すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect 作:デトネート
待ち受ける最後の敵の襲来に、長きに渡る戦いも、いよいよクライマックスへと突入する。
——脈動が、聞こえる。
「ふははははっ!!!!いいねぇ、ハネコマァ!!!ガチでやり合うなんて何年振りか……こんなに熱くなるのは、中々ないぜ?」
〈……お前も、っ、結構やるじゃねえか。ノイズマスターなんかなんでやってんだか、分からないくらいにな〉
「こっちからしてみれば、お前こそ、なんでカフェやってんのか分かんねぇけどな?ンハッ」
〈……まあ、割と言えてるかもな〉
「いや、認めんなよ……って、口を動かす暇があれば、身体を動かそうぜ!!一秒たりとも、この瞬間を無駄になんかしたくねぇんだよ!!ンハッ!!!」
「飛鳥!!ヨシュアから聞いたぜ、あのノイズを倒すにはネクと凛のあの力が必要なんだ!!」
「はぁ、ビイト。そんなことは言われなくても、みんな分かる……」
「それに、そのことに気づいても、今のお兄ちゃんじゃどうにも出来ないよ……」
「っ……とにかく、今は異界者達を待つしかない。それまでは、我らがこの世界を守り抜くのだ!!気を緩ませるな、ビイト!!」
「お、おう……って、今俺の名前呼んだか、蘭子!?」
「うにゃっ!?び、びっくりした……ビルの中暗いし、狭いと移動するのも精一杯だにゃ!!」
「こんな状況で鉢合わせになったら……って!!ヤバい、囲まれた!?」
「李衣菜チャンのバカっ!!そうやって変なこと言うから本当に起こっちゃったんだにゃ!!」
「なんでよ!?てか、言ってる場合じゃ……うわぁぁぁぁぁっ!!!」
「えへっ」
「っ!!……って、みんな!!」
「ヨシュア君、杏ちゃん、きらりちゃん!!よかった、来てくれたんだにゃ!!」
「ふふっ、もちろんさ。間に合ったみたいで安心したよ、李衣菜ちゃん、みくちゃん」
「って、何自分がやったみたいに言ってんの。助けたの、杏だし」
「敵の行動思考を解析したのは、僕だけど?」
「ここにみくちゃんと李衣菜ちゃんがいる〜って言ったのは、きらりだにぃ!杏ちゃん!!」
「……きらり、今は出てくるところじゃないよ……」
「やれやれ……流石はきらりちゃんだね」
「にぃ?」
「ふんぬぅぅぅぅっ!!!!!大人しく……しとけよ、っ!!!」
「き、きつい……こんなにサイキック使ったの初めてだし……って、シキ、疲れてないの?」
「ふふっ、経験者は伊達じゃないからね!!」
「おおっ!流石、シキだな!めちゃめちゃ頼りになるよ!!」
「……まあ、にゃんタンが勝手に動いてくれるし」
「おい!!」
「羨ましいよ、その手づくりのお人形……よっと!でも、お陰で助かってるよ、シキ!!」
「任せて!加蓮のネイルも、奈緒の力も、纏めて一緒に行こう!!」
「うん!!」
「ああ!!」
——鼓動が、響く。
「ん……?りんりん、何の音だろう、今の?」
「えっ……ここって時間の中だよね?普通、音って聞こえるわけなくない?」
「音というよりも……むしろこの感じって」
「……鼓動、のようなものか?」
「そうそれ、ミナミモト君……何なのかな?」
——今現在、予定時刻を回った。
「……」
中央に位置する『紫』の水球体より、何かがこの世界に、降り立とうとしていた。
「……そろそろ、着くな」
道路の標識を見る。渋谷までの距離は、丁度あと一キロを切ったところだった。
「うん……私たちの、渋谷に」
ネク、凛は、一歩一歩を踏み締めるように道を歩いていた。新宿と渋谷を繋ぐ渋谷川、その上に位置する長い一本の道。
新宿の女王、松苗叶多の活躍により、上位次元存在であるフェイトは倒された。ようやく、二人は渋谷に戻ることとなったのだ。
「……」
「……」
だが、決して手放しに喜べることではなかった。ここに行き着くまでの過程に、失われてしまったものはもう数えきれない。
新宿に関わらず、過去でも、渋谷でも、この東京という街全体でも。今日までどれほどの命が奪われただろう。
現在、渋谷以外の東京中のエリアは、最後に新宿が完全消滅したことにより、全てが上位次元の手に堕ちてしまったことになる。
残された戦える能力者も、自分達しかいない。渋谷を、東京を、世界を守ることは、もう自分達にしか出来ない。
「……緊張、してる?」
「ちょっと……いや、結構かなり」
背負うものの膨大さ、そして重大さに、思わずネクと凛は足を止める。
「……なんてな、悪い。そんな大したことじゃないから」
「いいや、別に怒ってないし。不安かどうか、ちょっと聞いてみたかっただけだから」
「そっか……お前は緊張、してるか?」
「私?……緊張してないって言ったら、そりゃ嘘になるけど」
重い空気の漂う状況とは裏腹になるよう、二人は渋谷に入る前の、恐らく最後になるであろう掛け合いを交わし始めた。
「アイドルやってたし、色々乗り越えてるし。プレッシャーにはそこそこ耐性あるよ」
「ははっ、説得力あるな」
「でしょ?ふふっ」
いつ、どこで何をしていても感じる、澱んだ空気。それを跳ね除けるためにも、ちょっとした小話を二人は挟む。沈んだ心のままでいるくらいなら、こうして少しでも軽くしたほうがいい。
「ネクも、結構メンタル強い方じゃない?」
「俺か?でも、あんまし人前に出るような性格でもないけど」
「だけど、そっちの渋谷を一回救ってるんでしょ?たった一人で怖い巨悪に立ち向かうなんて、普通出来ないよ」
「あれは多分、火事場のって奴だけど……まあ、褒めてくれるなら、別にいいか」
「そーそー、友達の言うことは、素直に受け取っとこうよ?」
「はいはい、そうだったよ」
強いと言われて嬉しくなったのか、ネクはちょっとだけ気を大きくして言う。
「お前の言葉は、いつも俺の助けになってくれるからな」
「あ、出た、告白」
「違う!!って、またそれかよ!!」
何故か毎度のお決まりと化したやりとりに、ネクは思わず反応し、凛は思わず吹き出す。
「あははっ……ちょ、何回それで自滅すんの……」
「何で笑うんだよ!俺は、本当にマジで思ってたこと言っただけだからな!」
「じゃあ、本当にマジで告白ってこと?」
「おい!?からかうなって!」
「あっははっ!ご、ごめんごめん!ごめんって!」
真剣な場以外のプライベートにて、意外にもグイグイと来る凛に、裏表のなくなったネクはいつも戸惑わされている。
「本当に……クールな奴だと思ったら、こんな悪魔みたいなはっちゃけた一面があるなんて……」
「ちょっ!?悪魔って何それ!ネクの反応が面白すぎるせいじゃん!」
「なんだそれ!ほら、やっぱ悪魔してるじゃねえか!!」
「だって、話してると楽しいんだもん!!いいじゃん、褒めてるんだよ?」
「バカにしてるんだろ」
「してない」
「してる」
「しーてーなーいー」
側からみればくだらなすぎる話も、二人にとってはその身の緊張を解放するための大切なひと時になり得る。
「あとさ、お前、男と交流ないって言ってる割に、やけに俺に対して強気だよな」
「うーん、ネクだからかな?」
「えっ……そ、そんなに俺って男に見えないのか?」
「いやいや、経験的な意味で。色々一緒に乗り越えて来てるし、その中でネクの性格はよく知ってるし」
「まあ、確かに。あんだけ色んなことしてれば、嫌でも相手のこと分かってくるもんだよな」
「……あれ、今バカにした?」
「さあ、何のことだろうな」
一ヶ月をほとんど共に過ごしたのもあって、ネクも凛も互いをかなりよく知り得ている。この遠慮の要らない砕けぶりは、その証拠とも言える。
「まあ、たまにはいっか。そういう不器用でも機転が聞くところ、結構ネクの良いところだよ」
「……な、なんか、お前の方が、よっぽど告白してる気もするけど」
「そう?でも私、アイドルだから。残念だけど一人のものにはなれないんだよ……」
「肩に手を置くな、憐れむな!!だから、言ってねえって……まあ、ファン一途で熱心なのはいいことだな。そういう職人気質は、凛の利点だよ」
「いいね、もうちょっと褒めてみてよ?」
「わざとらしくなったら嫌だろ」
「あ、言えてるかも」
「……ふふっ」
「……ははっ」
どこまでも止まらなくなる他愛もない話を続け、二人はすっかりその会話の輪に入り込んでいた。でも、最初からこんなに仲が良かったわけじゃない。思い返すと、案外二人の始まりはそれほど和やかなものではなかった。
「……あのさ。真面目な話するけど、私、最初にネクに会った時、すっごい尖ってたんだよ。気づいてた?」
「いや、そん時は俺も気づいてなかった。凛のこと、そもそもよく見れてなかったし」
「言ってたね、そんなこと。こう思うとさ、私たちって最初笑っちゃうくらい酷くなかった?」
「そうだな、お互い上っ面で嘘つきまくって、とんでもない関係だったし」
「うんうん、そうそう」
過去のことは、決して良いものではない。二人して心の内に壁を作って、それを介した上で笑顔を取り繕っていたのだから。本当なら顔を背けたくなる、二度と思い返したくないようなことも、今の二人にとっては、ここに至るまでの欠かすことの出来ない軌跡なのだ。
こんな話題も、いつの間にかもう笑って流せるほどになった。
「ねぇ、新宿で私に言ってくれたでしょ。お前と友達になれたから、今を生きていられるって。私も、それは同じ気持ちだから」
「凛……?」
「ちゃんと言っておきたいんだ、言える時に。お互いを信頼しあって、お互いを友達だと認めた上で、やっと意味が通る言葉だから」
まもなく辿り着く渋谷、そして待ち受けているであろう最終決戦。もう決意も固まった、覚悟の芯も固まった。自分が守るべきものも、自分が守りたいものも、見つけた。
最後は彼ら自身の……心の繋がりを確かめるだけだ。
凛はネクに向けて、誓いの手を出す。
「ネク……今までありがとう。こうして会えたことも、本当に良かったって、今なら心から言える」
「……凛」
「この先、何があるかも待ち受けてるのかも分からない。でも、私は信じたい。私とネクとなら、どんなものにも負けないで、どんなものでも絶対守れるって」
「だから、お願い。友達として、最後まで一緒に着いて来て」
凛は柔らかく、信頼し切った声でネクに答えを求める。二人の命を永遠に捨てることになるかもしれない、重大な決断。だが、心配することも不安になることも、必要ない。
「……俺の答えは、とっくに決まってる」
ネクは、何の躊躇いもなくその手を掴み、強く握り込んだ。
約束したからだ。凛の物語は、自分の物語でもある。だからその物語を、自分も共に紡ぐと。
「……へへ、だよね」
思っていた通りの答えに、凛も力を込めて握り返す。
「聞けて、安心した。やっと……本当に覚悟、しっかりした感じする」
「別に、聞きたいなら何度だって言ってやるさ。思ったこと、言うだけだしな」
「思ったこと……ね?」
少し凛が含んだように笑った。察したネクは咄嗟に身構えようとしたが、凛は笑って否定する。
「そうじゃなくて。そういう風に言ってくれるのが、心強いってだけ。パートナーだし、大切な友達だし」
「……ああ、俺も心強いさ。凛は、俺の大事な友達だからな」
二人は、手を繋いだまま、笑顔で互いを見合う。
「さあ、俺たちの明日を取り戻しに行こう」
「うん、私たち自身が持ってた夢の全てを、救いに行こう」
再び、二人は足を前へと進める。これまでネクと凛は、幾度とない困難を共に経験して来た。
自分自身の芯を持つこと、自分の心の中と向き合うこと、誰かの思いを受け継ぐこと、偽りを見せないこと、今この瞬間を生きること、未来を思うこと……そして、友達を信じること。
その度に、多くのことを乗り越え、多くのことを学んできた。ここまでの全ての時間が、きっとすばらしき明日へと繋がると信じて……少年と少女は今、約束の街、渋谷へと辿り着いたのだった。
「ぁ……ぁ、っ……」
——脈動が、水球体の鼓動が、全ての者達の脳に届いた、その直後。
水球体が、破裂するようにその身を露わにした。
——渋谷に。彼女らに。一体何が、起こったのだろうか。
「……り、ん……ね、く……」
消えゆく意識の中、シキが最後に見たのは、崩れゆく渋谷と……身体が粒子となって消えていく、奈緒と加蓮の倒れ込んだ姿だった。
「……ぁ……」
「……っ、ぐぁ……」
シキと同じく、二人も朦朧とする意識に、瞼を徐々に閉じていく。直前に目にした、あの『光』を脳裏に浮かべながら。
突然、この渋谷は、膨大な謎の光に包まれた。一瞬のことだった。ディジーズノイズ、汚染天使をどうにか食い止めようとしていた時、瞬きをしたその後、自分達の元へと届いたのは、巨大な極光の斬撃だった。
何かをする暇も、逃げる暇も、避ける暇もなかった。気がつけば、自らの身体は宙を舞い、既に自由が失われていた。手も足も動かせない、身体のいくらかが不足している。もう何も……抗うことが出来ない。
キャットストリート。
「……間に合わ、な、かった……やつ、が……来るまで……はね、こ、ま……」
『光』を見て、身体が勝手に動き、咄嗟に羽狛を庇うように前に出たクボウ。だが、ノイズ状態の羽狛もろとも、その身が光に耐えられることはなかった。
スクランブル交差点。
「これ、が……超え、られな……チカラ、なのか……」
「おに、ぃ……ちゃ……」
『光』によって、共に前線にいたビイト、蘭子は直撃を受けて即消滅。すぐ後ろにいたライム、飛鳥もまた、無数のディジーズノイズ達と共に光の中へ吹き飛ばされ、その身の終わりと、渋谷の終わりを同時に見届けることとなった。
346プロダクション。
「な……だ……に、ゃ……」
「ここ、まで、なのか……全く、ボクは、随分な役立たず……だね」
「……よ、しゅ、あ」
『光』より、みく、李衣菜、そして杏を庇うように、手を広げて立ち続けたヨシュア、きらり。だが、そんな悪あがきなど敵うはずもなく、身は簡単に消し飛び、後ろの命も簡単に潰えてしまう。たとえ他より僅かに長く残った命であっても、誰も守ることのできなかったコンポーザーヨシュアには、もう何の存在価値もなかった。
渋谷全域へと伝わった斬撃により、全ての能力者が一斉に消滅へと追い込まれた。これは本来あり得ることのない異常事態だが、これだけでは終わらない。抗争を続けていた全てのディジーズノイズも、全ての汚染天使も、全部、渋谷に存在していた何もかも全部が光に飲まれ、消し炭と化したのだ。
上位次元の……恐るべき真の力を、下位次元達は身をもって知ることとなった。
「……ここが、リアルグラウンド」
全ての命が消えたことなど気にもせず、この渋谷にただ一人、淡白に言葉を呟く存在。鼓動を続けていた『紫』の水球体が破裂し、その中から現れた彼女。手を握っては開きを繰り返し、久々の自己をその身に感じ、堪能する。
「降りるまでに一ヶ月もかかったが、構うほどのことでもない。失った力も、この程度であれば想定の範囲内だ」
この渋谷にて放った、生命を残滅させる力。全ての世界を無に帰す力。大規模な次元移動により、相当の力を失いはしたが、この結果を確認すれば、支障は何一つないと言える。
全ての上位次元の頂点に、位置する者。『死神ゲームが繰り広げられる東京』を創造した、ゲームの創始者。
そして……世界を取り巻く、破滅の運命に、抗う者。
「ウィルドの名の下に、必ずや『運命』を葬り去ってやろう。それがこれまでに消え、そして今日新たに消える全ての世界達にとっての、償いにもなる」
「私自らの手で……運命を、終わらせるのだ」
『紫』の髪を持ち、流れるような半透明の衣に身を包み、長身な女性的シルエットを持つ、最上位次元存在。
終末まで、残り10時間。
彼女は自らを、『ウィルド』と名乗った。
ウィルド低位同調完了時の極光の影響は、渋谷の外部にまでも響き渡る。
「……!?凛、伏せろ!!!」
道の終端、街一体を覆うように存在する半透明の壁。ついに目前まで辿り着くことを成し遂げたその時、ネクは瞬時に凛を庇い、フリーフローのアクアバリアを張り、迫り来る衝撃に耐える。
突如渋谷から放たれたその衝撃は、目の前の次元の壁をも超え、外部のネク達に襲いかかって来た。
「ぐっ……ぐぁぁっ!!!」
「うぁぁっ!!!」
凄まじい衝撃だった。巨大なバリアで攻撃を受け止めた直後、周囲の音が僅かにゼロになり、次の瞬間、その力の規模を物語るほどの大爆発が起こる。耐えることが出来ず、大きく後ろに身を吹き飛ばされるネク、凛。
あまりの威力に意識を失いかけるが、瞬間で取り戻す意識を集中させ、ネクと凛は互いの足を蹴り合う。衝撃をフリーフローで緩和させ、そのままコンクリートの地面へと着地するが、その道は大きくひび割れ、それどころか、これまで自分らの歩んできた街並み全てが、壊滅的な被害を受けていた。
「な、なに……何が起こったの!?」
「分からない……渋谷の中で、何かの異変が起こったのか!?」
体勢を整えると、すぐさま二人は壁に近づき、そこで真紅のバッジを取り出す。ヒシマの言っていたことでは、カナタは事前にこの中に、『新宿の女王』としての力を内包させていた。新宿の女王は各エリアのコンポーザーとは異なり、世界間を移動することのできる特別な力を持っていた。
真紅のバッジは事前の情報通りに、提灯のような紅き光を放ち、ネク、凛に世界を自由に移動する力を与える。
「よし……これで、私たちも渋谷に入れる」
「フェイトは新宿によって倒されたはず……まさか、その大元が現れたのか……?」
ネクが想像する、最悪の可能性。上位次元であろうと、フェイトがノイズであったという事実は、裏側にそれを創り上げた存在がいるという裏付けにもなる。
その存在が……渋谷に現れたのだとしたら。
「……行くよ、ネク!!」
「ああ、渋谷が危険だ……急ぐぞ、凛!!」
壁を超え、ついに渋谷へと帰還するネク、凛。新宿と渋谷川を介して繋がっていたここは、本来ならば渋谷ストリームと呼ばれている場所。
そんな、壁の向こう側に広がっていた光景は……これまでの二人の経験すらも通用しない、人の想像を逸脱するものだった。
『もう、少し、だから……っ』
——そして、明らかに苦しむ表情で、壁にもたれかかる少女。
どの場所かも時間かも不明な、いつの日かの渋谷の、どこかの石壁。息を荒げながらも少女は、そこで『彼女たち』からの連絡を待っていた。
『はぁ、はぁ……限界、もう来てるかも……』
度重なる時間逆行、それだけではない。少女は力を、使い過ぎた。器には、到底見合わないほどの膨大なその力を。
だが、眠るわけにも、くたばるわけにも行かない。少女にも、自分自身の意思が、人の証である心の不条理がある。だからこれまで心を壊すことなく、今日まで辿り着くことができたのだ。
ネク、凛は渋谷に到着した。自分もまた、別の時間の渋谷に到着した。
『……!!』
その時、少女の前へと、空から浮遊するように現れた一匹のノイズがいた。
空間を切り裂くように、時空を超えて来たように現れたのは、ミングの形をした、白黒の姿。禁断ノイズの一種だ。
『よかった、無事に取り戻せたみたいだね』
本来なら存在するはずのない命。全ての命が消えたはずの渋谷から、何故かその禁断ノイズは時間逆行してここに現れた。だが、少女はそんな疑問は全く考えもしない。
当然だ。これは、初めから『想定されていたもの』だったのだから。
『ふふ、ありがとう……これでようやく、最後の準備が出来る』
手にすり寄ってくる彼女を……禁断ノイズを撫で、そのまま懐に内包すると、少女は壁に手をつきながら、ある場所へと向かっていく。禁断ノイズはただ少女の前に姿を現したわけではない。少女にとって最も欠かすことのできない、重要なモノを持ち帰って来てくれたのだ。遥か先の、未来から。
——なんだ、お前は。
『南師猩……いや、土井猩が本当の名前だったね——』
第二章シンデレラガールズ編にて、運命の死神が掲げていた『ウィルド』が、とうとう今回渋谷に現れました。『あの方』でもある最上位次元。神であるその力は絶大で、これまで一人一人が紡いできた多くの物語を、たった一瞬でゼロにしてしまいました。
残された能力者は新宿の二人、過去の四人、そして、あともう一人。
さらに、時間を逆行し、未来から大切な鍵を持ち帰った、ミングの禁断ノイズ。全てが繋がっていきます。