すばらしきこのせかい・シンデレラガールズ・サーガ World Connect   作:デトネート

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何故、これほどまでに人間はしつこく、自らの運命に抗うのか。運命を変えることなど出来ないのに、縛られていることにすら気付けないのに、それでもどうして。

神に対し、人は答える。自らの力と共に、友達と紡いだ絆と共に、自分が今この瞬間に存在する意味を。


#42 集結日『明日を生きたい』

【3.1415926535897932384626433832795028841971693993751058209749445923078164062862089986280348253421170679……レベル虚数リターン!!】

【俺からのプレゼントだ!!記憶を戻してやるついでに、お前の体内にコイツらのソウルを入れてやる】

 

 これまでの戦いの中、幾度とその姿を表してきた三体の禁断ノイズ。

 

 ……その正体とは、ウィルドにより消滅してしまったはずの、未来の時間の渋谷の能力者達だった。

 

 能力者達は一度、ウィルドが次元移動を完了した際の衝撃波によって、その命を失ってしまった。

 だがその時、消えゆく加蓮の身体を飛び出す、一体の禁断ノイズ、ミングがいた。

 ミング……つまり、加蓮、奈緒、シキのソウルで構成されたノイズは、過去の加蓮の身体の中でその機会を待ち続け、そして今日、崩壊した渋谷の街へと満を辞して解き放たれた。

 三人は、全ての渋谷の能力者のソウルが消えてしまう前に、自分達の場所、スクランブル交差点、そして346プロダクションへと渡り、無理をしながらも、キャットストリートの羽狛とクボウ以外のソウルの回収に、何とか成功した。

 そのソウルを持ち、三人は自らの作り主である、謎の少女の待つ時間へと移動する。

 

【よかった、無事に取り戻せたみたいだね】

【ふふ、ありがとう……これでようやく、最後の準備が出来る】

 

 そして謎の少女は、難なく禁断ノイズ精製陣を描き、三人の持ってきたソウルを使用することで『カエル』、『コウモリ』、『ミング』を精製し、

 

【南師猩……いや、土井猩が本当の名前だったね】

【……これを、桜庭音操に使って、彼の記憶を取り戻して】

 

 ミナミモトへと受け渡し、自らの最後の準備を終えた。長きに渡るやり直しと繰り返しの物語も、いよいよあと一つを残すのみとなった。

 少女は時間を越え、現在へと戻る。消えゆくネク、凛の身体から漏れ出る二体、カエル、コウモリの禁断ノイズを回収し、さらにはネク、凛の身体を構成していたソウル自体も、非常用のにゃんタンの中に回収し、思念も纏めて再構成を果たした。

 

 ……このにゃんタンは、過去のどこかの時間にて、シキから少女が手にした、いわゆる保険の一つ。この人形の中は特殊な場所であり、全ての人形と時間を共有する、独立した別個の空間となっている。

 

 

 

 だからこそ、少女はこれまで、黒いネコの人形を『持ち続けていた』。

 新宿にいた時も、ツグミの崩壊後に渋谷を訪れた時も、凛とシキに干渉した時も、ヨシュアと羽狛の会話の中に割り込んだ時も、ネクと喧嘩した凛と共にいた時も、『FRONTIER』の会場にいた時も、ココの改変を阻止した時も、そして、二年前の真実を見届けた時も。

 いつも、ずっと。少女は、自身がセーブポイントとなるように、人形を肌身離さず持っていた。

 

 

 

 その恩恵を受けた今、全ての時間に仕掛けたピースが埋まる。

 

 

 

「……?これ、な、なに……?」

 目が覚めた時、凛を覆っていたのは浮遊感をもたらす無ではなく、ふわふわ柔らかく気持ちいい何かの感触だった。

 状況を整理しようと、顔を上げる。落ちていたはずの身体が、浮上していくのを感じる。ジェット機に乗っているかのように、破片や黒い粒子で澱んだ渋谷の空を高速で移動し、強く吹きつける空気をその身で感じ取る。

「あれ……!?私、なんで、生き、て」

 その時、凛は自らの首が正常に繋がっていることに気づく。記憶は残っている。間違いなく、確かに自分は一度死んだはずだ。

 訳の分からないことに、慌てて立ち上がり、両手で身体のあちこちを触って確かめる。

 そうして動揺している凛の肩が、そっと叩かれる。

「……ん?」

 後ろを振り向くと、そこにいたのは、

 

「ふふん……お目覚めかな、凛?」

「……!?し、シキ……!!!」

 

 ずっと会うことができていなかった、忘れるはずもない親友だった。

 

「シキ……どうして、ここに——」

 言おうとしたその時だった。凛のことを迎えてくれたのは、シキ一人だけではない。二人もまた凛の肩を叩き、親しみを込めた言い方で、普段のような絡みを見せた。

「あーちょいちょい、凛さん。お口からよだれ出ちゃってますよー」

「……へ?」

「ったく、どんだけ気持ちよく寝てたんだよ……だらしないぞ〜、凛?」

「うわ!?ちょ、み、見ないで……って、奈緒に加蓮まで!みんな、来てくれたの?」

 口を慌てて拭きながら、目の前で自分を見て笑うシキ、そして加蓮、奈緒を見る。みんないつの間にか仲良しそうに、自分の知らないうちにすっかり打ち解けていたようだった。

「そーいうこと!姿形変えながら、ずっと、過去の私の身体の中で、この時間が来るのを待ってたってわけ」

「……過去の、加蓮の中で?」

「えと、まあ、細かいことは気にすんな!とにかくみんな、ちゃんと今この瞬間にいるんだからな!な、シキ!」

「うんうん!さあ、にゃんタン!!思い〜っきり、ぶっ飛ばしちゃえ〜!!!!」

 シキがそう言うと、ふわふわとしたものの正体である巨大にゃんタンは、ジェット噴射のような急発進を起こし、渋谷の街をぐるぐると回って巡る。目的は、地に落ちる寸前だった凛を救い、羽ばたかせて送り出すこと。大切なパートナーであり、友達である彼の元へもう一度。

「……凛。ネクと一緒だったんだよね?どう、あまり迷惑かけなかった?」

「いや、お母さんじゃないんだから。心配しなくていいよ、シキ」

「ネクと会えたこと、本当に嬉しく思ってるから。こんなに大事な友達に会えて、本当によかったって。もう嘘なんかじゃない、今度こそ、芯からの思いでさ」

「……そっか」

 シキは、心からの本心で言う凛を見て、思わず嬉しくなって笑顔が溢れる。

 一番初めにネクと出会ったからこそ、彼の世界を閉ざす姿勢を知っていたからこそ、こうして世界を広げることが出来て、彼が未来に進めたことが何よりも嬉しかった。

 シキは、そう思わせてくれた凛に、感謝していた。

「何、ニヤニヤしてるの?ま、そういうとこもシキらしいけど」

「えへへ……って、らしいってどういうこと、らしいって!!」

「らしいって、今のシキみたいな状態のことだよ」

「全然分っかんないし!!もー!せっかくネクのことありがとうって言おうとしたのに!!」

「あはは、ごめんごめん。急に無性にツッコミされたくなって」

「どういうことなの、それ……?」

 そんな中でも、相変わらずの漫才を繰り広げ、砕け切った仲良しな関係を見せるシキと凛に、加蓮と奈緒も乱入していく。

「……凛ってば、結構変なとこあるよね?男関係も男子耐性も全然ないのに、ネクに関してはやけに砕けてるしさー」

「あ、ああああのこ、告白……そういえば、あれ、やっぱ、マジだったってわけか!!?」

「へ……えええええええ!!!!!!凛、それ、え、嘘でしょ!?」

 ……またか。こんなところにまで来て、また、掘り起こされてしまったのか。

「……ちょっと、加蓮!!奈緒!!この下り何回するつもり!?さっきもネクとしてたんだけど!!」

「してるんかい!!もうすっかり自分で楽しんでるよね、それ!!」

「り、凛……私の知らない間に、ネクとそんな関係にまで……」

「平気平気、シキ!!ただの友達だから!!大丈夫、大切なめっちゃくちゃ、超大事な友達だから!!」

「それもうどっちか分かんないよ!!?悪ノリやめてってば、凛!」

「ち、違うんだよな……ほほほほほほほほ、ほんとに、ちが……っていっった!!舌噛んだっ!!!」

「もうめちゃくちゃじゃんか……」

「誰のせいだし」

「ぎく……な、何のことかな〜?」

 恋バナに動揺し過ぎて、舌を噛んだ奈緒。衝撃的な噂を耳に、興味津々になるシキ。場を狂わせた張本人であり、口笛を吹いて誤魔化す加蓮。被害者ぶるも、普通に悪ノリに便乗した凛。

 世界の終わりが迫っているとは思えないくらい、和やかな空気が広がるが、決して彼女達が能天気だというわけではない。

 

 消えたはずの仲間ともう一度会えたことが、どれほど心の支えになるのか。人が生きる上で、人と手を取り合うことがどれほど重要なのか。

 

 実際、彼女達は何気ない日々を思い出し、素の自分を解放し、こうして本来のポテンシャルを引き出すことができた。

 本当の戦いは、まだまだこれからだ。

「……ま、後は任せといてよ、みんな」

 徐々に104、109が近づいてくる。久々に友達の声を聞き、絡んだ凛に、今更怯えた顔など似合わない。

「この渋谷も、自分の明日も、みんなの未来も、ちゃんと守ってくるからさ」

 渋谷で明日を生きる。今は、その未来だけを見上げていればいい。

「分かってる。ネクのフォロー、任せたよ」

「りょーかい。じゃ、行ってくる」

 ネクの最初のパートナーであるシキはやれやれと微笑みながら、最後のパートナーである凛と手を交わす。同時に親友としても、信頼の眼差しを向ける。

 加蓮と奈緒もまた、鎖を辿って戦場へと飛び立つ凛の後ろ姿を見守る。そして、自らの心に浮かべる。

 

 

 

 自分自身が、友達と笑顔で過ごす、その未来を。

 

 

 

「っ……俺は、生きてる、のか?」

 消えた場所である104、109の屋上部で、この現実に存在している自分を知る。生きていることが分かると、ネクは身体を持ち上げ、正面を見る。

「……」

 自分を殺したはずの、神と……もう一人、このディストピアにはそぐわない制服を着た、あの謎の少女。

『……よかった、何事もなくて。なかったことにできた、の間違いかもだけど』

 視界に入ると、少女はしゃがみ込み、粉々になったはずのネクの右腕を掴み、倒れ込んでいた身体を持ち上げてくれた。

「お前……俺を助けてくれたのか」

『うん、念の為のにゃんタンが役に立ってくれたんだ。どう、長い時を経た後の、久々の渋谷の空気は?』

「久々も何も、すぐ起きたとしか記憶が……まあ、良くはないな」

『だよね』

 神出鬼没ぶりにはもう追及せずに、ネクは瞬時に少女の助けを借りたことを察し、感謝する。敵か味方かも伏せたまま、いつも稀に目の前に姿を現し、自分達を導いたり、手助けをしたり、はたまた攻撃したりと、謎の多い存在。

 『何故か信頼できる』ことを除けば、他に一切の詳細が分からない少女だが、彼女がネクをウィルドの手から救い出したのだ。

「……全てを見越していた、ということか」

 ウィルドは、これまでよりも一層声のトーンを下げ、少女に語りかける。

 だが少女は怯むことなく、変わらずに正面で対峙を続ける。

『ううん。全部じゃないけど、でも、もうやり直す訳にはいかないし、そもそもそんな力も残ってないから。限られた試行回数を大切にするには、先読みは大事でしょ?』

「やはりお前は、未来からの存在……おかしい、あり得るはずがない。私によって、この世界は消えるはずなのに……お前が未来から来るなど、絶対に起こり得てはならないのに……何故だ」

 ウィルドは初めて、余裕の欠けた声色を見せる。神であり、最上位存在であり、全ての頂点に立つ存在である、そんな自分が……未来で、負ける?

 もし、少女の存在が本当に未来からのものだとすれば、未来に人間が存在する、つまり、目的である世界の終末は訪れないこととなる。

 

 それは、神であるウィルドの、敗北を意味することとなる。

 

「……そんな未来は、許されない。貴様もろとも、必ずこの渋谷を消し去ってやる。この世界は終わらなければならない。この世界には、箱庭以上の価値など存在してはならない……絶対にだ」

 起こり得る可能性を全て潰す。そのためにも、ウィルドは今度こそ、謎の少女も含めた全ての命を消し去らなければならない。

 

 だが、考えてみれば不思議なものだ。ドゥームの言っていたように、この世界は今までの世界とは違い、こんなにも凄まじく抵抗し、しつこいほど群がり、最終的には人間であるはずの下位次元が、上位次元存在を毎度のごとく出し抜いてきた。

 ……本当に、価値がないと、断言出来るのだろうか?

 

『アンタには一生分かんないよ。運命を閉じ込める箱庭だとしか、この世界を見ることが許されない、アンタにはね』

 神が言おうと、何だろうと、この世界には明確な価値が存在する。謎の少女はそう思っていた。だからこそ、自らが渋谷の未来を守る存在として、過去のこの時間の渋谷に現れ、これまで何度も上位次元の計画を潰してきた。

 そもそも潰すことができる時点で、この世界には明らかに何かがあると言える。それは、無価値とは程遠いものだ。

『そりゃ、価値があるなんて認めたら、アンタの計画は根本から頓挫する。変なもんだよね。運命を閉じ込める『ガワ』として必要だった世界が、いつの間にか制御できないほどにまで大きく、広がってたんだから』

 少女は確信している。この世界はガワだけでは留まらない、どんな上位次元をも、神をも、運命をも凌駕するほどの質量を持つ、より巨大な世界になっていくことを。ここで終わらせるには、それはあまりにも惜しい。

『ネクと、凛と、さらに連なる多くの物語一つ一つが繋がって、やがてはどんな困難も凌ぐ力になる。それを私が……いいや、私『たち』が証明してみせる』

 少女は、ゆっくりと歩きながら、ネクの隣に自身の位置を移す。

『もうどこにも行かない。今回は……私も、一緒に戦うよ』

 

 そして、初めて。人形を持っていたその左手に、銃を構え、パートナーと共に戦う姿勢を見せたのだ。

 

 ネクのパートナーとして、再起した少女。

 だが、まだこれで終わりじゃない。ネクがこの物語の中で紡いできたパートナーは、一人だけではないはずだ。

 

「さ〜ら〜に〜……ここで、登場!!」

「ああ、忘れてもらっちゃ困るぜ……待たせたな!!このヨタヘクトパスカル共がぁっ!!!!」

 この屋上部に現れる、長きに渡る時間逆行の旅を終え、帰還した能力者たち。緑に輝く時空の裂け目を渡り、新たな志と共に、まさに今現在へと至ったのだ。

「……ぷふっ。ミナミモト君ってば、この時間に着いたときに、何て声かけようか、ずっと考えてたもんね〜」

「おい!!ちょ、言ったらカッコつかねぇだろうが、卯月!!」

「おー!!しまむーもはっちゃける時は、結構飛ばすね!レアだよ〜ミナっち〜?」

「しょうもねえよ!!」

「はぁ、やれやれ……ほ〜んとに緊張感、ないんだからさ?」

 104、109の舞台に、新たに現れたのは、過去の時間にいた四人の能力者。未央、卯月、ミナミモト、そして……『ココ』。

 ネクと少女の前に姿を見せると、ココは敢えてココとして、ネクの側へと近寄っていく。

「みんなも……来てくれたんだな」

「へへ、お待たせ、ネク。見たところ……中々いいタイミングってとこじゃない?」

「ああ、そんなところだ。気が利いて頼りになるよ……ココ」

「……おい、ネク」

 崩れる街を見渡す彼女の名前を、ココと呼んだネクにミナミモトは明かそうとするが、それをココ自身が止める。

 わざとココとして、ネクの前にいる。時間の中で、それは彼女が自分で決めたことだ。打ち明けることも、謝ることも、全部は自分がやるべきこと。だが、それは今ではなく、全ての戦いが終わってから……決着をつけて初めて、思いを告げると決めているから。

「……?どうしたんだ、ミナミモト?」

「……いいや、なんでもない。今は気にしなくていい、関係ないことだ」

「そーそー。会ってすぐで、本当は色々と話したいけど……ひとまず今は渋谷を守るために戦う、それが一番大事なことでしょ?」

「……そうだな。今はアイツを……渋谷の終末を止めることが、俺たちの最優先だ」

 

 

「協力、頼めるよな……ココ、ミナミモト!!」

「おーけー、任しといて!!」

「へっ、ゼタ当然だ!!」

 

 

 一ヶ月ぶりのパートナー復活に、遅れて到着したココとミナミモトは得意げに笑い、少女と同じく並ぶようにしてネクの隣に立つ。

 

『……やれやれ、せっかく私が戦うって言ったのに、すぐそれ食っちゃうんだもんな……』

「あはは……私たち、タイミング悪かった?」

「未央ちゃん、その子と知り合いなの?」

『あっ、そっか。まだこの時間じゃ会ってなかったね。なんか色々と順序ごっちゃだけど、仲間として、とりあえずよろしくね』

「私は前に一度会ったんだけど、でも、ねっくんの友達なら、私たちの友達で変わりないしね!改めてよろしくっ!!」

「分かった、私の方も、よろしくね!」

 初対面での軽い挨拶を交わし、ネク、少女、ミナミモト、ココ、未央、卯月の六人がこうして繋がった。現在、渋谷には合計して十九人の能力者が存在している。

 

「……仕方ない」

 

 全員を消し去らない限り、渋谷は終末を迎えることができない。ウィルドは右腕を前に出すと、そのまま宙に何かを描き、苦肉だが、自ら消したはずの命を一時的に具現化させる。

 104側のビルの下に、大量のディジーズノイズ、ディゾナンスノイズ、そして汚染天使が現れ、104を包囲するように蔓延る。時空の歪みから連れてこられ、完全に運命の傀儡となった彼ら自身の意志はもはや存在せず、今度は争い合うこともなく、確実に能力者のみを殺そうと狙いをつけている。

 

 この脅威を凌ぐには、全ての能力者の力が必要だ。今こそ、これまでに紡がれてきた物語の、彼らの心の繋がりこそが導になる。

 

『未央、卯月。このビルの下のノイズ、任せられるかな?』

「もちろん、任せといて!私にしまむーに、渋谷のみんながいれば、負けることなんてないから!」

「うん!渋谷の未来は、私たちが必ず守るから!!みんなも頑張ってね、ミナミモト君、ココちゃん……」

 

 

 

「それと、ネク君……『凛ちゃん』のこと、任せたよ!!」

 

 

 

 そう掛け合いを終えると、未央、卯月は意を決して104のビルから飛び降り……地上にいる仲間たちの元へと、飛び込んでいく。

 渋谷の各地点から集まり、この時間この場所に集結した全ての能力者。

 そこにあった巨大なにゃんタンをクッション代わりに、ひび割れたコンクリートの地面に無傷で着地する未央と卯月に、集結していた全員は信頼の表情を向ける。

 

蘭子。

「……ふっ、懐かしき同胞ではないか、我が友達よ!!」

飛鳥。

「一ヶ月か……時間は、人の記憶に多大な影響を与えるものだね。仲間に会えて、心から嬉しいよ」

ビイト。

「おお!!お前らも来たのか!!いいじゃねえか、全員で一緒にぶっ飛ばしてやろうぜ!!!」

ライム。

「真打登場、ってやつかな?また会えてボクも安心したよ、未央ちゃん、卯月ちゃん!!」

みく。

「久々に会って……何か、どこか変わったようにゃ?うーん、何で言えばいいのかにゃ……」

李衣菜。

「いい顔してる、ってことでしょ?いいね、二人とも。そのかっこよくて、最高にロックな感じ!!」

きらり。

「ん〜〜!!にょわ〜っ!!!!!み〜んな戻ってきて!ちゃ〜んと揃って!と〜っても、はっぴはぴだよ〜っ!!!」

杏。

「お帰りー。多分杏一生分働いたよ、本当に。え、いや、嘘じゃないよ?クタクタになるまで、本当に働いたんだよ!?ちょ、信じてってば!」

ヨシュア。

「なるほどね。僕たちが戦っている間に、ネク君は新宿に、君たちは過去に……どうやら、お互いに何か掴めたものがあったみたいだね」

奈緒。

「すっげ〜ひっさびさに会った感じする……ま、色々あったけどさ、神谷奈緒として、また会えてホッとしたぜ!!」

加蓮。

「あと、もう一息……また一緒にアイドルやるためにも、負けられないよ!!でしょ、二人とも!」

シキ。

「待ってたよ、未央、卯月!!絶対に勝とう……友達として、一緒に元の世界を取り戻そう!!」

 

 

「へへ……りょーかい!この未央ちゃん!!どーんと、かましてやっちゃうよっ!!!」

「さあ……行こう、みんな!!!」

 

 

「「「「「「「「「「「「

        ……ああっ!!!!

         」」」」」」」」」」」」

 

 

 未央と卯月も、笑顔で全員に応える。

 

 

 地上に集まる、二つの世界の全ての能力者。

 

 

 そして……

 

「……遅いぞ、凛」

「ごめんごめん、友達と話してたら遅れちゃってさ」

 ココ、ミナミモト、少女の隣にさらに、渋谷上空から現れる最後のパートナー。その長い茶髪をなびかせ、蒼の軌跡をなぞり、この地に辿り着いた彼女も、既に揃っていた四人に加わるように並ぶ。

 

 再会する、仲間達。生きている、友達。ココも、ミナミモトも、少女も微笑み、凛を迎え入れる。

 ……ウィルドの前にも、ついに五人の選ばれし者達が集った。

 

 ネク、凛、ココ、ミナミモト、少女。

 

「……渋谷は、必ず終わらせる」

「……いいや、渋谷は、終わらせない」

 

 ついに、終局を迎える。

 

「「俺たちは……!!」」

『「「私たちは……!!」」』

 

 物語の終わり。地上と上空。繋がる、全ての始まり。

 

 

 

 

 

『「「「「勝って……絶対に、渋谷の明日を守るんだ!!!!」」」」』

 

 

 

 

 

 時間も次元も越える、世界をかけた最後の戦いが、今、始まった。

 

 

 

 

 

「はぁっ!!」

「ふっ!!」

 ウィルドにより、ネクと凛は全てのバッジを失った。だが、加蓮があの日掴み取り、保管していた大量のバッジは、まだ全て消えてはいなかった。

 にゃんタンの上で授かった、唯一のバッジであるショックウェイブを手に、二人はフリーフローの連携技を繰り出す。

 

 完全に復活を遂げた二人は、いつもにも増して足に力を入れて、地を蹴り、壁を蹴り、天井を蹴り、そしてパートナーの足を蹴る。

 当然、身体には相当の負荷がかかる。人間である以上、どうあがいても神の力を完全に制御することは出来ない。一定のポイントに達した時、それは不整脈として身の鼓動を止め、使用者の命を奪いにかかる。

 

 ウィルドは、その最も苦しむであろう瞬間を狙い、自分を中心に球を描く二人の攻撃をいなし続ける……だが、それはあくまで『二人だけ』の時の対処法に過ぎない。

 

〈神だかなんだか知らねえが……計算式に不要な値は、俺が纏めて消し潰してやる!!!!〉

 

 これまではいなかった第三の存在、レオカンタスとなったミナミモトは、その身に蒼のオーラを纏い、オーバーロードを使用して、ネクと凛の輪の中に突撃する。五人でパートナー契約をした以上、性質上、凛のオーバーロードはパートナーである全員に適応される。

 唯一不協和を持たなかったミナミモトも、凛と繋がることでその力を得た。その凄まじさは、想像以上のものだった。

〈——おい、お前。確か……凛って名前だよな〉

「えっ……うん、そうだけど……君は?」

〈言いそびれたな。俺は、南師醒。一ヶ月前のネクのパートナーだ〉

「一ヶ月前って……あっ、あの時未央と卯月と一緒にいた、あの黒い!」

〈渋谷凛……その名前のお前と、ここで会ったのも、何かの縁だ。一緒に戦ってやる……いつもみたいに、ドジ抜かすんじゃねえぞ!!〉

「いつも?……てか、ドジなんか抜かさないし!初対面なのに、失礼な……そっちこそ、舐めないでよね!」

〈はっ!秒で因数分解してやる!!〉

 輪の中に入ると、ミナミモトは高速で移動する凛の動きを捉え、その瞬間、目の前に来た凛の脚を力を込めて全力で蹴り飛ばす。

〈ッ……オラァァァァァァァァッ!!!!〉

 脚の裏に響く凄まじい衝撃は、フリーフローのエネルギーとして変換され、凛にこれまでに出せなかったほどの力を発揮させる。

「……はぁぁぁっ!!!!!」

 神の力を持つ者が増えたことで、攻撃のタイミングも、威力の数値もズレる。予測がより複雑になり、ウィルドは凛の強烈な一撃に、槍で受け止めたものの、足を一歩後ろに退けることとなった。

「……っ……」

 だが、好き勝手させてばかりにはいられない。全ての面において、人間は自分には敵わない。ネク、凛、ミナミモトの三人が同時に攻撃を仕掛けてきたその瞬間、長槍を大きく振り払い、三人を一斉に吹き飛ばして、状況を打開する。

 

 これで、視界は晴れた。ウィルドは視線を横に移し、次に、あの忌々しき少女と、ココを見る。

 

「……!!来るよ、アンタ!!」

『……』

 ウィルドが槍を構え、前傾姿勢になる。咄嗟にココはその銃に、ディゾナンスノイズの銃弾を詰め込み、少女にも呼びかけて攻撃に構えようとするが、

『……あっ、手が、滑ったー』

 その時、少女がわざとココの身体に手を伸ばし、宙へと向かうように突き飛ばした。

「……へ?」

 104から地面へと突き落とされるよう、すっかり横を気にかけていなかったココは、銃を持ったまま、重力に従い落ちていく。

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」

「……これは、仲間割れとは笑えるな」

 鼻で笑った直後、ウィルドは空間を歪ませ、少女の目前へと瞬間移動する。既に予備動作を終えたその手から放たれる斬撃により、そのまま切り刻まれそうだったが、

『……』

 少女もまた、不協和の力を持つ存在。ウィルドの長槍へと即座に銃弾をぶつけ、その衝撃で大きくその場から跳躍し、瞬間に五発の銃弾を装填し、空中でウィルドへ向けて放つ。

 ただの弾ではない、不協和で細工されたその銃弾を連続で受け、ウィルドは僅かに痺れを覚える。

 それもそのはず、少女が狙いを定めた場所は、

 先程、自分が長槍を突き刺し、こうして先を見越して生み出しておいた弱点だったのだ。

「小癪な……」

 一度も味わったことのない、痛みに近い感覚を覚え、不快を露わにするウィルド。

 容赦なく空間を歪め、少女との間合いをゼロにし、何度もその首を潰そうと槍を振るうが、その度に少女はその攻撃をかわし、その乱舞から逃げる。身体をしならせ、柔軟で軽やかな動きを見せながら、挑発するようにも攻撃をいなす。

「……どうした、逃げるだけか」

『ふっ……なわけっ!!』

 しばらく経った時、少女はこれまでのパターン的な行動を一変させ、その手に持っていた銃を離し、

『……はっ!!』

 それを思い切り蹴り飛ばし、引き金を引くと同時にフリーフローを発動する。ウィルドは瞬時にその銃弾を弾き飛ばすが、弾き飛ばされた銃弾に少女は接近し、さらに蹴り飛ばす。

 弾き返されては、弾き返す。その度に移動速度は上昇し、銃弾の威力は増し、フリーフローはエネルギーを高めていく。

 

『今だよ、来て、みんな!!』

「……っ!?」

 

 ネク、凛の技を瞬時に応用し、銃弾を用いて少女はウィルドを足止めした。

 それは、他の全員の準備時間を稼ぐためだった。

 

「……ネク、いくよ!!」

「……ああ、やってやる!!」

〈俺も、忘れてもらっちゃこまるんだよ!!!〉

 

 気づいた時、吹き飛ばされた三人は既にこの地に戻り、この少女が仕掛けた輪の中に入り込んでいた。乱雑に動く弾丸を軸に、ネク、凛、ミナミモト、少女は縦横無尽に入り乱れる。

 少女の脚を蹴るミナミモト、ミナミモトの脚を蹴る凛、凛の脚を蹴るネク、ネクの足を蹴る少女。互いに互いを加速させ続け、無限にその力を膨大なものにさせていく。

「っ……ぐ……」

 二人ならまだしも、四人ものの連携技となったこの乱撃は、訳が違う。威力が増す速度も、攻撃の数も、累乗式に跳ね上がっていく。

「そこだ……喰らえ!!!!」

 少女に思いっきり蹴り飛ばされた衝撃を変換し、ネクは超高速でウィルドの懐中に潜り込み、アッパーで突き上げ、抉り取るような一撃を与える。凛、ミナミモトが隙を作ってくれたこともあり、その攻撃は見事、槍が刺さった傷の箇所に届いた。

「………………っ……!!」

 明らかに苦しむ表情を見せるウィルド。怯みも隙も明確なものとなっていく今、怒りの弾丸が、火を吹こうとしていた。

『ほら、今!!やっちゃって!!』

「……だ〜れ〜が〜……やっちゃってだ、ゴラァァァァァァァァァッ!!!!!!!!!」

 ネク、凛、ミナミモト、少女が攻撃を止め、その場を離れる。そして、隔てるものが何もなくなったウィルドの直線上には、手を震わせながら顔を真っ赤にして銃を構えるココがいた。

 死にかけた怒りを宿し、普段の何倍にも増した威力の銃弾を、意を決して、放つ。

「うっ!?……ぐぁぁぁぁっ!!!!!」

 紫の大爆発と共に、傷口へと入り込んだ銃弾は、ウィルドに頭が焼き焦げるような感覚を覚えさせる。もう隠すことのできない痛み、初めてのこの感覚に、最上位次元の神であるはずのウィルドは、完全に余裕の表情を損ない、膝をついた。

 

 作戦が成功し、五人は一時的に距離を取り、集合する。

『ふふっ……さながらナイスコンビネーション、ってとこかな』

「どこがだ!!突き落とすなら、初めにそういう作戦だって言っときなさいよ!!!!」

『えー、だってそんなこと話す暇なかったし。ああでもしないと、普通に裂かれて死んでたでしょ?』

「でもマジでびっくりしたんだから!!あそこにマルシーのロゴなかったら、掴めなくて死んでたよ!?」

 一息つく少女に、殴りかかる勢いでココは言う。当然だ。いくら作戦のためとはいえ、敵を騙すにはまずは味方とはいえ、あんな冗談にならないことはもう懲り懲りだ。

『いやいや、羽あるじゃん。パートナー契約の後も残しておいてあげたんだから、ちゃんと使ってよ』

「普通、は、突き落とさ、ないでしょ!!もう、どんだけ人使い荒いんだし……」

『そうだなー、私も一度はこんな奴の友達の顔が見てみたいもんだなー』

「……それ、私のセリフだし」

『……いや、私のセリフだよ』

 ナイスコンビネーション……と、二人の様子を見て、言えるかどうかは戸惑う。相変わらず謎めいたことを言い、ココの扱いが雑な少女の姿勢は変わらない。

 先程にて、ココを突き飛ばした直後、少女は瞬時にトレーラーを使い、四人に未来のビジョンを見せ、作戦の内容を伝えていた。よってネク、凛、ミナミモトは吹き飛ばされて消えたフリをし、ココはロゴにしがみついて落ちたフリをし、自分が攻撃するタイミングになってから姿を現したのだ。

 結果、ウィルドに初めての明確なダメージが通った。しかし、

「うっ、脛めっちゃ痛っ……」

「俺も痛い……ミナミモト、蹴るのは脛じゃなくて、足の裏だ」

「わ、悪い……とは言っても、俺そんなにお前のこと蹴ったか、ネク?」

「え……じゃあ、ひょっとしてお前か?」

『……えと、ご、ごめん。蹴るのに必死で、何も考えてなかった……』

「おいおい……パートナーは契約だけでおざなりにしていいもんじゃねえぞ。そこんとこは、友達と同じだ」

『わ、悪かったよ、合わせるの久々だったもんだから……』

「……やっぱ、私にだけ当たり強いよね、アンタ?」

 脚をさすり、鈍い痛みを誤魔化すネク、凛。

 五人はまだまだ、完全には感覚を合わせられていない。今日初めてここで出会った以上、それぞれの動きにどのような特徴があるのか、どのようなクセがあるのかも、まだ知らないことが多いのだ。

 

 これでは、ただ強い力を持った個人の集まりでしかない。今はうまくいっても、五方向に尖り切った球など、このままスムーズに転がるはずもない。

 

「——みんな、呼吸を合わせるんだ。俺たち全員で力を合わせないと……奴は、倒せない」

 まだ微かに慣れない空気感の中、ネクは、この場の全員に呼びかける。一致団結をし、全力を叩き込まなければ、この危機は乗り越えられない。

「集中しろ……今の俺たちになら、出来るはずだ。信頼し合い、仲間や友達と共に、前に進むことが」

 ネクは目を瞑り、今の動きを反省し、全員の動きを再度確認する。どう動けば、五人全員の力をさらに引き出すことができるか。

 

 

 

 自分から、他人の行動を把握し、無視することなく向き合っている。

 

 

 

「俺は、大切なみんなと、友達と出会って、今度こそ自分の過去を乗り越えた。自分自身のことが分かって、そこで初めて、他人と向き合うことが出来る。

みんなから、そう、教えてもらった」

 一匹狼として渋谷を歩いていたかつての彼は、もういない。死神ゲームを通じて、異世界の友達との交流を通じて、両手でも数えきれないほどの出会いを経験した。

 少し前まで考えもしなかった、広がっていく自分の世界。

「……それは、難しいことなんかじゃない。ただ一歩、踏み出す勇気さえあればいい」

「ネク……」

『……』

「俺は、そう信じる。ここにいる全員の思いにも、嘘はつかない。だからみんなも、俺たちパートナーを……自分自身を、信じろ」

 これまでぶつかってきたネクは、この場にいる凛、ミナミモト、少女、ココ……そして渋谷の全員の中に、一人一人の強い思いがあることを既に知っている。

 それから目を逸らすようなことはしない。どんな人の心にも、改めて真正面から全力でぶつかると決めた。ようやく解き放った、この自分自身の心で。

 

 

「……はは、っ……やっぱり、ネクには敵わないよ」

 

 

 ……ネクは、ちゃんと変わることが出来た。よかった、未来を変えなくて、今を生きている親友を、信じる決断をして。決して、それは間違ってなかったんだ。

 目の前の、いつのまにか、すっかりカッコよくなった後ろ姿を見て、ココはニヤけながら小さく呟く。

 そして、改めて横を向き、我ながら綺麗な茶髪を伸ばしていて、自分と同じくニヤけてしまっている彼女に、初めて声をかけた。

 

「ねぇ、凛……でしょ?」

「うん。君は、えっと……」

「私、は……ううん、ココでいいよ。ネクのずっと側にいてくれたのが、凛だよね?」

「それって、パートナーで……ってこと?」

「パートナーでも、友達でも、何でもよくて。ただ、側で支えてくれたことが、ありがたくて」

 

 とにかく、今は無性に感謝がしたかった。初めて混じり合う、自分と自分、蒼い瞳と蒼い瞳。死んだ時のまま成長が止まった以上、お互いの背は違うが、そんな違和感よりも、ネクの変化に対する思いを共有したい気持ちの方が強かった。

 どれほど、今日という日を、渋谷凛である存在達が待ち望んでいたか。

 

「ネクのことさ、今までありがとね。きっと君のお陰で、ネクは救われたんだと思う。私には、何となくだけど分かる」

「ううん。私も、ネクに感謝してるから。助けられたのは、同じだからさ」

「そう言ってくれると、私も安心出来るってもんだよ」

「……ふふっ、なんか、不思議な感じするな。会ったばかりのはずなのに……私たちってどこか、似てる気がする」

「……ふふっ、私も。ほ〜んと、なんでかな?」

 

 

 

『……ふふっ』

 

 

 

 微笑みながら、どこか馬の合う気がする凛とココ……そんな渋谷凛たちの会話を、また微笑みながら横目で見守る少女。

 凛、ココが繋がり、そこに少女が繋がり、さらにミナミモト、ネクが繋がり、五人の輪が形成されていく。

「……ははっ、お前も随分カッコつけるようになったじゃねえか。ネク」

「別に、いいだろ?目一杯カッコつけて、その分行動で見せればいいだけだ。お前の計算にも、ある程度は付き合ってやるさ」

「俺の扱いも、いつの間にか分かった気になりやがって……最高じゃねえか」

「お前こそ、昔から変わったな。やっぱり、卯月と未央か?」

「……だけじゃねえよ」

 

 ネク、ミナミモト。

 

「ね〜く〜?まさか、アンタまで私をハブるなんてことしないでしょうねぇ……?」

『ぷっ、みんなからハブられてやんの』

「おいゴラ!!!私だってミナミモトともネクとも友達だもんだ!!」

『ふーん』

「ふーん、って何だし」

『ふーんはふーんだよ』

「全然訳わかんないし」

 

 ココ、少女。

 

「……こらっ、あんまりココをいじめないの。アンタも、ネクもね」

『はーい、すみませんでしたー』

「ご、ごめ……って、何で俺も!?」

「おお……凛ってば、私と違ってボケ要員だったんだ……」

「相変わらずゼタしょうもねえな、おい……」

 

 そして、凛。それぞれがそれぞれの物語とケジメをつけ、これまでに本当の自分を手にしてきたことで、互いの信頼へと繋げることができる。

 どんなバカ話だっていい。下らない話でも、アホらしくても、心の底に繋がりたいという気持ちさえあれば、人はそれをキッカケに繋がることができる。

 

「ぷっ」

『くすくす』

「ぶっ……」

「あっははっ」

「ふっ……」

 神は言った。パートナーの存在が、自分以外の存在が増えれば増えるほど、脚を引っ張り合うことになるだけだと。

 

「くっ……おこ、がま、しいぞ……」

 もし本当にそうなら、今、こうして神は膝をついているだろうか。身体の痛む場所を、押さえつけてなどいるだろうか。圧倒的な力を持つのに、たかが十九人すら消せずにいるだろうか。

 それは、地上部にいる彼女らにも同じことが言える。

 

 

 

「……おい、シキ!!後ろだ!!」

「ありがとう、ビイト!よーし、いっけーっ!にゃんタン!!」

 

 

 

 ひび割れたコンクリート。まだ数は少ないが、崩壊する渋谷から溢れ出る黒い粒子。さらに、無数の汚染天使、ディジーズノイズ、ディゾナンスノイズ。

「失楽園……そう呼ぶ以外ない、美しくも惨い世界だ」

「ディストピア……神により齎された、招かれざる命を終焉へと導く日」

「ボク達は、」

「我らは。」

 

 

「「——神に……叛逆(リベリオン)を起こす、革命と定刻の崩壊者、終焉(ラグナロク)の使徒となろう」」

 

 

「……い、いつも以上に気合い入ってるね、あすあす、らんらん」

「で、でも、ノリノリになるのはいいことにゃ」

「うん……そう、ゆね。きらりも、試しに一回ディストピア〜な世界観に浸かってみゆ……」

「いやいや、みくのノリノリになるって、そういうことじゃないでしょ!?飛鳥ちゃんぽく静かにじゃなくて、戦う意欲がー、みたいな!」

 

 悪魔と天使の大翼を広げる、飛鳥と蘭子の独自の世界観に、久々で新鮮味を覚える未央。ハンターの衣装を着たみく、少し澄ましながらも汚染天使を吹き飛ばすきらり、一ヶ月かけて練習したギターの成果を見せる李衣菜と掛け合いながら、愛用の電柱を抱えては振り回し、天使とノイズを次々薙ぎ払っていく。

 

「やれやれ、向こうは何をしてるんだか……」

「はぁ……今だけは、ヨシュアと同意見だよ」

「ふふ、気が合うね、杏ちゃん」

「べ〜、残念でした、あくまで今回限りだから」

「うーん、君も中々釣れないね」

「……言いつつ二人とも、息ぴったりじゃん……喧嘩するほど仲がいい、ってことかな?」

 

 互いに言い合いを続けながらも、杏が笑顔で敵の動きを止め、ヨシュアがそこに一撃必殺のレーザーを放つ。表面とは裏腹の、完璧な連携を見せる二人に、ライムは後ろから息を呑んでいる。

 

「……あ、アタシは、結構、好き、だけども……ああいうの、カッコよくてさ」

「へぇ、奈緒ちゃんは、ああいうファンタジーな感じが好きなんだね」

「う、うん、可愛い戦士とかも割と……って、何だこの会話!!いいのか!?渋谷が大ピンチなのに駄弁りながら戦って!」

「でもさ……やっぱり、みんなでこうして集まると、なんか安心してこない?奈緒も、卯月も、一緒にいると心強いし!」

「私も言おうと思ってたよ、加蓮ちゃん!変に緊張するよりも、前向きになれるような意識の方が、身体も動きやすいしね!」

「ま、まあ、そうだけどな!賑やかだと、不思議とテンション上がってくるよ!」

 

 時間を停止させ、安全圏を確保する奈緒。弓をしならせ、すり抜けるディジーズノイズの体内に矢を放ち、内部に設置する卯月。そのすぐ裏にネイルの軌跡の壁を作り、ディジーズノイズを矢でピン留めするように、動きを封じ込める加蓮。

 

 十四人の能力者も、バラバラではなく一つに纏まって行動することで、ある一定の心のリズムを持った。沈んだとしても、またそれを引き上げてくれる存在により、再び浮上する。そうしたことで、絶望的状況下でも、望む未来のために身体を動かし続けることができるようになった。

 するとどうだろうか。ディゾナンスノイズや汚染天使は愚か、これまで対処法が存在しなかったディジーズノイズまでも攻略が可能になった。

 

「他人と触れ合うからこそ、今までとは違った自分を発見できる……とは、こんなことを言うんじゃないかな?」

 

 ヨシュアが昔に呟いた言葉。そして、ネクの言った『自分自身のことが分かって、そこで初めて、他人と向き合うことが出来る』という言葉。

 一見すると反対のことを言っているようにも見えるが、これはただサイクルを示しているだけだ。

 

 他人と触れ合い、自らの中に新たなるものを見出す。そして自分自身と向き合い、本当の心を手にして、初めて他人と心からぶつかり合える。

 そうして、また新たなるものを見出し、新しい心を手にして、他人とぶつかり合い……人は、人と共に、永遠に循環していく。

 それを不条理として無価値だと切り捨てた神に……人という存在の強さなど、分かるはずもない。

 

「……みんな、気抜くなよ」

「ネクこそ、ね」

「俺の計算式、ちゃんと頭に叩き込んどけよ」

『めんどくさ……ま、今だけは付き合ってやるけど』

「へへ……私も、全力でみんなに向き合ってやるから!!」

 

 

 

「……さあ、行くぞ!!!!」

 

 

 

 今だから言える。この世界はすばらしい。

 

 だからこそ、この世界を守りたい。人と人が繋がる、心と心が混じり合う、生きる全ての命に心がある、この世界で見る明日を。

「……見苦しさを、振り撒くな。所詮は人間……運命に支配され続ける、脆い存在ごときが、世界を語るな……!!」

 何度でも起き上がり、うじ虫のように湧いて出る能力者達。ウィルドは、これほどまでに後悔を覚えたことは、どんな過去にも未来にもないだろう。

 この世界に、死神ゲームを植え付けなければ。二つの世界を作らなければ。

「……消えろ」

 完全に怒りを露わにし、ウィルドはこの渋谷中に、更に大量のディジーズノイズ、ディゾナンスノイズ、汚染天使を放出する。自分がアクセスし得る全ての時間と繋がり、数多の並行世界から連れ出してきた、命の大群。

 もう何でもいい。奴らを消せれば、渋谷を消せれば、それでいい。多少運命を閉じ込めるのに支障が出ても、手段は問わない。

 瞬間、ウィルドは周囲の全空間を裂き、ネク、凛、ミナミモト、ココ、少女を強引に自身の前へと配置させる。この位置なら、一振りで全員の首を跳ね飛ばせる。

 即座に、手に持った長槍で攻撃を仕掛けるが、

「焦ってんの」

『バレバレだから』

 ココと少女は同時に銃弾を放ち、その槍の先端を破壊する。振り回した槍は、全員の喉元を掠めるだけで、空振りに終わる。

「どうした?こんな程度が、神なんてほざくお前の力か?」

 そのまま、何事もなかったように、ウィルドの顔面を殴るミナミモト。上位への最大限の冒涜を繰り広げ、さらに怒りを誘発させ、

「お前には……」

「……もう、絶対に負けない!!」

 キュアドリンクを用い、完全な状態でフリーフローを使い、ネクと凛は連携乱舞を繰り出す。その短くなった槍では、その短くなった気では、二人の攻撃ですら弾き返せはしない。

 

 さらに、凛のオーバーロードで繋がるミナミモト、ココ、少女がフリーフローを発動し、五人が空間を自由自在に高速移動する。

 ココと少女が銃弾を何発も空間に放ち、ミナミモトが104、109内から装飾品を持ち出して投げ出すことで、ここに乱雑な空間を生成する。フリーフローの真価は、身を弾けるものにある。

 渋谷の宙に浮かぶ、ヒカリエ、ビガリィ、パルコ、モルコ、渋谷スクランブルスクエア、渋谷ストリーム、その他無数の残骸。

 築き上げられてきた、この渋谷にある全てのものを活用し、全ての人たちの思いと、全ての渋谷の思いと共に、神に立ち向かう。

 

 残骸に足をかけ、銃弾に足をかけ、すれ違うパートナーと交わり、無限の速度を生み出す。どこまでも自由に、広大に、永遠に広がる世界を示すように、五人は渋谷と渋谷の境の空を駆け巡る。

「……!!」

 いくら空間を歪めようとも、自分の攻撃が届くより前に、対象の存在が移動する。

 いくらノイズを放とうとも、二人の銃弾と三人の乱撃により、一瞬で灰と化す。

 残骸を砕こうとも、巨大なレーザーを連続で射出しようとも、槍を液状にして、無数のスパイクとして放とうとも、その攻撃は一切彼らには当たらない。

 速度は、既に人間の限界を遥かに上回っている。そしてやがて、本来は絶対に不可能である、オリジナルの神を越えるほどの力を手にする。

 斬撃、銃撃、次々と砕かれていく槍。身に受けていた傷も広がっていき、込み上げてくる痛みも無視できないほどになった。

 

 

 

 怯みが顕著になってきた。今こそ、終わりの時だ。

 

 

 

「凛!!私の声、聞こえる?」

「シキ?ひょっとして、これってシンクロ?」

「うん!五人だけじゃない……ここにいる私たち、全員でシンクロしよう!ネクも凛も、私たちが、全力で支えるよ!!」

「……分かった!!」

 

 消滅したはずのハーモナイザーバッジが、宙を飛び交っていた凛の元に投げられる。かつて、ヨシュアが複製し、シキに与えていたもう一枚のハーモナイザーバッジ。既にシキが発動した状態で渡され、凛の『オルタナティブカード』が発動されている。

 

「ビイト、ライム、ヨシュア!!私たちのシンクロの中に、みんなの意識も繋げて!!全員の心を、一つにしよう!!」

「よし、任せとけ!!おーい!!蘭子!!」

「飛鳥ちゃん!!ボクに力を貸して!!」

「……だってさ、杏ちゃん?頭のいい君なら、もちろん協力してくれるよね?」

 

 昔の、ネク、シキ、ビイト、ライム、ヨシュア五人全員でのシンクロを思い出し、それの再現を試みようとしている。ビイトは蘭子に、ライムは飛鳥に、ヨシュアは杏に呼びかけ、シンクロを開始する。

 

「はっはっは……!!我の力を束ねし異界者達よ、この魂、其方らに授けてやろう!!」

「もちろんさ、ライム。ボクら叛逆者の力よ……今ここに、集うがいい!!」

「やーっと終わる感じ?んじゃ、とっとと終わらせよ。いくよー、きらり」

 

 シキ、凛のシンクロに、意識を接続するビイト、ライム、ヨシュア、蘭子、飛鳥、杏。

 

「うん……分かった、にぃ……ふっ、だにぃ」

「それいつまでやってんの、きらりちゃん!!もう……まあ、いいや。繋がってる友達ってことに、別に変わりはないし!」

「今が正念場にゃ、李衣菜チャン!みく達の繋がりの力、あいつに思い知らせてやるにゃ!!」

「よ〜し!!いつものライブみたいに、心合わせてこう!!りーな、みくにゃん、きらりん!!」

 

 さらに意識を通わせていく、きらり、李衣菜、みく、未央。

 

「加蓮!奈緒と卯月にもお願い!!」

「もちろん任せといて、シキ!二人とも、私たちも行くよ!!」

「シンクロ……やったことないけど、でもアタシらなら大丈夫だよな!」

「うん!シンクロなんて……心を通わすなんて、もう数えきれないほどしてきたしね!」

 

 重なり合う、加蓮、奈緒、卯月。

 

「ミナミモト君!!一緒に着いてきて!!」

「分かったぜ、卯月!!ココ、お前も来い!」

「言われなくてもっ!ちょ〜、ひっさびさにやっちゃうよ!!」

『……心を、一つに……ネク!!』

「ありがとう、みんな……これで全部に……俺たちの戦いに、終止符を打つんだ!!!」

 

 ミナミモト、ココ、少女、

 そして、最後にネク。

 

 十九人の能力者全員がシンクロを開始し、全員の身体が、輝ける光に包まれていく。

 初めは『オルタナティブカード』として機能していたマッシュアップも、シキの『透視カード』、ヨシュアの『予知カード』、ビイトの『念動カード』、ココの『ハートカード』、ミナミモトの『ファクターカード』などが交わり、様々なカードが入り混じる、膨大でカオスな意識空間と化していく。

 その中央に位置する、ネクと凛は目を瞑り、全員の心の波長を一つに合わせる、『オールコネクションカード』のメイン中枢の役割を成す。

 

 

 

 渋谷を、守りたい。明日を、生きたい。この世界で、未来に進みたい。友達と、夢を追い続けたい。

 全員の思いが一ヶ所に繋がり、合わさっていくのを感じる。望む場所は、ただ一つ。どこまでも広大な無限の空間座標上の、たった一点。

 強い思いを、誰もが心に浮かべたその時、ネクと凛は、世界の中心で目を開いた。

 

 

 

 現実世界にて、目を瞑っていた全員のバッジが、七色の輝きを示し出す。

 それだけではなく、『消されてしまったはずの全てのバッジ』がネクと凛の元に戻り、その全てが光を放ち、渋谷中に放出されていく。

「「……漆黒と安息の、大いなる力よ!!」」

 繋がることで、紫と蒼に光り輝く全能力者。地上に蔓延る大量の敵へと、飛鳥、蘭子が双翼を広げ、光と闇の刃を乱発する。

「ちゃんと兄ちゃんに着いてこいよ、ライム!!」

「大丈夫、頼りにしてるから、お兄ちゃん!!」

「アタシらも、援護するぜ!!」

「笑顔は、杏の得意分野だし?」

 刃が空間上に散らばる中、そこにエンタングルメントの鎖をかけ、スケボーで火花を散らしながら空間を瞬間的に移動するビイト。そして、奈緒が時を止め、杏が笑顔を浮かべ、動きを止めた敵に対し、ビイトに抱き抱えられたライムが様々なバッジのサイキックで牽制をする。

「シキちゃん!!ネコネココンビで、一緒に行くにゃ!!」

「うん!大一番、一緒に決めるよ、みく!!」

「私はみんなのボルテージ、最高潮まで高めてやっちゃうから!!」

 敵と敵の間を掻い潜りながら、瞬間移動して背後に回るみくと、小型化して飛び回るにゃんタンは敵を次々と倒す。その攻撃力を底上げするように、ピックの動きを早く激しくする李衣菜。

「おお!!ロック〜って感じがするにぃ!やっぱり、きらりは明るい感じが一番にぃ!!」

「うんうん!きらりんはきらりんのままが、いっちばん似合ってるよ!みんな……自分の思う通りにいられるのが、絶対一番だから!!」

 痺れるエレキギターにテンションを上げながら、未央ときらりは地面に同時に全力攻撃を与え、そこから放たれる衝撃波で無数の敵を円状に一掃する。

「これで……終わらせるんだ!!」

「僕たちの、渋谷を巡る上位次元との紛争……」

「これまでの全部を……ここにぶつけてみせる!!!」

 けたたましい轟音と共に地から離れる敵を、加蓮のネイルで生成した巨大な球状の物体の中に一斉に閉じ込め、ヨシュアのレーザーと卯月の連射を内部に放ち、何度も反射しながら敵を一網打尽にする。

 あらゆる時間からのノイズ達も、これで全てが消された。

 

 

 

「っ……世界は……かな、ら、おわ、らせ……」

 

 

 

 五方向から次々と攻撃を喰らい、104、109の間で、崩壊が進む渋谷の中で、とうとう槍が砕け、衣服が破け、髪が散り、肌が傷だらけになる。

 

 もう一押し……あと、一撃を。

 

「終わらせない、この物語を……」

「明日を、掴み取るためにも……!!!」

「アンタなんかに……」

「計算の尽きねぇ、こんな面白え渋谷を……」

『……終末へと、導かせるわけには行かない!!!』

 

 ネク、凛、ココ、ミナミモト、少女。五人は定位置に立つと、その腕に光り輝くショックウェイブの大剣を現出させ、渋谷中に散らばったバッジから力を結集させていく。暗闇に満ちた渋谷中から光が次々と放出されていき、幻想的な光景を映し出しながら、五人の剣に集約される全ての光。

 ハーモナイザーバッジ、参加者バッジ、アンサプレッションバッジ、オーバードライブバッジ、大切なみんながいるディメンションリンクバッジ、各能力者のバッジ、これまで手にしてきた全てのバッジ、さらに、カナタの力が宿った真紅のバッジ。

 

 今、ここに、全てに終わりを告げる。

 

 

 

 

 

「「「「『これが、人の……明日を生きたい、思いだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!』」」」」

 

 

「「「「「「「「「「「「「「

……いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!!!!!!!!

」」」」」」」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 神に、全てのバッジの力を宿した、絆の剣を突き刺す。身から溢れる力全てを込め、五方向から神の身体へと超高速で飛び込み……

 

 

 

 

 

 ——ついに、抗えない、硬く絶対的であった力を、完全に貫いた。

 

 

 

 

 

「……が、ぁぁ、っ……」

 手に宿していた大剣が消え、大爆発が起きると共に、104の屋上部に着地する五人の能力者。彼らの元に、頭上から白と紫の羽が舞い落ちていく。

 

 ……最上位次元の、神を、倒した。

 

 人間は繋がり合うことで、とうとう自らに課せられた崩壊の運命すらも変えたのだ。

 次々と104へと登ってくる、大切な友達。ヨシュア、飛鳥、蘭子にしがみつき、にゃんタンジェットに乗り込み、全員がこの場に集結し、上を向く。

 

「……許、され、な……私、は……おまえらに、など……負け、な……」

 

 宙に浮いたまま、身体から膨大な粒子を流しながら、傷だらけの腕を下へと伸ばす。

 その瞳に写る姿は、友などという幻想を信じる、不条理で、それでも真っ直ぐな……矛盾に満ちた、存在達だった。

 

「どう、なろうと、知らないぞ……運命には、敵わ、ない……どれだけ足掻こうと、もがこうと、逆らおうと……この世界は、いつか必ず、終わる」

 

 睨みつけるように、恨み言を募らせるも、誰も怯みはしない。運命は変わったのだ。

 神による、世界の終末は、回避されたのだ。

 

「……」

「……」

 ウィルドと目が合う、ネク、凛。不条理の象徴とも言える、二人の能力者。

「桜庭音操、渋谷凛……私が、唯一消せなかった世界の、能力者……何故、永遠の安息を捨ててまで、運命の螺旋に囚われることを選んだのだ。わざわざ救済を拒んでまで……何故」

 

 ネクも凛も、そんな複雑な考えは初めから持ってはいない。でも人間である以上、心に不条理を持つ不完全な存在である以上、この結論に至ったのは当然のことだった。

 

「世界を終わらせなくても……渋谷に危機が迫った時は、その度に、何度でも切り抜ければいい。ただ、それだけの話だ」

「運命が、破滅へと私たちを導いても、私たちなら乗り越えられる。自分と、友達を信じていれば……怖いものなんてないから」

「……相変わらず、どこまでも浅はかで、無謀に満ちた考えだな」

 

 

 

「……だが」

 

 

 

 ウィルドは、意識が終わりに向かう感覚を得る。不完全に完全が敗れる……認めたくはないが、

「私が人間に敗北したことは、事実だ。完全でなければならなかった私に、不完全の集合体が存在の価値を示した。その覚悟を……敗者の私にはもう、否定する資格はない」

 勝者は、神である自分ではない、彼ら人間達だ。もう自分が、この先の物語に介入することは出来ない。

 永遠に続くと思っていた命も、終わる時が来たのだ。

「厄介者と共に生きる選択を選んだのは、お前たちだ。その責任に従い……だが好きに、自由にしろ」

 元々、ウィルドは幾度となく運命に世界を壊され続けてきた。どれほど、何をしても、どう行動しても、必ず、自分には運命を変えることは出来なかった。

 だからこそ、もうとっくに分かっている。

 運命に歯向かうことの無謀さを、それに自分が屈してしまったことを……そして、

 

 その運命に抗い、覆した人間達の力と、価値を。

 

 

 

「勝者としての、お前達自身の世界を、自由に創造していけばいい……運命に屈しない、そんな世界を、私の代わりにお前たちが創り出せば…………未来に、繋げて、いけば……それ、で——」

 

 

 

 その身から溢れる粒子によって、姿が飲み込まれる。それほどまでに膨大なソウルの質量が、全て消えていき……ウィルドは、完全に世界から消滅した。

 

 これまでに、無限とも思えるほどの数多の世界が終わっていった。神が世界を創り、運命によって破滅を迎え、その度に新しい世界を創り直す。

 破滅をもたらすシステムである運命と、その度に嘆き、世界の維持の永続を望み続けた神。

 今回の世界は、運命の消滅によって、その循環を断ち切るためのものだった。だがその目論見は……神の想定とは、大きく異なった結末を迎えた。

 

「……終わったんだね」

 

「ああ……俺たちの、勝ちだ」

 

 世界は、継続した。渋谷は、ようやく明日を迎えたのだ。

 

「……い〜、やったぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

 両腕を掲げて、未央が嬉しさを言葉にする。そうして、次第に全員の心も硬直から解放され、みんな、勝利の喜びを全身で受け止めていた。

 肩を引き寄せ合う、ビイト、蘭子、ライム、飛鳥。

 にゃんタンをつつき合う、シキ、みく、李衣菜。

 絡んで突き放してを繰り返す、杏、ヨシュア、きらり。

 お互いの再会を祝して抱きしめ合う、凛、未央、卯月、奈緒、加蓮。

 誰もがみんな、笑顔だった。これが、この物語が迎える、最適解に限りなく近い、最も良い形の結末。

『……』

 ようやく、辿り着いた。ここまでどれほどの長い時間を渡ったか。この光景をもう一度見るために、何度自分は同じ時間をやり直したか。

 

 

『……さて、と』

 

 

 あと一つ……少女は、自身がすべき、最期の役割を果たす時を迎えた。

 

 

「っ……よぉし!!」

 

 

 少女が横を向いた時、両手で自分の顔を思いっきり引っ叩き、覚悟を引き締めていた小さな女の子がいた。格好は派手だが、耳も顔も真っ赤にして、ガチガチに緊張していて、本来の内気な性格が出ているのが、目に見えている。

 

 

「ねぇ……ね、ネクっ!!!!」

 

「うおっ!!ど、どうしたんだココ?」

 

 

 賑やかに盛り上がっていた雰囲気の中、突如、裏返るほど高い声を上げて、目の前の少年の名前を呼んだ、小さな少女。

 周りにいた全員も思わず口を閉ざし、二人に着目する。よく見ると、未央、卯月はこれまでに見たことのないほどの笑顔で、言葉を紡ごうとする少女を優しく見守っている。

 前までは、気づかなかった。流石、我ながら誇らしい友達だった。

 

「え、えっと、ね……あの、さ」

「あ、ああ」

「そ、その、ね」

「う、うん」

 

 静かで妙にぎこちない空気が流れる度に、耳も顔もさらに熱くなっていく。そんな中でも、少女は逃げることなく、自らがやるべき、果たさなければならない役割を成そうとする。

 もう逃げることはやめた。目の前に向き合うと、彼に向き合うと、決めたから。

 

「ず……ずっと前から、さ……その、言いたかったけど、言えなかったことがあってさ」

「言わなくちゃいけないって、分かってはいたんだけど、さ……こ、怖くて、中々言い出せなかったことが、あって……そ、そのさ——」

「——ほら、ちゃんと言っちまえよ」

 

 ついテンパってた自分の背中を、ミナミモトは一度優しく叩いて鼓舞し、そのまま未央と卯月の隣に移って、見守る。こうして、今までにも何度も助けられたことは、覚えている。

 彼もまた、大事な、友達だったから。

 

「ミナミモト……ありがとう」

「……ネク。お願いだから、今から言う私の言葉を、よく聞いて!!」

「……ああ」

 

 ネクも、何か大切なことを言われると、本能的に察したのだろう。顔つきが驚きから、真剣なものに変わる。

 彼も、正面から自分を受け止めようとしてくれている。

 迷うなんて、もう、似合わない。しっかりと顔を見合わせて、口を大きく開く。

 

 

 

 

 

「私……本当は、ネクの……ネクの友達で、大の親友の……いつも一番、大好きだった、あの!!!」

 

 

 

 

 

 全員が着目をする中、意を決して、その名前を……

 

 

 

 

 

 ……名前、を。

 

 

 

 

 

「え———」

 

 

 

 

 

 名前……この場にいる誰しもが、彼女の本当の名前を聞くことになる、はずだった。

 新子々ではない。

 自分の、本当の名前は、——、だと。

 

 

 

 

 

 だが、誰の耳にも、それは聞こえてこなかった。その代わりに、聞こえたのは別の音……甲高い、爆発のような銃声。

 

 

 

 背後から放たれた銃弾により、ココは、自らの身体を前に傾けていく。自分の意識に反しながらも、そのまま、地面と平行になるように、倒れ込む。

 

 

 

 この瞬間に、何が起こったのか。誰も、それを理解できなかった。

 ……未来を知る、ただ一人を、除いて。

 

 

 

『いいところ、ごめんね。でも、これも含めて、ようやく『この物語』は成立するから』

 

 

 

『これから、何度も苦しいことがある。でも、必ず全てを越えて、アンタはまたここに戻ってくる。それまで……少しのお別れだよ』

 

 

 

「いってらっしゃい、渋谷凛…………『ニ周目』の、私」

 

 いつの日かに告げた言葉を再び告げ……新子々……改め、渋谷凛は、目の前で消えゆく過去の自らの姿に、別れを告げた。

 

 

 

 

 

 ——物語は、いよいよ完結する。




(キャラクター欄の『謎の少女』を更新しました)
謎の少女は第一話からずっと、『これまでの全ての台詞に『』が付いていました』。
これは、謎の少女にとっては、この物語自体が、既に『過去の出来事』だったからです。
ココ達が過去に遡った際に『』になったように、謎の少女はずっと過去の時間を追体験していたということになります。そして最後の台詞にて、その『』が外れました。

そう、謎の少女が過去の時間から帰還し、本来の時間に戻ったことを示しています。

あらすじにて、この物語の主人公は、桜庭音操、渋谷凛だと言っていましたが、決して『二人』だとは言っていません。
裏の視点からの物語……『運命に抗う、もう一人の渋谷凛の物語』が、隠されていました。

次回にて、最終回になります。
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