すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
そこで明らかになる、これまで隠されてきた真実。
課せられた最後の罪に向き合い、大切な人の元へ、今それぞれの者たちは走り出す。
(この回で、物語中の重大な真実が明らかになります。新子々(アタラシ ココ)について知らない場合は、是非キャラクター欄を見てください)
『……ぁ』
ずっと硬い床を見つめて、その身に軋む重力を感じて、どれほどの時間が経ったのだろうか。
もう頭を撫でてくれた、その手の温もりは残ってない。
みんな誰も残っていない、既に自らの未来に向かって歩いていった。自分だけが、永遠にここで立ち止まっていたのだ。
『ここ、は……』
垂れていた首を上げると、目の前を無数の人々が通り過ぎていく。いつも見慣れた景色であったはずなのに、誰も彼も、大人も若者も、一人を見て、また一人を見て、
『……っ』
その身が、心が絞られて、苦しくなる。みんな様々な表情をしてる、笑っていて、険しくなって。それぞれの人生の話であって、全く関係ないと分かってるのに、何もかもがまるで自分を蔑んでいるように映ってしまう。
『うるさい……うるさい……』
——いつまで、そうやってウジウジしてるんだよ。
——自分勝手にワガママやって、何にも変わってないんだな。
——未央も卯月も、あのミナミモトも、みんな変わろうとして変わったんだよ。
——シキも、ヨシュアも、ビイトも、ライムも……ネクも、この渋谷に生きる全員は変わり続ける。そうやって、この街の人間は、自分の望む未来へと進んでいく。
——この街でただ一人、お前だけが、逃げ続けたんだ。
『……やめて……やめてやめて、やめてよ!!!』
渋谷センター街にて目覚めた、派手な衣服に身を包んだ少女。知らない間に、また時間を逆行した。それを理解すると同時に、リエンを永遠に失ったという事実もまた、身の内に染み込んで心を抉る。
『そんなに……私は誰かと一緒にいたら、ダメなの?大切なものを、失わないとダメなの?私だけが……私だけが世界の為に……犠牲になれって言うの!?』
しゃがみ込んでいた状態から立ち上がり、逃げるようにこの場を立ち去る。何処か誰にも何も言われないような、自分だけの居場所を求めて街を駆ける。
だが、ここは人が集う戦場の街。昼も夜も、人が消えることは決してない。少女にとっての安息も、同じく存在しない。
『みんな、何も……何も知らないくせに、何もわからないくせに……!!!』
自らの運命に嘆きながら、少女は走り続けた。渋谷にも、人間にも、そして世界にも。望むハッピーエンドが絶対にないと分かっていても。
そして、その果てに辿り着いたのは宇田川町。
『ここは、少し静か……だったっけ』
少女は、人が少ない場所を思い出した。よくここに来ていたことも思いだした。
……なんて、元々忘れてもいないのに。それどころか、これまでずっと忘れることなく覚えていたのに。
『そういえば、みんなはどこに……』
走り続けてから相当の時間が経ち、ようやく少女は自身の友達を思い浮かべる。またこうだ。現在の友達など、少女にとってはすぐにどうでもいいと忘れてしまえる程度のものだったのだ。
過去のことばかり考えてるのは、ずっと変わらない。無意識のうちにこうしてここに来たのも、そういうことなのだろう。
そう。この、時間に。
『!?』
その瞬間、少女は目の前の衝撃的な光景を目にする。宇田川町のグラフィティに手をついていた少女は、慌てて背中の羽を広げ、その壁の上側のガードレールに身を潜める。
『な、なんで……って、そりゃそっか。ここどうせ過去なんだし……』
奥からこの場に現れた『存在』を見て動揺したが、なんとか深呼吸をして自分を落ち着かせようとする。こうして慌てて隠れたのには、まだ心の準備が整っていなかったのもある。
でも、一番の理由は、自らの臆病にあるのだろう。
『この時間、って……』
どうやらここは、死神ゲームとは切り離された時間らしい。ドゥームが言った通り、時間の逆行はネクの死神ゲームの記録を辿っていたわけではなかった。
ビイト、ヨシュア、シキ、リエン……これまで遡り続けてきた時間、そして。
この日、少女は運命の分岐点を迎えることとなる。
『……?なんだろ、ここ……』
目覚めてすぐ、この時間の異質な空気感は、離れていた未央たちにも分かった。
『死神ゲームの時間、じゃない?』
『……未知の時間、か。あの上位次元の姿も見当たらないな』
ハチ公前の花壇の縁に座り、卯月とミナミモトは交差点のビジョンを見る。流れている広告からしても明らかに現在ではなく、ここは過去の時間の渋谷。
だが、妙だ。今までとは違って死神ゲームが行われていない、いつもと変わらぬ普通の渋谷の一日に、何故か三人は飛ばされたのだ。
『だが、気を抜くな。奴とのゲームは恐らくもう始まっている』
ミナミモトは昨日の終わりの、ドゥームとのやり取りを思い出す。未だこの場にドゥームは現れていないが、あの様子や自信からして、一筋縄ではいかないだろう。
この時間には、何か大きな罠が仕掛けられているはずだ。
『ココちゃんも、きっといるんだよね』
卯月は立ち上がって辺りを見渡すが、ココの姿は見当たらない。昨日の終わりから同じく、この時間に到達した今でも、自分達はずっとはぐれてしまったままだ。
『アイツ、やっぱりバカしやがって……ったく』
ミナミモトは、これまで一ヶ月間のココと過ごした時間を思い出す。出会って初めの頃は、リエンのことで多少のいざこざもあったもの、インバージョン後は毎日ワイルドキャットに集まり、ずっと絡んで話していた。
ふとすれば大体いつも隣にいた。ツッコんで、逆にツッコまれて、そんな独特の空気感につい乗り気になって、一緒に色々なバカをやった。
そんな姿にも、これまでにもずっと、まだ取り切れていなかった苦念があったと言うのか。何処までも面倒臭くて細かい性格をしてる……知ってはいたが、分かり合えなかったことに、思わずやるせなくなる。
『……絶対見つけて、この手で喝入れてやる。あのバカとの付き合いも、長いんだ。ここまで過ごして、今更一人になんかさせてやるか……!!』
『……うん。私だって、ココちゃんだけは絶対に見捨てたくない!!』
『三人で、一緒にココッペを助けよう!!それが……友達として、私たちが出来る一番のことだから!!頑張ろう、しまむー、ミナっち!!』
いつも内に抱え込んでは一人で悩もうとするココ。そんな性格は、とっくに三人も分かっている。その上で、友達としてココを認めるためにも、ココに認められるためにも、自分達がココを助けなきゃならない。ココを信じなければならない。
『ああ、アイツは俺たちが救ってやる、必ずだ!!』
『うん!!』
『よぉし!!やるぞ〜!!』
やることは変わらない。一ヶ月前、リエンの話に関しても一人で背負いこませず、全員で支えようとしたじゃないか。
ココは今でも何かを抱えているが、あの時に浮かべていた笑顔は、決して偽りではなかった。同じことだ。どれほどの膨大な感情が押し寄せようと、耐えてみせる。
ココの心の内に、打ち勝ってみせる。
『じゃあ、みんな!さっそくココッペを探しに……って、おわっ!?』
ミナミモト、未央、卯月の三人で結束し、行動を開始しようとしたその矢先、未央の背中に何か鈍い衝撃が走る。突然のことに驚きつつも、背後を振り向くと、
『あ……ご、ごめんなさい、お姉さん!ち、ちょっと足が滑っちゃって……』
顔を青ざめて、慌てて頭を下げる小さな少女がいた。見たところ高校生の未央や卯月よりも一回り小さく、衣服は少しだけ『地味』で、『長い茶髪に蒼い瞳』を備え、とても可愛らしい印象があった。
『あー、いいんだよ!ぜ〜んぜん気にしないで——』
『あ、あの、ホントにすみませんでした!じゃ、えと、その……先に買い物行かなきゃいけないんで、す、すみません!』
『——え』
人に慣れていないのか、ぎこちない話し方と、めちゃくちゃな内容で、少女はそそくさと交差点へと行き、そのままセンター街へと向かっていった。見ていた先にあるのはAMXであり、何かCDでも買いに行くのだろうか。
……だが当然、肝心な箇所はそこではない。あの少女の顔を見た瞬間、未央と、さらに卯月は言葉を失い、何も言うことが出来なくなってしまった。その顔ほど、衝撃的なものはこれまでになかった。
『え……今の……って』
背は小さかったが、あの顔を二人はよく知っていた。今確かに、ここにいるはずのない彼女が目の前に現れた。絶対に間違えるはずがない、二人が最も心を通わせた彼女の面影が、少女から感じられた。
『……なるほどな』
今の瞬間、ミナミモトは今日に隠された真実の概要を掴む。ドゥームが言っていた、『今日起こる出来事』……考えたくもない、それは恐らく、
『ここは、現在より『二年前』の渋谷。ネクの親友である渋谷凛が死ぬ、か』
死神ゲーム最終日から始まった時間逆行、その辿り着いた先は、二年前の、全ての始まりとなった日だった。
……渋谷を語る上で決して欠かすことの出来ない能力者、桜庭音操の一生を左右することになる運命の、悲劇の日だ。
『ドゥームは……何もしなければいいって言ってた。それって、まさか』
『嘘、でしょ……』
『……』
今出会った少女、渋谷凛を、そのままの未来へと進めること。つまり、見殺しにすればいい。渋谷凛が、今日死ぬ未来を確定させればいいということだ。
だが、簡単なことじゃない。口に出すほど、いや、口にするのも同等以上に。
『……っ』
四日前、卯月はネクの運命を変えずに維持したことに、言葉に出来ない胸の苦しみを覚えた。これは、それと同じことだ。
未来を知っている上で、それを変えることの出来ないもどかしさ。精算できるならしたいのに、変えることは決して許されない。時間とは都合良く行かない、ただただ惨いものであると、彼らはこれまで痛いほど知ってきた。
『……ただ止まってたら、頭も身体も鈍る。今はまず、ココの捜索を優先するぞ』
『うん……そう、だよね』
現代のことを考えれば、自分達の取ることのできる手段は一つであり、放置のみだ。だがそれは、後悔という深い傷が永遠に刻まれることとの引き換えである。
救う命と、捨てる命。一体何が正しいことなのかが、分からなくなりそうになる。
自分自身の強い意志がない限り、時間の流れに、人は簡単に飲み込まれてしまう。それを表すように、彼らが迷い、戸惑い、悩む中でも、時間は決して止まらない。
『渋谷凛』は渋谷を歩み、運命の分岐点へと着実に歩を進めていく。残されたタイムリミットは少ない。その間も彼らは、何も出来ない無力さと後悔を抱えながら、その時間を過ごすことになるのだ。
「……そろそろ、限界も近いか?動きが鈍いぞ」
——新宿三度目の出撃にて、また新宿死神はその数を減らされ、着実と戦力は削ぎ落とされている。
唯一生き残っているネク、凛も、明確な攻略法がない以上、防戦一方にならざるを得なかった。ショックウェイブ、バレットショット、エンタングルメント、こちら側の放ったどんなサイキックをも吸収し、学習して自らのものとする能力。
だがこれ以上負けてはいられない。これまで何度も苦しめられてきたその力に、どう対抗するのか。
「くっ……まだだ!!」
「ネク、私を蹴って!!二人で一緒に!!」
「ああ、分かった!!」
凛がオーバーロードを使用すると、ネクは頷き、そのまま凛目掛けて全力で走る。凛はその場で大きく跳躍し、その足を横に向け、ネクへと突き出す。
すると、ネクと凛は互いの足を付け合うように地面に平行になり、そのまま互いを蹴り飛ばす。
「……ほう」
フリーフローとオーバーロード、双方が双方の力を増幅させるように、そのスピードはこれまでとは比べ物にならないほどに速くなる。
「はぁっ!!」
「ふっ!!」
常人が目に負えないほどのスピードで、ネクと凛はフェイト目掛けて突進し、その手に携えた刃を振り下ろす。フェイトは受け止めて二人の攻撃をいなすが、その度に二人は空中で足を絡め、その身に溢れ出す威力を増大させていく。
「何……!?」
これまでにない二人の戦法に、フェイトは初めて焦るような様子を見せる。不協和を纏ってサイキックを放つだけではなく、完全に不協和をコントロールし、自らのものとしようと考えたのだ。
フェイトに攻撃を試み、それでも打ち破られれば、再び互いを蹴り合い、手と手でハイタッチのように互いを弾き合い、さらにその身のエネルギーを増幅させていく。人間を超越する凄まじいスピードで、フェイトを球状に囲うように、二人の軌跡は光を放つ。
「くっ……」
さらに強くなり、速くなる二人の攻撃の嵐に、僅かにフェイトが躊躇いを見せる。その瞬間を、二人は逃さない。
「「はぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」
コンマの世界に到達した二人は一瞬のうちに互いの腕を掴み合い、その腕を軸にポールスピンを行い、縦横に超回転を起こし、そこからターンカッターを繰り出す。通常とは異なり、二人の紫と蒼の斬撃が球体を描き、その球をフェイト目掛けて衝突させる。
「……ぐぉ……!?」
フェイトもショックウェイブで防衛するも、二人の斬撃はその速度をさらに増していき、とうとうフェイトの許容範囲を上回る。徐々に受け止めることが出来なくなり、身に喰らう一撃が増えていくフェイト。ネク、凛は互いのシンクロをさらに上昇させ、止まることなく斬撃を放ち続ける。
「なっ!?……ぐぁぁっ!!!!」
ついに、上位次元であるフェイトに攻撃が通った。その場に膝から崩れ落ち、その身が靄に包まれる。人型を維持することも出来なくなるほどのダメージを負ったのは、フェイト自身も初めてだった。
「はぁ、はぁ、はぁ……がぁぁっ!!」
「よし、これで……っぐ、ぅっ!!!」
しかし、ダメージを負ったのはネク、凛も同じだった。これまでとは違い、サイキックに纏わせるのではなく、直接不協和の力を使って攻撃を行ったのだ。さらには人間の許容範囲を遥かに超えたエネルギーを纏ったことで、二人の身体には相当の負荷がかかってしまった。
攻撃を終えると、ネク、凛はその場に倒れ込んでしまい、意識が朦朧とする危険な状態に陥ってしまった。
「ぐっ……やはり、即刻に排除すべきだったか。こんな下らない時間稼ぎなどに関わらずに、早く貴様らを始末しておけば……おのれ、人間め……!!!」
これまで一度も傷を負うことのなかったフェイトは、その屈辱的な事実に思わず平静を取り乱す。見せたことのないその姿は、明らかに動揺の色が混じっていた。
「……っ、は、ぁぁっ……」
「いいだろう、抵抗の分に見合うほどの最期を遂げさせてやる」
身体を痙攣させるほどの過呼吸の中、顔を歪めて必死で息を吸うネク、凛。
「貴様ら人間は生き過ぎたのだ、必要とされていない命を使いすぎたのだ……これ以上、邪魔になる前に殺してやる……殺して、やる!!!」
フェイトは、その身に受けた侮辱を晴らすべく、全身にこれまでにないほどの力を蓄えていく。不規則に胸を膨らませる二人の首元に、ジリジリと恐怖を焼き付けるように剣先が迫る。
いつ、処刑が行われるのかも分からない。今までで死が最も二人に近づいた、その時、
「……放て!!!!!」
背後から聞こえた謎の声に、その動きを止めるフェイト。そして、自らの背中に感じる微かな衝撃。さらには追加して無数の衝撃。
「ヒシマ、カイエ!!アイツらの救護を頼む!!」
「了解した」
【うん!任せて!!】
「シイバ!!攻撃の指揮はお前に任せる!ススキチ、アヤノ!!二人はアタシに付いてこい!!」
「心得たぞ、カナタ!!」
「ガッハッハ!!百も承知だぜ!!」
「新宿死神……全軍配置準備よ!!」
歌舞伎町一番街アーチより、姿を表す最後の希望。ヒシマ、カイエ、シイバ、ススキチ、アヤノ、そして残った全ての新宿死神。
彼らを携えて今、女王カナタはこの地に凱旋した。
「……今は貴様らに構う暇はない。邪魔を、するな」
「お前にはなくても、アタシにはある。新宿を従えるリーダー、女王としての責務がな」
「責務だと?笑わせるな。散々羞恥を働いた出来損ないの貴様に、今更何を語る資格がある」
「ああ、もうその過去は変えられないさ。女王として、この罪は全て背負う」
フェイトは苛立ちながらも見下す態度でカナタを追い詰めるが、もうカナタにそんな言葉は通用しない。
ここにいるのは、この街を従える正真正銘の、新宿の女王だ。
「だからこそアタシはここにいるんだ。『あの日』から続く新宿とお前達の因縁に……今日、ここでケリを付けるためにな!!!」
そして、新宿死神は自らの銃に特殊な弾丸を込め、フェイトに向けて一斉に発砲する。新宿の女王であるカナタが力を分けたその弾は、今の余裕のないフェイトを怯ませるには、十分な役割を果たした。
「くっ……鬱陶しい!!ここで全員まとめて刻み殺してやる!!!」
[俺たちは新宿死神は、必ずお前に勝つ!!]
[仇討ちであっても、負けたら意味なんてない。私たちは全存在をかけて、新宿の全てをぶつけるって決めたの!!!]
「いいぞ、お前たち!!!その調子で……もっと街のネツを昂らせろ!!!!」
フェイトの斬撃を回避し、新宿死神達はシイバを中心に、その身の全力を叩き込んでいく。身体に残った全ての力を振り絞り、全員が目の前の脅威に立ち向かう。
シイバが指揮するその下で、カイエ、ヒシマは倒れ込むネク、凛の元へと駆けつけ、キュアドリンクを流し込ませる。
「……ごほっ、ごぼ!!!」
【ああ!!ヒシマ、不整脈の人に飲み物を飲ませちゃダメだよ!!】
「悠長にしている時間はない。苦しいだろうが、これが最良の方法だ」
「ごぼっ、ごぼ、ごはっ……!!!し、死ぬ死ぬ!!」
【ヒ、ヒシマ!?】
「……はぁ、全く堪え性のない奴らだ」
強引な方法で、無理やり身体を正常に戻されたネク、凛。目の焦点を合わせると、目の前にいたのは見たことのない二人の男だった。
「……?だ、だれ、だ?」
【この人はヒシマで、僕はカイエ!よろしくね!】
「えっと……メールの画面を見せるんじゃなくて、喋らないの?」
「慣れろ。まあ、たまにはこういう関わり方もいいだろう」
「……冗談、じゃなさそうだな」
よく分からないことばかりだが、もう何度も唐突な経験はしてきた。疑問を押し込んでこの場を飲み込む。
「あまり時間はかけたくない、手短に話すぞ」
新宿死神の一人であるヒシマは、感情を押し殺すようにわざと無機質な声で話す。
「お前たちは、渋谷に戻ることを目的としていたな」
「そ、そうだけど……」
「なら単純なことだ」
そう言うと、ヒシマは、
「このバッジを持ち、今すぐにこの新宿を出て行け」
ネクと凛を、望み通り、この新宿から速やかに避難させようとした。
その際に、ヒシマから手渡されたのは、深紅に染まった、無機質な一枚のバッジだった。
「このバッジは、新宿の女王の力を宿したもの。世界を越える力を使えば、既に閉ざされてしまった渋谷にも侵入が可能なはずだ」
「新宿の女王の、力?待って、それってどういうこと?」
「何を言ってる?まさか、お前たちがこれほど短い話も聞けない奴らだとはな」
「違う!!分かった上でカナタの話をしてるんだ!!」
冗談なのか冗談じゃないのか、よく分からないヒシマに流されかけるも、ネクはバッジからカナタについてを聞く。
「俺たちを出すって言っても、だったらフェイトはどうするつもりなんだ?」
「問題ない。カナタ、ススキチ、アヤノが最終準備を進めている。慌てなくても、すぐに分かる」
ヒシマがそう言うとすぐに、新宿中に響き渡るほどの音量で、謎の警告音が流れる。突然の轟音に肩を跳ねるネクと凛の耳に、今度は人間の声が届けられる。
【松苗叶多だ。今現在、計画を最終段階へと移行させた】
【新宿のシステムは無事、全てシャットダウンされた。恐らくこれより大量のノイズが現れることが予想されるわ】
【お前ら、気合い入れていけ!!アイツを一歩たりとも、この新宿から逃すんじゃねぇぞ!!!】
「カナタ、アヤノ、ススキチ……?」
「ノイズ……!?どういうことなんだ!?」
ネク、凛は自らの耳を疑った。これまでに聞いたことのないカナタの行動に、思わず反応する。
【……ネク、凛。聞こえてるか】
「カナタ!!一体何をしようって言うの!?」
【二人は突然のことで、何が何だか分からないと思う。でもこれは、アタシら新宿の意志だ】
【これより、アタシは、この新宿を崩壊へと導く】
「えっ……!?」
「崩壊だと!?」
アナウンスにてカナタが告げたことは、衝撃的な内容だった。カナタの罪の精算……それは、この新宿を犠牲にしてでも、必ずフェイトを消滅へと追い込むというものだった。
「そんなことしたら、カナタはどうなる!?新宿死神の奴らは!?みんなはどうするんだ!!」
「力は、このバッジにあるんでしょ!?だったら、もうカナタは戦えないんじゃ……」
「ああ、そういうことだ」
ヒシマが呟くと、それに乗っかるようにアナウンスが再び流れる。
【もうヒシマとカイエから、アタシのバッジを貰ったはずだ。それを使って、二人は元の渋谷に戻れ。待ってる人たちの元へと、早く向かってやれ!!】
【アタシは、ここでみんなと一緒に、奴を喰い止める。それが女王としての、この街のリーダーとしてのアタシの、責務だ!!】
「そんな……まさか、死ぬ気なの!?女王になるって、自分の心からの夢を叶えたいんじゃなかったの!?」
凛が必死で投げかけると、カナタはそれに答えるように話す。
【……勘違いしないでくれ。別に自暴自棄になってるわけじゃない。夢なら……今まさに叶えてるところだからな】
「えっ」
結局ツグミのプレッシャーに潰されてしまったのかと思った凛だったが、カナタの思いは決してそうではない。寧ろ、その逆だ。
【二人のお陰で、ようやく吹っ切れたんだ。お母さんのハリボテなんかじゃない、自分自身の意志で、本当に女王になりたいって。その上でアタシは、絶対にこの新宿から逃げたくない】
カナタは、初めて自ら計画を考案した。新宿を取り巻く問題は、新宿で生まれ育った自分自身が解決するべきであり、そのためにも女王としての責任から、もう逃げるわけにはいかない。それこそが、カナタが計画を実行した、何よりの動機だ。誰かに言われたり、流されたわけではない。
リーダーである自分が示し、導くこととなった。
たとえ、自分が消えることになったとしても。
【この因縁は、アタシらを取り巻くこの悲劇は、アタシがここで断ち切る。全部……終わりにするんだ!!!
……二人に会えてよかった。ありがとな、桜庭音操、渋谷凛】
「カナタ……」
「……そうか」
カナタの覚悟は本物だった。それはネクにも凛にも伝わる。全力で夢を追いかける彼女の姿を、これ以上止めることは出来ない。本心から望んだ夢ならば、何も言わずに、ただ応援するのが友達としての、自分達の責任だろう。
【へへっ……短い間だったが、カナタが世話になったな、ネク、凛。俺たちも意志は変わらねえ。カナタが選んだ道は、俺たちの選ぶ道だ】
【フェイトのことは私たちに任せて、貴方達は先に行きなさい。新宿は新宿、渋谷は渋谷、それぞれの舞台で、それぞれの負けられない戦いがあるはずよ】
【渋谷の未来が、雲一つない澄んだものであることを願う。幸運を祈るぞ、アタシの……大切な、友達!!】
そう言うと、カナタ、ススキチ、アヤノのアナウンスは終わり、皮切りにするように新宿の街に巨大な地鳴りが響く。建物は崩れ始め、街中に走る亀裂からは大量のノイズ達が現れ、新宿の次元のバランスを崩していく。
「ふ、ふざけるな……私を、次元ごと崩壊に巻き込むだと!?自らの存在をかけてまで、何故そんな不条理を引き起こすのだ!?」
「不条理……はははっ、お前には理解できまい!!この身に激るネツも、仲間と繋がるアツい意志も!!これこそが、人間なのだ!!俺たち新宿死神の、真の姿なのだ!!!」
「さ、させるか……させるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
ついに完全に焦りを露わにしたフェイトは、迎え撃つ新宿死神達を本気で叩き潰しにかかる。ネク、凛、そして新宿の女王、カナタ。奴らをすぐにでも殺さなければ……自分が負けることとなる。そんなことは、この上位次元のプライドが許すはずもなかった。
フェイトと新宿死神の戦いが熾烈を極める中、ヒシマとカイエはネクと凛に、渋谷へのルートを示し、案内を務める。
【渋谷川は、多分知っているよね?あの川は新宿が水源になっていて、渋谷へと繋がっているんだ。だからこそ、その川に沿って進めば、迷うことなく渋谷につけるよ!】
「ここから先が、新宿エリアの出口だ。恐らく、少しばかり長くなるだろう。だがお前達ほどの力があれば、苦労はしないはずだ」
「ああ、ありがとう」
「ヒシマ、カイエ。ここまで来てくれて助かったよ」
ネク、凛が連れられて来た場所は、新宿エリアの端に存在する、一本の長い道路。ここを通れば、ようやく二人は渋谷へと戻ることができる。
「……」
この地を出る直前、ネクはヒシマとカイエに尋ねる。
「お前らも、カナタと一緒にここに残るのか」
二人の回答は、聞くまでもなかった。
「ああ、俺たちはカナタによって、目を覚まさせてもらった。危うく、全てを復讐に費やし、様々なものを捨てるところだった。人としての、新宿死神としての尊厳までもな。借りは返すだけだ」
【僕たちは、カナタが子どもの時からずっと一緒にいたからね!それに、僕は今のカナタを、本当に新宿の女王だと思っているよ。みんな、着いて行きたいから残ると決めているんだ。一人一人、芯からの思いでね】
カナタが自分を女王だと信じられたのと同じく、新宿死神もまた、カナタを完全に女王だと見なしていた。この決断は、新宿全体のものであると、改めて強く理解する。
「俺たちの心配はいらない。覚悟を固めた俺たちは、情けなど必要としていない」
【お互いに頑張ろう!君たちの渋谷も元に戻るよう、祈っているよ!】
「……分かった、共に、頑張ろう」
「みんなのことは、忘れないよ。カナタにも、よろしくね」
「ああ、命運を祈る」
この掛け合いを最後に、ネク、凛は新宿を出た。
互いに向かい合うべきものは、逆にある。彼らの向きは真逆になり、ヒシマ、カイエは新宿の歌舞伎町へと戻る。
既にアーチも残骸と化し、自分達が過ごしてきた新宿の街の面影は無に帰された。
だが心に宿る魂は、自らを新宿の者たらしめるべく、アツく燃え上がり続けている。
ノイズの侵食が進み、徐々に姿を維持することが出来なくなりつつある新宿。
フェイトは抗い続けるものの、最後の力を振り絞る新宿死神達は決して負けることなく、微かに人間の束に押されていた。
「まさか……に、人間に……『神』により作られた私が、負ける……あり得ない……そんなことはあり得な……ぁっ!?」
いつの間にか、防戦を強いられていたフェイトの胴部分に、三つの鋭い力が刺さり込む。
〈……もう、容赦はしない!!!〉
〈ああ、マジの本気で行かせてもらうぜ!!!〉
「アタシらの全力を……その身で受けやがれぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!」
まもなく、新宿は消滅する。イーリスカンタス、ケルウスカンタス、そして女王カナタは純白の天使の槍を持ち、全力で貫き通し、その時が来るまで、フェイトを足止めする。
「そんな……嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
街が、人が、ノイズが、ソウルが、消えていく。
徐々に、その場にいる者たちの意識が消えていく。
思わず抜けそうになる力を、必死で取り戻して最後まで込め直す。
その内に、声も音も、何もかもが聞こえなくなっていき……
「……お母さん、ごめん。アタシには新宿を守ることが出来なかった。多分、叱られちゃうと思うけどさ」
「でも、目一杯戦ったよ。手探りで正解を見つけるために……最後に新宿は、ちゃんと一つになれたのかな。アタシは、女王になれたのかな」
「……そっか。なら、よかったよ——」
昔の母の言葉を思い出しながら、新宿の女王は、無限の中に意識を手放したのだった。
——時間を遡ってまで会えたはずなのに、何も出来なかった。また、自分は何もしないで、終わることになるのか。
渋谷の未来の、ため……こんなにも自分は空虚なのに、これが正しい答えだって本当に言えるの……?
『……話したい。ずっと思ってたこと、隠してたこと、辛かったこと、全部君に——』
——未来を知っているのに、何もしないことが本当に正しいのだろうか。自分よりも遥かに小さな少女が死ぬというのに、それを見捨てることが、正義なのだろうか。
渋谷の未来の、ため……こんなにもやるせないのに、これが正しい答えだって本当に言えるのかな……?
『良心で世界は救えない……でも命を選ぶなんて、私たちには大きすぎる……』
『一人の人間が背負うには、あまりにも重すぎる……それでも、時間は待ってくれない』
『最適解は、正負で仕分けられない世界のために存在する言葉だ。だがそうである以上、どの答えにも責任が伴うことになる。背負わなければならなくなるんだ、有無を言わせずにな』
時間を遡る恐ろしさを、未来を知るその責任を、卯月、未央、ミナミモト、そして少女は理解する。
目覚めてから、一時間程した後の渋谷。スクランブル交差点も、104も、道玄坂も、スペイン坂も、竹下通りも、前に比べて騒がしくなったのを感じる。
『何だろう?』
バラけて行動していた内の卯月は、センター街で違和感に立ち止まると、その場でスキャンを使い、周囲の思考を読み取る。
『デモ……?渋谷駅で、何かあったってことかな?』
どうやら、街中で伝播されている情報は、抗議集会に関する内容らしい。卯月にも想像はつく。ハチ公前の広場にて行われている、よく見る抗議集会の一つだろう。
だが、場所が気になる。
『スクランブル交差点……関係、するのかな』
どうしても紐付けてしまい、その度にあの幼い少女を思い出す。後で迎えることになるのも、見ることになるのも分かってはいるが、気が滅入るのを避けるべく考えないようにしていた。
……自分の臆病さなのだろうか。命を捨てる責任を取る、その覚悟がないからだろうか。
『……ぅ、っ』
この心にあるものは、何なのだろうか。優しさなのだろうか、思いやりなのだろうか、ただのエゴなのだろうか。何かしているようで何も出来ていない、そんな現実から目を逸らすための言い訳のようなものだろうか。
卯月は、決しても誰からも指摘されないこの現実に、自由と制限の狭間に身を置くことの気楽さを知る。
『誰からも理解されない……やっぱり、そんなの、辛いよ』
独りでいることの、苦しみ、無力さを、卯月は知っている。自分に価値はない、何もしていない時でもそう勝手に思ってしまう。でも手を伸ばして、共に抱えてくれた大切な友達のお陰で、今があって、その先がある。
自分も、そうならなくちゃいけない。そんな友達でありたいのに。
自分は、手を伸ばさなければならないのに。
『!?』
その時、卯月はセンター街の人混みの中で、再びあの少女を見つける。偶然……なんかじゃない。ずっと一緒にいたはずの自分が、分からないはずなんてない。
同時に、見捨てるはずなんて、ない。
『凛ちゃん……っ!!』
無意識に卯月は、少女へと腕を伸ばし、その身を止めようとしていた。少女の向かう先は、スクランブル交差点。恐らく、これが最後のチャンスだ。
『嫌だ……何があっても、やっぱり見捨てるなんて嫌だ、いやだいやだ……嫌だっ!!!』
焦りと躊躇い、混ざり合う感情でぐちゃぐちゃになった心から、涙が出てくる。耐えられない。責任という名の、痛い枷にすぎない罪に、卯月の心は壊れかけていた。
引き攣るように息を吸い、転びそうになるほど前のめりに、少女へと向かう卯月。凛の手を掴み損ねてから、ずっと続いてきたこの苦しみは、掴むことでしか消えない。
結局、精算でしか自分という名の人間は救われない。
『——っ!!!!!』
押し退けるように人混みを掻き、目指すのはその小さな腕。もうすぐだ、もうすぐ手が届く……止められなかった卯月の身体は、そこで止まった。
指と指の先が触れる。それは少女ではない。卯月の手は、もう一人の手と触れ合い、そこで完全に停止する。その手の先を見たのだ。よく見ていたもう一つの姿を、そこに見つけてしまった。
『……未央、ちゃん?』
『しま、むー……』
少女は、結局誰にも止められることなく、そのままセンター街を抜けていく。その内に人混みに紛れて、完全に見えなくなっていった。もう、手は届かない。また、その手を掴むことができなかった。
『……ぅっ……ぁぁっ……っ』
『……』
気づけば、卯月は声を殺しながら泣き、そこにいた未央に抱きついていた。未央もまた我に帰ると、卯月を強く抱きしめる。
お互いに、壊れそうな心を補い合っていた。卯月が手を伸ばしたのであれば、未央も当然手を伸ばさずにはいられない。未央も同じタイミングでセンター街に少女を見つけ、前のめりになって、無意識に腕を伸ばしていた。
気持ちは、誰だって同じだ。助けられるなら、助けたい。失っていいものなんてない、全部、何もかも残せるならそれがいい。
『辛いよ……こんなの、ひどいよ……なんで、なんで!?なんでこんなことが起こるの!?こんなにも酷くて悲しくて、苦しいことが起こるの!?嫌だ……私は嫌だよっ!!!!!』
『私も……嫌だ……だから腕を掴もうとした……同じ気持ちだよ、しまむー!!背負ってるのは……一人なんかじゃ、ない!!』
『ううっ……はぁ、ぁっ……っ……!!!!!』
この世の運命を知り、悲劇に嘆く少女達。時間の惨さに、向き合う時が来たのだ。
『ごめん、未央ちゃん……分かってたのに私、未来を変えようと……』
『ううん……でも、これが責任なんだとしたら……迎えるべき、罪なんだとしたら』
『行こう、一緒に』
『……うん』
二人はそのまま、泣きながらも一緒にスクランブル交差点へと歩いていく。壊れそうな心をなんとか繕い続けて、解ける糸をその都度縫い直して。未来を知ってしまった罪を、この目で見届ける償いを、二人で共に受け止めるのだ。
辿り着いた、スクランブル交差点。聞いていた通り、渋谷駅周辺にはいつもにも増して騒がしい団体が蔓延っていた。【この世界に、救いはない】と、掲げられたプラカードを手に、数十人もの男女が抗議の演説を行なっていた。
何かの宗教沙汰だろう。だが、その行動は徐々にエスカレートしていき、街ゆく人を強引に引き寄せようとし、そこに警察が介入して、事態の収拾に動く際に揉め事が起こる。
二人は、それもただ見ていた。来たるべき時が来るまでずっと、ここを離れないと決めたのだ。
『ここに、いたか』
やがてミナミモトも現れ、目を真っ赤に腫らした二人の肩をそっと叩く。
『……嫌なら、見届けなくたっていいんだ。責任は、俺が全部背負うことだって出来る』
『ありがとう……でも大丈夫、ミナっち』
『ここで、私たちも逃げずに見届けるよ。責任は……この身で、ちゃんと受けなきゃいけないから』
『そうか。まあ、いいさ、好きにしろよ』
そう言うと、鼻を啜る未央と卯月の側に立ち、ミナミモトも静かにスクランブル交差点を見つめる。まだココを見つけることは出来ていないが、それでも彼女達はまず、自らに課せられた罪に目を向けなくてはならない。決して、それから逃げてはならない。
抗議団体は後に、警察の静止を振り切り、交差点へと侵入していく。歩行者信号は青だったが、実質的な占拠と変わらない。
その時だった。一台の車が交差点へ向けて、アクセルを踏み出し始めた。徐々に加速するスピードに、人々は成す術もなく次々と巻き込まれていく。狙いは紛れもなく抗議団体であり、腹を立てた一人が怒りを爆発させ、行為に及んだのだ。
とうとう起こってしまった、二年前の悲惨な事故。
辺りに散乱する無数の赤い飛沫。無惨な姿を遂げた多くの人間。そして、それを目前で目の当たりにしていた、『渋谷凛』。
『……え?』
渋谷凛は、目の前に広がる惨状に悲鳴を上げ、その場に座り込む。元は白かったはずの車は交差点内で停止し、運転手はその場で口を抑えながら、言語にならない言葉を発している。警察はすぐさま運転手を取り押さえ、抵抗と暴言の飛び交う最悪な状況となる。
そして、すぐさま救急や機関に連絡を取り、今この瞬間に起こってしまった大惨事の、後始末にかかることになる。起きてしまった以上、被害拡大を抑えるべく、出来ることをやっていく。
これが、二年前の事故の真実だった。
『……』
——これより先は、少女だけしか知り得なかった物語。
多くの人々が声を上げ、悲鳴を上げ、泣き叫んで、この渋谷の街が混乱に陥る最中のこと。地べたに座り込んでいた渋谷凛は、突然誰かに腕を掴まれる。警察なのだろうかと後ろを振り向くと、そこにいたのは見知らぬ、自分と同じ背丈の少女だった。
『……そうだったよ。あの日も、こうやってよく分からないまま、誰かに腕を掴まれたんだっけ』
その少女は、目の前の少女には見当もつかない、独り言を言う。
『こんな道筋を辿って、まさか君に辿り着くなんて、思いもしなかった』
『……?』
『分からなくて当然だよ。私もそうだったから。でも、いつの日かきっと、それが分かる時が来る』
分かりきったように振る舞うと、
『これから、何度も苦しいことがある。でも、必ず全てを越えて、アンタはまたここに戻ってくる。それまで……少しのお別れだよ』
少女は、その手に持った銃を、背中に突きつけ、
『さようなら、渋谷凛…………日常の、私』
渋谷凛を……過去の自分自身を、撃った。
一話からずっと登場していた、新子々の正体。
それは死神娘ではなく、ネクの親友だった、もう一人の『渋谷凛』でした。
前まで彼女を失ったことを嘆き続けていたネク。実はその隣に、初めから凛はいました。
何故凛の話をする度に機嫌が悪くなったのか、断片2の回想中に、『一度も』ココという名前が出てこなかったのか。リエンに名前が似ていると言われたのか。
これまでのとっかかりのシーンや、過去編四巡目以降のココを振り返ると、また変わって見えるかもしれません。
そして、それら人物が複雑に絡み合い、結果としてネク、凛が自身の芯を確立させ、それが新宿の女王カナタの再起に繋がり、上位次元であるフェイトを倒すことができました。
これまでの物語は全て繋がっています。すばせか勢の団結も、デレマス勢の団結も、渋谷の団結も、新宿の団結も、一つでも欠けていては詰みです。
だとしたら、ここまで上手く噛み合って物事が進むのは、何故なのか。次回は、その物語の根本に迫る話です。