぞれのゲームマスターが狂わされた姿と戦うことになり、時間改変を阻止するというものでした。その結果、ドゥームですら分からない、逆行を引き起こす何者かの正体を探るべく、次々と時間を遡っていきます。